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No.3690の一覧
[0] リリカル in wonder 無印五話 挿絵追加[角煮(挿絵:由家)](2009/04/14 12:06)
[1] 一話[角煮](2008/08/02 22:00)
[2] 二話[角煮](2008/08/02 22:03)
[3] 三話[角煮](2008/08/02 22:06)
[4] 四話[角煮](2008/08/02 22:11)
[5] 五話[角煮](2009/04/14 12:05)
[6] 六話[角煮](2008/08/05 19:55)
[7] 七話[角煮](2008/08/21 04:16)
[8] 八話[角煮](2008/08/21 04:26)
[9] 九話[角煮](2008/09/03 12:19)
[10] 十話[角煮](2008/09/03 12:20)
[11] 十一話[角煮](2008/09/03 20:26)
[12] 十二話[角煮](2008/09/04 21:56)
[13] 十三話[角煮](2008/09/04 23:29)
[14] 十四話[角煮](2008/09/08 17:15)
[15] 十五話[角煮](2008/09/08 19:26)
[16] 十六話[角煮](2008/09/13 00:34)
[17] 十七話[角煮](2008/09/14 00:01)
[18] 閑話1[角煮](2008/09/18 22:30)
[19] 閑話2[角煮](2008/09/18 22:31)
[20] 閑話3[角煮](2008/09/19 01:56)
[21] 閑話4[角煮](2008/10/10 01:25)
[22] 閑話からA,sへ[角煮](2008/09/19 00:17)
[23] 一話[角煮](2008/09/23 13:49)
[24] 二話[角煮](2008/09/21 21:15)
[25] 三話[角煮](2008/09/25 00:20)
[26] 四話[角煮](2008/09/25 00:19)
[27] 五話[角煮](2008/09/25 00:21)
[28] 六話[角煮](2008/09/25 00:44)
[29] 七話[角煮](2008/10/03 02:55)
[30] 八話[角煮](2008/10/03 03:07)
[31] 九話[角煮](2008/10/07 01:02)
[32] 十話[角煮](2008/10/03 03:15)
[33] 十一話[角煮](2008/10/10 01:29)
[34] 十二話[角煮](2008/10/07 01:03)
[35] 十三話[角煮](2008/10/10 01:24)
[36] 十四話[角煮](2008/10/21 20:12)
[37] 十五話[角煮](2008/10/21 20:11)
[38] 十六話[角煮](2008/10/21 22:06)
[39] 十七話[角煮](2008/10/25 05:57)
[40] 十八話[角煮](2008/11/01 19:50)
[41] 十九話[角煮](2008/11/01 19:47)
[42] 後日談1[角煮](2008/12/17 13:11)
[43] 後日談2 挿絵有り[角煮](2009/03/30 21:58)
[44] 閑話5[角煮](2008/11/09 18:55)
[45] 閑話6[角煮](2008/11/09 18:58)
[46] 閑話7[角煮](2008/11/12 02:02)
[47] 空白期 一話[角煮](2008/11/16 23:48)
[48] 空白期 二話[角煮](2008/11/22 12:06)
[49] 空白期 三話[角煮](2008/11/26 04:43)
[50] 空白期 四話[角煮](2008/12/06 03:29)
[51] 空白期 五話[角煮](2008/12/06 04:37)
[52] 空白期 六話[角煮](2008/12/17 13:14)
[53] 空白期 七話[角煮](2008/12/29 22:12)
[54] 空白期 八話[角煮](2008/12/29 22:14)
[55] 空白期 九話[角煮](2009/01/26 03:59)
[56] 空白期 十話[角煮](2009/02/07 23:54)
[57] 空白期 後日談[角煮](2009/02/04 15:25)
[58] クリスマスな話 はやて編[角煮](2009/02/04 15:35)
[59] 正月な話    なのは編[角煮](2009/02/07 23:52)
[60] 閑話8[角煮](2009/02/04 15:26)
[61] IFな終わり その一[角煮](2009/02/11 02:24)
[62] IFな終わり その二[角煮](2009/02/11 02:55)
[63] IFな終わり その三[角煮](2009/02/16 22:09)
[64] バレンタインな話 フェイト編[角煮](2009/03/07 02:27)
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[3690] 十三話
Name: 角煮◆904d8c10 ID:63584101 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/10/10 01:24

