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No.3690の一覧
[0] リリカル in wonder 無印五話 挿絵追加[角煮(挿絵:由家)](2009/04/14 12:06)
[1] 一話[角煮](2008/08/02 22:00)
[2] 二話[角煮](2008/08/02 22:03)
[3] 三話[角煮](2008/08/02 22:06)
[4] 四話[角煮](2008/08/02 22:11)
[5] 五話[角煮](2009/04/14 12:05)
[6] 六話[角煮](2008/08/05 19:55)
[7] 七話[角煮](2008/08/21 04:16)
[8] 八話[角煮](2008/08/21 04:26)
[9] 九話[角煮](2008/09/03 12:19)
[10] 十話[角煮](2008/09/03 12:20)
[11] 十一話[角煮](2008/09/03 20:26)
[12] 十二話[角煮](2008/09/04 21:56)
[13] 十三話[角煮](2008/09/04 23:29)
[14] 十四話[角煮](2008/09/08 17:15)
[15] 十五話[角煮](2008/09/08 19:26)
[16] 十六話[角煮](2008/09/13 00:34)
[17] 十七話[角煮](2008/09/14 00:01)
[18] 閑話1[角煮](2008/09/18 22:30)
[19] 閑話2[角煮](2008/09/18 22:31)
[20] 閑話3[角煮](2008/09/19 01:56)
[21] 閑話4[角煮](2008/10/10 01:25)
[22] 閑話からA,sへ[角煮](2008/09/19 00:17)
[23] 一話[角煮](2008/09/23 13:49)
[24] 二話[角煮](2008/09/21 21:15)
[25] 三話[角煮](2008/09/25 00:20)
[26] 四話[角煮](2008/09/25 00:19)
[27] 五話[角煮](2008/09/25 00:21)
[28] 六話[角煮](2008/09/25 00:44)
[29] 七話[角煮](2008/10/03 02:55)
[30] 八話[角煮](2008/10/03 03:07)
[31] 九話[角煮](2008/10/07 01:02)
[32] 十話[角煮](2008/10/03 03:15)
[33] 十一話[角煮](2008/10/10 01:29)
[34] 十二話[角煮](2008/10/07 01:03)
[35] 十三話[角煮](2008/10/10 01:24)
[36] 十四話[角煮](2008/10/21 20:12)
[37] 十五話[角煮](2008/10/21 20:11)
[38] 十六話[角煮](2008/10/21 22:06)
[39] 十七話[角煮](2008/10/25 05:57)
[40] 十八話[角煮](2008/11/01 19:50)
[41] 十九話[角煮](2008/11/01 19:47)
[42] 後日談1[角煮](2008/12/17 13:11)
[43] 後日談2 挿絵有り[角煮](2009/03/30 21:58)
[44] 閑話5[角煮](2008/11/09 18:55)
[45] 閑話6[角煮](2008/11/09 18:58)
[46] 閑話7[角煮](2008/11/12 02:02)
[47] 空白期 一話[角煮](2008/11/16 23:48)
[48] 空白期 二話[角煮](2008/11/22 12:06)
[49] 空白期 三話[角煮](2008/11/26 04:43)
[50] 空白期 四話[角煮](2008/12/06 03:29)
[51] 空白期 五話[角煮](2008/12/06 04:37)
[52] 空白期 六話[角煮](2008/12/17 13:14)
[53] 空白期 七話[角煮](2008/12/29 22:12)
[54] 空白期 八話[角煮](2008/12/29 22:14)
[55] 空白期 九話[角煮](2009/01/26 03:59)
[56] 空白期 十話[角煮](2009/02/07 23:54)
[57] 空白期 後日談[角煮](2009/02/04 15:25)
[58] クリスマスな話 はやて編[角煮](2009/02/04 15:35)
[59] 正月な話    なのは編[角煮](2009/02/07 23:52)
[60] 閑話8[角煮](2009/02/04 15:26)
[61] IFな終わり その一[角煮](2009/02/11 02:24)
[62] IFな終わり その二[角煮](2009/02/11 02:55)
[63] IFな終わり その三[角煮](2009/02/16 22:09)
[64] バレンタインな話 フェイト編[角煮](2009/03/07 02:27)
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[3690] 十四話
Name: 角煮◆904d8c10 ID:63584101 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/09/08 17:15
「フェイトちゃん!」

迫り来るフォトンランサーを防ぎ、なのははこちらを睨み付けてくる少女に叫びを上げる。

バリアジャケットは既にボロボロ。

バルディッシュはどういうことかデバイスコアを中心に罅が走り、綺麗だと思えた肌も髪も、煤で汚れている。

……なんでそんなになってまで戦うの?

