第八十七話 髪留め、似合ってるぞ 特に京都近辺で極度の緊張を強いられていた桜咲は、寮の自室につくやぐっすりであった。 最近関係の良好、良好すぎてアレな道に踏み込み中のお嬢様こと近衛とお風呂に入ったり添い寝する事もなく。 少々気を解放しすぎて、熱いなとタオルケットを蹴り飛ばし、同室の龍宮にやれやれと掛けなおされたりもした。 当然、そんな事は当人である桜咲は気付かないわけだが。 そんな桜咲を目覚めさせたのは、来客を知らせる、客人が知らせるインターフォンであった。 ピンポーンと電子音が深い眠りから引っ張り上げられた。「うん……龍宮、誰か来たぞ」 これで良し、後は龍宮に任せればと一度は眠りこけかけたのだが。 ハッと自我を覚醒させるや否や、タオルケットを何度目の事になるのか蹴り飛ばした。 お嬢様をお待たせするわけにはと、二段ベッドの階段を駆け下り。 慌てて玄関先の扉を開けてみれば、思いもよらない人物の来訪に眼が点となった。 そして、インターフォンを鳴らした客人も、勢い良く空けられたドアにビクッとしていた。「ぁっ、宮崎さん」「おは、おはようございましゅ!」 それでもなんとか再起動を果たしたのは、宮崎の方が先であった。 日々、男性恐怖症と戦っているせいか、頭を再起動させる手順が頭の中に完備、マニュアル化されているのだろう。「おはようございます」 桜咲も内心、半分寝ぼけた頭をフル回転させ、そう挨拶をひねり出した。 だが、元々口数が多いほうではない二人の事である。 唯一のつながりと言えば、近衛ぐらいの二人にとってそこからの会話が続かない。 いや、そもそも挨拶だけではまだ会話とすらいえないだろう。 しかしながら、こういう場合にはお約束というものがあった。「あの」「あの」 重なる声、ギシッと固まる両者。 心底困ったと顔が引きつるせつなに、あたふたする宮崎だった。 今度先に復活したのは、桜咲のほうであった。「宮崎さん、お嬢……ではなく、このちゃんなら来ていませんが?」「いえ、あの……桜咲さんに。頼まれた映画、図書館島で見つけたので借りてきました」「ぁっ」 そうだ忘れてたと、自分から頼んだ事なのにすっかり忘れていた桜咲であった。 映画とは、旅行中にむつきに教えてもらった古い映画の事である。 ボディーガード、一度ぐらい観て見ろと言われ、宮崎を勧められたのだ。 確かにお願いはしたのだが、まさか旅行が終わって疲れているだろうに翌日にしかも午前中に探してくるとは。 さらにそれを桜咲自身が忘れてしまっているとは、恐縮せずにはいられない。「ありがとうございます、恩にきります」「そんな大げさな。私も久しぶりに名作の名を聞き、昨日夜遅くまで原作読んでしまいました。それで、早く桜咲さんに観て貰いたくて。すみません」「こちらこそ、無理なお願いを。本当に、ありがとうございます」 お互い玄関先でぺこぺこと、いえいえこちらこそと本当にお互い様なやりとりだ。 両者共にそう思ったのだろう、くすりと笑ったのはどちらが先か。「ありがたく、拝見します。何時ぐらいにお返しすればよろしいですか?」「旧作ですので、一週間ぐらい余裕があります。木乃香さんと一緒に観てください。それでは、感想できれば聞かせてください。原作も持ってますので、よければそちらも」「活字は……ははっ、善処しますです」 人見知り同士、ぎこちなかった当初とは違い笑い合い小さく手を振って分かれた。 自分の為に良い人だと、図書館島貸し出し用の袋を胸に抱き桜咲は宮崎を見送った。 といっても、同じ寮内の事で直ぐそこにある自室に宮崎は戻っただけだ。 