第百三十九話 悪戯にしちゃあ、人数多いな「ご心配をおかけしました」 教卓の横に立った千鶴が、目の前のクラスメイト達に向けて深く頭を下げた。 千鶴が学校をサボって失踪した件は、村上を通してクラスメイト達にも伝わっていたのだ。 ただしその謝罪を受ける側に、何事もなくて良かったと胸をなでおろす子がほとんどいなかった。 二-Aの子たちが、千鶴に冷たいわけではない。 それにはちゃんとした理由があった。「もう大丈夫ですから」 下げた頭を持ち上げ、改めてそう言った千鶴を見て大半の子が察したのだ。(ぁっ……ガッツリ、ヤッて来た) 悩みなんて一つもありませんよという千鶴の笑顔が、その肌がツヤツヤしていたのである。 少女としては持て余し過ぎた体も、女として満たされた今、はち切れそうなほどに充実していた。 ブラウスの胸元など、ボタンが今にも二、三個弾け飛びそうな程だ。 時折、破瓜の痛みか忘れられぬ肉棒の感覚、はたまた注がれた精液に反応して体を僅かに震わせる。 どれもたまらないと唇から艶めかしい吐息を漏らし、視線が誰かさんにちらりと注がれていた。 今からでも、皆の前で愛の証を注ぎ込んで下さいと熱望するように。 千鶴のそんな佇まいは、男を知らない乙女にさえ影響が出る程であった。(ちづる、なんかエッチだよ)(ちづ姉がなんかエロい)(魔法でエロ催眠でもかけられた?)(私ももう少しおっばい大きくなりたい) 鳴滝姉妹の風香に史伽、春日といった面々。 最後の神楽坂は、聞く人が聞けばふざけるなと怒られる事だろう。 そしてもう一人、ある意味で二-Aの問題児ながら肉体的には清い者が両手で机を叩いた。 突然のしかもかなり大きい音が鳴り、教室中の視線が立ち上がった早乙女に集まった。「わ、私は何回……次はど、どこから。いつ襲ってくるんだ。私のそばに近寄るなぁ!」「パ、パル?」 半狂乱になって髪を掻きむしる姿に、流石の夕映も突っ込みより心配が先立つ。「誰がどう見ても、乙姫先生に恋してるのよ。那波さん、のどか。アキラにくーちゃん、桜子……なのに何故、ラブ臭を感じないの?! 元から存在しない、違う。ラブ臭はありまぁす!」 ラブ臭なるものの存在の有無はさておき、早乙女の主張に周りは素直に関心するしかなかった。 早乙女のいうラブ臭とは、女子中学生の甘酸っぱい恋によるものと思われる。 名指しの有無に関わらず、彼女たちは全員がその領域の向こう側にいるのだ。 少なくとも早乙女はラブ臭を感じないことで、我知らずその事に気づき始めていた。「明日菜、明日菜ならわかるよね」「ちょっと、こっちこないで……」 獣の様な息遣いと、地獄の底から這いあがる亡者の声で右手前の神楽坂に魔の手が伸びる。「アンタが私の最後の希望……ほら、今すぐ乙姫先生の事を思い浮かべて、そしてオナッ!」「死ね、今ここで朽ち果てなさい」 眼鏡を真っ二つにする様に、神楽坂の手刀が早乙女の顔面に叩き込まれた。 その鋭さに接地面から煙でも上がりそうな威力だったが、早乙女も必死であるらしい。 そのまま床に沈み込むと思いきや、顔面でとまった手刀を掴み、眼鏡の奥で邪悪に笑う。「ヒャッ、我慢できねえ実力行使だ。先生、明日菜も恋人候補に立候補したいんだってぇ」「ギャー、嘘、嘘だから。私、先生のことなんか、きら……」 まんまと早乙女の策に引っ掛かり、慌てて否定しようとした神楽坂が途中で口ごもる。 嫌いと言おうとして痛みを感じた胸元に手を添えた。 言えるわけがないと、切なげに嫌いじゃないもんと小さく声を絞り出す。 嫌いとも好きとも言ってはいけない二律背反な乙女心である。「ん、あっ……悪い。那波、終わったか?」 これまで静かだった当のむつきは、教室右前に設置したパイプ椅子でうつらうつらとしていた。 千鶴を探して右往左往し、その後で人類の総数に近い命の素を搾り取られたのだから仕方がない。 