第百十五話 本当は、お前にあの尼を犯させるまで待つつもりだったんだ 男性と公園で待ち合わせるなど、生まれて初めてのことではないか。 高らかに鐘を打ち鳴らすこの心臓をときめきと表現できたなら、良かったのだが。 どう好意的に表現したとしても、不安や怯えといった恐怖にも近い高鳴りであった。 それを癒してくれるのは、今いるベンチから少し離れた場所で遊ぶ子供たちだ。 きゃっきゃと甲高い声で笑っては、誰よりも神のおわす場所に相応しい笑顔を見せている。 彼らの姿に勝手に勇気づけられては、シャークティは胸元の十字架を握った。 大丈夫、今回ばかりはあの連中にも話を通したからと、今回の行動を顧みる様に。 あれもあれで結構怖かった。 ただなんでもするつもりですと言った時の、あの奇妙な視線の意味はなんだったのか。 分からないからこそ余計に恐ろしいと、シャークティはとある少女の言葉を思い出した。 小さな勇気が本当の魔法。 元は自分の口から出た言葉を思い出しては逃げ出したくなる気持ちを押さつけた。「あの……シャークティさん?」「はい」 来たと、閉じていた瞳を開いて顔を上げる。 シャークティの目の前にいたのは、何処にでもいそうな平凡的な日本人男性。 今や色々な意味で麻帆良の特殊な人々を騒がせている、女子中の教師であった。 震える足を隠してキビキビと立ち上がったシャークティは、軽く頭を下げた。「ご足労頂き申し訳ありません、乙姫先生」「はあ」 決意を秘めた眼差しのシャークティとは対照的に、むつきの表情はさえなかった。 特別親しくもない相手、それこそ若い女性に突如として呼び出されればそれはそうだろう。「どうぞ、お座りください。今回、謝罪させて頂きたいことがあります」「謝罪、春日がなにか?」「美空?」 何故そこで春日が出てくると、むつきの伺うような顔に思わず肩の力が抜けた。 この人もこれであの春日の悪戯に手を焼いているのだという親近感であった。 それを覚えると、なおさら何故そんな相手にあんなことをしてしまったのかと罪悪感が膨れ上がる。 だがそれを抱くだけでは意味がないのだと、ベンチの隣に座って来たむつきに振り向いた。 相変わらずむつきは、何故俺はここにという顔をしている。「謝罪するのは、私です。先日の懺悔の件、アレを聞いていたのは神父様ではありません。私なんです」「え? ん?」「迷える子羊よ、主を前にその胸のうちを告白しなさい」 混乱するむつきの目の前で、変声の魔法で神父の声を再現して見せた。「特技なんです、声真似」 もちろん、魔法を明かすつもりなどなく、少しばかり苦しいがそう語調を強めて言った。 あまりにも違い過ぎる声質にむつきがはしゃいだ様にリクエストする。「うわっ、全然違う。すげ、もう一回。性別さえ超えてる!」「迷える子羊よ、主を前にその胸のうちを告白しなさい」「マジで神父、あれ……俺本当の神父様に会ったことあったっけ? あれがシャークティさんで、お? あっ……」 そこでようやく脳内で情報が整理され始めたのか、むつきのはしゃぎようが収まっていく。 むしろそのはしゃぎようは、現実逃避の一種だったのかもしれない。 なにせむつきは、神父の声真似をしていたシャークティを相手に懺悔していたということだ。 理解するにつれ、だらだらと汗が吹き出し始め、顔色が悪くなっていく。 それもそのはずで、むつきは神父が相手だと思って色々と思いのたけをぶちまけたのである。 それこそ、懺悔の直前に出会ったシャークティに対してどういう感情をいだいたのかさえ。 思わずベンチからお尻を話して、逃走体勢になろうとして誰が責められようか。「俺、ちょっと用事を」「いえ、責めるのはむしろ私の方です。乙姫先生の御病気、それもまた私のせいなのです」 むつきが逃げ出そうとしたからこそ、慌てる様に咄嗟にシャークティは本題を切り出せていた。 