【七日前 識与二五六年 七月三十一日】
現在ではAIのみが生活する仮想世界・八百八町(はっぴゃくやちょう)。その統治機構・九重府と反徒たる六孫王府の対立を論じるには、少々歴史を語る必要がある。
そもそも、現在では一〇〇〇平方キロメートルにも満たず、いち都市程度の規模に過ぎないこの世界はかつて、八洲国(やしまくに)という広大な国土を有する国家だった。無数の島嶼によって構成され――八とはこの場合数の膨大さを示す接頭辞である――、その中に膨大な人口を擁していた。
首都は西方に配され――そこには支配者が存在した。
唯一の人(ユニーク・ワン)。
ネットワークを介して仮想世界に没入した精神、という形で存在する、物理的実体を持つただ一人の人間。管理者権限(ルートパーミッション)――AI生命に対する絶対的な支配権を有する存在。
彼がどのような王者であったか。賢王であったのか、暗君であったのか。それは過剰に婉曲で儀礼的な政(まつりごと)の構造に紛れ、犬の世話をした程度でも満艦飾にするような公文書の書体にはぐらかされてしまい明らかでない。
ただ、不良データ――雷(らい)の穢れ、あるいは憑物(バグ)と呼ばれるものに対する処断の苛烈さについては一貫している。
憑物を宿したAIである憑人(セリアンスロープ)は太古の昔から存在しており、現存する最古の史料の時点で既に、生尾人(いくおびと)という名で確認されていた。
憑人は周囲の演算を歪める障気(しょうき)というデータを発生させる性質があり、これがシステムリソースを圧迫するとAI存在にとっての最大の災厄――世界の止滅(システムダウン)に繋がると言われている。
〝唯一の人〟は彼らの消去を決定した。コンピューターが人類の歴史に登場して以来、当然の如く行われてきた行為。
彼の〝デバッグ〟はこの世界では、九馬人(くめびと)なる征伐軍を編制し、各地に点在する憑人の部族に侵攻をかける……という軍事行動の形で実行された。北方の疫子(エミシ)、南方の曲疽(クマソ)、破夜刀(ハヤト)。彼らの抵抗は頑強で、遠征を幾度繰り返しても滅ぼし尽くす事は出来なかった。
やがて北方の部族に英雄が現れる。
悪路王アテルイ――彼は鎮定軍を撃退すると南方の二部族と糾合し、朝廷へ逆に侵攻を図った。
〝唯一の人〟は南北から押し寄せる軍勢を前に、その後の仮想世界の方向性を決定づけるある決断を下す。
大粛正(グランドパージ)。
管理者権限を以て彼らは大地ごと削除された。残されたAIの記憶も操作され、辺境の〝尾の生えた人〟の存在は完全に消失し、世界から憑人は排除された――と思われた。
およそ百三十年の後、京(みやこ)に一人の男子が生まれる。
未那元経基(みなもとのつねもと)。
未那元という氏族は、もう一つの多意良(たいら)氏と同じく〝唯一の人〟がAI存在に産ませた後裔であり、経基はその一人だった。
当時そうした存在はさして珍しくも無かった。その時点で千年ほど生存している〝唯一の人〟は、それだけ子孫の数も多い。増えすぎた一族をただの家臣に格下げして、各地の領主として着任させる事で無産階級を減らさなければ、国庫に悪影響が出る程であった。経基もまた、そうした中級貴族の一人に過ぎなかった。
残存する史料によれば、小人物であったらしい。任地である東国では略奪を働き、先んじてその地に地歩を築いていた多意良の一族などの在郷勢力と衝突し、あっさりと敗れて逃げている。その時敵対した人物、多意良将門(たいらのまさかど)公と比べて明らかに器の格が落ちる――というのは多意良にひいき目のある九重府の史料ゆえの見解でもあるだろうが。
