第百二十四話 部活がないと時間が余ってしょうがないのよ それは一枚の集合写真であった。 むつきのお嫁さんよりも年齢が上の妙齢と言って差し支えない女性たちの写真である。 写真には黒いマジックで矢印が引かれ、三人の美女の名前が添えられていた。 一人はまだ高校生で通じそうな幼さの残るショート髪の女性しのぶ。 もう一人は同じ黒髪ショートながら凛とした雰囲気のある素子。 最後は長瀬の様な糸目の愛嬌のある顔立ちの女性でみつね。 年齢や雰囲気が異なるが美人という共通項を持った女性たちの写真を手に瀬流彦は打ち震えていた。 なにしろそれは以前からむつきが約束していた瀬流彦の合コンの相手の写真だったからだ。「乙姫先生、もう一生ついていきます!」「止めてください。普通に迷惑です」「いや、これはそう言いたくなりますって。綺麗な人ばっかり」 今にも感涙しそうな瀬流彦の手元の写真を覗き込み、二ノ宮の女性視線からも合格らしい。 写真は、昨日の日曜に喫茶日向の二号店予定地の下見に来たむつみから借りたものだ。「しのぶって子が二十二の大学四年生、素子って子とみつねって子が、二十五と二十八の社会人」「年下から年上まで、しかも可愛い系から凛とした美人まで。これはレベルが高いわ」 瀬流彦はもはや言葉もないようで、成程と相槌を打ったのは二ノ宮だ。 これは喋るつもりはないが、学生時代には全員むつみと同じくとある男に惚れていた経歴の持ち主たちだ。 それ以外全くと言って良い程に恋愛に縁がなかったが、むつみの結婚を知ってこのままではと思い始めていたらしい。 だからむつきからの合コンの開催は向こうにとっても渡りに船だとか。「でもこれ、意中の相手が他の男と被ったら紛糾ものですよ」 当然と言えば当然、二ノ宮が素朴な疑問を口にすると、それはまずいとバッと瀬流彦が写真から顔を上げた。 その視線の先はむつき、つまりはなにか縋る様な目つきでもあった。「まあ、他の男の参加者は決まってないんですが……」「慈悲を、お慈悲を」 そうは言っても向こうの女性の意向を知るむつきとしては、下手な男はそろえられない。 とはいえ学生時代とは違い、未だに繋がりが残っている者といえば多くはなかった。 今にも縋り付いてきそうな瀬流彦をその場に残し、一時保留一時撤退である。 というか、普通に朝のホームルームの時間となっていた。 二人はまだ担当クラスがないので気楽なものだが、むつきはホームルームにかねばならない。「それじゃあ、詳しい日時はまた。たぶん、中間テスト後になると思いますけど」 それだけ言い捨て、むつきは瀬流彦から逃げる様に職員室を飛び出した。 相変わらず騒がしいのだろうと思って二-Aの教室に向かう。 中間テストが近いからと言って殊勝に勉強している者がいるかどうか。 亜子辺りは医者になる目標があるのでアキラ辺りを巻き込んで勉強しているかもしれないが。 そう思っていたのだが、何故か教室が近づいても普段の騒がしさが伝え聞こえてこない。 むしろまだホームルームが始まっていない隣の二-Bの方が騒がしいぐらいであった。「え、なにそれ怖い。ほーら、席につけ。ホームルーム、始めるぞ」「先生、たすけてぇ!」「助けてください!」「うわーん!」 一応、普段通りの言葉と共に教室に入ると、小さい影に三つ連続してぶつかってこられた。 その小さな影とは鳴滝姉妹と佐々木である。 まさかこのクラスでイジメと思ったがそんなことがあるわけもなく。「先生、亜子がアキラが……ゆーなまで勉強してて、お喋りしてくれない!」「楓姉も、他の皆も自習なんかしてて怖い、アレはニセモノだ。皆を返せ!」 佐々木や鳴滝姉の風花に言われて教室を眺めると、そのままその通りだった。 全く静かにシンとして、鉛筆やシャープペンシルを走らせる音だけがというわけではない。 適度にお喋り、お互いに教え合ったりしてほとんどの子が机にノートを広げていた。 確かに普段の二-Aを知る者からすれば、ちょっとした異次元かもしれないだろう。 