第百四十話 だから何時の時代も男は女の子を怒らせるネ 六限目にグラウンドに現れたむつきは、いつものスーツ姿ではなくジャージ姿であった。 体育祭も間近となると、各クラスにそう多くはない競技練習の時間が与えられる。 何故多くはないかというと、練習場所がグラウンドまたは体育館しかないからだ。 各学年、各クラスに平等に練習の機会を与えると、自然と各々の時間は少なくなる。 だからこの時期は一限目にグラウンドを利用するクラスが道具を出し、六限目の利用者が片付けるルールとなっていた。 そして今回は二-Aが六限目、後片付けを含んだ競技練習の時間を割り当てられたのだ。「先生!」 幾人かがむつきの存在に気づく中で、声を上げて一際大きく手を振ったのは佐々木であった。 子供が親に見て見てとせがむ様に、障害物競争用の平均台の近くで跳ねている。 そしてむつきの視線が自分に向いた事を確認すると、踏み台から腰の高さぐらいある平均台の上に跳び乗った。 背中に羽でもついていそうな軽やかさで平均台の上を小走りに中腹まで進んでいく。 さながらその様子は塀の上を優雅に歩く子猫のようだ。 そして不安定な平均台の上で跳び上がり、前後に両足を広げる開脚を見せて見事に着地。 即座にハッと軽く息を吹く仕草の後に、後ろへ宙返り、平均台の上に手を着き一回転までした。 最後に両手を挙げて胸をこれでもかと反り上げ、フィニッシュの恰好である。 ここまで見事な演技を見せられては、スルーするわけにもいかない。 同じく観客をしていた亜子や明石がパチパチと手を叩いている場へと歩み寄っていく。「そういや佐々木は、新体操部だったな。ちょっとしたもんだぞ、凄い凄い」「えへぇ」 むつきの素直な賞賛ににへらと笑う。 色々と注意を受ける事は多いが、褒められる事が少ないのでこちらも純粋に嬉しいのだろう。「まき絵はこんな感じだから、障害物競争なら一番になれるはずだったんだにゃあ」「なれるはずだったんやけど」「てことは、なれなかったのか?」 明石と亜子の酷く残念そうな物言いに、改めて尋ねるとある方向を指さされる。 平均台の向こう、いくつかのハードルと跳び箱を超えた先にあるのは地面に張られた網だった。 最後にあれを潜り抜けて、ラストスパートの後にゴールなのだろうが。「去年はあの直前まではぶっちぎり一位だったのに、網に絡まって出られないどころか外せなくなっちゃって」「泣く泣くというか、本当に泣きながら棄権になっちゃったんよ」「あんなの障害物じゃないよ。網なんだもん!」 佐々木の意味不明な主張は兎も角、当時の光景がありありと思い浮かぶ。 本当にお前は残念可愛いなと生暖かい視線を送ると、癪に障ったらしい。 直前まで褒められていただけに、余計にだろう。 私凄いもんと唇を尖らせながら、平均台の上で危なげなく片足立ちになって逆の足を大きく上げた。「ほらほら見て、先生。Y字バランスぅ」 褒めて褒めてとワンコの様にアピールするのは良いのだが。 今の佐々木は部活中とは違ってレオタード姿ではなく、体操着である濃紺の短パン姿。 加えて彼女は腰の高さぐらいある平均台の上で、むつきはかぶりつきとも言えるその下。 その位置関係で大きく足を広げれば、短パンの隙間から淡いピンクの下着が見えるのも当然。 むつきと同じ場所にいた亜子も明石もそれには直ぐに気づくことになった。 これが普通のクラスならむつきに非難が集中しそうなものだが、二-Aはちょっと普通ではない。 元から普通ではないが今や、ちょっと違う意味で普通ではなくなってきていた。「今日のまき絵は色々とあざといにゃあ。ピンクのパンツは、先生に見せる為にはいてきた?」