第六十一話 ただの女の子のお前が、お前が欲しい むつきが瞳をパッチリ、心地よい気怠さと共に感じたのは、部屋に充満する女の子の匂いだった。 朝といってもまだ陽は青く見える程で、夏場を考慮しても四時か五時だろうか。 鼻腔を擽るのは花畑にでも放り込まれたような数多の花々の匂い。 その大半が全裸、身につけている者でもブラジャーかパンツのみ。 たまたま右隣にいた雪広を、花畑から手折るように抱き寄せ首筋に鼻を埋めて匂いをかぐ。 あの日、自分を教師として認めてくれた日と同じ可憐でちょっと高貴な香りである。 顔を流れる金糸はきらきらと、美しさで飾り目を楽しませてくれた。 唇にもかかっていたので手で外してやると、そのまま目が放せなくなってしまった。 身につけている白のレースのブラジャーに、ガーターベルト。 これは昨日、わざわざ身につけてくれたもので、すすっと肌触りを楽しむように撫でた。「あやか」「んぅ、先生?」 起こしてごめんと小さく謝罪し、そのまま唇を奪うもそのまま受け入れられた。 首に腕を回されもっとと、夢うつつのままに抱き締められる。 我慢できないとごろんと半回転、あやかを押し倒す格好でより深く唇の奥に舌を差し込んだ。 おずおずと控えめに伸ばされた舌と絡めあい、くうくうと皆が寝息を建てる中で、二人静かにねっとりと絡み合う。 満足するまで絡み合った後で、至近距離で穴が開く程見つめ合い思うが儘に呟いた。「あやか、お前が欲しい。ただの女の子のお前が、お前が欲しい」「ああ、先生。いけませんわ。そのような、離れられなく。私は雪広財閥の」「そんなの関係ない、お前は嫌いか俺の事が」「駄目、先生。今はまだ、これが精一杯ですわ。ここに、この隙間にきてください」 いやいやと身を捩り、それでもむつきの一物を下着を持ち上げ中に誘ってきた。 昨晩何度も挿入し、随分とゴムも伸びて二度と使い物にならない事だろう。 それでも今はそれがあやかの精一杯ならと、ぐいっとねじ切るように突き上げた。 しっとり塗れ金糸の陰毛の森を駆け抜け、あやかの性器を強引に擦り挙げる。「先生、これが殿方の荒々しさ。私の体が蹂躙される、これは悦び」「官能小説かよ、お楽しみのところ悪いな。先生、私も一緒に可愛がってくれよ」 むつきとあやかの間に割り込んできたのは、一糸纏わず眼鏡も外した千雨であった。 貝合わせだとばかりにあやかの上に跨り、胸を合わせキスをする。 むつきもあやかの下着を脱がして協力し、ぴったり寄り添う貝を強引に貫いた。 まだ男を知らぬ未通の割れ目が、むつきの一物で強引に形を変えられ包み込む。「熱ぃ、長谷川さん。唇を、先生の代わりに」「尻にパンパン凄い。代わりって親友に向かって言うか、ポルノも真っ青に乱れて可愛いなくそ。どいつもこいつも」「千雨も十分可愛いぞ。ほら、こうすると二人の乳首がこすれあうだろ」 以前、和泉と小瀬でしてあげたように、重なる二人の乳首同士を擦りこねた。 キスを中断してまでも二人がよがり、もっとと刺激を求めて腰を振ってむつきを誘う。 夢中になって二人を可愛がっていると、さらに誰かが千雨の上に跨る。 さすがに二人は重いのか、少しあやかがむぎゅうと色気のない悲鳴をあげていた。 千雨の上に寝そべったその子の背中には、見覚えのありすぎる大きな傷があった。「あはは、委員長ごめんて。先生、うちもお尻とおまんこ。両方苛めてや」「和泉さん、あまり負担を。先生の男性より、そっちが気になって」「私がちょっと踏ん張ってやるよ。これなら少しは楽か? それにしても処女の三段重ねとか、一人は尻穴開発されてるし。エロゲー主人公だな」 嫌かと千雨には突き上げる事で問いかけるも返答はなかった。 改めてあやかとのキスに夢中で、投げっぱなしかと和泉の穴に手を伸ばした。 何時から覗いていたのか秘部の割れ目からはとろとろと蛇口が壊れたように愛液が流れ落ちている。 それらを指で救っては皺のある穴に塗りたくり、指で二穴責めをしてあげた。 随分と尻穴も拡張されたようで、ずぶずぶと指を飲み込んでいく。 