フェイト・T・スクライア、魔導師ランク空戦AAA+
エスティマ・スクライア、魔導師ランク空戦AAA-
ランク認定を受けた結果、こんな感じに。
ちなみに試験官はクロノだった。バインド地獄を見た気がする。
終始劣勢だったんだが、まー、最終的にフェイズシフトで一撃でした。稀少技能万歳。
ただそのせいか、稀少技能なしだと空戦A+程度しかないと判断され、カートリッジシステム周りの規制が緩くはなった。
ランク差ではなく、使用弾数制限。一日八発。用法用量をよく守り使いなさい、と説教されたり。
そんなこと言われなくても分かってるっちゅーねん。
まぁ、フルドライブとリミットブレイクは依然としてそのままだが。
……しっかし、アレだな。俺の稀少技能は四ランクを埋めるほどの価値があるのですか。
『――身体は稀少技能で出来ている』。……割と冗談じゃ済まないぞ。
まぁ、そんなこんなで、俺はランク認定を、フェイトは嘱託試験とランク認定を終え、スクライアの集落へと帰ることに。
フェイトは未だ見たことのない場所へ行くことに緊張しているのか、俺の影に隠れっぱなしで服の裾を掴んでいます。
……ううむ。人見知りするのかなぁ、この子。
などとやっている内に、視界が開ける。
本局の転送ポートから飛び、辺境世界へ。
確か今はどっかの滅んだ文明の調査だったはず。
急に天井へと姿を現した陽光に目を細めつつ、視界を埋める景色に吐息を漏らす。
そこら中に転がっている廃墟やスクラップなどはあるが、それらは濃い緑に覆われて眠っていた。
向こう側で言うならば、緑に染まった世界遺産、といった感じ。ただし、木々に埋もれている遺跡はあまりにメタリックではあるが。
「エスティ、フェイト! アルフ!」
名を呼ばれ、三人でそちらを振り向く。
そこには手を挙げながらこちらに歩いてくるユーノの姿があり、その後ろには見慣れた部族のみんなが。
「……みんな、同じ服着てる」
「そりゃ、スクライア一族ですから」
当たり前のことに驚いているフェイトに苦笑しつつ突っ込み、未だ俺の影に隠れているフェイトを前に押し出す。
え、え、と戸惑っている様子だけど、第一印象は大事ですよ?
「ただいま、みんな」
そう声を出すと、おかえり、お疲れ、などの労う声が。
ああ、なんか帰ってきた気がするなぁ。
などとしみじみ思いつつ、フェイトへと視線を向ける。
俺の言いたいことを察してくれたのか、小さく頷く彼女。
「……初めまして。フェイト・テスタロッサと言います。
こっちは私の使い魔のアルフ。
その、あの、私は……」
兄さんの妹で、と説明になってない説明が続き、みんな一様に苦笑した。
しかし、フェイトは暖かみがあったとしても笑われたことに対し、顔を赤くして黙り込んでしまう。
……しゃーない。
「事情は長老様から聞いているのかな? 今日から家族の仲間入りをする俺の妹です。
よろしくお願いします!」
声を張り上げて頭を下げる。
その様子にフェイトとアルフは驚いていたが、続いて頭を下げた。
それに対する反応は――
「よろしくフェイトちゃん」
「アルフさんもー」
「そんな畏まらなくて良いから」
割と友好的なようだ。
……などと思っていると。
『Standby Ready』
ガシャン、と重い音が一斉に上がった。
なんぞ、と思って視線を向けてみれば、そこにはスクライア護衛隊の、同僚の皆様がいたりして。
「……デバイス起動させて、何やってんですか」
「いや、なんか無性に腹が立ってな。お前、一ヶ月も美人さんと可愛い妹に挟まれていたんだろう?」
「理不尽を感じる」
「端的に言って死ねよ」
「思い残すことは何もないだろう?」
「ひどー!? 特に最後の、あんまりだ!」
と、俺の叫びは無視され、各々の足元にはミッド式。近代ベルカがちらほらと。
何コレ。帰還祝いパーティーにしちゃあ冗談が過ぎてない?
「……AAAに昇格したんだろう? まずはどの程度腕を上げたのか見せて貰おうか」
「AAA-だって! 一ランク差は大きいよ!
