第十二話 いいよ、先生。一杯泣いて たった一人でのプール掃除が終わり水を入れ終えた時刻は、午前三時を回っていた。 手伝おうかと言う先生方も数人いたのだが、理由が理由なだけに断ってしまったのだ。 それから軽く仮眠をとって始発で教師の寮に、新しいスーツに着替えてまたとんぼ返りである。 即座に麻帆良女子中の大会議室に他の教師と集ったが、むつきは部屋の前に並ばされた。 ある意味張本人であるので、学園長もいる前で改めて事件の詳細を説明させられたのだ。 麻帆良女子中の全教師というだけで百人以上、その視線を一身に浴びて視線が泳ぐ泳ぐ。 多少しどろもどろだが、出来るだけ詳しく述べた後に、ようやく視線から解放される。 それから責任の追及が行なわれた。 大河内の校則違反もあるが、責任とは大人がとるべきでこの場合は水泳部の顧問であった。 どうも監督不行き届きは、以前から何度もあったようで謹慎処分。 割と軽めなのは、大河内が検査結果も良好であった為で、何かあったら懲戒もありえた。「それから、顧問が謹慎という事もある。しばらく、水泳部は活動禁止という事になるかのう。大会も近く、可哀想じゃが」 そう学園長が締めくくろうとしたところで、むつきが手を挙げた。 再び集った視線に、ちょっと吐きそうになる。 その上、学園長の決定を遮るなど畏れ多いが、大河内の為には仕方がない。「どうかしたのかね、乙姫君。それと、今日は残業せずに早めに上がりたまえ。顔色が悪いようじゃぞ。何も一人でプールを掃除せんでも」「無理をいったのは僕ですから。それより水泳部の活動禁止、どうにかなりませんか?」 あいまいなむつきの発言に、学園長が意味を謀りかねたように眉根をひそめている。 ただそれは学園長に留まらず、しゃがれた声の男性教諭の発言が大会議室に響いた。「どうにかと言ってもね。教師は兎も角、その生徒も校則違反をしたわけだ。罰は与えんと他の生徒に示しがつかんだろう。ねえ、学園長」 正直、先生の数が多すぎて発言した年配の方が誰なのか分からなかった。 妙にねちっこい声で、生徒を下に見た感じもしたが、正論だ。 顧問の監督不行き届きもあるが、そもそもの発端は大河内自身の校則違反である。 ズキズキと妙に痛む頭で上手い言葉が出てこず、唇を噛み締めるので精一杯であった。 大河内の事だ、活動禁止となったら絶対に凄く気にするだろう。 私のせいでと水泳部をやめようとさえするかもしれない。 何か言わないと、このままじゃと焦る気持ちに反して何一つ言葉を続けられなかった。 自分の無力感に打ちひしがれ、唇を噛み締めるのが精一杯なのが情けない。「ううむ、小金君の言う通り。大河内君には可哀想だが」「学園長、発言をしてもよろしいでしょうか」 その時に助け舟を足すように手を挙げてくれたのは、新田であった。「違反者に対する罰則は必要でしょう。ですが、同時に示しなどと大人の事情は生徒には無関係です。それに大河内君は既に十分過ぎる程に罰を受けています」「確かに、相当に怖い思いをしたようだしのう」「一番必要なのは、生徒が危険を自覚をする事です。罰に脅える事ではありません。その自覚の為に、同世代の実体験者の言葉は教師の言葉よりも響きます。もちろん、厳重な注意は大河内君に対しても必要ですが」 新田の言葉に学園長がううむと唸り、今しかないと声を大きく勢いで押し切れと頭をさげた。「あの、顧問不在の代わりは僕が勤めます。だから、お願いします。水泳部の活動禁止は見送ってください。大河内にも、厳重に注意します!」 むつきに続き新田まで頭をさげての言葉に、良くも悪くも人情家の学園長の心が動いた。 他の先生方の意見は、少し耳を傾けると半々なのだが。 麻帆良の学園教師間はある意味で、独裁社会である。 学園長が黒と言えば黒、白と言えば白、こんな時ばかりは利用するしかない。「うむ、分かった」「学園長!」 