むりそ前の穴よりも懸命にむつきの指を飲み込んでは、埋もれさせしゃぶりついて来る。「亜子、お前の夢が医者ってのは分かってる。何処まで手伝えるかわかんねえけど、一緒に勉強だってする。だからそれ以外の時間を俺にくれ」「ええよ、うち先生の事は好きやし。勉強の合間に愛して癒してくれるなら。お医者って婚期遅れそうやし、うちの事を貰ってや」「おい、なんで私を飛ばした。擬似セックスしといて、それはないだろ」「お前みたいな根暗なネットアイドル、俺以外に誰が貰ってくれるんだ。て言うか、お前まだそっち活動してたっけ? 衣装作りが忙しくてしてねえだろ」 一度は憤慨した千雨も、あれ最後に更新したの何時だっけとのとぼけようだ。 趣味の衣装作りは時間が増えたが、そちらは忘れるぐらいしていなかったらしい。 最後にはまあいいやと蹴り飛ばし、あやかと亜子に挟まれ夢心地であった。「先生、先に始めちゃうなんてずるい。ほら、夕映ちゃんのおまんこ癒してあげないと。それと私のおまんこはここ」 さすがにこれだけ騒げば、部屋の中にいた他の面々も起き始めていた。 小鈴や葉加瀬、マクダウェルに絡繰と一部姿を見かけないが。 割とマイペースな面々なのでひかげ荘内にはいる事だろう。 他に四葉も見かけないが、こちらは多分皆の朝食でも作りにいったに違いない。 美砂が夕映を亜子の上にさらに寝かせて、処女でこそないが四段であった。 そして空いていた右手を陰部に誘い、腕に胸を押し付け頬を舐めてくる。 最後にアキラも背中によりそい、背中を流すように大きな胸で摩ってくれた。「ここまで痛くなくなったです。もう少し、先生お願いするです」「先生、腰疲れたら言ってね。手伝うから。私も夕映ちゃんのおまんこ舐めてあげる」 後ろ手にここまで開くようにと見せてくれた夕映の割れ目に、アキラと共に舌を伸ばした。 一体、何人同時、数えるのも億劫で皆で愛し合う。 愛し合う様子を眩いフラッシュで写真に収められ、より気分が高まった。「このままポルノ写真家になっちゃいそうで怖いね。おっ、桜咲に近衛も起きたか」「ひゃぁ、先生まだ頑張っとるん。これ絶倫って言うんやよね。せっちゃん? 濡れ濡れしとる。ほら、暴れたらあかんえ?」「このちゃん、そんな所触ったら汚い」「せっちゃんに汚いところなんてあらへん。あったら、うちが先生みたいにぺろぺろ舐めて綺麗綺麗したる。どこや、どこが汚いんや?」 一部開き直ったというか、ラブ度を増して桜咲と近衛が部屋の隅で絡み合う。 責めが近衛で受けが桜咲で、どこやと聞かれこことM字開脚で下着を桜咲が晒す。 濡れて白から変色したそこを、犬か猫のように近衛が匂いをかいで舐め取っていく。 さらにその絵面を朝倉が写真に収め、ほらこれと楽しそうに近衛に見せたり。 まだしばらく、四葉が呼びに来るまでは花園の蜜は絶えそうにもなかった。 むつき達がたった二時間の睡眠でまた乱れ始めた頃。 ひかげ荘の玄関を出て直ぐの場所に超とマクダウェル、そして絡繰の姿があった。 彼方のまだ薄い朝日に瞼を瞬かせながら、何処へともなく視線をぐるりとめぐらせた。 正面の百階段から脇の林をめぐって、露天風呂の湯気とひかげ荘、そしてまた林で一週である。 小さな山の中腹にあるため、視界の半分は山の傾斜と青々とした木々ばかりだ。 改めて日本独特の古風な場所だと、ふるちと感動に両腕をかき抱いてマクダウェルが震えた。 その格好は黒のふりふりワンピースにグレイのコルセット。 これからパーティにでも赴きそうな、気合の入れた格好であった。「ひいふう、みい。と、数えるのも面倒だな。爺、焦り過ぎだろう。この場所の管理者を調べれば、普通ここまで戦力を出さんぞ」「恐らくは、こちらの戦力調査が主ネ。不死の魔法使いが第二の住み家に選んだ場所だからネ、責任をとるヨロシ」「マスターと超鈴音、お二人が合わさったからこそだと思われますが」「これは一本、茶々丸にとられたネ」 違いないと微笑を浮かべたマクダウェルに対し、小鈴もころころと明るく笑う。 