口にしてから自分が驚くぐらいにあっさりと。「私の勝手な判断で、乙姫先生にとあるお香を使ってしまったのです。性欲が激しく減衰するお香です。時に性犯罪者相手に使われるもので、本来は一晩で効果が切れるはずでした!」 早口でまくしたてながら、それでも魔法の二文字だけは隠しながら。「謝って済む問題ではないことは承知しています。しかし、謝罪しなければ私はそこから一歩も動けません。勝手な押し付けを続けて、申し訳ないと思っています」「あの、シャークティさん?」「はい、なんなりとお申し付けください。それでお気がすむなら、なんでもいたします」「じゃあ、帰っても良いですか?」 今度はシャークティが、目が点になる番であった。「え?」「いや、だから帰って良いですかって。水泳部の部活開始前に、抜け出してきたようなもので」「あの、なんでもするのですが。こう、ありませんか?」「当時はショックでしたけど、恋人とは絆が深まりましたし。まだ役立たずですけど、それなりに回復には向かってますから。まあ、二度としないでくださいねとしか」 理解ができないというように、眉間に集めた皺を摘まむ様にしてシャークティは考え込んだ。 それほど時間はかからず、穏やかに笑っているむつきを見る。 いや、まさかと思いつつも、自分の偏見にまみれた瞳こそ信じられない様に聞いた。「もしや、乙姫先生はかなりの善人ですか?」「悪人でこそないですが、自信はないですけど。それに、シャークティさんこそ、女性が口にするなんでもするという言葉の意味をわかってますか?」「あんなことをしでかした手前、嘘にしか聞こえないかもしれませんが。神に誓い、嘘はつきません」 十字架を手に、真面目な顔で言い切ったシャークティを前に、むつきは苦笑いである。「じゃあ、ここでパンツ脱いで僕に渡してください」「わかりま、え? もう一度、すみません良く聞こえず」「ここでパンツ脱いで僕に渡してくださいと言ったんです。男になんでもするって言わない方が良いですよ。ほら、無理でしょう?」「そんなこと」 無理に決まっていると、思わずむつきを睨もうとしたシャークティの耳にそれは聞こえた。(ほう、また嘘をつくのか) ビクリとその声に体を振るわせたシャークティは、辺りを見渡し始める。 明らかに冗談の類とわかるように困ったように、むつきは笑っていた。 そこでようやくシャークティも、自身をいさめる為の言葉だと分かったが探し人は違う。 恐らくはシャークティだけに聞こえたそれは、背筋も凍るような冷たい声だった。 本当に、むつきのような極々一般的な普通の男性と付き合っているのが不思議な位の相手。 闇の福音とおよそすべての魔法使いから怖れられている吸血鬼の少女の声、テレパシーだ。 改めて周囲を見渡しても隣にいるむつきの他には、少し離れた場所で遊んでいる五、六人の子供ぐらい。 その姿は何処にも見られない、しかし声は続いた。(貴様は、何処までいっても薄っぺらい。謝罪したいと申し出たのは、貴様だ。そして悪と呼ばれる私が、慈悲深くもそれを許可した。なのに、なんだその体たらくは?)(ですが、彼は私をいさめる為に少し大げさに言っただけで本心から)(また勝手な想像で、そう決めつける。だいたい、貴様の覚悟はその程度だったのか? なんでもすると言えば許される、そう期待していただけではないのか?) グサグサと突き刺さる言葉に、シャークティはちらりと横目でむつきを見た。 エヴァがどう言いつくろうと、むつきは困った挙句にシャークティを思いとどまらせようと言ったようにしか見えない。 しかし仮にそうだとして、それに甘えるだけで良いのか。 本心から謝罪したいのであれば、どんな無理難題でもしてみせるのが誠意というものではないか。 いやしかし限度がと、良く分からなくなって来た。