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No.36842の一覧
[0] あやしや/いなき 六孫王暗殺篇【サイバーパンク剣戟】【完結済】[沖ハサム](2013/03/25 13:08)
[1] プロローグa/兄妹契約[沖ハサム](2013/02/28 20:26)
[2] プロローグb/殺(あや)し屋[沖ハサム](2013/02/28 20:27)
[3] 1a/仮想世界・八百八町[沖ハサム](2013/02/28 20:28)
[4] 1b/妖姫・鎚蜘蛛姫[沖ハサム](2013/02/28 20:28)
[5] 1c/三十六人衆[沖ハサム](2013/02/28 20:29)
[6] 1d/凶手[沖ハサム](2013/02/28 20:29)
[7] 1e/仮痴不癲[沖ハサム](2013/02/28 20:30)
[8] 1f/契約再認[沖ハサム](2013/02/28 20:30)
[9] 2a/芙蓉局[沖ハサム](2013/02/28 20:31)
[10] 2b/深川永代島[沖ハサム](2013/02/28 20:31)
[11] 2c/女帝[沖ハサム](2013/02/28 20:32)
[12] 2d/暗躍の方程式[沖ハサム](2013/02/28 20:33)
[13] 2e/御門八葉[沖ハサム](2013/02/28 20:33)
[14] 2f/好々爺[沖ハサム](2013/02/28 20:34)
[15] 2g/仇敵(師匠)[沖ハサム](2013/02/28 20:34)
[16] 2h/迷走[沖ハサム](2013/02/28 20:34)
[17] 2i/劫火[沖ハサム](2013/02/28 20:35)
[18] 2j/剛刀介者[沖ハサム](2013/02/28 20:35)
[19] 2k/復讐鬼[沖ハサム](2013/03/03 17:54)
[20] 3a/心の分解[沖ハサム](2013/03/01 20:17)
[21] 3b/戦姫[沖ハサム](2013/03/02 21:55)
[22] 3c/少年の矛盾[沖ハサム](2013/03/03 18:08)
[23] 3d/食人貴人[沖ハサム](2013/03/03 18:12)
[24] 3e/隠棲射手[沖ハサム](2013/03/03 18:23)
[25] 3f/転がる石たち[沖ハサム](2013/03/03 18:22)
[26] 3g/遭遇[沖ハサム](2013/03/05 11:48)
[27] 3h/鵺(キマイラ)[沖ハサム](2013/03/18 01:32)
[28] 3i/家族[沖ハサム](2013/03/09 00:42)
[29] 3j/最終戦、開始[沖ハサム](2013/03/15 21:46)
[30] 3k/貴種流離[沖ハサム](2013/03/16 06:40)
[31] 3l/決着[沖ハサム](2013/03/16 20:31)
[32] 3m/鬼哭啾々[沖ハサム](2013/03/17 18:20)
[33] エピローグa/離別[沖ハサム](2013/03/17 07:24)
[34] エピローグb/黄金の季節[沖ハサム](2013/03/17 14:53)
[35] そして[沖ハサム](2013/03/17 14:54)
[36] 後書き[沖ハサム](2013/03/18 01:24)
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[36842] エピローグb/黄金の季節
Name: 沖ハサム◆6fa9284d ID:9f69eaa0 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/03/17 14:53


                        【一年後 識与二五七年 十月】

 大地を、黄金が覆っていた。

 あのひとの故郷、かつて武州と呼ばれていた不可知領域で任務に就いて、一年余経つ。一年前は新しいねぐらと、何よりあの強力無比な妖魅(ヴァイラス)との戦いに慣れるのに手一杯だったが、今は非番に外出し、景観を楽しむ余裕も出て来た。

 十年前に住民が退去した村は取り潰され、今では大規模な耕作地帯となっている。農作業を行っているのは機械だ。八百八町市民の目から離れた不可知領域では、近世のままの科学技術で我慢する必要が無い。ここで行われ、八百八町本土を支える産業は完全にオートメーション化されている。武州に常駐するのは、侵略者と戦う兵士だけだ。

 ごうん、ごうんと一定のリズムで動作する無人のトラクターの他に人の姿は無く、いつきはただ、周囲を稲穂に囲まれている。視る事が出来なくても、その黄金の気配は感じられた。匂いがする。風が肌に触れ、耳に残響する。もう少ししたら、味を楽しむ事も出来るだろう。

 あのひとが住んでいた本庄領は存在すら抹消されたが、近隣のこの場所でなら空想する余地はある。この素朴で、ささやかな黄金の色彩はあのひとの髪の色そのものだった。佇めば景観に溶けてしまいそうな程に。
 懐かしさに、ほんの少し涙が出る。

 妖魅の侵攻は今小康状態で、兵士は暇を持て余すしかない。ほとんどが宿舎から出て無目的に散策している。しかしいつきの道行きには、目指す場所があった。
 人目に触れない所。普段から時間を潰している、あの丘の上が良い。



 農地を程近くに見下ろす丘に腰掛け、面を外して杖と一緒に脇に置く。いつきは届いた手紙に指で触れ、墨の配置から文字を読み取る。

『実は手紙を書くのは初めてで、四苦八苦、あるいは七転八倒しながら文面を考えています。笑ってもいいけれど、それは秘密にしていてね』

 姉は、そんな書き出しで手紙を書き連ねていた。表情からは分からない彼女の不器用さは、文面からなら明らかに露出するようだ。

『あなたの活躍は聞き及んでいます。でも、わたしにとってはあなたが無事である事が何より嬉しい。あ、父の事はどうでもいいので知りません。わたしがそう言っていたと彼に伝えておいて下さい』
「それは、それは」

 さぞかし蠱部尚武は苦しむ事だろう。最強の武神の苦心惨憺ぶりを空想しつつ独りごちて、いつきは笑う。
 半年前、いつきの口から姉と兄が祝言を挙げると(その当日に、との彼女の指示に従って)聞かされた際も、哀れに全力疾走して駆けつけていたものだ。

『半年前は、人づてにしか伝えられなくてごめんなさい。そちらへの文書の送付は難しく……いいえ、これは言い訳です。わたしは、誰よりも先にあなたにこの事を伝えたかったけれど、あなたに知られる事だけ、後ろめたかった。わたし自身の言葉を伝えた結果、あなたがどう思うかを考えて躊躇ってしまいました』
「はい」

 応える。この場所ですっかり彼女は、独り言が多くなってしまった。

『こうしていくらか積極的な事をしようと、決意したのにはきっかけがあります。その……先日、妊娠したとお医者様に言われました』
「……おめでとう、ございます」

 予想していた事だ。ほんの少しの苦みはあった、けれど。
 祝福の気持ちも、間違い無くあった。

『家族が一人増える。でも、だから。わたしと彼と、子供の作る輪の外側に、あなたを置いておきたくない』
「……」
『強欲で、恥知らずなお願いかも知れない。あなたに、苦しみを強いてしまうのでしょう。けれど、子供が産まれた時に、あなたが家族の輪の内にあって欲しい。六年前、それぞれひとりぼっちだったわたしたちが繋がれたように、もう一度。わたしと――彼は、それを望んでいる』

 その時には、気付いていた。姉が自分の抱える罪悪感を、遠回しに表現している理由も。彼女は一年前の自分の誓いを、未だに重んじてくれている。
 字に触れる指が震える。紙面に、涙が落ちてにじむ。
 素朴で、素直な筆遣い。文字を見れば、仏頂面の内の心が分かる。
 兄の字だった。

「――はい」

 黄金の風に包まれて、子供のように泣き笑いの顔で、いつきは手紙に応えた。


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