第百二十五話 感謝してるけど、殴って良い? アレだけ高まっていた神楽坂の集中力は、見るも無残に散り散りとなってしまっていた。 三限目の授業であるむつきの社会科の授業になってもだ。 神楽坂は机にうつ伏せになるようにして頭を抱えっぱなしであった。 昨晩のあの後、厳密には五回ぐらいイッた後には気絶して朝になっていたのだ。 結局、自分の痴態を木乃香や刹那にバレたのかは分かってはいない。 ただ朝食時の刹那の余所余所しさを前に、バレていないと考えられる程に楽観的でもなかった。 興奮し過ぎて記憶はおぼろげだが、最後の方は乙姫先生とか、見ないでとか叫んだ気もする。 妄想は加速するところまで加速し、最後には高畑の目の前でむつきに抱かれるまでになっていたのだ。(パルが前に言ってた寝取られとか言う……じゃなくて。あー、もうどうしよう。正直に、私のオナニーばれてないよねって聞くのも変だし!) 頭を抱えながら、チラリと一瞬だけ神楽坂は隣の席の木乃香を見た。 京美人という言葉を知ったのは最近だが、それに見合う白い肌に黒く艶やかな長い髪。 明るいオレンジの髪の神楽坂は、実はこっそりあの黒髪に憧れていたりもする。「んっ、どうしたん明日菜? 授業、ちゃんと聞かなあかんよ。今日のところまで、テストで出るえ?」 にっこり可愛く笑った木乃香にそう言われ、神楽坂は慌てて立てていた教科書に顔を隠した。 変な明日菜と笑う鈴をころころするように笑う木乃香は、普段と変わらない。(そう、木乃香の反応だけならバレてない、ないんだけど) 視線を隣ではなく、右手前方の春日を挟んだ向こう側に向ける。 木乃香と同じ京美人ながら凛とした雰囲気のある刹那が、真剣な顔つきで壇上のむつきを見ていた。「まだ当時、織田信長は現在の名古屋の小さな規模の城主でしかなかったんだ」 真剣さの現れか、何処か熱を帯びた表情でむつきを見ていた刹那がふと振り返る。 バチッと電気が走ったかと思うぐらい明確に、神楽坂と刹那の視線がかみ合った。 きっかけが何かはわからないが、お互いに頬を火照らせ一斉に視線をそらし合う。 これだ、神楽坂が昨晩の出来事がバレていないと言い切れない理由が刹那の反応だ。 見てはいけないモノを見てしまったかのようなあの反応。(うぅ……絶対に聞かれた。なんで五回もしちゃったんだろ。何時もは一回ですっきりするのに!)(お、落ち着け。明日菜さんは自分のオナニーに夢中で、私とこのちゃんの痴態には。私にもっと自制心があれば。このちゃんにこんな恥をかかせずとも!) 似たようなことを考えているとはお互いに思いもよらず。(ああ、流された……だって、美砂と桜子があんあん始めるから。男の子と手も繋いだことないのに、桜子におっぱい吸われて、美砂には大事なところにキスされて。ちょっと、いやかなり気持ち良かったけど!) そしてもう一人、刹那の隣の席でも釘宮が昨晩二人の同居人に体を弄ばれたことを後悔していた。 一人だけならまだしも、二人も三人も頭を抱えていては、壇上のむつきからは丸見えであった。 軽く忍び足で足音を殺し、教科書を丸めてはパコンと三回振り下ろした。「たっ」「はぅ」「あ、痛い。なんか私だけ強くない?!」 順に釘宮に刹那、最後に春日の机に手をついて体を伸ばして神楽坂の頭を叩いた。 私だけと言ったのは、身を乗り出した分少し強くなってしまったからだろう。「三人とも、昨日の集中力はどこいったんだよ。他の皆は、まだまだ集中力持ってるぞ」「ああ、すまない先生」 呆れたように注意したむつきを引き留めたのは、手を上げた真名だった。「昨日は私が大浴場で、彼女たちの体質に合わないボディーソープを渡してしまったんだ。それで少しばかり眠れず、集中力が欠けてしまったんだ」「そ、そうなのよ!」 真名の助け舟を前に、勢いよく立ち上がった神楽坂が声も高らかに言った。