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No.36842の一覧
[0] あやしや/いなき 六孫王暗殺篇【サイバーパンク剣戟】【完結済】[沖ハサム](2013/03/25 13:08)
[1] プロローグa/兄妹契約[沖ハサム](2013/02/28 20:26)
[2] プロローグb/殺(あや)し屋[沖ハサム](2013/02/28 20:27)
[3] 1a/仮想世界・八百八町[沖ハサム](2013/02/28 20:28)
[4] 1b/妖姫・鎚蜘蛛姫[沖ハサム](2013/02/28 20:28)
[5] 1c/三十六人衆[沖ハサム](2013/02/28 20:29)
[6] 1d/凶手[沖ハサム](2013/02/28 20:29)
[7] 1e/仮痴不癲[沖ハサム](2013/02/28 20:30)
[8] 1f/契約再認[沖ハサム](2013/02/28 20:30)
[9] 2a/芙蓉局[沖ハサム](2013/02/28 20:31)
[10] 2b/深川永代島[沖ハサム](2013/02/28 20:31)
[11] 2c/女帝[沖ハサム](2013/02/28 20:32)
[12] 2d/暗躍の方程式[沖ハサム](2013/02/28 20:33)
[13] 2e/御門八葉[沖ハサム](2013/02/28 20:33)
[14] 2f/好々爺[沖ハサム](2013/02/28 20:34)
[15] 2g/仇敵(師匠)[沖ハサム](2013/02/28 20:34)
[16] 2h/迷走[沖ハサム](2013/02/28 20:34)
[17] 2i/劫火[沖ハサム](2013/02/28 20:35)
[18] 2j/剛刀介者[沖ハサム](2013/02/28 20:35)
[19] 2k/復讐鬼[沖ハサム](2013/03/03 17:54)
[20] 3a/心の分解[沖ハサム](2013/03/01 20:17)
[21] 3b/戦姫[沖ハサム](2013/03/02 21:55)
[22] 3c/少年の矛盾[沖ハサム](2013/03/03 18:08)
[23] 3d/食人貴人[沖ハサム](2013/03/03 18:12)
[24] 3e/隠棲射手[沖ハサム](2013/03/03 18:23)
[25] 3f/転がる石たち[沖ハサム](2013/03/03 18:22)
[26] 3g/遭遇[沖ハサム](2013/03/05 11:48)
[27] 3h/鵺(キマイラ)[沖ハサム](2013/03/18 01:32)
[28] 3i/家族[沖ハサム](2013/03/09 00:42)
[29] 3j/最終戦、開始[沖ハサム](2013/03/15 21:46)
[30] 3k/貴種流離[沖ハサム](2013/03/16 06:40)
[31] 3l/決着[沖ハサム](2013/03/16 20:31)
[32] 3m/鬼哭啾々[沖ハサム](2013/03/17 18:20)
[33] エピローグa/離別[沖ハサム](2013/03/17 07:24)
[34] エピローグb/黄金の季節[沖ハサム](2013/03/17 14:53)
[35] そして[沖ハサム](2013/03/17 14:54)
[36] 後書き[沖ハサム](2013/03/18 01:24)
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[36842] 1b/妖姫・鎚蜘蛛姫
Name: 沖ハサム◆6fa9284d ID:9f69eaa0 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/02/28 20:28
 戸を開けるなり霞の形をした暗闇が吹付けて来た――というのは過度の警戒から来る錯覚だろう。
 実際は逆で、外の照明の光が屋内に潜り込んで、暗がりはある程度物の輪郭の分かる安っぽいものになっている。それでも奥まった部分は判然としないが。地上の太陽光を光ファイバーで取り込むという採光方式のおかげで、こうして地下でも土竜気分を味わう事は無い。

 この程度の面積の部屋なら〝き〟にはその構造が瞬時に分かる。「ふあ」とうめいてもじもじしだした。その理由の方はいなきにも理解出来る。

「あ、あの……ちょっと待ちませんか?」
「そんな時間は無い」
「でも、そのぅ……」
「あのエロババアがまともな格好するのを待ってたら寿命が来るぞ。気にするな。ガキの裸見た程度で誰もどうにもならん」

 傍で聞けばどうにもちぐはぐとした物言いをして、壁伝いに歩み寄って鎧戸を開き光を入れる。
 殿舎の奥まった区画にある局の中身は、以前訪れた時と同じように無残な有様だった。規定の配置に納まっているのは火床(ほど)や鞴(ふいご)といった作り付けの器具程度で、他は爆心地のようにとっちらかっている。メモ書きは床に散乱しただけでは飽きたらず天井に糸で括って何枚も吊り下がり、机のフラスコとビーカーは中身の入ったまま転がっているものがある。机に欠けがあるのは以前誤って流れた薬品の混合液で溶解したせいだと言う。このままでは再度事故が起こる事は間違いなく、いなきはその場に自分が居合わせない事をいつも祈っている。