正直なところ、かなりお疲れモードであった。「スーハー、やっぱ明日菜だけに葉っぱがキマるわ。ビターなラブ臭、ごっそさん。でもないわー、先生それはないわー。難聴系主人公は、嫌われるよ?」「早乙女ぇ、フンッ!」「グェーッ!」 一方、やりたい事をやって悦に入っては、ケラケラ笑っていた早乙女にはきちんと天罰が下された。 神楽坂明日菜という戦乙女の拳が深々と腹に突き刺さり、彼女を九の字に折りたたむ。 本当にいっそロッカーにでもしまい込みたいと、意識のないまま席に座らせる。 もちろん、周囲の夕映や美沙、ザジなども座らせるのは手伝っていた。「まったく、最後の落ちでちゃんと被害者を発散させるまで画策するからなお質が悪いです」「重い、また一段と肉々しい体になってるわね。中身以外割とむつみさんに似てるのが腹立たしい」「ではこういたしましょう」 たまにはきついお仕置きをと、ザジがどこからともなく荒縄を取り出した。 両足を椅子の上に置くM字開脚で座らせ、縄で縛りあげる。 流石に机のせいでむつきからは、早乙女の下着等はみえなかったが。「なにやってんだよ。ザジ、もし他の先生が来たら、即時解いてやってくれ。俺が怒られる」「先生の性癖的に、この状態でブラはともかく、パンツは没収しない方がよろしいですか?」「好きにしてくれ、あと那波も席に戻れ」 ふらふらとパイプ椅子から立ち上がったむつきは、おざなりにそう言うと那波を席に戻らせた。 現在は六限目のホームルーム中なのだ。 まずはやるべきことを先に済まさねば、おちおち居眠りもできやしない。 M字開脚させられた早乙女より、普通に立ってる千鶴の方がエロくねと騒めくクラスを静める。「はいはい、静かに。今日は体育祭に向けて、各自の出場競技を決めるぞ」 まだ若干、千鶴の淫靡さにクラスが引きずられながらも、程よい大きさの返事が返ってくる。 麻帆良は巨大学園都市なので、麻帆良祭のように体育祭も学園都市単位で行われるのだ。 しかしさすがの麻帆良も全学校が同時に集まりかつ、競い合える広大なグラウンドはない。 そこで同時多発的に指定の学校のグラウンドで何らかの競技が行われる。 各学校、各クラスは何時何処の競技に出場すると決めておいて、規定数以上の競技を行う。 各競技で得た総合得点により、総合優勝や学校優勝などが決められる。「先生、そこからはこの雪広あやかにお任せあれ」「悪い、頼んだ。お前らも賑やかは許す、騒ぐのは拳骨な」 やはり疲れが一目でわかるのか、あやかがバトンタッチしてくれた。 これまたふらふらと教室右手前のパイプ椅子に戻り、座り込むと大あくびが出てしまった。 それでも意図して自分から眠り込んだりせずに成り行きはちゃんと見ていた。「それでは、まずは個人競技を決めてしまいましょうか。団体競技はその後ですわね」 あやかが喋りながら最前列から回して配ったプログラムを手に教室内が賑やかになり始める。「チア部としては応援合戦は鉄板よね。長谷川、一緒にやらない?」「やだよ、ミニスカで踊り狂うとか。私はもっと楽な競技でお茶を濁すよ、借り物競争とか」「図書館島を使った、本探し競争あるですよ?」「私に遭難して死ねってか」 美砂と夕映の誘いをはねのけた千雨が、ぶつぶつ言いながらもプログラム一覧に目を通している。 個人の出場数に上限はないが、当然ながら下限は設けられているのだ。 インドア系の千雨にとっては、運要素が絡む競技の方が、手を抜きやすい。「さよちゃん、今回が初めてでしょ。なにか出たい競技ある?」「かけっこは苦手ですけど、パン食い競争がちょっと面白そうです」「さよちゃん、それ辞めた方が良いよ。大口開けて取らなきゃいけないから、女の子の出場ほぼゼロだから。なんなら、私と一緒に二人三脚出る? 