なのはは、それが知りたかった。

ジュエルシードを奪い合ってきた時からの疑問。なのはもなのはで無茶をしていたが、フェイトのそれは彼女を上回るほどだった。

あんなに傷付いて、それでも諦めないのは何故?

分からない。目の前にいる金色の少女がそれを教えてくれることはなく、返答の代わりに魔法が飛んでくる。

……これじゃ駄目だ。私、フェイトちゃんのこと何も知らない。

だから――

「ねぇ、フェイトちゃん! 話し合おうよ! こんなことをしなくたって良い方法がきっとある!
 みんなで考えよう? 一人で抱え込むなんて、駄目だよ!」

「……今更、だよ」

「え?」

「もうすぐ終わるんだ。だからもう、立ち止まれない。だから――!」

カートリッジロード。

一度の炸裂を行い、フェイトはデバイスフォームのバルディッシュを向けてくる。

それに対して、なのはもバスターモードのレイジングハートを構える。

「サンダー……」

「ディバイン――」

同時に砲撃魔法のトリガーワードを詠唱し、

「スマッシャー!」

「バスター!」

金色と桜色の魔力光がぶつかり合う。

轟音が大気を震わせ、光が瞬く。

以前ならば打ち勝てたのに、今は互角。これはやはりカートリッジの有無が原因か――

「フェイトちゃん、駄目だよ! カートリッジを使ってたら――」

「う――わああああああ!」

カートリッジロード。

それで金色の砲撃は勢いを増し、ディバインバスターを真っ向から打ち砕く。

常勝無敗の砲撃魔法が破られた――

目を見開くも、なのははカートリッジが使用されたのを見て、ディバインバスターを維持しつつ術式を構築していた。

『Flash Move』

直撃よりも刹那早く、彼女は高速移動で被弾を避ける。

ディバインバスターを打ち破られたショックで呆然としそうになるが、彼女は頭を振って我に返った。

……戦闘中に呆けていたら良いカモだよ。

そんなエスティマの言葉を思い出し、クロスファイアを発動。

計十二個の魔力弾が生み出され、その内四つをフェイトへと向かわせる。

クロスファイアの使い方。

この魔法はディバインシューターと違い、魔力弾を待機状態として維持することが出来る。

それが牽制にもなるから余裕があるときは悪くない手だ、とエスティマが言っていた。

それに従い、なのはは誘導弾が防がれ、もしくは切り払われたら順次待機状態のクロスファイアを発射。

待機状態と言っても魔法を発動しているのだ。汗が、頬を伝う。

……けど、無理をしなきゃ。

レイジングハートを握る手に力を込め、なのははゆっくりとフェイトから距離を取る。

それは通常移動速度と比べたら酷く遅い。

だがそれでも、動きを止めているよりは良いはずだ。

少しでも背伸びをしなければ、今のフェイトに勝つことはできない。

あの子だってカートリッジという背伸びをしているのだから、私だって――

一つ壊されたら発射。それを繰り返している内に、フェイトの動きが目に見えて鈍ってきた。

そして、誘導弾の一発がフェイトを弾き飛ばすと同時、

「お願い、レイジングハート!」

『Convergence』

なのはの希望を汲み取り、レイジングハートが四つの誘導弾を集束する。

……それは、エスティマならば射撃魔法となっていただろう。

だが、この高町なのはならば違う。

集束系魔法に希有な才能を持っている彼女ならば――

集った桜色の魔力光は極太の光柱となり、轟音を伴って発射され、体勢を崩したフェイトを打ちのめす。

ディバインバスターに威力は及ばないが、しかし、並の魔導師では防ぎようのない砲撃だ。

だが――

『……De――fen――sor Pl……』

一度の炸裂音。

ひび割れたような音声と共に、障壁が展開された。

強化されたディフェンサー。だが、それを持ってしても、なのはの砲撃を無力化するには至らない。

威力は殺しても衝撃を緩和することが出来ず、バリアごとフェイトは後ろへと追いやられる。

……距離を取っては駄目。

そう歯噛みし、

「クロスファイア!」

『Convergence』

「シュート!」

なのはの手元に残っていた最後の三つが集束し、放たれる。

駄目押し――!