 初見でここを鍛冶師の工房と言い当てられるものは少ない。
 そして工房の主は、机に踵を引っ掛けて床に頭をつけるという奇抜な体勢で寝入っていた。
 机の位置はいなきの腰ほど。つまり、その程度の身丈の子供である。自分が鍛える鋼よりはずいぶんと上品な色彩の銀髪を至極いい加減にまとめて、仕立ての良い白い表衣(おもてぎぬ)を一枚引っ掛けただけの姿で、上に「翠玉板写本」と題を振られた冊子を被せた中身がたいそう下品ないびきをかいている。悪夢を見ているのか、いびきには時折苦しげな寝言が混じる。

「……ふやぁ……まさむねどん、おあしばきらんとってぇ……おいが悪かったけん……そら生ゆっばってん……」

 何か聞いてはいけない私事のようだったので、起床させる事にした。
 側頭部に全身全霊の十分の一程度の力で蹴り込むと、子供の頭はごぎりと鈍い音を立てて跳ね上がってからとても硬そうな石の床に落下し、数回バウンドして止まる。
 沈黙が三秒ほど続き、子供は突如として起き上がり大声を上げた。

「ぐああああああああ世界の真理に目覚めそうな程痛ぁいっ! そうか相対性理論は間違っていたのかそんな単純な数式が証明するとはニュートンのののシャイニングウィザードがががアインシュタインの延髄ににに突き刺さったぁああっ! ゆりーかっ! ゆりいいいいかっ!」

 おもしろおかしく騒いで観客二人をたっぷりと引かせてからこちらへ向き直る。

「……ん。いの字じゃん。相変わらず安っちーパツキンな」
「うるせえよ。おはよう」
「おう、おはよう。……あれ? なんか夢の中ですっげぇ~大事な事を思いついたはずなのに忘れっちった」
「ああ。あるある」
「なー。あるあるだよなー」

 けたけたと子供っぽく笑って、

「なんでいんの? おれちゃんおめーに用ねーよ?」
「ようやくお呆け遊ばされたかクソババア。俺の約束だ」
「いてっ、いててっ。いてーな馬鹿金バエ。つっつくんじゃねーよー」

 額を突くいなきの人差し指を、子供は小さな手でぱしぱし払う。
 それを無視して額に指をねじ込みつつ、いなきは恫喝した。

「今日が約束の日だ。お前のワガママ聞いて決行日当日まで待ったんだぞ。その言葉を洒落で済ます気は俺には無い」
「ちっ、脅し文句までちんぴらじみてきゃーがったなおめー。ったく、野暮天どもは口を開きゃ納期だの締め切りだの口からくせークソ垂れやがる。ヤスくてハヤくてウマいブツなんて簡単に言っちゃ口開けて待つだけなんだからよ。クソでも詰めときてーっての。この三つに得難いを足して神サマの名前になんだぞこれ。みだりに唱えるべからずって十戒にも書いてある」
「そのナリでクソクソ言うんじゃねぇ……! 品性の方はとうに廃棄処分してるみたいだな」
「くひひひひ。純情臭い童貞坊やの夢を叩き壊すのがくそばばーの楽しみってモンよ。――ってああ、こないだ捨てたんだっけ……うお、殺気立つんじゃねーよ。おっかねーなぁ」

 半秒待てば抜刀していた、という間を崩すように、どっちらけー、などと悪態を入れた子供は、
 逆にいなきを喰い殺さんばかりの気配を放射した。
 風の吹かない殿舎の中の大気が乱れ、偏った水分が各所に霧を生む。
 ――憑人の持つこの性質を〝障気〟と言う。仮想世界の物理現象を形作る演算処理を狂わし、エラーを発生させるデータの歪み。

 半秒待てば抜刀していたはずで、そうなれば取り返しの付かない所まで踏み込んでいた。
 足下を表衣で隠したまま、憑人の女は憤怒を露に言葉を放ってくる。

「おれを誰だと思ってやがる。肥前国は嬢子山(おみなやま)に跳梁跋扈、喰ろうた雄は数知れず、八十(やそ)の女郎鍛冶束ねる妖姫海松橿(みるかし)が嫡流。本名開祖に倣い字(あざな)は鎚蜘蛛(つちぐも)。金槌仕事で抜かりは無ぇ。おれが今日上がるっつったら今日以外にあり得ねぇんだよ。あんまナメた口利くなよ小僧。つい殺したくなっちゃうだろ……」

 鎚蜘蛛姫。
 南方を拠点としてかつて存在した憑人の一族の、おそらく最後の末裔は、謎に満ちた流浪の果てに宿敵の住処たる九重府に身を寄せている。
 大貴族五摂家の一流である一定家の男の側室として出仕したはずの彼女は、彼の死後、どうした手練手管の結果か雷穢忌役の専属刀匠の位置に納まっていた――
 くひ、と不意に鎚蜘蛛姫は弛緩した笑みを浮かべる。怒気も障気も四散して、周囲の霧が晴れていく。