もっとも、九重府側も歴史を語る時にこの二人を引合いに出す事は珍しい。多意良将門がその後新皇を僭称し、朝廷に叛逆して討伐されたからである。
そして経基はこの討伐軍に参加して名を売り、やがて鎮守府将軍にまで上り詰め、後の多意良一族との大戦に勝利して武門の頂点に上り詰めた大家の基盤を作り上げた。
――晩年、彼は屋敷に籠り、顔を仮面で隠すようになる。湯浴みに侍る女中にも目隠しを強要し、人との接触を酷く嫌った。
伝え聞くところによれば、ある小姓が誤って彼の仮面の奥の顔を見て、斬られたらしい。
彼にはしばし息があり、看取った武士に「六孫王様は鬼じゃ。額に角が生えておった」と言い残して死んだという。
六孫王。
その時彼は、〝唯一の人〟との血縁を示す名を通称としていた――
「――まぁ、最後らへんの下りはいかにも脚色臭いがな」
小隊が横列を組んで行進できそうな幅の階段を下りながら、いなきは後方の〝き〟の方を向いてそう付け加える。義足の妹を連れての宮城地下への長い道行きは時間がかかり、暇潰しの講義にやや熱が入り過ぎた感がある。振り返ったのはそれを冷ます為の小休止の意味があった。
――九重府、という名称は居城である紫垣城(しえんじょう)が九つの城門を持つ九層構造である事に由来する。
一般官吏が登城するのは第一門・一白水門(いっぱくすいもん)の内の玄天垣(げんてんえん)にある軍事施設と、第二門・二黒土門(じこくどもん)の内の朱天垣(しゅてんえん)にある行政機能を担う区画までで、そこから先は貴族の領分となる。第五の五黄土門(ごおうどもん)からは上階に続き、いわゆる星の位――高級貴族が住む。
昇殿資格を持たない下級貴族や一般官吏は、上階には第七門である七赤金門(しちせききんもん)までしか存在しない事を知らない。
五黄土門には裏門が存在し、そこから辿る地階に第八門・八白土門(はっぱくどもん)と最終門・九紫火門(きゅうしかもん)がある。
九重府の暗部組織である〝雷穢忌役(らいえのいみやく)〟は、八白土門の内の変天垣(へんてんえん)に拠点を持っている。
「つまり、九重府と六孫王府の確執は即ち多意良氏と未那元氏の対立である――」
言ってから、親指で喉を切って舌を出す。
「なんて答える奴は落第だな」
話を聞く妹が、今の解説を納得しかけていると察しての脅し文句である。唯一のお洒落らしく、気分次第で変わる面は今は狐を模したものだ。顔が全て隠れているのになぜこうも感情の動きが分かりやすいのだろう。
「あのな、そこから更に千年近く経過してるんだぞ。戦争の構造に変化があって当然……何より、二つの家の対立程度で説明出来る程世間様はお易くないんだよ」
「ぅ。す、すいません」
こいつは昔から謝ってばかりだな、などと思いつついなきは解説を続ける。
「初代六孫王経基の時代からしばらくは京での小競り合いの時期だ。大貴族・不二原(ふじわら)氏を含めた争いに勝ったのは多意良で、未那元の主立った武将は殺されて残りも地方に流された。これを復興させたのが九代目六孫王頼朝(よりとも)。彼は異母弟の〝軍神〟九郎義経(くろうよしつね)と共に、多意良の末流も含む東国の武士と糾合して京で隆盛を極めていた多以良一族を放逐し、鎌倉に初めて武家による独立政権である幕府を打ち立てる」
「あ、あの」
聞き役に徹していた〝き〟が疑問を投げかける。
「なぜ、初代六孫王の一族は憑物を確認された時点で処刑されなかったんですか。〝唯一の人〟はそれまで、世界の一部を切り離してまで憑人を殺しているのに」