シニョンキャップや胸元の超包子の文字こそ普段通りだが、その格好もどこか違う。 夏場に関わらず服と一体化した分厚く裾の長い黒いコートを羽織り、足元は動き易い白いパンツにロングブーツであった。 両肩の上で浮かぶ機械的、ファンネル的なそれはもはや語るまい。 当然、二人が気合を入れているのだから茶々丸も、メイド服や割烹着ではなかった。 ノースリーブのカッターシャツにネクタイ、下はストールを巻き、恐らくはミニのスカートだ。 気合と言う点では二人に負けそうだが、腕が銃砲身と巨大なガンナイフと凶悪さはピカ一である。「魔法先生達が動き出しました。防衛システム起動します」 三人の耳に聞こえたのは地下の研究施設にいる葉加瀬からの通信であった。 空を見上げれば目視もかなり難しい薄い膜がひかげ荘周辺の山まで覆っているのが解る。 むつきの携帯にも搭載されたバリア機能だが、その規模も威力も段違いだ。 麻帆良に六つある魔力溜まりの一つであるひかげ荘、そこから魔力を引いていた。 その影響下にてマクダウェルも封じられた魔力が幾ばくか戻っていく。 ぽんっと煙に包まれ、魔女っ子の如く妖艶な美女、アタナシアの登場である。「ほう、こいつは凄いな。全盛期の一割だが、十分だ。それで作戦は?」「クイーンやナイト、ビショップの出番はまだまだネ。ポーンにはポーンを」「一体何が始まるんですか? ドキドキわくわくしてきました、心臓ないですけど」 あれっと四人目の登場に小鈴までも少し目が点であった。「相坂さよ、お前くっきりはっきり見えているぞ」「えっ、本当だ。先生、今なら先生に会えますかね!?」「話には聞いていたアルが、私のステルスマントもまだまだネ。エヴァンジェリン同様、旅行にはなんとか連れて行くネ。だから今は耐えて欲しいヨ、親愛的の心臓の為にも」 むつきは相坂の事を自分の妄想、理想の生徒としか思っていないのだ。 それが突然会いに来れば、心臓発作でも起こしかねない。 残念そうにしゅんとする様は可哀想だが、今は迫る危機を退けるのが先であった。「葉加瀬、量産型田中さんと茶々丸の出撃ネ。地下に貯蔵された鬼神は温存ネ」「はい、さすがに魔法先生。梃子摺りながら、次々に障壁を突破しています。量産型の田中さん、および茶々丸の姉妹を出撃させます」「頑張って、私の妹達」「茶々丸の妹、妹? あっ、しまった。茶々丸の姉、茶々ゼロ。地下に仕舞いっぱなしだ。連れて来れば……まあ、いいか。別に」 最近忘れられがちなログハウスの地下で、小さな殺人人形がおいっと突っ込んだかは兎も角。 お手並み拝見と、四人は高みの見物の如く、正面に浮かび上がったモニターを眺める。 宙に投影された幾つものモニターには、紛争地ばりの戦闘映像が映しだされていた。 フードとマントを被った杖の持ち主達が、炎を風を雷をと自然現象を操っていく。 一方、アンドロイドとガイノイドの田中さんと絡繰の妹達は銃器で応戦であった。 コンピューター統制されたコンビネーションと時にフレンドファイアも辞さない銃火である。 実際は、体すれすれを通り過ぎる弾丸など、計算し尽された編隊で防衛線を展開していた。 さらに木にカモフラージュされた自動迎撃システム、地雷原などが、侵入者を撃退し始める。 これは溜まらんと逃げ出しても、山の外、遠く離れた駅の屋根から狙撃も。 防御の障壁を張る暇もなく、BB弾という子供騙しの一撃に沈んでいった。「これで一億。持つべきものは、払いの良いクライアントだ」 とある褐色肌のスナイパーが、今日もゴルゴ並みに荒稼ぎであった。 ひかげ荘に程近い、平屋建ての古臭いアパートにその進攻拠点はあった。 一棟借り切ったアパートに各種機材を持ち込み、取り纏めているのは明石教授だ。 一応、今回の近衛木乃香奪還作戦の部隊長に抜擢されたのだが。 その表情は普段の朗らかさを失わず、余裕とも油断とも付かない笑みを見せていた。 むしろ、これは凄いなとひかげ荘の防衛システムに興味津々である。 