本局に着くと、ユーノによって連れてこられたはやては、その場にいたクロノの裁量ですぐに保護されることとなった。

なのはが彼に、ヴォルケンリッターが勝手に動いていた、という一言を言ったのが大きいだろう。

もしユーノに任せていたら、そのまま逮捕という流れになっていたはずだ。

ユーノは早々になのはたちと別れ、クロノについて行ってしまった。

残されたなのはは、一人になったはやて――ヴィータとザフィーラは事情聴衆のためにいない――に付き添って一緒にいる。

本局の一室。客室であろう部屋はきちんと整理されており、置いてある調度品はどこか高価な印象を受ける。

そんな雰囲気にどこか居心地の悪さを感じながらも、なのははいやに柔らかなソファーの上で姿勢を正し、視線を送る。

車いすに座った子。八神はやて。

彼女は目元を真っ赤に泣き腫らした顔を俯かせ、ずっと黙り込んでいた。

……この子が、闇の書の主。

なのはは、その危険極まりないロストロギアと目の前の子がどうしても結びつかなかった。

今まで何度もシグナムと戦い、たくさんの犠牲者を目にして、主人はどんな酷い人なのだろうと思っていたが、蓋を開けてみればその正体は自分と同い年の女の子だ。

しかもどうやら、シグナムが何をしていたのか知らないらしい。

海浜公園で謝り続けていた彼女の様子からして、それは本当なのだろう。

……どんな子なのかな。

ふと、そんな好奇心が浮かび上がってくる。

ユーノの話によると――多分に彼の主観が混じっていたが――この子はエスティマを騙して文通をしていたらしい。

騙している騙していない云々はとにかく、手紙のやりとりをしていた所は自分とフェイトと一緒だ、と考え、友達なんだろうな、と思い至る。

……悪い子じゃ、ないんじゃないかな。

「あの……」

声をかける。

しかし、はやてはびくりと、まるで怒られたように身体を震わせただけで顔をあげようとしない。

彼女の反応に、どうしようか、と迷ってしまうが構わずなのはは言葉を続ける。

「私、高町なのは。エスティマくんのお友達。
 あなたは?」

「……はやて。八神はやて」

たっぷり十秒ほどをかけてようやく口を開き、はやてはなのはに言葉を返した。

それになのはは頬を緩めると、うん、と小さく頷く。

「うん、はやてちゃん。
 はやてちゃんは海鳴に住んでいるんだよね?
 私、聖祥に通っているの。あなたはどこの学校?」

「私、身体が弱くて、今休学中なん……」

「そうなんだ。……ごめんね」

「ええよ、別に」

どうでも良い、とばかりに、はやてはどこか自虐的な笑みを浮かべる。

……嫌な笑顔なの。

どうしてこんな顔をするのだろう。いや、やっぱりショックだったんだ。

シグナムが誰にも言わずに人を殺していたことか。エスティマを傷付けたのが彼女だったからか。

それとも、その両方か。

「はやてちゃん。シグナムさんって、どんな人だったの?」

「……え?」

「あの人がはやてちゃんにとってどんな人だったのか、知りたいんだ。
 教えてくれる?」

「……うん」

そこから、はやては喋りづらそうにしながらも、シグナムがどんな人だったのかを教えてくれた。

無愛想に見えてもそんなことはなくて、みんなのことをよく見てくれる優しい人。

少し離れたところで家族のやりとりを楽しそうに見ている眼差しは柔らかかった。

怖いと思う人もいるかもしれないけど、面倒見がすごく良くて、近所の道場で子供の面倒だって見ていた。

少し厳しいお姉さんができたみたいで、嬉しかった。

そこまで言って、けど、と繋ぎ、

「……シグナムは優しいって、思っとった。
 けど今は、ほんまにせやったのか分からへん。
 本当はこんな私に嫌気が差して、それで家から出て行ったのかもしれへん。
 家族だって思っていたのは……私だけやったのかなぁ」