それから自室の玄関を潜り、気付いた。 起き抜けで寝癖がつきっぱなしで、しかもパジャマ姿であった事にだ。 宮崎は旅行直後とはいえ、午前中からちゃんと私服に着替え活動していたというのに。 ちょっと気を抜きすぎたかなと、借り受けたものを茶の間のテーブルに置いたところで龍宮の全身が映る姿見が目に入った。 就寝中だったのでサイドテールを解いた自分、木乃香が何処からか買ってきたせっちゃんと筆書きされたプリントのパジャマ姿。 着崩れた胸の隙間から覗くのは、中学に入り膨らみ始めた胸を押さえるサラシだ。 思い出したのは、お世話になったばかりの宮崎である。 髪もしっかりと櫛で梳いてさらさらで、内気な性格のわりに短めの赤いスカートにブラウス。 去り際にちょっと良い匂いがした気がしたが、コロンか何かだろうか。「女の子、か」 テーブルに置いたDVDをチラっと見やり、思い出したのは宮崎から一緒にと言われた近衛ではない。 これを勧めてくれたむつきの事だ。 時計を確認すると現在時刻は十一時、お昼まであと少し。 今頃むつきは、確か伝え聞いているのはひかげ荘であやかとの初夜のはず。 そう思い出して、キュゥと胸がするのは何故か。 それから意を決しクローゼットや箪笥を開き、桜咲が絶望するのは数分後の事だ。 あの後結局、桜咲に残された手は近衛に協力を願い出る事だけであった。 本当ならば、近衛には近衛できちんと考えて決めて欲しかったのだが。 昼になるや否や、手を繋いで共にひかげ荘にやって来てしまった。 玄関先で、格好が変じゃないか改めて見てみる。 そしてちょっと落ち込んだ。 何故、木乃香に可愛い服をと頼んだ結果、普段の制服姿なのだろうかと。「このちゃん、今さらやけど。これ……」「可愛えよ? せっちゃん、いきなり全部変えると目移りしてもうて見て貰えへんえ?」 何時の間にか、頼み込んだ目的さえ看破されている気がするが。 普段のカッターシャツにネクタイ、赤のチェックのスカートにスパッツ。 ここまでは普段の制服姿だが、一点違うのはサイドテールを降ろしたボブスタイル。 ワンポイントに猫の髪留めを使って、左側の額の髪を纏めたぐらい。 確かに変にめかし込むのもおかしな気はするが、髪留めが気になりついつい触れてしまう。「や、なくて。このちゃんはええの?」「確定やないけど。せっちゃんが選らんだ人やもん。それにうちかて、少しは先生の事を知っとるえ。お爺ちゃんが持ってくるお見合いの人たちよりよっぽど」 気になったら行けば良い、確かめれば良い。 意外とおせおせな近衛の正確は知っていたつもりだが、まだまだだったらしい。 その積極さを分けて欲しいとばかり、繋いでいた手をキュッと握った。 にこにこ覗き込む近衛の前で一、二度程深呼吸を繰り返しインターフォンを鳴らした。 現在時刻は十二時半と、きっと初夜は終わっているはず。 インターフォンを鳴らしてから、もっと時間を空けるべきだったか。 気を利かせろよと言われるような気がして。 いや、そもそも初夜とはどれぐらい掛かるのか、何度ぐらい出来たのか。 夏の日差しも加わり、頭がぐらぐら煮詰まってくる気がしてきた。「せっちゃん可愛え」 呼吸も浅く、眼がグルグルしだした桜咲の頬を楽しそうに近衛が突く。 普段ならこのちゃんこそと言っていたろうが、そんな余裕もなく。「おう、お前らか。早いなって、相変わらずだな」「へっ?」 玄関を開けて出迎えてくれたむつきが、そう言うまで現状に気付く事さえなかった。 相変わらずとは、幼馴染の可愛さに我慢できず頬にキスした近衛の事だ。