第五十三話 俺のアタナシアを下世話な会話で汚すな 夏休みの二日目にしてひかげ荘メンバーは、全員が宿題を終わらせる事ができた。 おかげで全員が生き生きと、中学二年生の夏を部活に遊び、はたまた趣味に恋にと楽しんでいた。 最後のはむつきの恋人に加え、おまけの和泉ぐらいのものだが。 こんな開放的な夏は初めてだと、あの長谷川がむつきに礼を言う程だ。 さらにむつきの恋人達以外は、多少の差こそあれ全員むつき君人形を二個以上手に入れている。 夏休みをどう過ごそうか胸をときめかせつつ、お願いの権利をどう使うべきか思案に暮れていた。 ただむつきは今年は水泳部の顧問があるので、あまり遊んでばかりもいられない。 地区大会の出場申請こそ提出されているが、当日の予定の確認や移動方法。 特に部員が多いのでバスではなく電車移動で、切符は事前入手であったり。 遠出では引率が足りないので、誰か手の空いていそうな先生を探したりもした。 出来れば女性の教師が良かったのだが、見つかったのは瀬流彦ぐらい。 しかし、他校の学生がいる以上、更衣室で事件等あればやはり女性が望ましかった。 そこで交換条件として二ノ宮に、新体操部の大会当日は男手として引率に行く事で引き受けて貰うことができた。 さらには全国大会出場時の合宿の件もと、監督室でのんびり監視しとは行かなかった。 元々事務系は得意なので、それも部活が終わる午後六時までの事であったが。「お尻、お尻良い。先生、太くて硬い。最高、お尻壊れちゃうっ!」「先輩こんなにくわえ込んで。うちまだ無理や。んぅ、おまんこもとろとろ」 デスクの椅子が壊れそうな程に軋ませ、むつきは背面座位で小瀬の尻を貫いていた。 調教経験があるだけに、きつく締めあげるだけの和泉とは違い、むつきの竿を扱いてきさえしている。 むつきと出会うまではさぞ体を持て余していたのだろうと、ピンと立つ乳首をきゅうっと摘み上げた。 それに合わせ尻穴もキュッと締り、堪り兼ねた小瀬が天井を見上げては嬌声をあげる。「おっぱいも、おまんこも。全部、私の穴全部壊されちゃうの!」 他の水泳部員は全員帰った後で、残っているのは監督室の四人、残り二人は和泉とアキラだ。 全員が全裸であり、現在お尻を犯されている小瀬が順番としては最後。 和泉はお尻から、アキラはおまんこから貰ったばかりの精液を大量に垂れ流していた。「んー……先生、こっち向いて。キスしよ」「ああ、アキラずるい。私もらぶちゅうしたいのぉっ!?」 少々アキラは不満そうだが、小瀬から奪うようにむつきとキスをして少しは直機嫌が直ったか。「自重しろよ、部長。自分ばっか楽しんじゃダメだろ。ほらイクぞ、尻穴に出すぞ。お前の大好きな精液出すぞ!」「だって、部長って気を使うんぁ。お尻、大きくなって。来た。びゅっびゅ来たぁっ!」 三度目ともなると普通は射精まで長くなりそうだが、平気で十回以上できるむつきはこのぐらいなら敏感になって逆に早くなるぐらいだ。 自分の上でよがる小瀬の腰をしっかりつかんで、竿の根元まで抉れる程に押し込んだ。 膣とは異なり、際限の無い奥行きのある尻へと射精を感じた小瀬が、椅子が悲鳴をあげる程に暴れた。 むつきがしっかりと腰を掴んでいる為に、転げ落ちはしないが。 小瀬の尻とむつきの股間の密着率はさらに上がり、余計に快楽を得てしまっているようだ。 蟹股に開かれた両足はぴくぴくと痙攣し、まさに足の指先に至るまで感度が広がっているのだろう。 おかげでクンニをしていた和泉は、小瀬の濡れたおまんこに顔を突っ込んでいた。 偶にはこんな失敗もあると、愛液が目に入って少々苦しんでいる。「ぁっ、ぁぅっ……本当、三回連続でまだ硬いまま。んぅ、先生抜かないで。もう一回、一回り頑張って」 永遠に続くかのような射精も、当然終わりは訪れ小瀬も遠くに行きかけた意識をなんとか持ち帰る。 