「シャークティさん?」「あっ、はい。あの……」 こうしてむつきは待っている、早く決断しなければとシャークティは焦っていた。 決断するもなにも、常識をもってすれば何が正解か分かるはずであるのに。(これで分かっただろう。自分がどれだけ、上っ面だけの薄っぺらい存在か。口だけの女はすっこんでいろ。私とむつきの、貴い愛の間に割り込んでくるな。目障りだ、失せろ!)(私は、本気で。小さな勇気こそ本当の……) 完全にエヴァに手玉に取られた状態のシャークティは、ムキになったように決断した。 未だ隣で戸惑っているむつきの前で、ほんの少しだけ腰を浮かしてスカートの中に両手をいれる。 さすがに肌と下着の間に指を差し込んだ時は、その動きがわずかながらに止まってしまったが。 今一度、小さな勇気こそと完全に間違った使い方をしながら、ずるりと一気に太ももまで下着を下げた。 一旦踏ん切りをつけてしまえば、意外と行動はスムーズだった。 暴走機関車が、温まったエンジンを急には冷やせない様にいっきに駆け抜けていく。 太ももから膝、紐のように緩んだ下着が落ちる。 足首にまで来たそれから靴を履いたまま足を抜いたところで、シャークティは気付いた。 そう言えば、今日はTバックだったと。「ちょっ、シャークティさん?!」「私は神に誓いました。二言はありません。これで、お判りいただけましたか?!」 脱ぎたてのそれを隣にいたむつきに押し付け握らせると、スカートを押さえる様に膝に両手を置いた。 一方のむつきは、当たり前だが呼び出された時以上に大混乱だった。 顔見知り程度でしかないシャークティの下着が、本人が隣にいるのに今手の中にある。 布地の面積はとても少ないが、確かな女性の温かみがまだ残っていた。 思わずTバックという名が示す通りその形に広げてみたくなったが、慌てて後ろに隠した。 そして誰にも見られていないなと、挙動不審気味に周囲を見渡していった。 当初シャークティがそうしたように、やっぱり公園内には数人の子供ぐらいしかいない。 夕方と言っても中途半端な時間であり、大人は会社で学生も部活か、そうでなければ帰宅後だ。 他に誰も二人を咎める者がいないと気づき、ほんの少しだけむつきの欲望が解放された。「ほ、本当に……なんでも、でしょうか?」「二言はありません」 シャークティの変わらなかった答えに、むつきはごくりの生唾を飲み込んだ。 自分が不能になってはいても、女性のなんでもするという言葉には魔力がある。 むつきにはなんでもしてあげるという恋人が何人もいた。 しかし、今は状況が違った。 殆ど見ず知らずの、恋人という甘い存在ではない相手がそう言ってくれているのだ。 なんでもすると言われても常識的に抵抗感がある、なのに股間がやけにうずく。「そのヴェール、みたいなの脱いでくれ。シャークティの顔をもっと良く見たい」「はい、乙姫先生」 だからそのうずきに促されるまま、戸惑いも薄れて自然とそう命令していた。 シャークティもまた、言われるままにしなければと思い込んで実際そう行動してくれる。 最初にパンツを脱いだことで、次の命令が軽かったこともあるだろう。 また一つ命令を言われるままに聞いて、彼女はまた一つそうするべきだと思い込んでいく。 いや、むしろ自分から率先してと逆にむつきに尋ねる程だ。「次は、どうしたら良いでしょうか?」 ヴェールを脱いで、アタナシアとはある意味真逆の銀色の髪を風にそよがせながらシャークティがうかがってきた。「僕の方に少し寄って」「こう、ですか? あっ」 座り直して距離が近づいたのを良い事に、抱き寄せてみたかったシャークティの腰を引き寄せた。 それからむつきは、ほらここにと抱き寄せた手に持っていたシャークティのパンツをひらつかせる。 抱き寄せた時以上に、こちらの方に驚いていたようだ。 