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No.35117の一覧
[0] ヴァルキリーがホームステイに来たんだけど(魔術バトルもの)[天体観測](2013/03/21 05:10)
[1] 第一章 ヴァルキリー? がやって来た[天体観測](2013/01/05 23:44)
[45] 第二章 死刑宣告を受けたヴァルキリーの友達[天体観測](2013/01/17 16:50)
[46] 悩みは多くて問題も多い[天体観測](2013/01/09 07:11)
[47] 買い物のが終わったら……[天体観測](2013/01/17 16:57)
[48] 情報収集と魔術の特訓は計画的に[天体観測](2013/01/17 17:03)
[49] 戦う理由はシンプルに[天体観測](2013/01/14 16:21)
[50] チョロイ男[天体観測](2013/01/14 16:14)
[51] 第三章 帰ってきたヴァルキリー[天体観測](2013/01/18 08:48)
[52] あ、ありのまま……[天体観測](2013/01/18 17:47)
[53] テストへの意気込み[天体観測](2013/01/26 21:23)
[54] ヒルドの意外な一面[天体観測](2013/01/22 12:09)
[55] 目標に向けて[天体観測](2013/01/25 20:36)
[56] その頃ヒルドとクマは?[天体観測](2013/01/27 05:44)
[57] 《神器》の持ち主大集合?[天体観測](2013/01/28 06:04)
[58] ジャスティス、ジャスティス、ジャスティス![天体観測](2013/02/17 06:54)
[59] 設定がメチャクチャな中二病[天体観測](2013/02/20 17:43)
[60] 中二病の本名[天体観測](2013/02/26 06:44)
[61] そして、一週間[天体観測](2013/02/26 06:46)
[62] 本音をぶちまけろ[天体観測](2013/02/26 06:49)
[63] VS漆黒[天体観測](2013/02/26 17:06)
[64] 中二病というよりは……[天体観測](2013/02/28 06:34)
[65] 理不尽な現実[天体観測](2013/03/04 00:38)
[66] [天体観測](2013/03/08 05:26)
[67] 特別でいたい[天体観測](2013/03/12 16:57)
[68] テスト結果。そしておっぱいの行方[天体観測](2013/03/16 05:21)
[69] 世界観および用語集(ネタバレ少し有りに付き、回覧注意)[天体観測](2013/03/17 05:51)
[70] 第四章 夏休みの始まり[天体観測](2013/03/21 05:11)
[71] 補習が終わって[天体観測](2013/03/24 06:39)
[72] 危険なメイド[天体観測](2013/03/30 23:34)
[73] ご招待[天体観測](2013/04/04 01:32)
[74] わけのわからない行動[天体観測](2013/04/05 23:33)
[75] 戦女神様からのお言葉[天体観測](2013/04/13 06:27)
[76] 人の気持ち[天体観測](2013/04/26 00:21)
[77] 彼女の秘密[天体観測](2013/05/04 05:30)
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[35117] 情報収集と魔術の特訓は計画的に
Name: 天体観測◆9889cf2d ID:dfaff5c1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/01/17 17:03
 四之宮高校には休日にも学生がいることが多い。部活動の練習にやってくる学生や、委員会や生徒会の仕事の為に足を運ぶ生徒。高貴はまだ経験はないが、補習などで呼ばれてしまう学生もいる。
 その学生達と同じように、今日は日曜日にもかかわらず高貴たちは四之宮高校にやって来ていた。しかし、やって来た理由は部活でもなければ委員会でもなく、ましてや補習でもない。《神器》についてインターネットでググってみるために、図書室にあるパソコンを使用しに来たのだ。図書室はたとえ休日でも勉強に来る学生のために開放されており、許可を取れば備え付けられているパソコンも使うことができる。高貴や真澄はパソコンを持っていないため、金のかからないように、彼らは学校の図書室で調べる事にした。
 学生が来ているとはいえ、平日に比べると圧倒的に人通りの少ない廊下を、高貴たち三人がゆっくりと歩いている。学校に来るということで、今日は三人とも学生服だ。

「それにしてもさ、ググッたくらいで調べられんのかな? エイルのいる世界ではトップシークレットの情報なんだろ?」
「ああ、その存在自体は誰でも知っているようなものだが、名前や能力となってくれば、知っているのはかなり限られている」
「でも北欧神話って名前だけならわたしも聞いたことあるよ。そこを調べればいろいろとわかるんじゃないかな? それにわたし達にググる以上の有効な調べ方ってないじゃん」
「あー……確かにな。まぁ調べるだけ調べてみるか。とりあえずベルセルクが出なきゃいいけど」
「ふむ、出たとしても私と君がいれば問題なく対処できるだろう」
「そういう意味じゃなくて、ここでは戦いなんてしたくないって言ってんだよ。」

 高貴がそう思っている最大の理由は、今はクマがいないことだ。以前ヒルドと戦ったときは、自分でも信じられない事だが校舎を完全に破壊してしまい、クマに直してもらうしかなくなってしまった。クマがいない今、もしもここで戦いになって校舎が破壊でもされてしまったら、高貴たちにそれを直す手段はまったくない。

「そういえば君、この前校舎を真っ二つに斬って壊していたな。そのおかげで校舎が崩れてしまった」
「いやあれ絶対俺だけのせいじゃねーって。あの女が暴れたのも原因の一つだって。それにエイルだって屋上のフェンス一つ壊したろ。」
「君はクラウ・ソラスの刃を伸ばして全て壊したじゃないか。それに比べれば―――」
「ちょ、ちょっと待って!」

 高貴とエイルの会話を真澄が遮った。

「それわたし聞いてないよ? 学校壊れたってなに? だって普通に学校あるじゃん」
「ヒルドって奴と戦ったって昨日話しただろ、その時にやっちまったんだよ。本当にあの時はどうするかと思った。完全に原形とどめてなかったしな。でもクマがそれを直してくれたんだ。エイルが転校してきた次の日だから、だいたい一週間と少し前かな」
「……つくづく非常識なんだ」
「いや、非現実だよ。現実ではあったがね」

 どっちでも似たようなものだろうと思ったが、高貴は口に出す事はなかった。
 そんな話をしているうちに図書室の入り口へとたどり着く。横に開くドアを開け、三人は図書室の中へと入っていった。
 本来ならば図書委員か司書の教員が座るべきカウンターには、今日は誰も座っていない。正直言ってかなり無用心だ。高貴は図書委員になったとはいえ今日は休日で当番ではない。よって教室の椅子よりもいささか座り心地がいい椅子には座る必要はなく、用があるのはパソコンの椅子だ。

「ん、静音がいるな」

 エイルの視線の方向を見ると、音無静音が座って本を読んでいた。やはりハードカバーで何を読んでいるのかはわからず、耳にはイヤホンをしている。そのコードの先に音楽プレーヤーがあることから、何か音楽でも聴いているのだろう。

「なんか絵になるよね」
「ああ、邪魔しちゃ悪いな。」

 静音は黙っていれば(元々ほとんど喋らないが)美人なので、真澄の言ったように座って本を読んでいるというだけでもかなり絵になる光景が生まれる。これも一種の他人を寄せ付けない音無バリアーの一つだ。この近寄りがたい雰囲気、話しかけてはいけないような雰囲気をかもし出している彼女に、一体誰が話しかけようとするのだろうか?

「こんにちは静音、日曜日だというのに図書室で会うとは奇遇だな」

 それはヴァルキリーだ。
 全ての空気をぶち壊して、いつの間にか静音のそばに移動したエイルがなんのためらいもなく話しかけた。

「ふむ、イヤホンで聞こえていないのか。いきなりとるというのはマナー違反だろうしな。くすぐってみれば反応があるかもしれない」

 思わず背後からその頭を思いっきり殴ってやりたい衝動に駆られたが、その気持ちをなんとか高貴は押さえつけた。
 エイルは気がついていないと思っているようだが、静音はエイルに気がついている。先ほど横目でエイルのほうを見たのがその証拠だ。しかしあえて静音はエイルのことを無視し続けているのだ。他人と関わるのを避けている静音にとって、それは当然の行動と呼べるし、その行動の結果、彼女は確かに一人で過ごす事に成功している。
 ただ一人、エイルの存在を除けば。峡谷の音無や音無バリアーなどと呼ばれようと、峡谷などたやすく上るだろうし、バリアなどあっさり壊してしまうのがエイルなのだから。
 これ以上騒がれるのが面倒になったのか、静音はしぶしぶと言った感じで耳につけているイヤホンをはずしてエイルのほうに視線を向けた。

「……こんにちは、エルルーンさん」
「ふむ、ようやく気がついてくれたな。こんなに話しかけても気がついてくれないということは、もしかして無視されてるんじゃないかと不安に思ってたんだよ」
「無視してたのよ」
「高貴、真澄、静音がいるぞ」