これがあれば深夜残業が減るなと、交渉してわけて欲しいぐらいであった。「こちらA班のゼロ、部隊は壊滅状態。サイトもタバサもやられた。これから帰還し情報をぐぁっ!」「ゼロ、応答してください。A班全滅、他突入を開始したBからE班も大なり小なり、被害を受けた模様です」「いやあ、気合入ってるな。皆、怪我だけはしないようにね。演習としてもそれなりに効果があるか。いいなあ、僕も昔の血が疼いてくるよ」「真面目にやりましょうよ、明石教授」 オペレーターの女の子に突っ込まれ、でもねえっと明石は苦笑いであった。 テーブルの上には広げられた周辺の地図とひかげ荘の間取りの図面がある。 特に後者、その図面の他に管理者の名前や所有者の名前まで一通りあるのだ。 明石教授が気楽なのにも、また学園長の早とちりか何かと決め付けられていた。「それじゃあ、全部隊一度撤退。体勢を立て直そうか。これ以上は、各個撃破で悪戯に被害を広げるだけだ」「撤退だと、何を馬鹿な。この先は悪の巣窟、それも学園長のお孫さんだけでなくあのクラスの生徒の目撃情報も多数あるのだ。私は一人でも行くぞ!」「命令無視を通信でされても、小金先生。彼が悪の親玉だとしたら、稀代の詐欺師ですよ」「ふん、懐柔されよって。行くぞ、立派な魔法使い達よ。正義は我にあり!」 脂ぎったガマガエルのような顔の先生を思い出し、彼に数人が追随したようだ。 明石教授は心中でそっと彼らの為に十字を切った。 それから改めて全部隊に撤退命令を発して直ぐ、通信からそれが聞こえた。 どうやら十字を切るのは、きちんと間に合ったらしい。 奇襲を仕返され先手は取られたが、意外と先見の明はあるのかなっと思った。「ごちゃごちゃと建前ばかり、並べよって。だから立派な魔法使いは好かんのだが。どこぞの赤毛のように気に入らん。その一言だけで攻めてこい!」「貴様、闇の福音。エヴァンジェリン・マグダ……何故、昼間に月ガッ」「逃げ遅れた部隊を発見、掃討に入ります」「超鈴音は基本的に戦わない、けど。あと少しで親愛的に捨てられかけ、実はこっそり苛立ってるネ。自分の迂闊さに、憂さ晴らしネ!」 それはもう酷い悲鳴と撲殺、銃殺音にオペレーターが無言で通信を切った。 助けて救援をとも最後に聞こえたが既に撤退命令を無視した後である。 その上助けてとはあつかましいと、明石教授も通信を切った事は何も言わない。 それよりも、大事な娘が泊まりに来ているのでお昼ご飯までに帰られる事の方が重要問題であった。 困ったなあと、近くの住民の意識をそらす認識障害を展開している庭先に出た。 続々と撤退した魔法先生が集ってきたが、半分は満身創痍と言ったところだ。 肩を貸し合い安全地帯に辿り着くなり崩れ落ちたり、塀の壁に背を預けるだけならまだまし。 ぜえぜえと大の字で寝転がり、何故かパンツ一枚でちくしょうと心が折れそうな者さえいた。 それでも大怪我した者が、先程の小金先生達は別にして、全くいないのが凄い。 戦力差がここまでありますよと、教えられたようなものである。「うーん、まともな指揮官なら一時じゃなく。撤退命令が妥当だけど、ガンドルフィーニ君。実際に突入した君の感想を聞こう」「魔法生徒を、高音君や佐倉君を連れてこなくて良かった。以前行った紛争地そのものだ。信仰を胸に聖戦だと襲ってくる人達に、絡繰君の姉妹の無表情さが似てた。トラウマになる事は確実だ」 スーツ姿で体操座りをし、膝の間でぜえぜえと呼吸しているガンドルフィーニがそう言った。 さすがに体力こそ消耗しているが、紛争地経験者だけあってスーツの汚れ以上に傷は見当たらない。「あのぅ、葛葉先生や神多羅木先生が彼と親しいからって作戦から外されたのに。親友の僕がしかも突入部隊なのが理解できないのですが」 恐る恐る手を挙げ、なんでやねんと突っ込んだのは瀬流彦であった。 紛争地経験者はあって軽傷、純粋培養者の魔法先生が痛手を被っている。 一応純粋培養者でありながら、目立った傷を見せない瀬流彦が凄いのだが。 