今度こそディフェンサープラスを砕かれ、フェイトは中空に身を投げ出した。

魔力ダメージが突き刺さり、意識が明滅する。

今にも手綱を手放しそうで、急速に周囲が暗くなってゆく。

手足に痺れにも似た感覚が走り、もう駄目かな、と弱音すら湧いてくる。

……だが。

「……まだ、始まってもいないんだ。
 そうだよね、バルディッシュ」

『――si r』

負けるわけにはいかない。

まだ私の幸せは、始まってもいないのだ。

……だから、まだ戦う。戦える。

そうだ。こんな所で躓くわけにはいかない。いられない。

カートリッジロードを命じ、炸裂音が一回。

上乗せされた魔力を使い、フェイトはソニックムーヴを発動した。

胸が痛い。手はバルディッシュを握るので精一杯で、きっと地面に降りたら立てないぐらい足に力は入っていないだろう。

けど、そんな状態でも出来ることはある。

目の前の少女を足止めするぐらい、こんな私でもできるはずだ。

「ああぁぁぁああああぁ!」

突撃する慣性をそのままに、サイズフォームへと変形させたバルディッシュを叩き付ける。

魔力刃で切り裂くなど、すでに考えていない。

ただ力任せに叩き伏せる。それだけを考えて繰り出された一撃は、確かになのはへと打ち込まれた。

袈裟に走ったそれは、鎖骨の辺りに切っ先を埋め込んでいる。

だが――

「……こ、こんなの、平気だもん」

突き刺さった魔力刃の切っ先を見て、フェイトは目を見開いた。

白いバリアジャケットは血に濡れ――しかし、それは身体からの出血だけではなく、バルディッシュを受け止めた手からも漏れていた。

――白刃取り。なんでそんな馬鹿げたことを。

カタカタとバルディッシュを握る手が震える。

そんなフェイトを見て、なのはは強張る顔に無理矢理の笑みを受かべた。

「何をされたって平気。フェイトちゃんが何をやったって、全部受け止めてみせる」

「――この……!」

反射的に、フェイトはバルディッシュへサイズスラッシュを命じた。

何故そんなことをしたのかなんて、自分には分からない。

……身体を引き裂く魔力刃になのはのバリアジャケットは負荷の限界を悟る。

リアクターパージ。それで、なのはとフェイトは弾き飛ばされた。

巻き上がる桜色のバリアジャケットの破片の中、二人の少女は肩で息をしつつ、対峙する。

どちらの瞳にも強い意志の光が見えており、もはや話合いなどではどうしょうもない。

……話し合いが無理だって言うのなら。

上着をなくし、軽くない傷を負いながらも、なのはは背筋を伸ばす。

「一つだけ聞かせて、フェイトちゃん」

「……何?」

「もしフェイトちゃんが私に勝ったら……フェイトちゃんは、嬉しい?
 クロノくんたちも追い払って、たくさんの人に迷惑をかけて――
 それで満足?」

「……私は、幸せになるんだ」

「……そっか」

自分に言い聞かせるような、答えになっていない声。

その言葉に、なのはは唇を噛み締める。

ふと、いつだったかアルフに言われた言葉が脳裏を過ぎり――

……知ってるよ、フェイトちゃん。

そう、声に出さず、呟く。

「フェイトちゃんが何を悩んでいるのか、私は知らない。
 けど、これだけは言わせて。
 ……泣きそうな顔で戦っているのはなんでなの?
 本当にフェイトちゃんは、幸せになれるの?
 私、そんな風に思えないよ」

「うるさい!」

叫び、フェイトはバルディッシュをシーリングモードに変形させた。

可変させる度に、バルディッシュの外装がボロボロと崩れ落ちる。パキリ、と軽い音が、デバイスコアから上がる。

……これで最後にしよう、バルディッシュ。

もう声すら発さないバルディッシュ。だが彼は、消え入りそうな灯りをコアに灯し、返答する。

満身創痍だというのに未だ諦めないフェイト。

その様子に、なのはも覚悟を決めた。

……なんで、フェイトちゃんは泣きそうな顔をしているんだろう。

辛い、苦しい、悲しい。

そんな気持ちを瞳に浮かばせる彼女。絶対に退けないと戦い続ける彼女。

分からない。

なんでそんな顔をしているのか、どれだけ考えてもなのはには分からない。

ただ――

甘ったれたガキの自分にだって、たった一つだけ、知っていることがある。

……思い出すのは小さな頃、一人でいるときに鏡に映っていた自分の顔。

寂しさを誰にも知られないよう、必死で強がっていた顔。

……あの時の自分と今のフェイトは、良く似ている。

だからこそ――

「レイジングハート!」

『all right』

――自分は彼女と友達になりたいと思ったのだ。

全部を一人で抱え込まないで。何か大事なことがあるのなら、それを教えて。

そして、もし出来るのなら、一緒に頑張ろう?

