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No.3690の一覧
[0] リリカル in wonder 無印五話 挿絵追加[角煮(挿絵:由家)](2009/04/14 12:06)
[1] 一話[角煮](2008/08/02 22:00)
[2] 二話[角煮](2008/08/02 22:03)
[3] 三話[角煮](2008/08/02 22:06)
[4] 四話[角煮](2008/08/02 22:11)
[5] 五話[角煮](2009/04/14 12:05)
[6] 六話[角煮](2008/08/05 19:55)
[7] 七話[角煮](2008/08/21 04:16)
[8] 八話[角煮](2008/08/21 04:26)
[9] 九話[角煮](2008/09/03 12:19)
[10] 十話[角煮](2008/09/03 12:20)
[11] 十一話[角煮](2008/09/03 20:26)
[12] 十二話[角煮](2008/09/04 21:56)
[13] 十三話[角煮](2008/09/04 23:29)
[14] 十四話[角煮](2008/09/08 17:15)
[15] 十五話[角煮](2008/09/08 19:26)
[16] 十六話[角煮](2008/09/13 00:34)
[17] 十七話[角煮](2008/09/14 00:01)
[18] 閑話1[角煮](2008/09/18 22:30)
[19] 閑話2[角煮](2008/09/18 22:31)
[20] 閑話3[角煮](2008/09/19 01:56)
[21] 閑話4[角煮](2008/10/10 01:25)
[22] 閑話からA,sへ[角煮](2008/09/19 00:17)
[23] 一話[角煮](2008/09/23 13:49)
[24] 二話[角煮](2008/09/21 21:15)
[25] 三話[角煮](2008/09/25 00:20)
[26] 四話[角煮](2008/09/25 00:19)
[27] 五話[角煮](2008/09/25 00:21)
[28] 六話[角煮](2008/09/25 00:44)
[29] 七話[角煮](2008/10/03 02:55)
[30] 八話[角煮](2008/10/03 03:07)
[31] 九話[角煮](2008/10/07 01:02)
[32] 十話[角煮](2008/10/03 03:15)
[33] 十一話[角煮](2008/10/10 01:29)
[34] 十二話[角煮](2008/10/07 01:03)
[35] 十三話[角煮](2008/10/10 01:24)
[36] 十四話[角煮](2008/10/21 20:12)
[37] 十五話[角煮](2008/10/21 20:11)
[38] 十六話[角煮](2008/10/21 22:06)
[39] 十七話[角煮](2008/10/25 05:57)
[40] 十八話[角煮](2008/11/01 19:50)
[41] 十九話[角煮](2008/11/01 19:47)
[42] 後日談1[角煮](2008/12/17 13:11)
[43] 後日談2 挿絵有り[角煮](2009/03/30 21:58)
[44] 閑話5[角煮](2008/11/09 18:55)
[45] 閑話6[角煮](2008/11/09 18:58)
[46] 閑話7[角煮](2008/11/12 02:02)
[47] 空白期 一話[角煮](2008/11/16 23:48)
[48] 空白期 二話[角煮](2008/11/22 12:06)
[49] 空白期 三話[角煮](2008/11/26 04:43)
[50] 空白期 四話[角煮](2008/12/06 03:29)
[51] 空白期 五話[角煮](2008/12/06 04:37)
[52] 空白期 六話[角煮](2008/12/17 13:14)
[53] 空白期 七話[角煮](2008/12/29 22:12)
[54] 空白期 八話[角煮](2008/12/29 22:14)
[55] 空白期 九話[角煮](2009/01/26 03:59)
[56] 空白期 十話[角煮](2009/02/07 23:54)
[57] 空白期 後日談[角煮](2009/02/04 15:25)
[58] クリスマスな話 はやて編[角煮](2009/02/04 15:35)
[59] 正月な話    なのは編[角煮](2009/02/07 23:52)
[60] 閑話8[角煮](2009/02/04 15:26)
[61] IFな終わり その一[角煮](2009/02/11 02:24)
[62] IFな終わり その二[角煮](2009/02/11 02:55)
[63] IFな終わり その三[角煮](2009/02/16 22:09)
[64] バレンタインな話 フェイト編[角煮](2009/03/07 02:27)
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[3690] 三話
Name: 角煮◆904d8c10 ID:63584101 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/09/25 00:20
夜空に魔力光の尾を引いて走る者がいる。