了承の言葉に小金と呼ばれた先生が異論を唱えようとするが聞き入れられるはずもない。 既に学園長自身がこれを白と決断を下したのだ。「大河内君には復帰後、新田君から厳重注意。水泳部は、乙姫君が顧問を勤める事で活動を許可しよう。ただし、二度目はないと思って欲しい」「ありがとうございます!」 最後に学園長から他の部でも、最近顧問の監視の目が緩いのではと全体の引き締めがあった。 それから緊急会議は終了となり、ぞろぞろと先生方は職員室へと戻り出す。 他に先生方がいなくなってから、改めてむつきは新田へと頭をさげた。「助け舟、ありがとうございます。新田先生、どうにか水泳部の活動は禁止にならずに済みました」「うむ、まだ礼を言うのは早いと思うがね。学園長が言った通り、二度目はない。それだけ君に重い責任が課せられたのだ。それを自覚して頑張ると良い」 いつもの様に肩を二度程叩いてから、新田はニヤリと笑って乙姫とすれ違っていった。 ニヒルというか、肩を二度叩くのが好きなのだろうか。 その背中に改めて頭を下げた時、ズキンっと痛烈な刺激が頭を駆け抜けた。 だがそれも一瞬の事でな側頭部を指先でぐりぐりしながら、むつきも職員室へと戻っていった。 早朝からの緊急会議もあって、職員室は何時もより時間がなくあわただしい。 自分も急がないととデスクに座らずに出席簿を用意している間も、何度か頭痛に襲われる。 風邪でも引いたか、幸い一時限目は授業がないのでまた仮眠でもと思う。 寒気も少しするかと体を震わせていると声を掛けられた。「乙姫先生、大河内さんの事ですけれど」 それは昨晩、大河内に付き添ってくれた二ノ宮であった。「ああ、二ノ宮先生。昨日はありがとうございました。お手数をおかけして」「乙姫先生程ではないです。本当は昨日のうちに直接連絡したかったんですけど。大河内さんですが、検査で異常なし。今日も午前中は両親に甘えて、それから学校に来るそうです。両親は今日も休ませたかったようですけど、先生にお礼がしたいと」「大河内らしいですよ。しっかり甘えとけって、念を押しとくべきでしたね」「乙姫先生、大丈夫ですか? さっきも学園長に指摘されてましたけど、本当に顔色が。仮眠室か保健室でも使われてはどうです?」 よほど笑みに力がないように見えたのか、二ノ宮が急に微笑を失い問いかけてきた。「ちょっと風邪でも引いたかもしれませんが、大丈夫。そろそろ朝会がありますから」 彼女がいるのに少し強がって見せたのは、悲しい男の見栄であった。 実際、風邪かもしれないが熱も感じられず、頭が痛いのみで症状はそれぐらいだ。 若いんだから気合いで治ると、痛みを無視してしまう。 安易に休んで授業の遅れなどない方が良いし、教師の欠勤は色々と影響が大きすぎた。 何しろその影響を一番受けるのは授業を受ける生徒である。 たかが一日と思っていると、試験日までに授業が進んでいないなんてことも。 再度心配そうに声を掛けられたら、手をひらひらと元気をアピールして教室へと向かった。 教室へと向かう途中、何度か伸びをしては眠気と頭痛を何度か追い出す。 そんなつもりになっただけだが、生徒にまで心配されるわけにもいかない。 途中、少し心に余裕が出来て携帯が壊れた事を思い出した。 ないと不便なので直ぐに欲しいが、水泳部の事があるので平日の夕方は無理だ。 昼休みの間にご飯もそっちのけ、或いはファーストフードで済ませ急いでいくか。 そう考えたが今日は顧問の件を、水泳部のせめて部長には伝えなければならない。 さらに伝えなければならないのは良いが、誰だか分かりもしなかった。「大河内、昼から来るらしいし。助かったか。それにしても携帯は、休みまで無理か。ちくしょう、しばらく見てるだけとか拷問か」 昨日送ってもらった美砂の胸の谷間画像も失くし、より落ち込みかける。 だから少し気付くのが遅れた。 