ただし、さらなる快楽を求めるあたり、返って来たとは言いがたい。 むつきの膝に両手をつき、自ら腰を振っては穴と竿の隙間から精液が溢れだしていた。「これ以上はアキラが怒るから駄目。それに今日は」 小瀬の尻から強引に一物を抜いてはちょっと下品な音をたてつつ、デスク上の携帯を見た。 注視したのは現在時刻であり、十九時半であった。 そろそろ急いで戸締りをして、お店に向かわなければならない。 小瀬をアキラに任せ、和泉にお掃除フェラをして貰いつつさっさと指示を出した。「アキラ、悪いが小瀬を着替えさせて。お前も着替えて来い。一応、水着着てから監督室出てけよ。全裸で行って誰かに見られたら大問題だ」「うん、わかった。先輩、立てる? 駄目なら抱っこするけど」「さすがアキラ、力持ちさんぐへっ。アキラ、さん?」「もう一回言ったら、またちょっぷします」 ごめんなさいと小瀬を謝らせ、二人共に身だしなみを整えてから監督室を出て行く。 アキラも随分と、水泳部内で弄られる事も少なくなってきていた。 一体誰のおかげか、きちんと自分の中で境界線を持ち、叱る時は叱るようになった。 ただその際、高確率で手がでるのだが、矛先が主に小瀬となっているので止めるべきか微妙である。「アキラ、来年はちゃんと部長できそうやね。うち、水泳部に必要かな?」「いるだろ、普通に考えて。滅多にないけど、前みたいにアキラが本気で怒ったら俺でも駄目だ。たぶん、お前とか明石、佐々木ぐらいか。止められるの」「特別ってええな。はい、お掃除終わり。ご苦労さん。また夜に会おうな」 竿をウェットティッシュで綺麗に拭きとり、最後は名残惜しそうにお別れのキスである。 思わずピクリと反応してしまったが、本気で遅れたらまずいのだ。 手早くスーツを身に纏い、和泉には最近ここに常備した消臭用のスプレーを掛けて貰う。 女の子の匂いをぷんぷんさせて、街中を移動するのはさすがに体裁が悪いのだ。 ちなみに本来の使用方法は、換気がし辛い監督室の性臭の匂い消しである。「やべ、ちょっと間に合わないかも。和泉、知ってると思うが今日は俺飯いらねえから。あと、戸締りしとくから室内プール場の明かりと玄関口の戸締り頼むな」「はいはい、高等部の葛葉先生の為の合コンやろ。幹事やから対象外って聞いとるけど、調子に乗ってお持ち帰りしたらあかんよ」「お前は俺の彼女か。しねえよ、幹事は接待で忙しいから。わざわざ呼んでおいて、トンビの如く掻っ攫ったら俺がダチに殺される」「先生、もう行ってええよ。監督室も閉めとく。気をつけてな。先生?」 彼女じゃないと言った手前少々躊躇したが、軽く泉を抱き寄せおでこにキスした。「行ってきます」「なんか照れるやん。お尻でセックスした後やのに。行ってらっしゃい。あとでアキラにもしたげなあかんよ?」 一緒にお小言をもらってしまったが和泉からも頬にキスをしてくれた後、手を挙げて別れた。 急ぎ監督室を去り、更衣室前に寄って呼び出したアキラにも同じ事を。「アキラ、行ってくる。すまんが、小瀬の世話を頼むな」「うん、わかってる。楽しんできて、先生」 小瀬は更衣室内のベンチで幸せそうに蕩けていたので、キスはいいやと先を急いだ。 室内プール場を飛び出して向かったのは、麻帆良女子中の最寄り駅である。 そこから電車に乗って学区とは間逆の位置にある、目指すは歓楽街であった。 学園都市と言っても、大学部もある為、麻帆良にも一応こういった街ぐらいある。 ただし、学園都市だけあって健全な店ばかりで売春紛いのものは一切ない。 あるのは居酒屋やゲームセンター、およそ学生が主利用者の歓楽街といったところか。 大学生が本気でそういった施設を利用する場合には、いつぞやのむつきのように東京までの出張だ。