だが中間テストを控えた学生としては、そこまでおかしな姿でもないはずだ。「いや、ホームルームで指摘するつもりだったが。来週は中間テストだぞ。少しぐらい勉強しろよ」「なんで? ぁ、痛ッ」 むつきの指摘に何も考えずに何故と問い返した佐々木にはチョップをプレゼントしておいた。 唇を尖らせた彼女をシッシと追い払い、確かにこれは不気味だと思いつつ教壇に立った。「その様子だと、大半は来週が中間テストだって認識はあったみたいだな」「まあね、私はどうでも良いけど。先生ラブののどかがね。トップテンに入ったらデートでもしてあげなよ。乙女の頑張りに免じてさ」「のどかの恋を応援しているようで、墓穴を掘ってるですよパル。のどかと那波さんの成績はお互いに譲らない距離、それはつまり那波さんがトップテンに入れば……」 早乙女の言葉にチラッとむつきを見上げてからポッと顔を火照らせた宮崎であった。 だが次いで呟かれた夕映の言葉にハッとして那波と顔を見合わせてもいた。「あらあら、のどかさん負けませんよ」「わ、私だって負けない」 バチバチと激しい睨み合いではないが、お互いをライバル視した乙女の攻防である。「あのな、俺の意見は無視か」 早乙女の無茶ぶりはさておき、他の面々も大なり小なり理由は同じようなものであった。 テスト前は例外なくむつきのお嫁さんたちはセックス封印期間となる。 程度の差はあれ、ならばと少しでも良い点を取ってご褒美を貰おうとしていた。 良くやるわという美砂や桜子を見て呆れる釘宮の表情から、まず間違いないだろう。 本来は自分の為に勉強するものだが、ご褒美が欲しいのならしょうがない。 良い点を獲った子は優先的にハメ倒してやろうと、心に刻んでおく。「目標があることは良い事だが、建前としては自分の為に勉強しろよ。あと、やらないのも駄目だが、やり過ぎるのも駄目だ。和泉は前科があるから、程々にしとけ」「あんな無理は続かへんよ。今回は順位のキープが目標やから」「だからって、免罪符が出たみたいな顔すんな。この雰囲気の中、全く勉強してなかった佐々木や早乙女、鳴滝姉妹に春日あたり」「最低限はやるっすよ。夏休み明けのアレみたいなのは、勘弁なので」 他と同じようにギクリとした春日だが、机の上には曲がりなりにもノートが広げられていた。 トラウマは言い過ぎだが、彼女にとってアレは良い薬になったようだ。「連絡事項は……あと、中間テストの一週間前だから部活も禁止な。テストが開ければ、運動部は新人大会、文化部は発表会。それから体育祭だな。それを楽しみに、ちょっとだけ頑張れ。以上」 むつきがそう締めくくると、大半の者が再び机の上のノートや教科書に目を落とし始めた。「ねえ木乃香、寮に帰ったら刹那さんを交えて勉強会しない?」「はえ、明日菜の口から勉強会なんて」「バイト止めちゃったから、部活がないと時間が余ってしょうがないのよ」 あの神楽坂でさえテスト前だからと、同室の木乃香に誘いをかけていた。 だがその木乃香の返事は即答されず、驚きに包まれている。「ふふ、私も問題はありませんよ。では夕食の後にお邪魔させて頂きます」「明日菜が頑張るんやったら、私も頑張らんとな。時間が余ったから、ね」 少しばかり席は離れていたが、刹那も明日菜の声が聞こえていたので約束を取り付ける。 なら問題なしと木乃香も、含みのある呟きを残していた。 その理由は、約束をした木乃香や刹那へと視線を向けていない明日菜だ。 彼女が視線を向けていたのは、教室の檀上。 話しかける理由に困らないとばかりに、むつきに詰め寄る那波と宮崎にあった。「せ、先生……」「ご質問が」「はいはい、お前ら本当にわからないから聞きに来てんだよな?」 仕方がないと呆れながらも対応するむつきを、これまた呆れたように明日菜は見ていた。 元から勉強が嫌いだった明日菜が、時間が余ったからなんて理由でテスト前に勉強するはずがない。 うちらのお婿さんはモテモテやと、にこにこご満悦の木乃香であった。 