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No.35117の一覧
[0] ヴァルキリーがホームステイに来たんだけど(魔術バトルもの)[天体観測](2013/03/21 05:10)
[1] 第一章 ヴァルキリー? がやって来た[天体観測](2013/01/05 23:44)
[45] 第二章 死刑宣告を受けたヴァルキリーの友達[天体観測](2013/01/17 16:50)
[46] 悩みは多くて問題も多い[天体観測](2013/01/09 07:11)
[47] 買い物のが終わったら……[天体観測](2013/01/17 16:57)
[48] 情報収集と魔術の特訓は計画的に[天体観測](2013/01/17 17:03)
[49] 戦う理由はシンプルに[天体観測](2013/01/14 16:21)
[50] チョロイ男[天体観測](2013/01/14 16:14)
[51] 第三章 帰ってきたヴァルキリー[天体観測](2013/01/18 08:48)
[52] あ、ありのまま……[天体観測](2013/01/18 17:47)
[53] テストへの意気込み[天体観測](2013/01/26 21:23)
[54] ヒルドの意外な一面[天体観測](2013/01/22 12:09)
[55] 目標に向けて[天体観測](2013/01/25 20:36)
[56] その頃ヒルドとクマは?[天体観測](2013/01/27 05:44)
[57] 《神器》の持ち主大集合?[天体観測](2013/01/28 06:04)
[58] ジャスティス、ジャスティス、ジャスティス![天体観測](2013/02/17 06:54)
[59] 設定がメチャクチャな中二病[天体観測](2013/02/20 17:43)
[60] 中二病の本名[天体観測](2013/02/26 06:44)
[61] そして、一週間[天体観測](2013/02/26 06:46)
[62] 本音をぶちまけろ[天体観測](2013/02/26 06:49)
[63] VS漆黒[天体観測](2013/02/26 17:06)
[64] 中二病というよりは……[天体観測](2013/02/28 06:34)
[65] 理不尽な現実[天体観測](2013/03/04 00:38)
[66] [天体観測](2013/03/08 05:26)
[67] 特別でいたい[天体観測](2013/03/12 16:57)
[68] テスト結果。そしておっぱいの行方[天体観測](2013/03/16 05:21)
[69] 世界観および用語集(ネタバレ少し有りに付き、回覧注意)[天体観測](2013/03/17 05:51)
[70] 第四章 夏休みの始まり[天体観測](2013/03/21 05:11)
[71] 補習が終わって[天体観測](2013/03/24 06:39)
[72] 危険なメイド[天体観測](2013/03/30 23:34)
[73] ご招待[天体観測](2013/04/04 01:32)
[74] わけのわからない行動[天体観測](2013/04/05 23:33)
[75] 戦女神様からのお言葉[天体観測](2013/04/13 06:27)
[76] 人の気持ち[天体観測](2013/04/26 00:21)
[77] 彼女の秘密[天体観測](2013/05/04 05:30)
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[35117] 中二病というよりは……
Name: 天体観測◆9889cf2d ID:dfaff5c1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/02/28 06:34
 放たれた黒い弾丸。その数は5つ。放たれた目標は、すでに自分に襲い掛かってくる5つの弾丸を回避していたヒルドだ。
 ヒルドは回避と防御で手一杯になっているため、自分に向けられて弾丸を放たれた事に気がついていない。

「ヒルド、避けろっ!!」

 高貴が思わず叫ぶ。その叫びがヒルドに届き、ようやくヒルドは逆神の撃った弾丸に気がついた。しかし――もう遅い。

「きゃあっ!!」

 ヒルドの体に、黒い弾丸が連続して降り注ぐ。元々5つの弾丸だけで手一杯だったヒルドには、さらに増える弾丸をかわすすべはなかったのだ。
 弾丸自体はそれほど殺傷能力はない。しかも当たったと言っても鎧の上からだ。だが――