「おう、俺だ。集合場所に皆、いるか?」「遅いぞ、乙姫。三人とも昼から飲んで待機しとるわ。急がんか。女子中の水泳部顧問になって、何人かつまみ食いでもしとったんじゃないだろうな」「天下の往来でアホな事を抜かすな。大人しく待ってろよ。待ってる間に、ナンパとかすんじゃねえぞ。マジで、ちょい硬い人もいるから」 電話で喋りながら走り、腕時計を確認するがちょっと電車では間に合いそうにない。 少し待ち時間が長く、乗り合わせが悪いとしか言いようがなかった。 仕方がないのでタクシーを広って飛び乗り、予約しておいたお店の名を運転手に告げた。 兎に角、直ぐに行くからと言いつけ、タクシーに急いで貰う。 運転手への奮発するからと焦った発言も、そうだなっとのんびりした言葉で返された。 むつきがお店の前の集合場所に辿り着いたのは、本当に時間ギリギリであった。 何せ夏休みという事もあり、大学生が大量に流れ込み、タクシーも途中でストップ。 結局自分の足で走るはめとなり、監督室で無駄な体力使うんじゃなかったと結構後悔した。「ぜえ、おえ……お前等、久しぶりだな。今日はよろしく頼む。一人は確実に年上の超絶美人だから、ほか二名は知らんが。なっ、酒呑に観音、あと天狗」「がっはっは、鍛え方が足りんぞ乙姫。見よ、歳を経ても酒を飲んでも衰えぬ俺の筋肉美を。だが、お前も少しばかり筋肉が増えたか?」「懐かしいですね、乙姫。我ら昔話四人衆が揃うのは何時以来か。壮健そうで何より」「なあ、その一番の美人が元人妻ってマジか。燃えるわ、他人が染め上げた女を自分好みに染め直すとか。天狗らしく、浚っちまうか?」 赤ら顔でティーシャツにはち切れそうな肉体を収めているのが酒呑。 元ラグビー部で、現在はその豪快な性格と肉体で工事現場の監督業をしている。 唯一穏やかに微笑むのが観音、カノンとハイカラにも読める丸坊主の男であった。 名は体を現すと言う通り大学卒業後、実家のお寺を継ぐ為にお坊さんの修行中だそうだ。 最後の金髪ピアスのチャラ男が、年上の人妻を食って歩く趣味のある天狗である。 一人だけ無職というか、ヒモをして日々体を持て余す人妻からお金を貰って暮らしていた。 なんでこいつと友達なのか不思議だが、それは観音が言った昔話四人衆が関連している。 身なりも性格も全てばらばらだなのだが、全員が全員、昔話に出てきそうな名前なのだ。 おかげで何処へ行くにもひとくくりで扱われ、ひかげ荘で友好を深めるうちにと言う奴であった。「葛葉先生はまだいないか……」 まだ女性人の、葛葉の姿が見えず取り合えずお店に入る事に。 予約した乙姫という名で店員が半笑いになったが、後ろの三人の方がよっぽど爆笑していた。 奥の座敷、掘りごたつの部屋に案内され、席の片側を空け酒呑達が並び、むつきは下座だ。 ちなみに奥から酒呑、観音、天狗の順番である。 それから学生時代の昔話に花を咲かせたり、酒呑が後でひかげ荘で飲むかといったり。 さすがに後者はひかげ荘がばれた生徒が遊びに来てると勘弁して貰ったが。 酒呑だけはそうかとあっさり引き下がったが、観音と天狗はにやにやと。 観音には両手を合わせご愁傷様と礼をされ、天狗にはロリコンかと弄られたり。 特に天狗には、何人食ったと、生徒の母親紹介してくれと突かれた。 生徒ではなくその母親をというところがまた、彼らしい。「失礼、ここが乙姫先生がご予約されたお部屋と伺いましたが」「乙姫先生、はは……刀子に誘われて。来ちゃいました」 仕切りとなる襖を開けて入ってきた女性は二人。 一人は以前に図書館島で多少言葉を交わしたあの鋭角眼鏡の司書の女性だ。 お堅い性格を現すように変わらぬスーツ姿で、パリッと決めてきている。 もちろん頭の上でまとめた髪の毛もあの日のように神の頂へとばかりにタワー型であった。 