「イン、ヤン!」
「ウギャアアアアアアッ」
抜かった。
ナナはそう心の中で自分自身に悪態を吐いた。ただ、あらかじめ子供を作っておいたイフリートを金庫に入れ直すだけ。そう思ってナナは一人で神羅屋敷へとやってきた。
目の前で不敵に笑う「二人目のナレノハテ」をにらみつけながら、倒れ付したイン&ヤンを背中にかばい、ナナはきつい視線をナレノハテへと送る。
「…貴方、随分とぶしつけですのね」
『ナナ、一度引きましょう。一人じゃ危ないわ、ナナ!』
ふつふつとナナの中に怒りがにじむ。神羅バッヂをしていたから懐いてくれた、ちょっと気持ちの悪いモンスター。だけど今、神羅バッヂをしてない私を見つけ出して、攻撃も
せず懐かしげに触れてきたモンスター。
信じられないことに、彼(彼女?)はナレノハテからナナをかばったのだ。
いまやスカビオサ・ジェノバの声すらナナには届かない。怒りで声が聞こえていない。
義には義を。不逞には不逞を…。ポケットの中から神羅バッヂをぶら下げたヒモを取り出し、首に掛ける。
「神羅バッヂをしている人物の敵対者」=「敵」と、様子をうかがっていたモンスターたちに気炎が上がる。
「わたくし、許しませんわ」
指を高らかに上げたナナが、勢いよく振り下ろす。その仕草に眉をしかめて訝しげにしたセフィロスに、赤い熱風が襲いかかった。
次の瞬間、神羅屋敷の左側の棟。金庫が置いてある部屋の窓が、紅蓮の炎によって全てはじけ飛び、その音でニブルヘイムの住人達は飛び出してきた。続けて激しく雷光が迸る神羅屋敷を、
宿屋から住人達と飛び出してきたヴィンセントと宝条が呆然と見上げ、数度屋敷とお互いを見つめ合うと、顔を真っ青にして屋敷へと走り出す。
「何が!?」
「判らん、だがあの火力はボス以外あり得ん!」
「うええっ!?何!?」
「ナナちゃん!?」
車で荷物のチェックを行っていたルクレツィアとザックス、村の出入り口で金色綿毛になっていたハニーも合流し、激しく振動する神羅屋敷のドアを開けた。
Song dedicated to you
FF7:名無しのNANA-PTメンバーは三人まで?何言ってるんすかwフルボッコっすよ?wwww
「グアアアアアアアアアッ」
「サンダガ!ファイガ!」
マニキュアのエナメルによって隠されたマテリア。市販の物よりも小さいそれは、ナナによってピンク色に塗られ、金メッキを施されたワイヤーで囲まれてゴムにくくりつけられている。
そのゴムがさらにくくっているものは、ナナの髪。頭の両脇を可愛く彩るピンク色のボンボン飾りが、エナメルの内側でこんこんと魔法の知識をナナに与えていた。
「ゲーム…いいえ、本来の貴方ならば、戦わず去っているはずだった。それはそうですわよね、だって、そんな物干し竿で狭い屋敷の中行動できませんもの」
いくら、広めの部屋だとしてもセフィロスが持っていた正宗を再現しているナレノハテには不利。ナナの言葉の通り、いくつもの刀傷が部屋の天井や壁、調度品に刻まれている。
「ウ、ルサイ」
セフィロスらしく、正宗を構えたナレノハテが顔を歪めてナナへと迫る。正宗の切っ先がナナへと届くか届かないかのその刹那、大きな振り子が正宗の上にいくつも降り注いだ。
金属が擦れ合う嫌な音が響き、互いに顔をしかめた二人が飛び退き再び距離を取る。
降り注いだ振り子はするすると天井へと持ち上げられ、その鎖を握りしめたモンスターたちが「キッヒヒヒヒ」と含み笑いを漏らす。
「グッジョブですわ、ギロフェルゴ。でもムリはしないでもう下がってくださいまし」
「ケッヒヒヒヒ」
「モンスター、ス、ら、手玉にトルか。スエオソロシイ…」
そう嘲られるも、ナナは髪を指で梳き整えて、視線を転がった調度品へ辿らせる。
「あら、せっかく協力してくれたのですから、そのお気持ちを最大限使わせて頂いただけですわ。それに…」
激しい音を立てて、ロビーの扉が開かれる。「ナナ!(ボス!)」と叫ぶ声に、振り向かずにゆっくりと瞬きをしてナレノハテへと視線を向け直した。