彼女がその存在に気づいたことを確認すると、むつきは指で弾く様に放り投げた。 殆ど紐の様なそれは、二人が座るベンチの目の前に風に巻かれながら落ちていった。「動かないで」 当たり前だが、自分の下着が目の前に落とされてシャークティは思わず拾おうと腰を上げかけた。 それを引き留める様に、むつきはがっちりとシャークティの腰を抱いて動かせさせない。「でも、私の」 そよ風ひとつで微動するそれは、少し強い風できっと飛んで行ってしまう。 だからこそ慌てるシャークティを見下ろして、むつきは楽しんでいた。 ますます強くなっていく股間の疼きを自分でも理解し、膨らみ始めていることにも気づきながら。 今のむつきは、解放されていた。 一度不能になったことで、なんとしても立たせなければという思いからである。 可愛い嫁が頑張ってと可愛くいやらしく振舞うたびに、応えなければとプレッシャーがかかっていた。 しかし、今は言ってしまえば別に立たなくても良い。 それこそこのまま帰ってしまっても良いぐらいに、相手を気遣う必要がなかった。 悪いのはシャークティだ、謝罪したいと言ったのもシャークティだ。 どうふるまおうとそれは、むつきの自由である。 立たなくても良い状況だからこそ、逆に股間が疼くというのも悪い冗談過ぎたかもしれない。「シャークティ、もしこの下着があそこで遊ぶ子供たちの方に飛んで行ったら面白くないですか?」 にこやかなむつきのセリフに、シャークティがまた腰を浮かせて拾い上げようとしていた。 もちろん、それを許すむつきではない。 むしろむつきはそんなシャークティの抵抗を面白がっていた。「こ、困ります。お願いします、下着を……拾わせてください」 震える声でお願いしてきたシャークティを前に、むつきは普段の優しさの欠片も見せずただ笑う。 むつきが解放されているのには、もう一つ理由があった。 普段、可愛い嫁を虐めることはあっても、それは甘い恋人としてだ。 相手が本気で嫌がることはしない、というか嫌われる可能性がわずかでもあればできるわけがない。 しかし、恋人でも友達ですらないシャークティが困っても、心が痛まなかった。 彼女が悪いという免罪符のおかげで、彼女がどんな状況になっても構わないのである。 だからどんな無茶でも笑ってできる、ある意味でどんな我がままでも言えてしまうのだ。「んー、どうしようかな。あっ」 懇願する彼女を前に、悩んでいる間にそのちょっと冷たい秋風が強めに吹いた。「だめっ!」 特別な何かが込められた風だというのに、感知できるはずのシャークティは気付く余裕もなかった。 秋風に乗って黒い彼女のTバックはさらわれていく。 むつきがそう望んだ通り、小学校の低学年ぐらいの少年たちの下へとである。 サッカーボールで遊んでいた少年たちは、知識こそないがそれを異物であるとは認識していた。「なんだこれ? 紐?」 一人の少年が好奇心に引かれてそれを拾い上げては、目の前で広げた。 やはりそれが大人の女性の少し特殊な下着だとは認識できなかったようだ。「小さくても、男ですかね。ほら、他の子も集まって来ましたよ」「だめ、早く捨てて」 まさに神に祈る様に十字架を手にシャークティが祈るが、それは叶わなかった。「これパンツっぽくねえ、うわばっちい」「んなわけあるか。こんなの、うんこつくぞ」「うんこ、うんこ」 げらげらと笑い合う少年たちは、未だその貴重な物品の真価を知らない。「おー、なんか伸びねえこれ。ゴムか?」「おい引っ張るなよ、俺が拾ったんだぞ!」「本当だ、伸びる。引っ張れ、引っ張れ!」「止めろよ!」 子供は本当に何でも玩具にする、それこそ女性の下着でさえ。 拾った少年は嫌がっていたが、集まって来た子達がシャークティの下着を引っ張りまわす。 