「わがよびかけにこたえてそのちからをしめせはるかなるちのそこよりきたれるしっこくのじゅばくよかのものたちのときをやめよのわあるばいんどおお!!」

 その弾丸の真価は、動きを止めることにある。ヒルドの右肩、腹部、背中、様々な箇所に《ナウシズ》のルーンが刻まれる。

「くっ……ううううう!!」

 ヒルドの足がゆっくりと曲がっていき、立っている事ができずに彼女は肩膝をついてしまう。
 動けない。まるで自分のいる位置だけ重力が何倍にもなっているような、前身を拘束されているかのようにヒルドはまったく動けなかった。
 高貴がヒルドに近づくよりも早く逆神が動いた。元々戦いの過程で、逆神は高貴よりもヒルドに近い位置にいたこともあって、、逆神がいち早くヒルドの元にたどり着く。

「動くなっ!!」

 そして、ヒルドの喉元にゲイ・ボルグを突きつけた。ヒルド表情が微かに曇っている。

「あ、あんたねぇっ!! このっ! 動けっ!」
「無駄だ。僕の《漆黒の足枷ノワールバインド》を抜け出す事はできない。鎧の上、しかも君は魔力が高いようだから、せいぜい止められる時間は30重秒と言った所だろうけど……」

 逆神の周りに、漆黒の弾丸が浮遊する。それはヒルドを取り囲むように周囲に浮き始めた。

「効果が切れたと同時に《漆黒の弾丸ノワールビット》を再び君に叩き込む。これで君はもう動けない」

 逆神が視線をヒルドから高貴に移した。高貴の目には明らかな焦りが浮かんでいる。

「ふっ、僕を甘く見たようだな。僕はこの世界でただ一人漆黒の正義に目覚めた漆黒の守護者だぞ。高速詠唱ぐらい出来て当たり前だ。お前達とは核が違うんだよ!」
「この野郎……女人質にとって上から目線かよ」
「僕はっ! 漆黒の守護者だ! お前らみたいなわけのわからない事ばかり言っている中二病とは違って、世界を救う責任がある。来るべき神々との戦いの前に負けるわけには行かない。だからこそ。だあああからこそっ! 勝たなければいけないのだああっ!!」
「テメー――」

 高貴が思わず一歩踏み出す。しかし逆神は焦る事はなく、ヒルドにゲイ・ボルグをヒルドに突きつけたまま笑うだけだった。

「動くなと言っている!」
「……くそっ!」

 一歩動いただけで、高貴の足は再び止まった。それをみた逆神はさらに満足そうに笑う。そして上機嫌に言葉を綴った。

「学のなさそうな貴様らにいい事を教えてやろう。僕が手にしている選ばれし勇者しか使う事のできない《正義の槍ジャスティスジャベリン》。ゲイ・ボルグとは、元々僕の前世、クー・フーリンが使っていた漆黒の槍だ。この槍は投げれば必ず当たるという言い伝えがあるが、それはどうしてかわかるか?」
「興味ねーよ」
「興味ないわ」
「それはなぁ! 相手の動きが止まっているからだ! 相手が動けないからかわせないんだよ!!」

 苛立ち、焦り、様々なものが高貴に襲い掛かった。逆神はゲイ・ボルグをヒルドの喉に突き刺すだけで、いつでもヒルドを殺す事ができる。高貴にはそれを防ぐ方法がわからない。というよりも出来るはずがない。
 距離は10メートル以上は離れており、たとえクラウ・ソラスを伸ばしたとしても回避されるか防がれる。何よりヒルドは動けないのだから、自分の攻撃で巻き込んでしまう恐れもある。もっとシンプルに、高貴が攻撃しようとした瞬間に、逆神がヒルドを刺すかもしれない。

