第四十九話 一緒にアイツを殴りにいこう 不可思議な力で布団まで吹き飛ばされたむつきは、布団の上に叩きつけられた後頭部をおさえていた。 酔いによる強力な睡魔に抗う為に、散々打ち付けた額や頬もかなり痛い。 正直、可能なら今直ぐにでも美砂達に泣きついて撫で撫でされたいのだが。 泣いている女の子を見捨てて駆けつければ、何してんのと怒られかねない。 というか、そもそもアキラが不満に思ったのも小瀬について何も説明していないからだ。 明日、朝一は無理かもしれないが、きちんと時間をとって説明しようと心に決める。 だがその前にと、襖を後ろ手に閉めたアタナシアの下へと立ち上がって向かい、その手をとった。 その時になって初めて、というわけでもないが、アタナシアのあられもない格好に気付いた。 歩く度に乳房がたゆんたゆん、ふるんふるんではなくたゆんたゆんと揺れている。 思わず手を繋がなかった方の手で顔を覆ったが、指の隙間から見てしまった。「うわっ、ナイトドレス、破ってごめんなさい」「ふん、構わんドレスの一着や二着。挑発したのはこっちだしな。それよりも、期待して良いんだろな。私の心に住む、ナギの馬鹿に喧嘩で勝つなど。俺は最強だと嘯く赤髪の最強馬鹿だぞ?」 挑発的な言葉だが、先程までとは違い、多少面白がっている節があった。「お姉ちゃんパワーを使った俺は無敵だ、任せとけ。てか、雰囲気なんか変わったな。蓮っ葉な感じがげぶっ!」 何が悪かったのか、そう言った瞬間アタナシアに殴られた。 もう顔面が陥没するかと思った程に、実際鼻の形がちょっとおかしいがきっと気のせいだ。「貴様、あれほど日本語は正しくと言いながらよりにもよって蓮っ葉などと。あれは軽い女と同じような、蔑称にも近い表現だぞ!」「あれ、そうなの? タバコを斜に構えて吸うようなイメージから来た」「それは駄洒落で作られた俗説だ。ええい、気分が漏り下がる!」「待って、帰らないで。お願い、謝るから」 くるりと外へ向かって踵を返され、慌ててむつきはその手を掴み取った。 なんだかとっても、さきっぽだけとか言いたくなるシチュであったが。 そんな事をすれば本当に怒らせてしまうのは目に見えている。 誠心誠意謝って、なんとか踏みとどって貰った。 それから改めて布団まで誘い、先にむつきが座って胡坐をかいた膝を叩いた。「もう、貴様の行動には突っ込まんぞ。ほら、座ったぞ。抱きしめろ」「喜んで、ちょっと体温低めだな。さっきは、そんな事にも気付かなかった」「低血圧だからな」 やや体勢を崩し、丸まるように座ったアタナシアのお腹に腕を回す。 それから肩に顎を乗せて頬を合わせ、小さな事だが気付いた事を呟いた。 キュッと力を込めて抱きしめると、ふんっとアタナシアがそっぽを向く。 これは相当な意地っ張りかなと性格の辺りをつけつつ。「アタナシア、そのナギって奴の事を教えてくれないか?」「ん、構わんが。貴様とは桁が違うぞ、止めておけ心が折れて泣くのが落ちだ」「くそっ、マクダウェル情報か。あのちみっ子。良いから、喧嘩に勝つにはまず情報、聞きたいの。アタナシアが惚れた男の話を」「惚れ、惚れとらんわ!」 今度は真下から顎を狙われ、手のひらで打ち抜かれた。「いった、ちょっと待って。今更なにそれ。だって、死に別れた恋人を」「それは貴様が勝手に勘違いをしただけだ。べ、別に付き合っ、付き合ってなんかない。あ、アイツが付きまとうから仕方なく。その振り向いてやらんことも?」「アタナシアが付きまとってたのかよ。まだ、やり逃げされたとかの方が。なにこれ、俺勝ち目ねえじゃん。乙女フィルター純度百にどう勝てと?」「ええい、煩い黙れ。だいたい何時になったら雰囲気作りが始まるんだ」 誰のせいだよとむつきが言えば、アタナシアは貴様のせいだと喚き。 数分はそのまま言い合いを続けていただろうか。 お互いぜえぜえと無駄な汗をかき、互いの体臭に言葉を詰まらせた。 