陸士110部隊第二分隊の構成は、まず最前線に立つフロントアタッカーであるアウル先輩。
アウル先輩は敵に突っ込んでいき、相手の陣形を崩し、狙いを自分に向けるスタンダードなフロントアタッカーだ。デタラメだが。
アウル先輩のデバイスは先が円柱型になっているメイス。長さは一メートル超で、オレよりも背の小さいアウル先輩には見た目的に不釣合いなアームドデバイスだ。あくまで見た目であって、魔法の処理やサポートより頑丈さを求めた筋金入りの武器は、アウル先輩の性格をよく表している。
アウル先輩はガジェット・ドローンに突っ込むや否や、迫り来るケーブルを両手で持ったメイスのひと振りで弾き飛ばす。弾き飛ばされたケーブルで無事なモノは無い。よくて破損、悪ければ引きちぎれている。
アウル先輩は敵の中央で、メイスをひたすら振り続ける。メイスが間に合わない攻撃は、シールド系の魔法で受け止める。
オレのガラティーンでも、砲撃魔法級の魔力を込めなければならないほど強固なシールドだ。例えAMF下だろうと、ガジェット・ドローンの攻撃程度なら完全に防げる防御力を持っている。
とは言え、シールドは一方向。全方位をカバー出来るタイプのプロテクションを使えればベストだが、全方位で防御力を維持したまま使用できるのは、この第二班じゃ分隊長だけだ。
シールドを掻い潜り、アウル先輩に複数のケーブルが襲いかかる。
しかし、すべてのケーブルが飛んできた魔力弾に弾かれる。
魔力弾を放ったのはマッシュ先輩。この班のセンターガードだ。
マッシュ先輩のデバイスは紫色の杖型のストレージデバイスで、アウル先輩のデバイスのような外見的特徴は一切ない。管理局の魔導師が一番よく使う魔導師の杖だ。
しかし、中身はかなり弄られてるらしく、かなり処理速度が早い。その理由は、マッシュ先輩が異常に射撃魔法の連射が早いからだ。そのスピードに見合うように調整された杖から放たれる魔法弾は精密かつ早い。
先程の魔力弾も、数発を同じ機動で連射し、最初の魔力弾が消されてる間にAMFを突破させると言う擬似的に多重弾殻射撃魔法を再現した離れ業で、ある意味、多重弾殻射撃魔法よりも難しいかもしれない。
前線のアウル先輩をマッシュ先輩が援護しているが、流石の二人でも十体のガジェット・ドローンの相手は難しい。
オレは右腰のフォルダーに入れてあるカーテナに触れる。
魔力の消費が激しい為、ガラティーンの常時展開は厳しい。AMF下では本当にオレの行動は狭められる。
だからといって、後ろで見ている訳にもいかない。
そう思ったオレに、分隊長が指示を出す。
「一番遠くに居る二体を縛る。あんまり長くはもたないから手早く斬れよ!」
「了解!」
オレは言われた通り、位置的に一番遠くに居る二体に向かって走り出す。
AMFの影響と蓄積されたダメージや疲労でスピードは出ないが、今回に関してはスピードは要らない。オレに求められているのは近づいて、確実に破壊する事だ。
狙いを定めた二体がオレに接近するが、その動きは途中で止まる。
二体は複数の緑色の鎖に拘束されていた。分隊長のチェーン・バインドだ。
分隊長もマッシュ先輩と同じく基本的な杖型のストレージデバイスを使うが、分隊長は射撃魔法よりバインドやプロテクションを多様するため、それ用にカスタムされている。
AMF下であっても、分隊長のバインドはしっかりとガジェット・ドローンを縛り付けている。
オレはそれらが完全に効力を失う前に、カーテナを抜き、ガラティーンを発動させる。そして、走る勢いを止めずに一体を袈裟斬りで、もう一体を横に薙ぎ払う事で破壊する。
特化型のオレとアウル先輩、射撃魔法には秀でているけれど、指揮官タイプではないマッシュ先輩。このメンバーで班を組めているのも、フルバックのポジションに何でもできる分隊長が居るからだ。
この隊のバランサーである分隊長は指示を出し、機を見計らってバインドで拘束し、味方が危なければプロテクションを、優勢ならば砲撃魔法でカタを付ける事ができる。
そして、オレはウィングガード。
求められるのは回避能力と移動能力。そして、マッシュ先輩や分隊長に近づく相手を一撃で落とせる攻撃力。
条件は満たしているが、オレがウィングガードの役割を担っているのは消去法だ。
他の三人は固定で、空いていたのがウィングガードと言うのもあるが、三人に比べて技術的にも、経験的にも、なにより単純な実力でも劣っているから、オレは空いているウィングガードに居る。
足手まといではないつもりだが、戦力的にプラスかと言われると疑問だ。
なにせ、オレが110部隊に入る前は、三人は変則三人分隊で動いていた。そして、自分達より高ランクな魔導師である犯罪者を幾人も逮捕している。