 聞こえなかったのか、それとも聞かなかったことにしたのかはわからないが、会話が繋がることなくエイルが二人を呼んだ。高貴と真澄を見つけた静音の表情が暗くなる。まさしく頭が痛いといった様子だ。しかし、呼ばれてしまったので行かないわけにもいかずに、高貴と真澄も静音の元へと向かった。

「あー……ごめんな音無」
「ごめん音無さん」
「……もうあきらめる事にしたわ」
「待て君たち、どうして開口一番に挨拶ではなく謝罪なんだ? それに静音は何を諦めたんだ? 私には会話のつながりがまったくわからない」

 エイルが一人だけわけがわからないといった様子になっているが、特に問題はないためほっとくことにした。

「そういえば静音、君はどうして休日なのにここにいるんだ?」
「本を読んでいたのよ」
「何を読んでいたんだ?」
「教えたくないわ」
「そうか、なら聞くのはやめよう」
「じゃあ帰ってほしいのだけど」
「そういえばこれは……音楽プレイヤーか」
「見ればわかるでしょ。私は本を読みたいから―――」
「こういうものは初めて見るな。CDプレイヤーというものならば見た事はあるのだが―――」
「エ、エイル! 本当にごめんな音無!」

 見るに耐えかねて高貴がエイルを下がらせる。静音の表情が段々と怒りに染まっていたからだ。

「あ、音無さんがもってるのって、SILENTサイレントの新しいやつだね」
「さいれんと?」

 真澄の言った言葉に、エイルがキョトンとした表情になった。

「うん、音楽のプレーヤーとかそういう製品を作ってる会社。わたしその会社のイヤホン使ってるんだ。音漏れしないし、音質とかもいいんだよ」
「ああ、そういや俺も―――さてそろそろここに来た目的を果たそうかじゃあな音無!」

 そろそろ本気で怒りだしそうな静音を見て、高貴が無理矢理エイルの手を引く。真澄も静音の表情に気がついたのか、エイルの背中を押し始める。背後からは「二度と近づいてくるな」というオーラをヒシヒシと感じ、とてもではないが振り返る事はできなかった。

「ではな静音、よかったらまたあとで話でもしよう」

 しかしヴァルキリーは普通に振り返っている。こいつ、ある意味スゲーと高貴は少し感心したのだった。しかしそんなエイルを避けるように静音は黙って立ち上がると、図書室から出て行った。
 パソコンは図書室の奥のほうに5台並んでおかれている。今は誰も使ってはいないようだ。そもそも図書室にいるのは高貴たちを除けば静音しかいなかったので、当然といえば当然なのだが。
 高貴は椅子に座ると、パソコンの電源を入れた。機械の起動音が鳴り画面に文字が映りだす。

「お前さ、少しは空気読めよ。音無は話しかけんなって空気出してたろ」
「ふむ、友人に会ったのだから、挨拶するのは当然だろう。そういえば高貴と真澄は音楽を聴かないのか?」

 パソコンの画面をマジマジと見ながらエイルが二人に聞いた。

「わたしは聞くよ。でも音楽プレイヤーはもってなくて、スマホで聞いてるんだ。CD買うよりも安くてすむし」

 真澄がポケットの中からスマホを取り出してエイルに見せた。そのスマホには、昨日高貴が買って渡したストラップも着いている。

「それは音楽も聴けるのか。ん、そのストラップは綺麗だな。銀色の三日月か」
「え、あ……うん、ありがと」

 そそくさと真澄がスマホをしまった。するとエイルの興味は再びパソコンに戻る。

「しかし、この画面は真っ黒だな。昨日のコーヒーのように黒いが……おお! 突然青になったぞ! ようこそと書かれてある」
「落ち着けってーの。取り合えずネットにつないでググって見るか」
「ふむ……おお……すごいな……」

 完全に立ち上がったパソコンを操作し、高貴がインターネットのアイコンをクリックした。その動作一つ一つにエイルが反応する。そんなエイルとは反対に、真澄がパソコンから視線をはずして立ち上がった。

「パソコンのほうは高貴がいれば問題ないだろうし、わたしは本でも探してみるね」
「ああ、頼む。さて、でも調べるっていっても検索のワードはどうするよ。北欧神話にしてみるか?」
「……その検索のワードというものはなんでもいいのか?」
「ああ」

 エイルはしばらく目を閉じて考え込んだ。

「ふむ、だったらレーヴァテインについて調べてみるのはどうだろう?」
「え、なんで今更? だってレーヴァテインはもう取り戻したろ」
「取り戻したからこそだよ。私達はレーヴァテインの能力や情報を知っている。もしもその情報と、ググってみて出てきた情報が一致したのなら、他のそれらしい情報も信頼できるという事になる。だからこそレーヴァテインでどうかと思ったんだ」
「あ、なるほど。だったらそれでやってみるか。レーヴァ……テイン…と。検索開始」

 文字を入力して検索のボタンを押すと、約254000件がヒットした。画像もいくつか表示されているが、何故か表示されたのは剣ではなくロボットだったので無関係だろう。

「ずいぶん多いな……」
「お、ウィキにのってるみたいだからこれにするか」

 途方もない数字を、まさか一つ一つ調べるわけにもいかないので、高貴は一番上に表示されているサイトをクリックした。それは高貴も調べ物の時によく利用している情報サイトで、世界的にも有名な為かなり信用できる。
 そこに表示された文章を高貴は読み上げた。

「レーヴァテイン。……架空の兵器じゃなくて……レーヴァテインとは北欧神話に登場する武器の事である……ってこれいきなりビンゴじゃねーか!?」
「なに? 続きはどうなっている! 北欧神話の原典資料において、世界樹の頂に座している雄鶏ヴィゾーヴニルを殺すことが可能な剣……おい、ヴィゾーヴニルは天然記念生物だぞ。殺すなどしてしまったらとてつもない大罪だ」
「何それ、アホウドリとかイリオモテヤマネコみたいなもんか? ……あ、でもさ。ファンタジー作品において、スルトルが振るった剣、もしくは炎として用いられる事が多いってさ。そういえばゲームとかでレーヴァテインっていう剣があった気がする。しかも炎属性の」
「……これはかなり信頼できるかもしれないな。高貴、他には見れないか? 出来ればこの北欧神話に乗っている武器などが見たい」
「えっと……これかな」

 レーヴァテインのページを最後までスクロールし、一番下にあるカテゴリを見てみると、北欧神話の道具というカテゴリを見つけたので、高貴はそこをクリックした。すると再びページが飛び、20件以上の北欧神話に関係するものがうつし出された。しかも五十音に整理されていて見やすい常態でだ。

「こんなにあるのか? 素晴らしい! 高貴、早く見てみよう!」
「わ、わかったよ。じゃあこのエッケザックスっていうのから。……あ、これも北欧神話に出てくる剣だってさ」
「私にも見せてくれ!」

 隣に座っていたエイルが身を乗り出して画面にを見る。顔と顔が近づき、エイルのシャンプーの香りが高貴の鼻をくすぐる。

「おい、近いって少し落ち着け! つーか操作の邪魔だから少し離れろ!」

 椅子をいったん引いてエイルを自分から無理矢理引き剥がした。エイルは「君はイジワルだな」と不満そうにしているが、自分では操作が出来ないので黙ってそれに従う。エイルを自分の後ろに追いやったあとに、高貴は改めてマウスを操作しようとしたが、彼女は諦めの悪いヴァルキリー。高貴の背後から顔を乗り出して、画面を食い入るように見ている。

「……おい、近いんだけど」
「ずいぶんと……君……注文が多いな。これなら操作の邪魔になることは無いじゃないか。たとえ近くても問題ないだろう」

 確かに操作事態はまったく問題ない。しかし顔と顔の距離は先ほどとほぼ変わっておらず、相変わらずエイルの香りが鼻をくすぐっている。さらには背中に当たっている柔らかな二つのものは一体なんなのだろうか? それは考えない事にした。かわりに数回深呼吸して自分を少しだけ落ち着かせる。

「このページをプリントするか? そうすればうちに帰っても確認できるだろうし」
「いや、その必要はないよ。私がメモ帳を持ってきているから、ここに書かれていることを私がメモしていこう」

 背中からエイルの体温が離れたと思ったら、エイルがいつの間にか手にもっているメモ帳を見せてくる。そのあと再び背中にエイルの体温が帰ってきた。

「どこにそんなの持ってたんだよ。いや、やっぱり言わなくていい」
「おっぱいの谷間に―――」
「言うなっつーの!!」

 ◇

「だいたいこんなもんかな?」
「ふむ、そうだな。めぼしい名前は一応全て記入した」

 その後エイルと高貴は、神話に出てくる武器のようなものをどんどんピックアップしていった。高貴がめぼしい所をクリックし、そこに書いてある記述をエイルがメモを取る。それらを繰り返して約30分。北欧神話道具のあとはケルト神話について調べ、最後にギリシャ神話の武器を調べ終わり、ようやくひと段落が着いてきた所だ。

「なぁ、これまでどんなのをメモったかちょっと見せてくれよ」
「ふむ、構わないよ」

 エイルがメモ帳を高貴に手渡す。こちらに来て日が浅いにもかかわらず、すでにエイルは高貴よりも字がうまく、綺麗に見やすくまとめられていた。

 北欧神話

 エッケザックス  剣 能力不明

 グラム 剣 岩や鉄を斬り裂く、ノートゥングのモデル?