むつきは当然、フェロモンばりばりの匂いに一物がそそり立ってアタナシアのお尻をつんつんしてしまった。 アタナシアの方はといえば、悪くないとばかりに鼻をふんと鳴らしている。 サービスだとばかりに、少しお尻をふって一物で遊んでもくれた。「えっと、何処まで。ナギってのを好きになって」「なっとらん!」 改めて情報を整理しようとしたが、やはりアタナシアは自分の気持ちを認めようとしなかった。 あれだけ騒いで本当にもう、ここまで意地っ張りはちょっと爺さんを思い出す。 口にしたら今度こそ鼻を折られるか、顎を砕かれそうなので絶対にしないが。 ただちょっとばかり、アタナシアの攻略方法を見つけた気がした。 かなり幼稚な手だが、意外と精神構造が幼稚なので効くかもしれない。 改めてアタナシアを抱きしめる腕に力を込め、互いの体温を伝え合うように頬を触れさせた。 少々長い金糸の髪がくすぐったいが、鼻先で掻き分けながら耳元で囁く。「可愛いよ、アタナシア」「ふ、ふん。当然だ。軽薄な奴は、私はすかんぞ」 ピクリと耳をそばだて、それから数秒後に再起動してはそっぽを向かれた。「アタナシアになんていわれても、構わない。ただ俺は伝えたい」「だからなんだ。それで私が」「可愛い、意地っ張りなアタナシアが。素直になれないアタナシアが。心で泣いてるのに必死に噛み付くアタナシアが可愛い」「いや、別に私はなんとも」 ただの言葉程度で心底、心変わりさせられるとは、むつきだって思っていない。 ただ切欠が、ナギを一ミリでも追い出させられる切欠が欲しいのだ。 純度百の乙女フィルターを破るには、それが必要であった。 だから繰り返す、元より失敗する公算が大きいのなら突き進むまで。 良く良く考えてみれば、こんな美女を恐らくは最強の美男子から奪おうというのだ。 長谷川辺りに知られれば、はっと鼻で笑われ馬鹿じゃねえのと言われるだろう。 それでも一夜限りでもと約束した以上は、努力するのが礼儀であった。「低めの体温が気持ち良いアタナシアが、今ちょっと顔が赤くなってるアタナシアが可愛い。ワインを飲ませてくれたエロいアタナシアは、エロ可愛い」「あれは、ちょっと貴様を」「戸惑った時のアタナシアが、キュッと目を瞑った、ドキドキしてるアタナシア。他にも一杯、一杯可愛い」「あの、ぁっ」 露となっていた乳房の先端、乳首をピンッ弾くと小さく声が漏れた。「アタナシアは俺の事は好き?」「き、嫌い」「うん、俺も大好きだ」「待て、私は」 何かを言い募ろうとしたアタナシアの唇に指をあて、やめさせる。 今、アタナシアに喋らせてはいけない。 頭の中の情報を整理する為に、喋らせてしまえば元の木阿弥だ。 むしろむつきがするべきは、さらなる情報の投下。 アナタシアが否定したい、認めたくない気持ちの情報である。「今、俺が先制攻撃。まだ殴れてないけど、びっくりしてた。アタナシアの心に俺が少し入ってきて。おわ、てめえここは俺のだこの野郎って凄んできた」「俺の、勝手に私を置き去りにしたくせに、図々しい。私を弄んだ罪は重いぞ、やれ。私が許す、私の心の中に巣食うナギをぶん殴れ!」「了解、お姫様」 ちゅっと頬にキスを落とすと、少し迷ってからアタナシアが振り返ってきた。 むつきも首を回すようにして唇を重ね合わせる。 西洋人故か、美砂達よりも若干唾液が多いような、それを吸い上げる。 こくこくと喉を鳴らして飲むと、アタナシアが足をばたばたし始めた。 エロい格好の割には意外と初心な所もあるようで、ちょっと笑いそうになった。 だがそれでもナギにラッシュを叩き込むように、オラオラオラと唾液を吸い上げる。 そしてちゅぽんと艶かしさとは程遠い擬音が聞こえそうな勢いで唇が離れていく。 当たり前のように出来た唾液の橋は、アタナシアに見えるように舌で巻き取った。「ぷはぁ、はぁふぅ……どうだ、あれだけの事をしたんだ。ボコボコにしただろうな」「十発顔面殴られたけど、一発だけ。真っ赤な髪の毛を殴ってやった」 どうだと満面の笑みであるむつきに対し、アタナシアは一瞬ぽかんとしていた。