「じょーだん、じょーだんだって。大事なじっけんどーぶつを傷物にするわけねーじゃん。――だから得物(こ)を制作者(おや)に向けんじゃねーよお姫様。それがおめーの流儀なんだろうけどよ」

 いなきの背後で、半秒も待たずに突きの打てる姿勢で〝き〟が杖を構えていた。
 彼女は氷点下の声音をいなきの肩越しに投げかける。

「……その侮辱も取り下げなさい」
「親殺しを侮辱と感じる感性はあったんだな」
「違います。それはただの事実に過ぎない。――兄はあなたの玩具ではありません」
「あーはいはいそっちね。わるぅござんした、いの字。……おい、早く許せ。殺されちゃうだろ」
「〝き〟、俺たちの目的にはまだこいつが必要だ」
「……」

 残心を数秒、その後に〝き〟は杖を己の足下に戻した。

「ったく、三日続きの徹夜仕事の報いがこの老人虐待たーなー。忠孝の徳は若者の宝だぜ?」

 するすると表衣を引き摺りながら部屋の奥に引っ込んで、外の光が染め残した暗闇から姿を見せぬまま、無造作に何かを放り投げてきた。
 大刀と小刀である事は受け止める前に分かった。鎚蜘蛛姫は外装から研磨までの制作を兼ねて行う為に、完全状態である。柄糸も鞘も白塗りの――とまで観察した時点で手の内に納まる。

 旧い大小を机に置き、入れ替えてから大刀を抜く。
 奇妙な刀、としか表現しようがない。理由は地肌にあった。

「黒い刀身。……いや、それだけじゃない。なんだこの模様は。板目肌……とも違う」

 年輪を圧縮したような歪んだ縞模様が全身に走っている。ただの鍛えの特徴とするにはあまりに奇形で、どこか呪術性を感じさせる。

「ニアミスだな。確かにその子にゃ相州古刀の血が混じってるよ。元々おれちゃんそっちで修行したクチだしな。郷義弘(ごうのよしひろ)って知ってっか?」

 鎚蜘蛛姫は中途半端に暗がりから出てきて、冊子の束を椅子にして座り込み軽口を叩く。

「ただ根っこが違う。前に言ったろ? おれちゃん生涯の研究テーマ、「作刀による人間史の探求」その成果の一つ――ダマスカス・ブレードだよ」
「……聞いた覚えが。しかし、それは」
「そう、失伝してる。鈞天垣の書庫の原本、データベース〝啓示の森林(アーラニヤカ)〟にも存在しない過去の記録。あの〝三十六歌仙〟の連中が使う身に過ぎたるの業(オーバーテクノロジー)とは真逆の、通り過ぎたるの業(ロストテクノロジー)。その再現に成功した。――ま、学術的価値なんざおめーらにゃどーでもよかろーが、デキの良さはお墨付きだぜ? 有史以来最も折れず曲がらずよく斬れるなんて妄想に近付いた鋼よ。模様のパターンである程度視覚を誤魔化す工夫もあるから、夜討ち朝駆け大好きなおまえさん向けだろ。粘りにクセがあるから使いながら覚えろよ」
「ああ。感謝する。脇差も同じか?」

 納刀して、もう一つ問いかける。

「小太刀」

 鎚蜘蛛姫は、なぜか言葉尻を捉えて反駁した。その手にはいつの間にか、交換した旧い差料が握られている。
 彼女の座る場所と机には距離があり、そして彼女が動いた形跡は無い。

「おれちゃんその脇差(サイドアーム)って言葉はおめーにゃ合わねーって思うわけ。それはこの子見て確信したよ。その子はそーゆー設計思想で産んでる。柄も両手持ち出来るよう延伸してるし刀身の重量もそれに合わせてやや重くしてる。脇差のつもりで扱うと具合わりーよ」
「……あのな、小刀なんて普通扱わないモンなんだよ。実戦で一寸の間合いの差を埋めるのにどれだけ技術がいると思うんだ」
「居付いてるぞ、おまえ」

 鎚蜘蛛姫の眼差しは、己の鍛えた剣のように鋭かった。

「たかが十八のガキが剣理を悟ったように語るんじゃねーよ。体用(たいゆう)を知り、無体(むたい)を知る――その言葉を履き違えんな」
「……俺はもう紫垣城の忌役の武官全員に勝ち越してる。殺した憑人の数は五十じゃ利かない」
「はっ、不可知領域の任から漏れた木っ端と血の薄れきった小僧っ子を何人ふっ飛ばした所で鼻紙程度の自慢にもなりゃしねーよ。典型的な井の中の蛙だなおめー」

