第二十九話 セックスフレンド、そういうのもあるんだ 麻帆良祭は全三日ではあるが、厳密には初日よりさらに一日前から始まる。 前夜祭と呼ばれる麻帆良祭の開始前夜から徹夜で行なわれるお祭りだ。 県内外からの一般入場者は初日からの為、前夜祭は大半が学生のお祭りであった。 二年A組は、一部を除いて準備も殆ど終わり、皆が徹夜でそれを乗り切りその翌日。 正式な開催日となってからが大忙しの始まりであった。 麻帆良祭の一般入場が始まってから行なわれる麻帆良祭開催パレード。 そこで二年A組主催、協賛他多数のクラス、部による教師人気投票トトカルチョの参加者の紹介が行なわれるのだ。 パレードの出発地点では、人ごみはもちろんの事、巨大バルーン、歩行ロボットとごった返していた。 その中には例年にはない数多の仮装をした教師達の姿もあった。「どうしよ、どうしよう。結局間に合わなかったー!」 そしてパレード参加者と言うわけでもないのに、普段の制服姿で頭を抱えている神楽坂の姿も何故かあった。 髪の毛も女の子らしからず乱れており、頭を振り回す度にふらふらと少し危うい。 前夜祭どころか、その前から寝ていなかったかのように見える程に目が血走っている。 間に合わなかったという台詞から、本当に数日の間は寝ていないのかもしれない。「落ち着け、神楽坂。間に合わなかったって、さっき高畑先生見たけど普通にスーツ姿だったぞ?」「それがな、色々意見は出たんやけど。一々パルが引っ掻き回して、回りまわって普通のスーツが一番やって。答え出たんやけど、この期に及んで明日菜がやっぱり駄目って」「だって、他の先生皆仮装してるのに。高畑先生に合わせる顔がないわ」「大丈夫です、無難な答えで逆にほっとしてましたから」 例の乙姫の仮装姿のむつきが尋ねると、本人に代わり近衛が説明してくれた。 宮崎のフォーローはどうかと思うが、泣いている神楽坂ほどに周りは焦ってはいない。 今頃思い出してみれば、確かブレーンたる綾瀬は普通にひかげ荘に来ていた。 ストッパー役がおらず、早乙女が好き放題に高畑を玩具にしようとしたせいだろう。 その当人は無責任にもこの場にはおらず、何処をほっつき歩いている事やら。「近衛、悪いがパレードで高畑先生の出番が来るまで神楽坂を救護室にでも連れて行って休ませてやれ。コイツ、パレード中にでも飛び出して高畑先生に駆け寄りかねないぞ」「せやな、ここ数日全然寝とらへんし。ほら、明日菜。ちょっと向こうに行こか」「だって、だって私のせいで……」「明日菜さんのせいではないです。どちらかと言うと主にハルナが」 ぐじぐじと折角の麻帆良祭にて、神楽坂は親友と宮崎に慰められながら歩いていった。 流石に可哀想なので、それとなく高畑に伝えて優しい言葉でもかけて貰おうと思う。「誘惑に負けず、きちんとパルの面倒を見るべきでした。反省です」「早乙女も悪いが、神楽坂も少し力を入れすぎだ。お祭りなんだから、きちんとやろうとかそう言うのは二の次で楽しまないと」 ばつが悪そうに、むつきの陰に隠れていた綾瀬がしょんぼりしながら出てきた。 誘惑とはもちろん、ひかげ荘で皆で遊ぶ件である。 過ぎた事ではあるし、お前ももう気にするなとメイドに仮装中の綾瀬の頭を軽く叩く。 最初ビクッと体を震わせ、頬も何処か赤くなったようにも見えた。 もちろん、前回よりもスカートの丈は長く、当たり前だがローターはない。 ないのだが、先日の狂乱をほんの少し思い出しでもしたのだろうか。「高畑先生の紹介文は出してあるんだろ。なら、お前も皆のところに行け」「ですね。しょんぼりしていては、後々神楽坂さんが気にしかねません。皆の所で先生の勇姿を見守るです。