新暦75年5月13日。
クラナガン・湾岸地区。
陸士110部隊の管轄区域にある湾岸地区の空き倉庫で不自然なほどに厳重に結界で封印された倉庫が発見された。
明らかに様子がおかしいため、第一分隊が倉庫の持ち主を調べれば架空の人物であることが判明した。
そして架空の人物による登録を理由に倉庫を分隊員が開けようとしたのだが、開ける事ができず、隊舎で待機していたオレが呼ばれる事になった。
「すまないな」
「気にしないでください。結界を壊せばいいんですか?」
「いや、鍵を中心に魔法が組まれているから、鍵を壊してくれ」
そう言った第一分隊の隊員が指差したのは今時のクラナガンでは珍しい古いタイプの鍵だった。
「ヴァリアント。どれくらいで壊せる?」
『グラディウスのモード2じゃ怪しいな。モード3を使うべきだ』
「そんなにか……」
そう呟きつつ、オレは倉庫に取り付けられている鍵の前に立つ。
右のフォルダーから引き抜いたグラディウスを正眼に構えると、精神を集中する。モード3の魔力消費は激しい。安定させるにはかなり集中力がいる。
「グラディウス・モード3!!」
グラディウスの蒼い魔力刃が一瞬で爆発的に膨れ上がる。
魔力が急激に持っていかれるが、歯を食いしばって耐える。
すぐに膨れ上がり、拡散してしまいそうな魔力を徐々に圧縮していく。
ある程度魔力刃が安定させた所でグラディウスを大きく上へ振りかぶってから思いっきり振り下ろす。
「くっ!!」
結界と魔力刃が衝突し合ってかなり眩しい光を発する。
時間にして五秒ほど。
それだけの時間がかかってようやく鍵を破壊する事ができた。
結界を破壊した後は拍子抜けするほどあっさり開いた倉庫に肩透かしをくらっていたが、中を覗いて、その考えは吹っ飛ぶ。
「人が居る!」
オレはすぐに薄暗い部屋の中に入る。
中では三人の人間が縄で縛られており、暴行を受けた後もあった。
そしてなにより驚いたのが。
「管理局の制服……」
三人とも地上部隊の茶色の制服を着ていた。
二人は意識が無かったが、一人は意識があった。
「り、陸士156部隊……ロナルド陸曹……です……」
「陸士110部隊のリアナード陸曹長です。何があったんですか?」
「さ、三人で休暇中にクラナガンに来ている所を襲われました……。陸曹長……あいつらは私たちに幻術で変身しています……。私は見ました……。あの青い目の男が魔法で私に変身したんです……」
青い目の男、幻術。この二つのキーワードに当てはまる男をオレは一人知っている。
「局員IDを。照合します」
陸曹が切れ切れながら、局員IDを呟く。
ヴァリアントにすぐに照合させる。その間に第一分隊の隊員がオレの所までくる。
「特別捜査一課が来た。本部の命令でこの場を預かるそうだ……」
「ここはオレたち110部隊の管轄ですよ!? どう言うつもりなんだ……?」
『相棒。照合完了だ。ここに居る陸曹は本人で間違いない。それでだ。現在、その陸曹は普通に任務についてる』
そいつが偽物か。
局員への成りすましとはやってくれる。アトスかどうかはわからないが、すぐに知らせなければ。
ここを第一分隊の隊員に任せると、オレは倉庫の外へ出る。
倉庫の外では壮年の男性、第一分隊の分隊長と。
「セシリア……?」
後ろに数人の部下を引き連れたセシリアが言い争いをしていた。どちらかと言えば、第一分隊の分隊長が怒鳴っているだけにも見えるが。
「どうかしましたか?」
「リアナード曹長か。こいつらがこの現場の指揮権とこの場に居る全員の身柄を預かると言っているんだ!」
分隊長がセシリアをきつく睨む。
セシリアはどれを全く意に介さず、いくつかのデータを分隊長に示す。
「本部直属の命令書です。局員への成りすましの可能性が疑われる以上、この場の人間を全員調べます。当然、外部への連絡も禁止させていただきます」