ちょ、ま、砲撃チャージしないで!
飽和射撃はやめてー!」
リリカル in wonder
帰省早々にボロボロにされた我。
怪我はユーノに治して貰ったんだけど、なんだろう。言葉に出来ないこの虚しさは。
怪我しても魔法で治せば良いよとか、マジどっか狂ってる。だからって怪我させて良いわけじゃないんだぞ!
などという俺の叫びは無視されて、集落へと連行された。
まず最初にやったのは挨拶回り。
長老様と世話になったロジャーさん。その他諸々。
大人は拾われっ子が来ることに対して慣れているから文句も何もないけど、同年代はどうなんだろうねー。
ま、それは時間が経ってみないと分かりませんが。
……アイツ、どんな反応すんのかなぁ。元ガキ大将、現在ツン七割の生けるツンデレ。
まぁ、あの野郎は今ミッドの学校に行ってるから問題ない。
どうでも良いさ、と思いつつ、最後の場所――護衛隊の詰め所へと。
スクライアに来てもフェイトのやることは嘱託と変わりがない。
AAAクラスの魔導師を遊ばせておけるほどスクライアに余裕はないのです。
まぁ、対象を守ることにフェイトは不慣れだろうけど、それは経験積めば良いさ。
などと考えつつ詰め所に入ると――
「……げ」
「人の顔見て第一声がそれ? エスティマ」
噂をすればというかなんというか、いやがりましたよ。
「ははは、嫌だなぁ。つい口が滑っただけですよ、シエナさん。
……っていうかなんでここにいるの? 学校は?」
「今長期休暇なの。……一年経っただけで忘れちゃった? 空っぽの頭蓋に魔力が満ちてるんじゃない?」
「はいはいそうですか……っと、フェイト。こいつ、シエナ・スクライア。
現在学生。将来は護衛隊志望。ヤンキーですよ」
「それが人を紹介する内容!?」
「え、えと……よろしくお願いします、シエナさん」
「よろしくね、フェイト。
……あの馬鹿の言ったことは、気にしなくて良いから」
「……兄さんは、馬鹿じゃない」
どこか怒ったように、フェイトはそう呟いた。
呟いた、と言ってもバッチリ聞こえているわけですが。
それを聞いて、俺とクソアマは顔を見合わせる。
そりゃ勿論、原因はフェイトの口にした言葉であり……。
「く――く、あっはっは!
ごめんごめん。別に馬鹿にしたわけじゃないの。ただの冗談だから気にしないで!」
「……え?」
「エスティ、この子面白いから借りてくね。みんなにも紹介しないと!」
「ちょ、待って……兄さん!」
助けを求めるようにこっちを見てくるが、俺は顔を逸らして口笛を吹いたり。
まぁ、友達を作る良い機会なんじゃないかなぁ。
兄さーん! と声をドップラー効果を伴いながらシエナに引き摺られていくフェイト。
それを見送り、俺は自分のロッカーへと足を運ぶ。
開けてみれば、そこはユーノの護衛として着いていく前と同じ光景。
……正直、汚い。デバイス整備用の工具とかが散乱してる。
見なかったことにして扉を閉じる。
『ご主人様、あとで掃除をしましょうね。埃が酷いことになってました』
「気のせい気のせい。さて、護衛隊の皆様はどこに行ったのかなー」
俺の配備されている第二班は、出迎えに来ていなかった。
多分現場に出ているんだろうけど、さて。
顔見せぐらいして行くか。
もし手が足りないんだったらそのまま現場に出ても良いしね。
意気揚々と詰め所を後にして、飛行魔法を発動。
置いてあった地図に従い、集落から少し離れた孤島へと。
大気を切り裂いて飛んでいる内に、徐々に空が曇ってきた。
振り返ってみれば、集落の方は晴れている。
一雨きそうだ。バリアジャケットを着ていれば気にならないけど、発掘隊の皆は悪態を吐くだろう。
海を越えて孤島へと降り立つ。
ここへと向かっている俺の姿を見た人がいたのか、何人かがこちらへと視線を向けてきた。
それと、近付いてくる人物。
……って、あれ?