本人はそんな事にも気付かず、お願い返してと懇願している。 ただ本人としてはまかり間違ってむつきを傷つけ、女の子を紹介して貰えなくなる方が重大問題であった。「葛葉先生や神多羅木先生のコンビは、うちでもぴか一だからね。飛車角落ちといったところかな。うん、はは。困った困った」「あの、明石教授。何故に目をそらし。うぅ、普通の教師でいた方が良かったかも。魔法先生の方が給料良いからって。人生最大の過ちだった」「瀬流彦君いいかい。結婚した後は、そのお金が夫婦円満を助けてくれる事もあるんだよ?」「そんな先の事よりも、今彼女が欲しいんです!」 弐集院の慰めは止めでもあったようだ。 もう嫌だ帰りたいと誰かさんを思いださせる泣きぷりを瀬流彦ていた。 おかげでどよどよと部隊内に動揺が広がってしまう。 ますます困ったと思っていると、とある魔法先生が手を挙げて立ち上がった。「明石教授、貴方達の会話を察するに目標の拠点の主と知り合いの様に思われますが。我々は学園長のお孫さんである木乃香嬢が連れ込まれたとしか知らされていません」「西の呪術教会が木乃香嬢を浚ったと聞いたが?」「いや、木乃香嬢は護衛のほら。あの桜咲刹那が裏切って連れ込んだと。刀子さんが外されたのはそのせいだと思っていました」「そうなのか。俺はついに学園長が闇の福音に見切りをつけたと小金先生から。最近はネット碁にはまって警備にもこないし。こっそり対戦したけど、マジ強いのこれが。さすが大魔法使いの貫禄、画面真っ黒」 各部隊どころか、各隊員で目的意識がばらばら。 情報も錯綜してしまっていた。 これは一重に、突入前に詳しく内容を述べなかった明石教授の失態なのだが。 そうせざるを得なかった理由もまたあった。 ただし、この期に及んで秘密にも出来ず、仕方ないかととある資料を手に取った。 念の為にと持ってきた、先程まで司令室のテーブルの上にあった資料だ。「皆静かに、聞いてくれるかい。実はこの先の建物が何で誰の所有なのか全部分かってるんだ。落ち着いて聞いてくれ、あの階段の上にあるのは元旅館で学生寮でもあったひかげ荘」 まだこの時は、だから西の拠点に利用されたとか、普通に考えられた。「現在の管理者は、麻帆良女子中等部の乙姫むつき先生」「闇の福音が付き合ってると噂の男じゃないですか。教授、いや学園長は我々に死ねと!?」「それは本当ですか。しかし問題は、どちらを抱いたか。小さいほう、大きいほう。ちなみに私はどちらもいけます。おっぱいに貴賎はありません!」「おまわりさーん、私達です」 だから言いたくなかったんだと、明石教授は苦笑いであった。 それに言いたくなかった理由は他にもあるのだ。「ひかげ荘には温泉もあってね。彼は学生時代の苦い思い出から、隠してたんだけど。最近二年A組の生徒の一部にバレたらしい。若い女の子が温泉入り放題って聞いて普通どうする?」「入り浸ります、むしろその乙姫先生を紹介してください。闇の福音といえど、小さいほうなら魅力的な意味で勝てます」「おっぱいは辛勝だけぐはっ、痺れ。しびびっ!」「こらこら、魔法の射手を使わない」 胸の小さな女の魔法先生が瞳をキラキラさせた後、手痛い突っ込みに魔法を使っていた。 一部、むつきとそれなりに親しいガンドルフィーニや瀬流彦も新情報にあれっと頭を悩ませる。 それなら何故、自分達はトラウマものの突入をかまして、何をしようとしていたのか。 むつきが完全無欠の一般人である事は明らかで、近衛木乃香に迫る危険などないも同然。 現在のように、西の呪術師が現れても、マクダウェルか超に追い出されるだけだ。「明石教授、それでは何か。これは、近衛嬢の家出を心配した学園長の私情ではないのか?」「家出ではないよ、寮には帰省届けが出ているからね。ただ、木乃香嬢の重要性は皆も知るところだし。防衛強度を知りたかったんだろうね。結論、我々にさえ無理だったけど」「じゃあ、早く解散しましょうよ。何時、マクダウェルさんに見つかるか」「貴様はむつきの親友らしいな、ならば手加減してやろう」 びくびくと瀬流彦が脅えた瞬間、頭を鷲づかみにされぽいっと後方に捨てられる。 