「ゆーなってば、なんで私のパンツの色知ってるの?!」「お子様パンツやなくて逆によかったんちゃう?」「え、あっ」 明石の指摘に素で驚いた佐々木が、遅ればせながら自分の状態に気が付いた。 咄嗟にY字バランスを止めて内股になった股座を手で隠した所で、むつきと目が合った。「もう、先生のえっち!」 正直なところ、平均台の上でのバク転を見せられたことよりも驚いた。 軽く頬に朱がさし、照れ隠しのようにむつきを責めてきたことがである。 ワンコ属性の佐々木にも羞恥心がちゃんとあったのかと。 だが次の瞬間にはもっと驚かされた。 照れ隠しの延長なのか、佐々木が平均台を蹴ってむつきへと向けて跳んできたのだ。 避けようにも右手側に明石、左手側には亜子と避けようがない。 かと言って後ろに下がろうにも、受け止めろとばかりに佐々木が両手を広げていた。 下手に避けては受け止められることを期待している彼女が怪我をしかねない状況だ。「おまっ」 小学生、さらに低学年と心の中で叫びながら迫りくる佐々木の両脇に手を添えた。 女の子かつ小さい方とはいえ、それでも中学二年生だ。 グンと腕と腰に伝わる荷重に顔が苦み走りながらも耐え、こらえきったと思ったその時。 強烈なボディブローならぬ、佐々木の膝がむつきの鳩尾に突き刺さっていた。 確かに上下の力は地面を利用して受け止めたが、横の移動に対しては無防備だったのだ。 むつきの手が添えられた脇下を支点に佐々木の胸から下が弧を描いて浮き上がったのである。 深くめり込んでいた膝が内臓を押し上げ、口から臓物全てが飛び出したかのように錯覚した。 悲鳴も上げられず、佐々木からそっと離した両手で腹を抱えならが崩れ落ちる。「ちょっ、先生。まき絵はちょっとこっち」「え、あれ?」「先生、喋られるん?」 何が起きたかいまいち理解していない佐々木を明石が下がらせ、亜子がうずくまったむつきの背をさする。「ちょっ、マジか。マジで。先生とは別の意味で腹が痛い。誰か今の決定的瞬間撮ってねえか? テレビに送ろうぜ、朝倉!」「え、何があったの。不覚にも見てすらいなかった。先生どうしたの?」「長谷川、流石に今のは……あは、駄目よ笑っちゃ。ちょっと待って、お願い。先生が、可哀そう。駄目、やっぱ無理。奇跡、奇跡よ!」「和泉さん、無理に喋らせてはいけません。先生が落ち着くまで背中をさすってあげてください」 誰はばかることなく大爆笑している千雨に、普段なら立ち上がってこの野郎と言えたのだが。 流石に今は無理だった。 神楽坂でさえ、言葉を詰まらせ笑う中で、刹那のなんと優しい事だろう。 ここがグラウンドでさえなければ、痛みを耐えるために抱きしめた上での濃厚なキスに溺れたかった。「先生、無理に喋らんで良いから、ゆっくりな」「亜子さん、私も……あっ、千鶴さんどうぞ」「ありがとう、あやか」 背中をさする手が一つ増えた。 亜子より少し大きな手、今のあやかとのやり取りから分かる通り千鶴である。 正直、さする手は二つもいらないが、まだ意見できるほど呼吸が整っていない。 ただそれでもうずくまる形から顔だけはなんとか上げることができた。 その顔を見て、指さして笑っていた千雨が咄嗟に視線をそらしてそっぽを向いた。 少なからず笑いながら集まってきた面々も同じく、逆に純粋に心配していた面々は非難の目を向ける。「げほっ、はっ……」 咳込みながら上げられたむつきの瞳には涙がにじみ、今にも流れ落ちそうであった。 もしかしたら少しばかり鼻水も出ていたかもしれない。 大の大人の貴重なガチの泣きの顔に、見てしまった者は居た堪れないなんてものではない。「あー、ちうちゃん。なーかした、なーかした。