「ユーノ。お前、さっきまで集落にいなかった?」
「いたよ。で、すぐにこっちに転移してきた」
そりゃそうか。転移って便利だ。
「今、手は空いてる?」
「うん。一段落したところだから」
「そっか。発掘はどんな具合? もう随分と解析は進んでいるらしいじゃん」
「そうなんだよね。……そうそう、聞いてよ!
昨日分かったことなんだけど、この遺跡ってアルハザードと交流があったみたいなんだ!
久々の大発見だって、これ!」
普段のユーノからは想像出来ないぐらい、興奮した様子で説明してくる。
目をキラキラさせているのは年相応なんだけど、それにマッドな輝きが宿っているのは気のせいだろうか。
「ほーう。で、収穫は? 売りさばけそうなのは見付かった?」
「うん。それなりのが。……ねぇ、エスティ。帰ってきて早々に悪いんだけど、僕の護衛を頼めない?
気になる横穴を見つけたんだ」
「良いけど……俺一人で大丈夫か?」
「ん、そんなに広くないから、むしろ大人数で行った方が危ないかな」
それならしょうがないか。
良いよ、と返事をして、俺はユーノの後について行く。
孤島がまるごと遺跡となっているのか、中は随分と広い。
遺跡発掘、というよりは、ダンジョン探索に近いな今回。
通路を照らすライトが、時たま妙な模様の壁画を浮かび上がらせる。
……なんだろう。真っ当じゃないだろここ。キャンプのある平原にはビルの残骸っぽいのがあったのに、どうしてここはこんなにもアレなんだ。
機械文明が発達していたのだろうに、いやに原始的。
神殿か何かだったのだろうか、ここは。
「ここだよ」
そう言い、ユーノは壁を指さす。
一見ただの壁に見えるが、他と比べてやけに朽ちている感じがする。
ぶっ壊せ、と。考古学者としてどうなんだそれ。
まぁ、今回のは探索に近いからしょうがないのかなぁ。
「Lark、セットアップ」
『スタンバイ、レディ』
握り締めた宝玉が真紅のハルバードとなる。
無論、第一形態。
最初はこれを苦々しく思っていたんだが、使ってみれば悪くない。
重量も処理速度も軽いのだ。心持ち、だが。
斧に魔力刃を形成し、それで壁を粉砕。
案の定向こう側には通路があり、先は闇で塗り潰されている。
随分と長いな。
ユーノを背中に隠すようにして、俺が通路を先行する。
一歩一歩ゆっくりと踏み締めていると、気を紛らわすようにユーノから話が振られる。
「そうだ。AAA-昇格、おめでとう」
「あんまり嬉しくないんだけどね。高ランクになると激戦区に投入されるし」
「給料が増えたんだから良いじゃないか」
「責任もね……まぁ、俺よりフェイトの方がランク高いんだけどさ。兄貴としてそれはどうよ、と」
「そんなこと言ったら僕だってそうだよ。魔導師検定で総合A。管理局の試験でどこまで行けるか分からないってば」
「そう卑下すんなよ。俺はお前に背中を守って貰えると気が楽で有り難いし……っと、そういえばここの遺跡ってどんななんだ?」
「うん。神殿、かな? 海の神様を奉る類の。魔法にしてはいやに原始的な印象だけど。
ベルカと同じか、それ以上に古いかも。いや……もしかしたら、全盛期ベルカの移民地の一つだったのかな?
まぁ、推測なんて発掘屋の仕事じゃない。
事実だけを並べると、ここの文明が滅んだ理由は天災。生き残った人たちは別の世界に移民した。
人が住めないぐらいに破壊し尽くされたか、科学技術による汚染があったのか。
それはともかくとして、今この星には人がいないか、いても酷く少ないと思う。
まぁ、管理局の手が借りられないから断言出来ないんだけどさ」
人手と機材が足りないことに対して遠回しに文句を言いながらも、ユーノは先を続ける。
「で、だ。文化とかを調べるには調査が足りないんだけど、海の神様を奉るのは自然な方向だと思う。
この星、南半休の一部に大陸が集中していて海が大半を占めているんだよね。
だから、海に対する信仰があったんだと思う。
海に生息する魔獣を崇めているぐらいだし」
「へぇ、そうなんだ。しっかし、よくそこまで分かったな」
「うん。壊れた本型ユニゾンデバイスがあって、それに記されてたんだ。
名前を『ルルイエ異本』っていってさー。
遺跡は見付かるし、ユニゾンデバイスは見付かるし、今度の取引相手は聖王教会か――」
「……なんだって?」
思わず脚を止める。
そして、嫌な汗がダラダラと背中を伝い始める。
why?