背丈同じぐらいだし」「二人三脚なら、お姉ちゃんと私を忘れないでください」「なになに呼んだ? 二人三脚で僕ら姉妹に勝てる人はいないよ」 初参加のさよに和美が話を振り、後ろの席の村上が女子としての諸注意とお誘いをしてくる。 二人三脚なら双子の出番とばかりに鳴滝妹の史伽が立ち上がり、姉の風香も呼ばれた気がしてと席を立って窓際のさよたちの席へ寄っていった。 個人競技のみではなく、ペアやグループの競技もあるので次第に皆が席を立ち始めた。 ざわざわとクラス全体が騒めくが、まだまだ許容範囲であやかも止めようとはしなかった。「せっちゃーん、私らも二人三脚か、ペアの競技一緒にでえへん?」「良いですよ、一緒に出ましょう」「私と美空ちゃんと……楓ちゃん、私たちとリレーでない?」「承ったでござる。アキラ殿もいかがでござる?」「うん、良いよ。地上でも結構速いよ私。明日菜、一緒に頑張ろう」 水泳部のライバル同士が手を組んだり、「ザジさん、私と一緒に玉転がしなんてどうカ? 先生のではないのが残念ネ」「まあ、はしたないこと。私は棒倒しが得……間違えました。日本語は難しいですね。改めて、先生の肉棒を加え込むのが得意なんです」「おやおや、オタマジャクシ競争なら、私も得意なんだが。誰がハニーのオタマジャクシをたくさん絞り上げるか、競争だな」「何をアホな会話をしている。おい、貴様ら騎馬戦で私の馬になれ」 極一部で怪しげな会話がもたらされていたが、順次出場競技が絞られていっているようだ。 やってみたいという基準で参加競技を決めている中で、誰がそれに最初に気づいたのか。 和気あいあいといったざわめきが次第になりを潜め始め、クラス中の視線がそこに集まった。 誰一人言葉を発しなくなった静寂の中に小さく響く寝息。 パイプ椅子に座って腕と足を組んだ格好で寝入ってしまっているむつきである。 六限目が始まる当初から、疲れているのは目に見えていた。 幾人かが静かにと口元に人差し指を当てて、邪魔しないでおこうとした時、鳴滝姉の風香の悪戯心に火が付いてしまった。「皆、ちゅうもーく」 かすれる様な小さな声でそう言いながら、むつきではなくそのやや後ろの黒板の前に立った。 手に持ったチョークを黒板に走らせる。 最初に描いたのは漫画に出てくる吹き出し、吹き出し元のとげはむつきを指していた。 カッカとそのふきだしの中に、風香が笑いながら言葉を埋めていく。 書き連ねられる言葉が途中でも、その意図を察して幾人かが噴き出していた。『やべ、那波がエロ過ぎてボッキした。寝たふりして誤魔化しとこ』 ぶふぅっと、一人も漏れることなく噴き出した。 ただ勃起したと書くのではなく、那波の色気を絡ませたリアルさが笑いを後押しする。 机の一つも叩いて心の衝動を逃がしたいが、今は打ち震えて耐え忍ぶしかない。 そんな中で両目に涙をにじませながら、次に黒板の前に出て黒板けしとチョークを持ったのは春日だった。 名残惜しいが鳴滝姉の風香の名言を消し、吹き出しの中に新たに言葉を書き連ねる。『一晩でオナニー五回だって? 俺は毎日三十二回だ、この野郎』 腹筋が崩壊するとはこういう状況の事なのだろう。 しゃっくりが十六連打される様に小刻みに息を吐き続けて、吸うことができない。 明日菜のオナニーネタのみならず、それ以上の回数としてクラスの人数プラスアルファを持ってきたのが素晴らしい。 一回余分に抱かれたの誰だよと、お腹がよじれて腸捻転にでもなりそうだ。 ここで自らのオナニー暴露事件をネタにされ、黙っていられないのが明日菜である。 どうどうと正面と後ろから抱き着くように止める小鈴と千雨を引きずりながら黒板まで歩いていた。 慌てて逃げ出した春日は無視して、黒板けしとチョークを手に後ろ半分だけ吹き出しの言葉を消してからチョークを叩きつける。 