子供とはいえ、子供だからこそ全力で引っ張りまわされたそれは原型をとどめない程に伸びていく。 最初に拾った少年もいっそ自分の手で、その奇妙な綱引きに参加していった。「ああ、あんな純粋な子供たちが私の下着で……」「将来、彼らが大人になったら笑いながら話すんでしょうね。あの時のってTバックじゃなかったかって」「お願い、許して……もう、許して。神の国に相応しい子供たちが私のせいで」「また罪が増えちゃったか。償わないと、いけませんよね?」 どんな顔をして良いのか、両手で顔を覆ったシャークティへとむつきは追い込むように言った。 股の間に疼く気持ちに素直に。 いや、もはやごまかすような表現は不要な程に、むつきの股間は勃起していた。 ベンチに座っていてもごまかせない程に、ここから出せといきり立っている。 今や精神的に弱りきったシャークティを、シスターという穢れなき女性を犯させろと。 シャークティも顔を隠しながら、指の隙間からそれを見ていた。 見ていたのに、逃げ出すそぶりさえ見せなかった。 だから返ってむつきには、彼女が罰を与えてくれる存在を待っている様にも見えた。「俺が罰を与えてやる」「乙姫先生が私に……罰を、与えて、ください。罰を私に」 シャークティには、もう殆ど理性らしい理性は残ってはいなかった。 ただただ言われるままに、むしろ率先してむつきの言葉を受けるべきものだと受け取っていた。 そしてむつきらしい罰を口にしようとした時である。 極度に興奮してのぼせ上ったむつきを、後ろから抱きしめる者が現れた。 突然の行為にも思わず振り払わないぐらいに、親しみ慣れた温もりと匂い。「むつき、楽しそうな事をしているではないか、ん?」「アタ、うわ。待って、立つな。立ってない、立ってないから!」 いつの間にか完全に勃起していた股間に気づき、むつきが両手で隠そうとするが隠し切れるはずもない。 むしろ今ここで立つなと普段と逆のことを考える度に、返ってそれは硬度を増していく。 本当に気持ちとは裏腹に、普段立ってくれと苦しむ度に立ってくれない様に。 まるでそれを狙っていたかのように、妖しく笑ったアタナシアがその長く白い腕と指先を伸ばした。 むつきが隠そうとした両手を優しく除き、テントを張るスーツのズボンを指でなぞった。 ツンと触れられるとビクンと震え、小さくなってはいかない。 もう大丈夫だと、アタナシアは感極まったようにむつきの頬にキスをして微笑み抱えた。「むつき、興奮冷めやらぬ間に。ホテルにしけこむ時間も惜しい、そこの茂みでな?」「アタナシア、引っ張らないでくれ」 どうやらアタナシアが怒っていないことは分かったが、むつきはまだ少しついていけていない。 強引に腕を引っ張ってくるアタナシアに連れられ、ベンチ裏の垣根と茂みの中へと連れられていく。 少々我に返ったまま、ぽかんとしているシャークティを置いたまま。 時折スーツを枝に引っ張られながら踏み込んだ茂みは、公園の雑木林に続く獣道であった。 子供たちが遊ぶ場所からはもちろん、公園外の道路からも遮断された場所である。 視界は木々のおかげで不良であり、さらに茂みの中とあれば大声を上げない限りは大丈夫だろう。 この時を待っていたとばかりにアタナシアが、むつきを適当な木の幹に背中から押し付けた。 まるで男女逆の形で、強引に関係を迫る様に。「本当は、お前にあの尼を犯させるまで待つつもりだったんだ」「おいおい」「当然だ、あの糞尼は私たちの大事なむつきにそれだけのことをしたのだ」 まだまだ硬さを失わないそれをズボンの腕から撫でつけながら、アタナシアは興奮気味に言った。「けど、悔しくなって耐えられなかった。私たちがしてあげられなかったことを、あの糞尼にされるのが。嫉妬したんだ、この私が。馬鹿、お前は私たちのものだ!」「うん、ごめんね浮気して。シャークティさんも」「え?」 