堪えられなかったのか、再びはやては嗚咽を漏らす。

そんな彼女を見て、なのははどう言葉をかけて良いのか分からなかった。

はやてが最後に漏らした言葉。

そんなことはない、と言ってあげることが、彼女にはどうしてもできなかったのだ。

はやてがどんなにシグナムを良く言おうと、彼女がやったことに変わりはない。

そんな人を庇うことが、どうしてできるのか。

なのはは、シグナムのやったことでどれだけの人が傷付いたのか知っている。

身近な、事件が始まるまでは本当に仲が良かった友達はバラバラになり、戦場に出ればはやての言葉を否定するように戦っているヴォルケンリッターの姿がある。

今自分が分かるのは事実だけだ。彼女がどんな人なのかなど、結局のところは分からない。

……この話題は駄目だね。

はぁ、とはやてに気付かれない程度に溜息を吐き、なのはは沈み始めた表情を再び笑顔に変える。

はやてが泣き止むのを待つと、なのははゆっくりと言葉をかけた。

「あの、はやてちゃん。エスティマくんとは、どこで知り合ったの?」

「え、あ、その……」

ぐすぐすと鼻を鳴らしながらも、彼女は必死に言葉を返そうとする。

「怪我してるフェレットを拾って……エスティマくんが、その子の飼い主で。
 それで、知り合ったんや」

「そうなんだ」

変なところが自分と似ている。

……あれ? エスティマくんって、フェレット飼ってたっけ?

もしかして、と思いながらも疑問を頭の隅に置き、会話を続行。

「私も少し前までフェレットを飼っ……一緒に暮らしてたんだ。
 はやてちゃんが拾ったフェレットさんは、どんな子だったの?」

「うん。珍しい種類みたいで、兎さんみたいに真っ赤な目で狐みたいに金色の毛の子。
 黄色い宝石のついた首飾りをしてて……名前は『エスティマ』くんゆうて、元気な子やった」

うわぁ……やっぱり。

口元が引き攣りそうになるのを我慢しながら、あはは、と笑い声をあげる。

もしかしたらPT事件の時の宿というのは、この子の家だったのかもしれない。

……だとしたら、やっぱり悪い子じゃないのかな?

シグナムはともかく、と内心で付け加えるが。

「元気そうだね、その子。なんとなく無茶をしそうなぐらい。
 ペットは飼い主に似るのかな?」

「エスティマくん、無茶をするん? 大人びてたから、あんまそない感じしなかったけど」

「すごいするんだよ! もう、見た人全員が真っ青になるぐらい!」

どこか怒ったように声を上げるなのはに、そうなん、と驚くはやて。

「なのはちゃんと私じゃ、やっぱり接し方とか違うのかなぁ……」

「……え?」

「私、友達少ないからか、エスティマくんがどないな人なのか分からなかったみたいやし。
 すぐに浮かれて、その人のこと何も知ろうとしなくて……本当、駄目やなぁ」

気持ちは分かるけど、なんですぐに暗くなるの!?

頭を抱えたい気分になりながらも、なのはは精一杯それを堪える。

どうやったらこの子を元気づけることができるのだろう。

そんなことを考えながら、彼女は必死に頭を回転させた。























リリカル in wonder





















「よう。遅かったじゃないか」

「エスティ! 黒幕って、どういうことなのさ!」

開口一番、ユーノはそんなことを言ってエスティマに詰め寄った。

戸惑った様子。どうしたものだか、と呆れたクロノに、エスティマから念話が届く。

少し時間をくれないか。それに許可を出すと、エスティマはユーノに事情を説明する。

簡単な説明だけでもここで済ませておくべきだろう。

「今回の闇の書事件は仕組まれたものだったんだ。
 闇の書の永久封印を目論んだ一人の人間が暴走した結果の。
 被害が出るのを分かっていながらも、ヴォルケンリッターを放置し続けていたんだ」

