陸士399部隊・管轄区域・上空。
「ポイント03で傀儡兵を確認! ポイント01から救援要請!」
「ポイント01に急行する! 03はその後だ!」
上空で旋回中のヘリの中、アスベルの報告を聞きつつ、オレはすぐに向かう場所を決める。
当初は連携を取りつつ、全体を管轄していた三人の尉官だったが、自分の持ち場の攻勢が強くなると、後手後手に回り、余裕が無くなって全体の指揮は不可能になっていた。
唯一、全体を把握できる本部隊舎も指揮できる人間が居ない為、情報の中継地としか役立っていない。
オレも遊撃としてあちこちに行かなければ行けない為、現在、各防衛ポイントは孤立しつつあった。しかも、各ポイントへの救援はこちらに一任されている。オレが判断を誤るとたちまちポイントが危機に陥る。
正直、プレッシャーにやられそうだ。毎回、こんなプレッシャーと戦ってるのか、はやては。改めて、尊敬し直した。
救いと言えるのは、アスベルがしっかりとヘリを操縦しつつ、報告をまとめたり、傀儡兵の侵入状況をチェックしたりとマルチに活躍してくれてる事だ。
「ヴァリアント! 後何時間くらいだ!?」
『今は二時過ぎだから、後三時間くらいだろうな。救援要請の間隔が狭まってる。このままじゃ』
「保たせる! それが今のオレの役割だ!」
「陸曹! ポイント01に到着!」
アスベルの言葉を聞いたと同時に、オレは後部ハッチを確認する。すぐにハッチが開いて、いつでも行ける体勢になる。
走ってヘリから飛び降りると、空中でバリアジャケットを展開する。
「ヴァリアント! 一気に片付ける!」
『魔力は節約しろよ。相棒以外に傀儡兵に決定打を当てられる魔導師は居ないんだからな』
「善処するさ!」
夜の大通りに着地すると、同時に街の中心部に向かおうとしている傀儡兵へ向かって走る。
魔力の消費を考えれば、ミーティア・ムーヴはできるだけ控えにないと行けない。
そうなると。
「ヴァリアント!」
『ミーティア・アクション』
動作加速されている為、ミーティア・アクションの発動中で走ったり、飛んだりするのは普通の身体能力強化より断然速い。
移動距離も移動の速さもミーティア・ムーヴの方が断然上だが、使い勝手の良さはミーティア・アクションの方が上だ。
赤い鎧の傀儡兵の剣を掻い潜ると、左右のフォルダーからグラディウスを抜いて、右のグラディウスで結晶を狙う。
傀儡兵の左手に付いている盾がそれを邪魔するが、それは予想通り。
右のグラディウスが盾に抑えられている間に、左のグラディウスで結晶を貫く。
そのまま横を通り過ぎて、他の傀儡兵に向かう。
399部隊の魔導師たちの消耗は激しく、既に満足に防御魔法を張れなくなっているモノもいる為、防御魔法で進行を完全に止めるのではなく、足止めをながらの遅滞戦に戦術が変更されている。
その為、傀儡兵が分散していてやりづらい。文句は言ってられないが。
密集している時は連携をまともに取らせずに倒す事が出来たが。
「ちっ!」
盾を前面に構えた傀儡兵がオレに突っ込んでくる。視界が盾で塞がれる。
両手のグラディウスを交差させて盾を受け止めるが、安心は出来ない。このあと、何かを仕掛けて来るはずだ。
『相棒! 上だ!!』
ヴァリアントの言葉を聞いて、咄嗟に力を抜いて、後ろへ下がる。
突っ込んできた傀儡兵の後ろから傀儡兵がジャンプして、剣を振り下ろしてきた。ちょうど、盾を構えている傀儡兵を飛び越える形だ。さっきまでオレが居た場所に剣が突き刺さる。
今のはヤバかった。反応が遅れてたら直撃だったぞ。
連携を取られる前に各個撃破するつもりだったけど、そう簡単には行かないか。
『残りは六体。囲まれたな。学習してるみたいだぜ』
「共有情報でも持ってるんだろうな。前に使用した事が効きづらくなってる」
大通りのあちこちに399部隊の魔導師が居るが、援護は期待出来ないし、必要ないと伝えてある。オレを援護する力があるなら、一秒でも傀儡兵を止める事に使ってもらわないと困る。
姿が見えるのは二体だけだが、近くの建物の陰からは機械独特の駆動音がしている。ヴァリアントの言葉通り、囲まれているらしい。
