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No.35460の一覧
[0] 雛見沢にルルーシュ・ランペルージを閉じ込めてみた[ひぐらし×コードギアス][海砂](2012/10/19 20:19)
[1] 第一話[海砂](2012/10/12 15:10)
[2] 第二話[海砂](2012/10/12 16:35)
[3] 第三話[海砂](2012/10/13 21:52)
[4] 第四話[海砂](2012/10/15 16:36)
[5] 第五話[海砂](2012/10/19 14:02)
[6] 第六話 PV数10000感謝[海砂](2012/10/25 20:42)
[7] 第七話[海砂](2012/10/31 16:48)
[8] 第八話[海砂](2012/11/14 12:54)
[9] 第九話[海砂](2012/11/25 19:42)
[10] 第十話 PV数20000感謝[海砂](2012/12/26 21:56)
[11] 第十一話[海砂](2013/01/23 16:13)
[12] 第十二話[海砂](2015/12/08 00:56)
[13] 第十三話[海砂](2015/12/08 01:01)
[14] 第十四話[海砂](2015/12/08 01:05)
[15] 第十五話[海砂](2015/12/08 01:14)
[16] 第十六話[海砂](2015/12/08 01:19)
[17] 第十七話[海砂](2015/12/08 01:21)
[18] 第十八話[海砂](2015/12/08 01:24)
[19] 第十九話[海砂](2015/12/08 01:29)
[20] 第二十話[海砂](2015/12/08 01:32)
[21] 第二十一話[海砂](2015/12/08 01:36)
[22] epilogue[海砂](2015/12/08 01:39)
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[35460] 第十五話
Name: 海砂◆ae35f1b3 ID:743be759 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/12/08 01:14
【15】