 いなきの反論をあからさまな侮蔑で返しながら、鎚蜘蛛姫は言う。

「いーかクソガキ。おめーは蠱部尚武(まじべしょうぶ)じゃねぇ」

 ぎぃ、といなきの奥歯が鳴った――

「あの小僧が何を思ったか永代島の日帰り旅行に出かけてったのは十六の時だ。その時点で既にあいつは隔絶してた。おまえより二つ下だった蠱部尚武にとって、六孫王軍五千騎を出し抜いて六孫王と対面するのはただ現実的な発想だった。そしておまえが同じ事を思えばそれは夢想だ。夢想を現実に差し替えようとすれば、ただの粋がったガキとしておまえは死ぬだけだ。
 おれの刀(むすめ)を托す男にそんな不様は許さねぇ。宿題は出してやった。後はおまえ次第だ。死地でおまえの現実を変えるんだよ。命懸けで己を会得しろ」
「……うるせえよ」

 そっぽを向いて、不細工に忠告を受け流した。
 首を向けた先で、〝き〟がこちらの袖を引いて切なそうにしている。片手に鉄杖と義足を抱えて、

「わたしの武器は、前のと変わりません。あのひと、手抜きしてます」
「だってつまんねーんだもーん」

 鎚蜘蛛姫は足をばたばたさせる。なぜか背後の暗がりがわさわさと蠢いた。

「おれちゃんお姫様ちょーきらい。おめーにゃその辺の棒きれで十分じゃねーか」
「いなき様いなき様、なんだかなめられてる気がしますので、ちょっと焼きを入れてきていいですか」
「こえーこと言うなよー。そりゃ体格の変化に合わせただけだけど、ちゃんと工夫はしてんだぞ。仕込みの刀身はいの字の刀打つ時の余った鋼材で作ったんだ。精錬してねーから普通の鋼だけどな。どうだ? ツボだろ~? もゆるだろ~?」
「むっ! ……かなり、その、できますねあなた」
「なぁ……会話について行けないんだが」

 よく分からないじめっとした理解を交わす二人。今度は蚊帳の外に置かれたいなきが切なそうにする。

「ああ、忘れてた。もひとつ餞別だ」

 次いで暗がりから〝き〟に向けて放られたのは、武器の類では無かった。
 龍を模した仮面。

「あとで付け替えとけよ」
「なんです? これは」

 抱えた鉄杖で器用に面を引っ掛けつつ問いかける彼女に、鎚蜘蛛姫は悪戯を好む幼児めいた顔つきで言った。

「何事にも遊びを忘れるべからず。世を楽しむ秘訣だぜ。こいつをおまえが付けるってな、六孫王にとっちゃたいそうな皮肉なんだよ、斎姫(ときのひめ)」
「……それは捨てた名です。二度と口にしないで下さい」

 不機嫌そうに〝き〟が告げると、へいへいと手を振って、

「……ったくよぉ」

 鎚蜘蛛姫は気怠げな顔で、かいたあぐらに当てた肘で頬杖をつく。憎悪とも畏敬ともつかない色が瞳に宿っていた。

「おれの仕事が、こーやってモチベーション上げるくらいしかねーなんて……〝夔〟……隻脚の雷神ね……あのぶっ壊れかけたお姫様がよくも化けたモンだよ。――いや、あの時既に化けていたのかね?」
「……何が言いたいんだ?」
「欠落には神性が宿る、って事だよ」

 秘密(オカルト)に通じた仙人じみた物言い。

「こいつぁおれらにゃ当たり前の信仰でね。足萎えと隻眼は鍛冶神の象徴さ。天目一箇神(あまのひとつめのかみ)、一本踏鞴(いっぽんだたら)、ヘーパイストスとその弟子キュクロプス……これは焼けた鉄を直視する鍛冶師、鞴を足で操作する踏鞴師(たたらし)の職業病なんだがね。おれの脚と眼がいくつ残ってるか教えてやろうか?」

 ざわり、と鎚蜘蛛姫の背後の空間が蠢く。暗がりの奥に、かすかに紅玉めいた眼球が覗く。

「卵が先か鶏が先か、信心って奴は無理矢理順序を決めちまった。鍛冶師は歳月を投じて完全なる欠落に近付いてるって考えた。本来鍛冶(かぬち)ってのは神事(かむこと)なんだぜ? おれの着てるのは浄衣の白ってわけ。……こりゃ鍛冶に限った事じゃねーよ? 詩人にも同じ事が言える。琵琶法師、ホメロス……吟遊詩人のステレオタイプは盲人だぁな。神にしても同じ事で、アステカの夜の神テスカトリポカは右足と引替えに鰐の女神シパクトリを打倒して世界を創造した。マヤ神話の嵐の神フラカンもその意は〝一つ脚〟……北欧神話の主神オーディンも、片目を潰したり自前の槍で自分を貫いたり首くくったりとドマゾい拷問の末に魔術を得た。さてお姫様よ。おめーは残った左目まで潰してどんな魔術を得たんだ?」
「……」