『一晩でオナニー五回だって? 俺はお前を夢の中で』 途中まで書いてやっぱなしと消そうとしたが、あやかや長瀬も加わって止められた。 それだけならまだしも、亜子がいらない気をきかせて文章を完成させてしまった。『一晩でオナニー五回だって? 俺はお前を夢の中で三回抱いたぞ、この野郎』 完成した吹き出しを前に、茹蛸となった神楽坂はせめてと両手で顔を隠してしゃがみ込んだ。 ぷるぷる、私はエロくない神楽坂だよとでも言いたげに打ち震えていた。 もはやオナニー暴露事件以上の、盛大な自爆である。 恥の上塗りという言葉がこれ以上ふさわしい場面があろうか。 どうせならと和美がむつきと黒板をフレームに入れて写真を撮っても立ち上がる様子はない。 しらく立ち上がれなかったのは、他のクラスメイトも同様であった。 明日菜が三十二回中三回抱かれたなら、逆にはぶられたの誰だよと事件はもはや迷宮入りだ。「ヒィ、ヒィッ。あー……笑った。桜子、くぎみー」 さあ次は誰が行くという空気の中で、同じチア部の二人を読んだのは美砂だ。 こそこそと耳打ちで相談し、拒否反応を見せた釘宮を、明日菜だけ自爆じゃ可哀そうと説き伏せる。 最後には唯一の男であるむつきがそもそも寝ているしと釘宮が折れた。 相談の後にあやかにも耳打ちしてから、三人が居眠りを続けているむつきの真後ろに並んだ。 ちょっと趣向を変えてきたと注目が集まる中、一番左の桜子が元気よく右腕を上げて笑顔を振りまく。『天真爛漫JC』 むつきの吹き出しとは別に、小さな吹き出しと言葉をあやかが黒板に描く。 横目でそれを見届けた桜子が、上げた腕とは逆の手でスカートのすそをまくり上げた。 桜色のパンツをクラスメイトにさらけ出し、恥ずかしそうにペロッと舌を出す。 次に美沙がウィンク付きのピースサインをしながら、同じくスカートをまくり上げる。 最近下着に糸目をつけない美沙の勝負下着、黒に近い紫色の大人っぽいものである。『今ドキッJC』 最後、一番右にいた釘宮が、しばしの躊躇のあとに女は度胸とばかりに髪を大げさにかき上げる。 モデルの様に体をよじり、少しだけスカートをまくり、ちら見せであった。 ちら見せといっても角度や影のせいで殆ど見えず、ノリが悪いぞと声なきブーイングを受けた。 あやかもちゃっかり打ち合わせ通りにはチョークを走らせず、にっこり笑う始末。 畜生とばかりに両手でスカートを持ち上げ、赤い素地に黒いフリルと攻撃的な下着をさらす。『クール?なJC』 やけくその釘宮を前に、あやかアドリブで一部アレンジを加えて釘宮のタイトルをかき上げた。 最後に三重奏の吹き出しを書いて、仕上げであった。『さあ、誰を食べたい?』 これまでむつきのみだった黒板の吹き出しを、自分たちの声に変えたのである。 釘宮にとっては大変不本意だろうが、和美が黒板ごと三人とむつきをカメラに収めた。 狙っていた結果か、フレーム越しに見た光景はAVのパッケージにしか見えない。「もうちょい、できた。はーい、次うちら」 次はこっちの出番と小声で自己主張しながら、亜子が私たちと手を挙げる。 美砂たちとバトンタッチで場所を変わってもらい、アキラ、亜子、佐々木、明石の順で並ぶ。 ちょっと待ってねと笑った亜子が、最初に自分のスカートの中に両手を入れた。 躊躇なく膝まで下したのは、彼女自身の水玉パンツであった。 髪留めのシュシュの様に丸まったそれを膝に引っ掛け、左腕で目線を隠して小さく四角いビニールの袋を加え込んだ。 続いてアキラもパンツを膝までおろし、亜子と同じように目線を隠してゴムを加える。 アキラはそれが何かわかっていて咥えたが、佐々木と明石は理解しているのか。『ホ別ゴム有り三万。生外五万。先生は生中のみ無料』 四重奏の吹き出しの中にあやかが書き記した言葉がそれだった。 