「ちょっと……鷹野が敵ってどういう意味よ?」
「分かりきったことを聞くな、お前を殺す犯人はアイツなんだよ」
 唐突に鷹野が実行犯だと断定され、梨花は驚きを隠せないようだった。
 この場できちんと説明をしてやりたいが、周りにはまだ山狗が潜んでいる可能性がある以上ここで全てを伝えるのは難しい。
「そういえば朝食がまだだったな。梨花、お前の家で何かいただくことにしよう」
「……もう、勝手に決めて。まあいいけど」
 梨花の同意の元、彼女の住まう防災倉庫へと場所を移すことにした。
 玄関口を開けると人の気配がない。当たり前か、ここでは梨花と沙都子が二人で生活していると聞いている。沙都子は今、鉄平の件で入江診療所に入院しているわけだしな。
 防災倉庫の二階に上がると、梨花はすぐに出来るからと言葉を残し、まっすぐ台所に向かって朝食の準備を始めた。
 一方、俺はその合間に診療所と同じように盗聴機の有無を確認していた。
 二人での食事を摂り終えると、梨花は堰を切るように問い質しにきた。
「それで、ルルーシュ。一体どういうわけなの? 何故鷹野が犯人だと分かったの? 番犬部隊が必要ないってどういう意味?」
「待て、順を追って説明してやる。それよりもこの家は客人にお茶も出さないのか?」
「……っ、梅昆布茶でいいかしら」
 梨花はこめかみを引くつかせながら冷静を装って言う。俺はそれに対し少しばかり横柄な態度でこう返した。
「まあそれでいいだろう」
「まったく、図々しく朝食を催促したかと思えば失礼な客人だこと」
 梨花は苛立ちながらも二人分のお茶を入れて戻ってくる。湯のみをテーブルに置くと、再び先ほどの質問をしてきた。
「で、どういうわけなのかしら?」
「まず俺のギアス能力についてだが、お前は俺の力をどんなものだと思っている?」
「そうね……最初は異性を魅了するようなギアスかと思っていたけれど、同性の富竹に使っていたようだからどうやら違うみたい。でも対象に命令を強制させるという能力で間違いはないわよね?」
「ああ、俺のギアスは絶対遵守の力。どんな人間にも拒否不可能な命令を一度だけ下すことができる」
 梅昆布茶とやらを一口啜る。む、不快ではないものの妙な味がするな。
「一度だけなの?」
 俺が梅昆布茶の味に首を傾げていると梨花が不思議そうに聞き返してくる。
「ああ、俺の能力は対象一人に付き、たった一度きり。だが、それ以外にも俺の能力が効かないケースが存在する」
「それは?」
「一つ目は物理的に無理な命令を下した場合。二つ目は使う意味のない命令を下した場合だ」
「えっと。一つ目は分かるけど、二つ目は一体どういう場合かしら?」
「例えばそうだな……今、お前は右手に湯飲みを持っている。その状況下で"右手に湯飲みを持て”とギアスで命令を出した場合どうなると思う?」
「なるほど、それが意味のない命令ね? だけどその話がさっきの私の質問に何の関係があるのよ」
「関係大有りだ。実は先ほど富竹にギアスをかけた際、同時に鷹野にもギアスをかけた」
「なんですって? だって、」
「そうだ。にも関わらず鷹野はお前の話を信じていなかったように見えた。これをどう考える?」
「どうってそりゃ……鷹野にギアスを使うのが二度目って訳じゃなさそうだし? かといって物理的に無理って訳でもないだろうし、だとしたら残すは意味のない命令だったってことになるわね。でもそれってちょっとおかしくない?」
「何もおかしくはないさ、鷹野は心の底ではお前の話を信じていた。それもお前の話が現実に起こる事象だと断定できるレベルでな。それ故にギアスは無効化されたに過ぎない」
「えーっとつまり? 鷹野は私の話を信じてたけど信じていない振りをしていたってことになるわよね? あれ?」
 首を捻る梨花。まあややこしい話だから当然の反応かもしれない。埒が明かないので仕方なしに答えを教えてやることにした。
「そんな妙な態度を取ったのは鷹野が実行犯だからだ。信じるも何も自らの起こす犯行計画だ、知らないわけがないからな」
「なるほど! だから貴方は鷹野が犯人だと確定することが出来たのね、流石ルルーシュ――――って貴方、それが分かっていてなんで番犬部隊の派遣を断ったのよ?!」
 得心がいって手をぽんと叩いたと思えば、梨花は手のひらを強く卓袱台に叩き付けた。その衝撃で湯飲みの液面が大きく揺れる。
「お前の言い分はもっともだ。だがあのまま番犬部隊が警備に来てどうなる?」
 俺はゆっくりと茶を啜りながら梨花に問う。すると彼女は興奮が収まらないまま俺の質問に答えた。
「どうなるですって?! ふざけないでっ、番犬がいれば鷹野は身動きが取れなくなって惨劇は回避される! 何も起こらないまま綿流しの祭が過ぎ去り、私は未来を掴むことができた!」
「では再び問おう、お前が望む未来とはどんなものだ。朝から晩まで警護という名の元に、監視をされ続ける不自由極まりない生活を送ることなのか」
「あ……」
 どうやら彼女も俺の言わんとしていることが理解できたようだ。梨花はようやく冷静さを取り戻し、短く声を漏らした。
「分かったな。番犬を利用して一時的な平穏を手に入れても何の解決にもならない。逃げずに戦わなければ、いずれまた命を狙われることになるんだよ」
「でも鷹野が犯人ってことは普通に考えて山狗も敵よね……?」 
「お前の気持ちも分かる。だが立ち止まっても何も進展しない。まずは信頼できる人間を集めよう」
「……そうね」
 梨花は重く頷き、それから梅昆布茶を一気に飲み干した。

