第二十話 頭が沸いてるとしか思えませんです! ひかげ荘のとある一室、そこには色彩豊かな衣装を纏った少女達がいた。 へそだしミニスカのセーラー服らしきものを着て、狐耳を頭につけたのが長谷川である。 濃い目のピンク色のナース服が和泉で、白を基調としたフリルがふんだんな西洋ドレスが雪広。 最後は黒いローブと三角帽子を被った綾瀬であった。 四人は一つのテーブルを囲んで、紙の上にシャープペンシルを走らせていた。 その速度は個々によって違い、一番早いのは雪広で、遅いのが綾瀬だ。 むしろ綾瀬は何故こんな事をと、動きはかなり鈍い。「この程度、この雪広あやかにかかれば……自己採点終了、十点満点ですわ」「漢字の間違いと年号のミスで五点や。まあまあかな?」「歴史ってさ、何があったかと順番が重要で詳しい年号まで覚える必要あるか? 三点、綾瀬に期待だな」 四人が行っていたのは、金曜に行なわれた社会科の小テストの自己採点だ。 むつきから未記入のテスト用紙だけを貰い、今一度この場で行なったといいうわけである。「長谷川さん、舐めないで頂きたいです。歴史、こと宗教に関して私に隙はありません。宗教と無関係な場所で減点されましたが六点です」「おいおい、マジか。バカブラックがいて最下位とか、普通に落ち込むわ」 ふふんと勝ち誇る綾瀬に対し、長谷川はコタツテーブルについた肘でかくりと落ちた頭を支えていた。 やがて仕方ないなと立ち上がり、襖を開けて何処かへと行ってしまう。 最下位であったので、食堂までお茶を淹れにいき、茶菓子をとりにいったのだ。 長谷川を行ってらっしゃいと雪広と和泉が見送る。 その後で改めて、綾瀬がこの小テストの意味を尋ねた。「何故、休日にまで勉学を。この格好は……先程の長谷川さんの言葉から推察するに、彼女が作成した衣装なのでしょうが。少々、偏りはありますが」「彼女の独創的なドレス、私は好きですよ。今度、社交界に着ていって周囲の評判を聞いてくる約束をしています。今日は、サイズあわせ等、試作品の試着です」「長谷川、本当に衣装作るの好きやもんね。時々、何時間も三階に篭って、降りてきた時にいたのって聞いちゃったことあるし」「好きこそものの上手なれ。時間を忘れ打ち込める趣味があるという事は、羨ましい事です。馬術も華道も、嫌いではありませんが。財閥令嬢として当然という意識ですし」 雪広はお嬢様っぽいと他人から良く言われるが、少し気にしているのかもしれない。「おーい、茶が入ったぞ。綾瀬は来たばかりだから、普通に来客用な」「どうもです。飲めるのであれば器にはこだわりません」 湯気がふわふわと出てくる湯のみをうけとり、あちちと言いながらコタツテーブルに置く。 他の面々も専用の湯のみを貰い、長谷川は低位置に座ってから茶菓子を中央に置いた。 茶菓子といっても、特別なものではなく、普通のスナック菓子だ。 既に口が開いており中身も少ないので、以前食べきれず残しておいたものだろう。 では一つ拝借と皆が手を伸ばす中で、思い出したように綾瀬が言った。「あっ、衣装の件はお聞きしましたが。先程の小テストの意味は?」「ああ、説明してなかったっけ。金曜の夜さ、先生が全員の小テスト採点したらしいんだが」「まだ未発表なので平均点は聞いていませんが、惨敗とだけ」「先生、俺教師の才能ないかもって酔って泣いて。珍しくセックスなしで、慰められてたんよ。それで、少しぐらい中間は平均上げようかって。どうしたん、夕映」 主に和泉がセックスと口にしたところで、綾瀬がコタツテーブルに頭をぶつけていた。 一瞬意識を失ったとも見えるように、綺麗なヘッドバットであった。 