「ちょっと待て! 倉庫に居た局員のIDを照合したら、本人だった。そして、そいつと全く同じ奴がそいつの部隊に居る。どちらかが偽物だ。せめてその部隊への連絡を許可してくれ」
「駄目です。これは決定事項です。もしも無断で連絡するような事をした場合、連絡を受けた人間も命令違反と見なすので、判断は慎重に。リアナード陸曹長」
一体何なんだ。
特別捜査一課が出てくる意味も、この場で情報を遮断する意味も理解できない。しかもセシリアは地上本部の直属の命令書まで持っている。
局員へのなりすましは重罪だ。素早く手を打たなければ管理局の汚点となりかねない。
「ここに居る人間を足止めして何を企んでいる?」
「心外ね。私は命令に従っているだけよ。カイト」
セシリアに小声でそう聞くが、きっぱりと返されてしまう。
取り付く島がない。
仕方なしにオレはセシリアから離れる。
『相棒。ちょっとヤバイぞ。機動六課が出動してる』
「なに? どこにだ?」
『陸士156部隊の管轄区域だ』
細い糸がつながった気がした。
機動六課か、それに関連する何かの為に、アトスが動いた。そして、情報をここで遮断する為にアトスの雇い主が特別捜査一課を動かした。
色々穴だらけだが、そうであれば繋がる。
最初の任務で失敗すれば機動六課への風当たりも強くなるだろう。
幾らアトスたちとは言え、あれだけのメンツが揃っている状況じゃはやてには手を出せない。できるだけ早めに解散させたいはずだ。
「アトスが動き出したなら……時間切れと言う事か」
『かもな。向こうは動いた。相棒はどうする?』
「どうするたって……外部に連絡が取れない以上、アスベルも呼べないし……しょうがない、少し風に当たろう」
オレはそう言って湾岸地区の端へ歩いていく。
途中で特別捜査一課の人間に呼び止められるが、風に当たるだけだと言って無理を通す。
階級がオレの方が上だから無理が通ったが、すぐにセシリアが来るだろう。
目の前には海がある。
「海か……。ヴァリアント」
『今日はやけに頭が回るな。ひとつだけ無理なくアスベルを呼べる方法がある。アスベルさえ来れば、後はどうにでもなるだろうよ』
「しかし、どうであれ減給は免れないだろうな」
『しょうがないだろうさ。いざとなったら部隊長たちが守ってくれる。相棒は今、信じる最善をするべきだ』
ヴァリアントに背中を押されて、オレは苦笑しつつ、周りに誰もいないのを確認して海へと飛び込む。
そして、海の中でバリアジャケットを装備して、すぐにミーティア・ムーヴを使用する。
バリアジャケットの強度をいつもより高めて、水の抵抗に何とか耐える。
何度かムーヴで移動してからはアクションへと切り替え、高速で泳ぐ。
ある程度進み、岸からかなり離れた所でオレはヴァリアントに110部隊の本部隊舎に救難信号を出させる。
これですぐにアスベルが来るだろう。なにせ、隊舎でいつでも出動できるように待機しているのだから。バリアジャケットを解除して、海に漂いながらオレは今か今かと空を見上げて、アスベルが来るのを待った。
それから数分で救難信号を辿ってきたアスベルが操縦するヘリが来る。
海面近くまで下がってきた機体に自力で這い上がる。
「一体、何をしたいんですか? カイトさん?」
『アスベル! 魔力が乱れてる! 各種バイタルも異常だ!』
ヴァリアントの言葉にアスベルがパイロット席から顔を出しながらポカンとしている。
今、自力でヘリに這い上がってきたオレは見る限りじゃ全く異常はない。見ればだが。
『どうしたアスベル! 見てわからないのか!?』
オレがジェスチャーで合わせるように伝えると、アスベルははっとした様子で頷く。