 現時点で信頼できうる人間はあまり多くはない。
 ならば頼らざるを得ないな、俺たちの仲間を。
 
  ***

 やはり一番の味方と考えられるのは魅音たち部活メンバーだろう。戦力としては若干物足りないが、そのデメリットを上回る程の信頼がある。
 逆に山狗は戦闘能力こそ申し分ないが、彼らは鷹野の手駒であり信用に欠ける。山狗がシロで鷹野の単独犯という可能性もないわけではない。が、だからと言って羊の番をわざわざ狼にやらせる愚を冒せるはずもない。
 魅音とレナと沙都子の三人、そしてスザク――これだけでは駒が足りないように思う。他には味方になってくれる人間はいないだろうか?
 信頼という観点から見れば、今や俺のほうにはC.C.ぐらいしか思い当たらないが……。
「魅音たちに協力を求めるのは確定だとして、後もう少しだけ味方が欲しいところか?」
「そうね、入江なんかはどう?」
「いや、入江はよそう。確かに彼のおかげで貴重な情報を得られたのは事実だが、今回の件に関して言えば、正直あまり助けになりそうにない」
 梨花の提案に俺はゆっくりと首を横に振った。
「それに入江は嘘や隠し事が苦手そうだ。下手をするとこちらの尻尾をつかまれる恐れもあるからな」
「入江が駄目なら他に誰か心当たりは?」
「そうだな――」
 呟きながら視線を脇に流した丁度その時、梨花の家のアナログ電話がジリリと騒がしく鳴り出した。
「ちょっと待ってて」
 梨花は一言断ると今時珍しいアナログの黒電話へと向かい、その無駄にサイズの大きい受話器を掴んだ。
 相手は魅音やレナだろうか。であればこちらから連絡を取る手間が省けるのだが。そんなことを考えていると、梨花がこちらに視線を送ってきた。
「ルルーシュ、あんたによ。咲世子さんから」
「咲世子から?」
 一体何の用だろう? 怪訝に思いながらもずしりと重い受話器を受け取って返事をする。
「もしもし、ルルーシュです。どうしました?」
「ルルーシュ様? 大変です、ナナリー様が!」
「ナナリーが一体どうしたんですか?!」
 問い詰めると咲世子は酷く取り乱した様子でナナリーがいなくなったことを告げた。それを聞くなり身体中に戦慄が走る。
「少し目を離した隙にナナリー様の姿が見えなくなって、妙な手紙だけが残されていたんです! ああ、なんてこと!」
「落ち着いてください、咲世子さん。……その手紙にはなんと書かれていたんですか?」
 咲世子がショックで声を震わせたまま手紙を読み上げる。



 妹は預かった
 返して欲しければサクラダイト発掘現場のゴミ山に独りで来ること
 他言は無用



「――差出人はマオを名乗っています……」   
「マオ、だと……」
「ルルーシュ様、何か心当たりでも?」
「いや……ないですね」
 内心の動揺をひた隠して否定の言葉を口にする。
 馬鹿な……。マオは確かC.C.の放つ銃弾によって頭を打ち抜かれ絶命したはずだ。生きているわけがない。
 だがしかし、ナナリーを攫う理由がある人物はアイツだけしか思い当たらない。まさかやつもC.C.と同様に不死の身体を持ち、今も尚俺を嘲笑うかのように平然と生きているというのか?
 いや、だとしたらC.C.が何かしら言うだろう……。それともC.C.に謀られた?
 違う、それはありえない……。C.C.の言う願いをまだ俺は叶えていない。この状態で裏切ったとしても得は何もないはずだ。
 従って現時点では何者かがマオを騙っているとしか考えられない。だが一体誰が?
 鷹野はマオを知らないだろう。つまりこの件に関してはシロ。
 では俺とマオの関係を知り、俺がこの雛見沢に転校したことを聞いている人物は……?
「……そんなことはどうでもいい。今は……」
 独りごちると、咲世子に対しこの件は自分に全て任せるように言い聞かせて受話器を置いた。そして玄関に繋がる階段へと足を急がせる。
「ルルーシュ、何かあったの?」
 ただことでない雰囲気を感じ取ったのか梨花が緊迫した面持ちで訊ねてくる。
 ……他言無用と言っていたが、梨花ぐらいにはいいだろう。幸い盗聴機等の有無は確認済みだ。
「ナナリーが攫われた」
「なんですって?!」
「だから、これから犯人の指示に従って行動する」
「私も行くわ!」
「お前は来なくていい。独りで来いという犯人からの要求だ」
「でも、」
 渋る梨花を少し語気を荒くして諭す。
「馬鹿が、お前は他人の問題に構っているほど暇なのか? 違うだろ、お前はお前がすべきことをやれ」
「私がやること……?」
「朝のうちに電話でスザクを呼んでおいた、まもなく雛見沢に到着するだろう。スザクに全てを打ち明けて協力を求めろ。それから――」
 魅音たちを呼んでスザクと同様に彼女らの協力も求めるよう梨花に促して、俺は足早に防災倉庫を後にした。