赤い、ドレスにしか見えない騎士甲冑。ゲートボールスティックに似たハンマー。

ヴィータは、いるような、いないような、とぶつぶつ呟きながら空をそれほど早くない速度で進んでいた。

彼女がここにいる理由は魔力の蒐集ではなく、姿を消したシグナムと闇の書の捜索だ。

半月前、はやての友人が遊びに来たその日から、シグナムは家に帰ってきていない。

散歩に出るような口ぶりで外に出て、それっきり。

何か事故にあったのでは、とはやては塞ぎこみっぱなしだが、それはない、と残ったヴォルケンリッターは理解している。

烈火の将と名付けられたリーダーの彼女が姿を消す。それには何か理由があるはずなのだ。

だが、それも推測することしか出来ない。

いくら念話で呼びかけてみても返事はなく、どこにいるのかもさっぱり分からない。

……シグナム、闇の書なんてもん持ち出しやがって。

彼女が自分たちを裏切って闇の書を手土産に管理局に駆け込むようなことは有り得ない。

だとしたら、彼女がやっていることは。

簡単に予想が出来る故に、ヴィータは不機嫌そうな顔を一層歪ませる。

はやては闇の書を覚醒させようだなんて思っていない。ただ一緒に暮らしてくれれば良いとだけ言ってくれているというのに、シグナムは何を考えているのだ。

「……まさか、自分だけ手を汚してはやての足を治そうだなんて考えちゃいねーだろうな」

ふざけんな、と悪態を吐く。

主に忠誠を誓った身だというのに、何を勝手なことを考えているのだろうか。

第一、自分を仲間外れにして動いているのが気に入らない。

四人一組で自分たちはヴォルケンリッターと呼ばれているのだ。だというのに、一人で決めて一人で動いているなんて。

はやての元へと転生する前からずっと仲間だと思っていたのに。

「気に入らねぇ。見つけたら一発ぶちかましてやる」

神経を研ぎ澄ませて魔力を感知しながら、海鳴の街を捜索する。

まだ眠っていない街灯りを眺め――

妙に強い魔力を見つけ、目を細めた。

シグナムとは違うが、もし魔力を蒐集したならば一気に十ページはいけそうなほど。それが二つも存在している。

その他にも、それなりの魔導師が何人か。雑魚がたくさん。

管理局かな、とヴィータは内心で独りごちる。

辺境世界でこんな規模の魔導師を投入する連中など、ヴィータはそれしか知らない。

念には念を、と思い、ヴィータは自らのバリアジャケットを――偽装スキンの亜種で――管理局のものへと変えた。

はやての作ってくれた騎士甲冑を隠すのは癪だが、仕方がない。

……シグナムが闇の書に喰わせているなら、獲物を逃すはずはねぇ。

誘蛾灯に誘われるように、ヴィータは魔力反応の飛んでいる場所、人気の減ったビジネス街へと辿り着く。

索敵網に引っ掛かるか否か、といった場所に降り立つと、

「ここら辺だと思うんだけどな……」

アイゼンを肩に担ぎ、溜息を吐く。

網を張っていれば顔を見せる可能性もあるだろ。

手すりに腰をかけつつその時を待つ。

そうして五分ほど経った頃だ。

「あの、すみません」

「……なんだ?」

声をかけられ、いかにも不機嫌です、といった感じでヴィータは振り返る。

そこにいたのは外見年齢だけは自分と近そうな少年。

ハニーブロンドに碧の瞳。どこかの部族服を身に付けているのが特徴か。

彼は警戒した様子でこちらに近付きつつ、こんばんは、と頭を下げる。

「持ち場を離れないでください。ハラオウン執務官が苛立ってますよ」

「ん、ああ。わりーな」

執務官。また面倒な。

シグナムの馬鹿、ドジりやがった、と内心で悪態を吐いてヴィータは足をぶらぶらとさせた。

妙に強い魔力があると思ったらそういうことか。下っ端だけではなく、執務官まで出張っているとは。

自分もそれに誘われた口なので烈火の将を馬鹿にすることは出来ないだろうが、厄介な組織に目をつけられたことに変わりはない。

管理局のやり口は今までの経験で良く知っている。

最初の内は出し抜けるとしても、真綿でじわじわと首を絞められるように、最後は捕まってしまう。

シグナムが捕まったら芋蔓式にはやてまで見つかる可能性だってある。

それは駄目だ。それは非常にいただけない。

そんなことになったらはやては悲しむだろうし、自分たちだって主と離れ離れになりたくないのだ。

……そして何より、はやてをアルカンシェルで吹っ飛ばすことなど許さない。

どうせ最後はそうなるんだから、と諦めに近い憎悪を抱きながら、ヴィータは少年から視線を外した。

「ちょっと息抜きしているだけだって。良いだろ?」

「……早めに持ち場へ戻ってくださいね」

「分かってるよ」

「そうですか」

溜息が聞こえた。

それが酷く呆れた調子だったので、ヴィータの額に青筋が浮かぶ。

だが、我慢だ。

シグナムがこの場に出るかもしれないのだから、ここに居座る価値はある。

見つけたら取り合えず一発ぶん殴って、はやてに土下座。