「おい、全然駄目じゃないか。髪の毛って、間一髪でかわされとるだろうが。もっとしっかりしろ。そんなのであの馬鹿に勝てるか。代われ、手本を見せてやる」 むつきの手を離れ立ち上がったアタナシアが、振り返り様にむつきの胸を蹴った。 ヤクザキックの要領で、マイクロショーツが眼福な角度で見えたがあまり嬉しくない。 むしろむつきとしては、かなり嫌な予感がしていた。 布団に仰向けで寝転がされ、アタナシアが見下すように嗜虐的な笑みを浮かべている。 つい最近どこかで、姉妹でありながら姿形が似ても似つかないちみっ子が似た様な笑みを浮かべていた事を思い出す。 その予感は的中し、浴衣の薄い装甲部分を足で思い切り踏まれた。「あんな奴、こうしてこうやって。それでこうだ!」「止め、姉妹そっくりな。でもアタナシアさんだと屈辱的なこれが、けどあぁ!」 器用に足だけで浴衣をまくり上げ、勃起中の一物を素足で直接踏みつけられたのだ。 足の短い指先までも使って一物を挟み込み、かなり乱暴に扱きあげられた。 ただマクダウェルの時よりも、怒りその他で愛撫とはとてもいえない。 苛立ちをそのまま足の裏から伝えられ、快感よりも痛みが勝る。 超絶美女の仕打ちとはいえ、元よりメンタルが弱いむつきには狂気の沙汰でさえあった。 アタナシアはちょっと興奮したのか息を乱し赤い顔で楽しそうだが、反面むつきは顔の造詣が崩れるほどしかめていた。「どうだ、百発ぐらい殴ってきたか!」 何分経ったろうか、アタナシアが満足しきった所でむつきを見下ろした。「生言ってすみませんって。謝って、ぐす。許してもらえず、ボコボコにされた」「しまっ、こいつこういう奴だった!」 彼女が望んだ答えは、もちろん得られなかった。 責め苦から解放されるや否や、むつきは布団に伏せぐすぐすと鼻を鳴らし、ちょっと泣いていた。 このちょっとという部分が、アタナシアに見せた小さな見栄だが通用するはずもなく。 アタナシアは頭を抱えて、役立たずとお尻をげしっと蹴りつけてくる程だ。「貴様は一体何をしているんだ。さっさと殴って追い出して来い!」「だって、ナギを殴りに行ったらこの人を傷つけないでって、アタナシアが飛び込んでくるなんて」「この私がそんな乙女チックな事をすると思うか!」「おのれナギ、お前はどれだけアタナシアの心を独占すれば。おっぱい飲めばお前なんか。おっぱい飲めば。アタナシアのおっぱい!」 チラッチラッと、自分の腕枕からアタナシアを振り返る。 もう本当にむつきの本気が何処にあるのか、アタナシアは髪をわしわしとかき回す。 そして深い、深い溜息を一つついて、仕方なく譲歩してやる事にした。 布団にうつ伏せで足をばたばた駄々っ子するむつきの背中にのし上がった。 欲した胸をむつきの背中で押し潰し、ふっと吐息を耳にかけて手は下腹部へ。 勃起か、足コキのどちらかで熱くたぎっている竿を両手で包み込んだ。 多少萎えていた事もあったので、ぎゅっぎゅと優しく握り摩るように扱きあげた。(なんであの馬鹿を追い出して貰うはずの私が、逆に奉仕せねば……これ、あの小娘達と同様、嵌ってないよな? ないよな?) なんだかやばい所に足を突っ込んだ気もしたが、まだ約束を果たして貰ってない。 キスと足コキ、ここまでしたんだやり逃げは許さない。 飴と鞭、鞭が過ぎたから次は飴なんだと、よくわからない言い訳をしつつ囁いた。「乙姫、私の胸をどうしたい。今回だけだからな??」「アタナシアのおっぱい!」 振り返っては抱きつき、そのままごろんと半回転して上下逆となった。 顔全体が一つのおっぱいに埋もれる事も可能そうな胸に大口をあけてしゃぶりついた。 乳輪ごと口の中に吸い込み、相応の大きさのある乳首をころころと舌で転がす。「こら、勝手に吸い付くっ。んぁぅ、別に感じてなんか」「アタナシア、行くぞ。今度は一緒に再挑戦だ」 リベンジとばかりに、むつきはアタナシアの胸を必死に愛撫する。 