美沙たちも割と過激だったがさらに過激だと、声なき喝采が贈られる。 だが重要なのはそこじゃないと、亜子が太ももを強調するように揺らし、空いている右手を添えた。 なんだなんだと目を凝らしてみれば、それぞれの太ももに文字が描かれているではないか。 四人とも矢印がスカートの中へ伸びていることは共通しているが、書かれている内容が違う。 アキラは水泳部、締まり良しと書かれ、亜子は三穴使えます、お尻の具合良し。 佐々木は新体操部、変則体位OK、明石がバスケ部、汗だックス希望。 当然その光景も和美がしっかりとカメラに収め、後でむつきの携帯に送る腹積もりであった。「私らもやるえ」 亜子たちがパンツを履き直している最中に立候補の手を挙げたのは木乃香だった。 彼女らと入れ替わる様に刹那の手を引き、のどかと夕映もまた手を繋いでそれに続いた。 まず木乃香とのどかがパンツを膝どころか、最後まで脱いで目の前の親友に手渡す。 まだ人肌の温かさが残るそれを刹那は戸惑いながら、夕映は平然と皆の前で広げてみせた。 木乃香のは白にピンクのリボンとオーソドックスなそれで、のどかのはライムグリーンとホワイトの縞々であった。 自分のパンツを広げられ少し恥ずかしそうにしながら、木乃香は刹那を、のどかは夕映を後ろから抱きしめる。 小脇から伸ばした手の平が親友のお腹の上で、ハートに似た子宮を形作った。『女の子同士じゃ届かない女の幸せを教えて?』 あやかが四重奏の吹き出しを書き込む中で、ガタッと一際大きな音が教室に鳴り響いた。 現在ノーパンの木乃香やのどかはもちろんのこと、火遊びに夢中なクラスメイト達もビクッと体を震わせる。 大きな音、移動の際に足を机にぶつけてしまった葉加瀬はもっと焦っていた。 あわあわと蹴った机に念力を送り込むような恰好で慌てると、小ぶりな胸がぷるんぷるんと震える。 彼女だけではない小鈴や古、葉加瀬に五月、ザジといった超包子関係者がほぼ全裸の恰好だった。 厳密には上半身だけが裸で、下はスカートに超包子の腰下前掛けのエプロン姿。 彼女たちのそれぞれの机の上に脱ぎ散らかしたブラウスとブラジャーが無造作に置かれていた。 音に驚いてからそっと振り返った彼女らは、次いでそっと教室の右手前に視線を戻す。 あれだけの音にも関わらず、不幸中の幸いでむつきはまだ寝たままであった。「セーフ、ですわ」 チョークを手に持ったまま、あやかが小声でそう言いながら両手を横に大きく広げた。 葉加瀬が両手を合わせてごめんなさいをしながら、超包子メンバーが木乃香たちと入れ替わる。 誰も彼もが冷や汗をかきながら、五月以外はそろいもそろって小ぶりな胸を方腕で強調するように持ち上げた。『超包子の裏メニュー、乙女のダブル肉まん。試食はいかが?』 小鈴たちは腕の上で柔らかそうな肉まんを転がし、逆の腕でエプロンごとスカートを一瞬だけ持ち上げた。 バッバとエプロンとスカートが空気を打つ音が聞こえる程に早く。 スカートの奥が見えたのは一瞬、しかし和美のカメラはその一瞬を決して見逃さなかった。 乙女の柔肌に一筋入った切れ込みが見えた。 ダブル肉まんのダブルが左右ではなく、上下に掛かっているのは明白であった。 誰に対してか宣伝は十分とばかりに、小鈴たちは急いで自分たちの席に戻って服を着始める。 小ネタとして各自の胸には、売り文句や味わい方が書かれていたが、流石に読んで貰う様な余裕はない。「時間も残りわずかですし、巻いていきますわよ」 あやかが頭上の時計を指さしながら、そう皆に伝えた。 エロ楽しい時間は過ぎるのが本当に早く、六限目のホームルームはあと十五分しかなかった。 ちなみに本来の目的である体育祭の出場競技決めは全く進んでいない。「急げ、急げ」 誰もいなくなったむつきの周りに駆け込んだのは、鳴滝姉妹とさよ、それにエヴァであった。 