ただそれだけを伝えたくて、なのははレイジングハートに祈る。

強がっているフェイトに通じる、一撃を――

レイジングハートのコアが明滅し、バスターモードからシーリングモードへと変形する。

対峙する両者の足元にミッドチルダ式の魔法陣が展開され、魔力光が時の庭園を照らす。

先に動いたのはフェイトだった。

彼女はバルディッシュを掴んでいない左手をなのはへと向け、バインドを展開。

ライトニングバインド。間髪入れず、フェイトは次の魔法を構築する。

……バリアジャケットの防護能力は下がっている。ならば――

「アルカス、クルタス、エイギアス。疾風なりし天神よ、今導きのもと撃ちかかれ」

その弱った防御を突く。

「バルエル・ザルエル・ブラウゼル」

ス、と目を細め、フェイトは人差し指をなのはに向ける。

その瞬間――

「――な、バインドブレイク!?」

なのははライトニングバインドを砕き、その場でラウンドシールドを展開した。

両手でレイジングハートを構え、真っ直ぐにフェイトを見詰めている。

……避けず、逃げず、防御に徹するか。

さっきの、全部受け止める、というのは嘘じゃなかったのか。

「……打ち砕け――」

……きっと、魔導師として相対していなかったら……。

「――ファイア!」

頭を振り、フェイトは詠唱を完了。トリガーワードを詠唱した。

瞬間、フォトンスフィアが開放される。

計三十八の球体から、敵を粉砕せんと金色の槍が吐き出される。

――カートリッジロード。

一度の炸裂。それによってフォトンランサーに威力と速度の追加を行う。

「これで、最後……!」

バリアジャケットの胸元を引き裂かんばかりに掴み、フェイトは叫びを上げた。

……だが、手に込められた力は弱い。

フォトンスフィアから絶え間なく射出される度、耳を劈くような音が響き渡る。

その中で、今にも消え入りそうな意識を保ち、フェイトは着弾の集中する地点に視線を向ける。

……いくらあの子でも、これを喰らえば倒れるはず。

そう思うフェイトの視線の先では、まるで質の悪い花火のように爆煙を巻き上げている。

これで――

「……勝った?」

口に出し、微かな期待に胸が躍る。

だが――

『……利か……ない、もん』

不意に鳴り響いた念話に、フェイトは身体を硬直させた。

そんな。あの魔法が駄目ならば――

ゆっくりと煙が晴れてゆく。

そこには、バリアジャケットを纏わず――否、破壊されたのだろう――制服を身に纏ったなのはの姿があった。

その制服も破れ、焼け焦げ、無惨な姿となっている。

だが――

手に持ち、頭上に掲げたデバイス。レイジングハートは傷一つなく存在している。

……魔力が集う。

桜色の流星群とでも形容すべきか。

――カートリッジを使用したフェイトの魔法。死闘を繰り広げた武装隊。

――主人の夢を守るべく獅子奮迅の働きをしたアルフ。

――執務官としての義務を果たそうとして戦い続けるクロノ。

彼らの放った力の残滓が、想いが、なのはの元へと集い始める――!

なのはがどんな魔法を放とうとしているのかなど、フェイトには分からない。

だが、直撃だけはまずい。下手をしたら、あれは防御の上から相手を叩きのめす一撃。

満身創痍の身体に鞭打って、フェイトはソニックムーヴを――

「――うあっ!?」

爆音。衝撃。

見れば、知らぬ間に自分の周囲には桜色の誘導弾がばら撒かれていた。

防御している間に、こんなことを?