一方、申し訳無さそうに謝るのが、保健医の沖田、もちろん既婚者。 もうあの人はどれだけこの合コンに掛けているのか。 一人は自分以上にお硬そうな司書の人で、もう一人は既婚者である。 自分以外はレベルの低いとかいうレベルではなく、別階級を連れて来たイメージだ。「あっれ、左手の薬指に指輪って事は人妻さん? 駄目じゃなーい、夫に怒られちゃうんじゃない。んじゃ、俺は一抜けでこの女性のお相手。いや、実は俺も数合わせのこれなんで」 そう天狗がポケットから取り出して見せたのは、薬指にピッタリな指輪であった 当然、沖田のそれとは違う結婚指輪などではない。 どうしてそこまで息を吐くように嘘がつけるのか、これが天狗の手である。 あの指輪も本来は右手用で、今もこれと見せはしたが左手の薬指とも既婚者とも言っていない。 不倫沙汰になったら、ピンチなの俺ではと少し嫌な汗が出できた。「あの、沖田先生」「はいはい、葛葉先生は少し遅れて来るそうです。まあ、察してください」「そうか、そうか。斉藤さんは図書館の司書さんか。建て替える時は言ってくれ。格安で引き受けるぞ。あっ、声が煩いのは勘弁してくれ。ぼそぼそ喋るのは合わんでな」「豪快な事で、男らしくて素敵ですよ。酒呑さんは、何を飲まれますか?」 沖田と天狗の不倫を危惧するあまり、何時の間にやら図書館島の司書改め斉藤が酒呑と喋り始めていた。 意外とアグレッシブと言うか、少々耳が辛そうにしているが悪い印象は抱いていないようだ。 一緒にメニューを眺めては、コレが飲みたい、アレは美味いとお酒で盛り上がり始める。 あのドSそうな斉藤が意外だが、仕事を離れるとそんなものかもしれない。 幹事って一体なんだろうと、ちょっと泣きそうになった。 むつきと違い、バイタリティあり過ぎの肉食系過ぎる。「乙姫、そう落ち込む事なかれ。何時もの事ではなからんか、ほれ店員を呼ぶぞ。遅れた方の相手は私がしよう。幹事はお前だ、頑張れ」「観音、やっぱりお前だけが俺の味方だ。店員さん、注文。注文プリーズ!」 呼び鈴を迷惑にも連打しながら、手を振ってアピールであった。 もう素面ではいられないと、やって来た店員さんにまずはお酒を注文する。 天狗は沖田にお勧めのカクテルを語り、斉藤と酒呑は兎に角日本酒、それも一升瓶で。 もはやこれは席替え不要な雰囲気で、葛葉の相手は本当に観音に頼むしかない。 これまで他の面々とは違い、女性の好みは聞いた事もないのだが。 最初から年上と言ってあるので、特別拒絶反応などは示さない事だろう。 一頻り注文し、女性店員がまさに去ろうとした瞬間、部屋の外から追加注文の声が聞こえた。「店員さん、私にもお冷を」「は、はい……」 何故か女性店員の声はかすれ、ぽうっと顔を赤らめながら逃げるように去っていく。 ただ声だけでも色々聞きなれたむつきは、判別する事が出来る。 遅れるといっても数分の事、襖がスッと空いて両膝を床について葛葉が現れた。 しゃなりと音が聞こえそうな艶やかな濃紺に白い朝顔が描かれた着物姿。 これからお見合いでもと突っ込みたくなる、気合を入れまくった葛葉の登場であった。 ちなみにここは安さと速さが売りなだけの一般的な居酒屋であって、懐石料理などでるはずもない。「遅れて申し訳ありません。葛葉刀子と申します、よろしゅう」「アイタタタタ」 なんというか、ちょっと遅れて登場してインパクトを植え付けるという手は古くはなかろうか。 しかもちょっとタイミングが悪く、酒呑も天狗も相手を見定めた後である。 店員に日本酒を頼んだ事から、もう少し速ければ酒呑の食指が動いたものを。 彼女の自己紹介をちゃんと聞いていたのは、ニコニコと仏顔で待っていた観音ぐらいのもの。 