馬鹿と言いながら胸を叩いて来るアタナシアを抱き返しながら、むつきは振り返った。 来いと言われたわけでもないのに、少しだけ木に隠れるようにしてついてきたシャークティにだ。「もう、大丈夫ですから。気にしないで、今回のことはお互いに気の迷いだったってことで。俺はアタナシアと付き合ってますから、続きはアタナシアとします」「ふふん、貴様はもう用済みだ」「アタナシア、俺もう我慢できない。入りたい、アタナシアの中に」「何日焦らされたと思っている、こちらは何時でも受け入れる準備はできている。ほら」 シックな黒いカジュアルドレスのスカートを、アタナシアは裾を両手で摘まんで持ち上げた。 他に男の視線がないからと、スカートの奥に見えたのは涎まみれの口だった。 アタナシアが言った通り、何日もお預けされ飢餓状態である。 むつきのお肉が食べたいと金色のヘアもしなるほどにだらだらと愛液が流れ落ちていた。 下着は既に脱いでいたのか肌もあらわで、愛液はそのまま太ももを伝っては黒のニーソを濡らしている。「アタナシア、おいで」「はやく、はやくいれて。欲しいの」 ベルトを外し、ズボンを下ろしながらむつきが手を差し出した。 飛びつく様にその手を取ったアタナシアが、外気にさらされそそり立つ一物を跨いだ。 むつきもまた勃起した一物の先から涎を垂らしており、二人の涎が絡み合う。 アタナシアの太ももに挟まれ、入り口は何処だと愛液にまみれながら穴を探す様に暴れた。「熱い、硬い。前戯は不要だ、はやく」「アタナシア」「き、来たァ!」 お互いに向かい合い、むつきがアタナシアの片足を持ち上げながら亀頭探りで挿入していった。 より溢れる愛液の海を泳いで、待ち焦がれていたアタナシアの割れ目の奥、膣口を抉り忍び込む。 勃起不全の後遺症を感じさせない力強さに、入り口を広げられただけでアタナシアが歓喜の声をあげた。 男らしさを感じる強引さで女の証を広げられ、体内に熱く硬い一物が押し込まれていく。 他の肩書きが一切いらない男と女、ただそれだけになる二人を見つめるギャラリーが一人。 しかも処女であることを信条にしたシスターの目の前での行為である。 これがと口元をおさえ、目を見開いて驚愕する彼女の前でむつきはアタナシアをより奥まで抉った。 抱きしめたアタナシアの腰を落とし、逆に背伸びするように自分の腰は上げた。 肉ひだをかき分け数日ぶりの奥へ、根元まで全て飲み込ませ仕上げに最奥のやや硬めの膣口を突く。 ゴンっとアタナシアの体が震える程に、ここに欲しいんだろと体に聞く様にだ。「奥ぅっ、しゅごい。何時もより、深い。むつき、ごりごりして!」「しっかり掴まってろ」「しゅき、だいしゅき!」 焦らされ、待たされ過ぎたせいか普段の妖艶で大人の雰囲気がみじんもない。 恥も外聞もないように、むつきの首に腕を回し両足はむつきの腰をガッチリホールドしていた。 むつきもそれに応える様にアタナシアの悦びに震える尻を支え、駅弁の格好で腰を回していった。 リクエスト通り、亀頭で膣口を突いてはこすりつけてアタナシアを刺激する。「凄い、アタナシアのこんな……絞り上げてくる。そんなにしたかったのか、俺の子供が欲しかったのか。俺もだ、孕ませるぞ。お腹が破れるまで、注いでやるからな!」「注いで、私に注いでくれむつき。欲しいの、むつきの赤ちゃん欲しいの! 孕ませて!」 もっともっとと互いにより多く求める様に、アタナシアを抉りながらむつきは膝をついた。 少し湿った感じも受ける芝の上にアタナシアを下ろしながら、突く、とにかく突く。 本気の男女の辛みを前に、シャークティは立っていることさえできないでいた。 まるでベンチでのむつきとのやり取りが児戯に思えるぐらいに、打ちのめされてもいる。 謝罪と欲求の押し付け合いではなく、本当に互いを想い二人の愛の証を欲しがる様子にだ。 