その日はずっと、二-Aが真面目にテスト対策を行っている話題で持ち切りであった。 授業にやって来る先生が皆、その静けさに驚き、次に休み時間でも机に教科書とノートを広げていることに驚いた。 大半の人間は、むつきのご褒美目当てだが、それは言わなければ分からないというものだ。 一学期に学年最下位を脱出したが、次は真ん中、下手をすれば上位かと今から順位発表のトトカルチョが盛り上がりそうな気配である。 当の本人たちはそれこそ珍しく、その話題にすら触れずにテスト対策に打ち込んでいたが。 それは寮に帰ってからも変わらなかった。「んー……っはぁ、疲れたぁ」 現在時刻は午後九時、小さなテーブルの前で女の子座りをしていた神楽坂が軽く伸びをしていた。 部屋着のシャツが軽く悲鳴を上げるぐらいであり、それだけ体がなまっていたのだ。 食後から二時間、わき目もふらずに教科書とノートに視線を巡らせ、気が付けばこんな時間である。 伸びの途中であくびが出たのは、バイト時代には既に寝ている時間帯だったからであった。「もう、九時か。木乃香と刹那さんは、お風呂どうする?」「今なら空いとる時間やな。私は見たいドラマあらへんし、せっちゃんは?」「はい、私も構いません。ドラマは見ない方ですから」 どちらかというと時代劇の方がという声はしりすぼみであった。 共用の大浴場は夜十時まで使用が可能だが、夜の九時から十時は空いている時間帯なのである。 何故なら今日のような月曜日ならば、月九のドラマがやっているからだ。 だからドラマを見ない派としては、九時以降の一時間がねらい目なのは常識だった。 刹那は部屋が別なので十分後に脱衣所でと約束して、一旦自分の部屋へと帰っていく。 木乃香と神楽坂も刹那を見送ってから腰を上げて、大浴場へ行く為に準備を始めた。 風呂桶にタオルや洗顔と言ったセットを詰め込む。 大浴場には普通の銭湯のように据え置きのものがあるが、それを使う者は殆どいない。 使うとしても偶々、自分のお気に入りが切れてしまった時などである。「明日菜、ええ?」「いいわよ」 お互いに準備が終わると、部屋の電気を消して寮の部屋を出た。「お、なに。木乃香たちもこれからお風呂?」「あとでせっちゃんも来るえ。そういう美砂ちゃんたちも?」「勉強に疲れた体を癒しに行くのだ。今なら空いてるしね!」「ああ、月九のドラマが」 近くの部屋から殆ど同じタイミングで出た来たのは美砂たちであった。 どうやら桜子の言う通り理由は同じものであるが、何故か釘宮だけがさめざめとしている。「良いじゃん、あんな内容ペラッペラの嘘くさい恋愛ドラマ」「あんたはそうでも、私は楽しみにしてんの」 理由はもはや語るまでもなく、釘宮一人がドラマを見たかったようだ。 ただし五人一緒に歩き足手も一人で部屋に戻るつもりはないようであった。 特に別れて行く理由も思いつかず、そのまま五人で大浴場へと向かう。「ていうか、柿崎。アンタ、ああいうの好きじゃなかったっけ?」「ちょっと前まではね。でも、今の彼氏と付き合う様になって冷めちゃった。嘘くさい、綺麗ごとばっかり。だいたい、格好良くて隙がない完璧超人のどこが良いのよ。可愛げがない」「だよね、私も乙姫先生を好きになってから美砂の言うことがわかるようになったかな。それって本当の自分を見せてくれてないってことだよね」「はいはい、ご馳走様。ご馳走様」 表向き桜子は違うが、二人の惚気にも慣れたとばかりに釘宮が両肩を竦める。 そのまま最近のドラマの詰まらなさに愚痴り、時折釘宮が反論しつつ大浴場へと着いた。 五人でぞろぞろ歩いていたせいか、部屋にいた真名と連れだってやって来た刹那の方が早かったようだ。 二人は既に部屋着を洗濯籠に放り込み、お風呂セットを持って浴場に向かうところであった。「せっちゃん、お待たせ。はよ、脱がんと」「慌てると転ぶぞ、近衛。刹那、私は先に行っている」「ああ、すまない龍宮」 あせあせと慌てた木乃香に一言注意して、真名だけ一人先に浴場へと向かった。 