せーんせーに言ってやろ」「懐かしいなおい、そのフレーズ。あと泣かしたのは私でもなければ、泣いてんの先生だし!」「止めなよ、お姉ちゃん。先生、本当につらいんだから」「ふーちゃん、本当に止めて。流れ弾が四方八方に飛んでるから」 神楽坂の言う通り、コントの様な奇跡を目の前に笑ったのは一人や二人ではない。 むつきの泣き顔を前に千雨の様に視線を泳がせたのは、美砂、早乙女、真名、エヴァと他にもいる。 他にも春日など大爆笑しそうな者もいたが、彼女は幸いにして奇跡を目撃せず笑わずにすんでいた。 その代わりに流れ弾が飛んだ者たちに向けて、それはないと冷たい視線を向けていた。「あー、もう。分かったよ、私が悪かったよ」 その視線に耐えられなかった千雨が、そう叫びながらしゃがみ込んだ。 亜子と千鶴に左右から背中をさすられ、あやかの高そうなハンカチで涙と鼻を吹かれているむつきの正面にだ。 足を大胆に開いた状態、ひと昔前のヤンキー座りでしゃがんだ千雨の恰好は、他の子と同じ体操着の短パンである。 その短パンの股座部分に指を滑り込ませて横に引っ張った。 当然見えたのはライムグリーンとホワイトのチェック柄のパンツである。 しかもしゃがんでいるおかげでぴったりと肌に張り付いて、縦筋までしっかり見えていた。「げほっ、ばか……痛っ、腹痛ぇ!」 条件反射で顔を背けようと腹をよじろうとして、再びの激痛に言葉が途切れる。 そんなむつきを前にニヤニヤと、煽っているようにしか見えない千雨が続けた。「どうよ、先生。元上位ネットアイドルちうたんのはみパンは。特別サービスでサーモンピンク、見せてやろうか?」 挙句の果てに、下着にも指を食い込ませチラチラと割れ目近くまでまくり上げている。「これで不幸と幸福が相殺しあって、幸福に傾くってもんだ」「なるほど一理ある。私も先生を笑った手前、特別サービスしようじゃないか、しかも無料で」 真名も千雨に倣ってむつきの目の間にしゃがみ込んだ。 しなくて良いわと叫びたかったがまだ呼吸が不安定なむつきは、止めることができなかった。「最近、彼氏ができて下着に凝ってるんだ。先生、男目線でこいうのはどうだろうか?」 短パンの裾を引っ張った先に見えたのは、純白のレース。 褐色肌と白のレースのコントラスト、しかも真名は短パンだけでなく自分の肌も引っ張っていた。 肌に張り付いたレースの奥にはピンク色に美味しそうな中身まで見えているではないか。 どうもこうも、うずくまりながらむつきの腰だけが不自然に浮き上がったのが答えであった。 腹の鈍痛と息苦しさで生命の危機を感じたせいか、自分で感心するぐらい大きく勃起していた。 子孫を残さねば血が途絶えてしまうと、当人の意思を無視して精子工場がフル回転を始めている。 今すぐ二人を体育倉庫に引っ張り込んで種付けしたいが、ここは学校のグラウンドだ。「ぜぇ、本当待て……くっそ、別の意味で動けねえ」「先生、ちょっと失礼」「馬鹿、ポケットにうぐぅ、腹が」 腹痛と勃起痛で動けない中で、美沙が突然むつきのズボンのポケットに手を突っ込んできた。 ポケットをまさぐる過程でしっかり勃起状態も握って確認されてしまった。 それはついでの行為であり、美沙が欲しかったのはむつきの携帯電話である。 ロックが掛かっていたのでむつきの誕生日を入れてみたが解除に失敗。 むつきの様子をうかがっていた小鈴に、放り投げて渡してから言った。「超りん、先生のパス解除しておいて。それから明日菜ちょっとこっち来て」「え、でも……先生が」「良いから、良いから。笑っちゃったお詫び、私たちもちゃんとしてあげないとね」 手を引かれた神楽坂は最初拒否したが、笑ったお詫びと言われては抵抗できない。 