「受けてみて、フェイトちゃん。これが私の、全力全開っ……!」

なのはの叫びが耳に届く。

なんとかして逃れようと周りを見ても、退路には全て誘導弾が設置してある。

逃げられ――

「スターライト――」

――そして、レイジングハートが振り下ろされる。

「――ブレイカァァァッ……!」

放出される極限の砲撃。

猛烈な勢いで迫るそれを前に、思わずフェイトは目を瞑った。

次いで、衝撃がやってくる。

身体を打ち抜き、全身の骨が軋みを上げる。

意識を失うなど以ての外だ。絶え間なく襲う激痛が、それすらも許してくれない。

……それで終われば、どれだけ良かっただろう。

「ブレイク――」

なのはの指示に従い、散らばっていた誘導弾が四つで一組となり、集束する。

「――シュ――――ト!」

そして、縦横無尽に交差する桜色の光。

極彩色に囲まれた空間は、眩い魔力光に染め上げられた。





















リリカル in wonder


















時の庭園の奥。研究室の一室で、プレシアは培養槽の中に入った娘を見上げていた。

やせ細り、プレシアの記憶にある元気だった姿からは想像も出来ないほどに弱った娘。

……けど、もうすぐだから。

手を培養槽に貼り付け、プレシアは口元に笑みを浮かべる。

準備は万全だ。残るは、ジュエルシードの魔力を使ってアルハザードへの回廊を生み出すのみ。

……最後にお礼として人形に一言――本当のことを教えてやろうと思ったが、やめた。

存外強力なジャミング結界が展開されている。あれを無視して念話を送るのは、少し骨が折れるだろう。

魔力を無駄遣いする余裕などない。

未だかつて成功した者のいないアルハザードへの旅。それを成功させるには、余力を残しておくべきだ。

……それに、自分の身体も限界を迎えようとしている。

時間がない。急がなければ。

デバイスの中に収めていたジュエルシードを開放し、円を描くように中へと浮かばせる。

それに向けて、魔力を放つ。

刺激によって活性化を始めたジュエルシード。暴力的な力の奔流。

それに指向性を持たせ――

術式を構成しようとした瞬間、プレシアは膝を折った。

激しく咳き込み、手を口元に当てる。

鼻孔に鉄錆の臭い。嫌な粘液の感触を吐き捨て、プレシアは立ち上がるために力を込める。

「……もうすぐ、もうすぐなのよ。これさえ終えれば、アリシアはまた私に微笑んでくれるの」

それだけを胸に、彼女はデバイスを支えにして身を起こす。

ぐらぐらと揺れる視界。心臓の鼓動が五月蠅い。

それでも、私には――

――ドクン。

不意に、自分以外の鼓動が聞こえた。

何か巨大な物が胎動するような――

「あ、ああぁぁぁぁあ……」

嫌な予感と共に顔を上げ、プレシアはその表情を絶望に歪めた。

ほんの一瞬、立ち眩みに意識を手放しそうになったのだけだというのに――

ジュエルシードは、暴走の兆候を現していた。

そんな馬鹿なこと……ここまで全部上手くいっていたというのに……!

怒りが意識を覚醒させ、ジュエルシードを沈静化させるべく封印処置を開始する。

しかし、いくら大魔導師といえど限度があった。

AAAランク魔導師二人がかりですら、六つのジュエルシードが限界なのだ。

今プレシアの手元にある数は十三個。

オーバーSランクの魔導師を数人必要とする作業だろう。

それをたった一人でなど――

「……やってみせるわ!」

文字通りに血を吐きながら、プレシアは必死にジュエルシードを制御するべく魔法を発動する。

だが、一つを沈静化しても、その余波で他のジュエルシードが活性化し、それで再び沈静化したジュエルシードが暴走する。

悪循環のただ中、それでもプレシアは魔法を組み上げる。

……もしプレシアが完全な状態だったならば、部屋を吹き飛ばす勢いで広域攻撃魔法を使っていただろう。

仮にも大魔導師。死に瀕しているとはいえ、いや、だからこそか。

限界を超えた――リミットブレイクを行えば、あるいは、といえたかもしれない。

彼女の不幸は、すぐそこに目を開かない愛娘がいることだった。

こんな場所で強力な魔法を使ってしまったら、アリシアが危ない。

アリシアのためにジュエルシードを集め、そして、彼女のせいで抑えることができない。

――なんという皮肉だろうか。

「――っ、こんなことを許してたまるものですか。
 アルハザードは手の届く場所にあるのよ。
 ずっと夢に見てきた、アリシアが待っている場所が!
 私は、アリシアと失った時間を取り戻すのよ!
 アリシアが目を覚ますのならば、他の何もいらない!
 だから、言うことを聞きなさい、ジュエルシードっ……!」