更に待ち受けていた絡繰が銃砲身を、頭から落ちてくる瀬流彦に向けた。 ああ、僕死んじゃうんだという思考を最後に、瀬流彦はゼロ距離射撃で黄色い液体を撒き散らしながら吹き飛んでいく。 手加減とは一体なんだったのか、恐怖の悲鳴が上がり阿鼻叫喚の図、となるはずだった。 満月でもないのに一部魔力が戻ったアタナシアが、テンションあげあげで叫んでいたのだから。「はっはー、脅えろ竦め。魔法の詠唱も出来ぬまま、死んでいっ」 しかし突如、ぽんっと煙が発生し、悪の大魔王が小魔王になるまでは。 ばいーんから、ちょいーんという擬音が似合う可愛い女の子にならなければ。 たらりと汗を流してから、むん、むんっと腕を振り上げても姿が戻る事はない。「今よ、皆。彼女を取り押さえて!」「くそ、ひかげ荘から離れすぎたか。若造がこしゃくな、魔力などなくても貴様ら程度のひよっこなぞ!」 十人近い魔法先生に腕やら足やら掴まれても、余裕さえマクダウェルは見せていた。 今のうちにと、むつきを紹介してと頼んだ女の魔法先生がマクダウェルに並んだ。 そっと同じ方向を向いて真横に、そのまま自分の胸に手を置きすっと横に滑らせる。 手のひらはマクダウェルの寂しい胸の上にまで移動し、一センチ程の隙間があった。 これ、これだけの差がと横ではなく上下の幅に手のひらを動かす。 微妙な沈黙の後で、その女の魔法先生は諸手を上げて悦びの踊りを踊り始めた。「やった、勝った。あの闇の福音に。これで温泉付きの玉の輿は貰った!」「おっとそうは行かないわよ!」 そこへ割り込むように現れたのは、どっちの味方なのかマクダウェルの親友だ。 何しにここへと聞きたくなる程に、周囲の仲間を置き去りにマクダウェルへと駆け寄った。「さあ、エヴァちゃん私の血を吸って。アタナシアに変身よ!」「沖田、お前いたのか!?」 まとわり付いてきた有象無象を振り払う事に忙しく、無理やり血を吸わされた。 処女でこそないが十五年も馴染んできた血故に、条件反射のように変身してしまう。 一応これで逆転だと、小躍りしていた女の魔法先生に、たゆんと胸を張った。 日本人では一握りしか辿り着けない夢の塊に、その魔法先生が崩れ落ちた。「くはっ、儚い……儚い夢だった。温泉付き、玉の輿」「あれ、あれを思うがまま揉みしだいたというのか。アレをぉ!」「くそ、密かに憧れていたのに。立派な魔法使いと悪の魔法使いの禁断の恋。ああ、マクダウェルどうして君はマクダウェルなんだ。君のその細く長い足で僕のピーッを踏んでおくれ」 ちなみに一部の魔法先生は直立できず、股間を押さえて前屈みでもあった。 立派な魔法使いとして、自主規制音は最後の良心なのだろうか。「君達も大概だね。誰か白いハンカチ貸してくれないか。降参、降参するよ。絡繰君、無表情に掃討戦に入るのは止めてくれないかな? おっと、危ない」「明石さんのお父さん、これは失礼をしました」「君、トリガー壊れてないかい。僕撃ち続けられてるよ。夫婦喧嘩で撃たれるのには慣れてるから良いけど」 それでも銃弾を避けたり掴んだりと、部隊長を任されるだけの事はあった。「それでは、こちらの指揮官としてその降参を受け入れるネ。葉加瀬、敷地内の気絶した魔法先生は回収後、コンテナに詰め込んで学園長室に輸送ヨ」「そろそろ時間的にも人が多くなるから、ある意味でありがたいけれど。とりあえず、ガンドルフィーニ君と弐集院君、それから瀬流彦君にマクダウェル君対策の沖田君も来てくれ。他の先生方は、普段通りの生活に戻り指示を待ってください」「僕もですか!?」「えー、エヴァちゃんと乙姫先生の恋の進捗具合を聞きたかったのにぃ」 今にも逃げそうな瀬流彦はガンドルフィーニにスーツの襟を掴み取られていた。 そのままずるずると作戦司令室へと連れ込まれていく。 今やアタナシアと化したマクダウェルは、交渉に興味はなかったが沖田が手を離してくれない。 