『ご主人様。心拍数が跳ね上がっていますが』
「そりゃそうだよ! っていうかなんだそれ畜生!
ロジャーさんのビッグ0といい、どこまでも狂ってやがる!」
思わず叫びを上げたら、ユーノに首を傾げられた。
そりゃそうだろうよ!
あー、嫌な予感がビンビンしてきた。今すぐ帰りたい。
っていうか発掘チームを撤退させた方が良いんじゃない?
このままだと――
と、そこで思考が止まった。
思わず足も止まる。
「な、なぁユーノ。なんか目の前に変な結晶体があるんだけど気のせいだよな?
なんか七本の支柱に支えられた赤い結晶体が見えるんだけど、気のせいだよな?」
「何言ってるの、エスティ。……ロストロギアかなぁ」
と、言いながらユーノはしゃがみ込むと、結晶体を支えている支柱、それが取り付けられている金属製の小箱に視線を向ける。
なんだろう、と頭を悩ませている野郎を余所に、どうやって逃げよう、と背中が焦げそう。
周囲の真っ暗な闇が怖いんですけど。
マジ怖いんですけど!
「ん……ねぇ、エスティ。なんだかこれ、デバイスの拡張パーツみたい。
解析してくれない?」
「良いけどさぁ……」
もはや諦めムードで『トイボックス』を起動させ、コードを引っ張り出して先端に着いているスキャナーを向ける。
それで単純な構造を知ることが出来るのだが、目にした瞬間、俺とユーノは同時に顔を顰めた。
「……管理局が喜びそうな仕様だなぁ」
「デバイスを接触兵器化して、触れた対象を虚数空間に叩き落とす? 明らかにロストロギアだねこれ。
……でもエスティ、こういうの好きじゃなかった?」
「それ以上に危なすぎるっつーの! パーツ名を見てみろ!」
「古代ベルカ文字に近いかな? ええと、『光り輝く――』」
そこまでユーノが口にした瞬間、ずどん、と振動が部屋を揺らした。
パラパラと砂が天井から落ちてきたり。随分と大きな揺れだが――
『魔獣が出現しました。発掘班はすぐに集落へ転移を。
護衛隊はその時間を稼いでください』
「うわ、大変だ! エスティ、急がないと……!」
「うん、分かってた。分かってたよこうなるの……」
慌てるユーノを余所に半ば悟りを開きつつ、飛行魔法を開始。
ユーノも分かっているのか、同じように飛行魔法を展開して、転送魔法陣を展開する。
そして翠色の光が弾け、視界が変異すると同時――
再び、ああやっぱり、と内心で嘆息した。
波打ち際で暴れているのはタコだかなんだか良く分からない巨大な化け物。
そして、地上にいる護衛隊はバリアを展開しつつ押し寄せてくる魚人を防いでいたり。
わーい。なんだかもう突っ込む意欲すらなくなってきたぞー。
まあ良い、とスイッチを切り替え、
「――ユーノ。お前は転送の補助を。俺は上空から馬鹿どもを吹っ飛ばす」
「分かった。気を付けてね」
ユーノが離れたのを見送ってから、俺はLarkの穂先を真下に。
護衛隊は大半が陸戦魔導師だ。空からの爆撃は、俺を含めた数名しか出来ない。
射撃、砲撃は得意じゃないんだが――まぁ、今は適材適所と行きましょうか。
「Lark!」
『はい、ご主人様』
瞬間、俺の周囲に六つの誘導弾が浮かび上がる。
うむ、と小さく頷いて、
「クロスファイア!」
『シュート』
六つの魔力弾が正確に獲物を撃ち貫き、次のを装填。
知性の欠如が忍ばれる魚人は回避行動を取ろうとしないため、鴨撃ちだ。永遠を生きなベイビー。
俺らしからぬ射撃戦を展開しながら、ちら、と避難を進めている武装隊へと視線を向けた。
『撤退の進行状況はどうなっています?』
『エスティマか!? すまない、助かる。