「おかげで、何時もは一回しかしないのに五回もオナニーしちゃったんだから!」「え?」 むつきの何を言ってという疑問符の呟きを最後に、元から静かだった教室がもっと静まり返った。 真冬の山奥の湖の近くの様に、枯葉が湖面に落ちる音さえ聞こえそうなぐらいに。 チクタクと時計の針だけが枯葉の代わりに音を刻んでいた。 自分の発言に気づいた神楽坂が、慌てて両手で口を抑えるが完全に遅きに失している。 チラリと動いた眼球が、一席挟んだ向こうに立っていたむつきを追う様にとらえた。 ちょっとだけ頬を赤らめ、微妙な顔で視線をそらそうとしているところであった。 反対に神楽坂はちょっとどころではなく、足の先から頭の天辺まで真っ赤に染まっていた。「い、いやぁっ!!」 授業中だということも忘れ、大声で悲鳴を上げた神楽坂が走り出した。 止める間もなく、狭い机の間をぬって教室を飛び出して走っていってしまう。 遅れること数秒、ざわざわとちょっとだけ懐かしささえ浮かぶざわめきが二-Aを覆い始める。「近衛、マジで五回なのか。さすが体力お化け、一晩で五回もって普通に凄いな」「下手をすれば我々は一回で気絶させられかねないです」「本当、明日菜さんが羨ましいですわ。それだけ体力があれば、私も……」 体力がない千雨や夕映は、普通にその数に感心していた。 あやかも色々な意味でのライバルである明日菜の思った通りの体力に呆れながらも羨望している。「ねえねえ、裕奈。オナニーってなに?」「私にふらないでよまき絵」「あはは、まきえってばお子様。そんなことも知らないの」「恥ずかしい……」 佐々木が席の離れた明石に大声でオナニーの意味を問いかけていた。 風花がそれを見て大人ぶっては笑い、初心な村上はそばかすのある頬を赤らめ俯いている。「龍宮さんが色々伏せてくれたのに、明日菜らしいって言えばらしい?」「ザジ、私に責任の大半があるとはいえ。お前にもあると思うのだが」「わかりました。では、後日神楽坂さんには私の香油を一ダースほど贈らせて頂きます」「それは返って嫌がらせになるんじゃ……」 美砂が笑い、真名がザジを問い詰めるが反省の色は全くなさそうだ。 アキラが止めておいた方がと突っ込んでも、ニヤリと逆に笑われる始末であった。「騒ぐな、まだ授業中だ!」 最近、二-Aを操ることに長けて来たむつきでさえ鎮めるのに十分近くも掛かってしまった。 丸一日、勉強に打ち込んだストレスが一気に爆発したせいもあるだろう。 あまりの騒がしさに新田が飛び込んできそうだったが、ギリギリセーフ。 さすがに何故こんな騒ぎになったのか、説明するのも一苦労だったに違いない。 まだまだ隣同士でひそひそ話したりはしているが、まだ授業の終わりまで二十分近く残っている。 正直に言えば神楽坂を探しに行きたいが、むつきがこの場を離れてしまえば元の木阿弥であった。「授業を続けるぞ。その前に和泉と雪広」「あっ、はい」「なんでしょう、と聞くまでもないですね」 この状況であやかはなにを求められるかしっかり把握しているようだ。 委員長であり特別神楽坂と親しいあやかはまだしも、亜子はちょっと戸惑っていた。「二人は神楽坂を探してきてくれ。別に授業に間に合わなくても良い。ゆっくりと落ち着かせてくれれば良い。それでだめなら連絡くれ、女の先生寄越すから。それから、和泉これを」「ああ、そうやね。そういうのなら、うちの出番や」 むつきがあるモノを亜子に渡すことで、彼女も気づいてくれたようだ。 女の子が性的なことで困ったら、小瀬の時の様に相手の心を傷つけず踏み込める亜子の出番だ。 神楽坂のように体力お化けであっても、普通の女の子が授業中にオナニーなんて口走れば傷つくはず。 現に神楽坂は羞恥に耐え切れず、授業中にもかかわらず飛び出していってしまった。 