A組の教室が近付いても、耳慣れた彼女達の騒ぎ声が一向に聞こえなかった事に。 何も考えずに教室の扉、引き戸を開けると耳に破裂音が届いて尻もちをついた。「な、なんだ。何が起きた!?」 慌てて周囲を見渡すと、覆いかぶさってきたのは細く長いカラフルな紙切れだ。 鼻腔をくすぐる花粉のようなそれは火薬の焦げた匂い。 疑うまでもなく鳴らされたのはクラッカーであった。 なんのお祝いだと目をぱちくりさせているむつきを、生徒達が皆笑っていた。 もちろん以前とは違うので嘲笑に似たそれではなく、単純にむつきがこけた為だ。「もう、先生格好悪い。折角の武勇伝なのに」「ささ、こちらでござる」 佐々木に笑われながら、特徴的な語尾の長瀬に手を引かれ立たされる。 それから背中を押されて教卓につれていかれ、ようやく気付いた。 黒板に張り出された校内新聞、報道部が自作している不定期新聞である。 校内で起きた事を面白おかしく書きたてるいわばゴシップ紙のようなものだ。 そこに書かれていたのは、教師と生徒の濃厚キス疑惑という大きな文字だった。 衝撃的な見出しの割には、記事の内容は割りとまともである。 簡単に読むと、昨晩室内プールで生徒Aが溺れ、見回りに来たむつきが人工呼吸で助けたと。 ただ人工呼吸という言葉が、やけに繰り返し出てきていた。「どうよ、先生。久々に、改心のできっしょ。飛ぶように売れる、売れる。できれば本人の独占インタビューも聞きたいな」「聞きたーい。アキラからは、大丈夫って連絡貰ったけど。先生の口から、アキラの唇どうだったかにゃ?」 茫然とするむつきに、近付いてきた朝倉が囁くように呟いた。 次いで明石も茶化すように人工呼吸の部分を、キスと勘違いしたかのように言った。 途端に笑い声に満たされていた教室内が、普段以上に姦しく騒ぎ立てる。 仕方のない事なのかもしれない。 クラスメイトは溺れこそすれ無事で、教師に人工呼吸で、キスで助けれらた。 思春期まっさかりの彼女達が、乙女心を過分に刺激されたとしてもおかしくはない。 だからむつきは教師として、話してやらなければならないと思った。 笑い祝福するかのような彼女達に振り返り、視線を集めるように多少もったいぶって言う。「分かったよ。教えてやるから、席に着け朝倉。お前らも少し静かにしろ」 一部、そんなむつきの言葉にアレっと思ったものはいたらしい。 それは不謹慎だと常識的な感覚を持つ数名だ。 長谷川や龍宮、那波や雪広あとは四葉もそうか。 一応美砂も騒いではいないが、憮然として不機嫌なだけなので常識的思考とは少し違う。 やったお話だと、生徒達が席につきわくわくと目を輝かせたところで言った。「息、してなかった」 教卓に腰掛け、祈るような格好で両手を合わせそこに頭を乗せてだ。 途端に静まり出したのは、彼女達に少しは節度があったからだろうか。 そのまま、しっかり聞いてくれと落ち着いた声のまま先を続けた。「プールから担ぎ上げた大河内、息してなかったんだ。声を掛けても、頬を叩いても反応すらねえ。見えない手でぶん殴られたように感じた。だって、息してないんだぜ」「せ、先生さ」「朝倉さん」 それこそ、昨晩の大河内のようにクラス全体がプールの底に落とされたようでもあった。 なんとか明るい方向に持っていこうとして立ち上がった朝倉も、隣の雪広に止められた。 さすがに不謹慎を悟る彼女達であったが、むつきは語るのをやめない。 一度本当にこの怖さを知って欲しいと思った。 不謹慎かどうかよりも、二度とこんな事故が起きないように。 新田が言ったように生徒である彼女達には、日常に潜む危険を自覚をして欲しかった。 もしくは情けない事だが、能天気に事故を話す当事者としての苛立ち、ただの八つ当たりか。「人を呼びたかったけど、俺馬鹿だから携帯ごとプールに飛び込んでぽしゃってたし。