一方的にイケ、感じろではなく共に、一緒に同じ方向を向いて。 しゃぶりついた方とは逆の乳房は、もう片方の手で鷲づかみである。 人差し指と中指の谷間に乳首をセットし、揉みしだくと同時に引っ張ったりも。 だがアタナシアもむつきの言葉を聞いて、今一度一物を握り締めた。 自分の胸を搾乳されながら、むつきの一物から搾乳するように扱きあげる。「アタナシアのおっぱい、最高のおっぱい」「どれだけ、んぁ。夢中なんだこいつは……あぁ、悪い気はしないが。ちょっと、気持ち良いし。存分に吸って、殴りに行け!」 言われた通り、限界までアタナシアの乳房に吸い付き、重量感たっぷりのそれを円錐型になるまで吸い上げた。 それが口元から零れ落ちぶるんぶるんと震える様を眺めつつ、むつきが舌打ちをする。「くっそ、惜しいとこまで行った。けどガードされた。で、二回殴られた!」「もどかしい、が。押し返してきているな。次はどうする、何がしたい」 それならこうだと、むつきがアタナシアのマイクロショーツを引っ張った。 表面積の少ないそれの隙間にアタナシアが愛撫してくれた一物を差し込んだ。 僅かに塗れる股下の唇をなぞり、お尻へと擬似的な挿入を果たす。 二人の性器をぴったりとくっつけるように、マイクロショーツが押さえ込んできた。「アタナシア、好きだ。俺の気持ちを受け取れ」「断る、と言いたいが。奴を追い出す為だ、受けてやるから感謝しろ」 マイクロショーツをひっぱりながら、腰を上下に振ってアタナシアの性器にこすりつける。 正常位でのほぼセックスなのだが、一応は素股の一種だ。 お腹や性器まわりの肌をぶつけあい、パンパンと乾いた音を何度も立てる。 挑発的な言葉の応酬も含め、唇同士で鼓動を伝えながら高めあう。 滴る汗も互いの肌と肌ですりつぶし、体臭を擦り付け合うように体を擦りあった。 弾力のある胸もむつきの胸と合わせて押し潰し、乳首同士を擦り合わせた。 さらに小さく万歳をするようなアタナシアの手にむつきが手を合わせる。 キスの合間に小さく呼吸してはまたキスを、溺れるほどに繰り返す。「アタナシア、凄く気持ち良いよ。アタナシアは?」「べ、別にぁっ。私がこんな、ぁぅ。こんなの」「十分伝わった、殴りに行くぞ。ナギのあんちくしょうを!」「行って、あの馬鹿を殴りに。行って!」 より激しくむつきが腰を振ってはアタナシアのお腹とで拍手を繰り返した。 アタナシアも言葉では否定気味だが、しっかりと性器から愛液が流れ出している。 拍手の中に確かな水音も加わり、感じ始めているのは誰の目にも明らかだ。 恐らくそれを決して認めないのは、彼女自身であろう。「駄目だ、殴ったけどカウンター喰らった。ドローだ、根性あるなアイツ!」「私がかつて好……なんでもない。あと一押し、もう少し頑張ってくれ乙姫」「ああ、後一押しだ」 ヒートアップして叫び愛撫を繰り返していたむつきが、ふと冷静に一押しと呟いた。 見下ろすように見つめたアタナシアとも、しっかり瞳があった。 短いながらも激しい運動でかいた汗が、むつきの頬から顎へ、さらにぽたりとアタナシアの乳首の上に落ちる。 そのままアタナシアが浮かべた汗と交わり、どちらの汗かもわからぬまま流れ落ちた。 二人共にソレを見ていたわけではない。 ないが、瞳を見つめ合わせたまま、何一つ言葉なく察していた。 お互いに一つに共に殴りに行く為の最高のシチュエーションは整っていた。 完全に勃起したむつきの一物は、むしろそれで棍棒のように殴れそうなぐらいだ。 屈辱と言う意味では最高の武器だが、カウンターを喰らったら一撃死だが。 対するアタナシアもナギへの気持ちが燻りつつも、性器から愛液が止め処なく流れている。 むつきの愛撫に答え、受け入れる為の準備が終わってしまっていた。 あとは、先程交じり合った汗のように、男と女、交わりあうだけであった。「アタナシア、良いか入れるぞ。