十分ほどでこの場からは撤退できる。遺跡内にも護衛隊を向かわせたから、ここを放棄するのに時間はかからない。
それまでの足止めを頼めるか?』
『了解』
隊長から指示を受け、クロスファイアからフォトンランサーへと射撃魔法をシフトする。
誘導弾なんて不要だ。炸裂効果付加のでぶっ飛ばした方が効率が良い。
余計に爆撃然とし始めた俺を余所に、撤退は進んでいく。
というか、俺が一方的に蹂躙を始めてから魚人の進行が進まなくなったのだ。
現代戦闘は航空戦が要、とは良く言ったもんだねぇ。
撤退中の皆様はともかくとして、俺は一人で勝利ムード。
最後にディバインバスターで蹴散らしてやろうか、などと考えていると――
『ご主人様!』
「――っ!?」
不意にきた横殴りの一撃。
Larkの展開してくれたオートガードのお陰で直撃は免れたが、それでも衝撃は酷い。
吹き飛ばされ、姿勢制御を行いながら敵へと視線を送る。
そこにいたのは、波打ち際でもぞもぞしていたはずの巨大魚介類。至近で見るとその大きさに呆然としそうだ。
大体、四十ーメートルほど。触手を含めたら軽く百メートルを超えるんじゃないだろうか。
それを目にした瞬間、俺はソニックムーヴを発動。
真後ろへと高速移動しつつ、ディバインバスターを構築。
そして穂先を魚介類へと向け――
「ディバイン――!」
『バスター』
サンライトイエローの砲撃が化け物へと突き刺さり、痛みに対して耳を壊さんばかりの絶叫が上がる。
……うるせぇ。こんなだったら、ゴジラとかの近くにいたくないな。
「Lark、第二形態を使うべきかなこれ」
『必要ないでしょう。第一形態で倒すことは不可能ですが、足止めだけなら充分です』
「だよな」
そうだ。
倒すのが無理だとしても、俺の役目はただの足止め。
斧の部分に魔力刃を形成すると、周囲に気を配りながら突撃した。
「クロスファイア!」
『シュート』
最寄りの触手に六発の魔力弾を当て、
『アックスブレイク』
動きが止まった瞬間、魔力刃で断砕する。
サイズスラッシュと違って、アックスブレイクは切断能力上昇の他に切断面の炸裂を付加してある。
効果を二つ付けたために切断力は鎌の魔力刃に劣るが、破壊力はこちらが上だ。
魔力の炸裂と共に肉片が舞い散り、絶叫が木霊する。
耳障りな声に顔を顰めつつ、返す刀でLarkの穂先を迫ってきた触手に叩き付け、ディバインバスター。
内側からの砲撃によって盛大に血飛沫を上げながら、曇り空に咆吼を木霊させる。
よし、なんとかいける。
常に三百六十度に意識を向けながら、Larkを構えつつ高度を上げ、クロスファイアを発動。
いつでも誘導弾を撃ち出せるようにようにしながら、撤退状況の確認。
外の発掘隊は全て去り、残るは内部。
俺も撤退して良いよう指示を受けるも、この場に残ることを選んだ。
……こんな巨体が遺跡にのし掛かったら、間違いなく崩れるだろう。
内部の劣化具合を思い出しつつ判断すると、両肩にアクセルフィンを形成。
Larkを強く握り締めると、小さく頷いた。
「弾幕はテクニック。力任せに触手振り回しているようじゃ、俺には当てられないな」
『力任せが出来ない、とも言えます』
「……フルドライブが使えないからね」
なんだか切ない気持ちになりつつも、曇天に身を躍らせる。
触手を避け、擦れ違い様に断砕。避けきれないと判断したらソニックムーヴで上空に退避し、集束したクロスファイアを打ち込む。
そうしている内に撤退は完全に終了。
さて、俺も――
「っておい、なんの冗談だ!」
思わず叫びを上げる。
何故かって、そりゃあ海面に二つの巨大な影が現れたからですよ!