 グレイプニル 紐、足枷 フェンリルを捕縛。

 グングニル 槍 投げると当たって戻ってくる。

 ダーインスレイヴ 剣 魔剣の代表格、生き血を吸う。

 ティルヴィング 剣 望みを三度叶えるが破滅をもたらす。

 ブルートガング 剣 折れた。

 フルンティング 剣 血をすするたび強固になるが、力を失った。

 フロッティ 剣? 突き刺すもの。

 ホヴズ 剣 詳細不明

 ミョルニル 鎚 壊れることなく、投げても的を外さず再び手に戻る。

 リジル 剣? 詳細不明

 ケルト神話

 カラドボルグ 剣 エクスカリバーの原型?

 ゲイ・ボルグ 槍、銃? 投げると命中する。ほか他説あり。

 ブリューナク 槍、投石器 5人を同時に倒す。必ず勝利をもたらす。

 ギリシャ神話

 アイギス 盾、防具 身を守るもの

 ケリュケイオン 杖 詳細不明

 トリアイナ 三叉槍? 漁具

 こうして眺めてみると、圧倒的に北欧神話の武器が多い。ケルト神話とギリシャ神話の武器の数を足したとしても、北欧神話の武器の数には及ばないことから明らかだ。もっともこのサイトに専用のページがないだけで、本当はもっとあるという可能性ももちろんある。

「なんかさ、名前は大分わかった気がするけど、この中のいくつが四之宮にあるのかはわからないんだよな。そもそも本当にあるのかもわからない」
「ふむ、しかしこういうものがあるのかも知れないとわかっただけでも良しといえるだろう」
「圧倒的に北欧神話って言うのの武器が多いな。しかも剣が圧倒的に多い。この中でエイルが知ってそうなのってあるのか?」

 エイルはしばらくメモを見てから口を開いた。

「そうだな……このグングニルとミョルニルという武器は、それぞれオーディン様とトール様の使っていた武器と記されているようだ。ヴァルハラの記録では、このお二人が昔武器を使っていたという記録は残っているが、その名前までは伝わっていなかった。このサイトの情報が正しければ、オーディン様とトール様の武器は《神器》だったということになる。そのお二人の武器の特徴から、グングニルとミョルニルはおそらく能力はあっていると思うよ」
「ちなみにどういう風に伝わってたんだ?」
「ふむ、こういうものだ。主神オーディン、その槍を掲げれば、その戦は決して敗北する事あらず。その槍、ひとたび放たれれば、消して外れることなく相手を射抜き、再び主神の手に戻る。雷神トール、その手に持つ鎚は、決して砕けぬものなし。その雷は戦場を蹂躙し、完全な勝利をもたらす。戦乙女学校の歴史で習ったのだが、それぞれの武器は《オーディンの槍》、《トールの鉄槌》と教えられておりそれが歴史での正式な名称だ。それがまさか《神器》だったとはな……」
「じゃあこの二つは名前と能力はほぼ確実か。あ、でもこのミョルニルってのが雷を操るなんて書かれてないけど」

 ミュルニルのページをF3キーの機能で、"雷"で検索してみても、一致はありませんでしたと表示されている。

「それはおそらくトール様自身の魔術を現しているんじゃないかと思う。あの方は雷神の二つ名の通りに、雷を操る魔術において右に出るものはいないからね」
「なるほど。で、今俺達がもっとも探してるのは、ギリシャの《神器》だから、この三つの中にあいつのなくした《神器》があるかもしれないってわけか。」
「そうなるな。アイギス、ケリュケイオン、トリアイナ。恐らくはこの中のどれかがヒルドのなくした《神器》だろう。ビルドのお仕置きを軽くするには必要不可欠だ」

 お仕置きというよりもガチでデスペナルティなんだけど。
 当然エイルにそんなことは言えるわけがなく、高貴は苦笑いを返したのだった。

「それにしても本当にすごいな。これは間違いなく禁書レベルの情報だ。それをこうもたやすく調べることができるとは、インターネットの力とは私の想像を遙かに超えていたよ」
「俺はなんか拍子抜けたよ。機密事項がググッたくらいで調べられるなんて思ってなかった。でも意外な盲点だったから真澄に感謝だな」
「確かに、そういえば真澄もそろそろ戻って―――」
「高貴、エイルさん、調べ物終わった?」

 ちょうど本を探し終わったのか、真澄が両手に本を抱えて戻ってきた。中には厚い本もありなかなか重そうだ。

「今調べ終えてところだよ。おかげで《神器》かもしれない武器を沢山見つけることができた。ありがとう真澄」
「本当にありがとうな」
「そ、そんな、いいよ別に。あ、それよりもわたしも本探してみたよ。北欧神話とか、海外のいろんな神話の本。少しは参考になるかもって」

 顔を赤くして照れくさそうにした真澄が二人に本を差し出す。その本を高貴が受け取った。真澄が持ってきてくれた本は、今本人が言ったように北欧神話の本や、ケルト神話、ギリシャ神話などの本がある。読むのは大変そうだが、その分情報量も多そうだ。

「ふむ、これだけあれば十分かもしれないな。高貴、すまないが本を借りる手続きをしてくれないだろうか。これは借りていこうと思う」
「いいけどさ、もう帰るのか?」
「いや、もう一つの目的を果たそう」
「もうひとつの目的?」

 高貴と真澄が首を傾げる。今日図書室に来たのは《神器》について調べる為であり、ほかに何をするのかはまったく予定を立てていない。まさか勉強するわけでもないだろうし、一体何をするのか予想もできなかった。
 キョトンとしている二人を前に、不適に笑ったエイルが右手の人差し指と中指を伸ばし、青い光を灯らせた。

「君に魔術の特訓をおこなう」



「ここだけの話……いや、別にここだけの話にしなくてもいいんだけど、実は俺屋上嫌いなんだよ」

 そこに足を踏み入れた瞬間の高貴の第一声はそれだった。図書室で本を借りたあと、高貴たちはエイルにせかされるまま屋上に移動した。ちなみに静音はいつの間にか消えていたので、エイルに声をかけられる前に帰ったと思われる。エイルは残念そうにしていたが、高貴と真澄はホッと胸を撫で下ろしていた。
 不満そうな声を出した高貴に、先に屋上に入ったエイルがクルリと振り返る。

「どうしてだ? 今日はいい天気で太陽も風もすごく気持ちがいいじゃないか。こんなにも晴れ渡った空の下にいれば、自然と自分の心も晴れ渡ってくるだろう?」
「ここで何回か死にかけたからだよ。ベルセルクとかレーヴァテインとか」
「高貴、そんな目にあってたんだ」

 何故かムスッとした顔になる真澄。それを見ないようにして高貴が目をそらした。真澄も同じように目をそらす。

「エイルさん、魔法の特訓をするんだよね。どうしてここでするの?」
「ふむ、なるべく人目につかない場所のほうがいいと思ってね。それにある程度の広さも必要だ。それらを考慮した結果、この屋上にたどり着いたわけだよ。ここならば本来は立ち入り禁止で人は来ないし、広さも申し分ない」
「そもそもどうして立ち入り禁止の屋上に入れるの?」
「当然じゃないか、私はヴァルキリーだ」

 理由になっていない理由を堂々と言い張るエイルに、真澄は少し頭が痛くなった。

「深く気にすんな。それよりエイル、魔術の特訓っても何するんだ? 俺今まで何にも教わってないけど」
「よし、まずは―――ん?」

 エイルの言葉が途中で止まった。
 説明を始めようとしていたエイルの目の前に、突然光の文字が浮かび上がってきたからだ。それはエイルと初めてあった日に、公園での戦いの後に見たものとまったく同じで、エイルの書く文字よりも深い青色の《ᛖ》の文字。
 あのときと同じように、エイルがその文字に右手で軽く触れると、その文字は光の雫となって弾けて消える。

「……疲れた……お姉さんもう限界」

 すると頭の中に直接声が響いてきた。最近ではよく聞きなれてきたクマの声だ。

「え? な、何これ? 今の声ってどこから聞こえてきたの?」
「ふむ、落ち着け真澄。今のは《エオー》のルーンだ。遠く離れた所に声を送る事ができる魔術だよ」

 初めてのことに戸惑っていた真澄をエイルがたしなめる。

「あー……ちょっと休憩。少し話し相手にでもなって……昨日から忙しすぎてお姉さん死にそう……」
「ふむ、今から高貴の魔術の特訓をしようと思っていたんだ。よかったら聞いていても構わないが」
「うー……とにかく仕事をサボれればいいわ……あとそこにいる女の子、えっと、人間ちゃん?」
「わ、わたしですか!?」

 高貴のことは人間君で、真澄のことは人間ちゃんらしい。これ以上こちら側で知り合いができたらどうするつもりなのだろう?