「さて、この女の命が惜しかったら、僕の言う事にしたがってもらおうか。まずはその剣を捨てろ」
「月館! あたしのことはいいからこいつを倒しなさい!」

 無駄だとわかっていても、ヒルドはそう叫ばずにはいられなかった。しかし高貴は、友人を見捨てられるような人間ではない。故に、逆神に対する返答は最初から決まっている。

「……わかったよ」

 高貴が体の力を抜いた。そしてクラウ・ソラスの光の刀身も弾けて消える。
 そして、右手に持っていたクラウ・ソラスを地面に放り捨てた。からから、と乾いた音を立ててクラウ・ソラスが地面に転がる。

「くくく……友達想いじゃないか」

 逆神がゆっくりとヒルドからゲイ・ボルグを離す。しかし相変わらず《ナウシズ》の呪縛をヒルドの動きを封じており、解けた瞬間にまたもや呪縛をかけられるので、ヒルドは数条秒ごとに数センチしか動く事が出来ない。
 狙いを高貴に変えた逆神は、ゆっくりと歩きながら高貴に近づいていった。

「安心しろ。せめて――苦しませて断罪してやる!!」

 逆神が勢いよく地面を蹴った。
 ゲイ・ボルグを反対にもち、石突で高貴の腹部を勢いよく突き刺す。

「があぁっ……!!」

 鏃で突かれたわけではないので、体は貫通していない。しかし、凄まじい衝撃である事は間違いないのだ。胃の中のものが逆流すると言う言葉の意味を、高貴は身をもって理解した。

「ジャスティス! ジャスティス! ジャスティス! ジャスティス! ジャスティス! ジャスティス! ジャスティス! ジャスティス! ジャスティス! ジャスティーーーース!」

 間髪いれずに逆神がゲイ・ボルグを高貴に叩きつける。決して刃で攻撃しようとはしないで、鈍器のように扱ってひたすらに高貴を打ち続ける。

「がっ……はっ……!!」

 ゲイ・ボルグで叩かれるたびに、高貴の体の感覚が急速に失われていく。頭から流れる血が、目に入って鬱陶しい。
 やばい、これはマジでやばい。
 クラウ・ソラスが手元にはなく、そもそも拾う暇も余裕もない。反撃したらヒルドが殺される。防御しようにも素手では不可能。戦おうにも、ルーン魔術は《エイワズ》しか使うことができず、攻撃のルーンはまだ使えない。《エイワズ》で防御しても《神器》では突破されるだろうし、何よりやっぱりヒルドが危ない。
 つまり、完全に打つ手がなくなってしまった。ただこの攻撃に身を任せて、意識を必死につなぎとめるしか出来ない。

「どうだ! これが! 僕の! 力だ! 漆黒の! 漆黒の! 漆黒の! 守護者の! 真の! 力だあぁっ!!」

 もはや高貴の体は、殴られていないところがないと言っていいほど滅多打ちにされている。それでもまだ立っている自分は、もしかしたらすごい奴なのかもしれない。

「我が呼びかけに応えてその力を示せ。ムスペルヘイムの炎さえも焼き尽くす漆黒の焔よ、今こそ時空の狭間を越えてこの場に具現せよ! 《|漆黒の焔(ノワールフレイム)》!」

 逆神が満足そうに叫びながら、空中に《ケン》のルーンを黒い軌跡で描いた。右手に黒い炎が燃え始める。

「燃えろ漆黒! 轟けジャスティス! 《漆黒の焔を纏う正義の鉄拳ノワールフレイムジャスティスパンチ》!!」

 逆神の燃える右拳が、高貴の腹部に突き刺さる。熱さと痛みを感じながら、高貴の体が後方に吹き飛んだ。受身も取れずに背中から地面に叩きつけられ、ゴロゴロと地面を転がった。

「月館えぇっ!!」

 地面に横たわり意識が切れそうになった高貴だったが、聞こえてきたヒルドの叫びによってなんとか意識をつなぎとめる。なんとか立ち上がろうとしたが、体はまだそこまでいう事を聞いてくれそうにない。
 随分と近くから声がすると思ったら、ヒルドのところまで吹き飛ばされたようだ。すぐそばにいるヒルドが、心配そうに高貴を見ている。