「司令室。リアナード陸曹長の容態が悪化。繰り返す、リアナード陸曹長の容態が悪化! すぐに病院へ搬送する!」
『普通の病院じゃ駄目だ! 聖王医療院へ向かえ!』
「了解! これよりデバイスの判断を尊重し、聖王医療院へリアナード陸曹長を搬送します!」
そう言ってアスベルはヘリの高度を上げて、聖王医療院へ向かって飛ぶ。
首都を離れた辺りでオレは大きく息を吐いて、アスベルへ礼を言う。
「悪いな。アスベル」
「いえ。一体、どうしたんです?」
「何も聞くな。とりあえず、進路上にリニアレールの線路があるな? そこでオレを下ろせ」
「……了解しました。部隊長や補佐官にはなんと?」
「悪い癖が出たと言っておけ」
「了解です」
オレの言葉にアスベルが笑いながら答える。これでアスベルは最悪な事にはならないだろう。
いざとなったら責任をオレにかぶせる事ができる筈だ。
水に濡れたせいで制服がかなり重いし、体もだるい。
とは言え、そうも言ってられない。
既に命令違反と言われて反論できないことをしてしまっている。
行動した以上、結果を出さなければならない。
例えどんな理由が向こうにあろうと、オレにだって譲れないモノがある。
せっかくスタートしたはやての、なのはの、テスタロッサ執務官の、みんなの夢の部隊だ。こんな所で終わらせる訳にはいかない。
◆◆◆
「線路を進んでいけば機動六課の現場にすぐ着きます。先ほどリニアレールは停止したそうで、残存敵戦力もないようです。今は現地の部隊へ引き継ぎを行う段階です」
「わかった。それだけわかれば十分だ。上空で待機しててくれ。事が終わったら聖王医療院に行かなくちゃだからな」
「そうですね……。カイトさん。お気を付けて」
「ああ」
短くそう答えてオレはヘリから飛び降りる。
バリアジャケットを装備して、濡れた制服とはおさらばする。
「さて行くか」
『無理するなよ? 怪我すると本当に聖王医療院行きは嘘じゃなくなるぞ?』
「分かってるさ」
着地した線路の上でそう呟き、思考を完全に切り替える。
もしも幻術で変身しているのがアトスだとしたら、本気でやらなければならない。
「ミーティア・ムーヴ!」
『ギア・セカンド』
ギア・セカンドで線路の上を駆け抜ける。
ここから通信で教えてやりたいが、セシリアの言葉が本当なら、機動六課に無用な隙を与えかねない。
最善は偽物が何かする前に見つける事だがベストだが。
「そうそう上手くは行かないよなぁ……」
『アトスじゃないなら高町の嬢ちゃんが居るんだ。相棒が行く必要はないが、もしも本当にアトスなら、能力限定を掛けられてちゃ高町の嬢ちゃんでも分が悪い。それに』
「アトスの幻術は見抜けない。不意を突かれたらなのはでもヤバイ」
目的がわからない以上、何とも言えない。
言えないが、オレの中の何かが警笛を鳴らしてる。
視界に止まっている車両の後部が入ってくる。
『ミーティア・アクション』
ミーティア・ムーヴを解除して、ミーティア・アクションへ切り替える。
線路を蹴って車両の上へ登る。
どこだ。
見渡しても車両には誰もいない。
『相棒! 下だ!』
下。
言われて崖の下を見れば、局員たちが動き回っている。
「ヴァリアント! さっきの陸曹を探せ!」
『やってる!』
オレも必死に下を見る。しかし、いかんせん距離がありすぎる。
サーチャーを飛ばせばバレてしまうだろう。ここまで来て逃げられれば、オレがただ命令違反をしただけになってしまう。
機動六課に実害は無いが、陸士110部隊が機動六課に肩入れしづらくなってしまう。やはりベストは捕まえる事。
『居たぞ! あのヘリに乗ろうとしている奴だ!』
見つけた。
青い髪の女の子とツインテールの女の子、そしてなのはと一緒にヘリに乗り込もうとしている奴は、クラナガンで見た陸曹と同じ顔だ。