一緒にアイツを殴りにいこう」「うん、一緒に乙姫」 手は繋いだまま、腰だけを器用に使ってむつきは狙いを定めた。 ちゅくっとアタナシアの割れ目に亀頭を沿え、そっと沈めていった。 低体温のアタナシアらしい、温めの膣の中を奥へ奥へと。 豊満な体を持つわりに締め付けは強く、何度か後退を繰り返しては進出する。「んぁぅ、早く。早く殴りにぁっ」「思い切り殴る為に、助走中。アタナシアもしっかり準備して」「乙姫、こう?」 手を押さえつけられる格好ではなく、アタナシアがむつきの背に手を回した。 手をひかれるだけではなく、自分の意志で。 心の中に住まうナギを殴りに行く為に、アタナシアが助走を始めた。 それを感じて、むつきも残り数センチを一気に貫いていった。「あぅんっ!」 ゴチンと奥を突かれ、仰け反りながらアタナシアが喘ぎ声を上げた。「アタナシア、殴りに行く途中でバテてちゃ駄目だ。ほら立って、行くぞ」「行くゥっ!」 ごつん、ごつんと突かれる度にアタナシアが無理とばかりに喘ぐ。 ストーカー気質の割に、それともだからか。 あまり経験はなさそうな反応であった。「待っれ、死ぬぅぁ。馬鹿を殴る前に、私ら死るぅ」「アタナシアは俺が守るから。絶対奴の前に連れて行く。それで思い切りぶん殴る!」「乙姫、むつき。置いていかないで、一緒に。連れてって!」「ああ、一緒にだ。俺は絶対にアタナシアを置いていかない。一緒に行こう」 時々挿入の角度を変えたりしながらアタナシアを攻め上げ、連れて行く。 手を繋ぎ、唇を合わせ、胸を擦り、一つに繋がりながら。 彼女の心のほぼ百パーセントを占める赤毛の憎いあんちきしょうの下へ。 一体どんな顔なのだろう、どんな性格なのだろう。 アタナシアとは今日が初対面で当然だが、むつきが知らないアタナシアを一杯知っている。 赤髪意外に殆どない男に嫉妬の心を燃やし、俺の女だと主張するようにアタナシアの手を引いていった。「アタナシア、もう直ぐだ。もう直ぐ」「行く、イクの。馬鹿の下まで持たない、むつき。むつき!」「だったら走るぞ、アタナシア!」 アタナシアの両太股を跨ぐようにし、そのまま足を閉じた。 膣に挿入されながら両足を閉じられたアタナシアはどうなるのか。 それだけではどうにもならない。 どうにかなるのは、その状態でむつきに挿入を繰り返された場合だ。「アタナシア!」 引き抜いた状態からずるずるずるっと一気に挿入され、その距離だけ擦り上げられた。「ぁっ、ああぅんぁっ!」 挿入の長さの分だけ、竿の上っ面の部分でクリトリスを刺激され続けたのだ。 引き抜くときもそう、ゆっくりと抜いていく為より良くアタナシアにそれを自覚させた。 割れ目が途切れる恥丘にてぷっくり膨れるクリトリスである。 それを行きも帰りも強烈に擦られては、本当にナギに辿り着く前に殺されかねない。 だがむつきは太股をしっかりガードしているし、振りほどけない。 力ずくでなら可能だが、それではこの思いがけない一夜が無駄になってしまう。「早く、むつき。急いっでぁ」「アタナシア、もう直ぐ頑張れ。頑張ッ」「駄目、届か。ぁぅ、んぁぅっ!」 諦め失速する、そんなアタナシアが息を吹き返すよう唇を奪う。 その時、ピッと唇の端に痛みを感じて鉄の味が広がっていった。 それでもアタナシアは気付いた様子もなく、それこそ血の混じった唾液を飲んだ。 体ばかりか、体内まで一つになるようにむつきの血液を飲んでいく。 かなり背徳的な行為に、むつきの背筋に言いようのない快楽が上り詰めていった。「アタナシア、行くぞ。もう、ナギは目の前だ。拳を握れ、相手を見据えろ」「ナギ、貴様など大嫌いだ。今この瞬間、瞬間だけはむつきが、むつきの事が!」「どけ、色男。アタナシアは俺んだ。てめえなんかに、この野郎ォ!」「あっ、来た。イク、一杯。むつきが、お腹に一杯。ひゃくぅっ!」 幻なのか、それとも願望が目に見えただけか。 子宮の奥まで射精の迸りを感じた瞬間、アタナシアは確かに見た。 