「とっても頼もしい仲間が来て下さったみたいですから♪」
ナナが、見惚れるような微笑みを浮かべた瞬間、その後ろから金色の羽毛玉が飛び出し、固いくちばしが一直線にナレノハテへと向う。
「グエエエエッ!!」【俺参上-!!】
「ナニ!?」
そのままくちばしで貫きに来たのかと思えば、床に蹄を立てて横へと飛びのく。そして、チッチッとハニーの尾羽を削り取りながら幾つもの銃弾がナレノハテへと
降り注いだ。
「グウウウゥッ!」
「ボス、無事か!」
「ナナ、無理はするなと言っただろう!」
サブマシンガンを構えたヴィンセントと、拳銃を構えた宝条がナナをひっつかまえて自分たちの背後へと引きずる。
「ごめんなさい、まさかここにいるとは思いませんでしたの」
「…あれ、なんかナナ。怒ってる?」
「ええ、怒ってますわ」
さらにヴィンセント達の前に立ちふさがったのは、ザックスとルクレツィア。手にはバスタードソードと三節棍が握られていた。ルクレツィアは三節棍をくるりと手の中で回すと、
ノンビリと頬に手を当ててため息を吐いた。
「あら、私とユージの良いところだけ取って出てきたみたいな顔ねえ。ねえナナ、顔以外攻撃じゃだめかしら」
「だめです、ボッコボコにしてやってくださいまし。どうせあれは貴方たちの息子ではありませんし」
「残念。判ったわ~」
「クエェェ」
グリグリと羽毛をナナに押しつけるハニーに、顔をゆるめながらもナナはじっとナレノハテを見つめている。砂利とホコリを含んだ靴底で、床をしっかりと踏み締める音と共に
ルクレツィアとザックスがナレノハテへと躍りかかる。
「「っつぇあああああああああああああッ!」」
ナレノハテの意識が二人へと向っている間に、ナナは部屋の外へとモンスターたちに連れ出されたイン&ヤンへと駆け寄った。だいぶ血が流れてしまっているようだけれども
まだ暖かさをしっかりと伝える身体に、ナナはほっとため息を吐いてイン&ヤンへとケアルガを掛けた。
「大丈夫…?イン、ヤン」
「う、うあぁ…」
ぶっきらぼうに、頭に乗せられたいびつな手。それにちょっとつぶされながらもナナは笑って答える。
「私は大丈夫。イン、ヤンも無事で良かった」
ゆっくりと立ち上がるイン&ヤンを支え、ナナは背中を押して隠し階段がある部屋の廊下へと踏み出した。
「早く地下に戻ってね、後は任せて!」
「あうぅ」
名残惜しげに、けれど怯えたように振り返りながらイン&ヤンはそそくさと隠し階段へと潜っていく。それをみて肩を下ろしたナナは、すまなそうに眉をゆがめて、ボンボン飾りに
差し込まれたスカビオサ・ジェノバに触れた。
「ごめんなさい、小母様…。つい逆上しちゃって…」
『いいのよ、ナナ。ナナの心が私にも伝わってきたもの…』
そうして、二人の意識は今四人の猛攻に押されている「ナレノハテ」へと向う。
「『さあ、本気出していきましょう』」
ナナとジェノバはそう呟き、ナナはついついと人差し指で天井に張り付いていたギロフェルゴを呼ぶ。そして降りてきたギロフェルゴの振り子にハニーが乗り、数人がかりでギロフェルゴ
たちがハニーを天井へと持ち上げていった。
「小母様っ!ザック!」
ナナは仕舞っておいたデリンジャーを両手に構え、そのまま撃ちはなった。
至近距離でナレノハテと鍔迫り合いをしていたルクレツィアとザックスは心得たように左右へと散開し、魔法弾<いかずち>が二つナレノハテの胸元へと深く沈む。
さらに散開した正面から、宝条の拳銃が脳天に、ヴィンセントのマシンガンが袈裟懸けをするように、左肩から右腰へと肉体をミンチへと変えた。
「あんま得意じゃねーんだけどなっ!」
「文句言わずに行きましょう!」
散開したルクレツィアとザックスは両手をナレノハテへと向けて、魔法を放つ。
「「ファイガ!」」
「ぐがああああああああああああああああああああああ!!!!!」
皮膚の劣化が少なく、その美貌を湛えたままだったナレノハテはナナたちの猛攻とその紅蓮の炎に焼かれ、赤い光の中でぐずぐずと崩れていく。