可愛いおでこが赤くなって、ひりひりと痛そうである。「これは懐かしい反応ですわ。私達も、数週間前はこうでした」「うちも呼吸困難起こしたし」「綾瀬、早く慣れた方が良いぞ。ここにいると、寮よりどぎついガールズトークになるから」「これ、皆さん乙女として致命的なのでは」 綾瀬の精一杯の抗議は、軽くスルーされてしまう。「ああ、セックスで思い出した。ちょっと覗いて来たけど、そろそろ始まりそうだったぞ」「そうですか、それでは準備を」「イヤホン、イヤホン……あっ、三つしかないし。夕映は私の片方で聞く?」「すみませんです。何かラジオですか? 勉強はしませんが、本を読む時はむしろ耳栓をするタイプなのですが」 しかし折角の好意なのでと、綾瀬は和泉のイヤホンの片方を左耳に入れた。 位置関係から、和泉は右耳にのみであった。 最初イヤホンからはなんの音も聞こえず、殆どがノイズのようである。 これ壊れているのではと思っていると、長谷川が何かリモコンのようなものを操作していた。 設定はこれからかと思っていると、何気なしにチラリと隣の和泉を見る。 妙にわくわくしているような、雪広も神妙に背筋を伸ばしながら頬が少し赤い。 そんなに面白いラジオ番組なのか、ノイズがふいに消え、声が聞こえた。 開始のBGM一つなく、しかも同年代の少女のような声であった。「先生、お仕置きしてください。先生に迷惑をかけた私に、これで」「待て、ソフトSMでもまだ早い。美砂、嬉々としてアキラを縛ろうとするな」「そんな事言って、先生大きくしてるじゃん。正直、私もアキラを苛めたい」「ば、馬鹿野郎。これは、仕方ねえだろ。メイド服で上目遣いにお仕置きとか」 再び、綾瀬がコタツテーブルに頭を先程より強かに打ちつけた。 コタツテーブルの上の湯のみが四つとも、少し浮き上がってカチャリと鳴る程に。 その中身が少々溢れ、湯のみの上を雫が伝わっていく。 綾瀬が本当に痛い思いをしているのに、他の三人は心配もせず大笑いである。「かはっ、先生これ絶対内心喜んでるぜ。ひぃ、腹痛い。絶対生唾飲み込んでやがる!」「アキラってセックスの時って、苛めてオーラ凄いやんね。ちょっと、そこは弁護してあげたいかな?」「全く、殿方と言うものは。どうしようもありませんわね」 長谷川はお腹を押さえて打ち震え、和泉も口元を押さえては必死に我慢している。 雪広はしれっとした台詞ながら、唇の端がピクピクしていた。「どうしようもないのは、あなた方です!」 ついに耐え切れず立ち上がった綾瀬が、左耳からイヤホンを外して叩きつけた。 しかし、三人から返って来たのは、街中でいきなり奇声を発した人を見るようなものであった。 何を突然叫んだのか、意味不明で寧ろ怖いとさえ思っているような。「これ盗聴ではないですか。しかも、聞くからにアレが始まりそうな」「落ち着けよ、綾瀬。座れって……ところでさ、委員長。年号の覚え方ってゴロ以外になんかないのか? 正直、あれ逆に脳のメモリを余計に使ってる気がするんだが」「でしたら、反復法で叩き込むしかないかと。私はむしろ、こちらで覚えます。教科書から年表を作成し、何度もそれを複写すれば暗記ぐらい直ぐです」「なんや最澄さんや、空海さんやないけど。お経を写すお坊さんみたい」 違いないと年頃の少女らしくキャッキャと笑う。「何故そこで普通の中学生に戻るですか。これ管理人室にいる先生達ですよね!」「ちゃんと柿崎と大河内に許可とってるし、まずい時は向こうから切れるから問題ねえよ」「まあ、先生だけは知りませんが。皆さんお静かに!」 何かを感じたのか、雪広が口元に指を当てて静かにさせる。