それで許してやろう。

だから早く出てくれば良い。

もし管理局が帰るのを邪魔するなら、二人で突破してやる。

自分まで管理局に睨まれる様な思考で、ヴィータを手すりから動こうとしなかった。

ふと、振り返ると、少年の姿はなくなっていた。

……変な奴。妙に殺気立ってやがったし。

まあ良い。自分には関係のないことだ。

へっ、と笑い声を上げ、ヴィータは膝に肘をついて頬杖をかいた。

「……シグナム、早く出てこいよ」























リリカル in wonder



















「やっぱり、あの剣士じゃなかったよ。注意はしてきた」

「そうか。すまないな」

ディスプレイに走る文字を高速で追っているクロノはそれだけ言い返すと、再び作業に戻った。

その様子に、やれやれ、と肩をすくめて、ユーノは所定位置へと戻る。

ビジネス街を中心として巨大な円を描くように配置された管理局の武装隊。

その真ん中には、デバイスフォームのバルディッシュを抱きかかえたフェイトの姿がある。

その傍らにはアルフとなのは。

無表情のままで地面に座り込んでいるフェイトを見る二人は、そのどちらも沈んだ表情をしていた。

……半月経っても元には戻らない、か。

当たり前だろうけど、と思いつつ、ユーノは夜空に視線を向ける。

エスティマが死亡――否、重傷を負ってから、PT事件で管理局へと加わったメンツに笑顔が戻ることはなかった。

アルフはかいがいしく主人の世話を焼いているが、フェイトは一向に回復しない。

反応はするのだが、一切口を開こうとしないのだ。

彼女が何を考えているのかユーノにも分からない。

エスティマが死んだ、と知らされた直後よりはマシだと言っても、それだけだ。

むしろ、反応がない分質が悪い。

沈んでいるならば励ませばいいし、悲しんでいるならば宥め賺せばい良い。

しかし、無反応となると、どういった接し方をすれば良いのかすら分からないのだから。

……こんな状態で敵を捕獲することなんて出来るのか。

管理局の魔導師を馬鹿にしているわけではない。だが、向こうはたった一人で管理局に立ち向かっている狂人であり、強敵だ。

フェイトはこんな状態だし、なのはは未だにエスティマの死体を見たショックが抜け切れていない。それこそ、この場に立つという選択をしたことが意外なほどに。

クロノがいるのが唯一の救いとも思えるが、彼も彼で相当に参っているようだ。

視線を向けてみれば、クロノは据わった目でずっとディスプレイを睨んでいる。

……彼はエスティの死を悲しんでくれているのだろうか。

そう考え、いや、と頭を振る。

あまりクロノのことを知っているわけではないが、それでも彼は真っ当な執務官だ。私情をなるべく仕事に挟もうとしないような。

人間味が薄い、と言ってしまえば終わりだが、しかし、仕事をする姿勢としては好ましい。

……そんな彼にエスティマのことを考えているのかどうかと聞くことなど、出来るわけがない。

もし、そんなことを考える余裕など、なんて言われたら、変な確執を抱いてしまいそうだ。

無論、こちらからの一方的なものだが。

……こんな馬鹿げたことは早く終わりにしたい。早くエスティマの仇を捕らえて、元の生活に戻りたい。

日増しに強くなるそれは、鬱屈とした感情を持ち続けていることと相まって、急かすように自分から余裕を奪ってゆく。

こんな状態が続いたら、その内――

『魔力反応! 識別は――』

不意に鳴り響いた通信と、次いでノイズの音。

それにクロノは舌打ちをして、宙に浮かんだディスプレイのキーを叩く。

それで結界が展開され、人の暮らす世界と戦場は隔絶された。

カメラの視点が切り替わり、倒れ伏した局員の胸へ腕を突き刺している女が映る。

……忘れもしない。あれは――

今すぐにでも飛び出したい感情をぐっと堪え、ユーノはフェイトに視線を送る。

彼女は未だに俯いたままだ。

通信が飛び交う中で一人静かに座り込んでいる。

『アルフ。フェイトの守りは任せたよ』

『ああ。下手を打つんじゃないよ、ユーノ』

うん、と頷き、ユーノは飛行魔法を発動する。

見れば、なのはもフライヤーフィンを展開して宙へと身体を浮かばせていた。

行こう、と頷き――

「待て、ユーノ。君はここにいるんだ」

クロノの声に、ユーノは思わず眉根を寄せた。

見れば、彼はS2Uを起動させて飛行を開始している。

「フェイトを守ってやれ。兄だろう、君は」

「それならアルフが――」

「彼女はヴォルケンリッターをおびき寄せる餌としてここにいる。だが、本人が望んだことだとしても、危険に曝すわけにはいかない。
 現在は一人しか動いていないが、敵に仲間がいるのは過去の事例から分かっている。
 武装隊も数人置いてゆく。……もう一度言おう。彼女を守ってやれ、ユーノ。エスティマとフェイトの兄なんだろう、君は」