どうするべきか。
いや、考えるまでもないか。魔力は節約しなきゃだが、ここで時間を掛ける訳にはいかない。
「シュヴァンツ!」
オレは両手を広げて、その場で一回転した。
手から伸びたシュヴァンツがそれに合わせて周囲を切り裂く。
オレの目の前に居た二体には飛んで避けられたが、建物の陰に潜んでいた傀儡兵は倒した感触があった。
『二体は倒したが、あとの二体は結晶を破壊出来てないぞ!』
オレは建物の陰から飛び出して来た二体を迎え撃つ。
両方共、首から上を失っている。だが、こちらに真っ直ぐ向かってくる。頭部は大して意味のない部位みたいだな。
「首を落としても動くなんて、随分理不尽だな!」
『機械だからな。だから安心して徹底的に破壊しろ!』
「分かってる!」
左右から振られる剣をグラディウスで受け止める。
「グラディウス・モード2!!」
グラディウスのリミッターを解除して圧縮率を上げる。
瞬時に圧縮率の上がった魔力刃は傀儡兵の剣を切り裂く。剣を失った傀儡兵は盾をオレに向かって突き出すが、オレは盾を無視して突く。何体も倒してきたから結晶の位置は把握している。
盾を貫いた左右のグラディウスは正確に二体の傀儡兵の結晶を破壊する。
グラディウスを抜くと同時にオレは駆け出す。
『陸曹! ポイント03から救援要請です!』
「すぐに行く!」
アスベルからの音声通信にそう答えつつ、オレは残りの二体に集中する。
もう魔力の消費を気にして一体一体、相手をしている暇はない。
「ミーティア・ムーヴ!」
『ギア・セカンド』
「シュヴァンツ!」
『テール・オブ・コメット』
二体の傀儡兵の間を駆け抜ける。グラディウスを警戒して、盾を構えたまま、オレを追う。
しかし、本命はそれじゃない。
横を駆け抜けたオレに盾を向けた為、傀儡兵の後ろはがら空きだ。
後ろから遅れてきたシュヴァンツが傀儡兵を両断する。しっかり結晶を破壊する軌道に調整している為、結晶の破壊は確認するまでもない。
「アスベル。こっちは終わった。低空飛行で来てくれ。飛び乗る」
『了解です。そのまま大通りに居てください』
あともう少し、ここが踏ん張りどころで、意地の見せ所だ。
「頼むぞ……できるだけ早めに片付けてくれよ」
◆◆◆
陸士399部隊管轄区域外・南。
さっきから探知魔法に全く反応がないのはなんでや。絶対、ここにあるはずやのに。
「全く反応がないなんて……。稼働してないにしてもおかしいですよね?」
「せやね。他の部隊が捜査した時にも見つけられんかった理由が何かあるんやろ……」
頭を働かせる。手詰まりになった時はまず考える事が大切。
定石や常識に囚われたらあかん。犯罪者はこっちのそう言う考えの裏を突いてくるんや。
捜査の定石は探知魔法。私ら魔導師の常識は探知魔法ならどんなモノでも見つけられる。
けど、その常識が破られていたら。探知魔法が効かない、または欺かれる何かがあったとしたら。
どうやって探せばいいんや。
「空から見てるのに、何にも見えないですぅ。違法研究施設を破壊した部隊もここは空から探知魔法で探したとありますし、この方法じゃ駄目なんでしょうか」
「空から……?」
私は下を見る。
木々が生い茂り、道も通っていない森が広がっている。下に降りるのは困難で、探知魔法を使うのは当然、空からで。
待ってや。
何で、ここだけこんなに木が生い茂ってるんや。ミッド南方部は植物が育ちにくい土地柄や。他の場所と比べると、ここは異常や。
「リイン! 下に降りるで!!」
「えっ!? はやてちゃん!?」
降下するポイントを見つけられへんけど、かまってられへん。
木の枝に構わず、無理矢理地面に降りる。
周囲を見渡す。一見、普通の森のように見えるけど。
「地面に立っただけでこれだけ魔力を感じるなんて……理由はこの木やな」
「凄い魔力を感じるですよ! この木が魔力を吸ってる?」
「遺伝子操作で、魔力を栄養として成長する植物を作る事ができるって聞いた事あるけど……まさかそれで魔力反応を漏れないようにするなんて、随分と頭の回る犯罪者が居たもんやな」