第一印象こそ悪くなかったかと、葛葉に近付き簡単に説明する。「葛葉先生、遅れたのは多分仕事だから仕方ないですけど。既に二人が盛り上がってしまっていて、彼の相手を取り合えずお願いします。お望みなら席替えも後でしますから」「丸坊主、少々故郷を思い出しますが。落ち着いた態度と、微笑。見ようによっては可愛いかも。構いません」 どうやら葛葉の方も観音の第一印象は悪くなかったようだ。 一先ず葛葉を観音の正面に座らせ、店員が持ってきた飲み物を各自に配った。 取り合えず、まだ喋り始めるなと視線で酒呑と天狗に厳命し、幹事として音頭をとる。 もう後はなるようになれと、半ば他人任せではあったが。「それでは簡単に自己紹介を」「沖田です、麻帆良学園女子中等部で保健医をしてます。乙姫先生とは同僚のようなもので、既婚者ですので今日は同じ数合わせの天狗さんとお喋りしてますのでお気になさらずに」「只今、ご紹介に預かりました天狗でっす。いや、申し訳ない。乙姫にどうしてもって頼まれて。こいつ友達いないもんで。俺もこれなんですみません」 せめて順番は守ってと頭を抱えるむつきを放って、二人が喋りだした。「おう、俺は酒呑だ。名は体を現す通り酒好き。酔いつぶれた事は未だかつてない。一緒に楽しく酒を飲める女が好みだ」「斉藤です、麻帆良の図書館島の司書をしています。気が向いたらどうぞお越しを。お酒には少々自信が。酒呑さんは酒豪だそうで、期待しておりますわ」 止めて、開始早々ロックオンしないでとある意味主賓である葛葉が心配になる。「葛葉です、麻帆良の高等部で教師を。趣味は刀剣集めと、腕にも少々自信が。よろしくお願いしますえ。失礼、しますわ」「葛葉さんですか、言葉使いから関西の方だと。奇遇ですね、私も関西の出です」 さすが親友、葛葉の小さな情報に合わせて、親近感を抱きやすい言葉を放ってくれた。 葛葉も着物ごしで分かりにくいが、腕に微妙に力が入ったことから、テーブルの下でガッツポーズか。 関西と関東で味の違いで喧嘩はよく聞く話で、高得点だったのかもしれない。 これで全員がお目当てと合致したと、むつきはホッと一息。 やれやれとネクタイを緩めつつ、冷たいビールで少々汗臭い体をクールダウンさせる。 ただし、それも次に観音が自己紹介をするまでであった。「観音と申します。京都神鳴流の葛葉さんとは一度、お話をして見たいと考えていました」「なっ!?」 途端にピンッと空気が張り詰め、葛葉どころか沖田や斉藤までも観音を見ていた。 ほっと一息ついていたところなので観音が何を言ったかは不明だが、なにを驚いているのか。 異様ともいえる緊張感が場を占める中、空気の読めない二人がむしろありがたい。「おい、空気読めよ観音。お前のボケは詰まんねえんだからよ。何言ったか聞いてなかったけど、女性陣固まってるじゃねえか。すみませんね、沖田さん」「あっ、いえ……特に、そう言うわけでも」 咄嗟に察知した天狗が、軽く観音の頭を叩いておどけるように笑った。「おい、酒が進んどらんぞ。乙姫、追加注文だ。次々に酒が来れば嫌でも飲むわい。斉藤さんや、ほれ。杯が空じゃないか。これを飲んでみろ、美味いぞ」「関節キス、いえ。私は大人、この程度呑み干してしまうぐらいの度量を」 次いで酒呑が斉藤に杯を勧めて飲ませ、良いのみっぷりだと豪快に笑い飛ばした。 一瞬で何故か凍った空気をこれまた一瞬で解凍してしまう。 ありがとう、もう皆親友と涙ながらにむつきは呼び鈴の連打である。 相当お店側には迷惑なのだろうが、もう色々と涙が止まらない。 手が届くならむつきもきっと、観音の頭を叩いていた事だろう。「お客様、申し訳ありませんが呼び鈴は一度でお願いします。ご注文ですか?」「おう、日本酒のここからここまで全部頼む」「沖田さんも、俺のお勧めはこの辺り。