「ははっ! 無様だなぁ悪党。僕の漆黒の正義に従っていればよかったのに、僕に逆らうからこうなるんだ」
「うる……せーんだよ。この中二病」
「僕は中二病ではない。漆黒の守護者だ。そうさ、僕は選ばれた存在だったんだ。もう前の僕とは違う。僕は変わった。試練に打ち勝った。僕は選ばれた。悪を許すな。僕は弱くない。僕は強い。僕は強い。僕は……」

 ブツブツと逆神が何かを呟いている。その目は何もみておらず、どこか虚ろな目をしている。
 一体こいつはどうしたんだ? さっさと俺にとどめをさせるのに、なぜそれをしない。まだ痛めつけたりないのか、それともなにか理由があるのか。それとも何かに気を取られているのか。
 それにさっきから何を言っている? 変わったとはどういうことだ? 変わる前のこいつはどうだったんだ?
 考えろ。とにかく何かを考えろ。どうせ体は働いてくれないんだから、思考を変わりに働かせるしかない。
 こいつはどういう存在だ? 鈴木太郎。本名はありきたりな苗字にシンプルな名前。性格は中二病、友達は出来そうにない。正義感が強い。ように見えるだけで、かつあげしてた奴らを殺そうとした。中学生、身長が小柄、体重は知らない、家族構成も不明、あとは……

「……あ」

 まて、今までのこいつの特徴を集めてまとめると、ある一つの仮説が成り立つ。根拠はなく可能性の話だ。しかも言っても意味などなく、真実ならさらに逆上させてしまうかもしれない。しかし、それでも……

「おい、中二病」

 それでも高貴は口を開いた。
 どうせ何も出来ないなら、せめて一泡吹かせて、ついでに吠え面もかかせてやる!

「お前、もしかしてイジメられてるのか?」

 瞬間――逆神の表情が一変した。虚ろになっていた目が見開かれる。そして――うろたえ始めた。

「な、なな、なにを言って」
「ああ、やっぱりそうか」

 遮る。
 逆神には口を開かせずに、高貴は言葉を続ける。

「少し考えればわかりそうな事だろ。お前みたいな狂った思考の奴が、目を付けられないはずがない。鈴木太郎って言うシンプルで逆に珍しい名前、それにお前って身長が低いからイジメのターゲットにはもってこいだ。」
「ば、バカな事を――」
「変わったとか言うのは、《神器》の力でイジメられなくなったってことか。確かに負けないだろうよ。ああ、そうかわかった。試練っていうのはイジメのことだったんだな。テメーは中二病だから、イジメを試練なんて言葉にして現実逃避してたってわけか」
「ち、ちがああああああああうっ!!」

 錯乱。発狂。言葉は続けられる。

「あれは試練だ! 僕はイジメられていたんじゃない! 自ら過酷な状況に身を置いて漆黒の守護者としての覚醒を待ったんだ! そして試練に打ち勝ったからこそこの《正義の槍ジャスティスジャベリン》を手にすることが出来たんだ! そして僕は正義になった! 逆神正義に!」
「なるほど、テメーが正義正義ウザイのは、イジメが原因か」
「黙れえええええええええええええええっ!!」