「アキラ……いいのか、本当にいいのか?」「うん、私先生になら何されても。先生の所有物にしてください」「アキラはおっぱい大きいから、こう強調される縛り方がないかな?」「あ、美砂。俺はパンツの上から割れ目に縄が食い込むアレがみたい」 能天気な美砂の声は専用の本でも読んでいるのか。 ペラペラと何かが捲られる音の中で、素に戻ったむつきがマニアックな注文をだした。「-----ッ!」 もはや声にならないと、長谷川が腹を押さえて笑い転げてバンバンと床を叩いている。 雪広や和泉も長谷川程ではないが、笑いを必死に堪えていた。 雪広は口元に手を当ててそっぽを向き、和泉は頬を膨らませながら俯いている。 二人共肩が小刻みに震えており、余程必死なのがわかった。 もう我慢せずに笑ってはどうかと問いかけたくなるほどに。「なっ、何があったです。アレの最中に何故爆笑するような事が!?」 つい先程イヤホンを外してしまった綾瀬は、決定的瞬間を逃していた。 一体どんな面白い内容がと、逆に興味を引かれてしまう。 常識思考ならば、今直ぐにでもこの盗聴を止めさせるべきだ。 しかし、ここはひかげ荘という名の外界より隔絶された竜宮城なのである。 だったら仕方がない、仕方がないのですと綾瀬は座りなおし、イヤホンを左耳にいれた。「ここをこうして、アキラ縄はきつくない?」「んっ、大丈夫。胸とか色々圧迫されて変な感じはするけど」「綺麗だ、とても綺麗だよアキラ」 今度真っ先に噴き出したのは、綾瀬であった。「駄目です、倫理観が吹き飛びます。教師が生徒を縄で縛って。それを綺麗とか、頭が沸いてるとしか思えませんです!」 言葉こそ、この状況を嗜めているようだが、目が完全に笑ってしまっている。 なんと言うか、聞く限りエッチな雰囲気など全く感じない。 実際はメイド服姿の中学生が縛られている倒錯的な光景なのだろうが。 相手があのむつきである。 きっとくそ真面目に綺麗だと批評しているのだろうが、笑いしか浮き上がってこない。「はひぃ、はひぃ……これだから、止めらんねえ。おい、社会科の勉強するぞ」「申し訳ありませんが、もう少しお待ちを。顔の造形が、笑いすぎて顎が」「アキラ、どんどん大人になっちゃって。後で感想聞いてみよう」「これ、勉強できるのですか? 笑ってはいけない系の勉強になりそうですが」 一頻り笑った後に、なんとか腹の痛みを耐えてシャープペンシルを手に取った。 教科書を開き、先程の自己採点をした小テストで間違えた箇所を調べる。 特に歴史は前後関係が大事なので、間違えた箇所だけでなくその前後もだ。 学年トップ成績の雪広が教師役となり、各自で調べ尋ね書き取りなどを行なう。 もちろん、イヤホンは耳にしたままなので時々手は止まったりもした。 その反面、横隔膜や腹筋が痙攣して苦しむ事もあったが。「そういえば」 むつきがハッスルするはしゃぎようを耳にしながら、和泉が思い出したように言った。「先生って、あんまり自分の事を喋らへんよね」「そう言えばそうですね。出身大学とか、生まれなど聞いた覚えは……」「そりゃ、聞かねえからだ。聞けば普通に教えてくれるぞ。最も、ひかげ荘のメンバーがって条件はつくが」「そうなのですか?」 なら自分でも良いのかと、綾瀬が尋ねる。「先生、確かに自分の事は喋らないけど。一度心を許したらあとはがら空きだからな。確か、出身は沖縄で大学はどこだったか。確か東京の割と良いとこ行ってるはずだ」「びっくりしたわあ。一瞬東京大学かと……」「東大は親戚の姉ちゃんが行ってたらしい。その人に勉強を教えて貰って、沖縄を出てきたらしい。