甘いのじゃなくて辛いのだったらこっち」「ふふ、盛り上がったまいりましたね。葛葉さんも、お代わりはいかがでしょうか?」 一度は元に戻った空気も、観音が喋るとまた微妙に、葛葉は素早く両脇に目配せをする程に。「すみません、お化粧直しに。お酒はまだ少しありますのでお気になさらずに」「直ぐに戻ります。酒呑さん、自分だけ飲まないで下さいね。お酒にお詳しいなら、教えていただけますか?」「天狗さん、ちょっと失礼しますね」 三人揃ってお化粧直しに、まあ誰が誰を狙うかの相談だろう。 今更に沖田は兎も角、斉藤が酒呑の相手を譲るとは思えなかったが。 女性陣に行ってらっしゃいと手を振ったり、杯を持ち上げたり。 完全にその姿が見えなくなってから、こちらもこちらで作戦会議である。 というより、むしろつるし上げに近い。「おい、こら観音いい加減にしろ。京都なんらたらとか、坊主知識ひけらかして相手をどんびきさせんな。俺はまじで沖田さんを狙ってる。今夜一発決めてみせる!」「狙うなボケ、既婚者だっつってんだろ。頼むよ、俺の友達が不倫仕向けたとか職場に居場所が。観音は良いから自重しろ。それと酒呑、お前は今のままでいてくれ」「私は常に自重していますが。仕方ありません」「何をチマチマ喋っとるか。男はどんと構えて、酒でも飲んでいれば女は勝手に寄ってくる。だから天狗はいかんのだ。女の尻ばかり追いかけて、地に足がついておらん」 少しは酔って来たのか、酒呑がいらん事を言い出した。 これでも生き様に誇りを持ってる天狗である、もちろん聞き捨てならない。「おう、それでお前は今まで何人の女が食えたんだ? 二人か、三人か。まさか風俗ばっかの素人童貞じゃねえだろうな、あ?」「吠えてろ、小僧が。生っちょろい貴様など、腕の一振りで木っ端微塵だわい」「ちょっ、お前等喧嘩すんな。観音、こんな時はお前の口八丁の出番だ。坊主らしく、この馬鹿共を悟らせてくれ」「しかし、先程自重しろといわれてしまい。私も流石に他人様の主張にまで口を挟むのはいかがなものかと」 何微妙にすねてんのと、一食触発の二人に挟まれあたふたと。 そんな時であった、彼女達が向かった化粧室の方向でガス爆発のような騒ぎが起こったのは。 本当にガスでも爆発したのか店内を突風が吹きすさび、雷が落ちたような轟音も。 トイレで水漏れが発生し、漏電事故でも起きたのだろうか。 これが学校なら即座に席を立つが、居酒屋というよそ様のテリトリーなので見に行ったりはしない。 いや、見に行かなくてよかったかもしれない。「ふざけんじゃないわよ、なんの為にアンタ達を呼んだと。沖田は良い、チャラ男は任せた。けど斉藤、代わりなさい。ちょっと汗臭そうだけど、豪快な人は嫌いじゃないわ」「そっちこそ、何様よ。ばつ一が。先に彼に唾つけたのは私よ。同じ関西出身同士、坊主とよろしくやってなさいよ。彼関係者みたいだし、隠し事なく付き合えるじゃない」「関東に抜けた私がどの顔で関西の彼と付き合えるのよ。それならまだチャラ男の方がマシよ。けどにたにた気持ち悪いから嫌、そっちの男寄越せやコラ!」「ちょっ、気とか魔力とか。ここ普通のお店。止め、止めてエヴァちゃん助けて!」 どうやら、発端は不明だが葛葉と斎藤の好みが合致してしまい、酒呑を巡って争っているようだ。 しかし何故そこで沖田が、マクダウェルを呼ぶのかは不明だが。 気がそがれたように、天狗も酒呑も拳を下ろしてどっかり座りなおした。 人の振り見て我が振り直せ、さすが社会人になってそれなりに自重できるようになったらしい。 向こうも大騒ぎになっているが、そのうち醜態に気付いて戻ってくるだろう。「いやいや、聞いていた通りの性格で。