 背後の気配が何かを答える様子は無い。
 代わりにいなきが返答する。

「おいこら、我田引水も大概にしろよ。お前の言ってる事と逆の伝承なんて山ほどあるだろう。ケルトのヌアザは腕、ギリシャのウラヌスは陰茎を切られて力と王権を失ってるじゃねぇか」
「ちっ」

 講釈に水を差されて、鎚蜘蛛姫は口を尖らせる。

「んだよー。年寄りの話は盲目的にありがたがって聞けよー。――っつーか、同じ事を蠱部のお嬢に言われたな。なに? 受け売り?」
「違いもふ」
「あっ、わたしの芸風取らないでくださいよぅ」
「芸風だったのかよ……」

 妹の抗議にげんなりといなきがうめいていると、鎚蜘蛛姫はぱんぱんと両手をはたいて、

「武装に関しちゃこれで全部だ。他の装備は自前のを使えよ」
「……もう一つの餞別は?」
「抜かりねーよ。〝仮痴不癲(かちふてん)〟には渡りを付けてる」

 言って、彼女は更に付け加えた。

「サービスに、おまえの抜かりを補ってもやる」
「?」
「もうそろそろかな」

 別に、その言葉を合図にした訳でもないだろうが。
 戸口の外から、からからと音が聞こえてくる。
 それは部屋の前で止まり、「よっこいしょ」というかけ声と共に扉を開けた。
 しずしずと入ってくる女。
 姿を見るまでもなく、足音と声で見当は付いていた。互いに身丈が今の三分の二ほどの頃から付き合いのある女だ。

 年月を経て体格の成長はあっても、武家の息女、という余人の共同幻想を練り固めるとこうした感じだろう、といった印象はついに変化が無かった。墨液(ぼくえき)を流したような直線的な黒髪に、切れ長の瞼の内にある黒瞳。夏場でも変わらぬ黒い小袖と同色の袋帯。汗をかかない、という訳では無いだろうがこの女が暑そうにしている所をいなきは見た事が無い。むしろ周囲に寒気を覚えさせる、雪原めいた地肌。完全なモノクロームで構成された容姿――

 そして、誰の幻想によってもこの女は出来上がらないであろうと思う。百人の想像する「武家の息女」は全てこの女と極めて似通い、そして決定的に相違する。抜けている画竜点睛は何かと、長年観察しても答えは出ない。女の容姿を一通り眺めて、今日もその試みに失敗した事を悟る。顔、衣服、手に持った台車に乗る鳳凰を模した水飴細工……
 ――いや、なんだよそれ。

「あやめ様あやめ様、なんですかそれは」

 妹が同じ疑問を言葉にする。
 ふ――と女はあるか無いかのような、どちらかと言えば「無い」に大きく傾いた薄い微笑みを浮かべる。

「遠足にはおやつがつきものでしょう? 故事に曰く、おやつは三百文まで。でも三百文って結構高いのよね。限度いっぱいまで使い切ったらこんな大物になってしまったわ」
「超かっこいいですっ。匠の技ですっ」

 妹は、今度は「別に限度いっぱいまで使い切る必要は無いだろう」といういなきの意見を代弁してはくれなかった。
 いなきは無言で、工房の刀架からとても重くてでかくてとげとげした金槌を拾い上げた。
 無言のまま、とても重くてでかくてとげとげした金槌を水飴細工に叩き付ける。
 きらきらとした透明な破片が宙に舞い上がる。無駄に美しい光景だった。
 女は無表情にそれを眺め、破片が全て床に落ちてからもしばしぼーっとしてから、

「ご挨拶ね、いなき君」
「こんなゴアイサツなら何度でもしてやるぞコラ」
「ああ……近頃とみにあなたの語彙が低俗化しているのを感じるわ。若さが暴走しているのね。わたしは気にしないわ。透明で割れやすいものと見れば殴りかからずにはいられない、歪んだ性癖を持て余す男子には相応の哀れみで接するのが当然なのだから」
「ぶっ飛ばすぞお前」

 割れた鳳凰の頭を突き出して腹話術風に語る女に、それを噛み砕きつつ脅しかける。

「……なんでここにいる」

 女は鳳凰の首をひとかけ上品に口に含み、「甘いわね」と言ってから、

「蜘蛛のおばさまに呼ばれたわ」
「……鎚蜘蛛! 裏切ったか!」

 肩越しに振り向き、責め立てる。今回の行動は秘密裏に行われなければならない。この時点で露見したならば確実に失敗する。

「ばーか。早とちりすんじゃねーよ。おまえの抜かりを補ってやるっつったろーが」

 鎚蜘蛛姫は恫喝を受け流して、

「当代六孫王大樹の暗殺――おまえはその難しさを理解してねぇ」
「それがなぜ、この女に秘密を明かして呼びつける事に繋がるんだ。親父はともかく、こいつは腕立て五回で息切れするような想像を絶する虚弱女だぞ」
「失礼ね。七回は出来るわ」