核である「ジェノバ細胞」を守るために、ナレノハテの身体は崩壊を続け、小さく小さくなっていった。
「……」
誰もが、炎に包まれ収縮と痙攣を繰り返す肉塊を見つめ警戒していたそのとき。天井でまだギロフェルゴの振り子の上にいたナナの耳元でめらり、と乾いた音がした。
「?」
ちりっ
飛び火したファイガの炎が、天井の梁の一部を弱火であぶり続けていた。
「…わ、ア゛―――――――――――!!!消火!消火!ハニーはナレノハテ見張ってて!」
「うわああああああああああああああ!!!」
「クエッ!クエエエエエ!!!」
大人達は一斉にブリザドで天井や壁を覆い始め、ナナは協力してくれたモンスターたちを慌てて天井から下ろし、廊下へと押し出していく。
「…クゥ」
大人組と一緒に騒いでいたハニーも、ナナに言われて渋々1人だけ(一匹だけ)で燻る肉塊を見下ろす。既に煙をか細く上げるだけになった肉塊、足をしっかりと
覆うチョコボ用靴の先で肉をつつくと、はらはらと黒こげがそげ落ちてドス紫色の掌大の内臓器官が見えた。
周囲が氷で覆われると、大人達とナナもほっとため息を吐きながら肩を下ろし、ハニーが見つめるジェノバ細胞の塊らしい「それ」に視線を向ける。
「レバー(肝臓)だな」
「そうね、どう見てもレバーね」
「どこからどう見ても見事にレバーっすね」
「…ジェノバの内臓器官に、あんな常人サイズと形のものは無かったような…?」
ナナが近寄り、まだ暖かさを残す内臓器官を手に取ろうとすると、ふわりとスカビオサ・ジェノバが声を掛けた。
『ナナ、ちょっと待って。私を一度外して、その塊に乗せてちょうだい』
「え?うん、判った」
ビーズチューブからスカビオサ・ジェノバを取り出し、そっと内臓器官の上に乗せる。瞬く間にスカビオサは枯れ果て、それに続くように肉塊は捩れ曲がり、細くなっていく。
「ほう」
宝条がどこからか小型カメラを取り出し、撮影を始める。細い捩れは薄く広がり、儚い花弁へと姿を変えていった。
「あら、可愛い」
薄桃紫色の花弁を爽やかに広げた花、それをルクレツィアが優しく拾い上げる。
「うーん…これはデイジーね」
「うん?デイジーにしては随分花弁が寂しいが…」
宝条が、拳銃を懐へ仕舞ながらルクレツィアの肩越しにデイジーを見下ろし、呟いた。
「ああ、チアガールのポンポンみたいなやつのことね?あれもデイジーよ。これは…ブルーデイジーとか、ちょっとコスモスに似た花弁の配置をしてるのよ。
それにしても、あなた花なんて覚えてたのね」
「なんだその意外そうな顔は」
「別に~?」
目を細め、意地悪く笑いながらルクレツィアはデイジー・ジェノバをナナへと預け、宝条をからかいに行こうとするも、何かを思い出したようで立ち止まりナナの
頭を軽く小突いた。
「ふゃん!」
「付いていかなかった私達も悪いけど、ナナ。心配したのよ?」
「…うん、すっごく悪いと思ってる。今度から出来るだけ一人で行動しないようにするね?…ごめんなさい!」
優しくこちらを見る五対の瞳に、ナナは深く頭を下げた。
「クエェー」
「ボス、今度は俺かザックスを必ず連れて行くように」
「おう、何かあったらちゃんと俺等連れて行けよ?」
「余り心配はかけないようにな」
「うん!」
『ん…うぅ…?』
仲間達と笑い会う中、ナナがデイジー・ジェノバをまたビーズの中に通そうとすると、微かに反応があった。どこか眠気を帯びたようなジェノバの声が響く。
『私…また変わってるのね…。綺麗な花だわ』
「それ、デイジーっていうんだって。かわいいよね。小母様」
『そうね、可愛い花。いつか、自分の手で触れてみたい…』
意識と微笑みあう二人、しかし大人組とナナとハニー達は、この神羅屋敷の惨状をどう住民に説明するかに頭がフル回転していた。
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あとがき:
( ゚д゚)えいかおんらいん。ようじょがうざくてたまらない。むらさき。ちょっとお祈りを。