それでは」「気をつけていけよ」 ちょっと慌てたように早口でまくしたて、神楽坂を連れて行った近衛たちを追いかける。 そんな綾瀬の背を押して見送ってから程なくして、花火の音がドーンと響き渡った。 周囲の賑やかなざわめきの間を裂いて響く程に大きな音である。 この場のほぼ全員が同時に空を見上げ、さらなるざわめきの元となる声を上げた。 現在時刻は午前十時、一般入場の開始、そして麻帆良祭開催の祝砲であった。 その花火に次いで、麻帆良大の航空部の自作プロペラ飛行機がカラフルな飛行機雲を生み出し空を滑っていく。 麻帆良都市全域に撒き散らすように紙吹雪も蒔かれ、アナウンスが流れた。「只今より、第七十七回麻帆良祭を開催します」 そのアナウンスにより、ざわめきは歓声へと代わり、人波が動き始めた。 どこかでパレードの先頭が動き出し、市内の歩行者天国を歩き出したのだろう。「あっ、いたいた。乙姫先生」「二ノ宮先生に、瀬流彦先生」 声に振り返ってみれば、言葉にしたとおりの二人がこちらへやって来ていた。 むつきの仮装に負けず劣らず。 二ノ宮は新体操部の顧問で、過去に経験者である事からレオタード姿にリボンを手にしている。 さすがに佐々木と比べるまでもなく、出るところは出て引っ込む所は引っ込んでいた。 この麻帆良祭の浮ついた雰囲気がなければ、視線のやり場に困るところであった。 そして瀬流彦はと言うと、緑のボロマントに古い西洋のチュニックに青いズボンと一見してロビンフッドのような仮装だ。 腰に剣のようなものがさされているので、ロビンフッドではないようだが。 アニメか何かのキャラクターの仮想、またはコスプレであろうか。「これ学生時代のなんですけど、まだ入って良かったぁ」「全然良いんじゃないですか。佐々木に新体操部の演目来てくれって券貰いましたけど。二宮先生が演目してくれるならお金払ってでも行きますよ」「あれあれ、彼女さんは来てないんですか? また、そんなおだてても何も出ませんよ」「そんな事より、むつみさんは。乙姫先生、むつみさんは何処です!?」 むつきのお世辞に私もまだまだと二ノ宮は照れながら笑っていたのだが。 瀬流彦にそんな事呼ばわりされて、謙遜中とはいえ額に青筋が浮かび上がる。 優しさと癒しに飢えているので仕方がないとはいえ、思い切り足を踏まれてしまった。「ていっ、成敗」「ぐえぇ」 それからリボンを軽く振るうと蛇のように滑らかに動いたそれが瀬流彦の首に巻きついた。「あっ、まだこれできたんだ」「新体操経験者は誰でもできるんですか、それ」 佐々木もたまに落ちたペンなどをリボンで取るのだが、新体操経験者なら常識なのだろうか。 そのまま必殺仕事人のように、二ノ宮がリボンをキュッと引くと瀬流彦が面白い悲鳴をあげた。 足の痛みと首の苦しみに耐えかね地面を転がる瀬流彦を他所に、とあるスピーチが聞こえてきた。「その体形から好きな食べ物は一目瞭然。小等部のお父さん、肉まんピザまんフカひれまんとなんでもござれ。俺の知らない肉まんがあれば持って来い。二重院先生」 歓声にかき消され聞こえなかったが、既に小等部の先生の紹介が始まっていた。 この場慣れした、滑らかで明るく盛り上がるスピーチは朝倉か。 投票マシーンで超や葉加瀬が、スピーチで朝倉がと要所要所で二年A組の面子が出てくる。 それは結構な事だが、既に小等部の教師の紹介が始まっているなら中等部も直ぐだ。 これはいかんと、苦しんでいる瀬流彦をたたき起こしてパレードの入場門へと急いだ。「中等部の先生方は、入場門付近にお集まりください。予め、指定された順番通りに並んでください。間違えますと、スピーチが混乱しますのでご注意を」 入場門近くで拡声器で叫んでいたのは、二年A組とは無関係の生徒であった。 