結局、主要人物の殆どが狭いアパートの一室に身を寄せる事になった。 まず部屋に入るとテーブルを挟んで魔法先生とひかげ荘一派に別れる。 それから明石教授自らペットボトルのだが、お茶を紙コップで全員に配り、それから始めた。「うーん、何から話すべきかな。とりあえず、悪かったね。朝からお騒がせして、申し訳ない。木乃香嬢は色々と微妙な立場の子だから。それで、そちらが求める要求は? 悪いのはこちらだし、可能な限り飲むつもりだけど」「乙姫むつきに対する不干渉、これに尽きるネ」「つまり、ひかげ荘への接触はなしだけど。例えば教室や学校であそこに関わった生徒に話を聞くのはありかな?」「当然、普通の教師としてなら。ただし、記憶を覗いたり自白魔法も却下」 誰かとは言わないが、先走りそうだなっと明石教授は一先ず頷いた。「一応、命令無視しような人達への警告の為にもペナルティを聞いても?」 出来れば過激な人を牽制する強烈なのがと明石教授が求めると、上を指差された。「軌道衛星上から、太陽光発電によるエネルギーの一斉掃射。軌道衛星砲が麻帆良を襲うネ」「夕子とか、そういうの好きそうだな。僕もちょっと浪漫を擽られるよ。でも、少し過激過ぎるかな。わかった、適当に言い訳はこちらで考えておくよ。ははっ」「笑い事ではないですよ、明石教授。君はそれだけの科学力がありながら、何故それを世界平和の為に、周りの為に使わない!」 あくまでも軽い性格の明石教授に変わり、激昂したのはお堅いガンドルフィーニであった。「では、ガンドルフィーニ先生。今の奥さんや子供と別れてくれるカ? 私の計算では数年後に、二人はあなたの仕事に巻き込まれ精神的にも肉体的にも消えない傷を負うネ。それが互いの幸せヨ?」「なっ、そんなの……家内と娘は私が守る!」「ほら、私が最善を提示しても人はそれを拒む。もっとも、これは嘘なので安心して欲しいネ。けれど、他の人も同じ。私がいくら最善を示しても、最終的には拒み、未来は避けられない」 絶句したガンドルフィーニに謝りながらも、小鈴は澄まして言った。「乙姫先生は言ってくれたネ。皆が皆、なりたい自分を目指して頑張ってる。私がそこまで責任を負う必要はないと。私には力があっても志がない。そう言うことは志がある人がするべきヨ。超鈴音は、この力を乙姫むつきの為にのみ使うネ」 周りの努力の否定だとか、貴族の義務だとかそんな哲学はどうでも良かった。 小鈴にとって乙姫むつきが全てであり、世界平和などついででしかない。 当然だが、隣人が銃殺でもされればむつきは酷く恐れ、世界を憎むだろう。 だから最低限、この狭い島国だけでも戦争を遠ざけられれば十分だ。 ニュースで世界のどこかで戦争がといわれても、忙しいむつきは十分でそれを忘れる。 あの無力だが、時に神をも超える力を発揮する男一人助けられればそれが幸せ。「超君、さっきから聞いていると。君は乙姫先生に特別な気持ちを抱いているように聞こえるんだけど?」「完全無欠、惚れてしまっているネ。おっと、恋愛感情は自由。無粋な言葉は不要ネ」「か、彼と僕にある差は。一体何が、給料、顔、性格。そこまで違わないはずなのに。あと絡繰君に撃たれたお腹がさり気に痛い」 馬鹿正直に訪ねて来た明石教授や、ちくしょうと泣き崩れた瀬流彦は置いておいて。 彼が申し訳ありませんと反対側の背中を摩られ、ガイノイドにキュンとしたのも。 特にその件については、彼自身が墓の下にまでもって行く事だろう。「ふん、ピチピチの女子中学生がなによ。エヴァちゃんの方が、ロリロリとでかぱい。一粒で二度美味しいんだから。あれ、ロリロリは食べて貰った?」「沖田君、闇の福音とはいえ。あからさまに、教師と生徒の恋愛を進めるべきではない。もはや魔法を明かしてしまいたいが、それも止められ。何故もっと早く明かさなかった」 目頭を押さえ、悔やみはしてもガンドルフィーニは無理を通さないつもりらしい。「近衛木乃香の件も、ひかげ荘にいる限り。乙姫むつきの傍にいる限りは、我々が責任を持って全力で守るから、安心するヨロシ。