 逆神の蹴りが、高貴の腹部に刺さる。

「がふっ! ……本当の事指摘されたくらいで、うろたえてんじゃねーよガキが。ほら、漆黒はどうした? ジャスティスは?」
「こ……の……!」

 逆神の蹴りが、横たわっている高貴の腹部に突き刺さる。高貴の口から僅かに胃液が飛び出てきた。

「このっ! あんたいい加減にしなさいよ!」
「吼えろ吼えろ、ジャスティス無き者はそれくらいしか出来ない」

 逆神は心底おかしそうにヒルドをみていた。ヒルドがどれほど睨んでも、どれほど敵意を向けても、逆神はもはや勝利を確信しているのだ。

「冥土の土産だ。いい事を聞かせてやろう」

 逆神が高貴の体を踏みつけた。足でグリグリと高貴の体を踏みにじる。

「僕は素晴らしい計画を思いついたんだよ。この国は腐っている。生きている人々にジャスティスが存在していない。だからこそ、僕がジャスティスを広める事にした! そう、僕はこの国の王になる!」
「「……は?」」

 絶体絶命にもかかわらず、高貴とヒルドがポカンとした顔になる。

「まず、全てのありとあらゆる政治は僕が行い、あるとあらゆる法律は僕が作る。今現在その仕事についているものは当然クビ。美人は僕の秘書として残しておく。そして手始めにこの国の名前を《鈴木王国スズキキングダム》に変更。国家の作詞作曲は国民的シンガーソングライターに依頼。当然僕と漆黒の正義をリスペクトさせる。そして国旗は僕の写真を貼って完成。これ以上に完璧な国旗はない。罪人は投獄などしないで全て僕が断罪する。そうすれば二酸化炭素の量も減って地球温暖化も防ぐことが出来て、さらに食料問題の解決も見えてくる。そしてこの国のかかえる借金、そんなものは僕の自伝とプロマイドを全世界に売りさばけば、余裕で解決できるし、むしろ国家予算は今の百倍になるだろう。自伝は10冊限定で僕の直筆のサイン入り、これは一冊1000兆円はくだらない値段がつくはずだ。そしてプロマイドを見て僕に一目惚れした全世界の美少女と美女がそろって僕に結婚を申し出てくる。《鈴木王国スズキキングダム》では一夫多妻制。僕はその中で中古以外の女どもを妻として子を作り、僕の超有能な遺伝子と漆黒の正義を併せ持つ《太郎の子供達タロウチルドレン》を生ませ、全世界に漆黒の正義を広めさせる! 完璧だ! 完璧すぎる計画だ! ヒャヒャヒャヒャヒャアーーーーッ!!」

 狂ったように逆神は笑う。いや、すでに彼は狂っているのだろう。
 声高らかに、まるで演説でもしているかのような彼は、完全に現実を見ていない。常に妄想ゆめに浸っているのだ。
 今の逆神の言葉を聞いて、高貴は完全に理解した。こいつは中二病なのかもしれないが、それ以前に、単純に、根本的に――
 ただ、狂っている。

「ちっ……こんな奴に……」
「情けなすぎて……涙も出ないわ」
「さて、そろそろ断罪のジャスティスタイムだ」

 逆神がゲイ・ボルグを振り上げた。その先端を高貴にしっかりと向ける。

「や、やめなさい! やめて!」

 ヒルドの叫びは逆神には届かない。動く力のない高貴にはそれをかわす事ができない。
 あーあ、ここまでか。こんな奴に殺されるなんてな。もう少しやりたい事もあったし、もっと平穏に過ごしたかったなぁ。
 やっぱりあの時エイルの事なんて助けるんじゃなかった。そうすればこんな事にはなっていないのに。本当に何回後悔したかわからない。
 でもまぁ、仕方ないか。後悔できない人生なんてつまらない。ははっ、こんな事考えてるから、俺は平穏な人生を遅れなかったのかもな。
 ヒルドの奴は大丈夫かな。こいつが俺の事こんなに心配してくれるなんて意外だったけど、どうやら助けてやれそうにない。
 最後に謝っとこうかな。
 えっと、真澄、俊樹、詩織さん、あとは美月さんとついでにネコ。
 俺死にます。ごめんなさい。お供え物はカステラが良いです。
 それにエイル……あとよろしく、頑張れよ。部屋は使って良いから。
 これで……俺も……