 背後の無意味な抗弁は無視する。
 鎚蜘蛛姫が言う。

「難しさの意味を履き違えてるぞ。おまえたちがなぜ忌役から隠れて行動を起こそうとしてるのか考えろ」

 最大最強の憑人・六孫王は、仮想世界の安定維持を存在理由とする雷穢忌役にとって究極の敵対者である。抹殺は至上の命題で、それを行う事は天理の保証する正義である――
 などと簡単に言える程、現在の八百八町の構造は単純ではない。
 彼の殺害は、九重府と六孫王府の戦争を前提とする。軍事行動による討伐か、暗殺を契機とする戦争――戦の中で殺すか、殺してから戦の二択しか無い。

 両者がそれを選べない事は歴史が証明している。史上、常備軍の衝突は最初の内乱と合わせて三度。どれも決定的な戦果の上がらないままに数ヶ月で終結している。理由は至極常識的なもので、兵糧が尽きた――兵站活動により経済が破綻しかけたからだ。

 いち都市程度の規模の八百八町は、既に戦争を完遂する能力を持たない。極論すれば、現在の両者の軍事行動は、武士という第二の貴族階級を扶養する為の経済活動に過ぎないのだ。それは九重府が実質上の予備役にあたる火付盗賊改方を編制した事が象徴している。
 反政府勢力の旗印である六孫王は、決定的に憎悪されながら、その実政府に存命を切望されている――

「それぐらい分かってる。だから機会を待ったんだろう」

 この状況に穴の空く時機が、一度だけ存在する。
 六孫王は自殺する。
 個人の身に余る憑物を抱える彼は、やがて自我すら障気に侵食され、理性を持たない怪物に成り果てて更に肥大化していく。行き着く先はシステムのダウンだ。
 その回避策として、彼は継嗣を産み、体制を持続する準備が完成した段階で自ら命を絶つ。それは〝大殯の儀〟という祭事として制度化されている。殯宮という祭殿に籠って最期の時までそこを出ない。

 この時点で彼が殺害された場合、それは確実に秘匿される。儀礼は滞り無く完成し、つつがなく体制が次世代に受け継がれた事を六孫王府が公式に表明する。――彼らもまた、現行の秩序に依って立つ存在であるが為に。

「抜かってんだよ」

 鎚蜘蛛姫はもう一度繰り返す。

「おまえらが京が一にもあのバケモンをぶち殺したとして、ここの貴族どもが凱旋パレードでも催してくれると思ってんのか? 既に存在しない土地の生まれのガキと、死んだはずの姫君。しかも公的な露出は一度も無い暗殺者と来てる。末端の暴走として始末して闇から闇へってのが一番簡単なシナリオじゃねーか」
「その程度、考えていないと思ったか……! 六孫王暗殺に成功するだけの実力は五摂家も無視しない。奴らは俺たちに利用価値を見出す」

 いなきの声には隠しきれない苛立ちがあった。

「どうせ抹殺するなら奴らに有益な死に方を用意するはずだ。俺たちは、不可知領域での妖魅防衛任務に派遣される」
「そう。――そこのお嬢の父親、蠱部尚武の膝元にな。国の仇を暗殺する機会。それがお前の、今回の行動によって得る見返りだ」

 彼のその苛立ちをあしらうように、にたり、と、毒のある微笑みを鎚蜘蛛姫は浮かべる。
 間近に佇む蠱部あやめは、無表情を崩しもしなかった。

「ただな、そりゃ分の悪い博打なんだよ。おめーは貴族って連中のケツの穴の小ささを知らねーの。シュロの箒を鬼に見立てて、枯れススキを幽霊と勘違いするやつらだ。てめーの立場を脅かしそうな存在を一秒だって許したくないんだよ。六孫王の暗殺ってのは、やつらにとっちゃ枕元で爆撃喰らったくらいのインパクトがある。そういう算盤勘定に沿った判断するアタマなんて宇宙の果てまでぶっ飛んでんだよ。――ただ、やつらは火事場でも理解出来る言葉を二つだけ持ってんの。権威と、権力な」

 つまり、政治的有効性を持つ逃げ口上が必要不可欠なの――と、鎚蜘蛛姫は結んだ。
 いなきは反駁する。

「こいつが、その逃げ口上とやらを用意してくれるとでも?」
「そーだよ。――知ってんだろ? 忌役の武官は、無条件に現場の貴族の指揮下に置かれる」

 確かに、綱領の序盤の方に記載されている。非正規任務の遂行者である雷穢忌役は、その秘匿性故に他の武官とのかち合いがしばしば起こる。その安全装置としての措置だ。しかし――