彼女は取り立てて一緒に入る約束をしたわけではないが、そこは仲良し二-Aである。 真名を待たせてはいけないと、慌てない様に部屋着を脱ぎ始めた。 元から女子寮と言う名の女の園なので多少はしたなく、部屋着のズボンを脱ぎ損ねてケンケンしたり。 後は個々の性格で、木乃香は脱いだ服も丁寧に畳み、他はどうせ洗うからと無造作だったりだ。 素っ裸になるとタオルで申し訳程度に陰部を隠し、お風呂セットを片手に突撃である。 脱衣所と大浴場の仕切りの引き戸を開いて、霧の様に来い湯煙に出迎えられた。 先頭に立った神楽坂が軽く周囲を見渡すと、白い湯煙の奥に褐色肌の龍宮が見えた。「龍宮さん、隣良い?」「断るまでもないさ」 洗い場では真名が長い髪を洗っており、隣に神楽坂が陣取った。 さらに刹那、木乃香と続いて美砂と釘宮、最後に桜子である。 他にも場所は開いているのだがなんとなく場所を詰め、各々自慢の髪や体の手入れを始めた。 こういう時、流行に敏感な美砂や桜子、釘宮が良く喋る。 どこそこのメーカーが良かった、使うと髪の艶が違うなどなど。 あまりそう言った本を読まない神楽坂たちは、こういう場が貴重な情報源でもあった。「じゃーん、今日の秘密兵器」「美砂、アンタまた新商品に手を出したんだ。お小遣い大丈夫なの?」「にゃはは、美砂は最近お小遣いの大半を……ねえねえ、龍宮さん。それなに?」「くっ、流石にお前の勘は見逃してはくれないか」 今日の美砂の一押しの途中で、ふっと視線を逸らした桜子が軽く覗き込んで言った。 その視線の先は、真名のお風呂セットの中にある一本のローションのようなものである。 真名としては出来れば秘密のままにしておきたかった本来の意味での秘密兵器らしい。 だが桜子の指摘によって皆の視線を集めてしまっており、秘密のままというわけにはいかなそうだ。「これはザジに貰った香油だ。私と彼女は出身国が近くて、私の体質にも合うだろうと」「ザジさんの」「香油?」 真名の言葉に真っ先に反応したのは、美砂と桜子であった。 その脳裏には、先日ひかげ荘の温泉で大興奮してザジに襲い掛かるむつきが思い出されていた。 ひかげ荘は影の支配者である小鈴の手により、大抵のセックスは記録されている。 持ち出し厳は禁だが、頼めばDVD化したものを貸して貰えるのだ。 もちろん、ザジがひいひいよがり狂ったセックスは皆の興味を引いて美砂も桜子も見ていた。 ザジがよがり狂う映像と共に、むつきが大興奮した香油のことも知識として仕入れていたのだ。「龍宮さん、ちょっとお願いが」「皆まで言うな。バレた以上は隠さないさ。神楽坂たちも使ってみるか? 美肌効果に、気になる男を誘惑できるフェロモン効果も」「お願いします!」「明日菜さん……」 美肌はまだしも、気になる男を云々は大層神楽坂の気を引いたようだ。 ほぼ即決、真名の言葉が終わるか終らないかのうちに彼女の手を両手で握っていた。 今更神楽坂の想い人が誰かなどは、刹那の乾いた笑いを見れば誰だかわかるというモノであった。 手始めに神楽坂が真名からレクチャーを受けて、体を洗ってから香油を肌に染み込ませるように塗り始める。「んっふっふ、テストの前後で変わった美砂ちゃんの美肌に彼氏大興奮。襲われちゃったら、どうしよ」「にゃはぁ、私は乙姫先生になら襲われても良いかな」「先生に、たか……ところで、フェロモンってなに?」「匂いのようなものさ。女の色香と言うだろ?」 よがり狂わされたらどうしようと、楽しげに香油を肌に染み込ませる美砂と桜子。 目的は同じながらも、まだその先まで詳細には想像できていない神楽坂は疑問符を浮かべていた。 真名が説明するも、理解できているのか。「せっちゃん、ぬりぬりしてあげるえ」「あん、このちゃん冷たい。おかえしです」「はあ……色ボケ空間。独り身は寂しいわ。未来の良い男の為に、磨いておきますか」 どうせならと木乃香や刹那もそれに加わり、美肌にはと結局釘宮も折れた。 