「こ、このちゃん!」「えー、ええやん。そんな恥ずかしがらんでも。先生、今日はゆっくり映画観ませんか。せっちゃんがのどかに、例の映画借りてきたんよ」「さすが宮崎、こういう仕事は早いな。よし、これから皆で遊戯室の大スクリーンで観るか」「あっ、うちら早いと思ったのに遅いぐらいやったんか」 これまた驚きの情報に、驚いたのは桜咲だけだが、眼が点となっていた。 気合を入れてきたのに、既に他のメンバーが揃っていればそうなるだろう。「ははっ、そうですね。皆で……」 空回り過ぎると、半涙目になった桜咲は少しここが何処か忘れているようだ。 ひかげ荘、自己の内面を惜しげもなくさらけ出しても許される場所。 そういう場所だったと、思い出すのはもう少し後である。 がっくり来た桜咲の手を近衛が嬉しそうに引き、やって来たのは遊戯室であった。「先生の殿方が体を引き裂くように貫き、内側から蹂躙され。ですが、言葉とは裏腹に広がったのは快楽と興奮。愛を感じる暇もなく、嬌声をあげてしまいましたわ」 そこでは乙女達、半数は非処女だが、あやかを中心に質問タイムであったらしい。「やべえ、委員長に淫らになられたら趣向を凝らさないと、影が薄くなっちまう。より一層、エロコスチュームに磨きをかけねえと」「貧乳はステータス、あれこれ意外と私だけの武器なのでは?」「うーん、うちみたいな標準が一番困るわ。長谷川さん、うちにもエロエロ貸してや」「聞いてたら、濡れてきそうに。久しぶりに、チアコスで先生の上で踊りたいな」 あやかを中心に誰もがうずうずと、目の前に手を付き前のめりであった。 コスプレから、服飾系から更にエロコスと千雨の未来の方向性は何処へいくのか。 夕映は新たな自身の魅力に気付き、亜子は中途半端だと胸に手を置き困ったり。 美砂は、何時も通りエロイ事大好き、今からでもと言い出しそうな程だ。 この場にいるのは上記面々に加え、アキラぐらい。 割と初期からいるメンバーばかりであった。「おーい、エロ漫談もそこまで。出来れば俺の夢を壊さないように、レディーストークは俺のいないところでやってくれ。ほれ、桜咲。DVDは?」「はい、ここに……どうやって観るのでしょうか?」「なんだ、映画か? うわ、健全な家デートみてえ。貸してみろ桜咲」 こういうAV機器は私の領分だとばかりに、千雨が桜咲からDVDを受け取った。 即座に察したあやかが、カーテンを閉めようと立ち上がりかけたのだが。 ピリッと股座に走った痛みで、お尻を数センチ浮かすのみに終わる。 それで午前中の情事を思い出し、一人カァッと顔を赤くしたあやかに皆が頷き肩を叩いた。 その気持ち分かるとばかりに、亜子や夕映が変わりにカーテンを締めに行く。 むつきも何か言ってあげたいが、今は何を言っても逆効果だろうと何も言わなかった。 それから家主の特権とばかり、巨大スクリーン正面のソファーに陣取る。 当然、美砂とアキラがその両隣を狙うわけだが、今日は少し違っていた。「美砂ちゃん、先生ちょい貸してくれへん?」「あれ、木乃香も先生にラブラブ?」「ううん、せっちゃんが。恥ずかしがりやさんやから、うちが言い出さへんと何も言わへんから。ほら、せっちゃん。先生のお膝の上、空いとるえ?」「このちゃん!?」 おや、それは何時の間にとむつき含め、皆の視線が集った桜咲はたじたじだ。 はようと木乃香に進められても、一歩も歩み出せないぐらいに。「先生、何時の間に。旅行中、なにかあったの?」「聞かれてもさっぱり。あっ、ほら千雨がセットしてるDVD、勧めたの俺。