「昇殿資格を持つものに限って、だ。確かにこいつの住処は幽天垣(ゆうてんえん)の高級貴族専用の屋敷だがな、あれは蠱部尚武に拝領されたものであって」
「あれ、わたしのうちよ」

 蠱部あやめが口を挟んでくる。肩越しに突き出されたいなきの親指に人差し指をくっつけて、「いえてぃ」などと呟きつつ、

「あのめったに帰らない不良親父がそんなもの持っても無駄じゃないの。年に一度くらいのわたしとお父さんの交流は、わたしの屋敷の一番下等な客間に逗留する彼に冷や飯を与える事から始まるのよ」
「なんだよその鶏の序列みたいな殺伐とした親子関係は……」

 引き気味に顔をしかめるいなき。

「――あー、つまりだな」

 鎚蜘蛛姫は、蠱部あやめを指さして、

「そこのお嬢様は、正真正銘の殿上人。位階従五位上の貴族サマなんだよ」
「はぁっ?」

 いなきは、素っ頓狂な声を上げる。

「蠱部尚武の表の身分は正五位下の検非違使(けびいし)大尉だろ!? なんで蔭位(※七光り)で親父とほぼ同じ位階持ってるんだよ! そもそも奴は堂上家の出自じゃない。特例の叙位なのに娘に便宜出来る訳が……」
「相変わらずお父さんの情報はなんでも把握してるわね。四十がらみの中年男に異常な興味を示す十八の少年。ちょっと気持ち悪いわ」
「うるせえ!」
「じゃあ、ちょっとエロいわ」
「エロくもない! その歪んだ目線を今すぐ正せ!」
「……そ、その、わたしも今のは、ちょっとエロいと思いました」
「なー。ちょっとエロいよなー」
「黙れ女共ぉおおおお!」

 全方位に向かって怒鳴りつけると、鎚蜘蛛姫に「まぁ、それは置いといて」と話題を逸らされた。

「んなこたどーでもよかろーに。とにかく、おめーの目的を叶えるにゃ貴族サマの監督……っつーか、おめーらが貴族の行動に随伴するって名目がねーとダメなの。その点じゃあやめのお嬢以上に適当な人材はねーわけ。なにせ忌役の武官の頂点である武神蠱部尚武の娘だからな。なにも言わんでも貴族連中はそこに意味を見出す。お嬢が実際には将校教育なんてなーんも受けてねーただの箱入り娘でもな。シュロの箒を鬼に見立てるように、ってやつだ。――だからお嬢を連れて行け。なんか文句あっか?」
「あるに決まってるだろう……! 足手まといだ!」
「その足手まといを連れて行くのが大前提なんだよ」
「別に連れ歩く必要は無いだろう。ここで指示を受けたって事にすれば、」
「この制度で認められてるのは現場指揮権までなの。行動期間中、一日ニ三度以上、アルイハ一刻以上ノ接触ヲ要ス、って規定されてる」
「なら、紫垣城にいなければいいだろう。どこかに逗留させて、」
「コトの後はおめーら揃って七日間、十人以上の担当者と仲良く査問パーティだ。んなちゃちーアリバイ工作なんてケツ拭く紙ほどの役にも立たねーよ」
「……っ」
「打ち止めか?」

 女郎蜘蛛めいた老獪な憑人の女が言う通り、もう用意できる言葉が無い。彼女は嬲るような笑みを浮かべている。
 それから逃げるように、背後を向く。

「おい、こいつにどう言いくるめられてるのか知らないが、考え直せ。お嬢様はいつも通り家で大人しく本でも読んでろ」
「嫌よ」

 一言だった。

「分かってるのか? 俺たちはこれから、敵しかいない場所に行くんだぞ」
「あなたの敵は、わたしの敵ではないもの」
「出くわす深川武士の中にその言葉を受け入れる奴がいればいいがな。自分が殺されないとでも思ってるのか?」
「あなたは生き残るつもりなんでしょう?」
「お前を生き残らせる為に力を割くゆとりは無い」
「ほら、あなたも自分が死なないと思ってる。死を思え、なんて小利口な事考える必要無いのよ。人間死ぬ瞬間まで自分は死なないと思って生きるものだし」
「屁理屈をこねるな! ……聞いてただろうが。俺は、お前の父親を殺す機会を得る為に戦うんだぞ」
「好きにすればいいじゃない?」
「俺に奴を殺す力が無いとでも思ってるのか?」
「前々から思ってたのだけど、なんでみんなそうやってあの宿六親父をすごいすごいと褒め讃えるのかしら。あの人、自分じゃ下穿きの洗濯もおぼつかないのに」
「……お前、もしかして親父の事嫌いなのか?」
「別に。……まぁ、死んだら悲しいとは思うわ。それでも、それはあなたとお父さんの問題」
「相っ変わらず理解しがたい思考回路してるなお前は」
「そう? あなたよりは単純明快であると自負しているのだけれど」
「――痴話ゲンカじみてきてんぞおめーら」

