―Summoner's Rift控室―
約テニスコート一面分の広い空間にはLeagueで名を馳せ、今や国民のスターと成った彼らが待機していた。
部屋の中央にある大型モニターには、今は誰もいない無人のSummoner''s Riftが映し出されている。
そのモニターの横にある各Championの電光パネル。
このパネルが点灯すると、そのChampionがPickされた事を表す。
即ち、各Championは国民を湧かせるアツい闘いのフィールドへと赴く準備をするのだ。
各々が次の闘いに向け、準備する最中、ある一つの集団が目に留まった。
「しかしBlitzさんはいつも落ち着いていますね。僕なんかいつ呼ばれるか常に緊張していますよ。そのゆとりが僕にも欲しいです」
隣りで缶コーヒーを開ける彼に話し掛けるのはMalphite。
役割は違うが同じtankとして通じる物が有るのだろう、彼等は非常に仲が良い。
「冷静さが戦場では一番重要ですからね。戦局を見誤ると高々一手で大局を失ってしまいます。wardの位置、クリアリング、dragon管理、bushgankの警戒、他にも与えられたroleですべき事は沢山有りますが、やはり一つ一つ確実にこなしていく事が大切です。適度な緊張感も必要ですが、あくまで自然体でいく事が一番望ましいですね。………もっとも、最近自分には声が掛からないですが」
「はっはっはっ、全くそうでござるな。最近暇で仕方ない」
Blitzに相槌を打ち、機嫌良さそうにしているのはShenだ。
ポケットに手を突っ込み、マッサージチェアに腰掛けながら話を聞いている。
すぐ横にある机にはファッション誌が山積みだ。
今は彼は普段着用している顔まであるツナギを外し、上下ジャージというラフな格好だ。
Malphite,BlitzCrank,Shen言わずもがなお分かりだろう。
この三人は最近のメタのBan常連のグループだ。
Shenは忍者の中で唯一Banされているからか、優越感に浸り、此処に来る前より態度が大きくなった事もあり、他の同郷の忍者達からは少し煙たがられている。
しかし、それに気付かないのも彼の慢心故か或いはただ図太いだけなのか。
そんな彼等に近づいて来る一人の男の姿があった。
「よう。元気にしてるか?」
「Alisterさん!」
ぽんっとMalphiteの肩に手を掛けたのはAlister。
尋常ではない筋肉、大きく見開かれた眼、身長2mを越える巨漢から溢れ出す闘気は猛るファラリスの雄牛を彷彿とさせる。
人は彼を見た時こう呟くだろう。
―『UNCHAIN』と。
彼もBan候補の筆頭で、豊富なCC、Healでのレーン維持力、ultでの容易なタワーダイブ、更にはjungleでも活躍出来るという驚異のスペックで確固たる地位まで登りつめた。
それは最早必然であった。
「お久しぶりです。あっAlisterさん、脚の方の怪我はもう大丈夫なんですか?」
そう言ってMalphiteはAlisterの右脚を気遣うように見る。
数日前まで巻かれていた包帯はもう無い。
「…ん、ああもう大丈夫だ。クソッ、あのガキ今度Leagueで会ったらブチ殺してやるぜ」
Leagueで起きた事はLeagueでカタを付け、外には持ち込まない。
それが此処でのルールである。
Alisterが憤慨する理由。
あのガキとはEzrealの事だ。
彼等は一週間前、leagueで敵として対峙。
botでのレーン戦において彼は、Alisterの右膝をQで集中的にハラスする。
何度も何度も同じ箇所に執着した必要以上のハラスメント。
いかに強靭とはいえ流石のAlisterも、CDの度に襲い掛かるQには耐え切れずfirstblood。
その結果右膝を損傷し痛めてしまったのだ。
しかもその試合は負けてしまった。
「…おっとすまねぇ。まぁこんな話は置いといてだ。Shenは最近彼女と上手くいってるのか?」
Alisterは自分が出していた負の空気を払拭するように話題をShenに振った。
この場合の彼女とは彼氏彼女のような関係ではなく、女性としての人称である。
「まずまずでござるな」
しかし彼はそう思っていない。
Shenの顔が少しにやけた。
「Akali殿も確かに当たりが強くなった時期が有りましたが、今考えると結婚二年目の夫婦によくある停滞期みたいなもんでござる。最近は依頼を一緒にこなすことも多くなりましたぞ」