学園長が納得せねば、説明に出向きもするネ」「いや、必要ないよ。それぐらいは、こちらが責任を持って納得させる。それより、あつかましい相談なんだけど。ここの防衛システムの技術提供は受けられるかい?」「国家予算を持って来い、と言いたいが。無理ネ、魔力溜まり。竜脈を利用しているから、そこまで汎用性のあるシステムでもないヨ」「そうか、残念だ。それじゃあ、そろそろ僕らも。そうだ、明後日から二年A組が行く旅行の件だけど。葛葉先生に加え、神多羅木先生も彼の実家に挨拶にって名目で付いていく事になったから。伝えておいてくれるかな?」 そんな朗報、伝えないわけにもいかないと小鈴は快く了承する。 一度は領土を巡り争った者同士なのに、それじゃあと手を振り合って和やかに別れた。 元々、魔法先生側のやる気、統率その他が低かった事もあるのだ。 全力ではあったが命を賭してという程でもなく。 小鈴としては、むつきが魔法に関わる可能性が大幅に減って大満足であった。 自分達は魔法も応用するが、基本的には科学者で、科学ですで押し切れもする。 明石教授達も、誰と誰が過激派で、命令無視による失態を掴めたり。 後は孫である近衛の為に暴走しがちな学園長を叱責できるチャンスにありがたいぐらいだ。 多少痛手を負った者もいるが、得られたモノの方が大きかった。「微妙に暴れ足りないが、適度な運動にはなった。四葉五月の美味い朝食前に風呂でさっぱりするか。そうそう、超鈴音。私を旅行に連れて行くとは、このはいてくの応用か?」「ご明察ネ。移動型バスに、魔力集積回路を組み込むヨ。木乃香サンを筆頭に魔力的な意味でハイスペックが多いクラスネ。さらに登校地獄対策に、バスに学校の破片を至る所に埋め込みも」「今はまだ小型化に至らず、バスに乗せる程の大きさですが。何れ小型化も。相坂さんも濃い魔力で実体化出来るならいけるはずです。今は見えませんけど」「そうか、京都のみならず。この日本を津々浦々。今から待ちきれん!」 主にマクダウェルがはしゃぐ中、ひかげ荘へ戻ろうとすると百階段をむつきが降りてきた。 キョロキョロと不審そうに周りを見渡しながら、浴衣に突っかけ姿であった。 多少、キングがウロチョロするなとも思ったが、事は済んだ後でもある。 のんきに今さらこちらに気付き、ひょこひょこスキップで駆け寄ってきた。「お前等、何処行ってたんだ。なんか周囲が妙にこげ臭いし、変なロボットや絡繰に似た子達が山の中でごそごそしてたけど。あれ、小鈴の仕業?」「山は適度に手を入れないと上手く育たないネ。男性タイプはアンドロイドの田中さん。例の旅行の運転手も勤めるネ。それで親愛的は何処へ?」「四葉が醤油が足りないって、何時も使ってるっていう朝一のスーパーにお使い」「夫婦か。おい、むつき抱っこ。お菓子買ってくれ」「はいはい、仕方がないな。一個だけだぞ。暇なら、散歩がてらお前らも行くか?」 もちろんと抱きついてきた小鈴は、さすがに外では駄目とむつきがかわし。 待って下さい、私もと通信で言い出した葉加瀬を待ってから朝一のスーパーに向かった。 魔法も戦闘の残り火もなく、僅かな匂いだけを残したまま。 賑やかに歩いていく五人、プラス見えない一人を見ていたのは、とあるスナイパーだけであった。「私もそろそろ、本格的にクライアントを乗り換える時期かな」 そう呟き、一人寂しく誰もいない寮の部屋へと帰って行った。 -後書き-ども、えなりんです。前回大げさに書きはしましたが、襲撃されたけどそこまで大げさではなかったり。明石教授がほどほどに、負けて得る方を選んでくれましたし。けれど、いずれ娘が喰われた時は、どういう反応するんだろう。きっとそれを知る頃は、佑奈が孕んだ頃でしょうが。しかし、これ襲撃が誤って成功してたらむつき終わりでした。なんだかんだ言って、このハーレムは超なくして成功しません。彼はそれに報いるために、ちゃんと超を幸せにする義務がありますね。それでは次回は旅行前夜のお話。前振りあったとおりさよ回です。