人選はこれで間違いないはずと、出掛けに小鈴から何かを受け取った二人を見送る。 それからむつきは携帯電話を取り出し、今の時間に手が空いている女の先生を数人思い浮かべた。 むつきが現場を離れられない以上、何か間違いがあってはと手を借りるためでもあった。 むつきの心配を他所に、亜子とあやかは的確に明日菜の居所を掴んで発見できていた。 場所は体育館の隣、水泳部の室内プール場の入り口の扉の前で神楽坂は膝を抱え込んでいる。 その膝の間に顔を埋めており、心なしか両肩が震えているようにも見えた。 自然と目で追った足元を見れば、その答えは一目瞭然であった。 それはそうだろう、性に奔放なむつきのお嫁さんたちも、ひかげ荘という場所だからこそだ。 日常の象徴でもある教室などでセックスやオナニーなど高らかに言えば恥ずかしいどころではない。「明日菜さん」 だからまずはあやかが神楽坂の隣に座ってそっと肩を抱き、その間に亜子が室内プール場の鍵を開けた。 本当はいけないことだが、学校という閉鎖空間で思い切り泣ける場所など限られてくる。 亜子がカギを開けるとあやかが神楽坂の肩を抱いたまま支えて中へと招き入れた。 あやかは入るのが初めての為、亜子が先導して監督室へと連れて行った。 監督室も鍵が掛かっている為に亜子がそれを開け、そこに座らせてとソファーを指さした。「さあ、明日菜さん。お座りになって、もう我慢しなくてもよろしいですわ」「だって、体が熱くてあそこが凄くむずむずして。木乃香と刹那さんが。だから我慢できなくなって!」 あやかが促すと堰を切ったように、神楽坂が火のついた赤子のように泣き始める。 物の順序は支離滅裂だが、真名や香油の件、それから木乃香と刹那の個人名から色々と察せられた。 色々と悪条件が重なり、最終的に昨晩に五回もオナニーしていたことをむつきの目の前で叫んでしまったと。「本当にもう、明日菜さんはおっちょこちょいなんですから」「うるさい、うるさい。委員長に私の気持ちが分かるもんか、よりによって乙姫先生の目の前でオナニーしてるって。変態だって、オナニーばっかしてる子だって思われたら。恥ずかしくて、もう教室に戻れない!」「明日菜、別に授業に間に合わなくても良いって先生言ってたよ」「なにがよ!」 あやかだけでなく、亜子に出さえドスの利いた言葉を向けるのは相当精神的にきているようだ。「乙姫先生は、明日菜が落ち着くまでゆっくりしろって言ったんよ」「どういうこと?」「先生は明日菜さんがこの上なく恥ずかしいと思った発言を前に、冷静にクラスを静め、私と亜子さんの二人を明日菜さんを探す為に派遣しました。明日菜さんが思う程には、気にされてないということですわ」「そんなの、わかんないじゃない。本人に聞くわけにもいかないし!」 まだまだ興奮状態の神楽坂に理路整然と述べても逆効果なのだろう。 根気の勝負かなと、一度ソファーを立った亜子は、勝手知ったる監督室で飲み物を用意し始める。 涙こそ止まったものの、猛獣のように唸る神楽坂をあやかがソファーの隣に座って宥めていた。 一時静寂に包まれた監督室だったが、直ぐにその静寂は破られることになった。 三限目が終了するチャイムの音である。 その音に気を張っていた神楽坂はビクつき、無意味に挙動不審となっていた。「授業終わっちゃった。コーヒーしかあらへんけど。委員長と明日菜は砂糖とミルクは?」「私はどちらもいりませんわ」「ミルク、砂糖たっぷり」 ずっとあやかに肩を抱かれ軽く抱きしめられたせいか、ほんの少しだけ神楽坂は落ち着いたようであった。 亜子は二人の前にコーヒーカップと砂糖やミルクを出すと、ポケットから携帯電話を取り出した。 二人にどうぞと手で勧めながら、逆側の手で携帯電話に登録されている愛しい人の名をタップする。 あやかに少し甘えるように、砂糖とミルクをいれて貰っている神楽坂を見ながらコール音に耳を傾けた。