パレードを取り仕切る何処かの生徒会役員であろうか。 職員室にて良く顔を合わせる見知った教師が続々と集り始めていた。 その殆どは仮装をして普段とは全く異なる朗らかで、やや興奮した笑みを見せている。 以前、新田には生徒同様浮ついてどうすると起こられたが、当日、しかも開始直後はどうしても仕方がない。 当の新田でさえ、アフロのカツラに二本の角と、洒落にならない鬼の姿を見せていた。「おお、乙姫先生達か。これはな、生徒達にどうしてもと断りきれず。私も高畑君のようにスーツ姿で威風堂々としていたかったのだが」「明日菜君は頑張ったみたいですが、どうにも間に合わなかったようで」「高畑先生、後で神楽坂にお茶の一杯でも奢ってやってください。あいつ、申し訳ないってボロボロ泣いてましたから。出来ればパレードの直ぐ後にでも」「それは悪い事をしたかな。分かった、直ぐに連絡を入れておくよ」 当人はスーツで問題ない、むしろほっとしていたが、神楽坂を思うとやはり喜んではいられなかったらしい。 本当に直ぐに携帯を操作し出した高畑を見て、ほっとする。 流石にこの三日間ずっと、申し訳ないと泣いて終わるのだけは避けてあげたかった。 牛柄ビキニというホルスタイン姿の源の視線が、妙にむつきを突き刺して痛いが。 というか、誰がアレを勧め、源に納得させたのかが気になる。「中等部の先生方の紹介が間近です。中等部エントリナンバー一番、新田先生からどうぞ」「おお、私からだった。皆、お先に」 こういう場合でさえ年功序列と、新田が中等部での最初の紹介であった。 鬼の仮装から当然の様に、鬼が島をイメージした専用やぐらに登らされていた。 やぐらには鬼の新田とでかでかと書かれており、無礼講も良いところだ。 そのやぐらが新田を乗せ、パレードの入場門を潜ってパレード用の歩行者天国へと入っていく。「麻帆良全域教師人気投票トトカルチョ、次は中等部の部です。まず最初は、この人を知らなければそいつはもぐりの麻帆良学生だ。小等部から大学部まで、広域指導員も兼ねて幅広い認知度と教師愛にて雷を落とす鬼の新田。担当教科は現国だ!」「こら、そこの学生。お前、男子高等部の三木谷ポイ捨てするんじゃない」 すると朝倉の紹介直後、やぐら上から新田がとある場所を指差し叫んだ。「小さな子もいるんだ。街は綺麗に、三日間清掃活動で終わらせたくなければ拾ってゴミ箱に捨てなさい」「早速鬼の新田の本領発揮。えー、男子高等部の三木谷さんは速やかにゴミを拾って片付けてください」「めざと過ぎんぞ、新田!」 慌てて空き缶を拾った男子学生が、この野郎と新田に向けて叫んでいた。 もちろん、先生を付けなさいと雷が反射して帰って来たが。 仮装姿以外は殆ど素の新田なのだが、つかみはかなり良かったようだ。 特に保護者の受けが良く、歓声に混じって拍手が巻き起こるなど新田らしい。 そのように年齢の高い順から人気投票の出走者が紹介されていき、段々と若返っていく。 その筆頭が、高畑でもあった。「さあ、ここからがある意味で中等部の本領発揮。次代を担う生徒を育てる教師の次代は我々だ。新田教諭と同じく広域指導員として認知度、それから恐怖の対象として引けはとらない。デスメガネこと高畑先生。極々一部の生徒から凄まじいまでの歓声だ」「先生、高畑先生ー!」「明日菜落ち着いて。あんま暴れると、トンカチいくえ?」「はい、すみません。高畑先生、ファイト!」 極々一部とは語るまでもなく、神楽坂である。 あれほどボロボロ泣いていたくせに、もう笑って目を回し今にもパレードに突入しそうだ。 近衛がトンカチ片手にはがい締めにしていなければ、どうなっていた事か。 