「あなたの処遇については、今はエイルに任せるわ。お姉さんとしては記憶を消して元の日常に戻ってもらったほうがありがたいけど、お姉さん今そっちにいけないから記憶を消せないの。だからわたしがそっちにいったら記憶を消す事になると思うけど許してね」
「あの……消されちゃうんですか?」
「心配しないで。消すのは魔術や異世界に関する記憶だけよ。人間君のこともエイルのこともちゃんと覚えていられるわ」
「えっと……は、はい……」

 ますみの表情はいささか暗い。記憶を消される事を怖く思っているのかもしれない。しかし、高貴からしてみれば、なるべく早く真澄の記憶を消してもらって、平穏な日常に返してやりたいと願うばかりだ。

「じゃあお姉さんは定期連絡の振りしてサボるから、人間君の魔術特訓いって見ましょ」
「ふむ、でははじめよう。君は魔力の扱い方を覚えてもう一週間以上たつ。もしも自分の相性のいいルーンがあれば、すぐにでも使えるようになるかもしれないな。まずは理解しやすい基本的なルーンから……いや、まずはルーン魔術とはどういうものかというものを話しておこうか。高貴には以前少しだけ説明したが、ルーン魔術とはその文字に込められている意味を魔力によって具現化する魔術の事だ」
「文字に意味があるの?」
「その通りよ。これを他の世界では術式と呼んだりする場合もあるわ。ルーン魔術に限らず、ありとあらゆる世界では、魔術を発動させるのに術式を通して発動させる事がほとんどなの。そういう意味では《神器》も武器の形をした術式と呼んでもいいかもね。そしてヴァルハラでもっとも普及している術式がルーン文字で、もっとも普及している魔術がルーン魔術って事」

 ようするに、魔術には術式が必要であり、ルーン文字もその数ある術式の一つという事だろう。

「ふーん、その術式がないと魔術は使えないのか?」
「いや、極まれに使えるものもいる。しかしそんな希少な存在はヴァルハラにはなかなかいない。少なくとも魔術の存在していなかったこの世界には一人もいないだろう。もしもいたとしたならば、その人物が魔術を普及していただろうからね。ヴァルハラではオーディン様やトール様などがそれに値する存在だよ。話がそれたな。ルーン文字は全部で24種類ある。つまりルーン文字を全て極めれば、24種類の魔術を使用できるという事になる」

 24種類。今はまだ一つもつかえない高貴にとって、そんな数は正直想像もできない世界だ。

「しかし、単純に使えるようになるわけではない。魔術を使うことにおいて、必要なものは三つある。一つ目は魔力。二つ目はイメージ力。三つ目が理解力だ」
「……魔力とイメージ力は何となくわかるけど、最後の理解力ってなんだ?」

 高貴は戦いの最中に、クラウ・ソラスの刀身の長さをイメージして調節した事があるため、イメージ力というものは簡単に理解できていた。

「最初の二つは簡単だ。魔力は魔術師ならば操れるし、イメージ力も心の中でイメージすればいいのだから問題ないだろう。問題は君も今言った理解力だ。ここで質問だが、君は雷はどういうものだと思っている?」
「え……ビリビリする?」
「他には?」
「えっと……光る」
「他には?」
「その……真澄任せた!」

 もう何も思い浮かばなかったのか、高貴が真澄にバトンタッチする。真澄は一度慌てた後急いで答えを考え始めた。

「雷……雷……空から落ちる?」
「他には?」
「ゴロゴロッと鳴る!」
「他には?」
「怖い!」
「他には?」
「光ったあとにピシャーンって鳴る!!」
「他に―――」
「エイル! そろそろ勘弁してやれ!」

 エイルの質問攻めに真澄はすでに目を回していた。ここで高貴が止めなければ、真澄はおかしくなっていたかもしれない。

「すまないな、少々イジワルになってしまった。しかし今のが理解力だよ。雷の魔術を使うとしたら、雷について理解してなければいけない。つまりは雷のルーンである《ソーン》を使いたかったら、雷について理解しなければいけないんだ。光る、痺れる、音が鳴るといった様々な事を理解し、その本質の一部を理解する事ができれば、ルーンはそれに答えてくれる」
「本質……」

 それは単純にイメージするという事ではないのだろう。イメージするだけならば簡単だ。実際に見たことがある雷を思い浮かべればいいだけだし、画像などを見てこういうものだとイメージすればいい。しかし、本質を理解するというのは難しい。そもそも雷とは生き物ではなく、コミュニケーションがまったく取れないものだ。
 先ほど高貴と真澄の言った雷とはどういうものかというのも、人間の視点から見た感想であって、雷の本質とは限らない。あくまでも表面上のことでしかないのだ。

「そう難しく考えることはないわ。雷のような目に見えるもの。そして引き起こす現象の結果がわかりやすいものは比較的に理解しやすいから。理解するのが難しいルーンは、後々覚えていけばいいのよ」
「ちなみにエイルはよく雷出してるけど、雷の本質を知ってるのか?」
「いや、正直に言うとぜんぜんわからない」

 盛大に2人がずっこけた。今までの長い説明が全て台無しになってしまうような一言がヴァルキリーの口から出てきたからだ。

「テメー今までの説明はいったい何だったんだよ!!」
「えっと、理解しないと使えないんじゃないの?」
「いや、きっと無意識のうちには理解できているのだとは思う。しかしそれを説明することができないんだよ。これも以前高貴には言ったが、指の動かし方や力の入れ方を、知ってはいても説明できないのと一緒だ。私はせいぜい雷は痺れるくらいの認識でしかないが、それでも《ソーン》のルーンを使うことはできる。逆にヒルドは雷についてかなり調べて理解しようとしたようだが、結局は使うことができなかった。かわりに炎のルーンである《ケン》を使えるようになったがね。本質を知ろうとしても、望んだ本質を知る事ができるとは限らないのかもしれないな。自分にあったルーンを探すしかない」
「いやそんな自分にあった参考書を探せみたいに言われても……まぁとにかくやってみるよ。お前みたいに空中に文字を書けばいいのか?」
「エイル、基本的な七つのルーンからためさせたら?」
「ふむ、そうだな。少し待ってくれ」

 そう言うなりエイルはなんのためらいもなく胸元に手を突っ込んだ。白い肌が高貴の目に入ってくる前に、凄まじい速さで真澄が高貴の目を両手で塞ぐ。注意を促す真澄をよそに、エイルは先ほどのメモ帳とボールペンを胸元から取り出した。そのメモ帳の上にスラスラとボールペンを走らせていく。
 それが書き終わったのか、メモ帳を高貴と真澄のほうに見せた。メモ帳には、いくつかのルーンと、その読み方。そしてそのルーンの意味が書かれてある。

「戦乙女学校では、《エイワズ》が、必修ルーンとなっている。その他に炎のルーンである《ケン》、雷のルーンである《ソーン》、風のルーンである《ハガル》、氷のルーンである《イス》、水のルーンである《ラグズ》、大地のルーンである《オセル》の六つのうち、どれか一つでも使いこなせる事が卒業の最低条件だ。《エイワズ》が身を守るルーン。他の六つが攻撃に使えるルーン。これで最低限戦えるというわけだ。まずはこの七つのルーンを試してみるとしよう」
「それはいいけど、一体どうやって書くんだ?」
「まず、どちらの手でもいいから、中指と人差し指を立てる」

 エイルが右手の中指と人差し指を立てた。それにならって高貴も右手の指を立てる。

「次に、指先に魔力を集中させるんだ。このとき光をイメージすると成功しやすい」

 エイルの右手に青い光が灯る。今まで何回も見てきたエイルの光を参考に、高貴も光をイメージする。
 光。明るい光。優しい光。たとえ真っ暗な闇の中でも道を示してくれるかのような光。太陽の光にも負けない光。そんな光を、イメージする!