『一対三ですね』
「……ま、まぁ、こっちは空飛んでるし逃げ切れるだろう」
『だと良いのですが……ご主人様!』
警告。
続いて轟音が響き、真下から――地面を貫いて、極太の触手が迫ってくる。
舌打ち一つ。咄嗟にソニックムーヴを発動して距離を取るが、単純計算で三倍となった触手を前にして攻撃する余裕すら失う。
高度を上げようとするが、それも叶わない。檻のように展開される触手の間をかいくぐっても触手。触手。触手。
正直見ていて気分の悪い光景だが、今はそんなことを言ってられない。
……もしかしてヤバイ?
「Lark、第二形態!」
『了解。プログラム、ドライブイグニッション』
掛け声と共に虚空から現れた回転式弾倉がLarkに合致する。
ボルトが填り込み、Larkは第二形態へと――
「――っ、しまった!」
触手に掠った。くそ、変形中の攻撃はルール違反だろ!
落下したLarkを追って急降下。なんとか握り締めることは出来たが、高度は一気に下がる。
くそ、フェイズシフトで一気に離脱するしかないか。
苦々しい気分になりながらもLarkにカートリッジロードを命じ、
「サンダー……」
ここ一月で聞き慣れた声を耳にして、俺は顔を上げた。
そして退避。ラウンドシールドを張りながら。
「レイジー!」
天に張った雲から雷が落ち、三体の巨大魚介類が悲鳴を上げる。
焼き魚特有の臭いと塩臭さが上がるのはご愛敬か。
いや、死んでも食べたくないけどさ、あれ。
アクセルフィンに魔力を注ぎ込んで一気に高度を上げると、そこにはフェイト。
……そして何故だかアルフにまたがったロジャーさんが。
おいおい。誰だよこの、スクライアの秘密にしておきたかった秘密兵器を派遣したのは。
……うん。自分で言っておいてなんだけど、妙にしっくりくるなこの表現。
どこぞのブレードハッピーと似たような人だ。
「苦戦していたようだね、エスティマくん」
「ああどうもロジャーさん。……聞くのは野暮だと思いますけど、どうしてここに?」
「君の妹さんに引っ張られてね。ははは、可愛らしい子じゃないか」
そう言われ、フェイトは顔を真っ赤にする。
……ああ、心配かけたのか。
申し訳ないと思いつつ、俺はフェイトへと近付いた。
「助かったよ。ありがとう」
「ううん。兄さん、怪我はない?」
「うむ。ちょっとヤバかったけど、少し前は押せ押せで勝利ムードでしたよ?」
「……もう」
困ったような笑みを浮かべ、フェイトは肩の力を抜く。
俺はLarkを肩に担ぐと、溜息を吐いた。
何に対して溜息を吐いたかと言えば、まあ、これから始まる茶番に対してだ。
「ありがとう、アルフくん。ここから先は私に任せてもらおうか」
そう言い、ロジャーさんはサングラスを取ると、腕時計型デバイスを口元へ近付けた。
そしてジャンプし、
……出る。
「ビッグ・0(ゼロ)、ショウターイム!」
ロジャーさんは飛行魔法に適正がないので空を飛べない。アルフから落ちたらそのまま自由落下である。
落下先には触手の群れ。正直18禁な光景だが、ロジャーさんがそこへ吸い込まれることはなかった。
そう。
あれは。
あの姿は……!
「メガデウス……!」
お約束を叫んでみるが、無論フェイトにそんなことは通じない。
彼女は呆然と眼下を見ている。
「兄さん、なんなのあれ……?!」
地面を突き破り現れた一体の巨人。
鉄の巨体。神の名の下に建造された断罪の剣。
その名は――
「ビッグ・0(ゼロ)、アクション!」
平手の両手を構え、ロジャーさんがゴーレムの内部に入り込み、吠える。
……ここから先は特に記さなくても良いだろう。
「に、兄さん! あれって質量兵器じゃないの?!」
「ああ大丈夫。ビッグ・0(ゼロ)は次元航行炉に似た『何か』で動いているから。
名目上は遺跡発掘用重機だから」
「うわ、胸から何か……今度こそ質量兵器だよね!?」
「いやいや。あれはただの発破ですよ」
「に、兄さん、肘が動いたらタコが跡形もなく吹き飛んだよ!?」
「岩盤粉砕用のパイルバンカーですよ」
フェイトの反応を、懐かしいなぁ、とか思いながらリアルにロボットが動き回る光景を見下ろす。
俺も始めてビッグ・0(ゼロ)を見たときはこんな感じだったし。
なんていうか、シュールだ。アルフも狼形態のまま口をあんぐりと開けている。
ま、信じられない光景だよね。冗談通り越して悪夢だ。
「に、兄さん! 質量保存の法則を無視して、胸から何か出してるよビッグ・0(ゼロ)!」
「……あれはヤバイ。逃げるよフェイト! アルフも!」
「あ、ああうん。分かったよエスティマ」
なんていうか描写するのが面倒。
って、ちょっと待て。射線上に遺跡があるぞロジャーさん!