一体どこへと皆が二人を視線で追うと、少し離れた場所の体育倉庫に飛び込んでいった。 やや距離があるので詳しくはわからないが、やいのやいのと少々揉めている様な雰囲気である。 だが恐らく神楽坂が観念したのか、静かになってからしばらく経つとむつきの携帯電話が着信音を奏でた。 その頃には小鈴が難しい顔でロック解除に成功し、着信メールを見て今度はニマニマと笑う。 気になった木乃香と刹那がそれをのぞき込み、その内容に頬を紅潮させた。「明日菜、すっかり大胆になって」「お二人ともとても綺麗です」「先生、二人からのお詫びのメールネ。恩赦不可避の大胆メールヨ」 まだひいひい言っているむつきの目の前で見せられたのは、肌色が多い写真であった。 短パンを腰より下にずり下げた腰パン姿で美砂と神楽坂が、二人並んで跳び箱に浅く腰かけている。 体操着の上をたくし上げて口で加え込んでいるため、可愛いおへそが丸見えだ。 また美沙はブラジャーを外しているのか下乳が露わとなり、神楽坂は髪と同じオレンジのブラジャーが見えていた。 満面の笑みでピースサインの美沙と、気恥ずかしそうに控えめにピースする神楽坂が対象的だ。 さらに写真上の美沙の胸元に赤丸がひかれ、大きさはこっちが勝ちと書いてあった。 また神楽坂の方は腰パンの股座に赤丸があり、パイパン勝ちの文字を消そうと指が走らされた跡があった。「お前、これ前回と同じパターン。ぐあぁッ!」 せめてこれが教室ならもう少しお詫びを貰っても良いかなという考えが頭を過ったが。 校舎から丸見えのグラウンドでこれ以上は、前回の二の舞どころではないと無理やり立ち上がる。 ちゃんとしなければそんな思いから立ち上がったわけだが。 一点、むつきは忘れていた。 鳩尾に膝を喰らってうずくまりながらも、自分で既に立ち上がってしまっていたことに。「きゃあッ!」 可愛らしい悲鳴と共に顔を両手で覆って背を向けたのは、残念ながら村上一人だけ。 勃起した一物のそそり立ちに耐えられず、ジャージのズボンの生地がテントどころかチョモランマなみに押し上げられていた。 狭苦しそうに張り付いているものだから、雌を求める生々しい鼓動が丸わかりであった。「うわ、別の生き物みたいにびくびくしてる。あんなのがお腹に入るの?」「お姉ちゃん何言ってるの。入るわけないじゃない、裂けちゃうよ!」「やばい、スケッチブック。スケッチブック持ってきてない。男の生勃起とか、スケッチするチャンス。先生そのまま、スケッチブック取って来るから、勃起維持しといて!」「マジっすか、先生JCの誘惑でそんなになっちゃう人っすか。正直ちょっと距離置いてほしいっす」「馬鹿、これは生理現象だよ。生命の危機的なアレで!」 言い訳しながら、もう一度しゃがもうとする前に、まだ鈍痛の残る腹に誰かぶつかってきた。「先生ぇ、ごめんなさーい!」「痛ぇ、今はまずい抱き着くな佐々木!」 ずっと謝罪するタイミングを伺っていたのであろう。 今がチャンスだとばかりに、真正面から抱き着いてきたのだ。 このワンコは本当に落ち着きのない、腹が痛い相手の腹に頭をぐりぐりな擦り付けてきている。 頭の一つでも叩いてやりたいが、勃起隠しには丁度良いとも言えた。 我慢して頭を撫でてやりながら、ちょっとだけ彼女のお腹に勃起を押し付けた。 一瞬ビクッと佐々木の腰が引けたが、直前の千雨や美沙の行動のせいか逆にお腹を押し返してきた。「ああ、もうわかった泣くな。けど、頼むからもう少し落ち着き持とうな」「うん、じゃなくてはい」「おっ、ちゃんと自分で気づいて直せたな。偉いぞ」「えへへ」 泣いたカラスがもう笑い、毒気を抜かれてもう少しだけ頭を撫でてやる。