で、大学時代に例の爺さんから宿代代わりに管理を任されたって」「学生時代にこの広大な敷地と建物の管理を任されるとは、優秀だったのでしょうか?」 それは失礼ではなかろうかと、皆が雪広を見たがそう言う事も理解できた。 特に四月始めに初めて副担任として出会ったむつきは、常にテンパっていたのだ。 クラスメイトにからかわれるたびに大慌てし、失敗を繰り返す。 きっとあの精神の弱さなら、何度一人で枕を濡らしたか分からない事だろう。「先生、あれで結構あなどれな」「イクぞ、アキラ。アキラ」 言葉の途中だったが、四人全員が耳を傾け集中した。 どうやら最高潮の一度目だ。「いいよ、先生かけて。私にかけて」「来た、ビクビクって。アキラ、一杯来てる。先生の精液、来た!」「イク、ぐぁっ!」 状況的に耳で聞くのみだが、縛ったアキラを前に美砂の手コキである。「イッたな」「イキましたわね」「先生、興奮し過ぎ。いつもより早い」 その後は数十秒の間、三人共に半眼で前をみつめたまま沈黙が訪れる。 やはり生々しい状況を聞かされ、想像してしまったのだ。 特に射精により飛んだ精液がメイド服で縛られたアキラを汚していった光景を。 何やらアイスキャンディーを舐めるような音が聞こえてきたが、美砂のお掃除フェラだろう。 ただ綾瀬だけは、生まれて初めての男性の射精と喘ぎ声に顔を赤くして硬直していた。 三人とも、沈黙したままもぞもぞと座りなおし、会話を再開する。「えっと、そうそう。先生な実務はからっきしだったけど、事務は無茶苦茶得意だったらしい。良くある秀才タイプ。私らの副担任になったのもそこで抜擢されたんじゃねえ?」「高畑先生、中間テストが近くなるまで全く来ませんでしたから。一年生の時は、まだ出張は多くて週三日でしたが。先日も、先生の朝会中に遅れて入ってきた時、アスナさん以外何故という顔をしてしまいましたし」「全く来なくなったの、先生のせい言うか。おかげなん? あの時の高畑先生、思い切りひきつってたけど」「仕方ありません。以前他所のクラスの人にA組の担任の先生だけどと話を振られた際、普通に乙姫先生を指しての事でした」 あーっと、誰もそれは酷いとは言わずに納得の声であった。「沖縄出身、東京の良い大学、ひかげ荘の管理。これだけあれば、一応学生時代はもてたんちゃう?」「ああ、それかあ」 行為の盗聴さえしている状況で、初めて長谷川が口を濁した。 聞いてはいるが、どうにも言い辛い話があるらしい。 しばらく考え込んだ末に、綾瀬はまだ微妙だがこのメンバーならと話し出した。 以前、むつきが酔った時に口を滑らせた内容を。「先生さ、このひかげ荘の事を今までずっと黙ってたろ。柿崎に教えたのも、付き合い始めたからだし。その辺、聞いてるか?」「うん、誰にも教えてなかったって。他の教師の先生はもちろん、生徒の誰にも」「だいたい、想像つきますわ」「まあ、ありがちなお話だとは思うです」 雪広や綾瀬が想像した通りで間違いはなかった。「初めての都会の生活で、先生も舞い上がってたらしい。学生らしく、このひかげ荘を友達に自慢して、ここで宴会ひらいたり。そこで親しい女の子もできたらしい」「なんや、私も分かってきた気がする。気分悪くなりそうや」「想像してるもう一段上だと思うぞ。で、その噂が広まって見知らぬ女に続々と迫られたらしい。彼女がいたから断り続けて、一度理不尽にキレられたらしい。ひかげ荘がなければお前みたいな奴って感じで」「それは先生の台詞ですわね。勝手に迫ってきておいてと」「まあな、それで先生もキレてその女を殴ったら。復讐されたんだと。先生にじゃなくて、その彼女に。