なんか桜咲は、近衛のボディーガード的な存在らしくてな」 アキラに尋ねられても、好かれるような事はなにもと返すしかない。 確かに旅行中に一度相談こそされたが、膝に座らせてすりすりセクハラしただけだ。 ほらほらと、亜子までもが桜咲の後ろにまわり背を押すも、当人は足元で踏ん張っている。 少々、近衛の早とちりというか、まだちょっと興味がというところであろう。 これでは、折角のDVDも気もそぞろで集中できないのではないだろうか。「ほら、お前ら。あんまり桜咲を苛めてやんな。恥ずかしがってんだろ」「しゃあない、せっちゃんが座らへんなら。先生、失礼するえ?」 お先っとばかりに、ぽふりと近衛がむつきの胡坐の上に腰を降ろしてきた。 脊髄反射的に、そんな近衛のお腹に手を回してしまったわけだが。 一瞬思い出したのは、爺さんの台詞だ。 近衛に手を出すならば、それなりの覚悟をしておけと。 うーんと迷いはしたが、抱き締められ見上げてくる近衛を見ていると親しいお兄さんに甘えているような感じである。 ノーカン、手は出していないとスカートの裾にフリルのあるワンピース姿の近衛を改めて抱き締めた。 黒い日本人らしいストレートの髪に鼻先をうづめ、すんすんと匂いを嗅いでしまったが。「やん、先生あかんえ。うちまだ、そういうつもりあらへんから」「美少女が膝の上にいるのに無茶いうな。ちょっと抱き締めるだけ。おーい、俺の傍はあと両隣だけだぞ。早い者勝ちか?」「うーん、折角委員長が初夜したばっかだし。右側が委員長ね」「あ、あの……思い出したら、腰が。何方かお手を」 美砂の仕切りであやかが右隣となったが、四つん這いで腰をぷるぷるしている。 セックスアピールなら尻の向け先が違うと、DVDをセットする為にしゃがんでいた千雨のお尻で押されていた。 簡単にぺしゃっと転んだおかげで、むつきの手が届きひっぱりあげる。 残り一席となったわけだが。「うちとアキラは、明日から水泳部の合宿で先生二人締め、小瀬先輩いれると三人締めだから今回は辞退しとく」「うん、亜子の言う通り」「私もパス、映画とか集中してる時に悪戯されるとキレるタイプだから」 亜子とアキラ、それから千雨が辞退したわけで残るは美砂と夕映だ。 しかし、そうなってしまえば、答えは簡単だった。 まず美砂が私っとばかりに跳んでむつきの左手に陣取り、両手を広げた なる程と、その意味に気付いた夕映がとことことやって来て、美砂の腕の中に収まる。 小さい事はやはり良い事かと、正面、両隣に加え四番目の居場所であった。 女の子が一杯で嬉しいと、美砂とあやかの腰を抱き、共に夕映も抱き寄せ、正面の近衛は語るまでもない。 これ映画に集中できないだろうという、千雨の呆れ顔もなんのその。 亜子もじゃあ私はアキラの腕の中と、別のソファーに座り、千雨は一人で別のソファーを独占だ。 そこで全員気付いたが、まだ桜咲が所在なさげにぽつんと立っていた。 何処へ行けばとおろおろしようにも足の向けばも判らない始末であった。 意外と、日常生活では近衛がいないと何をして良いかわからないタイプか。「せっちゃん、ここ空いとるえ。夕映と亜子ちゃん見て、気付いたえ」 そう近衛が誘ったのは、むつきの胡坐の上の近衛のさらに膝の上だ。 ちょっときついと思いはしたが、むつきは当然目して語らず。「えっ、あの……」「桜咲、お前が持ってきたDVDだけど、早くしろよ」「お前はどんだけDVDが見たいんだよ」「ぶっちゃけ、先生が好きな映画、好みを知りたいだけだ。言わせんな恥ずかしい、乙女的に。あぁ、恥ずかしい。セックス、セックス!」 