「……分かってるよ」

そんなことは言われなくたって分かっている。

だが、それを他人に言われたことにより、苛立ちが増す。

適材適所。自分に出来ることは守ること。

……だが、それでも、自分はあの女から聞きたいことがいくつもある。

それを確かめるために、戦場へと赴きたいが――

兄なんだ、僕は。

ぐっと唇を噛み締めて、ここ半月で酷く傷付いた粘膜から再び血を滲ませ、ユーノは地面に降り立った。





























数は質に勝るというのが常識だが、この戦場では、それが覆されていた。

話は単純なことで、敵の質が数を上回っているだけ。

その敵――ヴォルケンリッターのシグナムは、レヴァンテインを振るい、魔力光を纏う甲冑を煌めかせながら、夜のビジネス街を疾駆していた。

局員の射撃魔法をものともせずに突撃し、切り伏せ、強い魔力を持っている者は魔力蒐集の対象とする。

また一人、切り伏せる。

今の敵は手応えがあった。

シグナムはバリアジャケットを切り裂かれ、胸から血を溢している局員の胸へと右手を突き込む。

そうしてえぐり出したのはリンカーコア。

魔力光を放つ光体を掌に収めながら、魔力を奪い、夜天の書に充填される。

一頁、二頁、三頁。怪我を負わせたのだ。これ以上の魔力を奪えば命に係わるが――

……四頁、五頁。

絞りカスすら残さず、ただ貪欲にシグナムは魔力を奪う。

パタン、と音を立てて夜天の書を閉じると、騎士甲冑のポケットへと仕舞い込む。

立ち去るシグナムの表情に迷いはない。

謝罪をすることもなく、振り返ることもなく、彼女は最も強い魔力のある場所へと、脚を向ける。

ただ機械的に、コツコツと、獲物が寄ってくるように足音を立てて進む。

……蒐集対象への謝罪は、最初の三日でしなくなった。

悔しさや虚しさは、五日目で感じなくなった。

十日目にもなれば、向けられる憎悪に関心がなくなった。

現在では、自分がただのプログラムであることに疑問すら抱かなくなっている。

敵を狩り、魔力を奪う魔力で編まれた人形。

それ以外に自分を表す言葉はないだろう、とすら考えている。

不意に、シグナムは脚を止めた。

念話が届いた。ほんの少しの間しか離れていなかったというのに、随分久し振りに感じられる戦友の声。

それに短く念話を返し、シグナムは歩みを再開する。

そして――

「そこまでだ」

頭上から聞こえた声に、彼女は顔を上げる。

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。今すぐ戦闘行動を――」

『Explosion』

返事はカートリッジロード。

シグナムはレヴァンテインを構え、クロノはなのはを背後に庇いながら、S2Uを突き出す。

言葉は無用、とばかりにシグナムは踏み込んだ。

ダン、と力強い音がビルの合間に響き渡り、彼女は空を疾駆する。

迎え撃つようにスティンガーレイが放たれるも、パンツァーガイストに弾かれて有効打には至らない。

舌打ち一つ。

『なのは、僕が足止めをする!
 君は援護を!』

『……うん』

「お、お願い、レイジングハート」

『all right』

桜色の誘導弾が彼女を中心にして宙に浮かぶ。

半端な攻撃は無意味。故に、なのははクロスファイアの集束を始めようとするが、

「紫電――」

跳躍と共にシグナムはレヴァンテインを振りかぶる。

クロノはシールドを展開して一撃を耐え、動きを止めようと判断するが、

「――、一閃!」

炎を纏った斬撃。インパクトの瞬間、業火が噴き上がる。

斬撃に魔力のブーストと炎熱を追加した一撃。

烈火の如く苛烈な一撃。

それを受けてクロノの展開したシールドは軋みを上げるが、それは一瞬だ。

刹那の内に引き裂かれ、咄嗟に引き寄せたS2Uごと断ち切られる。

クソ、と悪態を吐きながらも、クロノはデバイスの補助なしで魔法を構築。同時に、リカバリーを実行。