「わぁ……」

 真澄が思わず声を漏らした。高貴の指に白い光が灯ったからだ。魔力が集まっている為か、指先がかすかに熱い。エイルの光とは色が違うものの、これでルーンを描く事ができる。

「ねーねー、お姉さん今声しか聞こえないんだけど、人間君の魔力の色って何色?」
「ふむ、君の魔力の色は白らしいなクラウ・ソラスと同じ……いや、もしかすると君の魔力の色が白だからクラウ・ソラスの刀身も白いのかもしれない」
「魔力の色? それってなんか意味あんのか?」
「いや、特にない。魔力の色というのは、その人物の好きな色や印象に残っている色などになることが多い。人によっては自由に色を変えることもできる」
「ふーん、高貴って白が好きなんだっけ?」
「いや、特には。白い色で印象に残った事なんてあったっけかな……」
「人間君が印象に残っている白なら、お姉さんに心当たりあるわよ」
「え、マジで?」

 高貴にはあまり心当たりがない。取り立て白が好きなわけでもないし、どちらかといえば青や緑色のほうが好きな色といえる。赤は最近苦手になった。

「ふむ、それは何なんだクマ?」
「決まってるじゃない、エイルのパンツよ」

 屋上の時間が止まった。いったいあのバカグマはいったい本当にいったい何を言っているんだろう?

「ほら、エイルが転校してきた日にベルセルクが出たでしょ。その時人間君はエイルのパンツを見たじゃない。あれって白かったでしょ?」
「……あ」

 そういえば白かった。確かに白かったが……真澄がゴミを見るようなまなざしで高貴を見ているのに加え、エイルが呆れたような表情で高貴を見ている。

「いや違うって! そんなわけないって! ありえないって!」
「……本当に?」
「当たり前だ!」
「なら確かめてみればいいじゃない。エイル、今履いてるパンツ何色?」
「ん? ああ、黒だよ、ほら」

 クマの質問になんのためらいもなくエイルが答える。いや、答えるだけならまだいい。なにを考えているのかこのヴァルキリーは、右手でスカートの端を持って高貴と真澄にパンツを見せ付けたのだ。

「く……くろ!?」
「見んな! このバカーーーーッ!!」

 パンツの黒と、それに反比例するかの如くの白い太ももに目を奪われていた高貴に、真澄がなんのためらいもなく目潰しを食らわせた。

「ぎゃああああああああっ!!」

 遅い来る激痛。失明したかのような黒。思え浮かぶはパンツの黒。

「エイルさん! なにやってんの? マジでなにやってんの? 恥ずかしくないの!?」
「ふむ、自分から見せる分には平気だ。見せる気もないのに見られてしまったときは恥ずかしいがね」
「見せないで! お願いだから自分をもっと大切にして! エイルさんも女の子なんだから!」
「私はヴァルキリーだ」
「ドヤ顔でそんなこと言ってもだめ! 今度やったら怒るからね!」

 真澄の迫力に押され、エイルも首を縦に振るしかなかった。

「よ、よし。とにかくルーンを書いてみよう。高貴、光が消えているぞ。もう一度魔力を集中させろ」
「……了解です」

 目のダメージが抜けた高貴が、先ほどと同じように指を伸ばす。目を閉じて集中。光。白い光。エイルのパン―――暖かな光。集中。集中。
 集中!
 高貴の指に再び光が灯り、三人の視線がそこに集まる。しかし、先ほどのように驚きと関心のまなざしはどこにもなく、あったのは軽蔑と呆れの視線だけだった。
 先ほどは白い光だったのが、今度は真っ黒な光が灯っていたからだ。

「……い、いや……これは違うって!」
「……君……私のパンツが好きなのか?」
「違う! これは何かの間違いだ! 落ち着いて話し合おう!」
「え、まさか本当に黒くなったの? きゃははははは!! お、お姉さんお腹痛い!」

 頭の中にクマの笑い声と、心なしかもう一つ別の高笑いが聞こえてくる。真澄だけは何も言わず、ただただ高貴に対して軽蔑の視線を送っていた。

「……念のため私と真澄は少し離れていよう。さぁ真澄、こっちへ」
「うん、近づかないほうがいいね」
「ちょっと待って! マジで待って!」
「勘違いしなくていい。魔術が暴発する危険性を考えての事だ。君はそれ以上こちらには来るな」

 心なしか先ほどよりも態度が冷たくなったエイルの言葉を、高貴はただ信じるしかなかった

「まずはどのルーンを書いてみるか決めるといい」
「あ、ああ」

 目をそむけるように頭を切り替える。メモ帳に書いてあるルーンは7つ。一番最初に書かれているのは、炎のルーンである《ケン》だが、これだけは絶対にやりたくない。炎はいまだ高貴のトラウマなので、自分が炎の魔術を使うなど考えたくもない。というわけで炎はあっさりと却下。
 次に書いてあるのは《ソーン》だが、これはエイルの得意とするルーンだ。もう何回も見ているので、せっかくだから違うルーンをいろいろと試してみたい。というわけで雷も却下。
 三つ目に書かれていたのは、風のルーンである《ハガル》。これはたしか見たことがないはずだ。公園でエイルが使ったような気もするが、よく見ていなかったのでこれにしてみよう。

「この風のルーンにするよ。《ハガル》っていうの」
「よし、では《ハガル》文字を頭にイメージするんだ。英語のHと形が似ているから気をつけろ。そのイメージどおりに指を動かせばおのずとそのルーンの形になる。書くときにルーンの名前を言うのも効果的だ。慣れればいう必要はないが、言葉にしたほうがイメージしやすいからな」

 エイルのアドバイスに高貴がうなづいた。とにかく、魔術にはイメージが大切だという事だ。頭の中で自分がこれから描くルーンの形をイメージする。イメージ、ひたすらにイメージ。アルファベットではなく、自分が今から描くのは魔法の文字。その文字の名は―――

「……《ハガル》―――!」

 高貴の右手が動き、黒い光が軌跡を走らせる。まるで見えないキャンバスに色を塗ったかのように、何もない空間に《ハガル》のルーンが刻み込まれた。

「で、できた!」
「喜ぶのはまだ早い。文字を刻むだけなら誰でもできる。問題はここからだ。《ハガル》は風のルーン、風を巻き起こすイメージを起こせ。とにかくなんでもいいから、集中して風について考えてみろ」

 集中、目の前に浮かぶ黒い文字を見ながら、高貴はひたすらに集中する。
 風、世界を自由に駆け巡るもの。どこから来てどこへ行くのかもわからず、ただ気がつけば感じることのできるもの。時として人に害をなし、時として人の支えになるもの。
 真澄が心配そうに、エイルはただ静かに高貴を見ている。風はまだ吹かない。
 イメージ、そして念じる。自分の魔力が、世界に風を巻き起こすようにと。
 風……巻き起これ!
 自分の魔力が、《ハガル》のルーンに流れていく。そして、ルーンが黒い粒子となって弾けて世界に溶けた。ルーンが、高貴の魔力が世界に溶ける。ルーンの存在した空間から、一陣の風が屋上に広がっていった。高貴から離れて、正面に立っていたエイルと真澄も風を身に浴びた。

「やった!」
「ふむ、成功だ。なんだか優しい風だな」

―――つまらん、貴様はもっと恥をかけ

 ふと、頭の中になにやら不吉な声が聞こえてきた。高貴が不思議に思っていたその時……悲劇が起きた。突然屋上をかける風が強いものへと変わったのだ。ささやかな微風も同然だったその風が、急に突風といっても差し支えないほどの強さに変わる。

「あqwせdrftgyふじこ!?」
「…………あ」

 それは神のいたずらだったのか。それとも《神器》の嫌がらせだったのか。もしくは高貴の願望だったのかはわからない。高貴の約10メートルほど前にいたエイルと真澄、その二人のスカートが、突風によって3秒ほどその役目を失った。同時に屋上から風が止まり、二人のスカートも正しい役目に戻る。

「……いや……その……」

 真澄が顔を赤くしてスカートを抑えている。先ほどはスカートをめくって見せたエイルまでも顔を赤くしている。顔を赤くしたままゆっくりと、心なしか笑いながら真澄が高貴に近づいていき、目の前で足を止めた。

「…………見た?」
「……見てない」

 黒とピンクなんて俺は見てない。

「嘘つくなこのド変態!! これじゃ優しい風じゃなくてやらしい風!!」
「ぎゃあああああっ!!」

 真澄の拳が高貴の顔面に突き刺さった。パーではなくグーで、見事なまでの右ストレート。その一撃は高貴を地面に倒すには十分すぎる一撃だった

「わたし帰るから!!」

 そういい捨てて真澄が屋上から早足で去っていく。屋上に転がる高貴の元に、今度はエイルが近づいていき、高貴のそばで足を止める。へたをすればまたパンツが見えてしまいそうな位置だ。