他に誰も助けを呼べないから、講習を思い出して必死に人工呼吸して」 薄目を開けると気の弱い宮崎などは、少々顔色を青くさえしていた。 自覚ではなく、恐怖を与えたのは間違いだったかもしれない。 だが例えそうだとしても、一度語り出したむつきは自分の口を止められなかった。 今さらながら、昨晩の事を思い出して震えが起きていたのだ。 恐怖に怯え悲鳴を上げるように、昨晩の体験を語り続ける。「幸い、何度か繰り返して大河内が水を吐いた。それからしばらく咳き込んで、背中をさすってやった。意識が戻って、まず大河内がなんて言ったと思う?」 重い頭を上げて、教室内を見渡すと誰もが視線が合う事を避けるように俯いていた。「怖かったって、ぼろぼろ泣いて。当たり前だ、そばに誰もいなくて。きっと助けを呼んでも誰も答えてくれるはずもなく。そのまま水に沈んで、死にかけたんだ」「先生、私……新聞回収してくる。全部できるか、わかんないけど。他の報道部にも声掛けて」「ああ、行ってこい。授業に遅れても俺が許す」 慌てて飛び出していった朝倉を見送り、黒板の新聞をはがしてから纏めた。「確かに人工呼吸で俺は大河内と唇を合わせた。本人が無事だって聞いたんだよな。安心したお前らがそこに着目して、はしゃぎたくなったのも多少分かる。けど、大事なのはそこじゃねえ」 改めて皆を見渡すと、目尻に涙を浮かべている子もいた。 特に大河内と仲の良い和泉などは、零れ落ちる涙を何度も拭っている。 方法の良し悪しは別として、自覚はしてくれたのかもしれない。 教卓に手をついて立ち上がり、むつきは最低限の確認をおこなった。「雪広、欠席者は?」「アキラさんを除いて、いません」「大河内は昼から来るそうだ。他に何もなければ以上だ」 出席簿にソレをつけると、後は自分達で考えろとふらふらと教室を出て行った。 少し教室がざわめいていたが、はしゃぎたくてという雰囲気ではない。 今頃、色々と皆で討論でもしているのだろう、いやしていて欲しかった。 もしかすると、後で謝りに来る者もいるかもしれない。 その時は出来るだけ笑顔で許してやろうと思ったが、ふいに背中をどんと押された。 振り返った先にいたのは、美砂と長谷川であった。「先生、社会科資料室に急いで」「しゃあないから、授業が始まるまでは見張っといてやるよ」 ずんずんと社会科資料室まで押され、周囲に人影がない事を確認してむつきが開けたそこに二人だけが滑り込んだ。 その二人とはもちろん、むつきと美砂である。 長谷川はそのまま締められた扉に背をつけ、カモフラージュ用のイヤホンをつけていた。 美砂以外、誰もいない社会科資料室に押し込まれ、何事だと確認する余裕もなかった。 社会科資料室に鍵を掛けて、二人きりになった途端、美砂に抱きついていた。 その細い体を手折ってしまいそうな程に、強く、強く抱きしめる。「怖かった」 自分が世界で一番安らげる場所にて、昨晩からずっと溜め込んでいた言葉を漏らす。「死んじまうんじゃないかって。俺の生徒が目の前で。怖かったよ、美砂」「うん、私もごめん。先生がアキラに人工呼吸したって聞いて、馬鹿みたいに嫉妬するだけで。全然、分かってなかった。先生、こんなに苦しんでたのに」「美砂、美砂ぁ。ぐっぅぁ……」「いいよ、先生。一杯泣いて」 幼い子供をあやすように美砂の手が背中をぽんぽんと叩いてくれた。 とうに決壊した涙腺が、さらに壊れて涙が溢れ出て止まらない。 立っている事もままならず、膝が折れて美砂の腕の中をずるずる滑り落ちていく。 両膝が床についた頃には、むつきの顔は美砂のお腹の上にあった。 そのまま年上のお姉ちゃんが小さい子をあやすように美砂が撫でてくれていた。「ありがとう、私のクラスメイトを助けてくれて。皆もきっと、今頃感謝してる。だから、今は一杯泣いていいの。ほら、こっちの椅子に座って」 美砂が座り込もうとするむつきの腕を引いて、なんとか立たせようとしていた。 