「この下が魔力炉ですかね?」
リインの言葉に頷く。魔力反応の大きさから見て、森の下にあるのは間違いないけど、問題はどれだけ深い位置にあるかやな。余剰魔力だけでも相当ある見たいやけど、それだけじゃ正確な位置はわからへん。
「深ささえ分かれば、ここから魔法で破壊するんやけど……」
「どこかに通路があるかもしれないです。探して」
「その心配は要らんようや」
地面が大きく震える。
何かが稼働し始めたんや。ここで何かは考えるまでもないけれど。
私はすぐに探知魔法を発動させる。感覚で大体の位置は分かっとるけど、確実に位置を特定せなあかん。
探知の結果はすぐにわかった。ここから百メートル下に魔力炉がある。ご丁寧に魔力バリアまで張ってある。今は好都合やけど。
「リイン! 魔力炉を魔法で破壊する訳には行かんから」
「魔力炉までの障害を除いて、凍らせる作戦で行くですね!」
「せや! 行くで、ユニゾン」
「イン!」
私とリインがそう言って、掛け声を揃えると、私は光に包まれる。
その中でリインと私は同化して、私の髪は銀色に変わり、容姿がリインの影響を受ける。
ユニゾン完了と同時に私は上空へ舞い上がる。迎撃に傀儡兵が出てきたりしたら厄介や。街の状況も気になる。早う終わらせんと。
ある程度、空に上がると、私は眼下の森にシュベルトクロイツの先を向ける。
「出力は抑え目や。魔力バリアを突破したら、大惨事やしな」
『はいですぅ。コントロールは私に任せてください!』
「頼んだで。ほな、終わらせるで!!」
私の足元に三角形のベルカ式魔法陣が浮かび上がる。
威力が調整できて、そこまで効果範囲の広くない魔法となると、私の選択はぐっと狭められる。とは言え、私のレアスキル・蒐集行使があれば、今まで蒐集した魔法は使えるから、そこまで苦労はせんけど。
高威力の中距離砲撃。
それで森と地面と魔力バリアを破壊する。遺伝子操作されたとは言え、しっかり育った木には申し訳ないけど、私の行動に多くの人の命が掛かっとる。自然を破壊するのは嫌やなんて言ってる場合やない。
シュベルトクロイツの先端に魔力が溜まる。
『はやてちゃん!』
リインからの合図が来る。
シュベルトクロイツを持つ手に力を込める。
「行くで! バルムンク!!」
シュベルトクロイツから放たれた直射型の砲撃が森へ向かって走る。
木を容赦なくなぎ倒して、地面を抉る。
魔力炉まで一直線に進む。せやけど魔力バリアに阻まれる。少しずつ魔法の威力を上げていく。
『思ったよりバリアが固いです。これ以上、出力を上げると』
「魔力炉に負荷が掛かりすぎる……!」
魔力炉の規模を考えれば、負荷がかかっての暴走が起きたら、大惨事の可能性もある。
ここら辺は人が居ない場所やから、人命的には問題はないけど、魔力炉を暴走させて、大規模な爆発を起こせば、その責任は問われる。
せっかく、色々うまく言っとるのに、付け入る隙を与える訳には行かへん。
行かへんけど。
「リイン! 出力を上げる! 暴走が始まるかもしれへんけど、氷結魔法でその前に封印や!」
『でも、失敗したら!』
「失敗したらそこまでや! 今、私の行動に、友達の命が、部隊の人たちの命が掛かっとる! 夢も未来も大切やけど、目の前の事がどうにもできひん人間にそんなもん無意味や!!」
私の言葉にリインが応えてくれる。魔法の出力が上がる。ここからはちょっと博打や。
掛けるんは私のキャリア局員としての道。みんなが協力してくれる夢。
安くはないけど、誰かの命を助けたくて、願った夢の為に誰かの命を失う訳には行かへん。
魔力バリアが崩壊して、砲撃が魔力炉に直撃する。
一気に魔力炉から発せられる魔力が増大した。暴走や。
しゃーない。ここからは時間と運の勝負や。
「仄白き雪の王、銀の翼以て、眼下の大地を白銀に染めよ。来よ、氷結の息吹」
『アーテム・デス・アイセス!!』
どんどん魔力が膨れ上がっている魔力炉に向かって、私は掲げたシュベルトクロイツを振り下ろした。
私の周りに生成された四個の立方体が、暴走し、今にも爆発しそうな魔力炉に向かって飛んでいった。