「ずいぶんと……君……パンツが好きなんだな。練習の続きをするか?」
「……もう二度と、魔術なんてしない。帰ってふて寝する」

 呆れ顔のヴァルキリーにたいして、いまだに起き上がる事の出来ない高貴は、そう返すのが精一杯だった。

                                             ――――――ヒルド・スケグルの処刑まであと四日




 目覚めは極めて最悪だった。昨日の屋上での魔術の練習の時に起きた悲劇で、真澄からは変態の烙印をおされ、クマにはさんざんからかわれる羽目になってしまった。エイルは恥ずかしそうに顔を赤くしただけだったが、彼女の恥ずかしさの基準は本当に謎だ。
 ショックに陥った高貴は、まだ日が高い内からソファーでふて寝し、テレビが一番見やすい場所を占領していることをエイルに文句を言われながら、それを無視し続けて次の日の朝まで眠っていた。 アラームがなる前に目覚めたにもかかわらず、眠りすぎたおかげで調子が悪い。夕食も食べていないので腹の虫も鳴いていた。エイルはまだベットの上で寝息をたてている。目を覚まして幼児モードになる前に、まずはシャワーでも浴びるのが最善だろう。
 ソファーから音をたてないように高貴は起きあがる。しかし、寝起きでふらついていたためか、テーブルの足に自分の足の小指を勢いよくぶつけてしまった。

「いっ! ……つ~~……」

 思わず声を上げてうずくまる。そして、

「う……ん……」

 ヴァルキリーが、ゆっくりと体を起こした。パジャマは相変わらずいい具合に、ではなく、みてはいけない感じに着崩れている。そのぼやけた視線が左右に動き、うずくまっている高貴をみたときに視線の動きが止まった。

「ん~……こーきだぁ~」

 心なしか、エイルの目がギラリと光る。それはまるで獲物をねらう肉食動物の如き眼差し。

「エ、エイル……お、おは―――」
「こーき! おはよ~!!」

 瞬間―――エイルが高貴に飛びかかってきた。もはや毎朝の日課となりつつあるエイルの抱きつき。しかしそれは高貴の理性を破壊する、戦闘力Dかつ破壊力Sの物理的魔術。
 まずい、今日はイラついてるから、下手したら我慢できねー。いや、間違いなく理性が完全に崩壊する。だから一緒に住むなんて反対なんだ。せめて壁か仕切りがあれば―――壁?

「《エイワズ》!」

 壁という言葉が頭に浮かんだ瞬間に高貴の右腕はすでに動いていた。白い光が軌跡を描き、《エイワズ》のルーンが刻まれる。一瞬でルーンが弾け、高貴とエイルの間に白い障壁が現れる。

「ぷにゃっ!」

 突然現れた障壁にエイルは顔から思い切りぶつかってしまう。そのままずるずると崩れ落ちた。現れた壁は、ソファーやテーブルなどは貫通して傷つけてはいないところを見ると、無意識のうちにエイルだけを通さない壁を作ったようだ。

「はぁ……はぁ……で、できた!」
「む~……なにするのこーき! いきなりこんなことして!」
「こっちの台詞だバカ! 毎朝毎朝いい加減にしろ!」
「けちんぼなんだから。こーきはあったかくてだきつくときもちーのに」

 お前はあったかくて柔らかくていい匂いがして気持ちよすぎるから問題なんだよ。
 これからはこのルーンでエイルの突進を防ぐ事ができる。そう思っていた高貴に向かって、幼児化したヴァルキリーは障壁をコンコンと叩きながらこう言った。

「あ、きょーはしろいんだね。やっぱりこーきのまりょくのいろはエイルのパンツとおなじいろなんだね。おそろいおそろい!」



「昨日の事を気にしているのかどうかは知らないが、高貴が今日は朝からずっと元気がないんだよ」
「……知らないよあんな奴。別にどうでもいいし」

 四之宮高校の屋上で、エイルと真澄は昼食を取っていた。エイルはいつもならば、高貴と一緒に食べるか、学食ですませるかのどちらかなのだが、きょうは真澄のほうから誘いがあったので真澄と食べている。ちなみに高貴は誘われていないのできていない。教室で俊樹と一緒に昼食を食べているだろう。
 エイルはコンビニで買ったサンドイッチ、真澄は購買で買ったパンが今日のメニューだ。

「真澄、まだ昨日の事を怒っているのか? 高貴も男性なのだから仕方ないじゃないか」
「エイルさんは心広すぎだよ。一発くらいぶん殴っちゃえばいいのに」
「ふむ、では次に見られたときに考えておこう。それで、私に何か用でもあるのか? 屋上に来るということは、なるべく人に聞かれたくない話だと思っているのだが」

 真澄のパンを食べる手がピタリと止まった。ムスッとしていた表情が消え去り、いささか緊張した表情になる。

「うん……あのね、わたしもエイルさんみたいに魔法を使うことってできるのかな?」
「不可能だ」

 一秒の躊躇もなく、バッサリとエイルが真澄の質問に回答する。余りの速さに固まってしまった真澄をよそに、エイルはサンドイッチを一口食べた。

「君は魔術師でもなければ《神器》に選ばれたわけでもない。だから魔術を使う事はできないよ」
「も、もしかして、聞かれるって予想できてた?」
「ああ、何となくだけどね。もしも本当に聞かれたら、希望を持たせようとしないで、はっきり無理だと言おうと決めていた」
「……そっか……やっぱり無理だよね」

 真澄が顔を伏せる。本人もきっと想像できていた答えだったのだろう。それでも微かな希望にかけて、真澄はヴァルキリーに聞いてみたのだ。

「やっぱりさ……わたし二人の事すごく心配なんだ。だから何か出来ることはないかって昨日考えたの。それで魔法が使えたらあの怪物とも戦えるようになるんじゃないかって思って」
「……もう少しすれば、記憶を消せる者が来る。そうすればその心配だという気持ちも消えるさ」
「やっぱり、消してもらわなくちゃいけないんだね」
「すまない、だがこれ以上巻き込むわけにはいかないんだ。私は高貴を巻き込んでしまった。非常事態だったとはいえ、彼の人生を狂わせてしまったも同然なんだよ。だからこそ、なんの力も持たない君を巻き込むわけにはいかない。高貴に対して、私はいつか巻き込んでしまった罪を償わなければいけないだろうな」
「罪……でもさ、最近高貴ってすごく楽しそうなんだよね」
「楽しそう?」
「うん、別に極端に暗かったってわけじゃないよ。でもエイルさんが来る前の高貴は、今とはどこか違った。人生がつまらないってわけでもなかったと思うし、後悔も沢山してるとか言ってるけど、わたしには前よりも高貴が楽しそうに見えるんだ。それはきっとエイルさんのおかげだと思う。ほんの少しだけど高貴は変わったよ」

 真澄はそれを確信しているようだが、エイルにはそれがわからない。エイルは高貴と出会ってまだ日が浅く、過去の彼のことなど何も知らない。故に、昔からの付き合いのある、幼馴染の真澄にしかわからない事なのだろう。

「君は……高貴のことをよく知っているんだな」
「そ、そんなことないよ。ただ付き合いが長いからだよ」

 真澄が照れたように赤くなり、その表情を隠すかのようにうつむいてパンを食べる。

「ひょっとしたら高貴は、ほんの少しくらい非常識な事に関わってたほうがいいのかもね。平穏と平凡にこだわりすぎなんだもん」
「ああ、それは私も思ったよ。彼は異常なくらいに平穏を好むようだな。にもかかわらず私の力になってくれているが」
「うん、本当にそうだよね。高貴は平穏な日々を心から望んでる」

 悲しいくらいに―――と、真澄は言葉を続けた。
 しかしその言葉はエイルの耳に入ることなく屋上に散っていく。

「その平穏を取り戻すために、高貴は私の手伝いをしてくれているのだろうな。一日も早く彼を元の日常に返せるように私も努力するよ。それと昨日も言ったが、彼は私が必ず守る。この命に代えても」
「……うん」

 力強いエイルの言葉に、何故か真澄は不安そうな顔になった。その表情は晴れる事はなく、二人は黙ったまま昼食の続きを食べ始めた。



 昼休みにエイルと話して、魔術が使えないとはっきりと言われてしまった真澄は、何となく高貴とエイルには顔を合わせづらくなり、昼休み以降は会話をすることなかった。下校するときも挨拶もなしに足早に教室を出た真澄は、暗い気分を打ち払う為にしばらくブラブラした後ある場所に向かった。
 バイト先のマイペースである。
 今日はバイトのシフトではないが、詩織のケーキを食べる為に、客として真澄はマイペースに行くこともあるからだ。

「……真澄ちゃん、きょうはなんか元気がないけど何かあったの?」

 しかし、ケーキを注文しても気分が晴れる事はなかったようだ。モンブランを注文したものの、フォークを持ったまま手をつけようとしない真澄を心配し、思わず詩織が声をかける。

「……え? い、いえ……別に……」
「嘘は駄目。真澄ちゃんのことならわかるもの。その顔は何か悩みがあるって顔ね。私でよかったら相談に乗るけど」

 詩織が真澄に笑顔を向ける。それを見た真澄は、モンブランの栗をフォークで突き刺しながら口を開いた。

「……詩織さんは、友達が危ないことしてたら心配になりますか?」
「ええ、もちろんよ。危ない事はやめてほしいって思うわ」
「でもそれがやめられないことだったらどうしますか? 例えばその人にとって必ずやらないといけない事だとか、大勢の人に関係していてやめられないとか」
「うーん……そうねぇ。少し考えていい?」