「なんだか先生、まき絵のお兄さんみたい」「先生はご実家に私たちと同年代の従妹がいるからでしょうか、手慣れているように見えますね」「まき絵、本当はお姉さんだから妹属性ないはずなんやけどね」「なんか酷いこと言われてる気がする。私家だとちゃんとお姉ちゃんしてるもん!」 アキラや聡美の指摘は兎も角、亜子の言葉には精一杯否定していた。 確か十歳近く離れているんだったか、流石にそれだけ年齢差があれば姉ぶれるだろう。「はいはい、ちょっとしたハプニングがあったが。練習時間、だいぶロスしてるぞ。あともういい加減、ちゃんと休ませてくれ。正直、まだ立ってるのがつらい」「先生、拙者に少し体重を預けてくだされ」「では反対側は私が」 良く見ると膝がガクガクしているむつきを、長瀬と茶々丸が両脇から支えてくれた。 本当に限界なので素直に体重を預け、覚束ない足でグラウンドの隅に行こうとすると美砂と神楽坂が体育倉庫から戻ってきた。「あれ、折角私たちが文字通り一肌脱いだのに終わっちゃった感じ? また前みたいにちょっとエッチな自撮り大会になると思ったのに」「馬鹿たれ、体育祭の練習はこれからだ。宮崎と綾瀬は、スケッチブック取りに行った馬鹿を読んで来い。あと神楽坂、まあなんだ。結構なお手前というか、あんまり流されんなよ」「お、お粗末様でした。それは、先生が痛い思いしてるのに笑っちゃったし、一回しか使っちゃ駄目だからね」 最近、本当に神楽坂は墓穴を掘るのが大好きときたものだ。 あんな写真を送られて、使うと来たら彼女が大好きな一人遊び以外の何があると言うのか。「明日菜ってば、またそうやって直ぐに先生の気を引こうとする。先生、私も後でちょっとエッチな写真あげるね! 私のは何回でも使って良いよ?」「さ、桜子なに、私別にそういう意味で」「男にエッチな自撮り写真渡して使うって言ったら、一つしかないでしょ。一枚一回なら、この和美さんが明日菜のエッチな写真、何枚でも撮ってあげようか? それとも先生の写真欲しい?」「朝倉、私も撮って欲しい。それに先生の写真も一杯欲しいな」「アキラちゃんまで。写真は撮らない、撮らないけど。写真はちょっとだけ見せて!」「語るに落ちてますわよ、明日菜さん」 自ら提供したネタを前に赤面中の神楽坂が、皆の玩具にされないはずがない。 むつきがグラウンドの隅に連れられて行った後も、神楽坂を囲んでワイワイはしゃいでいる。 そして願ってやまないラブ臭を嗅ぎ損ねた早乙女は、後で激しく後悔することになる。 ギアの切り替えがまだまだ甘いが、二-Aのクラスメイトはやる時はやる子たちである。 それはこれまでの中間、期末テスト等の結果からもわかっていたことであった。 今回も真面目になるまでに一波乱あったものの、練習が始まってしまえばそれに集中できていた。 二人三脚で五十メートルを走るのは、鳴滝姉妹ペアと木乃香と刹那ペア、村上とさよのペアだ。 この中で一番息があっているのは、双子というどうしようもないアドバンテージを持つ鳴滝姉妹。 安定性抜群だが二人とも体の成長具合が遅く身体能力を加味すると、ややプラスというところか。「お二人さん、おっさきー」「ばいばーい」「あーん、また置いてかれてまう。せっちゃん、おいっちに、おいっちに」「このちゃん、急にペース変えたら。あっ」 鳴滝姉妹に抜かれたことに木乃香が焦ったことで、ペアの刹那と足が絡まりあう。 口にした通り、あっという間にすっころんでいた。 仲の良さで言えば鳴滝姉妹に引けはとらないが、二人の運動神経が違い過ぎる。 図書館探検部に所属している木乃香の運動神経は、決して悪くはない。 