純な自分が恥ずかしくなったのは、下ネタ大好きとばかりにわざとそういい始めた。 十人近い乙女がこの場にいて、セックスと言う言葉に照れたのが三人とはどういうわけか。 二人はもちろん、近衛と桜咲、後は午前中に処女を失ったばかりのあやかだ。「やめろ、馬鹿。俺の上に近衛がいるんだぞ、勃起したらどうする」「大丈夫、トンカチ持って来てるえ?」「お前最初から……ええい、桜咲。座れ、十秒以内に座らないと近衛に悪戯するぞ」「やーん、せっちゃん助けて。先生にエッチなことされてまう」 えいっと近衛の頬を突けば、それはもう素早く、風のような動きで桜咲が近衛の膝の上に座った。 セックスと叫んだ千雨と、頬を突かれエッチなことと言った近衛。 どうしてこうなったといわざるを得ない差だが、千雨をそうしたのはむつきだ。 考えまいと、手を伸ばし桜咲がずり落ちないようシッカリ引き寄せ抱き締めた。「やっと、人数多いと大変や」「長谷川、照れてないでそろそろ」「どんな映画だろう?」「私はのどかから聞いてますので、題名は知ってます。内容は詳しくありませんが」 苦笑した亜子を腕の中に置き、アキラが照れ中の千雨を促がす。 ちくしょうと震える手でリモコンを操作すると、巨大スクリーンの上で映像が流れ始めた。 題名すら聞いてないと呟く美砂に答えた夕映に、ネタバレは気をつけろよとむつきが腕を回し撫で付ける。 ふいに、誰の話し声も聞こえなくなったのは、条件反射である。 だがどうしてDVDは別映画のコマーシャルから始まるのか。 始まったかと思いきや、これは面白そうだと思った直後に、全然違う映画だったなど一度や二度ではない。 またかと、一気に脱力したような溜息が、複数上がっていた。 思わずむつきも脱力して、近衛の肩に顎を置いて頬を寄せ合ってしまった。 その気はまだないと言われたのでまずかったかとも思ったが、チラリと眼があった。「先生、私の手見とってな?」 むつきにだけ聞こえるような、小さな呟きである。 美砂や夕映、あやかはスクリーン上のコマーシャルを興味深げに見ていて気付いていない。 近衛の手とは何の事なのか。 肩越しに見下ろしてみると、桜咲の腰に手を回しているのはまわしている。 ただし、横腹から急降下しては股座に、そっとスカートをたくし上げていた。「このちゃん、あかんて気付かれてまう」「動いたらあかん。それこそ、先生に気付かれてまう」 こそこそと耳元で囁きあうのは良いが、現在むつきの顔は近衛の直ぐ隣だ。 気づかれぬよう前を向いている為、桜咲はソレに気付かない。 カーテンを閉めた暗がりの中で、近衛の手がごそごそと桜咲のスカートの中で動いているのが判る。 ついに長い宣伝も終了し、本編が始まりそうなのだが。 桜咲をまさぐる近衛の手は止まらなかった。「んっ」 小さな桜咲の喘ぎは、幸運な事に直前に千雨が音量を上げた事でかき消されていた。 ちょっと大きすぎるが、好都合なので構わない。 眼を凝らせば、喘ぎこそかき消されているが、ピクピクと桜咲の肩が震えて居るのがわかった。 本当、近衛は意外とおせおせと言うか、S気質である。「せっちゃん、もう濡れ濡れしとる。こすこすするつもりが、ぎゅっぎゅって気付かれてまうえ?」「堪忍やえ。先生に聞かれて」「ほなら、先生にも触れて貰うえ。その為のスパッツやん」 辛うじて聞こえた弱々しい桜咲の訴えを、にっこりとした笑顔でばっさりだ。 ああ、そうなんだと、Sは嗜虐的な顔をせず、あえて笑うんだといらん知識が増えた。 しかしながら、見ているだけとはなんともどかしい。 