「……三つ理由がある。一つは、未那元の家柄が抹殺するには大きすぎた事だな。六孫王以外にも〝唯一の人〟の親族たる未那元氏は数多く存在していた。大っぴらに剪定すれば近場の枝が怖がるだろ? 実際的な問題として、六孫王の一族を迫害すると、未那元という氏族全体の権威低下に繋がるおそれがある。多以良、不二原と強大な政敵を抱えた状態でそれは望ましく無い。もう一つの大貴族である太智華(たちばな)氏が没落したのが記憶に新しいとあっては尚更な。未那元氏全体で六孫王を守る必要があった」
「その、にい……いなき様」
「なんだ」
「それだけでは説明がつかないと思いもふ」
「もふ?」
「す、すいませんっ。怖くて噛んじゃったんですっ。怒らないでください睨まないでください蔑まないでくださいぃ。これは純粋な知的好奇心の発露であって、決して兄への反意などという不敬千万な気持ちがあるわけではないんですぅ……」
「そこまであからさまに怯えられると逆に傷つくんだが……じゃあ何だよ。言えよ。とっとと」
問い糾すいなきの顔に何か思う所があるかのように、ひぃっ、と震え上がった後〝き〟はおどおどと述べる。
「……先程、その後の争いで一度多意良が勝ったと仰いました。六孫王直系以外の未那元氏も権力が低下しているはずなのに、なぜその後も六孫王は存続し得たのでしょう。抹殺する好機で、そうしない理由も無いではありませんか」
「……なんかお前、気が弱い癖に発想はすこぶる過激だよな。……まぁ、確かにその通りだが。そうならなかったのは明確な理由がある」
「なんですか?」
「〝唯一の人〟が助命させたからだ」
その回答は、より〝き〟を混乱させたようで彼女は首を傾げる。確かに、前言から酷く矛盾している。
しばし階段を下りる音が続く。彼女にこの根拠を説明するのは気が引けたからだ。
迷った後に、遠回しに告げた。
「ギリシャ神話の女神ガイアの心境、って奴かな」
地母神ガイアは子であるティターン族の王クロノスの暴君ぶりを諫める為に、孫のゼウスを匿って彼を討伐させた。
ゼウスはティターンを冥府(タルタロス)に幽閉し――ガイアはその行為に憤激した。ティターンは彼女の子供達である。孫とは言え、それを無下に扱う事は許せなかった。
親心だ。
「なるほど。じゃあ、多意良も強くは出れませんね。巨人(ギガース)や怪物(テュポーン)を遣わされたら敵いませんもの」
「理解が早いな。そうだ。多意良もそれを恐れて六孫王一族の根絶は出来なかった」
「それがアキレウスのかかとになった、って事ですねっ」
「……上手い事言ってやったぜと喜んでる所に水を差すようだが、なんでそんなに舶来の神話雑学ネタについてこれるんだ? まさか修行をサボってるんじゃないだろうな」
「えっ、ひっ、ちちち、違いもふ。わたしはただ、あやめ様から話を聞いてですね……」
〝き〟はがたがたと震えて言い訳を述べる。
その自然な振る舞いを見て、気に病みすぎたかといなきは思う。
「ちっ、あの図書館の主のうんちく話はそこそこに聞き流せよな。無駄知識しか言わねぇんだから。……まぁ、それが第一の理由だな」
「第二の理由とは?」
「六孫王一族が、誰にも分かりやすい形で朝廷に恭順したからだ」
「分かりやすい形?」
「六孫王の登場が示すように、結局、システムからバグは根絶出来なかったんだ。同時期、各地に再び憑人の部族が発生し始める。隠(おに)や都知久母(つちぐも)、鵺(ぬえ)と呼ばれる連中。――彼らを討伐したのは、六孫王一族だ」
「同類を、滅ぼしたんですか?」
「責める筋合いは無いと思うがな。政府の走狗(イヌ)になって憑人を抹殺するって意味なら、それこそ俺たち忌役と同類だ。そして今はその同類の子孫と俺たちが殺し合ってる」