あいつは玉の輿狙いの腹黒だとか噂広められて。それでもう耐えられないって」「酷い話もあったものです」 聞かなきゃ良かったと、むつきがイッた時と同じぐらいの沈黙が訪れる。 だが沈黙の長さは、その時の比ではなかった。 沈黙の短さという点において。「でもまあ、今の先生。普通に犯罪者だし、可哀想って思いにくいよな」「唯一の救いは、女生徒を貪る鬼畜ではない事でしょうか。もしそうなら、社会から抹殺したのですが」「普通は脅された子を救う為に、訴えたりするけど。先生を訴えても、誰も幸せにならないやんね。先生は逮捕、柿崎とアキラはどうしてって泣いて。クラスにマスコミが押しかけて」「なるほど、それで委員長さんの断罪者というのが出てくるのですね。お二人が不幸になったらと。と言うか、今現在は私達も犯罪者なのですが」 綾瀬の突っ込みはまたしてもなに言ってんのという視線でスルーされた。 そのまま手が止まってるぞと、長谷川が全員に突っ込んだ。 いけないいけないと再開しようとするが、ブツリと音が聞こえた。 それはイヤホンからであり、うんともすんとも言わなくなった。 先程長谷川が言った通り、向こう側から切られたらしい。 これでこの狂乱の盗聴も終わりかと思った綾瀬だが、それは甘い考えである。「あの野郎……」 イヤホンを見てそう呟いた長谷川が立ち上がり、軽く飛んで床が抜けるかと思う程に足を叩きつけた。 そして再び、イヤホンが繋がった。 配線の接触不良かとも思ったが、それでは長谷川のあの野郎という発言につながらない。 全くと呟いて座り込んだ長谷川の言葉を待った。「ん、ああ……柿崎だよ。多分順番的にあいつの番で。自分だけは聞かれたくないとかでスイッチ切ったんだ。別に先生を特別慰める日でもないのに、切る必要性が他にねえ」 長谷川の弁はその通りであったらしい。 再び繋がったイヤホンから、部屋での声が聞こえてきた。「なに暴れてんだ、アイツら。おーい、美砂? こっち、アキラと向かい合わせで」「先生待って、んっ」「もう無理。美砂、アキラにかかったの舐めて綺麗に。さっき俺にしてくれたみたいに」「無理、そんなに突かれたら。んっふぅ、アキラ。んはぅ」 確かに美砂の番らしいが、状況が今一分からなかった。 スイッチを切りにいった事を不審に思われ、腕か何かを引かれたのは分かるのだが。 そう思ったのは綾瀬だけらしい。 長谷川はニヤニヤおやじ臭い笑みを浮かべ、雪広や和泉は視線を向け合って笑う。 声や物音、何かがぶつかり合う音だけを頼りに状況を把握しているらしい。 美砂やアキラの喘ぎ声と謎の叩き付け音、水音に眉をしかめる。 するとそれに気づいた長谷川が、先程の小テストを裏返し、絵を描き始めた。「インスピレーションが足りねえぞ。こうだ、こう。大河内は椅子の上で緊縛、柿崎を向かい合わせで膝に座らせ、美少女同士の百合プレイ。で、先生はそれを楽しみつつ、後ろからガンガンと」「ですが普通に跨るだけでは挿入の角度が。柿崎さんは前のめりに、先生が腰をこう支え」「けど一度安定したら、先生絶対アキラの胸にこう悪戯すると思う。最近はいつも、いかに二人を同時に可愛がるか色々工夫してるし」「いるですか、そのインスピレーション?」 長谷川の絵の上から、雪広が美砂の腰の位置に修正をかけ、和泉もむつきの腕を修正した。 大変分かり易い図解なのだが、やはり初日の綾瀬には刺激が強いようだ。 これはまた倒錯的なと、興味津々なのは素質があるが。 ただやはり、一ヵ月近い経験差というものはいかんともしがたい。「美砂、そろそろイクぞ。アキラも良いか?」「良いよ、先生中で出して」 ガタガタとコタツテーブルを揺らし、美砂の台詞に綾瀬が過剰に反応していた。