以前よりもかなり整頓され、綺麗になった資料室にて以前も使用した椅子に座らせる。 それから上着を脱いで、シャツのボタンを一つずつ外していった。 あれだけ言われたのに不謹慎な子だと自分では思いもしたのだが。 泣きじゃくるむつきを前に、胸をキュンキュン締め付けられ服を肌蹴てさらした。 薄い青のブラをも外してから、むつきの膝の上に大胆に跨り、包み込むように抱きしめる。「美砂、頭も撫でてくれ。頑張ったって、褒めぐぅ」「うん、頑張ったね先生。ご褒美上げるから、私のおっぱいあげる」 もはや言葉にならず、涙で見えないため手探り口探りでむつきが胸を捜した。 頬に触れるふにふに感の中で、唯一のアクセント。 少し硬くなった桃色の乳首を感じて口を向けて、舌を伸ばしながらそれを含んだ。 腹を空かせた赤子のように、ちゅうちゅと音を立てて吸い付く。 恐怖を少しずつ薄れさせ安堵を抱きながら。 その証拠に、美砂を抱きしめる手が緩み始め、涙の川も緩やかになってきた。「よしよし、頑張ったね先生。もう、大丈夫。怖いことは何もない」「うん、美砂の心臓の音が聞こえる。安心する、帰って来たって」「嬉しい、先生の帰る場所はここだから。帰りたい時に、帰ってきていいよ」 改めて互いに少し力を込めて抱き合う。「落ち着いた?」「少し、悪いまた泣いちまった。格好」「悪くない。まだちょっとネガってる。けど、元気になってきた」 大きくなったむつきの一物が、美砂のお尻を押し上げるようにしていた。 パンツ越しにそれが分かったのか、元気元気と腰を振る。 柔らかな割れ目の肉を押し付けて、入りたくないと下半身に直接聞いた。 返答はより硬くなり、美砂を押し上げる事であった。 だがむつき本人は下半身とは裏腹に、少し渋っていた。「美砂の中に入りたいけど、今コンドーム持ってねえ。お前も授業が……」「じゃあ、仕方ないね。うん、仕方ない。生でするしかないよ。安心して、安全日だから」 久しぶりだと、ますますむつきの膝の上で美砂が体をくねらせた。 普段は安全日であろうと生でむつきがしない為、こんな時ぐらいしかチャンスはない。 むつきも珍しく迷っているようで、後一押しと美砂が身を乗り出した。 一瞬だけ不謹慎でごめんと視線で謝りつつ、目の前で艶かしく唇を動かしては囁く。「先生、私さっき言ったよね。嫉妬したって。先生をアキラから取り返そうって、もう濡れてる。私に先生を奪わせて。きっと凄く、気持ち良いよ」 あくまで美砂が望んだ事だからという免罪符さえ用意し、男であるむつきを誘う。 ギンッと囁く誘惑に負けて、むつきの一物が完全に臨戦態勢に入った。 本人も理性の限界と目をぎらつかせ、美砂の両肩を力強く掴んだ。 そんな反応に美砂もやったと心中では小躍りし、生で犯される事を喜んでいた。 そんなおり、二人を邪魔をするようにコンコンと扉が叩かれた。 まさか誰かに気付かれたと驚く二人だが、長谷川が何も言わず消えるはずもない。「そろそろタイムリミットだ。柿崎の事は、気分が悪くなって保健室って言っておいてやる。それから、少しだけここ開けろ」「さっすが親友。だけど、どして?」 むつきと見詰め合ってから頷かれ、美砂が上半身半裸のまま鍵を開けた。 するりと空いた扉から何かが放り投げ込まれ、コツンと床で跳ねる。 扉は直ぐに閉められ、よく分からないままに美砂がまた鍵を掛けた。 そして投げ込まれた正方形のパッケージを拾い上げ、顔を引きつらせる。 この野郎と、今は閉めた扉の向こうで笑っているであろう親友を睨んだ。「こんな事もあろうかとって、ひかげ荘からくすねといた。見つかったら私が危険だったんだが、今はお前の方が危険だからな」「わあ、嬉しい。さすが親友。ちっ、余計な事を」 隙間から投げ込まれたのは、コンドームのパッケージであった。「舌打ちすんな。