生まれて初めてみる生々しいセックス、しかし彼女が抱いていた独善的なモノを一切感じない。 アタナシアことエヴァが言ったように、セックスにふけりながらも二人は気遣いを忘れていなかった。「そこ、もっとグリグリして。そこが、良いの!」「ここか、アタナシア」「そこだぁ、むつきも私で気持ち良くなってくれ」「気持ち良いよ、このまま朝まで抱いてたいぐらいに!」 狂乱の声を上げるアタナシアの言葉を逃さず、逐一むつきは答えて見えていた。 しかしアタナシアも一方的に欲求を伝えるだけでなく、不安定な体勢ながら腰を使っている。 快楽にふけりながらも、共同作業という言葉が似合うぐらいに気遣いを忘れてはいなかった。「これがセックス……あっ」 自らの太ももに伝わる粘性のある液体に気づいたシャークティが小さく声をあげていた。 本当に小さく、二人の行為を邪魔しない様に。 されどこの場から立ち去る気配も見せずに、彼女はむしろ見入っていた。「アタナシア、そろそろ出る」「何時でも、私の中に。光栄に思え、こんなこと……お前だけなんだぞ」「ああ、俺だけのアタナシア。出すぞ、俺の子供を孕め」「孕みたい、出して奥に!」 シャークティが見守る中、快楽の絶頂を迎えようと二人の腰使いはより荒く激しくなっていった。 声以上に他の誰かにみつかってしまうのではと不安になるぐらいに。 肉同士がぶつかり愛液が弾け飛び、パンパンと公園の雑木林の中に響いていく。 そのリズムがまた早くなり、連続した音から一つの大きな音のようにまで聞こえた時であった。「う、出る!」「ぁっ、お腹の奥。出てる、むつきの精液。熱いのがぁ!」 むつきに抱えられていたアタナシアがのけぞる様に上を見上げ歓喜の声をあげた。 両翼のように広げられ伸ばされた足も、何か特定のリズムでビクンビクンと震えている。 そんなアタナシアの胸に顔を埋め、きつく抱きしめていたむつきが震えるリズムと同一だった。 しばし長い絶頂に打ち震えていた後に、むつきがよろりとよろめいた。 背後にあった木に背を預けては、ずるずると尻もちをつく様に体を落としていく。 当然、抱え込んだアタナシアを落とさない様に、彼女を地面に触れさせない様に注意しながら。「ふふ、別に泥ぐらい良いのに……一杯、出たな」「アタナシアを泥に触れさせるぐらいなら、俺が寝そべって踏み場になってやる」「なら、私は泥だらけのお前を、この肉体で洗ってやろう」 こんな風にと、アタナシアが腰を動かすとぶしゅりと彼女の股から精液と愛液の混じった液体が流れ出す。 勿体ないと彼女が膣を締めると、極自然とむつきの残り汁がまた彼女の中に流し込まれていった。「ちゅう、したい」「可愛い、何度でも」 再び体内に流し込まれた精液を感じ、心に染みたのか上目づかいでアタナシアがそんなことを言いだした。 当然、むつきが断るわけもなく久方ぶりのセックスの余韻を楽しむ様に口づけあった。 完全に二人の世界に入ったむつきとアタナシアを前に、観客はまだ見えていた。 これが愛なのだと、男と女が思い合っては自然とふける行為なのだと。 やはり今になっても頭でしか分かっていないと、シャークティは自覚すると同時にこうも思った。「私は……こんな風に男性に想われたことも、想ったこともない」 処女であるべきと、アプローチを全て断って来たとはいえ胸に風穴があいたようにも思えた。「寂しい、私は」 こんな風に誰かに全力で愛されてみたいと、その瞳はむつきへとむいていた。 -後書き-ども(略当初、シャークティを教会で犯すなど色々考えたのですが。嫁で駄目で、何でもない人で立つ状況が想像できませんでした。こう、なにしても良い状況でもむつきの場合は変なところでブレーキかかりそうで。結局、嫉妬したエヴァに出てきて貰いました。なんか、中途半端になちゃいました。