修復を開始したS2Uに纏われる魔力光を目眩ましに、バインドが幾重にもシグナムに殺到するが、無駄だ。

パンツァーガイストがアイスブルーの拘束具を弾き、再びカートリッジロード。

『Sturmwinde』

陣風が放たれる。

レヴァンテインを中心に放たれた衝撃波はクロノとその背後にいるなのはを打ちのめし、撃墜。

アスファルトへと叩き付けられ、なのはは咳き込み、クロノは咄嗟に起き上がろうとするも――

『Schlangeform』

瞬間、レヴァンテインが変形を行う。

蛇のように連結刃がのたうち、跳ね、ビルに囲まれた空間を蹂躙する。

「――っ!?」

『クロノくん!』

飛来した刃から咄嗟に身を守ろうとラウンドシールドを展開するが、それは囮。

足元に這い寄った切っ先に足を取られ、宙に持ち上げ、ビルへと叩き付ける。

轟音に一拍遅れて粉塵が巻き上がり、ガラスの破片が月光を反射して煌めく。

なのははクロノへと念話を送るが、返事はない。

直前まで保持していたクロスファイアは動揺で消え失せ、指示を、とレイジングハートから声が上がるも、彼女は動けなかった。

ざり、と靴裏が砂を噛む音。

はっとして顔を上げると、そこにはシグナムの姿があった。

連結刃となっていたレヴァンテインは剣へと戻り、その切っ先は自分へと向けられている。

月明かりに照らされた白刃に、彼女自身が剣であるかのような眼光。

――殺される。

シグナムを前にして、なのはの脳裏にはそんな言葉が沸き上がってきた。

この人はエスティマくんを殺した人。だから、きっと私も殺される。

手の中にあるレイジングハートがカタカタと揺れ、息が上がっているというのに、寒気が襲ってきた。

脳裏に血塗れの友人が再生され、身の震えを我慢できなくなる。

「あ……あ……」

頑張らなくちゃ。口を開かないと。

そう考えるも、身体は一向に言うことを聞いてくれない。

自分がここにいるのは、戦うためなんかじゃない。

何故エスティマを殺したのか。それを聞いて、話し合うために戦場へと出てきたのだ。

なのに、肝心な言葉は出てきてくれない。

喉は引きつり、しゃくり上げるようにしか、吐息が漏れるだけだ。

『master!』

レイジングハートの叫びで、びくり、となのはは身を震わせる。

「あ……あの……」

ようやく形を持った言葉が紡がれた。

……大丈夫。喋れる。

深呼吸して息を整え、なのはは口を開き――

「紫電――、一閃!」

レイジングハートごと、なのははシグナムの斬撃を受けた。

身を庇うよう、咄嗟にレイジングハートを持ち上げるが無意味。クロノのS2Uと同じように断ち切られ、斬撃はバリアジャケットへと到達する。

リアクターパージ。

自らの身を守るために防護服が破裂して、衝撃で吹き飛ばされる。

斬撃を受けるよりはマシかもしれないが、胸を中心に発した衝撃はなのはの胸骨にひびを入れ、息が詰まる。

ゴロゴロと為す術もなくアスファルトを転がり、ようやく停止した時、全身の痺れで立ち上がることができなかった。

話さないと。動かないと。

そう思うも、指一本だって動いてくれない。

視界の隅には中央から二つに切断されたレイジングハートが転がっている。

いつの間に手放してしまったのだろう。

これじゃあ戦えない。自分の身を守ることだって出来ない。

じわり、と視界が歪む。

……私、何もできないのかなぁ。

友達になってくれたフェイトを元気づけることもできず、エスティマが何故殺されたのかも知ることができず。

怯えてクロノの足を引っ張って協力することもできず、殺されてしまうのだろうか。

「……いや」

体中が痺れているにもかかわらず、なのはは地面を這う。

「やだ……そんなの、やだよ」

怖い。

何もできない自分を認めるのが怖い。

魔法という力を手にしたのに、友人を助けることもできずにいる自分が怖い。

これじゃあ一人でいるのと一緒だ。

魔法という繋がりがなくなってしまったら、なんて考えることが怖くて仕方がない。