「……その人のせいで、エスティは酷い目に遭ったのかな?」

「まぁ、そうなるか。色々と酷い目に遭ったし」

「そう」

エスティマの言う酷い目、というのはユーノは理解していないだろう。

PT事件の最中に行われた脅迫。実行した使い魔の発言もあるし、それは確実だ。

それ以外にも色々と罪状はある。

永久封印を行うために必要なデバイスの作成依頼。それだけならば良いが、違法な手段に協力を要請するだけで充分に駄目だ。

それに、管理局のサーチにジャミングをかけた公務執行妨害。

私情で提督の権限を利用し、高ランク魔導師を出し渋った――これはヴォルケンリッターを撃破されたくなかったためだろう――こと。

現時点でこれだけの問題が出ているのだ。調べれば余罪はまだあるはず。

胃に穴が空くような心地となりながらも、クロノはエスティマとユーノを連れてグレアムの元へ行く。

表情だけはいつもの、むすっとしたもののまま、クロノは僅かに唇を噛み締めた。

……どうしてあの人が。いや、あの人だから、か。

脳裏にグレアムの柔らかな笑みが浮かび、そうだな、と呟く。

自分の父親の死。その引き金を引いた彼が罪悪感を抱いても無理はないか。

考えてみれば、自分の面倒を教導隊に務めている使い魔の姉妹に任せたのも贖罪の一つだったのかもしれない。

力を望み、最高と言っても良い環境を整えてくれた恩師。

執務官になれたことだって、彼の後押しが少しはあったはずだ。

感謝してもしきれないぐらいの恩がある。

それをこれから、仇で返すつもりなのか、自分は。

……いや、そうするべきだ。

私情は捨てなければならない。

執務官なのだ、自分は。誰に何を言われ、思われようと、仕事を果たさなければならない。

『クロノ。その……大丈夫か?』

『心配いらない。仕事はする』

『……悪い』

『何がだ?』

『なんでもないよ』

エスティマの念話を聞き、お節介焼きめ、と眉間に皺を寄せながらも、クロノは脚を進める。

そしてグレアムの執務室を前にして深呼吸をすると、ドアを開いた。

部屋の中は照明が付いておらず、中央に置かれた応接用テーブルの上に置かれたランプが唯一の光源だ。

それが照らし出している恩師は、写真立てに向けていた視線をこちらへと向ける。

彼の視線を受けて、クロノはどう言葉をかけて良いのか分からなくなるが、

「……グレアム提督。あなたを逮捕します」

なんとかそれだけを、絞り出すように紡いだ。

クロノの言葉にグレアムは苦笑すると、部屋の照明を点ける。

ライトで露わになった彼の表情には、疲れが滲んでいる。

以前のような、老いても現役といった雰囲気はなりを潜めていた。

最後に見たのは墓参りの時か。短期間でこんなにも雰囲気が変わるなんて。

……いや、当たり前か。

酷く重い足をひきずり、クロノは執務室の中に入る。

三人に椅子をすすめ、息を吐くと、グレアムは口を開いた。

「アリアとロッテは、捕まったか」

「はい。彼女たちにデバイスの強奪を命じたのは、あなたですね?」

「ああ、そうだ」

皮肉げな笑みを浮かべ、グレアムは肯定する。

それを目にして、ずっと黙っていたユーノはピクリと手を動かした。

「……グレアム提督。あなたは自分が何をしたのか、分かっているのですか?」

「分かっている。犠牲に目を瞑り、闇の書の封印を優先させた。
 それだけだ」

「それだけ、って――あなたは……!」

「ユーノ。黙っていろ。それが出来ないのなら出て行け。
 提督も、言葉を選んでください」

腰を浮かせたユーノの方に顔を向けず、クロノは淡々と言葉を放つ。

ユーノは恨めしそうにクロノを見るが、なんとか腰を下ろした。

……何から喋るべきかな。

頭の中がぐちゃぐちゃで、どうして良いのか分からない。

執務官として、こんな時どうすれば良かったか。

「グレアム、提督」

「何かな、クロノ」

何故こんなことを。

いや、違う。そんなことを聞くべきじゃない。

自分が聞くべきなのは、違う。

じっとりと掌に浮かんだ汗を膝で拭い、深呼吸をする。