女が生を強要するとか、妊娠しても知らねえぞ。私は絶対助けてやらねえからな」「悪いな、長谷川。気を利かせて」「今回の事も騒がしいアイツらには、たまには良い薬だ。んじゃ、しっぽりやってろリア充ども。ギシアンで学校揺らすんじゃねえぞ」 最後に憎まれ口を叩いて、長谷川は教室へと戻っていった。 それから程なくしてチャイムが鳴り響き、美砂はさぼり決定である。 これからむつきとの個人授業、もちろん教科は保健体育の実技だ。 不満気にコンドームの箱を開けている美砂の頭を撫でた。「美砂が付けてくれるか? それから折角の長谷川の好意だ。新しい体位でしてやるよ」「本当、どんなエッチな事されるのか、ドキドキする」 美砂が目の前のむつきのズボンを脱がし、コンドームを付け始める。 完全に勃起状態のそれは、血管が浮き出て脈打ち、美砂を視覚的に犯しさえしていた。 言葉通り、これからどんな事をと美砂はうっとりと見つめ一物に手を伸ばす。 もはや何十枚、着せ付けてやってきたことか。 馴れてきた手つきで美砂が、張り切るむつきの一物にコンドームをつけてやる。 それからよろしくねとばかりに、挨拶のキスをコンドーム越しにしてから立った。「そこの棚に手をつけて、お尻は突き出さなくていい」「立ちバックなら、でも。突き出さないと。えっ?」 美砂の後ろで少し屈んだむつきが、その片足を掴んで肩に掛けて立ち上がった。 突然の、それも片足の浮遊感に慌てた美砂が、棚を掴んでバランスをとる。 片足は爪先立ちで、もう片方の足は高くむつきの肩の上。 バランスの悪さも去る事ながら、大股開きさせられ、パンツが異常に秘部へ食い込んでいるのが分かる。 恥ずかしくて手で隠そうにも棚を掴むので必死で、伸ばす余裕などない。「先生、待って。パンツが、食い込んで……あっ、濡れ。引っ張らないで」 首を竦めて開かれたスカートの中を覗き込み、食い込みを楽しげに見つける。 それだけに飽き足らず、もっといけるはずと根拠もなく美砂のパンツを引っ張った。 色と生地、両方の意味で薄いそれは美砂の恥部にうずまり紐のようだ。 陰部を刺激され蜜も滴り、いやらしいことこの上ない。 紐と化したパンツを指でずらし、柔らかな肉の谷間に指を入れて開く。「美砂、どうしてこんなに濡れてるんだ。とろとろ、湯気が出てるぞ」「嘘、濡れてるけど湯気なんて」「顔を近づけなくても女の子の、美砂の匂いがする。俺のちんこを咥え込もうと、とろとろの。咥え込んで放さない、悪いおまんこの匂いだ」「いやらしい言い方はしないで。おま……だなんて。あそことか、他に言い方が」 羞恥に顔を火照らせ瞳を閉じ、美砂が震える 最近、淫らに雌の顔を時折見せる事もあるが、まだまだ初心な所が抜け切らない。 そんな恥ずかしさもあるのだろうが、それだけでなく込められたのは期待。 どうされるのか、なにをされるのか。 指で大事な所をかき回される、それともこのまま一気に貫かれるのか。 心中の期待の現われの様に愛液が割れ目から溢れ、紐と化したパンツをぬらしていく。「美砂も、そろそろ覚えてみるか。ほら、ここ。なんて言うんだ?」 食い込むパンツの上から亀頭でぐりぐりと、むつきが腰を回して刺激する。 ほら、言ってごらんと、その可愛い唇でと。「そこは、あそこ。女の子の大事な」「俺先生だけど社会科だからな。美砂は、保健体育を特に真面目に受けてるだろ。俺に思い出させてくれ、なんて言うのか」 実際、保健体育での呼び方は正式名称で俗語など教えるわけがない。 プレイの一環だと分かっており、美砂も無粋な突込みをしなかった。「言ったら、入れてくれる?」「ああ、もちろん。美砂がもう駄目って言っても、それから三回ぐらいイクまで」 恥ずかしがる美砂の耳元で囁きつつ、既に亀頭はぬぷぬぷと出たり入ったりを繰り返していた。 食い込むパンツごと、美砂の中に押し入ろうとしている。 