その足元で既にたんこぶを作って倒れている早乙女は、もはやどうでも良いだろう。 親友の宮崎にさえ、踏み台のように扱われ誰も救おうとする者はいない。 ただ極々一部と言っても凄まじい歓声がであり、普通の歓声も当然あった。 それこそ朝倉の言う通り、中等部や大学部、女子生徒からやや不良っぽい男子生徒まで。 前者はこの前はありがとうと何やら恩を感じたように、後者はデスメガネと格闘技者のリングネームを叫ぶように。 やはり広域指導員をしていると、顔は自然と売れていくらしい。「私もプロポーションには多少自信がありますが、この人にだけは恐らく一生敵わない」 そんな高畑の次は、源であった。「もはやこれはセクハラでは? ホルスタインの仮装で現れたのは源先生。ちなみに、推薦者には他校の男子生徒も含まれています」「ありがたや、ありがたや。後光が、あのでかぱいから後光が」「あやかしてえ、あやかりてえ」「推薦者は拝むより前に、周りを見てみましょう。冷たい視線が貴方を射抜いています」 その他校の男子が、女子生徒から袋にされるのに数秒といらなかった。 一応とは失礼だが、源にも女子生徒からの推薦者や応援団がついていたようだ 主にその子達の声援に応えるように、源が手を振っている。 むしろ袋にされている男子生徒をなかった事にするように。「お次はプロポーションなら勝てないまでも引けはとらない。かつての妖精は、今や大妖精となり、かつての自分と同じ妖精を見守る日々。新体操部顧問、二ノ宮先生だ」「ちょっと、この紹介文書いたの誰。大妖精って、気持ちはまだまだ妖精よ!」「せめて長老と書かなかった生徒の思いやりも察してください。リボンがもはや、別の鞭的なアレに見えてしまいます」「二ノ宮先生、まだまだイケてる!」 晴れ舞台でそれはないでしょと、朝倉と新体操部員らしき女生徒の声援にうな垂れる。 ちょっとやけくそ気味に、二ノ宮はリボンを振り回して踊り始めた。「そしてお次は、ダークホース。最近ようやく人気も出始めて調子に乗り始めているぞ。一寸先は闇という言葉の意味を誰か彼に教えてあげて。社会科の乙姫先生だ!」「二ノ宮先生はまだしも、なんで俺だけ紹介文が後ろ向きなんだよ。なんとかいえ、朝倉!」 ついにむつきの出番が来たわけなのだが、あの紹介文はどういうことか。 竜宮城をイメージしたやぐらの上から、朝倉を見つけ出し叫ぶもそっぽを向かれた。 しかも聞こえませんとばかりに、小指で耳をほじっている。 飢えた猛犬のようにやぐらの縁に掴みかかって、吠えそうな程に唸り声をあげた。 だがそんな怒りも、長くは続かない。 コレだけの人目を集めるのは初めての事だし、応援団の数なら既に上位である。「先生、可愛い。来年、顧問になってぇ!」「顧問になってくれたら、アキラを部長にしてプレゼントしてあげる!」 プレゼント云々は意味不明だが、これは水泳部の面々である。 流石に仮装もしているので一人一人の名は分からないが、部長だけは直ぐに分かった。 ちなみにプレゼントとほざいたのが、部長であったのだ。 来年お前はいないだろうと思いつつ、可愛い生徒の為に手を振ってやる。「先生こっちも、こっちむいて。大好きだよ」「私も、好きだよ先生!」 どうせ歓声にかき消されるからと、麻帆良祭の雰囲気を利用して美砂とアキラが叫んでいた。 だが流石に、むつきから俺もだと返答はできない、むしろ届いていない。 ただ大勢のパレードを見に来た人並みから目ざとく二人を見つけ、手を振ってあげた。 ふとその時、嫁と彼女の隣にいた長谷川と目があった。 にやにやとした笑みに背筋がぞくりと恐怖に震え、大変嫌な予感がした。 彼女がその手に持っているのは、リモコンのような何かにも見える。 