  ***

 犯人の要求通りサクラダイト発掘現場に独りで赴く。
 高く詰まれた幾つものゴミ山を乗り越えて、その影に隠れた平地へと降り立つ。
 そこには案の定マオはいなかった。ただ少女が独りぽつりと俺を待っていた。
 ゴミ山にて決してその場に似つかわしくない燈色の美髪を靡かせる彼女は、果たして俺のよく知る人物だった。
 少女は俺にとってたぶん一番大切な友達であり、それ故に繋がりを絶ったはずの――――。
「シャー、リー……」
 俺は思わずかつてのクラスメートの名前を呟いた。
 一方、彼女はまっすぐと俺の目を見て徐に口を開いた。
「ルルーシュ、手紙の指示通りに一人きりで来てくれたのね」
「お前がナナリーを……。そうなのか、シャーリー……」
「うん、そうだよ」
 そう答えるシャーリーの口元は綻んでいたが、目は僅かにも笑っていなかった。
「一体どうしてこんなことを」
「自分の胸に聞いて、ルルーシュ。いえ、ゼロ」
 強い眼差しで俺をまっすぐと見据え、吐き捨てるようにシャーリーは言う。
「シャーリー……記憶が戻ったのか……?」
 動揺する俺の質問にシャーリーは答えない。彼女は肩を竦ませるだけだった。
 だがそれでも諦めることなく矢継ぎ早に言葉を紡ぎ出す。
「狙いは俺だろう、ナナリーは関係ない!」
「くすくす。関係、あるよ。だってナナちゃんは貴方の大切な妹だもの」
「ああ……認める。ナナリーは俺の大切な妹だ……。だから頼む、ナナリーを返してくれ!」
 俺の悲痛な訴えにも関わらず、シャーリーは眉一つ動かさず冷たく残酷な言葉でもって俺の背筋を凍らせる。
「残念だけど、もう遅いわ」
「な、んだと……? それはどういう意味だ!」
「……貴方には私と同じ悲しみと憎悪を味わってもらう」
「お前……まさか…………」
 そんな、ナナリーがもう既に――――されているなんて。まさかそんな、そんな馬鹿なことがあってたまるのものか……。
 言葉にならない絶望と恐怖がゆっくりと心を締め付ける。
 俺は自分の読みを否定するように、一抹の希望を紡ぐように、無意識に首を横に振る。
 だがしかし、シャーリーの無味簡素な声によって俺の希望は儚くも打ち砕かれたのだった。

「貴方はお父さんをナリタ山で生き埋めにした。だからそのお返し。貴方も……大切な人がいなくなる悲しみが少しは理解できたかな。ねぇ――――ルル?」

「シャアァァリィィィィィッッッ!!」

 気づけば俺は眼前の仇の名を叫びながら、その首へと向かって二の腕を突き出していた。

  ***


 俺の両の手がシャーリーの首へとかかり彼女は苦悶の声を上げる。苦しいという気持ちが痺れるように徐々に腕を伝い昇ってくるのが分かる。
 このまま後数十秒も締め付けていれば目の前の少女の命はあっけなく止まってしまうだろう。それだけで俺はナナリーの仇を討てた。
 そのはずなのに、俺は自然と彼女を開放していた。
 シャーリーは肺に新鮮な空気を送り込みながら息も絶え絶えに言った。
「……どうして止めるの」
 シャーリーにとってみればそれは当然の疑問。だが俺からしてみれば決してそうではなかった。
 撃って良いのは撃たれる覚悟のあるやつだけ、俺は今までそう自分に言い聞かせて生きてきたからだ。だから分かる。俺の怒りはシャーリーの怒りでもあったのだ。
 俺が誰かの大切なものを奪えば、俺も大切な何かを失ってもそれは至極当然の帰結なわけで……。
「私はナナちゃんを殺したのにどうして? 私が憎くないの」
「…………」
 憎くないかと問われれば憎い。だが母親を殺した犯人を探し出して復讐をしようとしている俺がシャーリーに対して何を言えるだろうか。
 何よりシャーリーは俺の大切な人だった。大切なものを失ってそれで今度は自らの手で大切なものを壊してしまったら、俺は自分を許すことができなくなってしまうから。
 だから俺はシャーリーを殺すことができなかった。
「分かった、自分で手を下すのが怖いんでしょう?! だから殺せないんだ!」
 シャーリーは唇を震わせてそう言い、俺の服を強引に掴む。それを振り払うこともせず、俺はされるがまま別のことに思いを馳せながら、ただ呆然と立ち尽くしていた。
 どうして俺は未だこうして生きている? 最愛の妹がいなくなったその時点で、俺の生きる目的はとうになくなってしまったというのに。
 ああ、そうか……分かった。俺の最後の役割が。
「シャーリー、お前を殺さない理由を教えてやろうか?」
「え?」
「フッ、それはな……お前が俺にとって取るに足らない存在だからだよ……ッ!
 お前の言う通り、俺の正体は日本を解放に導く偉大な革命家ゼロ! だがそれに対しお前は支配されるだけの矮小無力な女に過ぎない! 従って、殺す価値などただの一遍もないのだよ!」
「……ルルーシュ、まさか貴方は……?」
 シャーリーが俯き加減だった顔を上げる。それを見計らって、俺は高らかに嘲笑って言葉を続けた。
「くっくっく、覚えているかシャーリー? 父親が死んだ時お前は俺に泣きついたんだ。その泣きついた相手が父親を殺した張本人とも知らずにな!」
「やめて、ルルーシュ……やめてよ」
 嫌々とばかりに頭を振るシャーリーを尻目に俺は平然と踵を返す。彼女に対して無防備な背後を見せつける形で……。