だが剣道部でばりばり運動しているボディーガードの刹那とは、根本が違うのでお互い気遣い過ぎて苦労していた。 そんな二人の横をゆっくりとだが着実に歩むのは、村上とさよのペアだった。「みーぎ、ひだーり」「ひだーり、みーぎ」 可もなく不可もない運動神経、やや悪い寄りだとお互いが自覚しているからだろう。 確実性重視の性格もあって、それなりのペースで進むことができていた。 村上とさよのペアが通り過ぎたのを確認して、むつきは倒れこんだ二人に駆け寄った。「二人とも怪我ないか?」「大丈夫、せっちゃんが受け止めてくれたから。あれ、足紐のハチマキが切れとる」「ふ、古くなっていたからでしょう。いや、これもこのちゃんの日頃の行いが良いから。足を挫く前に切れてくれたんでしょう。そうです、違いありません!」 切れたハチマキを前に木乃香が不思議がっていると、妙に気持ちを込めて刹那が熱弁していた。 二人はグラウンドの土の上で、刹那が下となり木乃香を受け止めている形である。 たしかに、足紐がつながったままではどうなっていたことか。 妙に綺麗な切れ方をしている足紐のハチマキを預かり、代わりのを手渡して一言断りをいれる。 怪我の有無を確かめるために、後ろ手に地面に座りなおした木乃香の足に触れた。「先生」「ん、どうした。どこか痛いところでも」「明日菜の体、綺麗やった?」「このちゃん?!」 唐突な木乃香の問いかけに思わず噴き出した。 思わず周囲を見渡したが、鳴滝姉妹ペアと村上とさよペアはゴール手前で離れている。 他の子たちもそれぞれの競技練習中なので聞こえやしないだろう。「凄く綺麗だった。どうした急に」「せっちゃんと先生お互いに好き好きやのに、うちの我儘でお預けされとるやろ? その間にのどかや那波さん、皆次々先生と結ばれて。ちょっと焦っとる」「ええんよ、このちゃん。うちは全然待てるから。それに二人一緒はうちの願いでもあるんやから」「でもな、うち既に先生のこと好きなんよ。イチャイチャするのドキドキして楽しいし、エチエチするもの恥ずかしいけど」 最後は少し濁していたが、風に流され消えそうな小さな声で好きとつぶやいていた。 本番こそまだだが、二人ともに本番一歩手前までの行為は経験済みである。 それこそ木乃香と刹那がそれぞれ何処に性感を持ち、どういう触れられ方が好きか把握する程には。「先生、よう皆の事みとるし、困っとったら真っ先に駆けつけてくれる。さっきも普通の男の人なら、まきちゃんのこと怒鳴りつけとってもおかしないのに、笑って許してくれて」「流石にきつかったが…お転婆な従妹がいると、あれぐらいは何度か経験あるんだよ」「ええ人やなって、明日菜もいっそ高畑先生より、乙姫先生選んだらって思うぐらいに。うちに何が足らへんのやろか。先生にやない、足らんのはうちなんや」 最後の呟きは、むつきや刹那へではなく、自分自身への問いかけだった。 こういう場合、答えの一つは千鶴の時と同じく、俺のところに来いと強引に抱きしめることだ。 だが木乃香に対しては、適切な対応とはいいがたい。 木乃香の気持ちの出発点が、刹那と一緒にいたいというものなのだ。 好意の根幹にむつきに向けた好意がないとは言わないが、ほかの子に比べると薄い。 明日菜についても、むつきなら親友を任せられると男性として認めているだけに過ぎない。「俺からもあまり多くは言えないが、焦って答えを出そうとするな。刹那も全然待てるって言ってくれてるし、イチャイチャでもエチエチでも好きなだけ付き合うから」「正直に言えば心だけでなく、体も結ばれたいです。でも心がつながってますし、直接体でつながれない分、色々とご奉仕とか。