「先生、切ないおっぱいが切ないの。そんなに引っ張らないで」「美砂を孕ませたら、次はアキラだ。我慢せず、胸でイッちまえ」「先生、孕ませて。中に、一杯。先生の精液一杯!」「イク、イクぞ。美砂、そのお腹で孕めァッ!」 むつきの獣のような唸り声と共に、二人の美少女が甲高い嬌声の声を張り上げた。 その瞬間を耳で聞き入りながら、綾瀬は見てしまった。 切なげな表情のまま、首を竦めるようにしてキツく瞳を閉じていた三人に。 頬の赤味は風邪を引いたようにさえ見え、ブルブルと震えていた。 一体何がと思っていると、ふうっと息をついた三人がそばにあった箱ティッシュを互いに配りあった。「手がべとべとだ。あのリア充ども、本当に腹立つけどこれがなぁ」「長谷川さん、もう少し追加で。私人より少し多いようで」「そんな事ないって、私もパンツぐしょぐしょだし」「履いてくんなよ。私最近、何時でもいいように基本ここではノーパンだぞ。先生にそれ教えたら、無茶苦茶キョドってやんの」 彼女達は一体何を話しているのか。 何故妙に手が滑り輝いており、それをティッシュで拭いているのだろう。 そして部屋の中が何やら、匂う。 ただ初心な綾瀬といえど、流石に和泉のパンツがという台詞で気付いた。 バッと伏せるようにしてコタツテーブルの左右と向こうを覗き込んだ。 左手の和泉は良く見えないが、太もも辺りをティッシュで吹いている。 右手の長谷川も同様で、向かいの雪広が一番分かり易い。 高そうな白いレースの下着は濃く色を変色させ、濡れ切っていた。 ちなみに、何故パンツが見えたかといえば、自分でドレスのスカートをまくって手をいれていたからだ。「もはや、一体どこから突っ込むべきか。本当に寮でのガールズトークより酷いです!」「しょうがねえだろ。アイツら四六時中、ハメまくるし。私らもどこかで発散しねえとさ」「お恥ずかしながら、結構なストレス解消でして。週末はこれがありませんと、特に家の事情で連れ出された週は次の週が持ちませんわ」「私も、格好良い彼氏欲しいけど。しばらく、みつかりそうにあらへんし。けど欲しいから、結局こんな形で」 いやあと照れ笑いする三人に、もはや綾瀬は我慢の限界であった。 うかつにも盗聴に参加してしまったのは、誤りと認めよう。 それでも、限度があるだろうと。 階下の管理人室で行なわれた行為で、むつき達はなんと言ったか。 孕ませるといったのだ。 これは介入すべきだとばかりに立ち上がった。「百歩譲って皆さんは良いとして、今先生なんと。孕ませるなど、生徒を!?」「流石に、そのような場合は私が立ち入ります。先生は柿崎さんとの結婚を考えているだけに、きちんとその辺りは避妊していますし」「先生ら妊娠プレイ好きやから。けど寧ろ、最近は柿崎とアキラの方が危ないやんね。よう、生でしてって迫っとるし」「一度その辺、マジで……ちょっと失礼」 失礼どころではなく、長谷川が隣で立っていた綾瀬のローブの裾をまくった。 膝を超え、腰が見える程にまで。 そこまでまくり上げてしまえば、生足どころか付け根まで見えてしまう。 要は、彼女が履いているパンツが丸見えだ。 慌てて綾瀬がローブを抑えるも、全ては遅きに失していた。 見られた、体つきのわりに覆う面積の少ない紐パンのとある一部が濡れているのを。「我慢は体に良くないぞ、綾瀬。我慢せず、オナっとけ」「可愛らしい紐パンですわね。私達の事はお気になららず、どうぞ」「紐パンと言えば、アキラに聞いたんやけど」「この人たちは……」 本当の意味で紐しかないパンツを履いてむつきを誘惑したと猥談である。 