「もしもし、和泉か。今どこに?!」 受話器から洩れた声は小さいはずだが、神楽坂が過剰に反応してあやかに抱き付いていた。「先生、声おさえてや。明日菜が驚いとる。無事見つかったら、超さんが明日菜の携帯のGPS追えるように手筈してくれてたから」「そ、そうか。ああ、それで。無事なら良い、一先ず手伝ってくれた先生にも上手く言っとく。ああっと、昨晩勉強し過ぎて授業中に寝てたら、鼻提灯作って割れたのが恥ずかし過ぎて逃げ出したってな風に」「それはそれで、結構恥ずかしいと思うけど。明日菜、聞こえた?」「うぅ……」 中途半端な返事だったが、首は確かに頷いていたので亜子はそれで良いと伝えた。「なら、俺の声が聞こえるのも神楽坂が嫌がるだろ。連絡はこれで良いから、二人はしばらくついていてやってくれ。後の授業の先生には、言っておくから」「あっ、先生待った。ちょい、待ってや」「なんだ、和泉?」 神楽坂の精神安定の為にも、手早く電話を切ろうとしたむつきを亜子が止めた。 これには監督室にいたあやかも少々首をひねっている。 むつきの言う通り、神楽坂が一番恥ずかしいと思った相手と長々と話すべきではない。 まずはなによりも神楽坂が落ち着くことが先決なのである。 それがわからない亜子ではないだろうが、彼女は色々な意味で大胆不敵という奴であった。 背中の傷を負の遺産と思わなくなった経験から、荒療治が好きなのかもしれない。「うち、いつもオナニーする時、先生のことおかずにしとる!」「ぶーーーーッ!」 携帯電話の向こう側にいるむつきへと叫んだ亜子を見て、コーヒーを噴き出したのは神楽坂だ。 噴き出した後も、唇の端から残ったコーヒーを垂らす神楽坂の口元をあやかがハンカチで拭いている。 そして亜子のとった行動の意味も、あやかはしっかりと理解していた。 恥ずかしそうにしながらもニヒッと笑った亜子へと手を差し出し、あやかは携帯電話を受け取った。「先生……」「あや、雪広か。すまん、鼻水吹いた」「私も、オナニーする時は先生をおかずにしていますわ!」 亜子と同じように携帯電話の向こうに叫ぶと、何かを言われるよりも前に電話を切った。 そのまますまし顔で亜子に携帯電話を返したあやかだが、時間が経つにつれ頬が赤くなっていく。 相当我慢しているのか、コーヒーカップを持って手がプルプル震えていた。「ちょっ、ちょっと二人とも。わた、私がオナニーなんて教室で口走ったからって、そんな嘘」「あれ、小瀬先輩と一緒に明日菜にオナニー教えた時も言ったやん。私、オナニーする時は先生をおかずにしとるって。ほら、携帯電話に先生の写真入っとる」「わ、私も……実は」 しれっと恥ずかしげもなく言った亜子が、携帯電話のメモリから秘蔵画像を取り出し見せた。 秘蔵と言ってもむつきの勃起写真が入っているわけではない。 亜子から見ればキリッと凛々しく見える、あばたもえくぼなむつき画像だ。 夏祭りの時の浴衣姿のものや、夏休みの旅行中に風呂上がりに見せてくれた私服姿など。 あやかのそれも似たようなものであった。 実際はひかげ荘でもっと凄い姿を見ているが、平日になかなかセックスできない時は恩恵にあずかっている。「亜子ちゃんは前に聞いたけど、委員長はなんで?」「私も明日菜さんと似たようなものですわ。何度か相談に乗って頂いて、素敵な人だなと。良く行く財閥開催のパーティなどでお会いする下衆な方たちよりも余程」「あ、なんかごめん」 神楽坂は財閥のパーティなど知らないが、想像ぐらいはできる。 特にすまし顔が多いあやかが嫌悪をあらわにしたことで、その度合いが知れるというものだ。 神楽坂から見て、亜子とあやかが我が身を斬り裂くことで少し普段の自分が戻り始めたようであった。 二人がむつきとはのっぴきならない関係なのはそれはそれ。