「見ていて面白かったぞ。お前は俺を楽しませるための滑稽な道化だった。ありがとう、お前は本当にいい暇つぶしになったよ、あっはっはっは!」

「ルルーシュッッッ!」

 シャーリーが俺の背中目がけて飛びかかってくるのが分かる。
 そうだシャーリー、お前の憎い相手はここだ。殺せば楽になるというのなら殺せばいい。

 そしたらすべて忘れて、俺が好きだったあの頃の君に――――。

  ***

 Turn of Hinamizawa Village ―― Rika side

 ナナリーは大丈夫だろうか。
 私はルルーシュの親友スザクと電話で呼び出した仲間たちを待ちつつ物思いに耽っていた。
 ルルーシュが防災倉庫を飛び出てもう十数分経つ。
 やはり無理を言ってでも私も着いて行ったほうが良かったのではないか。何度もそんな不安にかられる。
 だが私がいてどうなるものでもないとその都度思い直し、もはや頭の中はぐちゃぐちゃに煮込んだシチュー鍋のようになっていた。
 思い悩んでいるうちにも時間が流れ、ついに玄関の呼び鈴が鳴った。
 両頬をぴしゃりと自らの掌で打ち、頭を切り替える。
 ……ルルーシュの言う通りだ。今は自分のことだけを考えろ。
 仲間たちに私の話を信じてもらい、この惨劇を終わらせる。ここが正念場なのだ。
 皆は信じてくれるだろうか? よもや冗談半分で流されないだろうか……。そんな弱気な考えを切り捨て、玄関を開ける。
 玄関の扉を開けると、そこにはスザクが立っていた。先に魅音たちが来てくれるとばかり思っていただけにぎょっとする。
「どうもこんにちわ……古手梨花ちゃんのお宅で、いいのかな?」
「はいです、貴方がスザクなのですか?」
「うん、そうだよ。よろしくね。君は梨花ちゃんで間違いないかい?」
 スザクとはこの世界では初めてだが、以前の世界では何度か綿流しの当日に会ったことがある。
 そういえば、彼に幾度か助けを求めたこともあったっけ。あれは苦い思い出だった。
 スザクは真摯に私の話を聞いてくれたけれど、結局毎回鷹野の通常業務(機密保持)によって消されてしまっていた。
 彼は強い力を持っているのは間違いない。だがそれに見合う経験が足りていなかった。
 綿流しの当日から私が死ぬまでの僅かな期間では焦りたくなる気持ちも分かるが、彼はスピードを重視するあまりやりすぎた。情報収集の際、いつも引き際を誤って命を落としていたのである。
 大変失礼な話だが、私にはそれが死にたがっているように思えたので、酷くやさぐれていた頃の私は陰で彼を死にたがりと呼んでいたことがあるぐらいだ。
 勿論、本人には内緒なのだけれど。(余談だが、ルルーシュのほうは頭でっかちの無能呼ばわりしていた。)
 そんなこともあって、以来スザクに話すのは控えていたのだけど……きっと今度こそは大丈夫だろう。
 今回の味方は彼一人ではない。今までどうしても力になってくれたことのなかったルルーシュがいる。ううん、彼だけじゃない。魅音やレナ、沙都子たちもいるのだ。
 ふと、人は助け合って強くなれると誰かが言っていたのを思い出す。
 以前の私はそれを戯れ事だと嘲っていたけれど……今回は、見誤らない。
 悲劇なんて知るもんか、惨劇なんて知るもんか。きっと今度こそ、悪魔たちの考えた脚本など打ち破り、私は私が納得いく決着を付けて見せよう。