ヘリの近くには意識が無かった残りの二人と同じ顔の奴も居る。
三人、先程までクラナガンの倉庫に捕まっていた局員と同じ顔の人間が居る。
『ヘリの中で襲撃されたら高町の嬢ちゃんでもヤバイぞ! 急げ! 相棒!』
「全開だ! ヴァリアント! ミーティア・ムーヴ!!」
『ギア・サード』
車両から飛び降りると同時にギア・サードを発動させる。
昔、使っていたミーティアと同程度の性能を発揮できるのがギア・サードだ。完全にリミッターを外した状態で、オレの最速の状態だ。
途中でせり出た大きめの岩を蹴って、ヘリに向かって方向を変える。
ヘリの前でなのはがオレに気づいたのか立ち止まる。同時にケースを持っている青い髪の女の子とツインテールの女の子も不思議そうに動きを止める。
しかし、気づいたのはなのは達だけじゃない。
だが、完全加速状態のミーティアならこんな距離はないに等しい。
陸曹と同じ顔を持った男がケースに向かって手を伸ばす。
同時にヘリの近くに居た二人も動き出す。
二人の幻術が解けて、数年を経て変わっているが見覚えがある二人の顔が浮かび上がる。
「アラミス! ポルトス!」
しかし、二人よりもオレの方が速い。
ケースに手を伸ばしている男に向かって、オレは迷わず左右のフォルダーから引き抜いたグラディウスで斬りかかる。
「アトス!!」
ミーティアの加速スピードに男は反応し、オレの左右のグラディウスを受け止めて見せた。
魔道書とマインゴーシュで。
「君はいつもいつも私にとって悪いタイミングで登場するな?」
「それはオレにとって良いタイミングだ!」
「なのはさん!?」
青い髪の女の子の声が上がる。
おそらくアラミスとポルトスがなのはに攻撃したのだろう。
確認はしたいが、今、アトスから目を離すのは自殺行為だ。
「確認しないのかね? 友人なのだろう?」
「エースオブエースを舐めるな。オレの心配なんか必要な奴じゃない!!」
グラディウスで左右からの連撃を繰り出す。
アトスとの戦いで気を付けなければいけないのは、主導権を渡さない事。
そして幻術に注意する事。
言葉や行動で巧みに誘導され、いつの間にかあの時は幻術と入れ替わられていた。
「グラディウス・モード2!!」
『ミーティア・アクション』
マインゴーシュと魔道書に力負けして弾かれる為、グラディウスのモードを上げ、更にアクションを加える。
モード2にしたグラディウスの攻撃も難なくアトスは受け止めるが、今度は弾かれない。これなら。
「強くなったな。リアナード君」
「お前に負けたからな!」
隙を見て放った右のグラディウスによる突きをアトスは寸前で避ける。
剣の腕が上がったからこそわかる。
こいつは魔法がなくても強い。
速度で上回っているのに全く当たらない。フェイントは見透かされ、気づけばこちらが誘導されている。
アトスの背後に移動して斬りかかる。
アトスが何かを呟くと、背後に何重ものシールドが生まれる。
あの時はこの多重シールドを破ろうとして失敗した。
「同じ手を食らうか!」
オレは斬りかかる動作を止めて、バックステップでアトスから距離を取る。
予想外の動きにアトスが僅かに隙を見せる。
あの時には無かった中距離攻撃法が今のオレにはある。
「シュヴァンツ!」
左手から飛び出した白い鎖がアトスに巻き付く。
捕まえた。
オレは右手のグラディウスだけモード3へ移行させる。
ミーティア・ムーヴ・ギアサードとグラディウスモード3。今できる最高の攻撃だ。
これで。
シュヴァンツで縛っている以上、幻術でも逃げられないだろう。
アトスの肩から腹部に掛けて、グラディウスの魔力刃が切り裂くのを見て、オレは歯を食いしばる。
腹部に熱が走る。