そしてその香油を使ったことを後悔するのは、消灯時間が過ぎた頃のことであった。 勉強もやり過ぎては逆効果。 今朝方にむつきに注意された通り、お風呂上がりにまた一時間ほど勉強してお開きである。 夜の十一時になる頃には、神楽坂は二段ベッドの上にある布団の中だった。 人生で一番勉強した一日だったからか、なかなか寝付けないでいた。 お風呂上がりから一時間以上たっても身体はぽかぽか熱いぐらいだ。 頭を使い過ぎて眠れないのか、ころころと寝返りをうってもさっぱり眠気はやってこない。 枕元の時計を暗がりの中で目を細めてみると十二時になろうかというところであった。(眠れない……身体が熱いし、なんだろ) むしろ胸の奥が下腹の辺りがキュンキュン、悶々ともどかしい感じがする。 眠れないことでついたため息の吐息は熱く湿り、何度目かの寝返りを行う。 寝返りの度に肌の上を滑るパジャマの生地がむずがゆく、ブラジャーの奥の乳首が硬くなっていた。「なにこれ、んっ」 ブラジャーとのかみ合わせが悪いのかと、少しズラしてみれば硬くしこった乳首と生地が擦れる。 普段はそれが痛かったりするのだが、何故か今はそれがとても気持ち良く感じられた。(やだ、私感じてる。凄く、オナニーしたい) さすがにここまでくれば初心な神楽坂でも、何故か自分が性的に興奮していることがわかった。 水泳部の先輩にオナニーを教えて貰ってから、三日に一度はしているのだ。 時々ではあったが、無性にオナニーしたくなる日があることも知っていた。 今の自分の身体は熱く火照り、乳首が勃起し、陰部の奥が刺激を求めている。 勉強し過ぎた反動で、体がストレスを発散したがっているのか。(でも下には木乃香と刹那さんがいるし) 寮には各自の部屋を行き来して良い時間が、消灯時間とは別に定められている。 風呂上がりも一緒に勉強していたのだが、気が付けばその時間を過ぎてしまっていたのだ。 だったらと木乃香が一緒に寝ようと刹那を誘い、そのまま二段ベッドの下で寝ていた。 普段でさえ同居人の木乃香にばれない様に気を付けているのに、その相手が単純に二倍である。 今からトイレに長時間こもるのはバレた時の言い訳が大変であった。 かと言って、このまま至近距離とも言える二段別途の上で始めるわけにもいかない。(寝てる、よね?) 始めるわけにはいかないと思いつつも、神楽坂は布団に耳を押し付けては耳を澄ませていた。 左手は邪魔なブラジャーを脱ごうと背中に回り、右手はお腹を滑りながら下腹部へ移動中。 頭とは別に体は既にオナニーをする為に、動き始めていた。 寝息一つ聞こえない、大丈夫二人は寝てると喜んだその時であった。「このちゃん、だめ」「だって、身体が熱いえ。せっちゃんもやろ?」 小声、掠れ途切れてしまいそうな程に小さな声が二段ベッドの下から聞こえて来た。(木乃香に刹那さん、まだ起きて……ていうか、私だけじゃなかったんだ) 勉強し過ぎるとオナニーしたくなるのか。 大浴場で体に塗りたくった香油が原因などとは、考えもつかない神楽坂であった。「神楽坂さんが……」「大丈夫、明日菜は一度寝たら起きへんから。だってもう、せっちゃんぬれぬれやん」「このちゃん、触ったら。ぁっ」 なんだか熱くないと二段ベッドの上から身を乗り出そうとした神楽坂はその動きを止めた。 二人が眠れないねと小声で会話しているだけなら良かったのだが、艶のある声が聞こえたからだ。 しかも木乃香は神楽坂が眠っている前提で話しており、ちょっと名乗り出づらい。 オナニーしたいと思いつつ、何故か神楽坂は息をひそめることに決めてしまった。 なにか思うところがあったのだ。 それはオナニーを教えて貰った日に見た、亜子とアキラの痴態が頭の隅にあったからかもしれない。「だめや、言っといてせっちゃん乳首立っとるえ。こりこりにしこって、吸って欲しいえ?」「このちゃん、意地悪せんといて。ちゅうちゅう、ぁっ。このちゃん、もっと強く吸って」 小さかった声は次第に大きく、ぴちゃぴちゃと何かを舐める音が聞こえて来る。 