 鎚蜘蛛姫の水入りで言い争いは中断した。あやめの肩越しでは、〝き〟が杖をかかえておろおろとしている。
 見苦しい、とばかりに憑人の女は嘆息した。

「青っくせーんだよ。巻き添え作りたかねーなんてよ」
「……この女は何も関係ない」
「かっ、救いようが無ぇな。反吐の出る思い違いだぜ」

 蔑みに反射的に言い返す前に、鎚蜘蛛姫は言葉を重ねて封殺する。

「他人様に迷惑かけたかねーってんなら、こんなクソ溜めじみた世界に生まれてくんじゃねーよ。お袋の胎ん中で臍の緒使って首括ってろ。何よりもおまえの道は、無関係の人間をゴミのように殺し尽くす屍山血河よ。――おまえはもう童貞捨て(人殺し)てんだ。今更人を冥府に退ける事を恥じてんじゃねぇ」
「……っ」
「その点、おめーよりお姫様のがよほど分かってんよ。――ほら、トドメ差してやれ」
「……」

 呼びかけられた〝き〟は無言のまま、
 仮面が隠そうとも理解出来る冷徹な声を出した。

「いなき様。彼女の言う事が正しいです」
「お前……っ!」
「これ以上だだをこねるようであれば、あなたを連れてはいけません。そもそも、わたし一人であれば保身を図る必要などそもそも無いのですから。――わたしの目的は今回遂げられます。先の道は不要です」

 退路を断つような口調だった。
 何も言えずにいる内に、目の前の蠱部あやめが言葉を挟んでくる。

「勘違いをしているようだけど」

 暗幕のような瞳。そこに何かを読み取れた事は無い。

「わたしが行くのは、わたしの目的ゆえによ。あなたがわたしの道行きに付いてくる、そういう事よ」

 後方で茶化すように、鎚蜘蛛姫が喝采を上げる。

「女三人相手に男が一人。勝ち目ねーよな色男」
「……お前ら全員地獄に堕ちろ」

 いなきが苦し紛れにどうにか絞り出した恨み言は、いかにも負け犬じみていた。

「話はついたな。切り火はいるか?」
「いいえ。代わりに一つだけ質問を許してもらえるかしら、おばさま」

 会話の主導権まで奪い取って、あやめが鎚蜘蛛姫に言った。

「まだあんのかよ。松尾芭蕉みてーに鹿島立ちにだらだら前置きすんのが趣味か?」
「ゆっくり行くものは確実に行く、と言うわ。――あなたがここまで至れり尽くせり手を焼いてくれる理由は何かしら? ああ、前置きを簡略化する為に申し置いておくけれど、ただの善意だなんてこのいなき君ですら誤魔化しおおせないのであしからず」
「……どういう意味だ」

 いなきの漏らす不平は完全に聞き逃され――本当に主導権を取られた――、あやめは九重府一の怪人の返答を待っている。
 鎚蜘蛛姫は語り出す。

「未那元とは因縁浅からぬ仲でね。未那元頼光(よりみつ)の都知久母退治ってなそこのいの字にも語った事だが、それまでおれらの一族は、頼光の親父の二代目六孫王満仲(みつなか)と密約を結んでた。京の政争の旗色が悪くなったんで、おれらはトカゲの尻尾みたいに切り離されたんだよ」

 数百年に渡る孤独な放浪の日々で練り固められた、屈辱と憎悪を滲ませて、

「やつらは一族の怨敵。正直、百ぺん殺しても飽きたらねーよ。元はといや、九重府(ここ)の厄介になったのも復仇を期してだ。それを果たしてくれるなら股開こうがどうしようが」
「――おばさま、人間じみた物言いをするのは止めてもらえるかしら」

 刺すように、あやめは告げた。
 ――くひ、と鎚蜘蛛姫は嗤う。

「ホント、怖ぇのな」

 毒気を解放するように、幼児じみた容姿の妖姫は語る。

「確かに、おれちゃんが興味あんのは刀(子)の生産、それだけよ。殺(ヤ)るのがウマい相手ならどんなやつのヨメに出してもいい。忌役を嫁ぎ先に選んだのは、こいつらのがヤり口が丁寧だからってだけさ。憑人ってな力任せでイケねぇ。――安心しなよ。おれのアガリはひとりヨガりさ。おめーらがどこで死んでも詳細な報告が上がってくるよう手配してるってだけ。おれぁそのデータで刀(むすめ)のデキを知る。次の作刀(生殖)に活かす為に。だから、安心して死んでこい」
「そう。ならば、わたしはこの子たちを生かす事にするわ」

 蠱部あやめは。
 武術の心得一つ持たない、何ら武力を有しない女は確信を込めてそう言った。

「そうかい。なら、やってみろよ」

 鎚蜘蛛姫は、その挑戦を、真剣に受けたかのように応じた。


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