やはりシュヴァンツで縛ったアトスで幻術か。質量を持った幻術なんて聞いた事はないが、今はそんなことは関係ない。
マインゴーシュは実体だ。腹部の痛みがそうだと教えてくれる。
「……捕まえたぞ」
「なっ!?」
マインゴーシュが引き抜かれる前に左手のグラディウスを後ろへ突き出す。
確かに肉を裂いた感触がオレの腕に伝わる。だが。
浅い。しかも貫く気だったのに裂いた感触が伝わってきた。
つまり。
『避けた!?』
オレの腹部からマインゴーシュが引き抜かれる。
血が喉を通って口にあふれてくる。臓器を傷つけられたか。
足から力が抜けて膝が地面につく。
「相変わらずどう言う精神をしているのか疑いたくなるな、君は」
後ろを振り向けばアトスが横腹を手で押さえて顔を顰めている。
血は赤い。こいつもやはり人間か。幻術で躱されすぎて、実は人間ではないんじゃないかと疑っていたが、どうやらそれはないらしい。
「お前も人間なんだな……」
「何を今更……」
「血が通った人間なら、不死身じゃないなら……倒せないって事はないだろ?」
ふらつきながら膝を地面から離して立ち上がる。
視界の端になのはが戦っているのが映る。流石になのはでも能力限定を受けた状態でアラミスとポルトスの相手はキツイか。
多分、テスタロッサ執務官も居る筈だ。少しの時間でいい。
アトスを食い止めれば状況は変わる。
「その傷で動くか……。変わらないな」
「……人間、それほど簡単には変わらないさ……」
「なるほど。随分と成長していた驚いたよ。正直予想外だ。なので今日は失礼させてもらおう」
アトスはそう言うと、魔道書をオレに向ける。
その先に魔法陣が浮かび上がる。
これは砲撃か。それとも違うなにかか。
「……砲撃でオレを仕留めても、逃げられないぞ?」
「君じゃない」
そう言うとアトスはそう言うといきなり魔道書を青い髪の女の子とツインテールの女の子へと向けた。
しまった。
そう思い、動こうとするが、傷のせいで上手くミーティア・ムーヴが発動できない。
視界の先、なのはが空から急速で降りてくる。アラミスやポルトスが追わない所を見れば、なのはをクギ付けにするための砲撃か。
アトスの魔道書から灰色の砲撃が放たれる。
なのはがそれをシールドで受け止めた為、光でアトスたちの姿が隠れる。
「ヴァリアント……分析!」
『追跡じゃなくてか!? 幻術!? 結界!?』
ヴァリアントが急いでアトスが発動する魔法を分析に掛かる。
もうアトスを捕まえる事は不可能だ。なら、次の一手に活かせる事をしなければ。
謎の逃走手段を解明しなくては、奴らは捕まえられない。
砲撃が止んだ時にはアトスたちはその場には居なかった。
「逃げられたか……」
「カイト!」
後ろからテスタロッサ執務官の声が聞こえる。ちょっと遅い。いや、しょうがないか。部下や近くに居た局員の混乱をどうにかしてから来たんだろう。
また血が喉をせり上がってくる。我慢できずに吐き出す。
今回は容赦がなかったな。
「大丈夫!?」
「何とか……。腹を刺されただけです……」
「それは大丈夫じゃないよ!」
テスタロッサ執務官がオレの傷を応急処置をしていく。
痛みで意識が遠のきそうになるが、何とか堪える。
ここで意識を失う訳にはいかない。
「ヴァリアント……どうだった……?」
『調べて見なきゃわからんが。幻術と結界を発動させたのはわかった』
「……やっぱりアトスの幻術が鍵か……」
「喋らないで!」
テスタロッサ執務官に注意されてオレは押し黙る。喋ってないと意識が飛びそうなんだが。
「カイト君……」
「……新人は無事……?」
「うん……。ありがとう……」
「……そっか。……それなら来た甲斐があったな……」
近寄ってきたなのはそう言った後、薄れる意識をつなぎ止められず、オレの意識はゆっくり暗闇に降りていった。