しかもスパッツ、この為に普段の制服姿でスパッツとは、触れたいすべすべなんだろうなと妄想が止まらないのだが。 これ、俺に対してもSっ気が向いてないかと、気付いた。「先生、せっちゃん可愛えやろ。気付かれとるのに、気付かれへんかビクビクしとる」「なんていうか、お前なんか変じゃねえか? 普段のラブラブとちょっと違う気がする」「だって、うちの知らん間にせっちゃん先生もラブなんやもん。これからは、ずっと一緒やえって約束したのに。恋愛ぐらいしてもええ、けど秘密にされるのはやや」「お前おおらかと思いきや、束縛するタイプだったんだな。桜咲限定かもしれんが」 数年の間、疎遠となっており、ようやく復縁した反動か。 おしおきだとばかりに、桜咲を愛撫する近衛を落ちつけよと頬ずりした。 やはりまだその気がないせいか、さすがにそこまでされると近衛の手が止まった。「親友だから、なんでもかんでも相手に明かす。そうして欲しい気持ちは分かる。けどな、親友だからこそ話せない事だってあるんだぜ?」「そんなの、だって……うちが、せっちゃんの一番やもん」「誰かの一番になりたい、その気持ちは大事だ。けど、ああしろ、こうしろって束縛するのは違う。桜咲だって、近衛のいう事はなんでも聞いてあげあいだろうさ。けど、嫌々はお互い気持ち良くないだろ?」 離れた近衛の頬を追うように、また頬をつけた。「良く聞け。俺だって、できる事なら四六時中美砂達とセックスしてたい。朝昼晩、平日だって社会科資料室に引っ張り込んで過激な事もしたい。けれど、しない」 もちろん、社会的に危ない事はしたくないという気持ちも確かにある。「俺には俺の、美砂達には美砂達の生活がある。恋人だろうが、嫁だろうが踏み込んじゃいけない部分だってあるんだ。もしそこに踏み込んで全て言いなりにさせたら、もう対等じゃない。言いなりの人形だ」「ちが、うち違う。せっちゃんが好きやから、何処にも行って欲しないから」「思春期だから、ちょいたがが外れただけだ。大丈夫、お前は優しい子だから、そんな事はしない。悪い、言い過ぎた。泣くな、慰めたくなる。もちろん抱いて」 ふるふると震えた近衛の瞳から零れた涙を、唇で吸い取り受け止めた。「まあ、なんだ。お前らにエッチな事を教えた責任はとる。ちゃんと毎回、心は通い合わせとけ。親しき仲にも礼儀あり」「こ、このちゃん……意地悪せんといて、手止まってまっとる」 むつきの言葉の途中で訴えられた桜咲の呟きに、二人して目を合わせクスッと笑う。 桜咲が求めてるなら仕方がない。 近衛も、一方的ではまだなかったかと、少しほっとした様子だ。 ちゃんとむつきの言葉も身に染みたようで、いつものほわほわした笑顔だった。 しかしながら、その笑顔の中に少しだけ男を誘うような笑みが含まれていたような。「先生、責任ちゃんととってな。うち、せっちゃんに一杯気持ち良うなって欲しい。女の子の弄り方、教えてんか。うちの体を使って、実習で」「その気、なかったんじゃないのか?」「ないえ。本番はさせたらへんけど。これも授業や。実地教育。うちが先生に悪戯された通り、うちもせっちゃんに悪戯する。気持ちええこと、教えてや?」「この状況で難しい事を……」 美砂やあやか達に気づかれぬよう、まずはそれとなく近衛の腰に手を回した。 それから、あえて両隣の二人へと声をかける。「すまん、美砂。それにあやか、体勢が。ちょい座り直すわ」「うん、良いよ」「どうぞ、お気になさらずに」 椅子へと深く腰掛けた一瞬、近衛の腰を引きつけ手はそのまま浮いたスカートの奥へ。 