 はい、と真澄が詩織に返した。詩織は自分の分のコーヒーを一口飲んで、首を捻って考え始める。その間に真澄は栗を一口で口の中に入れた。優しい甘さを味わいながら次の一口のためにモンブランにフォークを差し込もうとしたが、詩織の声でその動きが止まった。

「うん、考えたわ。ねぇ真澄ちゃん。危ないけどやめられないって事は、その人にとって大切な事って事よね?」
「はい、そうだと思います」
「だったら私に出来ることは三つね。心配してあげる事。応援してあげる事。そして手伝ってあげる事。多分止めるって選択肢は私にはないわね」
「そうですか……」

 真澄は高貴に対して、最初は止めるという選択肢を選び、それを実行した。しかし高貴をとめることはできなかった。それは自分でもわかっていた事。高貴とはそういう人間である事を真澄は知っているから。
 そうなると残りは、今詩織の言っていた三つの選択肢。だが、その中の一つも真澄は実行する事ができない。記憶を消されてしまえば心配も、応援も、手伝いも出来はしない。最後の一つにいたっては、記憶を消されていなくても不可能だろう。
 高貴とエイルは優しい人間(片方はヴァルキリー)だ。真澄のことを巻き込みたくないという気持ちは痛いほどに理解できる。心配をかけたくないと思っている事も簡単に理解できる。だからこそ記憶を消す事を進めているのだろう。

「じゃあ……心配してあげる事も、応援してあげる事も、手伝ってあげる事もできない場合はどうしますか?」

 うつむきながら真澄が詩織に尋ねた。

「うーん……ん? そんな状況ってあるのかしら?」
「えっと……あ、自分の知らないところでやってたみたいな感じです」
「あら、そんなの思いっきり引っ叩いてやればいいじゃない」
「……え?」

 あまりに予想外の答えに、思わず真澄はポカンとしてしまう。

「な、何でですか?」
「友達なんだから心配ぐらいさせてよって事。だって自分の知らないところで友達が危ない事してるなんて気分悪いじゃない。だから手伝えなくても、心配や応援くらいさせてって言って引っ叩いてやればいいのよ」

 思いっきりね、と右手を振りながら詩織は言う。

「……なるほど、それもいいかもしれませんね」

 クスリと笑って真澄はモンブランを食べ始めた。実際は叩く事などできないかもしれないが、詩織との話で少しは元気が戻ってきたようだ。この人は人を元気付けるプロなのかもしれない。
 そのあと真澄は詩織と雑談をして過ごした。時間はあっという間に過ぎ去りもう閉店の時間だ。

「ご馳走様でした。そろそろ帰ります」
「はい、お粗末様でした。今日は私が奢ってあげるわ。暗くなってきたから気をつけて帰るのよ」
「えっと……今の時間は―――」

 真澄が鞄の中を覗き込んでスマホを探し始める。時計は持ち歩いていない為、真澄は時間を見るときはスマホを見て確認している。

「ってあれ? スマホがない」

 いくら探しても鞄の中にスマホが見当たらない。いつの間にか取り出したのかもしれないと辺りを見るも、やはりどこにも存在しなかった。

「もしかして学校に忘れてきたんじゃない?」
「……あ、そういえば机の中に入れっぱなしだったかも」
「だったら明日でもいいんじゃないかしら?」
「でもわたしスマホのアラームと目覚まし時計のコンボじゃないと、朝は起きれないんです。それに電話とかメールとか来るかもしれないですし……まぁ学校によって取ってきます。あそこ忍び込むの簡単ですから」

 高校一年の時に、クラスメイトの何人かで肝試しをした際に、四之宮高校のセキュリティの低さを真澄は知っているのだ。
 今は午後8時。マイペースからだと、だいたい歩きで15分ほどで着くし、帰り道の途中なので問題ない。学校による分少し帰りが遅くなるだけだ。

「じゃあ詩織さん、今日はありがとうございました」
「いえいえ、明日はバイトよろしくね」

 詩織の声を背中に受けて真澄はマイペースを後にした。
 このとき真澄はわかっていなかった。帰りが遅くなる時間が、わずかではないという事に。





 時間というものは、あっという間に過ぎていくものだと、ここ数日で高貴は実感している。昨日は《神器》のことについて調べることができたが、肝心の《神器》は見つかる気配が全くなく、今日という日もまた過ぎ去ろうとしているからだ。
 このままでは本格的にまずい。ヒルドの死刑決行がだんだんと近づいてくるにつれて、高貴は焦りを隠せなくなっていた。そんな中、エイルと高貴がこれからどうすればいいのか話し合っていたその時だった。
 ヴァルハラに行っているクマから、大事な話があると通信が飛んできたのだ。

「それで、大事な話ってなんだんだよクマ。」

 ソファーに座りながら高貴が誰もいないテーブルに向かって話しかける。しかし、通信といっても頭の中に直接声が響いてきており、電話とかでもなく、いささか話しづらかったため、今は動かないクマのぬいぐるみをテーブルの上に置いた。これで少しは話しやすくなるだろう。

「大事な話は大事な話よ、パンツフェチの人間君」
「パンツフェチじゃねーよ!!」
「落ち着け高貴、今はとにかくクマの話を聞こうじゃないか」

 ベットに腰掛けているエイルが高貴をたしなめた。しかしエイルの表情にも心なしか余裕が無い。もしもクマの話がくだらない話だった場合は、本気で怒り出しそうだ。

「まったくもう、お姉さんってそんなに信用ないのかしら。本当に大事な話なのに。じゃあ―――ふざけるのはこれぐらいにして、重大な報告のほうに移らせてもらいます」

 クマの声色が変わった。明らかにおふざけではない緊張感がピリピリと伝わってくる。

「今から二日前。時刻にして18時28分から19時12分までの間に、四之宮の三つの地点に《神器》の魔力反応、およびベルセルクの出現が確認されました」
「え?」
「それは本当か?」
「はい。そのうちの一つは《光剣クラウ・ソラス》のものです。三つの内の場所のひとつは、四之宮公園によって確認された事から間違いありません」
「あ、そうか。真澄を守りながら戦ったあのときか。」

 二日前の公園での戦いのとき、高貴は迷うことなくクラウ・ソラスを使用した。そのときの魔力反応をヴァルハラは確認したという事だろう。しかし、クマは三つの地点でと言った。

「クマ、残りの二つはどこで反応があったんだ?」
「片方は四之宮中学校の地点と思われます。この地点では、18時28分にベルセルクの反応が確認され、その一分後の18時29分に《神器》の魔力が確認された事から、ベルセルクを《神器》で撃退したと考えられます。その後18時35分にベルセルク反応、《神器》の反応がともに消失。それ以降では現在まで四之宮中学校内での魔力反応は一切ありません。」
「中学校か……ってそこ俺も通ってた」

 四之宮高校は、中学から高校までエスカレーター式になっている為、四之宮中学校にはほとんどの生徒が通う事になる学校だ。もちろん高貴、真澄、俊樹の三人は四之宮高校に入る前は四之宮中学校に通っていた。特に目立ったところはない普通の学校なので、そんな所で非現実的な事が起きたとなるとなんだか嫌な気分になってくる。
 まぁ、今更なのだが。

「ふむ、と言う事はその四之宮中学校の生徒、もしくは教師が《神器》を持っている可能性が高いというわけか」
「6時半なら生徒は下校……いや、部活とかで残ってる奴がいるだろうな。つーかそいつベルセルクと戦ってるところ見られなかったのかな?」
「四之宮中学校では今のところ特に騒ぎは起きていません。たとえベルセルクが襲ってこないとしても、見ただけで大騒ぎになるのは確実ですから。最も、ベルセルクはターゲットが大勢の一般人といるときは出現しにくいという傾向があるので、きっとそのせいでしょう」
「なるほど……つーかさ、その《神器》持ってる奴らって魔力を隠してるのかな?」
「ああ、恐らくはそうだと思うが」
「じゃあなんでベルセルクはそいつが《神器》持ってるってわかるんだ?」
「ベルセルクとはそういう存在だから、としかいえないな」

 まったくもってやっかいな化け物だ。《神器》を探すのにそれに頼るしかない自分を高貴は腹立たしく思う。

「それでクマ、三つ目は?」
「はい、もう片方は、都心のビルです。そこでベルセルク反応および《神器》反応が確認されました」
「……マジ?」
「それは……まずいんじゃないか?」