争いとは醜くも虚しいですね」「よく分からんが、種を蒔いたお前がいうな観音」「種を蒔いたって言えばさ、乙姫よ」 自画自賛したくなる程の的確な突っ込みの後、天狗がなにやらニヤニヤ笑いかけてきた。「お前マジで何人か生徒に蒔いたろ。何人だ、それだけでも教えろよロリコン」「ぶーっ!」 突然お前は何を言い出すと、天狗の口を塞いで辺りをうかがった。 何しろここは麻帆良の歓楽街なのでふらっと知り合いに会ってもおかしくはない。 そもそも今日の合コン相手は麻帆良学園関係者ばかり。 何故、何故ばれたと嫌な汗がだらだら、冷静さを取り戻そうと冷えたビールを飲み干しても止まらなかった。「お前が使ってる匂い消し、俺も使ってるからな。それに、ついさっきまでお前部活の顧問してたって言ってたろ。それでピンと来たね。ああ、喰ったなって。なっ、ロリコン」「声が大きい。頼む静かに。てかロリコンちゃうわとさえ言えない現状に泣きそう。酒呑、ちょっと日本酒分けて。騒ぎで追加注文来そうにない」「はっはっは、嫌な事があったなら飲め。酒は百薬の長だ。観音も妄言吐く前に飲め」「されど万病の元、ただ親しき友人の勧めを断るは人として失格。受け取りましょう、その杯を」 女の醜い争いをBGMに久々の友好を深める為に、お酒が進む。 もちおん、むつきは味なんてそれこそ温いかどうかさえわかりそうになかったが。「ねえ、この話題止めない。お願い、つい先日それで死ねくそ野郎って言われたばっかりだし」「お前、それで良く自殺しなかったな。人数だけ、人数だけ教えろよ」「うざ、しつこい。て言うか、とっさに何人に蒔いたか数えなきゃわかんねえ俺って一体。ねえ、蒔いたってお尻オンリーは入る? ぶっかけただけは?」「マジで、マジでか。俺はいつかお前はやると思ってた。安心しろ、逮捕後に友人代表としてインタビューされたら言ってやるから。何時かやるんじゃないかって思ってたって」 だから声を押さえろと、人の背中を無責任にばんばん叩く天狗に握った拳が壊れそうだ。「あの一途だったお前がなあ。人間、変われば変わるものだ。だが、愛があればとるべき責任さえとれば問題ない。天狗と違い、やり捨てるつもりはないのだろう?」「当たり前だ、俺は全員。責任とって、全員嫁にして幸せに。くそっ、でも金が。爺ちゃん、マジでひかげ荘俺にくれないかな。ていうか、今世界のどの辺りにいるのよ」「先日連絡を取った際には、スイスでひなたお婆様を追いかけ中と」 なんで孫の俺が知らないのに、観音が知ってるんだと割り箸をぺいっと投げつけた。 ピッと指先で挟んで止められたが、生憎むつきはもちろん、天狗も酒呑も気付いていない。 特にむつきは「よし、上手いこと話題がそれた」と、女性人の化粧直しをうかがう余裕さえできた。 ただ、入り口ぐらいしかうかがえないが、まだまだのようだ。「だいたい、あの乙姫ってなんなのよ。くそ糸目も安易に関係者専用の図書館島のカードキー渡すし。学園長のお孫さんと親しげだし、関係者。関係者なの!?」「完全無欠の一般人よ。だけど、エヴァンジェリンと行きずりの関係になったりわけわかんないのはこっちよ。アイツの姉のせいで神多羅木も結婚目前だし!」「ちょっと、今の話を詳しく。エヴァちゃんと寝たってどういうこと!?」 なんだか矛先が怪しく、むつきへと向きだしていた。 それと寝たのはマクダウェルの姉のアタナシアであって、マクダウェルではない。 あれと寝たら速攻通報だろうと、何故そんな誤解が広まっているのか問い詰めたい。 というか、そろそろ本当に警察を呼ばれかねないのではなかろうか。「留学生まで食ったのかよ。流石に俺も外国人の人妻はねえな。やっぱさ、味って違うのか?」 しかも、また話題がぶり返し正直ちょっと舌打ちしてしまった。「うるせえ、俺のアタナシアを下世話な会話で汚すな。次の満月何時よ。