「明日菜、前も言ったけどオナニーは皆しとることやから。教室で叫んじゃったのは失敗やけど、思ってるほど皆は気にしてへんよ」「そうですわ。精々が、また高畑先生を前に緊張して何もできず、失敗を繰り返した。そういうレベルのお話ですわ」 亜子は兎も角、しれっと失礼なことをあやかに言われ、神楽坂が拳をふるふる震わせていた。「い、委員長心配して駆けつけてくれたのは感謝してるけど、殴って良い?」「どうぞ、ご自由に。それでこそ、明日菜さんですわ」「なんか、癪だから殴ってやんない」「ふふ、少しは大人になられたようですわね」 それでもむかつくと、ふんっとそっぽを向いて神楽坂はまだまだ熱いコーヒーをすすった。 インスタントだがそれなりに良い香りを吸って、なんとなく自覚が出て来た。 教室を飛び出した時よりも、自分が落ち着いていることにだ。 あの時はもう自殺でもするしかないぐらいのつもりで飛び出したが、なんだかなと思う。 もちろん、あの時のことを思い出せばまだ顔から火が出る思いなのだが。「ねえ、もう聞いてよ二人とも。昨日は大変だったんだから」 開き直ったとでも言うのだろうか。「龍宮さんはボディーソープってごまかしてくれたけど、大浴場でザジさんから貰ったって香油を皆で試したの。木乃香と刹那さん、他には柿崎や桜子、釘宮で」 自分の為に我が身を切ってくれた二人にならと、神楽坂は昨晩の出来事を語り出した。 さすがに木乃香と刹那のことは勝手には言えないので少しぼかしつつ。 香油が体質に合わず、自身に興奮作用が働いて非情にムラムラしたこと。 我慢できずにオナニーしたは良いモノの、頭が真っ白になってそのまま気絶するまでしたこと。 五回と言ったが、記憶が途切れたのがそれぐらいで、たぶんもっとしていたことまで。「ねえねえ、明日菜はどんな妄想でするん? うちはこの監督室で水泳部のことで相談しに来たら、我慢できなかったって襲われたり。基本、襲われる系がお気にいり」「わ、私は……高畑先生のことで相談してたら、俺の方が絶対幸せにできるって迫られて。べ、別に私はそのつもりないんだけど。先生が強引に。い、委員長は?!」「知らない方と無理やり結婚させられそうな場面で先生に助けられ、駆け落ちするままうらぶれた宿で初夜を始める妄想がお気に入りで。俺について来いと、お前は俺のものだと。私がはいと言うまで執拗に何度も」 オナニーという単語でさえ恥ずかしがる中学生が、性癖に近い暴露大会である。 あやかまでもが妄想の一端を口にすると、三人でキャーッと恥ずかしそうに悲鳴を上げた。 特に神楽坂と巻き込まれたあやかは、顔から火が出ると両手で顔を隠しながら。 寝取り系と駆け落ち系も良いなと、その発想はなかったとうんうん頷く亜子は例外すぎる。「明日菜さんは、何時もどのようにされるのですか? やはり、指ですか?」「え、指以外にどうやってするの?」「あちゃ、教えてへんかったっけ。こういう、ピンクローターってあるんやけど」 亜子が近くにあったホワイトボードに簡単な絵をかいて説明を始める。 それをとても興味深そうに、神楽坂は見入っては説明を聞いていた。 皆が自分と同じなんだと安心したのか、四限目が終わるまでオナニー談義はつきなかった。 四限目はそのまま丸々サボり、明日菜が教室に戻ったのはお昼休みのことであった。 思い切り泣いて、赤裸々にお喋りしてすっきりして、明日菜はあっけらかんと返って来た。 教室を飛び出した時の勢いを知るだけに、拍子抜けするほどだ。 だがその原因の一旦でもある木乃香は、神楽坂が帰って来るなり泣きながら抱き付いていた。 神楽坂は知らぬことだが、昨晩は彼女が起きていることを知って木乃香は刹那と致し始めたのである。「明日菜!」「わっと、木乃香どうしたのよ」「私が色々と黙っとったから明日菜に変な負担かけてもうた。