 都心は住宅街と比べて格段に人が多い。それに加えて、ビルの中などという密閉された空間にベルセルクが出現して戦闘を行ったとなると、被害はかなり大きいだろう。

「こちらは18時50分に《神器》反応が出現し、19時10分にベルセルク反応が現れました。そして19時12分にベルセルク反応が消え、その約十秒後に《神器》反応も消え去りました。それ以降今現在にいたるまで、そのビルで魔力反応はありません」
「待て、そっちのほうは《神器》の反応が最初に現れて、ベルセルクの反応があとから現れたと言ったな。と言う事は、その《神器》の持ち主は、《神器》を使って何かをしていたということか?」
「恐らくはそうなります。さすがに何をしていたかまでは確認できませんが、魔術を使用していた可能性は高いでしょう。もしくは《神器》の力を試していたか、魔術の練習をしていたのかもしれません。《神器》が持ち主にルーン魔術の存在を教えたという可能性もあります」
「《神器》が持ち主にルーンを教える……か」
「昨日も言ったが、ヴァルハラ、ケルト、ギリシャ、この三つの世界で、ルーン魔術はかなりの知名度だ。ルーンの発祥の地はヴァルハラだが、ケルトやギリシャの《神器》も、過去にルーンを使うものと戦った可能性もあることを考えるとありえなくはない」
「はい、実際に過去にギリシャの《神器》が、持ち主にヴァルハラのルーンを教えたという記録があることがわかりました。もしかすると《神器》が持ち主を鍛えようとしているのかもしれません」
「……俺、クラウ・ソラスに何にも教わって無い気がする」

 教わるどころか、こちらから話しかけようとして、対話が成功したことは一度もない。頭の中で時々声がするような気がするが、記憶によく残らない声で、何を言ったのかはすぐに忘れてしまう。

「もしかして君、クラウ・ソラスに嫌われてるんじゃないか?」
「いや、だったら俺はこいつを使えないだろ。結構シャイな奴なのかな?」

―――気にするな、ただの嫌がらせだ。

 ん? また声が聞こえてきたような……いや、気のせいか。そもそも嫌われるような事なんてした覚えがない。まさか人間ならば問答無用でみんな嫌いなんてわけでもないだろう。
 ……おそらく。

「クマ、そのビルというのは、いったいどういうビルなんだ?」
「普通のビル、としか言えません。ただ都心のなかでも大きい部類に入るビルのようです。それだけ多くの人が出入りするという事ですので、《神器》の持ち主を見つけることは難しいかと思われます」
「ふむ……こうなったら一人一人に槍を突きつけて―――」
「やめろ! 銃刀法違反で大騒ぎになって《神器》を探すどころじゃなくなる!!」

 とはいえエイルならばやりかねない。これからはエイルの行動に目を光らせる必要がありそうだ。

「ヴァルハラでも《神器》の持ち主の特定には全力を注いでいます。その結果をお待ちください。またはベルセルクがもう一度出現するまで待ちましょう」
「それしかないか……」

 ゴロンと高貴がソファに寝転がった。それを見たエイルも肩の力を抜いて、いささかリラックスした感じになる。

「けどさ、今まで反応がなかったのに、最低でも《神器》をもってるのが二人いるってわかっただけでも前進だよな」
「そう……だな……うん、その通りだ。私も君のように前向きに考えるとしよう……そういえばクマ、こちらに戻ってこれるのはいつになる? 真澄の記憶の件があるからな」
「どんなに早く戻れたとしても明日になりそうです。《神器》の捜索以外にもやる事がありますので」
「ん? それはなんだ?」
「……いえ、たいしたことではないのでお気になさらず」

 ああ、多分死刑判決の件だ。せめて刑期を伸ばしてほしい。

「今日も真澄と話したんだが、真澄は魔術を使いたいと言ってきたんだよ。君が心配だと言ってな」
「けどそれは無理だろ。真澄は魔術師じゃないし、《神器》に選ばれたりもしてない。それに何より……巻き込みたくない」
「ああ、私もそれが一番の本音だよ」

 高貴と真澄は幼馴染で付き合いはかなり長い。エイルは真澄と出会ってまだ一月もたっていないが、高貴を除けば真澄が最も親しい友人と言って間違いない。そんな彼女の記憶を消し去るというのは、二人にとってかなり心が痛むものだ。
 しかし、それ以上に巻き込みたくはないという思いのほうが遥かに大きいのだ。
真実を話した時の真澄の心配そうな表情、そして悲しそうな表情は二度とみたくはない。

「あいつは優しいから、俺とエイルが危ないことしてるなんて知ってたら気が気じゃないだろうし、この前みたいに危ないことに巻き込みたくないし、だいたい頼まれたからって普通の人間を巻き込むのもどうかと……おい、エイルを攻めてるわけじゃないんだから、そんな顔すんなよ」

 自分が喋るたびに、エイルの顔が申し訳なさそうになっていることに高貴は気がついた。わかりきっている事だが、エイルは高貴を巻き込んだ事をどこまでも申し訳なく思っているようだ。

「いや……しかしだな」
「あの時はああしなかったらどっちも大怪我してたか、最悪殺されてただろ。それを考えるとエイルを攻める気になんてならないよ」
「しかし、君は後悔をしているんだろう? それを聞いてしまうとやはり責任を感じられずにはいられない」
「はぁ……あのさエイル。エイルは誰かと出会って後悔した事ってあるか?」
「え? ……そうだな。まぁあるといえばあるな」

 突然の質問にエイルは戸惑いながらも、キチンと考えた上で答える。

「俺は今まで出会った人のほとんどの人にたいして、出会ったことに後悔してるよ。真澄も、俊樹も、もちろんエイルにも」
「……なに? しかし君にとって真澄や俊樹は友人だろう。彼女達の事を君は嫌いなのか?」
「そんなことない。みんな大切な人たちだ。でも真澄は時々不機嫌になって、お詫びにケーキおごったら体重増えたとかいってまた怒ってくるし、俊樹は時々普通にウザイし、さらにからんできてなおかつウザイ。そんなことがあると、俺なんでこいつらと友達やってんだろって後悔する。でも友達をやめない」
「それは、どうしてだ?」
「後悔しても嫌いになれないのが友達だからだよ。俺は後悔したくらいで終わるような人付き合いはしたくない。俺が人付き合いをやめるとしたら、その人のことを嫌いになったときだけだ。エイルのことは好きだから、俺は手伝いをやめない」
「す、すすす、好き!?」

 真剣に高貴の話を聞いていたエイルの顔が、まるでぷしゅー、と音がしたかのごとく一気に赤くなった。だけではなく、体を硬直させアタフタと視線を泳がせる。
 そこでようやく高貴は自分の間違いに気がついた。自分のいった意味とエイルの認識した意味が食い違っているという事に。

「いや、その、いきなりそんなことを言われてもだな!! そもそも私はヴァルキリーで! 確かに私達は契約の印エインフェリアルを済ませてはいるが……」
「違う! そういう意味じゃねーって! 友達としてって事!! 嫌いじゃないから手伝いをやめないって事だよ!!」
「え? ……そ、そうか。そういうことか。まぁ私には当然わかっていたよ……う、うん」

 真っ赤になっていたエイルの顔が段々と元の色に戻っていく。それでもやはりもじもじとしていて、長い髪の先を指で弄っている。そのまま気まずい沈黙が流れ始めた。
 あんな言い方をした自分が悪かったのか、それともエイルがバカだったのか。とりあえず高貴はどっちも悪かったという事に結論付けた。

「あのー……そろそろお姉さんも喋っていい? まったく、青春ならラブホでやってよね」

 少し気まずい雰囲気になっていた二人の沈黙を破ったのは、シリアスモードが解けて今まで黙っていたクマの声。

「へ、へんな事言うなよ!!」
「そ、そうだぞクマ! へんなことを言うな」

 あ、エイルってラブホのこと知ってんのな。もしかして異世界にもラブホテルはあるのかもしれない。

「だいたいエイルは気にしすぎよ。人間君は手伝ってくれるって言ってるんだから、気にすることなんてないのに」
「……おい、そもそもクマが、俺の命が危ないかもしれないなんてエイルに言ったからこうなってんじゃねーのか? それさえなかったら俺の記憶を消しただけですんだんじゃ……」
「そういえばそうだな。私はクマに、ヒルドは人を殺したりはしないと言ったぞ」
「そ、そうだったかしら? お姉さん過去に捕われない女だから―――」

 クマの言葉が途中で途切れた。

「おい、なんかあったのか?」
「二人とも大変よ! ベルセルクの反応が出たわ!」
「なに!?」

 エイルが思わず立ち上がった。ベルセルクの反応があるということは、その近くに《神器》が存在する可能性が高いからだ。

「高貴、今すぐに向かうぞ!」
「わ、わかった。クマ、場所は?」

 エイルと同じように立ち上がり、玄関へと急ぐ二人。その頭の中にクマの声が響いてきた。

「またまた四之宮高校よ」


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