腰パンならぬ腰スカートでずりおろし、ブラウスの裾を出し切ってお腹をさらす。 さよとエヴァは血筋的にそうではないが、鳴滝姉妹は幼児体系のイカ腹である。『もう先生の赤ちゃんだって産めるんだよ?』 この場にいる誰に手を出しても犯罪だが、より犯罪チックな場面を和美がカメラで切り取った。 そして本当に時間がないと、和美が美沙にカメラをパスする。 急げ本当にもう時間がないと、火遊びをまだしていない子はその準備を、した子はその手伝いに。「ボディペイントしたい子、ペンあるよ」「神楽坂、そろそろ復活しろ。こい!」「ぇっ、千雨ちゃん引っ張らないで」「パル、そろそろ起きないとハブになるですよ!」 亜子がボディペイント用のペンを配り歩き、千雨が未だ羞恥に悶えていた神楽坂を引っ張った。 よっぽど深く拳が入ったのか、まだ気絶中の早乙女は両頬を叩いて無理やり起こする。 まだ写真に納まっていないのは、十一人。 和美に村上、長瀬や真名と早乙女それからあやかに春日、神楽坂と千雨に那波と絡繰。 やれ急げと構想を練る暇もないので、誰が言い出したか黒板や壁に両手をついて腰を上げた。 スカートは捲られてパンツはずり下してひざ元に、露わとなったお尻や太ももにペンが走る。「まずい、このペンじゃ茶々丸の肌に描きづらい。ええい、このさい油性でも構わん」「ゆ、油性は困りますマスター」「痛ッ、いたた。なにこれ、私の珠のお肌に何してんのさ夕映きち。どういう状況?!」「やかましいです。黙って落書きされるですよ。あまり騒ぐと、このまま尻穴の処女散らすです」 時間との勝負であるため、多少騒がしくなっても突っ走るしかない。「夏美ちゃん……あの、ね。中から先生のが垂れ、溢れてきそうなんだけど、どうしましょう」「聞きたくない、聞きたくない。てか、なんで私まで。雰囲気と勢いって怖い」「千鶴さん、千鶴さんの女の子を締めて我慢あそばせ」「見えちゃう、今先生が起きたら全部見られちゃう。起きちゃ駄目だから、駄目だからね」「このクラスやばいっす。エロ催眠どころじゃない」 できた、準備OKと順次声があがり、和美に比べてカメラに不慣れな美沙がのぞき込む。 いくよーっと楽しそうに声をかけてから、その光景をしっかりと収める。『必見、麻帆良のパパラッチの秘密、興味あるなら使ってみる?』『大事な弟分が予約済み。先生は見るだけ』『忍びの性技をご覧あれ。殿はゆっくりお愉しみください』『FUCK ME. MY TEACHER』『一回一万、コミケのカンパよろしく』『先生を労わるのも委員長の務め、あやかのここでご休憩なさって』『いやー、ないっすわ。立候補多いみたいっすから他の穴へ突っ込んでどうぞ』『夢の中でみたいに思い切り抱いて。でも勘違いしちゃだめだからね』『幾千万の男が望んだサーモンピンク、グロくなるまで先生が使い込んで』『心も体も万全、後は種付けのみ。先生、お待ちしています』『先生専属セクサロイド。ロリボディ製作中』 お尻から太ももにかけて、書かれている言葉は十人十色。 壁に手をついてお尻を上げた格好こそ似ているが、お尻の見せ方も様々。 大事な割れ目と恥ずかしい穴が見えちゃうと、片手で両方隠そうと懸命な村上や神楽坂。 むしろ積極的に穴を使ってほしい和美や真名は壁に手を突かず両手で尻を広げている。 同じく使って欲しいあやかと千雨は壁に手をついていない手をまたぐらに回し、指で広げていた。 千鶴は中から溢れそうな精液を押しとどめるために内股で必死に締め付けている。 長瀬と春日は悟りか諦めの境地で普通にお尻をさらし、絡繰は脳内のスパコンを拘束回転させて過去に売れ行きが高かった写真集をランキング化からポーズを選択していた。 そして美沙が写真に収めたので撤収だとパンツを履き始めたところで、「ん……んーッ」 居眠りを終えたむつきが半開き以下の眼でぐっと背伸びをしたのである。 