「……十一年前の闇の書事件以降、提督は独自に闇の書の転生先を探していましたね?
 そして発見した。闇の書の在処と、現在の主を」

「ああ、そうだ」

「彼女の生活を援助していたのは、あなたですね?
 それは、闇の書を転生させないためだったのですか?」

「そうだ」

自分が問う度に、グレアムの罪が暴かれてゆく。

心のどこかで、本当にそれで良いのか、と声が聞こえるが――

……僕はそうするべきなんだ。

その一言で黙らせ、今にも固まりそうな思考を必死で動かす。

「生かさず殺さず。その状態を続け、あなたは管理局に闇の書の存在がバレないよう、隠し続けた。
 そのために脅迫まで行って。
 ヴォルケンリッターがいつ動くかも分からない状況で、被害が出る可能性があるというのに、傍観に徹した。
 そうですね?」

「ああ」

「そしてヴォルケンリッターが動き始めたら、今度は闇の書の完成まで管理局に捕らえられないよう、妨害を始めた。
 闇の書事件の遺族――自分と同じ官僚に協力を要請して、高ランク魔導師が現場に出ないよう工作を行いましたね?」

それでもオーバーAAAランクの魔導師は何人も亡くなっているが。

しかしそれは、一人一人が闇討ちに近いやられ方をヴォルケンリッターにされたからだ。

もし組織として行動していたら、ここまでの犠牲者が出ることはなかっただろう。

それだけじゃない。書類上は怪我人となっていても、一生ものの傷を抱えた武装隊員だっている。

……許してはならない。自分は、この人を許してはならない。

汗で背中に張り付いたアンダーウェアが気持ち悪い。

バクバクと鳴る心臓の音に急かされながら、クロノは先を続ける。

「それだけじゃない。無限書庫で調べられている闇の書の記録。
 既に手にした情報を意図的に隠し、事件解決を引き延ばそうとした。
 間違いはありませんか?」

「……ほぼ全てのことを掴まれているか。どうやら、暗躍していたつもりがとうの昔に調べられていたらしいな」

「いえ。全てを繋げることができたのは、彼のおかげです」

「……君か」

先程までの気の抜けた声とは違い、どこか怒りを孕んだ調子で、グレアムはエスティマへと視線を送る。

彼はそれを気にした風もなく、ええ、と頷いた。

エスティマ・スクライア。

PT事件の最中に脅迫され、誰にも闇の書のことを伝えることができなかった彼。

……今思ってみれば、自分にユニゾンデバイスのことや父親のことを聞いてきたのは、それとなく脅されていることを知らせたかったからなのだろうか。

……いや、考えすぎか。

現在、八神はやてが加害者ではなく、被害者として扱われているのは彼の証言によるところが大きい。

闇の書の主というだけで危険な立場――主に、遺族からの――なのだ。

多分に身内贔屓というのもあるだろうが、彼女の保護が表立った騒ぎになっていないのは彼のおかげかもしれない。

もし彼がなのはに言付けを頼まなければ、ユーノが何をしていたのか分からなかったのだし。

「クロノ。彼と少し話がしたい。時間をもらっても良いかな?」

「どうぞ」

すまないな、と返してグレアムはエスティマに視線を向ける。

エスティマはそれを真っ向から見返しつつ、彼の話を聞く姿勢をとった。

「君はなんのつもりでこの事件に介入したのかな? エスティマくん」

「友達を助けたかった。それだけですよ」

「そうか。……確かに、それで充分か、君には。
 嘱託と言っても、所詮民間人にすぎないのだから」

「はい」

エスティマが答えると、グレアムはもう口を開かなくなった。

それから十秒ほどして、今度はエスティマが。

「では、僕からも一つ。
 あなたはなんのつもりで、自分の権力を駄目な方向に使ってこの事件に介入したのですか?
 闇の書に転生機能があろうと、そもそも破壊せずに、完成前の闇の書を解析なりなんなりすれば良かったはずです。
 十一年前と今は違う。はやての命が危険にさらされる前に、打てる手があったはずだ。
 それなのに、凍結封印を選んだあなたは、何を思って――
 それは執念ですか? 贖罪ですか?」