今だマッサージチェアに腰掛けたまま、得意げに笑みを浮かべる彼はプシュっと缶ビールを開けた。
「Shenさん。あと五分で始まりますよ。今から飲んでも大丈夫ですか?」
Malphiteが心配そうに語りかける。
そしてShenがグイって一飲み。
「はっはっはっ。どうせ拙者達はBanされるにござる。そんなに心配しなくとも大丈夫ですぞMalphite殿」
あくまでも余裕。
最早Ban常連としての確信か驕りか。
そんなやり取りな最中、BlitzCrankだけは黙々といつ呼ばれても良いように準備をしていた。
アームの手入れ、電子回路の異常の有無、身体に汚れはないか、一つ一つ丁寧に確認していく。
何百とやり慣れた作業だが決して手を抜く事はしない。
寧ろ更に磨きを掛けようと努力しているようだ。
彼はOPOPと騒がれるが、本当のOPはスキルではなく、一つ一つ手を抜く事なく日々精進に励む彼の姿勢なのかもしれない。
「…あっ、始まりますよ」
Malphiteの一声で周辺にいた数人が電光パネルに目を向ける。
-1st.ban..... 【Rengar】
-2nd.ban..... 【Malphite】
電光パネルにまず二人のBanが映し出された。
「…ふー、またBanされてしまいましたね」
Malphiteのその言葉には若干の安心と落胆の両方が垣間見える。
彼はプレッシャーに弱いのだろう。
そして次のBanが発表される。
-3rd.ban..... 【Skarner】
-4th.ban..... 【Alister】
クソッ、とともに短い舌打ちが聞こえた。
Alisterだろう、彼は何よりも闘争を望んでいる。
己を高め、国民も喝采を浴びる栄光あるLeagueで戦いたくてうずうずしているのだ。
最近戦えたと思うと膝の怪我。
彼が苦虫を噛み潰したような顔になるのも無理はない。
しかし、反応を見せたのは彼だけではなかった。
広げていたファッション誌机に投げ捨て、そっと缶ビールを置く。
―Shenだ。
彼は焦っていた。
だが、冷静を装いマッサージチェアから半身乗り出すとジャージの上衣を脱ぎだした。
腐っても闘士。
まだ戦う気概は残っていた。
そして最後の5thと6thBanが発表される。
-5th.Ban..... 【Amumu】
-6th.Ban..... 【Shen】
―Shenはそっと乗り出した半身をチェアに戻し、缶ビールを片手に取った。
その時BlitzCrankに動きがあった。
―確信
奢りでもなんでもなく自分がFirstPickで選ばれるという確信。
「やりましたねBlitzさん!」
「いや、まだわかりませんよ」
隣でベンチに座るMalphiteからは祝福する聞こえる。
言葉では冷静にそう返すが、実際Blitzも内心喜んでいた。
Leagueの表舞台に立つ独特の高揚感が甦る。
そして運命の瞬間が来た。
1st.Pick..... 【BlitzCrank】
Blitzはベンチから立ち上がり喉を鳴らした。
「うん…ンン…ファイルドアップアンレディトゥサーブ」
彼は準備完了だ。
一戦士としてSummoner''s Riftへと向かう彼の後ろ姿をAlisterとMalphite、Shenは暖かく見守った。
場所は変わって少し離れたベンチに腰かける一人の男がいた。
手を合わせ祈るように微動だにしないその様子は、試合前に戦の神ヴァルキリーに祈りを捧げる戦奴の姿を思い出させる。
(お願いしますお願いします。pickされないでくださいお願いします)
内心懺悔している男はDraven。
彼は同じくLeagueに参加している兄、Dariusの弟だがその性格は真反対で彼は闘争を望まない。
平和主義であり、自分何故Leagueに参加したのか何時も自問自答をしている。
蟻一匹も殺せないような彼は本当に後悔していた。
この時間になると自分がPickされないように祈るだけだ。
確かに多額の金は貰える。
だが、ギャンブルも酒もたばこもしない。
使い道が全くなく、彼はそのほとんどを孤児院に寄付している。
それくらい善人なのだ。
(お願いします…)
-3rd.Pick..... 【Draven】
「Welcome to the League of Draven」
―様々な思惑を抱え、今日もLeagueは進行する。
彼らの戦いはまだ始まったばかりである。
PS.続く…のか?