……こんなところで死んでしまうのが、怖くて怖くて仕方がない。

「レイジングハート……」

手を伸ばす。

なのはの呟きに呼応するように、レイジングハートのコアに弱々しい光が宿った。

戦わないと。

そう、強迫観念じみた思考で、ただ、手を前へ――

だが、その手が届くことはなかった。

硬質な音を上げて、レイジングハートが踏みつけられる。

顔を上げれば、そこには敵の姿。

襟首を掴んで引き摺っていたクロノを無造作に放り投げると、手甲に包まれた腕をなのはに伸ばしてくる。

目を見開き、身を捩って避けようとするが、それは叶わない。

無理矢理に仰向けにされると、シグナムはなのはの胸に手を沈ませた。

身体の中心が鷲掴みにされる感覚。

そして引きずり出されたのは、桜色の輝きを放つ光体だ。

「あ……ああ……」

リンカーコアから徐々に光が失われてゆく。

胸の中から大切な何か――力が略奪されてゆき、思考が解けてゆく。

頬に何かが流れる感触。

……ああ、泣いているんだ、と自覚した瞬間、諦めが重くのし掛かってきた。

それに抗うことなく、なのはは意識の手綱を手放した。




























周りがすごくうるさい。

少しだけ苛立ちを感じながらも、ただフェイトは無感情に顔を膝の合間に埋める。

誰かがずっと話し掛けてくるが、そのどれもが耳を素通りしてしまう。

意味を上手く理解できない。

思考を放棄している彼女は、自分のことすらも考えることができず、座り続ける。

……否、彼女は何も考えていないわけではない。

頭の中にずっとあるのは、兄はまだ迎えに来てくれないのだろうか、という疑問だけだ。

生きているのは嬉しかったけど、でも、どうして姿を見せてくれないのだろう。

最初の内は我慢できたが、もう限界が近い。

寂しくて寂しくてどうにかなってしまいそう。

……早くきてくれないかなぁ。

そう思い、

ぐい、といきなり腕を掴まれた。

顔を上げれば、アルフが何かを叫んでいる。

また違うところに行くのかな、どうでも良い、とすぐに思考を打ち消し――

フェイトは目を見開いた。

偶然、視界の隅に留まったウィンドウ。

そこに映っている『敵』の姿を見て、停止しかけていた頭が回り始める。

――許せない。

――許さない。

――許しはしない。

焦点を失っていた瞳に烈火が宿り、瞬時に燃え上がって業火となる。

瞬間、世界が音を取り戻し――

「……見つけた」

「どうしたんだい? ほら、行こう、フェイト」

「邪魔しないで!」

腕を掴んでいたアルフをはね除け、バルディッシュを掴む手に力を込める。

グローブがぎちりと悲鳴を上げ、しかし、それでも力を緩めない。

「………………兄さん」

『Get set』

「……兄さん」

『Load Cartridge』

バルディッシュは主人の意志を酌み、カートリッジを炸裂させる。

回数は六回。

一度に全弾を使い果たし、フェイトはすぐに排莢してクイックローダーで装填を行う。

「兄さん……!」

『Zamber form』

「兄さんが……!」

『Sonic form』

マントが消失し、防護服が意味を失う。

金色の大剣を構え、前傾姿勢で、リアクターフィンに魔力を送り込む。

血が頭を巡り、思考が焼け付く。

ああ、そうだ。

何故気付かなかっただろう。

兄さんが迎えにこれないのは、

「……殺してやる」

『kill mode』

きっと、アイツがいるからだ。

アレを倒せば絶対に兄さんは帰ってくる。

だから殺す。

殺して、兄さんを取り戻す。

「アハハ……!」

『Sonic drive.
 Ignition』

「アハハハハ……!」

瞬間、フェイトの姿が掻き消える。

哄笑だけをその場に残して、彼女は愛する兄を奪った仇へと肉薄した。




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