――ドクン。

再びジュエルシードが脈動する。

青色の宝石が、その身を破裂させんばかりに、眩い光を放ち始める。

……プレシアは覚えているだろうか。

そもそもジュエルシードは、次元震を起こすための代物じゃない。

それは後から付いてきたリスクに過ぎず、本来の用途は――

計十三個。その内八つが、閃光に弾けた。


辛うじてプレシアが封印に成功したのは、その内五つ。

それが、彼女の限界であり、全力だった。

目を見開きながら、プレシアはその場に尻餅をついた。

「……終わりだというの?」

光に呑まれながら、プレシアはそんなことを呟いた。

自分の半生に近い時間をかけた計画は、こんなことで終わってしまうのか――

その時だ。

八つのジュエルシードは培養槽のガラスを透過し、アリシアの胸に吸い込まれた。

プレシアはそれを見ていることしかできない。

もう何が起こったって、終わりには違いないのだから。

……そう思っていた。

だからこそ、プレシアは、目の前で起こった信じられない光景に、血を吐きながらも目を輝かせる。

「ああ、アリシア……!」

瞬間、限界を超えて充満した魔力が破裂する。

攻撃でも防御でもない、指向性を持たない純粋な魔力の雪崩。

それに弾き飛ばされ、プレシアは部屋の壁へと叩き付けられ――有り得ない方向に、首を折り曲げた。

こわれた蛇口のように口からは赤い血を吐き出し、地面に落ちた液体は黒に近付いてゆく。

ゆっくりとずり落ちる背後の壁には、べっとりと血の跡が残った。

しかし、その死に顔は幸福そのもの。

……果たして、彼女は最後に何を見たのだろうか。

それは、プレシア以外に分かるはずもない。



























「……なんだ?」

『ジュエルシードの反応です、ご主人様』

ズリズリとLarkを引き摺りつつ歩く俺は、ようやくプレシアの研究室へとたどり着いていた。

もはや直立することもままならず、Larkを構える力だって惜しい。

折角構成した鉢巻きも意味を成さず、きっと目元は流血で真っ赤になっているだろう。

それを手で拭い、眼前の扉を睨む。

……そうでもして意識を保たないと、今にもぶっ倒れそうだ畜生。

もう魔力だって尽きかけている。フェイズシフトを使うつもりだったが、もう無理だ。

ディバインバスター一発が限界。それで何をしろと言う。

……何度も引き返そうと思ったんだけどなぁ。

まぁ、ジュエルシードを回収するのが無理でも、せめて最後ぐらいは見届けよう。

そう思い、ここまで足を運んできた。

どうやらクロノたちはよっぽど手こずったらしい。

ついさっきまで傀儡兵は元気に時の庭園をかけずり回り、奴らのせいで一杯一杯だよ畜生。

とっとと動力炉を壊してくれれば、少しは楽になったかもしれないのに。

ま、自業自得だろうけどさ。

「Lark。突破するぞ」

『はい。インパクトの瞬間に魔力刃を形成します。
 タイミングはこちらで合わせるので、ご主人様は私を振ってください』

「分かった。悪いな」

言いつつ、肩に引っ掛けるようにLarkを構える。

さーて、ご開帳――

などと思っていたら、だ。

不意に床――いや、時の庭園自体が、か?――が振動し、俺は思わず体勢を崩してしまう。

不様に転がり、それでもなんとかLarkを手放さず、眼前のドアを――

ありゃ? ドアがない。

ガン、と鈍い音が背後から上がる。

見てみれば、そこには歪んだドアが壁に叩き付けられたところであり、部屋の中には、

「……どうなってる?」

その光景に、声を上げてしまった。

研究室の中。それは、酷い有様となっていた。

機材は粉砕され、並んでいた調度品は軒並み吹き飛び、風切り音が耳に痛い。

そして、その中央には――

「良く分からないが、チャンスか?」

言いつつ、風に押し負けないよう踏ん張って立ち上がる。

魔力が吹き荒れているせいで目視すら上手くできない。

ただ、見知ったロストロギア――沈静化されたジュエルシードが、『何か』に吸い寄せられようとしているのだけは見える。

チャンスだ。プレシアの姿は見えない。ならば、あれを手にすることは可能か?

「Lark!」

『……不本意ですが、了解しました』

走らせた術式を感知し、Larkが溜息混じりといった感じで応えてくれる。

……まさか、これを使う日が来るとはな。

斧の部分に魔力刃が形成され、残った力を全て注ぎ込み、俺は投擲体勢に入る。

そして息を吸い込み、

「マジカル・トマホォォォォォォクッ!」

『ブーメラン』

全力でLarkを投げ飛ばした。

縦に回転しながら、Larkはジュエルシードへと向かう。

……武器を投げるというこの愚行。あまりにもな馬鹿技だが、今は考えついた昔の自分に感謝。

吹き荒れる魔力の渦を切り裂き、Larkはジュエルシードへと到達した。

そして、格納。五つのジュエルシードを回収して、Larkは回転を止める。

そしてドアと同じように魔力の渦に飛ばされ、こちらへと――

「って、ぎゃあああああああ!」

速攻でしゃがみ込み、頭上を通過したLarkを避ける。

振り返ればそこには、ビーンという音を立てて壁に突き刺さるLarkが。

……当たったら死んでたんじゃね?

まあとにかく、だ。

これで五つのジュエルシードを回収した。一つだけだが、原作よりも多くの――

『聞こえているか、エスティマ=スクライア!』

『ずぁ……!?』

不意に届いた念話に、思わず顔をしかめる。

声はクロノのもの。なんだからやたらと焦った感じだが、どうしたのだろうか。

『ああクロノ。どうしたのさ』

『今どこにいる! すぐに地上へ避難しろ!』

『なんだってそんな――』

『次元震の――それも、大規模の兆候が観測された! 巻き添えを喰らうぞ!』

それを聞き、Larkを引き抜こうとしていた手が止まる。

……なんですと?