確定、神楽坂の頭のなかではかつて見た亜子とアキラの女の子同士の痴態がよみがえっていた。(これ、つまりそういうこと。ていうか、木乃香と刹那さんってそう言う関係だったの?!) あわわと暗がりで顔を真っ赤にしながら、明日菜はうつ伏せになって枕に顔を突っ込んでいた。 それでも防げない耳には、木乃香に胸を吸われて喘ぐ刹那の声が聞こえてきている。 いや耳を自分で塞げばまだマシなはずなのに、むしろ耳をそばだてていた。「せっちゃん、キスしよ」「んぅ、このちゃん好き……今度はうちが、このちゃんの可愛いおっぱいを」「ぁっ、せっちゃん。はぅ、かわええ」 攻守交代、再びピチャピチャと舐める音が響き、今まで聞いたこともない声で木乃香が喘ぐ。(木乃香、そんな声出すんだ……じゃなくて、止め。今更、どういう顔して二人の前に。というか、二人だけずるい。気持ちよさそうな声を聞かされるだけなんて。バレちゃう、バレちゃうから!) 元から体が求めていたのに、直ぐ近くで喘ぎ声を聞かされてはたまらない。 最初は止めないとという思考であったのに、神楽坂は自分が気持ち良くなる方に流されていた。 最後の抵抗ゆえか、顔を伏せていた枕に噛み付く様に歯を食いしばり、腰を持ち上げる。 出来るだけバレないように、そう願いながら自分の体に手を伸ばしていく。 左手はやや強引にブラジャーをずらし、刹那が木乃香の胸を舐めるリズムに合わせて揉みあげる。 まるで二人の痴態に自分も混ざっているかのごとく。(やだ、もう濡れてる……木乃香と刹那さんがエッチなことする声で、オナニーしちゃう) 胸を愛撫する左手とは違い、右手は本命たる快楽発生地点へ一直線。 今更パジャマの上からなんてまどろっこしいことはしない。 荒っぽくパジャマのズボンを下げ、お尻を突き出したまま右手はパンツの上をなぞる。 指先で何度か割れ目をこすこすとなぞり、腰の震えと共に割れ目の中に指をじゅんっと埋めた。「ふぅ、んくぅっ」 声は挙げちゃ駄目と、枕をかみしめながら神楽坂は自分で自分を愛撫していく。 胸を柔らかに揉んでは指先で乳首を摘み、刺激を与える様にこねる。 最初はパンツごしに触れていた局部も、もどかしいとばかりに指はその中に入り込んでいた。 愛液が染みだす割れ目に指を埋め、自分の指を何かの代わりであるかのように擦り上げる。「せっちゃん、シックスナインしよか」 そう木乃香が呟くと、二段ベッドの下がごそごそと騒がしくなった。(シックスナインって、ああ……わかんない、木乃香はなにをされてるの。指いれて良い? 良いよね?) 今再び、これまでより大きく何かを舐める音がそれも二つ同時に聞こえて来た。 まだまだ性の知識が浅い神楽坂には、二人がどういう体位なのか想像することすらできなかった。 ただとにかく二人が裸で抱き合い、もういっそ凛とした雰囲気の刹那にモノが生えた設定で妄想する。 男が勃起した一物を、もちろん見たことはないのだが。 一物が生えた刹那が木乃香に挿入する、もうそれで良いと神楽坂は決めた。「んぅっ、んっ……んー」 木乃香と刹那がお互いを舐め合う音を脳内で変換し、それをオカズにオナニーを繰り広げる。 既に神楽坂の指は一本だけだったが、膣の中に入ってしまっていた。 普段はむつきがおかずなだけに、親友や友達をおかずにしたことで異常に興奮していた。 噛みしめた枕は涎でべとべとで、脱ぎ損ねたパンツも以下同文であった。 ただ今は親友をおかずにする背徳感で頭がいっぱいで、声を潜める意識も半ば吹っ飛んでいた。「ぁぅ、ぐっ……んっ、んっ」 普段よりスムーズに、より深く指が膣の中にうずもれていく。 気持ち良い、とにかく気持ち良い。 愛液にまみれた指を深く受け入れる度に腰が打ち震え、もっともっと奥に入れたくなる。 普段は奥に入り過ぎることが怖いが、今はそんな恐怖さえなかった。 ただただ気持ち良くなりたい、オナニーで絶頂したい。「いぐ、うぅ。ぁっ」 来たと、その絶頂が来たと神楽坂は腰を跳ねあげグッと枕をかみしめた。 