授業のチャイムよりも一足早く訪れたタイムリミットにそれはもう慌てふためいた。 特にむつきの背後でパンツを履く途中の面々は特にだ。 薄情にも撮影を終えていた子は蜘蛛の子を散らす様に自席へ逃げ帰り始めている。 バタバタとこれまでの静けさを無視したものだから、むつきの意識の覚醒も少し早まった。「な、なんだ?」「なんでもないでーす!」「ねー」 鳩が豆鉄砲を食ったような顔でむつきが目をぱちくりさせる。 すぐそばの桜子や鳴滝姉の風香がそう言ったが、なんでもないはずがなかった。 目の前には冷や汗交じりで苦笑いしているいつもの顔ぶれがいるが、人数がかなり足りない。 おかしいなとあたりを見渡し、驚くと同時に気づいた。「おわっ、お前らなに……悪戯にしちゃあ、人数多いな」「私たちにいけない悪戯をしたいのは、先生じゃないのかい?」「しかり、しかりでござる」「悪戯するなら、ちゃんと気持ち良くしてよね」 自分の背後にずらりとクラスの三分の一もの人数がおり、割と本気で驚いた。 冷や汗を押しとどめ、真名や長瀬が軽口を叩き、和美が合わせてスカートを少し持ち上げる。 怪しい、特に頬を紅潮させて視線を彷徨わせている村上や神楽坂が特に。 ただ特にというならばその二人が悪戯する側に回るとも思えなかった。「まあ、良いか。他の先生が怒鳴り込んでないんだから、静かにしてたんだろ」「サイレント映画みたいに静かだったよ」「さあ、そろそろ良い時間だ。雪広、競技決めの進捗具合は?」「えっと、まだ個人競技ぐらいで団体競技が決まり切っていませんわ」 千雨の含みがある言葉はいつも通りなので、ホームルームの本来の目的を確認する。 冷や汗以外は完璧に隠し通したあやかが、テキパキと居眠りで進捗を知らないむつきに答えた。 実際は、ほとんど何も決まっていないのだが、学生には残業ならぬ放課後という時間があった。 このまま継続して競技を決めますとむつきに取り付ける。「それは、帰りのホームルームの後だ。お前らも席につけ」「た、助かった」「あっ、馬鹿!」 お前らとはもちろん、何かを隠す様に壁を背に動かないあやかたちのことである。 むつきに言われても壁を背にしたまま移動を始める中で、神楽坂だけが違った。 ちょっと待てと伸ばされた千雨の腕も間に合わず、むつきの目の前を通って自席へと向かってしまったのだ。 当然、むつきからは見えてしまった。 神楽坂のパンツではない、それは既にスカートの奥に履かれてしまっている。 見えたのは彼女のお尻から太ももにボディペイントされた文字が。 お尻から始まる文字なので文章の全文は見えなかったが、ピンポイントで見えてしまった。 右太ももの裏に思い切り抱いて、左太ももの裏に駄目だからねの文字がである。「きゃぁっ!」 それに気づいた神楽坂が慌てて座り込んで隠すが、もう遅い。「お前らちょっと待て、振り返って太ももの裏見せてみろ」「いやあ、パンツじゃなくて太ももの裏とか先生ニッチな性癖」「俺が笑っているうちにすませとけよ、早乙女。良いから見せろ、この野郎」 早乙女の小さな抵抗は、世紀末救世主の様に拳を鳴らしたむつきの前に儚く散った。 観念してあやか達は壁に向けていた背を、むつきへと向けた。 神楽坂と同じく、スカートで文字は途切れているが、性的な文章がつらつらと見える。「居眠りこいてた俺も悪いが」 ため息を一つついてむつきがそうつぶやき、希望が見えたのだが。「お前らとりあえず、椅子の上で正座」 ホームルーム終了の金と共に、無慈悲なお言葉が振り下ろされた。ーあとがきーども、えなりんです。前話が昔過ぎて、いろいろ齟齬があるかもしれません。でも、こういう馬鹿話すき。いずれ全員がノーパン、ノーブラでむつきの授業を受ける話書きたい。それでは。