全挿入よりは小さく、けれど確実に入っている事が美砂には分かっている事だろう。 中途半端な寸止めに近く、バランスの悪い体位とは別の理由で美砂の足が震えた。 何故入れてくれないともどかしさに、体が欲しがってしまっている。「先生のおちんちんを。私のおま、んこに入れて。一杯びゅっびゅってして、受精させて」「ああ、種付けしてやるよ。美砂なら良い母親になれる。俺が保障、する!」「ひぃぁっ!」 パンツを亀頭でどかし、一気に美砂を貫いていった。 決して小さくはない悲鳴を美砂があげるも、むつきはより深くと腰を突き出した。 今や完全にむつき専用の受け皿と化した美砂の膣内が、むつきを受け入れる。 いやそれだけに留まらず、子宮は孕ませる場所はここだとさらに内部に誘う。 ぴったりと一物と同じ形で、少しだけ圧迫するように狭く。 コンドーム越しだと分かっているはずなのに、精液を搾り取ろうと蠢いていた。「先生、これ深い。気持ち、ぃぃ……」「寝転がってこれするともっと深いが。今度ひかげ荘でしてやるよ。それより、今は」「んぁ、声抑えられない」「俺は腰が、止められない」 限界まで開かれた美砂の股座へと、むつきは遠慮なく腰をぶつけた。 愛液で濡れた肌がぶつかり、パンと湿った音が鳴り響く。 床へと美砂の愛液が飛び散り汚すが、細かい事だと気にもしていられない。 多分、後で必死に掃除する事になるが、美砂に夢中になりたかった。 今や苦しそうに棚の上に身を乗り出し、声が出ないように堪える美砂をさらに攻め上げる。「美砂、全部堪えなくて良いぞ。少しは可愛い声を聞かせてくれ。もっと、もっと頑張ってやるぞ」「だって、叫んじゃう。おまんこ気持ち良いって、先生のおちんちんで」 瞳に涙を滲ませ真っ赤な顔で声を潜め、なんとか振り返りながら伝えてくる。 俺は生徒に、恋人になんて事を言わせているんだと悪い顔で笑ってしまいそうに。 ぞくぞくとしたものが背筋を上り詰め、ますます元気になってしまう。 壊れたおもちゃの様に、ただただ腰を振り続けた。 電池が、むつきの精力が切れるまで延々と、美砂を攻め続ける。「先生もっと、もっと私のおまんこ突いて。これで生だったら、くぅ。長谷川の奴」「結婚したら、いくらでも生でしてやる」 乙女の心を刺激する二文字に、ビクンと美砂が体を震わせた。「毎晩、出勤する直前でも。美砂が受精するまで何度でも。中だしだって好きなだけ」「先生、先生。ぁぅ、今が良い。今、受精させて」「今、生んでくれるか。俺の子供を。このお腹で育ててくれるのか?」「今直ぐ、何人でも生んであげる。先生、ここに。子宮に一杯だして」 肌けられたお腹の上にむつきが手を置き、美砂が子宮はここと教える。 お腹のここに一杯出せば受精してあげると。 小さな種と卵から、一抱えもある子供へと育ててあげると。「美砂、美砂。そろそろ、出そうだ」「うん、私も先生と一緒に」 快楽の中に結婚、受精、子供と様々なキーワードが頭を駆け巡った。 下半身だけは未だ壊れたおもちゃのようだが、理性の中に愛情を見つけた。 もう何度も思い、話しあった事か。 むつきが教師である事、美砂が生徒である事。 同じ世代に生まれていれば、けれど同じ世代ではきっと出会えなかったと。 どこまでもジレンマが存在する恋人関係の中で、それでもできる事はある。「イク、イクぞ美砂。準備はいいか」「うん、私の中の卵に一杯かけて。先生の子供、孕んであげる」「美砂ぁッ!」 一際大きくむつきが美砂を突き上げ、コンドームという邪魔物の中に射精した。 受精させてなるものかと、美砂の変わりに全てを受け止める。 徐々に膨らむコンドームを感じ、美砂も切なく少し分けてと体を震わせた。 数秒の間二人は体を痙攣させるように硬直し、それから脱力していった。 むつきが萎えた一物をずるずると美砂の中から引き出して座り込んだ。 美砂も棚にしがみ付くのが限界で、ずるずると滑り落ちてはむつきの上に着地した。