「……なんだか、泥沼ですね」
「今更だろ。……とまぁ、上手く尻尾を振る事で六孫王一族は存続し、自分たちの国を作って容易に手を出せない力を付ける事が出来た」
「あのあの、三番目の理由を聞いてません」
「それは後の話と絡むからその時語る。……この幕府ってシステムは滅法図に当たった。それまでの反政府勢力と比べて決定的に優れていたのは、ノーマルな人間と共存出来る体制を作った事だ。そもそも多意良との合戦の時点で、中央の徴税で困窮していた土豪を吸収して旗揚げした訳だからな。彼らはそのまま評定衆って政務機関を組織して存在感を保ち続けた。鎌倉幕府はその後も順調に勢力を伸ばしていく。政府の徴税に相乗りする形で資金を得て、地方から徐々に支配体制を確立していった……」
「〝唯一の人〟はその動きを危険視しなかったんですか?」
「一応、建前として。鎌倉幕府は朝廷に叛逆を企てた事は無い。当初の京への進軍も「社稷(しゃしょく)を私する多意良を討ち果たし御宸念(ごしんねん)を安んじ奉る為」って名目を掲げた」
「なんだかとっても耳がかゆいです」
「同意見だ。……さて、したのかしなかったのか。それとも、危険視したのはもっと別の所だったのか」
「?」
「これが三番目の理由。――それまでの全ては〝唯一の人〟の思惑通りだったからだ」
かつーん、と。
階段を踏む音が地下に反響する。
「鈞天垣(きんてんえん)の書庫で調べた現実世界の日本史と照らし合わせて驚いたよ。それまでの八洲国の歴史は現実のそれとそっくりに進行していた。この仮想世界で歴史を再現する意図があったのは明らかだな」
「全部〝唯一の人〟の操作によるもの、って事ですか? この世界の人の意志もすべて?」
「所詮、俺たちは夢の中で踊る人形に過ぎない」
「……」
階段の奥の暗がりを見据えながら皮肉を言えば、後方から怒りに満ちた気配を感じる。振り返らずとも分かる。自分もさして変わらない心境だ。自分を、意志まで操作するような存在に好意など抱けるはずが無い。
「救いを言えば、その支配からはもう逃れているって事だ」
「そうなんですか?」
「ああ。ある時突然〝唯一の人〟はいなくなった。仮想世界での遊びに飽きたのか、それとも別の理由か」
後方の気配が安堵めいたものに変わったのを察して、水を差す言葉を吐く。
「入れ替わりに〝敵〟がこの世界に浸入した」
妖魅(ヴァイラス)。
それが仮想世界に倦んだ〝唯一の人〟の置き土産なのか、他の外部勢力によるものなのか。そもそも〝唯一の人〟の仮想世界からの撤退の理由がそれであるという説もある。単純な物事の順序すらはっきりと遺らなかった程の混乱の時代をもたらした存在は、データの海洋から――その向こうの現実世界から襲来した。
現世界寇掠(リアルワールド・アグレッション)、略して現寇。
当時は魍胡(モウコ)と呼ばれていたその怪物群は、西方から浸入して瞬く間に世界を侵食していった。呪いの烙印を押されたに過ぎない憑人とは違う、AI存在の殺戮のみを単一目的として行動する機械知性。大粛正によって半分ほどの面積になっていた西海道は鏖殺(おうさつ)の巷となり三日で壊滅した。
既に最大の軍事力に成長していた六孫王軍がこの防衛にあたった。八千の憑人を含む五万の兵力が山陽道・長門国の最西端・馬関海峡に集結し――
魍胡軍をその場に押しとどめるだけで半分に目減りした。
敗北は必至である。現実史では神風が吹き外敵を押し流したと言われるが、既に世界に神は無く。当事者の行動が因果を定めるという至極当然の原則しか存在しない。
その行動は、世界を後世に残す事に成功し、そして残った世界に禍根を投じる。