「月館! 動きなさい! 動いてぇ!」

 振り上げられた槍が――

「漆黒の正義の名の元に貴様を断罪する……ジャーーーーーーースティーーーーーーース!!」

 降ろされた。
 高貴目に入ったのは、自分にせまりくる漆黒の槍――

「さっきからうるさいのだけど――」

 ではなく、はっきりと耳に入ってきた声だった。

「っ!?」

 高貴の喉にゲイ・ボルグが刺さる直前に、逆神は振り下ろすのをピタリと止めた。

「なんだ今の声は?」

 どうやら逆神にも聞こえたらしい。だとすると高貴の空耳ではなさそうだ。
 聞こえた感じでは少女らしき声だった。この場にいる少女はヒルドのみだが、ヒルドが発した声ではない。その証拠にヒルドもその声の主を探している。

「誰だ! 僕の漆黒の正義の邪魔をするのは!?」

 逆神が周囲を見回して叫んだ。しかし帰って来るのは静寂のみ、声はどこからも聞こえてこない。

「今……確かに声がしたよな?」
「あ、あんたも聞こえたの? でも、魔力をどこにも感じないわ」

 そう、魔力どころか人影すら見当たらない。周囲を見ても誰もいない。だとすれば、一体誰が声を出したのか?

「……空耳か。仕方ない。僕は漆黒の守護者。人々の助けを求める声が聞こえてくるのだから、こういうことがあってもおかしくない」
「本当に都合のいい耳ね。それとも頭かしら?」

 再び、声が聞こえてきた。
 魔力も気配も感じない。しかし、声は聞こえる。そして声のした方向も割り出す事ができる。高貴、ヒルド、逆神は一斉に声の方向に視線を向ける。
 しかしそこには、20メートルほど離れた場所にベンチがあるだけだった。最初に高貴が買い物袋を置いた3人掛けのベンチ。ポツンと立っている電灯に照らされているそのベンチには、当然のごとく誰も座っていない。

「……やはり――」
「だから、空耳じゃないわ」

 逆神の言葉が三度聞こえてきた声に遮られた瞬間――それは起こった。
 ベンチのある場所が、まるで蜃気楼のように揺れている。空間が歪んだかのようになってしまっている。

「な、なんだあれは!?」
「お、おい?」
「あ、あたしも知らないわよ!」

 ヒルドも混乱している。しかし今目の前で起きている現象から目を離そうとはしなかった。
 やがて空間の揺れが収まり始め、微かに人影が現れる。
 声から判断できたように、その人物は少女だ。ベンチに座っており、高貴の置いたビニール袋の隣に座っている。そして――

「……はぁ?」

 高貴がポカンとして思わず声を漏らした。その人影に見覚えがあったからだ。見覚えがあるが故に、どうして彼女がそこにいるのかがわからない。
 長い黒髪、ハードカバーのついた本を広げ、四之宮高校の制服を着ている少女。本に視線を落としていたが、かけているフレームレスの眼鏡の奥の瞳が逆神に向けられる。

「さっきからうるさいわよ。ケンカならよそでやって」

 少女が逆神を真っ直ぐに見て言った。しかし逆神は呆然としたまま動かない。急に現れた少女にたいして、どうすれば良いのか判断できずにうろたえている。
 少女の視線が今度は高貴に向けられた。

「帰ってテスト勉強でもしているのかと思ったら、こんな所でチャンバラだなんて、随分と余裕ね月館君」

 少女が――音無静音が高貴に語りかける。

「お、お前……どうして? は? なんで?」

 高貴も理解できない。なぜここに静音がいるのか。なぜいきなり現れたのかが理解できない。そんな高貴を気にも留めずに、静音は――

「そういえば、月館君にはもう一つ借りがあったわね。せっかくだから――」

 パタンと、読んでいたであろう本を閉じて――

「借りを、返しておくことにするわ」 

 静音が、立ち上がった。


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