己の中に住まう絶対的な存在、恋して止まないナギを、一般人のど素人が殴りつける姿を。 立派な魔法使いとも称される最強の魔法使いを、スーツ姿のただの教師がだ。「アタナシア、見たか。殴ってやったぞ。お前は誰にも渡さない。俺の女だ!」「んくぁっ、はは。ひぅ、ぁっ。射精を止めろ、感じすぎて。笑いが、んぁ」 アタナシアの中に射精しながらぶるぶると身を震わせ、しっかりと抱きしめて来る。 温かくも逞しいその腕の中で、かつてない安心感を胸にアタナシアは瞳を閉じた。 今夜限りの、それこそ数時間で終わってしまう安らぎの時。 何百年も苦しめられた光とか闇とか、十五年恋したナギも置き去りに。 乙姫むつきというしがない一般人、ただの教職員の事だけを胸に秘める。「アタナシア、俺の事は好きか?」「うん、大好き」 驚く程にすんなりと出た好意の言葉に驚きつつも、心地良い気だるさと腕の中の温かさに満足してアタナシアは眠った。 それこそ何年ぶりの事になるのか、心底安らいだ表情を浮かべながら。 翌朝、アタナシアことマクダウェルはむつきの腕の中で目を覚ました。 まだ日は低く気温も上がる前で、涼しささえ感じる真夏日よりであった。 寝ぼけ眼で猫のように丸くなりながら、自分を抱く男の胸に額をぐりぐり押しつける。 だが昨晩に感じた満たされた気持ちは薄く、幸福感とまではいえない。 何度か試しつつ、やがてある事に気付いて腕を掻い潜って抜け出し胡坐をかいて座った。 身体と同じく、ナイトドレス改め、ちょっと破れているネグリジェの身だしなみを調える。 そしてむつきを見下ろしつつぼりぼりと頭を掻きながら、やれやれと呟いた。「たった一夜の魔法、数時間だけの。解けたかそれとも、夏の夜に浮かされたか」 心の中でむつきとナギを天秤にかけてみたら、見事に壊れた。 ナギが地面に陥没して、むつきがどっかに吹き飛んで行った。 あの最強の魔法使いを殴り倒した勇姿は、一体なんであったのか。 だらしないぞ、こいつめと鼻先をかるくデコピンしてやった。「んぅ、アタナシア?」「昨晩はお楽しみだったな、乙姫」「くぁ、頭痛ぇ。お前、マクダウェル。姉ちゃんが会いに来てたからって、普通男と同衾してる布団に潜り込んでくるなよ。もう十四だろ、気を利かせ……アタナシア?」「姉なら、早朝に帰ったよ。素敵な一夜をありがとう、侍ボーイだとさ」 一応坊やは卒業できたようだが、アタナシアにとってまだ侍ボーイらしい。 精一杯真似たであろうが、全く色気が足りないマクダウェルの頭をごしごし撫でる。 止めろ鬱陶しいといわれるかと思ったが、意外と反発はなかった。「マクダウェル、出来れば姉ちゃんの連絡先を聞きたいんだけど」「生憎、私達姉妹は機械が苦手なんだ」「マジかよ。てか、お前も小鈴の特別性携帯ぐらい持て。便利なんだぞ、色々と」「気が向いたら、またふらっと現れるさ。特に満月が綺麗な夜にはな」 それよりもと、むつき浴衣が肌蹴た胸を指で突きながら言った。「浮気をして知らないと放っておかれた夜に浮気とはな。これが知られれば、大河内アキラはどんな顔をするか。柿崎美砂は? 他の二人はまだ許しそうだが」 マクダウェルが楽しそうな悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言った。 昨晩以前に比べ、妙に気安くころころと表情が変わっていくマクダウェル。 だがそれに気付く余裕もなく、むつきの顔は真っ青になっていた。 全く持って、マクダウェルの言う通りであったからだ。 アキラに無視され泣いていたのに、その日の内に初対面の女性と関係を持ってしまった。 小瀬の件に続き、説明する事が増えている。 しかも余裕がなかったのでコンドームもせず、思い切り中だししてしまっていた。「マクダウェル、俺をお義兄ちゃんと呼ぶ覚悟はあるか?」「あるか、馬鹿。姉も大人だ、アフターピルぐらい簡単に手に入れる。