ここ最近、短時間での勝負に持ち込めば、一対一なら勝てるかもとか思っていたが、おそらく勝てない。というか、オレの得意な戦法には持っていけない。
三人は自分の得意な戦法での戦い方を心得ているが、それ以上に、相手の得意な戦法に持ち込ませない、入らないと言う事を徹底している。
まだまだ及ばない。
そう思いつつ、オレは分隊長の次の指示に従って動いた。
◆◆◆
十体のガジェット・ドローンを掃討したオレ達、陸士110部隊第二分隊は、後ろに居る部隊長から未だに市民の避難誘導が終わっていないのと、港湾地区の別の場所にガジェット・ドローンが現れた事を聞かされた。
四人全員が渋い顔をする。
後ろの動きが遅いのは職員の数や質的にしょうがないが、そろそろ航空魔導師は来てもいい頃だ。
遅すぎる。
スクランブルはとうの昔に掛かっている筈だ。
流石に初動が遅いでは片付けられない。何かあったとしか思えない。
しかし、例え何かあったとしても、それはここでオレ達が考えても仕方ない事だ。
別の場所にガジェット・ドローンが現れたのなら、止めに行くしかない。来ない人間、居ない人間をあてにしてもどうしようもないし、何より、現状、止められるのはオレ達しかいない。
それはこの分隊、四人全員が分かっていた。
デバイスで位置情報を確認し、ガジェット・ドローンの新手を食い止める為に移動しようとした時、大きな爆発と瞬間的な光が少し離れた所の空中で起きた。
その爆発は見覚えがあった。高威力の砲撃魔法と砲撃魔法が衝突する起きるモノだ。ここまで大きいモノは見た事はないが。
その場所は少し前までオレが居た場所だ。そして、今も八神捜査官が戦っている場所だ。
心の何処かで、八神捜査官なら苦戦しないと思っていた。心配する等、八神捜査官を軽く見る事に繋がると思っていた。
けれど。
「威力が互角だったんだろうな。そうじゃなきゃあんな中途半端な所で爆発は起きない」
分隊長の言葉がオレの不安を煽る。
相手は騎士の筈。
大規模、高威力の魔法を得意とする八神捜査官と互角の砲撃魔法かそれに準じる魔法を放てるのだろうか。
八神捜査官の守護騎士、古代ベルカの騎士であるヴォルケンリッターならば可能だろう。それ以外の騎士となると厳しい気がする。元々、騎士は近、中距離が得意な距離だ。
並みの騎士では不可能だ。
となると、考えられるのは二つ。
八神捜査官がヴォルケンリッター級の騎士と戦っているか、それとも。
「増援……」
ベルカの騎士に、八神捜査官と撃ち合えるほどの魔導師。
最悪だ。
どっちにしろ最悪だ。
オレはヴァリアントが示したガジェット・ドローンの新手の位置を見る。
八神捜査官が居る位置とは離れすぎている。
ガジェット・ドローンを相手にした後、八神捜査官を援護しに行くのでは、かなり時間が掛かる。
もしも押されている状況ならば、その時間は致命的になりかねない。
再度、先ほどのような爆発が起きる。
分隊長は既に、ガジェット・ドローンの方へ向かおうとしている。
分隊長について行くべきなのは分かっている。
幾ら、オレが他の三人より弱いといっても、ガジェット・ドローンとの連戦をオレ無しで行うのはきつい筈。
八神捜査官も心配だが、そうは言っても、彼女は管理局にひと握りしか居ないオーバーSランクの魔導師だ。優先すべきは分隊だ。実力的に見てもそうだし、ガジェット・ドローンが市街地に入る可能性を考えれば、大局的に見ても、分隊を優先すべきだ。
そんな事は分かっている。分かっているが。
「分隊長……オレは……八神捜査官の援護に向かいます」
オレは口から出る言葉を止められなかった。
知っているのだ。オレは。
八神はやてと言う少女が、年相応に表情を変化させる事を。
オレは知ってしまっている。
八神はやては、オレと同い年の少女なのだと。
特別捜査官。一等陸尉。オーバーSランク。夜天の王。
その全てである前に、オレの秘密を聞いてしまっただけで泣き出しそうになる少女なのだ。
「許可すると思うか?」
「許可はいりません。オレの任務は八神捜査官のサポートです。その任務内容には護衛も含まれていますし、なにより」
オレは言葉を切る。
これを言ってしまうと、後々、問題を抱え込む事になってしまう。
分隊行動を妨げたと言えなくもないからだ。
だが、それでも。
「分隊から独立しての個別任務は継続中です。オレは元の任務に戻らせて頂きます」
オレは、はやてさんが危険な可能性があるなら、見捨ててはおけない。
オレは敬礼をすると、分隊長やマッシュ先輩の引き止めも聞かずに走り出す。
後ろからアウル先輩が苛立った声を掛けてくる。
「カイト! 無茶してもいいが、死ぬな! 目覚めが悪くなる!」
あの人なりに心配してくれてるらしい。
オレは走りながら笑みを浮かべ、振り返らずに右手を上げる事で、アウル先輩に応えた。