そのまま思い切り枕に顔を埋められたのは僥倖だった。「んぐぅ、んぅッ!!」 絶頂の悦びの声までも枕に埋め、体全体が悦びに打ち震えていた。 既に指は根本近くまで膣の中に埋もれており、自分が指に吸い付いているのがわかった。 搾り取る為に、男のアレから搾り取る為にと気づいてまた絶頂する。「ぁっ」 真っ白な大きな波が過ぎ去り、小さなさざ波が打ち寄せ身体が小さく痙攣し続ける。(イッた……今までで、一番気持ち良かったかも。ぁっ、でもまだ) 枕に涎をたらし、頭が真っ白になり視界までぼやけるなかでもまだ体の熱は収まらなかった。 普段は一度イケば収まるのに、入ったままの指をまだ膣壁がちゅうちゅうすいついていた。 もっと欲しい、まだ欲しいと体が快楽を求め続けている。 何故だろうとは、もう神楽坂は考えなかった。 理由はどうでも良い、気持ち良いからオナニーをする。 愛液にまみれていない左手で枕もとの携帯電話をとり、何時ものおかずを取り出した。 上半身裸の水泳着姿で撮られたむつきの写真であった。「ぁぅ、乙姫先生……先生。私結構、胸あるの。先生は大きな胸は好き?」 ブラジャーが半脱ぎの胸を自分で揉みしだき、携帯電話の写真へとささやきかける。 想像の中で答えられた言葉に顔を赤らめ、膣の中に入ったままの指をくにくに動かす。「エッチ、私が好きなのは高畑先生なんだから、勘違いしないで。好きなのは、好きなのは」 普段とは異なるおかずでオナニーしたせいか、普段のおかずがより美味しく感じられる。 また一つ、オナニーの仕方を開拓した神楽坂であった。 そのせいで、完全に声を潜めることを忘れてしまっているわけだが。 元より、神楽坂が起きていたことは、二段ベッドの下の二人は気付いていた。 あれだけ激しくオナニーすれば、ベッドが軋むのでわからないはずがない。「明日菜、何時もは一回戦だけやのに。燃えとるなあ。可愛ええ。いつもああやって、高畑先生と乙姫先生の間で揺れとるんやえ?」「うー、このちゃん」 シックスナインでお互い愛し合っていたというのに、神楽坂の名を出された刹那が膨れる。 捨てないでと縋りつく様に、刹那が体位を戻してキスをして頬ずりを始めた。「嫉妬するせっちゃんも可愛ええよ。でも、なんで今日はこんなにムラムラするんやろ」「恐らくは、あの香油が体質的に……」 刹那はザジや真名の正体を知らないが、なんとなく察しはついていた。 元からむつきを誘惑できるということは、軽い興奮剤作用もあるのではと。 絶対に明日問い詰めると決意しながら、刹那は組み伏せていた木乃香を血走った眼で見下ろした。 肌蹴られたパジャマの胸元、やや強引に脱がされたブラジャーの奥から白い胸がこぼれている。 気恥ずかしそうに顔をそむけながらも、木乃香の瞳は流し目で刹那を誘っていた。 意地悪したぶん、今日は刹那が刹那のしたいようにして良いのだと。「このちゃん!」「やーん、せっちゃん目つきが嫌らしいえ」「このちゃんが、このちゃんがいやらしく誘うから。うち、うちぃ!」 刹那が愛しいお嬢様である木乃香にむしゃぶりつき、二段ベッドの下を軋ませる。 一方でオナニーを止められなくなった神楽坂も二段ベッドの上で艶のある声を上げていた。 火照る身体に任せるばかりで、もはや声を潜める事すら忘れている。「あっ、んぅ。そんな所、汚い。先生、触っちゃ。あんっ!」 全く自重しない喘ぎ声が三つ、深夜を超えても二段ベッドの上と下で響き続けていた。 -後書き-ども、えなりんです。瀬流彦の合コン相手は、ラブひなからこの三人にしました。三人はむつきの結婚を期に、そろそろ引きずってる場合じゃないと考えた感じです。年齢設定は、独自のものですがむつみが二八、九だったはずなので逆算しました。明日菜は攻略に時間がかかるので、どうしてもオナニーネタになってしまいます。もう二話ぐらいだけ、これひっぱります。物凄くしょうもない話ですが、元々そういう話ですしね。それでは次回は未定です。