うちも、昨日はムラムラしてせっちゃんとエロエロなことしとったえ」「ああ、そのこと。まあ、良いわそのことは。アレは耐えられないわよ」 よしよしと慰める立場が逆転して、神楽坂が木乃香の背中を撫でつけていた。「うひょー、意外なところから百合ん百合んな情報が。やっぱ、木乃香と刹那さんってそういう関けぐほぉッ!」「パル、場にそぐわない茶々は嫌われるですよ。ご協力感謝です、長瀬さん」「なんのなんの、にんにん」 やはりと言うべきか、茶々を入れる様にメモを片手に興奮した早乙女は、長瀬の当身で気を失った。 あれを当身と言って良いのか、はた目にはボディブローのようにも見えたが。 ぐったりした早乙女はその辺に放置され、改めてこほんと夕映が声の調子を整えて言った。「今日のお昼休みは赤裸々にいくです。というわけで、のどか先に謝罪しておくですよ」「どうしたの、ゆえゆえ?」「私こと、綾瀬夕映は恥ずかしくも親友の想い人である乙姫先生でオナニーしたことがあります」 夕映の突然の告白に教室内が騒然とし始める。 が、そもそも二-Aの生徒の大半はもとより、むつきのお嫁さんであった。 最初からそう決まっていたかのように、想像上のマイクを和美が夕映に向けた。「では夕映きち君。それは妄想で? どういうシチュでしょうか?」「元々はのどかに上げる予定だった先生の秘蔵画像です。シチュは……本当に恥ずかしながら、三角関係のもつれという少女漫画にありがちなシチュです。のどか、あくまで妄想ですよ」「はいはーい、夕映ちゃんが赤裸々にというならまずはこの柿崎美砂様でしょ。ほら、朝倉。マイク、マイク!」「なんとなく、予想はつくけど」 赤裸々告白タイムなら任せろとばかりに手を上げた美砂に、和美がマイクを向けた。「柿崎美砂は、乙女の一番大事なものを彼氏にあげちゃいました。非処女でっす!」「ああ、便乗で悪いけど。私も彼氏に上げちゃってる。他に非処女の子はいる?」「それなら私も非処女だな。ささげたのは最近だが、アレは痛かった……」 美砂一人なら信憑性は低かったのだが、和美と真名と続けば俄然それは高くなってくる。 夕映の告白に続き、非処女宣言と宮崎などは情報過多で目をぐるぐるさせていた。 二-Aでひかげ荘を知らない者の方が極一部だが、その極一部が本当にと騒いでいた。 鳴滝姉妹や春日に那波など、早乙女と宮崎は異なる意味でノックダウン中だった。「ふん、処女のお子様が騒がしいな。私のような大人は当然、非処女だ」「というように、犯人はわけのわからないことを申しており。はい、次の告白」「おい、何故私だけ信憑性皆無だ!」 ふんぞり返ったエヴァの告白は、和美にスルーされつつ。「なら少し毛色を変えて。ちょっと前までネットアイドルやってた。私はむしろ、ちんこ弄ってばっかりの男のオナニーのおかずになってた。ああ、今思えばきしょい!」「はい、気になる方はネットアイドルちうで検索、検索。最終更新日時は五月位だけど。では次」「えーっと、私が先生をおかずにって言ってもインパクトないかな。亜子とおっぱい舐め合ったり、色々としたことあるよ」「おお、面白い方向性だね。じゃあ、レズっぽいことしたことある人は挙手」 和美の言葉に、言い出しっぺのアキラは当然としてその相手役の亜子が手を上げた。 さらには神楽坂を困惑させた木乃香と刹那、美砂と桜子に昨晩巻き込まれた釘宮。 やっぱりひかげ荘の面々が手を上げることで、認識が常識が書き換えられる。 別に悪いことの為にではなく、傷ついた神楽坂を癒す為にだ。「あの、さっきから全くついていけないのだけれど。皆、乙姫先生をその……オナ、オナぃで」 置いてきぼりの状態から、そこだけはと声を上げたのは那波であった。 ただし、素面で乙女がオナニーなど言えるはずもなく、言葉を口ごもらせながらだ。 