振り返れば、そこには魔力の渦を吐き出し続けている『何か』があり――

……原因はあれか。

『……クロノ。大規模次元震が起こったら、アースラは逃げ切れるの?』

『……難しい。だが、だからこそ急いで逃げろと言っている』

無理、とは言わないか。

だが、それは――

『クロノ。その原因みたいなのが目の前にあるんだ。
 それをどうにかしたら、止まるかもしれない』

『なんだと!? いや、だったら僕が行く。君はアースラに戻るんだ』

『了解』

と言いつつも壁に刺さったLarkを握ったり。

……さて、どうしようか。

なんとかLarkを引き抜こうとするが、血で手が滑り、どうにも。

なんとか体重を掛けて引っこ抜けば、その勢いで倒れ込んだ。

……格好悪いなぁ。

ああ、格好悪い。

「……さて、Lark。もう一働きだ」

『……ご主人様?』

「あれを止めればハッピーエンド、かもしれない。
 止められなかったらバッドエンドだ。
 やるしかないっしょ」

『馬鹿なことを言わないで下さい!
 ご主人様の魔力は尽きかけています。
 先程の一撃で、ディバインバスターすら撃てない状態なのですよ?』

「それでもやらないと……」

『不可能です。奇跡でも起こらない限り、あれを止めることは出来ません』

そんなことを言うLarkに、思わず薄く笑ってしまう。

それは、自分に対する苦笑だ。

……けど、さ。

「……奇跡は起きます。起こしてみせます」

『……は?』

「俺の好きな言葉。それに、手は残っているよLark。
 手元には五つのジュエルシード。
 ……力を望めば、なんとかなるかもしれない」

『嫌です』

「頼む。今のままじゃこの上ない大惨事になる。
 それは間違いないんだ。
 だから、なんとかして止めないと――」

『嫌です。嫌と言ったら嫌なのです!
 あなたがそこまでする必要なんて、どこにもありません、ご主人様……!』

……だよなぁ。

俺がそれをする必要なんてない。

だが、これは俺にしか出来ないことなんだ。

だから――

「まったく、エスティは馬鹿だなぁ」

ふと、そんな声が聞こえ、デバイスを握る手を包まれた。

視線を向けてみれば――

「……ユーノ? どうしてここに」

「別に良いでしょ、そんなことは。はい、これ」

言われ、ユーノに何かを手渡される。

それはカートリッジ。プレシアに奪われ、フェイトに手渡されたはずの物。

……どうして、ユーノが?

「結構あの子が使っちゃってさ。五発しか残ってなかった」

「ああうん。……で、お前さんは何をしに来たのさ」

「何って――決まってるじゃないか。
 君を助けに来たんだよ」

思わずユーノの顔を見て固まってしまう。

……微笑みながらこの馬鹿は何を言っているんだ?

アースラにいるべきこいつは、なんでこんな死地に飛び込んできている?

だんだんと朦朧としてきた頭が、怒りで沸騰しそうだ。

それを抑えつつ、俺はゆっくりと口を開く。

「今の状況を理解していないのか?
 今にも次元震が起こりそうな状況なんだ。お前はすぐにアースラへ戻れ」

「嫌だ」

「馬鹿、お前――!」

「嫌だったら嫌だ!」

ユーノにしては珍しい怒声。

ユーノは歯を噛み締めながら、俺に鋭い視線を向けてくる。

「……エスティ。君が無茶をするのはいつものことさ。
 ああそうだ、いつものことだとも!
 けどね、それを黙って見ていられるほど、僕は呑気じゃない!
 大切な弟が傷付くのを見て指を咥えていられるほど、馬鹿じゃない!
 いい加減にしてよエスティ! 君が無茶をする度にどれだけの人が心配していると思っているのさ!
 僕だって、なのはだって――スクライアの皆だってそうだったんだ!
 だっていうのに、君は後先考えず……。
 心配するだけなんて、もううんざりだ!」

「それは……無茶は、俺の仕事だって……」

「だから何? だから君はたくさんの人に心配されても良いと思っているの?!
 だとしたら、それは傲慢だ。助けが必要な場面で一人でやり、失敗するなんて、馬鹿みたいじゃないか」

「失敗するとは限らないだろ」

「いや、失敗するね。自分一人でなんでも出来ると思っているエスティは、絶対に失敗する」

言い切ったユーノを思わず睨む。

だが、それでもコイツは一歩も譲らず、しかも挑戦的な視線まで向けてくる。

……ったく。

「……しょうがない。
 で、何がご所望だ。
 アースラに戻るか? それとも、ここで賭に出るか」

「多分、もう手遅れだ。エイミィさんやリンディさんの雰囲気で、なんとなく察することが出来た。
 だから、ここを切り抜けるにはアレをなんとかするしかない」

ユーノの言葉で、俺は部屋の中へと視線を向ける。

そこには、相変わらず純粋な魔力の渦を放っている『何か』が鎮座している。

「……方法があるのか?」

「結局、あれもジュエルシードの暴走だよエスティ。やることは一緒さ。
 ……ただ、渦巻いている魔力のせいで、なのはの砲撃ですら威力が減衰するだろう。
 これを突破して、零距離での魔力ダメージでノックアウト。
 ちなみに……」