『ロジャーさん落ち着いて!』
『HAHAHA! ビッグ・0(ゼロ)、ファイナルステージ!』
返ってきた念話は酷くアッパー気味なもの。
なんかもう突っ込むのもあれだから止めるだけ無駄だ。
迫り来る触手をバリアで防ぎ、光が集束、加速する。
そして臨界を迎えると同時、溜まりに溜まったSF(凄い不思議)武装は火を噴く。
魚介類の咆吼が生易しいほどの轟音。大気が焼かれる異臭を伴って、ファイナルステージは遺跡ごと魚介類を消し飛ばした。
……勝った。
勝ったけど、多分ユーノは泣くだろうなぁ。
そんなことを思いながら、フェイトとアルフを伴って俺は集落に帰還することにした。
「貴重な空白期の遺跡が……! ユニゾンデバイスが……!!」
机を叩きながら泣き崩れるユーノを横目に、思わず溜息。
あの後フェイトと一緒に集落へと戻ってロジャーさんがやらかしたことを伝えると、発掘班の皆様は揃って顔を青くした。
若干名いた赤くした人は無論激怒しているわけで、ツルハシ持ってどこかへ消えたけど俺は知らない。
身内でスプラッタとか勘弁。
……まぁ、調べるべきことは遺跡以外にも残っている。
この世界から引き上げるのはもう少し先になるだろう。
俺とフェイトは嘱託の仕事があるからそういうわけでもないが。
しっかし、今回の発掘作業は今までの中でも一等カオスだったなぁ。
フェイトが発掘作業をどう思うか心配だ。
などと思った次の日。
護衛隊に組み込まれたフェイトの格好を見て、思わず半目となったり。
「……何その格好」
「え? だって、遺跡の発掘は何があるか分からないし……」
そう言うフェイトの姿は完全武装。初っぱなからザンバーフォーム。
いや、そんな物騒じゃないから遺跡発掘の護衛。
そりゃたまに同業他社の嫌がらせとかあるけどさ。
ああいうのは稀だから……。
間違ったフェイトの認識を正すのに一時間かかった。
疲れる。
定期的に届く俺への手紙。
その中に、一枚の写真が入っていた。
幸せそうに微笑むはやてを囲んで、穏やかな笑みを浮かべているヴォルケンリッター。
……いや、違った。ヴィータだけはこっちに向かってあっかんべーしてる。
何故だ。っていうかグレアムに届く写真ってこんなだったっけ?
まあ良いけどさ、と俺はペンを取る。
こっちの家族の写真も入れた方が良いのかどうか。
修学旅行の集合写真を超えるヴォリュームになるが。
……ユーノにフェイト、アルフに俺で撮るか。
双子猫に握りつぶされる可能性もあるけど、ね。まぁ、家族の写真ぐらいセーフだろう。
はやての症状が悪化する前に此方から話し掛ければ、ヴォルケンリッターだって敵対はすまい。
一度きりだろうが、俺は双子猫の裏をかくことが出来る。誓約の指輪はプレシアに破壊されたからね。
そして、万が一俺が倒れても、フェイトたちと顔見知り程度になっておけば、最悪話ぐらいは聞いてくれるんじゃないかな。
最初から魔獣を狩って魔力を集めるのならば問題ないし、そうやって少ない犠牲だけで魔力を集め切れば管理局も最後のフルボッコに協力してくれるだろう。
遺族関係の問題は頭が痛い限りだが、そこら辺は追々。
……しかし、そうか。
もうそろそろだろう、と思っていたが、いざ始まってみると早いもんだな。
これからの行動を予定立てながら、俺は文章の内容に気を付けながらペンを走らせた。