――第二次大粛正(セカンドパージ)。
京の貴族たちは〝唯一の人〟が残していった管理者権限の一部を獲得する事に成功し、それを以て西海道と山陽道の西端を削除した。奇しくも当代六孫王は、かつて多意良との戦いに完全勝利を得た壇ノ浦で消滅する。
「……その後は……当事者にとっては違う見解もあるだろうが……同じ事の繰り返しだ。京の貴族勢力と六孫王軍は、憑物という病巣と、妖魅という外敵を抱えながら八洲国の支配権を巡って争い続け、幾度かの大粛正を経て……二五六年前の第十二次大粛正で八洲国はいち都市程度の面積に縮小され、八百八町と名を変えた……」
幾度世界を縮めても、一部と全体が同じ形をしたフラクタル図形のように、その基礎構造に変化は起きなかった。闘争を血液として循環させ、廻りゆく世界。
――九年前に起きた事も、やはり繰り返しでしか無い。
当事者にとっては、違う見解もあるのだが――皮肉を笑うには若すぎて、固い表情のままいなきは韜晦(とうかい)めいた弁舌を振るう。
「最初の、九重府と六孫王府の確執が多意良と未那元の対立に帰結するってのは、まぁ、陥りやすい誤解ではある。今、九重府の武官の頂点である所の九衛大将は松平宗翅(まつだいらときはね)……多意良の落人の出自って触れ込みだからな」
「触れ込み?」
「地上(うえ)で話すなよ。首が落ちるぞ。……実際は陰陽師系の賀茂氏の末裔だ。この紫垣城の設計にも絡んでいるらしい」
二五六年前の大乱で最も武勲を挙げた賀茂氏――当時は鴨留木(おるき)という姓だったらしい――は、いち武将に納まる事を良しとせず家伝の風水技術を売り物に積極的に内政に介入し、揺るがぬ地歩を築いた。合戦から再興出来なかった多意良の名を引き継ぎ、九重府の実質上の首長となっている。
「未那元に対する旗印は多意良でないといけないのさ。貴族の頂点は不二原から分化した五摂家だが、彼らじゃ臣たり得ても王にはなり得ない。実体を持つ神である〝唯一の人〟の嫡流でないと世界の後継者として認められない。劣等感と選民意識を混ぜ込んで二千年以上かけて熟成した結果、両者はそんな極端な権威主義に縋って殺し合ってるって訳さ」
この階段を見ろよ、といなきは〝き〟に声をかける。
小隊が横列を組んで行進できそうな階段――その中央には緋毛氈の神道が敷かれている。
この階段の最深部にある九紫火門を越えた炎天垣(えんてんえん)に、王権の象徴たる神器と玉座である高御座が安置され、戦いの勝者はその道を征き、全てを得るとされる。
いなきは肩をすくめて、結びの言葉を加えた。
「さて、この戦いに決着がつくのかね。ついたとして、その時椅子と銅剣と鏡と勾玉以外に何か残ってるのか……」
地下の底の門の内に納まる神器が声を発し、その問いに答えるなどという事は無い。
〝き〟が声を上げる。
「あの、質問がありもふ」
「三度目だな」
「す、すみませむ。……その知識はどこで得たのですか? いなき様が今語った事は、ただの殺し屋が知っても害にしかならない、知るべきでない情報です。現に、わたしは忌役の基礎教養でそうした事を習いはしませんでした」
「その通り。誰にも喋るなよ。脳ミソ洗われて情報の出所探られて、二人仲良く死体になる」
「き、共犯ですね。えへへ」
「なんで嬉しそうなんだよ……この話はな、これから会う奴に聞いたんだ」
遮るものを間近にして、空気の流れが変わりつつある。第八門・八白土門が近付いているのだ。
手汗がやや滲むのを感じて、いなきは妹に最後の忠告をした。
「お前は数度顔を合わせた程度だから分からないだろうが、あれは本物の妖怪だ。毒を貰わないよう気をつけろ……」