ユーノは俺の顔を見て、どこか悪戯めいた笑みを浮かべ、

「僕はこれが出来る人間を、一人しか知らない。
 力ずくで力場を突破し、砲撃を打ち込むことが出来る馬鹿なんて、ね」

「……言ってくれるな」

「あはは……まあ、そういうわけだから――」

ユーノが印を結び、俺の足元にミッド式の魔法陣が現れる。

治癒魔法。急激な変化はないが、それでもゆっくりと疲れが取れてゆき、思わず溜息が出る。

「僕が道を造る。Lark、加速に必要な距離は?」

『なんの障害もない空間が十メートルもあれば最高速度に達します』

「分かった。ごめんね、エスティを付き合わせて」

『お気になさらず。……ご主人様を止めてくれると期待した私が馬鹿でした』

そんなLarkの悪態に苦笑し、ユーノはマントをなびかせて前進した。

腕を眼前で交差させ、ラウンドシールドを展開する。

……十メートル。今はその距離を稼ぐのが、どれだけ難しいか。

「ユーノ」

「何?」

「一分。……それで回復したら、突撃するぜ」

「分かった」

もはやユーノの背中を見ずに、俺は受け取ったカートリッジを回転式弾倉に装填する。

……五発。ぎりぎりか。

治癒魔法で魔力が回復するとして、俺の手元の魔力をLark注ぎ込み、変形。

ゼロシフトを発動しつつA.C.S、か……。

分の悪い博打だが、善戦しようと出る手はブタだ。

勝利しか、意味を成さない。

だったら――

回復に専念すべく、俺はゆっくりと目を閉じた。


























荒れ狂う魔力の渦の中、ユーノはシールドを展開して前進していた。

吹き飛ばされた調度品がシールドにぶつかる度、思わず脚を止めてしまう。

だがそれでも脚を止めず、ユーノは道を切り開いてゆく。

……あと、五十秒。

チェーンバインドを飛ばし、それで身体を固定する。進んだ空間を結界で埋め、安定させる。

あと三メートルも進めば、約束の距離が稼げる。

「……まだだ!」

最低でも十メートル。絶対にそれ以上を稼いでみせる。

一歩、二歩と進み、その時、ガクン、と膝に重しがかかった。

なんだ、と見てみれば、シールドに叩き付けられる魔力に色が混じっていた。

それは、蒼。ジュエルシードと同じ色のもの。

近付けばそれだけ抵抗が大きくなるのか。

だったら、尚更距離を――

更に一歩。

……あと、三十秒。

あと少しで十メートル。

そう思ったときだ。

真横から、ユーノの身体ほどある研究機材が飛来し、彼は弾き飛ばされた。

こんな鈍い音がするなんて、と熱を持つ身体にコメントして、チェーンバインドを握り締める。

口の中が痛い。切ったか、と舌打ち。

あと、二十五秒。もう時間がない。

バインドを手繰り、一歩一歩進む。

……自分はこんなところで何をしているのだろうか。

そんな考えが、浮かび上がってきた。

初めて遺跡の監督に任命され、そこでロストロギアを発見して……。

それで、ミッドに運んで、それからも今まで通りにスクライアとして……。

だというのに、こんなところで――

風切り音と立ててシールドにぶつかる機材に、ユーノは身を竦ませる。

痛みに耐性のない少年に、さっきの一撃は利き過ぎていた。

びくびくと小動物を思わせる仕草で頭を下げ、しかし、足は休めない。

……この辺境世界にやってきて、いろんなことがあった。

なのはに拾われて、ジュエルシードの奪い合いをして。

日常なんてあってないようなものだった。フェレット扱いされたり、戦闘なんて慣れてないものをこなしたり。

だが、それでも――

エスティだけは、変わらず側にいてくれた。

唯一の日常は、きっと彼がいたことだけだろう。

……それを失っても良いのか。

ここで痛みを堪えず逃げ出すというのは、そういうことだ。

恐怖がなんだ。痛みがなんだ。

そんなことだけで、エスティマに全てを押し付けることなど、出来るわけがない。

「僕は……」

聞く者が自分しかいない状況で、ユーノは口を開く。

「僕は……!」

ただ自分を鼓舞し、約束を果たすべく、ユーノは足を動かす。

「僕は、エスティのお兄さんだから……!」

だから、こんなもの、苦難でもなんでもない。

弟が出来て、兄が出来ないことなど、何一つない――!

バチバチと結界が悲鳴を上げる。

進めば進むほど、吹き荒れる魔力は濃密となってゆく。

なんとか結界を維持するのも限界だ。

だが、意地でも、ここだけは――




『――ゼロシフト、レディ』




今にも限界を迎えようとしていたユーノ。

その彼の耳に、弟の持つデバイスの声が届いた。



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