ああ、だから先日のあのローターかと頭のどこかで納得した途端それが押された。「ぎゃーっ、やっぱりか!」「おーっと、これは全くもって嬉しくないハプニング。生徒の手作り衣装が空中分解。乙姫先生の一張羅、ハートの柄パンがお披露目だぁ!」 むつきの予感は嬉しくもないが見事に当たり、乙姫の衣装の糸全てがスッと抜けたのだ。 たった一つのボタンで見事に繋がりを断たれ、布地が肌の上を滑り落ちていった。 今の私には無理だと言いながら、挑戦しやがったのだあの長谷川は。 折角応援してくれていた水泳部の方からも、妙に嬉しそうな悲鳴があがっていた。「やっべ、ここまで上手く行くとは。腹痛ぇ、公衆の面前でパンツ一朝だぜ!」「高畑先生やしずな先生、二ノ宮先生と強豪ぞろいの次ですのでこの程度のインパクトは必須ですわ。あの慌てよう、誰も意図されたハプニングだとは気付きませんわ」「先生ちょっと可哀想やけど。私達に一杯エッチな事したし、お相子やて」「皆さんはまだ良いです。私など放尿プレイとハンカチ越しとはいえ乙女の秘密の園に触れられてしまったのですから」 散々好き勝手ほざくのは、何時もの四人である。 一部、むつきが反論できないような内容も含まれていたが。「あのローターのスイッチがこう応用されるとは、乙姫先生も予想だにしなかったネ。一寸先は闇、私の考えた紹介文もなかなか」「皆さんも一寸先は闇という言葉を知る機会なのかもしれません」 超も含め、大爆笑する中で葉加瀬が一人冷静な呟きを残していた。 笑っている皆へは全くといって良い程届かなかったが。 その代わり、彼女の頭を長い指の手ががっしりと鷲掴んで来た事で教えられた。 生憎、そんな力のある手は二本だけだが、愛の力と黒い覇気でもう二本が加わった。「ちょっとやり過ぎ、少し向こうの路地裏で話そうか」「ひかげ荘ならいいけど、他の人がいる前では駄目」「私は投票マシーンの最終調整があるから失礼するネ!」「あの赤丸ほっぺ、逃げやがった!」 長谷川達が美砂とアキラの手で路地裏に連れ込まれていく中で、要領良く超だけが逃げ出した。 最強の頭脳を乗せた肉体を行使し、お猿のように路地の壁を伝い屋根まで上る。 ただし、いくら麻帆良最強の頭脳であっても逃げられ続けるわけではない。 何しろ投票マシーンはひかげ荘の地下にあるのだ。 待ち伏せは必死、四名という葉加瀬を抜いた尊い犠牲を出して超の短い挑戦が始まった。 もちろん、直ぐに終わる。 パレードでは一悶着あったものの、内容は概ね良好であった。 教師人気投票トトカルチョの概要も一般参加者に公表され、出走者のお披露目も済んだ。 むつきは総合の部では欄外だったが、今の所中等部では倍率が三番人気。 全く持って悔しいがあの意図されたハプニングのお陰だったりする。 なにしろ、パレード前は十番人気に引っかかるのが精一杯だったからだ。 麻帆良祭はまだ始まったばかりで、最終日までこの順位は色々と変動する事だろう。 ほぼ午前中一杯かかったパレードも終わり、現在は初日のお昼時であった。「はい、先生あーんして」「佐々木、知ってるか。たこ焼きって中が無茶苦茶熱いんだぞ?」「えいっ」 事前の注意もなんのその、佐々木が嬉しそうに爪楊枝を刺したたこ焼きを放り込んできた。 中身のみならず、焼きたてのそれは熱々、ほかほか。 思わず席を転がり落ちそうになりながら、むつきは必死に冷まそうと口を開けて息をした。 そんなむつきを気遣うでもなく、一緒にいた明石がアキラに報告する。「アキラ、先生美味しいって凄く喜んでるよ。アキラが、作ったたこ焼きが美味しいって」「先生、大丈夫なん? ほら、冷たいお水」 現在アキラは水泳部のたこ焼き屋台の裏手でたこ焼きを焼いている為、和泉が水をくれた。 