  ***

「えっと……梨花ちゃん、だよね?」
「あっ……そうなのですよ。初めましてなのです、にぱー☆」
 スザクと会話中だったことを思い出し、慌てて言葉を返す。
「早速だけど上がらせてもらっていいかな?」
「どうぞなのです」
 スザクを防災倉庫の二階に招き、お茶の用意をする。
 入ってすぐ彼も盗聴器の有無を確認しようとしていたが、ルルーシュが既に行っていることを伝えると安心して腰を下した。
「じゃあ……真相を聞かせてもらうよ、いいね?」
「はいなのです。けど、一緒に話を聞かせたい人たちがいるので、しばらくの間待っていてもらえますですか?」
「それは信用できる人たちかい?」
「僕の友達なので心配はいらないのです」
「そっか。そういうことなら待たせてもらうけど、一つ聞いていい?」
 差し出したお茶を丁重に受け取ってスザクは訊ねてくる。
「なんなのです?」
「ルルーシュはいないのかい?」
「えっと、彼は……急用を思い出したとかで少し前に出て行ってしまったのです」
 スザクにはナナリーが攫われた事実を伝えたほうが良かっただろうか。
 少し考えて止めておくことにした。スザクには自分の話を聞いてもらわなくてはいけないのだ。ルルーシュのほうへ向かわせるわけにはいかない。
 そもそも今はどこにいるかも分からない状況だ。無駄足になる可能性が高い。ここはルルーシュを信じるしかない。
「そっか。彼は元気かな? ほら、最近は電話で連絡を取り合うぐらいだからさ」
 ……ルルーシュは大丈夫だろうか。
 大丈夫だ……大丈夫。ルルーシュなら上手くやってくれる……。
 不安を誤魔化すかのように私はスザクへと冗談交じりに言葉を返した。
「もちろん元気なのですよ。この前なんかウェディングドレスで村を練り歩いたぐらいなのです、にぱー☆」
「あはは、どういう経緯でそうなったのか知らないけど、それはきついね」
 スザクは苦笑してお茶を一口啜る。それに倣い、私も湯呑みに口を付け、彼に雛見沢でのルルーシュの生活を教える。
 部活やその罰ゲームでのこと。沙都子が叔父に連れて行かれた時助けてくれたこと。そして今も真剣に私の話を聞き、共に行動してくれていること。
 スザクが聞き上手なのもあってか、本当によく喋った気がする。
 一しきり話終えた頃、丁度良いタイミングで玄関の呼び鈴が鳴って、私とスザクは顔を見合わせ頷き合った。

  ***

 Turn of Hinamizawa Village ―― Lelouch side


 背中にトスンと軽い衝撃。
 痛みはないが刺されたのだ。そう思った。刺された時なんて案外こんなもんだろうと思っていた。
 だけどそれは違っていて、すぐにそれがシャーリーの温かい抱擁だと分かった。
「シャー、リー……どういうつもりだ」
「やめて……もう、いいから……。もう、嘘はつかなくて、いいから……」
「嘘だと? この期に及んで信じられないのか。お前の父親は俺が殺したんだよ」
「そうかもしれない、でもルルーシュは……。ルルは泣いているから」
「泣いている? 俺が? いつどこで?」
「たった今だよ。悪人を演じながら、ルルは心の中で泣いているよ……」
「イカレてるとしか言いようがないな。確かにナナリーが死んだことは悲しいが、これでゼロとして動きやすくなった。別に泣くほどのことではない」
 明らかな嘘だった。ただ最愛の妹がこの世にいないというだけで胸が張り裂けそうだった。けれど、シャーリーのためにはこう言う他なかったのだ。それがせめてもの償いとなると思ったから。
「私もルルに嘘をついた……」
「何……?」
「ナナちゃんは生きてる」
「えっ?」
 シャーリーの言葉が上手く飲み込めない。その癖妙な浮遊感が体を包む。
 ナナリーが……生きて? それって……。
「殺してなんかない! 今もちゃんとナナちゃんは生きてる!」
「それは、それは本当なのか?!」
 振り返ってシャーリーと対面する。その時初めて浮遊感の正体が喜びなんだと気づく。
「嘘をついて、ごめんなさい……」
 目の前に現れたシャーリーの頬は涙で酷く濡れており、再び俯きながら彼女は俺に呟くように謝る。
「どうしてそんなことを……?」
「最初は殺そうと思ってた。だけどその時になって思ったの。“あたし“は何がしたいんだろうって」
 そう言いつつシャーリーは涙を拭うと、それから俺の目をまっすぐと見据えた。
「ルルを殺そうと考えたこともあった。だけどそんなことをしたら何も罪のないナナちゃんが私と同じ目にあってしまう。
 だからって貴方に私と同じ苦しみを与えるためにナナちゃんを殺すことはできなくて……ごめんなさい……」
「そうか……よかった……よかった……っ……」
 気づけば俺の双眸からは涙が流れ出てきていた。