現実逃避をするな、口止め料を払え」「なにこの子、お義兄ちゃんに堂々とお小遣い強請ったんだけど」「ていっ」 もはや何度目の事になるのか、マクダウェルが軽く腕を振るっただけですっ転んだ。 場所が布団の上だったのが幸いし、衝撃は思った程ではない。 もしかして手加減されたかと思い、マクダウェルを見上げてみた。 もの凄く、苦みばしった顔をしている。 そして目が合った瞬間に、思い切り顔面を踏まれた。「勘違いするな、姉の部屋だ。私はちょっと借りるだけだ」「あっ、そゆこと」 部屋ぐらいまだ余っているので、別に構わないのだが。 それよりも、浮気して怒られた当日に浮気とは。 もう死んだ方が良いのかもしれない。 嫌だ死にたくない、けど嫌われたら捨てられたらどのみち死ぬしかなかった。 うねうねと布団の上で、別に床オナをしているわけではないのだが。 心の暗雲を表すように、蠢き続ける。 なのにマクダウェルは慰めもせず義兄を見捨て、ぱたんと襖の向こうへ。「ちくしょう、義妹にも見捨てられた。養豚場の豚を見る目で見られた。アタナシア、お前を助けておいて俺死ぬかも」 文字通り、枕を涙で濡らし始めた頃、ピピピっと携帯電話が鳴った。 目覚まし機能かとも思ったが、セットした時間にはまだ早いはず。 一体誰がと液晶画面を見てみると、柿崎美砂と大河内アキラの両名の名が。 同時ってどういう事と、受話ボタンを押してみると。「先生、大丈夫。まだ生きてる!?」「先生、冷たくしてごめんなさい。謝るから、置いていかないで」 美砂とアキラ、二人同時ってどういう事という疑問もあるのだが。 なんだかのっぴきならない状況だと誤解されている気がする。「あの、口聞いてくれて嬉しいんだけど。なに、こんな朝早くに」「茶々丸ちゃんが、先生が泥酔して泣きながら、私達の名前を呼んで」「虚ろな目をして変な笑い方してるって、マクダウェルさんに言えって言われたって」「茶々丸ッ!」 二人の若干要領を得ない説明の後、廊下の何処か遠くでマクダウェルが叫んでいた。「半分、分かってたんだろうが。普通に生きてるぞ。泣きながら飲んで名前呼んでたのは本当だけど。虚ろな目とか、変な笑い方とかは誇張だ」「だろうなとは思ったんだけど、先生豆腐メンタルだから。万が一ってことも、ね?」「う、うん。信じてたよ、先生やる時はやるから。絶対に、手は放さないって」「しどろもどろになるなよ。どんだけ信用ないの、俺。てか、小鈴のこの携帯なに。もう、色々と良くわかんねえけど。気が抜けた」 まだアタナシアの残り香がする布団の上で、のぺっと広がった。 もちろん、携帯は大事に耳元にあてながらだが。「えっと、時計……まだ、五時半か。二人共、提案」「なになに?」「どうしたの、先生?」 時計を見て時間を確認すると、少し改まってむつきは電話の向こうに話しかけた。「謝りたい、説明したい事があるから、六時半に社会科資料室に集合。それで、もし許して貰えるのならぎりぎりまでイチャイチャセックスしようぜ」「直ぐ、直ぐ行く。よく分からないけど、もう許した。セックスしよ、先生」「なんとなく、想像つくけど。先生の事だから、性欲に負けてってのはなさそう。だから、私も許す。その代わり、一杯して。その人よりももっともっと」「俺の決意って一体……まあ、いいや。んじゃ、また後でな二人共」 向こう側からも、また後で、愛してると聞こえた後に電話を切った。 にやにやとした笑みが止まらず、むつきは叫んだ。 甲子園でホームランを打った高校球児にも引けを取らない雄叫びを、ガッツポーズを。 -後書き-ども、えなりんです。ロマンチックなんてありゃしない。エヴァとの初体験はこんなコメディ調になりました。けどBGMはチャゲアスのヤーヤーヤーw一発かましはしましたが、まだまだナギの1%にもなりません。もうちょいちょいイベントをはさみつつ、という感じです。さて、次回が丁度五十話。一学期の終業式となります。偶然ですが無茶苦茶きりの良い数字となりました。それが終われば、夏休み編です。それでは次回は水曜です。