アタナシアぁ」「女々しいのは相変わらずか、例の彼女と別れた時も三日三晩、泣き続けていたな」「懐かしいですね。あの時の無礼な女は、全力で呪ってやったものです」 また妄言かと思っていると、何時の間にか化粧室付近が静かになっている。 そしておろおろとする沖田を後ろに従え、葛葉と斉藤が戻ってきた。 地面を踏みしめ踏み砕くぐらいの気迫を見せながらだ。 その道すがらカウンターから一人一本ずつ日本酒の一升瓶を奪ってきた。 そして二人してどん一升瓶をテーブルに置いて酒呑の前に座り、お猪口に酒を注いで一気に飲み下した。 叩きつけるように空のお猪口をテーブルに置いた二人の目がすわっている。「酒呑さんは酒豪な女性が好みだとか」「今からコイツと私とで呑み比べを行ないます。勝った方とお付き合いをお願いします」「ほら見ろ、良い男には黙っていても女が寄ってくるもんだ。よし、存分に飲め。なんなら二人共酒豪の場合は俺も乙姫に習って、両方娶るのもいいかもしれんな」「この店の日本酒全部もってこい!」 全く同じ言葉を葛葉と斉藤が姿も見えない店員へと向かって叫び上げた。 先程の騒ぎに加え、女性が男を掛けて飲み比べによる勝負に出たのだ。 これで盛り上がらなければ、麻帆良在住の人間とはとてもいえない。 しかも、現在は夏休み中で大学生が多く、お座敷の襖は瞬く間に撤去された。「おい、あれって巷で密かに人気の図書館島の司書さんじゃねえか」「それにあの麗しい着物美人はまさか、刀子先生!?」「はい、賭けた賭けた」「司書さんに五千円!」「刀子先生が負けるか、一万円。あっ、でも勝ったらあの男と嫌だ、そんなの嫌だ!」 麻帆良祭のノリ再びとばかりに、近くでは賭けも始まる始末であった。「乙姫先生、そのエ……アタナシア? 彼女について少々お話が」「沖田さんそんな奴より俺と一緒に抜け出して」「ちょっと黙ってて貰えます? こちとら、十五年来の親友の幸せがかかってんのよ!」 もしかして連絡先を知っているのですかというむつきの言葉は、沖田の剣幕に飲み込まされた。 さらには胸倉をつかまれる形であの日の夜を無理やり、しかも洗いざらい喋らされた。 またこれで嫌われると半分放心中のむつきを前に、さすがの沖田もばつが悪そうだったが。 そんな間にも斉藤と葛葉との呑み比べは続いていた。 何故か酒呑も一緒に飲み比べに参加していたが、一向にほろ酔い以上に酔わない。 やる気を失くした天狗はナンパに行って来ると夜の街へ消えてもいった。 なにこれ、同窓会にもなりゃしないと、もう知らねと槍を投げるだけだ。「乙姫、ここに霊験あらたかなお守りが一つ。一人になりたい時は、これを首に掛けなさい。きっと素晴らしい効果がある事でしょう」「ちょっと、貴方関係者でしょ。上の空の人になにを渡そうとしてるの?」「ええ、その通りですが。ちなみに彼らは全員一般人ですよ。それにこれは軽い認識疎外のお守り。自分を周囲からそらす簡単なもの。害はありませんよ」「なんでそんなものを」「いえ、この後で必要になるかと思いまして。さて、私もそろそろお暇しますか。では乙姫、いずれまた。壮健であれ」 せめてと友の去り際に、貰ったお守りを掲げまたなと言った。「ちょっと、幹事投げっぱなしだし。私がコイツらの面倒、帰ろう。エヴァちゃんの家で色々と聞かなきゃならないし」 次いで沖田も、お会計だけむつきに握らせいそいそと帰って行った。 完全な失敗にも見える合コンであったが、一組ぐらいはカップルができそうなだけまだマシか。 ちなみに、酒の飲み比べは斉藤の完全勝利であった事をここに記す。 -後書き-ども、えなりんです。今回のお話は次回への繋ぎ以外のなにものでもありません。大事な合コンに失敗した葛葉、後はわかりますね?あと、瀬流彦の為の合コンはもっと後の話。それでは次回は水曜です。