普段クラスの中で大人を見せる那波が、重ねた手の指をもじもじさせている。 初心よのうと、微笑ましくされる側なのは貴重な体験だったのかもしれない。「ごめん、那波さん。本屋ちゃんや那波さんが先生を好きなのは知ってたけど、何時も乙姫先生をおかずにしてオナニーしてたわ私」「明日菜、謝らんでもええて。女子中にしかも寮から通ってる私らって、お父さん以外で一番親しい男の人って言ったら先生以外におらへんやん。自然とおかずの対象になるって」「千鶴さん、今まで黙っていましたが実は私も何度か経験がありますわ。先生に抱かれる妄想でイッたことさえ。想像するだけなら、自由ですから」「というか、那波殿の戸惑いも当然であって。何故、おなにぃ以上の暴露大会になっているでござるか?」 畳みかけるように明日菜から亜子、あやかと那波に詰め寄る様に言い募り、助け舟を出したのは長瀬だった。 当然と言えば当然、ごく当たり前の疑問でもある。「そんなの、神楽坂が授業中にオナニー五回したって先生に報告するからじゃねえか」 ニヤニヤと笑いながら話をまぜっかえすように千雨が耐え切れず噴き出した。「ていうか、普通おかずにした相手を前に報告するか。本当に、お前は面白いな」「わ、笑わなくても。つい言っちゃったんだから、仕方ないじゃない!」「そうだよね、五回もついイッちゃったんだもんね。明日菜は凄いよ。五回って、どんだけ体力馬鹿」「うるさいわね、柿崎!」 ムキーっと何時もの調子で神楽坂が美砂におどりかかり、ぽかぽか殴り始める。 もちろん、彼女の全力ではなく普通の女の子である美砂が受けられる程度の威力でだ。 その姿を見て那波もこの暴露大会の本当の意味を察し始めた。 本来なら察しの良い彼女ならもっとはやく気づくべきだが、内容が内容だからだろうか。「明日菜、空元気とかじゃなくて。普通に気にしないようになったんだね」「まあ、恥ずかし過ぎて一杯泣いたけど。これだけ皆が恥ずかしい告白大会してくれたしね」「いやあ、極一部は言いたくて仕方がなかった事を告っただけだと思うけど」 村上に心配された神楽坂自身が、元気にならざるを得ないでしょうと返す。 春日の言う通り、美砂辺りは言いたかっただけという可能性もあったが。「はい、そういうわけで恥ずかしい情報を共有した者同士。超包子のオーナーから、プレゼントがあるネ。取り出したる所の今日の新製品はこれネ!」 ぱんぱんと手を叩きながら教室の前の壇上に上がった小鈴が、あるものを取り出した。 何処に隠していたのか、どうやって持ってきたのか。 分厚い一冊の本、どうみてもピンクで肌色な絵図が乗ったナニか。「日本の性教育は遅れているネ。そこで正しいオナニーの方法が乗ったマニュアル本を皆にプレゼントするネ。ローターと電マの中とじ付きヨ」「超りん、もう一声。私アナルビーズも欲しかったり」「おお、亜子さん。それは盲点ネ。他にリクエストはないか? いっそ彼氏とのプレイ用の首輪でも用意するヨ!」 ただし、オナニーにふけり過ぎてテストに集中できないと困るのでテスト後。 これを目標にテストにまい進するべきと、小鈴がクラスメイトに向けて微笑んだ。「ごめん、亜子ちゃん。それに超も、流石に引いた」「「あれ?!」」 慰めていた相手から、ドン引きされるとも思わずに。 -後書き-ども、えなりんです。いずれ劇中が1月に進んだら姫はじめネタを書きたい。さて、今回も明日菜がメイン回です。授業中にやらかしちゃう系ですね。誰しも先生をお父さん、お母さんと呼んだ経験はあるはず。それを18禁方面にしたら、明日菜が爆発しました。しかし、この明日菜は相当グラついてます。むつきをおかずにするようになってから、また加速したかもしれません。さっさと高畑から離したいですが、劇中はまだ9月か10月。クリスマスは遠い……次回は土曜日です。土曜日ですよ。久々に宣言しておきます。