どうやら竜宮城にいる期間が長すぎて、すっかり頭をやられてしまったらしい。 やはり、改めて思ったがここでは自分だけが本当の自分は見つからないだろう。 ここに来る前から、既に自分の居場所は決まっているのだから。 図書館探検部、宮崎のどかの隣である。 せめてこの場所でできるのは、歪な関係、歪な場所での物語の結末を見届ける事ぐらい。 普段、夢に望んだファンタジー。 非日常ではないが、これはこれで非日常の類である。 裁定者でも断罪者でもなく、傍観者として見ているのもありだろう。 だから傍観するですと座り、立った時に外れたイヤホンをはめなおした。 もはや、手遅れなのかもしれない。「先生、私にも先生のを」「アキラ、たんま。三回連続はさすがに……コンドームも上手くつけられねえ」「だめだよ、先生。ちゃんと愛してあげないと。手伝ってあげる、アキラ」 美砂がそう言った直後、ごそごそと衣擦れの音が聞こえ途切れる。「私のおまんこに、先生のをください」 アキラの台詞に対し、耳が痛くなる程の大音量でむつきがその名前を叫んだ。「最近、マジで先生頑張ってんな。三連発とか、明日からからに渇いてんじゃね?」「最高七回ですし、本気を出せばまだまだ。それにしても、今回は難問です。柿崎さんと大河内さんは、どのように先生を文字通り奮い立たせたのか」「うーん……やっぱりアキラのおまんこ発言?」「いえ、それでは柿崎さんの手伝う発言の意味が。例えば、着衣を……いえ、もしやこうですか?」 先程三人が書いた絵を模写しながら、新たに絵を書き加える。 変わらずアキラは椅子に縛られていたが、ずり落ちるように上を向いていた。 ただまだ完璧ではなく、美砂が出てこない。 うーんと考えていると、三対の視線が集っている事に気付いた。 ハッと我に返りカーッと頬が熱くなったが、長谷川にばしばし背中を叩かれる。「痛っ、うざ。うざいです、なんですか!?」「惜しい、五十点」「では模範解答を、このように柿崎さんが後ろから大河内さんのおまんこを指で開いてみせて、大河内さんがおねだりしたと」「アキラ、時々凄く大胆なんだから。やったのは柿崎やけど」 さらさらと二人が迷う事なく、現在の状況を小テストの裏に描いていく。 つまり、難問だというのは全くの嘘。 誘導されたのだ、綾瀬がこの猥談に自分から加わってくるように。 そんなに猥談が好きかと、良く分からない感情に心を占領される。「アキラ、好きだ。愛してる、俺の子供を生んでくれ」「ぁぅん、生む。わたっ、しぅ。せえの、子供ぉっ!」「アキラ、アキラ、アキラ!」 ごくりと、その時が来るのを待ち構えていると聞こえた。「世界一可愛いお嫁さんがまたしてもほったらかしの件について」 美砂の乾いた声での訴えが。「---ッ!」 今度声にならない声をあげたのは、コタツテーブルの四方にいる全ての乙女であった。 雪広や和泉までも床をバンバンと叩き、呼吸困難に陥っている。 綾瀬もそれは例外ではなく、痙攣するお腹を押さえて喘いでいた。 龍宮城は、いくら警戒しても踏み込んだ時点で、人をおかしく変える場所なのかもしれない。 -後書き-ども、えなりんです。エロくないエロパート、というか馬鹿パート。覗きから一足飛びに盗聴をしております。もちろん、行為の最中のみでストーカーじゃないので普段はオフです。それでも知らぬは主人公のみ。もう染まり過ぎて、千雨達は現世に帰れませんw基本、お話は主人公視点ですが、千雨達もこんな感じで過ごしてます。今回はそういうお話でした。楽しそうで本当になにより。それでは次回は月曜です。また日常パート、日常しかねえです。