だから、ね。大丈夫です」「うん、ちょっとすっきりした。最近、ちょくちょく悩んどったから」 立ち上がって膝の土を少し払うと、木乃香は洗ってくると刹那の手を引いて走り出した。 その背に向けてまた転ぶなよと声をかけて見送った。 次の休みには思う存分、付き合ってやるかと思いながら。「さて他にはっと」 軽く周囲を見渡して次に目についたのは、クラスどんくさいランキング上位の聡美だ。 特別頭が良い分、運動パラメータが凹んでしまっている。 五月とペアで玉転がしの練習をしていたようだが、何故か聡美が止まった大玉の上に腹ばいで乗っていた。 おそらく大玉の転がる勢いに飲まれて巻き込まれたのだろう。 降りようとジタバタと足を動かし、下手に大玉を動かすと危ないので五月も手をこまねいていた。「大丈夫です、私の計算は完璧ですから!」 助けようかと一歩踏み出したところで、恥ずかしかったのか向こうから来ないでと手を振って止められてしまう。 計算は完璧でも、体がそれを実現できなければ何の意味もないのだが。 結局、近くでエヴァと玉転がしの練習をしていた絡繰がゆっくり大玉を逆回転させて救出されたようだ。 ふんぞり返ったエヴァが聡美に何か言っているが、そんな彼女の体操服や髪が少し土埃で汚れている。 見てはいなかったが、きっと自分も何度か大玉に巻き込まれたに違いない。「このクラス、めちゃくちゃ運動できるか運動音痴の二極化酷くね?」 もう他に運動音痴はいなかったかと探そうとしたところで、ズボンのポケットの中の携帯電話が震えた。 差出人は木乃香であり、週末はエチエチで可愛がってとのおねだりであった。 その先払いという意味なのか写真が添付されていた。 場所はやっぱり体育倉庫。 刹那と向かい合わせで跳び箱にまたがった状態での、舌を見せつける様なベロチューである。 まるで二人の舌の間には、むつきの竿があるかのような光景だった。「最近あいつら、普通にエロ自撮り送って来るよな」 送ってこないのは、村上か春日、あとは長瀬ぐらいのものだ。 釘宮はそのつもりはなくても、美砂と桜子の巻き添えで時々送られて来ていた。 後で消しなさいと詰め寄られるため、目の前で消した後にまたバックアップから復元している。 鳴滝姉妹の特に風香が自分ではなく、史伽の写真を送ってくることもある。 自室のトイレのドアを開けられた様な写真は本当にかわいそうなのでちゃんと消した。 かなりまずいのではと、一番心配になるのは誤送信であった。「えーっと、おーおぉ……」 目的の人物を見つけようと周囲を見渡し、その人物と光景に軽く言葉を失った。 見つけたかったのは小鈴だが、一緒にいた古とザジがいた。 古が弾入れ用の籠を背負い、ザジが腕に何個も抱えた球を四方八方から投げつける。 小鈴が弾の射線上に割り込んで叩き落とし、間に合わないものは古がかわしてはじく。 やっていることは分かるのだが、アレを玉入れと呼んでいいものだろうか。「おーい、真面目に練習中悪いが超、頼みがあるんだが」 本当に邪魔して悪いが、急いだほうが良い要件なので割って入る様に声をかけた。 そこへ玉を両手いっぱいに抱えたザジが割り込んできた。「先生、私どうにも玉入れのコツがわかりませんの。どうか実践にてご教授願えませんか?」「いや、後でな。今は超に」 まずはと一旦は断ろうとしたむつきに、ザジは白い玉を選んでむつきに握らせてきた。 そのままその手を玉越しに恥丘にそえるように押し当てる。「体育倉庫のマットの上で、先生の玉を私の籠から溢れるぐらい、存分に」「下ネタじゃねえか!」「仕方がないないネ、親愛的は。