多少気持ち悪いがそれを流し込んで、無理矢理にでもたこ焼きを冷まさせる。 そうでもしなければ、口の中全体をやけどしてしばらく飯が楽しめそうになかった。 最後に水ごとたこ焼きを飲み込み、食道が熱せられるのを我慢してようやく終了だ。「やべ、涙出てきた。佐々木、無邪気なのは良いが気遣いを忘れんなよ。そんなんじゃ、何時まで経っても彼氏の一人もできやしないぞ」「あれ、美味しくなかった?」「まき絵、ほらあーん」「あーん?」 和泉が差し出したたこ焼きをぱくりと食べて、ようやく察したらしい。 むつきのように椅子から転がり落ちかけ、瞳に涙を滲ませ右往左往。 流石に可哀想なので、むつきが飲んでいた冷たい水の入ったコップを渡すと砂漠で迷っていた旅人の如くのみ干し始めた。 年頃の子なら間接キスだなんだと躊躇しそうなものだが。 佐々木がまだ思春期未満だからか、それともたこ焼きの熱さの前にそんな事を言っていられなかったからか。「ご、ごめんなさい……」「ん、分かればよろしい」 熱かったなとぽんぽん桃色の髪を撫で、三人で唯一無傷の明石を見た。「あ……あれ、なにその目。アキラ、先生達が。にゃ、にゃーっ!」 和泉と佐々木に詰め寄られ、逃げ場を失った明石の末路は想像通りだ。 和泉からは反省の色がないと、佐々木からは一人だけ無事は許すまじと。 それも二人からそれぞれ一つずつたこ焼きを口に放り込まれていた。 あまりの熱さに屋台前の地面の上をごろごろと。 仮装がセーラー服なだけに、薄い青のパンツ丸見えであった。 三人のじゃれあいを外見上は微笑ましく、内心は眼福眼福とちょっと拝む。 すると横からそっとテーブルの上に、新たなたこ焼き入りの紙皿が置かれた。「先生これ、少し冷ましておいたから。それと裕奈をエッチな目で見ちゃ駄目」「ん、悪い。今夜、一杯アキラをエッチな目で見るから勘弁」 さすがに可愛い彼女には全部お見通しらしい。 こそっと小声で返し、うんと嬉しそうにはにかんで笑ってもらえた。 キスしたりイチャつきたいが、外ではできず、せめてとむつきのスーツの裾をそっと掴むなど可愛いではないか。 今夜は凄く可愛がってやろうと決意するしかない。 それにしてもアキラは、たこ焼きを渡しに来たのは良いが屋台に戻る気配がなかった。 何やらきょろきょろと、屋台のある背後へと振り返っては迷いやがてむつきの隣に座る。 むつきも振り返って見ると、きゃあきゃあ黄色い声を上げていた水泳部員達の中で部長がぐっと親指を立てていた。 どうやら水泳部そろって、アキラの好意を応援する腹積もりらしい。 恋人的な意味でくっつく以前に、既に二人は物理的結合まで果たしているのだが。 それはさておき、熱々たこ焼きの刑を喰らった明石も含め全員が改めて席についた。「先生はパレードも終わったし、麻帆良祭の間はどうするん? 私らは部活の出し物もあるし、後は四人で色々と屋台巡りしたり」「私、図書館島の探検ツアーがいいな。なんだか面白そう」「私はお父さんの学部の研究発表がいいな。お父さんがいたら、もっと良いかにゃ」「誘われた屋台や部の発表は全部見に行くが」 佐々木に渡された招待券を見せながら、むつきはそう言った。 新体操の演目はお昼からなので、たこ焼きを食べたら佐々木に案内して貰うつもりだ。 他に美砂からチア部の演目と、村上からは演劇部の演劇鑑賞。 四葉からは料理部の試食会に葉加瀬や超からは超包子の食事券と色々貰っている。 一日ではとても回りきれないので、教師としての仕事がない時間を最大限に使って生徒の発表を見て回る予定だ。「遊んでばかりもいられないんだ、これが。麻帆良都市全域がお祭り状態だが、一応は麻帆良学園都市が主催の祭りだから。