「ルル、私気づいたの。人を憎む気持ちを無くすのはとても難しいこと。けれど、だからこそ途中で誰かが止めないといけないんだって。……貴方は憎悪に支配されても結局は私を殺さなかった。だから私は貴方を許そうと思う」

「シャーリー……」

「ルル、私は貴方を許すよ。例え世界が貴方を許さなくても私が貴方を許します」

「っ……ありがとう、シャーリー……ありが、とう……っ…………」

 俺は恥も外聞もなく声を出して泣いた。
 涙は止めどなく溢れ出て、まるで涙腺が壊れてしまったようだった。
 それをシャーリーという少女は慈愛に満ちた微笑を浮かべながら背中を擦り、俺を快方してくれた。
 自分もつらいはずなのに、彼女は憎い相手を許す強さを持っていた。
 結局の所、彼女は憎しみの連鎖を断ち切ったのが俺というが、決してそうじゃなかった。他でもない彼女だったのだ。
 涙が止まらない。自分の不甲斐無さが身に沁みて嗚咽がどうしても抑えられない。

「済まなかった……済まなかった! それがあの時どうしても言えなくて!」

 もしかしたら俺は、彼女の記憶を消したその時からずっと彼女の許しが欲しかったのかもしれない。

  ***


 シャーリーの案内の元、ナナリーのいる場所へと向かうと、意外にもそこはゴミ山のすぐ近くだった。
 サクラダイト発掘のために建てられた廃墟の中で、ナナリーは特に拘束されているというわけではなかった。
 例え目が見えなくとも、逃げようと思えば易々と逃げられる。そんな状況下でナナリーはいつもの車椅子に座り、まるで待ち合わせ場所で誰かを待っている風貌だった。
 その様子を見て取り、本当にシャーリーはナナリーに危害を加える気がなかったんだなと今更ながらに思う。
 ナナリーと二三、言葉を交わした後、共に廃墟から出る。
 それからシャーリーと向かい合い、俺は彼女と別れの言葉を交わす。
「じゃあね、ルル」
「ああ、シャーリー……元気でな」
 どちらからというわけでもなく、握手を交す。
「ルルこそ元気で……。そして、もう道を誤らないで」
「ああ、約束する……。俺はもう間違わない」
 手段より追及すべきは結果。そう信じて今まで俺は歩み続けてきた。
 けれどふと後ろを振り返ると、そこにはたくさんの屍が横たわっていて。その命を無駄にしないためという大義名分を掲げ、さらに多くの命を犠牲にしてきた。
 だが俺は今日、その果てに至る未来をシャーリーに気づかされた。
 至るのは破滅。結果を追い求めすぎ、そのせいで大事なものを自ら壊してしまうというもの。
 それはただの想像なのに酷く生々しい光景で、俺はその現実感に寒気を起こす。
「スザクが言っていた。間違った方法で得た結果に意味なんてない。今ならそれが分かる」
「うん……そうだね。それに気づけたルルならきっと……」
 唐突にシャーリーが握手を交わすその手を手前に引いた。それにつられ、身体が前に引っ張られる。
 シャーリーはバランスを崩しかけた俺の身体を抱き寄せるかのように支えた。
「さようなら、ルル。またいつか」
「ああ、またいつか」
 シャーリーはすっと身を翻し、未だ抱擁の余韻も消えないうちにその場を後にする。
 もう彼女は僅かにも振り返ることはしなかった。
 彼女の後姿――風に靡いた燈色の髪が夕焼けに交じり見えなくなった頃、唐突にナナリーがくすりと微笑んだ。
「お兄様、良かったですね。シャーリーさんと仲直りできたみたいで」
 ナナリーのその言葉が引き金となってまた少し涙腺が緩む。
 少し間が空き、不思議がるナナリーに俺は微笑交じりに言葉を返した。
「ああ、そうだな……。本当に長い刻を彼女と仲違いしていた気がする。でも、だからこそ――――」

 俺はもう二度と彼女を裏切る真似はしないと誓おう。





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