男と女の棒倒しがしたいと誘われれば、雌奴隷としては断れないヨ」「いや、正直むらむらしてるから棒が倒れるまでしたいけどさ」「チ、親愛的の跡継ぎ産みたいアル」「ただの願望じゃねえか、あと高校卒業してからね!」 ザジから下ネタが始まり、同じく下ネタの小鈴、ラストに下ネタですらない古である。 本当に後で誰かに体育倉庫で体操着プレイを頼んでしまおうか。 先ほどからずっとむらむらしているのは本当で、勃起が完全に収まったわけでもなかった。「ブルマーなら直ぐに用意できるネ」 ニンマリと赤丸ほっぺで微笑まれ、大いに心がぐらついた。「いや、あの……よろしくお願いします。あずき色より濃紺の方が好きです」「毎度ありネ。親愛的の為ならなんでもするヨ」「ついでというか、こっちが本命なんだが」 むらむらが収まらない胸の内を押さえつけながら、絞り出すように本題を口にした。「ひかげ荘知らない子にも、小鈴の超包子製の携帯電話配ってやれないか?」「全然、問題ないヨ。むしろ持ってない方が少数派。手間的にも大したことないネ」「おっと」 自分の携帯電話を見せながら喋っていると、見計らった様にブルブルと震えた。 今度は誰の自撮りだとある程度は覚悟してメールを開いたわけだが。 想像をより超えた写真が送られてきていた。 場所はやっぱり体育倉庫、一回り小さい体操着を着ることでより胸が強調された千鶴だった。 ノーブラらしく丸い二つのお山には一つずつぽっちが浮かび上がっている。 上着の丈も足りずにへそチラしているのが、なんとも悩ましい。 また即座に一通追加で送られてきたので、流れで見て見るとあやかからであった。 自撮りではなく千鶴にでも取って貰ったのか。 濃紺のブルマ姿でお尻の食い込みを直そうとお尻とブルマーの隙間に指を挟んでいる恰好だった。 エロい、肌色率は低いのになんともエロ優等生のあやかであった。「言ったネ、直ぐにでもと」 そう小鈴が笑うと、次から次へとメールが届けられる。 体操座りで小首をかしげブルマーの裾からパンチラするのどか、物を拾う恰好で小さく丸いお尻を突き出す夕映。 お尻を向けてしゃがむことで、ブルマーに下着のラインを浮かべるアキラ。 何故か、皆が皆、濃紺のブルマー姿でのエロ画像を送って来るではないか。 嬉しいことは嬉しいが、何か違和感というか、不自然さを感じる。 今も着信が止まらない携帯電話から小鈴へ視線を向けると、にっこり笑っている。 笑いながら何か怒っているように見えた。「小鈴さん、私が何かいたしましたでしょうか?」 笑顔って怖いものなんだなと思いながら、恐る恐る尋ねてみる。「先生、携帯電話のパスワード。美砂サンの誕生日だったヨ」「いや、まあ最初に付き合ってそのま、ま……」「ちょっとカチンと来たから、ひかげ荘のメンバー全員に送ったヨ。先生の携帯電話のパスワードが、美砂サンの誕生日だったって」「おおう、もう。マジかぁ……」 むつきに特別扱いしたつもりはない。 先ほども口にした通り、付き合った当初に設定して変える理由もなくそのままだったのだ。 本当にただそれだけで、内心美砂が一番だとか、依怙贔屓しているつもりもなかった。 確か以前にもこんなことがあった気がする。 小鈴を皆の前で小鈴と呼んだ時、一人だけあだ名で呼ばれてずるいと。「乙女の沸点って何処にあるのかわかんねえよ」「だから何時の時代も男は女の子を怒らせるネ。怒らせるネ」 確認してみれば、古とザジの姿もまたこの場から消えていた。 さっと体育倉庫に視線を向けてみれば、いそいそと駆け込む二人の姿があった。 まだしばらくは、私だって可愛いアピールのメールが途切れる事はなさそうだった。-後書き-お久しぶりです。もうちょっとだけ続くんじゃ。