教師は見回りとか、遊園地のスタッフみたいに迷子の対処やらやる事が一応あるんだ」「なんだか大変そう。手伝う? あーん」「んっ、お返し。あーん。教師の仕事に生徒を連れまわしたら、俺が新田先生に怒られる。目一杯楽しんでなさい。どうした、お前ら」「先生、ナチュラルにアキラにあーんしてた」 和泉に言われて初めて、むつき自身その事に気付いた。 アキラも特に気付かなかったようで口の中のたこ焼きを抑えるように手を当てている。 当然の事ながら、目の前で見せられた佐々木と明石は興味津々だ。 それどころか、水泳部の面々までもがきゃあきゃあと黄色い声で騒いでいた。 何しろアキラが溺れ、むつきに人工呼吸で救われた事件はまだ記憶に新しい。「わ、悪い……彼女に何時もしてるからつい」「謝らなくても、その嬉しかったから」 取り繕おうとしたが、むしろアキラが失敗した。 顔を赤くして俯きながら嬉しいとか、乙女の妄想を色々とかき立てるだけだ。「アキラ、押しだよ、押し。ほら、頬にソースがとか言ってペロって」「今の彼女から奪っちゃえ、奪っちゃえ。アキラの方が絶対可愛いから」「こらこら」 案の定、佐々木と明石がアキラの後ろに回って悪魔の如く囁きかけ始めた。 乾いた笑いの和泉の注意も何処まで届いている事やら。 そんななか、興味を抑え切れなかったのか水泳部を代表して部長が近付いてきた。 背中を押してくる佐々木と明石に困り果てたアキラを横目に後ろから囁いてくる。「先生、やっぱり水泳部の顧問になりません? アキラになら、手取り足取り。エッチな事をしても多少は目を瞑るから」「お前らは本当、俺をどうしたい。中学生の水着になんか、興味ありません」「嘘ばっかり。初日、エッチな目で見てたの勘が良い子は気付いてるよ」「マジでか!?」 思いもよらない言葉に慌てて振り返ってみれば、嘘と悪い顔で呟かれてしまった。 かまをかけられたのだ。 やっちまったと、手玉に取られ額に手を乗せて落ち込む。 まだバレという意味では軽い方だが、するべきではない失敗ではある。 いっそ瀬流彦共々落ちてやろうかとも思ったが、両肩に手を置かれさらに耳元に近い場所で囁かれた。「全然気にしてないよ。けど、顧問の事は本当に考えておいてください。アキラ、絶対先生が顧問になったらもっと伸びる。もう、エッチしちゃったでしょ?」「な、なんのことデスカ?」「大丈夫、気付いてるの私ぐらい。あの大会後、しばらくアキラが泳ぎにくそうにフォーム崩してたから、これはって。分かるよ、だって私も非処女だもん。ほら、先生触ってみて」 何時の間にか部長が背中に密着するぐらい近付いてきていた。 それから後ろ手に制服のスカートの中に手を誘われてしまう。 こんな人目が多いところでとかなり焦ったが、下手に動けばアキラ達に気付かれる。 変な汗が吹き出そうな中で、指先が割れ目のあるなだらかな丘に辿り着いた。 ほら早くと部長に急かされ、早く済まそうとパンツの布をどけて割れ目の奥の穴を探ると確かにない。 女子中学生として、あるべき場所にあるべき膜が。「元彼、下手糞だったから本当に痛くて最悪の思い出。けど、アキラは本当に幸せそうで良い体験だったみたい。羨ましかったんだから」「とりあえず、わかったから手放してくれ。指が勝手に動いちまう」 雄の本能で、冷や汗をかきながらも雌の穴を弄ってしまう。 中指は膣壁の柔らかさを確かめ、また別の指では女の子の花びらをぴんぴん弾いたり。 そうするうちに愛液も染み出し、より美味しそうになるから困りものだ。 以前会った時は、プールの塩素の匂いでかき消されていたが、部長から雌の匂いさえ漂ってきているように思えた。「先生、やっぱり上手。