ビクンっと近衛が大きく震えたが、同じように桜咲の腰を引いたようだ。 これはこれで面白いプレイかもしれない。 再び近衛の肩に顎を置き、話しかける振りをして頬にちゅっと唇をつけた。 明かりいらないなと思う程に近衛が赤くなり、困ったような照れ笑いだ。 それから実際愛撫の始まりだが、桜咲のスカートの奥の状況は不明。 しかしながら、意地悪しんといてと近衛の手が止まっていた事を考えるとまずはである。「ゃっ」 スカートの奥、近衛の太股に手を這わせ、秘所から遠い場所での愛撫である。 小さく戸惑いの声が近衛から漏れたが、優しくするからと耳たぶを食んだ。 唇でこりこりしつつ、指先でくすぐるように太股の上を滑った。 徐々に股下へと近付いていくように、閉じようと膝が動くがもちろん出来ない。 足の間に桜咲がいる為、閉じられないのだ。 誘った割には焦ってるなと、太股の付け根に近付いて直ぐにユーターンである。「手が止まってる。桜咲にも同じように」「ぁっ、はい。ごつごつの手、せっちゃんと全然ちゃう」 そりゃ違うはずだと、そのごつごつの手で恐らくは白いすべやかな太股を堪能する。 桜咲はスパッツだったはずなので、近衛がこれを味わわないのは惜しい。 それに秘部に触れて欲しいのに何故と、焦らしプレイにもなるはずだ。 近衛は結構直球的な正確なので、焦らしプレイなどした事もないだろうし。「せっちゃん、気持ちええ?」「なんや、ちゃう。いつものこのちゃんちゃう、はよう。はよう、触ってや」 桜咲も理由は不明ながらソレに気付いたようで、居辛そうにお尻を揺らしている。「良いか、焦らしプレイは如何に相手にどうしてって思わせるかがポイントだ。遠くから近くに、相手にやっとかと思わせる」 最初にしたように太股の浅い部分から奥に、徐々に秘部に指先を向かわせた。 付け根の小さな谷間を声、肌とパンツの境に到達する。 最初から焦らしと聞いていた近衛はまだしも、桜咲がキュッと小さく体を縮めた。 次の瞬間、秘部からまた遠ざかりお腹の上におへそを指先でくすぐった。「このちゃん……」 切なげな呟きと共に、桜咲が涙を一杯溜めた横目で振り返ってきた。「一体なんの事だってにっこり笑え。その気がないんじゃって、不安にさせるんだ」「せっちゃん、ほら今ええところやえ。映画、集中せんと」「だって、このちゃんから」 自分から誘ったのにと、今にも涙が零れ落ちそうだ。 ぞくぞくと消え入りそうな桜咲の呟きに、近衛が身震いを起こしていたのがはっきりと判った。 本当に思い込みによるものだけでなく、Sっ気が多い事。 そんなS気に答えるように、おへそをいじる事から一点、中指を強めに割れ目に押し付けた。 まだむつきは触れた事はなかったが、やはり思ったとおりしっかり濡れていた。 ぬるりとパンツ越しに近衛の割れ目の中へと指が沈み込む。 あれだけ桜咲をねちっこく苛めていれば当然か、かなり激しく近衛が打ち震えた。 それと同時に、桜咲もスパッツ越しに指を突っ込まれたらしい。 何処までも同じ愛撫でと、近衛が快楽の中でもしっかりと桜咲を攻め立てていた。「ひぐっ」 一際大きな悲鳴のような喘ぎ、ちょっとだけ力加減を誤ったらしい。 なら次は意地悪を止めて、ごめんねの意味をこめて優しく陰部を撫でさせようと思ったのだが。 シャーッと、カーテンが開かれ夏の燦々太陽とご対面で眼が眩んだ。 近衛も桜咲も突然の事で、光に目を貫かれソファーの上で転がってしまう。「馬鹿、誰だ。急に、眼がチカチカ。痛てえ!」「馬鹿じゃない、この淫行教師!」 意地でも近衛を放さなかったむつきを誰かが蹴ったが、そんな事をするのは一人だけだ。