「はぁ、ふぅ……先生、気持ち良かった」「ああ、美砂の中。最高だった、見ろこれ」 脱がしたコンドームの中に溜まった精液を、こんなにと美砂に見せる。 それだけ美砂も愛された事を感じたが、同時に不満も感じた。 コンドームがむつきの愛を半分ぐらい奪ったようだと。 この野郎とむつきの手から奪い取り、口を縛ってその辺に捨てた。 べしゃりと床でひしゃげたそれは、破れる事なくつぶれたのみであった。「おいおい、破れたら掃除が」「いいの、先生は私のもの」「物に妬くなよ、しかもコンドームに」 可愛いのかそれと、可愛い事にしてむつきは抱きついてきた美砂の頭を撫でた。 ぐりぐりといつもの様に行為の後に猫と化す美砂を愛でる。 今日は果てる時に抱きしめあえなかったせいか、妙に甘えてくる時間が長い。 くんくんと匂いもかがれ、お返しだとこっちも匂いをかいでやった。 甘い、発情したフェロモンもあるのか、とろけるような甘さに陶酔してしまう。「先生、気持ちよかった。確かに気持ちよかったよ。けど、最後にギュッとできないのがいや。正常位とか対面座位、ギュッとしてくれるなら立ちバックとか。そういうのが良い」「そうだな、いくら気持ちよくても。俺も少し、一方的によがってるだけみたいで。こうして抱き合ってする方が好きだ」 時々、美砂の肌蹴た胸の突起をついて悪戯し、今は甘々タイムと怒られたり。 ならとろけてしまえと、長い長いキスを繰り返しゆっくりと床に押し倒し組み伏せる。 一瞬やべっと思ったが美砂も嫌がっておらず、後で謝ろうと後に回す。 さすがに精液だらけの一物で挿入は出来ないが、もっとと喘ぐ下の口を擦りあげた。 上と下でキスをしてはくぐもった声で喘ぎ、恋人らしく絡み合う。 学校と言う空間で、全く異なる恋人の空間を作りあげていった。「そういえば、好きで思い出したけど」「どうしたの、先生」「俺らって妊娠プレイ好きだよな。毎度、ゴムつけてるわりに」「だって、先生に中だしされたい」 美砂のお腹を押さえながらの爆弾発言に、サッと気分も冷めてむつきが青くなる。「美砂、頼むから冗談でもそういう事を言うな。お前最近、妙に生でしたがるし。待ってくれ、あと五年。お前が高校を卒業するまで」「だって、先生。生でしたの二回の初夜だけだし。たまにぐらい」「中だしされたいとか言われて、余計できるか。頼むから、コンドームに穴あけたりするなよ。その瞬間、暴露覚悟で別れるぞ?」「しない、絶対しない。先生と別れるぐらいなら、我慢する。我が侭言わない、良い子でいるから。先生こそ、そんな事を言わないで」 脅しが過ぎたのか、美砂も顔を青くしてごめんなさいと抱きつきながら呟いてきた。 ごめんごめんと慰めつつ、絶対にするなとむつきは厳命する。 それから甘々タイムの再開と、美砂を見上げさせてのキス。 ついばむような可愛いキスを繰り返し、一時限目が終わるまでずっとイチャつく。 おかげでなんとか、むつきも昨晩の事件の恐怖から解き放たれた。 ただ、頭痛だけは相変わらず張り付いた泥のようにむつきを時折襲っていた。 -後書き-ども、えなりんです。今回、お話の都合上、ちょっとエロは控えめ。まあ、先生がクラスメイトと人工呼吸したら騒ぐと思うんです、あのクラス。だから、むつきには半切れしてもらいました。そして美砂と赤ちゃんプレイしながら号泣。前回、妙にむつきが格好良いという意見があってびびりましたが。こういう弱い部分もあるのですよ。いずれ千雨がむつきをどういう人間か評しますが。強かったり、弱かったりとまあ色々です。さて、最近仕事が忙しく全然執筆できてませんでしたが。手元で六十九話まで進みました。夏休みのお盆前ぐらい。七十話以内で夏休み終わるかしら。週二で投稿してますが、それ以上にストック増えてます。それでは次回は水曜です。大河内がそろそろ本気出す。