こんな直ぐに濡れたの初めて。来年顧問になってくれたら、絶対毎日会いにいくよ。アキラがいるから彼女にはなってあげられないけど、セックスフレンドならいいよ」「生憎、間に合ってる。オイタもそこまで」 指を膣で挟まれ逃がしてもらえなかったので、仕方なく少し本気を出した。 アキラや美砂よりも、少しだけ肉付きのよい膣を指で擦りあげる。 肉壁のひだが愛液と共にからみつき、ちゅうちゅうと指を吸い上げてきた。 これまた締まりの良さそうな肉壷だが、本当に間に合っているのだ。 手っ取り早く、皮の帽子を脱いでいるクリを転がしては何度か弾いてあげた。「んっ、ちょっとだけ。良い、もっと」「皆を纏め上げる優等生かと思いきや、とんだ淫乱娘だな。可愛い後輩の好きな人を誘惑するとか。ほら、こうして欲しかったんだろ」「そんなぐちゅぐちゅ、音聞こえちゃう。聞こえ、んぁっ。んぅんッ!」 終いには二本の指でクリを挟んでキュッと絞ると、部長がソレにあわせ体を縮め振るわせた。「……ふぅ、気持ちよかった。これ私の番号、したくなったら何時でも呼んで」「別の何かが待ってそうだから、遠慮しとく」 最後にいけずと背中を肘で突かれ、ようやく部長が離れてくれた。 アキラは未だに佐々木と明石の悪戯に手を焼いており、一先ず手を拭かなければならない。 愛液に濡れた手をぶらぶらしていると、見られた。 浮気現場を目撃してしまった家政婦のように、目を丸くしている和泉にだ。「先生……今、水泳部の部長に」「邪推、じゃねえけど。ちゃんと断った。セックスフレンド申し込まれて断るこの勇気、むしろ褒めろよ」「セックスフレンド、そういうのもあるんだ」「おい、何を学習した。ろくな事じゃないから、止めてくれ」 手拭用に用意された箱ティシュから数枚失敬し、手に濡れた愛液を拭き取った。 ただし、ここにいるとまた誘惑されそうなので、手早く席を立つ。 アキラにじゃれ付いている佐々木をひっぺがし、午後からの演目の為の案内を頼んだ。「じゃあ、俺は見回りがてら佐々木の新体操を見に行くから。お前らはどうする?」「私も、まき絵の演技見に行こかな。アキラは屋台があるけど、裕奈は?」「アキラ行っといで。それで先生のハートをがっつりキャッチ」 和泉の言葉に対し、アキラが何かを言う前に屋台の向こうからキャプテンが行ってきた。 握りこぶしの人差し指と中指の間に親指を挟んだ女握りで。 一度むつきの前で非処女を宣言しただけだけに、もはや遠慮も何もない。 ハートどころか、金玉掴んで来いとばかりに応援しまくっていた。 ついでにセックスフレンドの件もよろしくと、むつきにウィンクまで飛ばしている。「私もまき絵の演技を見に行って良いみたい」「ここまで来たら、私だけ行かないってのもないでしょ。まき絵、いっそ私も踊る?」「裕奈普通にボールでバスケしそう、台無しだから駄目」「えーっ、面白いじゃんバスケ。こう、フープにダンクとか」 もはやそれは新体操じゃないと佐々木でなくとも、文句の一つも言いたくなるものだ。 そんな姦しいメンバー四人を連れて、むつきは見回りをしながら体育館を目指した。 -後書き-ども、えなりんです。全開、温泉とお祭りの間に何があったという感想が多かった為。急遽、温泉とお祭りの間に加筆修正を加えました。お馬鹿話が増えただけです。そして今回、ハーレムの第一歩となる言葉がNEW。セックスフレンドです。早速和泉が学習してくれました。さり気に出てきた水泳部部長、彼女が原因。ちなみに、生徒の催しを全部書いては手間が掛かる為。その辺りはぱぱっとキンクリの予定。あと、ちょいパルの悪い所ばかりがクローズアップされてるのが気になってます。それでは次回は水曜です。