「言ったよな、私。映画とか、途中で邪魔されるとキレるタイプだって。なに、映画館プレイしてんだよ!」「いえいえ、これはこれで。気付かれてないと思って、徐々に楽しみ始める恋人を覗くプレイもなかなか。先生、出来れば次は私もその映画館プレイを」「委員長一人だったもんね。夕映ちゃん、気持ち良かった?」「先生に出会う前なら、柿崎さんと禁断の愛に目覚める程に」 可愛いなあもうっと、美砂が夕映を抱き締めるのを見てさらに千雨が青筋を浮かべていた。 さすがに同じソファーで致していてれば、あっさりバレるものらしい。 見せる顔がないと、両手で恥ずかしそうに顔を隠しているのは何も知らなかった桜咲ぐらいだ。「アキラも上手になったね。うちも、あと少しでイケたのに」「私からすると亜子小さいから、壊しちゃいそうで加減が。普段は攻められる立場だし」「お前らもかよ。もう、良い」 宣言通り、半ギレの千雨はプレイヤーからDVDを抜き始めた。「ごめん、千雨。謝るから」「嫌だ、先生とのセックス好きだけど。こればっかりは嫌だ。旅行連れてって貰ったし、強請ってばっかだけど。あっ、ちょっと待ってろ。いいか、待ってろ!」 そう指を突きつけた千雨が、遊戯室を飛び出しばたばたと、あの足音は階段を登っていく音だ。 ちょっとばつが悪そうに、皆でしょぼんとしていると似たような足音で千雨が戻ってきた。 部屋に入るなり、むつきへと投げつけられたのは例のむつき君人形だ。 千雨も確か三つぐらい所有しているはずで、そのうちの一つだろう。「先生はこれから、私の部屋で一緒にDVDを見ること。もちろん、エッチはなし。イチャイチャは可。もちろん、それを抜いてからもなし、今直ぐにだ!」「どういうキレ方。判ったよ、怒らせたのは俺だ。千雨、DVD貸せ。今のお前、壊しそう」 憤った千雨からDVDを取り上げ、パッケージに仕舞い図書館島の袋に丁寧に入れた。 それから、忘れちゃいけないと赤面する顔を未だ隠し、女の子座りの桜咲の目の前にしゃがみ込んだ。 おーいと呼びかけるも、無言で顔を隠しながらぶんぶんと振られてしまう。 注意されたばかりなのにやってもうたと近衛が言ったが、むつきとて同じだ。 なのでせめてもの罪滅ぼしにと、その髪留めをつけた髪をそっと撫でた。「髪型、何時もと違うな。髪留め、似合ってるぞ」「先生?」 少しだけ指の隙間から見上げられ、良い笑顔で笑ってあげた。「これから二時間、俺は千雨のもんだから。その後で、また一緒に観ような。今度はエッチなし、お前は俺の膝の上」「は、はい……」 あとは任せたと、近衛の頭もぽんと叩き、遅いと尻を蹴り上げる千雨を伴ない彼女の部屋へ。 残された形となった美砂達だが、あやかの初夜に続きお話のネタには困らない。 むしろ、何時から何があったと、むつきを乙女の瞳で見つめる桜咲へと質問の嵐である。 しどろもどろで要領を得なかったが、お嫁さん候補がまた一人増えそうな事だけはわかった。 それから親睦会だとばかりに、如何に女の子同士で気持ちよくなるか。 桜咲も仲間に加わり易い話題で持って、実践付きで続きをはじめることになった。 -後書き-ども、えなりんです。むつきは特別キザでもないのですが。わりと普通に女の子を褒める。確か夏祭りの時も木乃香の浴衣姿を見て普通に可愛いって言ってたし。本当に日本人か。あと最後に千雨が投げたむつき君人形。旅行の話ばかりで、読者も忘れていたのでは。そしてすべての人形が消費されることはたぶんないでしょう。誰が何個持ってるのか、作者も忘れてます。次回は土曜日です。