「……さて、な。もう今となっては分からないが」

そこで、ふう、と息を吐いて、グレアムはネクタイを緩めた。

そしてどこか虚ろな目つきのまま、思いを馳せるように視線を天井に向ける。

「……ああ、そうだな。全ては今更だ。
 私はなんとかして、私から幸せを奪ったあのロストロギアを、ただ壊してやりたかっただけだ。
 ……きっと根本にあったのは、そういった感情だ」

「……提督?」

「こんなはずじゃなかった……そうだろう? クロノ。
 あの時、闇の書なんかなければ、お前は年相応の子供としてやっていけたじゃないか。
 その恨みをぶつけたいと思うのは――」

「――そうですね。こんなはずじゃないことばかりでした」

そこまでだ、と言わんばかりにクロノはグレアムの言葉を遮った。

目を瞑り、何かに耐えるようにして。

「ですが、提督。僕らは法の執行者です。
 過去に何があろうと、今の僕『ら』は私情を持ち込んで良い立場じゃない。
 それを忘れたあなたは、ただの犯罪者だ」

では後で、と話を打ち切り、クロノは急に席を立つ。

エスティマはその様子に驚き、ユーノはまだ言い足りないといった表情でグレアムを睨みながらも、その後に続く。

部屋を出ると、武装した局員がいた。

彼らにグレアムの押送を頼み、執務室から離れる。

歩き去るペースが自分でも速いことを自覚しながら、しかし、それを緩めようとは思わない。

……結局、あの人もただの人だっただけか。

どこかで憧れていた。

自分では手の届かない、偉大な人だとは思っていたが、自分と同じ人だったのだ。

それを悪いとは思わない。クロノ・ハラオウンという一人の子供からすれば、彼の心情は理解できる。

だが――それを許してはならない。

クロノ・ハラオウンという執務官は、権力を使って違法行為を働いた彼を憎悪するべきなのだ。

グレアムの言っていた、年相応の子供だったのなら、きっと同調していた。

しかし、それは違う。

……僕は自分で今を望み、執務官となったんだ。

IFの話をしたってしょうがない。後ろを振り返るほど自分は老成していない。

『なぁ、エスティマ』

『……ん、なんだ?』

不意に誰かと会話をしたくなって、クロノは念話を送る。

彼も何かを考えていたのか、返答まで若干の間があった。

『僕も……』

『ああ』

『……いや、なんでもない』































「ただいま帰りました」

鍵を開けて声をかけるも、八神家には人の気配がない。

あらら、と首を傾げて、シャマルは家に上がる。

リビングに行ってみるが、やはり誰もいなかった。

証明に照らされた空間には、寒々とした空きがあるだけだ。

念話を送ってみるも、返信はない。

おかしいな、と思いながら、シャマルは買ってきた食材を冷蔵庫に入れるべく――

「……あら?」

テーブルの上にあるメモに気付き、内容を目にして、買い物袋を落とした。

――エスティマ・スクライアが大変なことになったらしい。
  主と共に、彼の兄から事情を聞いてくる。

ベルカ文字。これが書けるのはザフィーラかヴィータだが、そんなことは今は良い。

まずい。あの子の身内だなんて、シグナムが何をしたのか――そして、はやてが闇の書の主だということを知られてしまう。

もしそうなれば、管理局に身柄を確保されたとしてもおかしくはない。

拙い。どうする。闇の書が主の手から離れるまで、管理局に見付かることだけは避けなければならなかったというのに。

「……はやてちゃん」

どうする。今すぐに主の保護を――

「……ううん、駄目よ」

そうだ。

自分まで管理局の下に行ってしまったら、誰がシグナムのフォローをするのだ。

……そもそも自分は、主の命令を裏切っている。その癖素知らぬ顔で一緒にいるのだから、こうなった以上合わす顔はない。

大丈夫。はやてにはヴィータとザフィーラが付いている。

あの二人がいるのならば、降りかかる火の粉を払ってくれる。

だから自分は、責任を取らなければ。

エスティマを殺したことから始まったこの戦いを、終わらせなければならない。

「……計画を前倒しにするわよ、シグナム」

一人呟き、シャマルは騎士甲冑を身につける。

はやてを助けなければ。

その一心で、彼女はシグナムの隠れ家となっている世界へと転移した。




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