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No.3690の一覧
[0] リリカル in wonder 無印五話 挿絵追加[角煮(挿絵:由家)](2009/04/14 12:06)
[1] 一話[角煮](2008/08/02 22:00)
[2] 二話[角煮](2008/08/02 22:03)
[3] 三話[角煮](2008/08/02 22:06)
[4] 四話[角煮](2008/08/02 22:11)
[5] 五話[角煮](2009/04/14 12:05)
[6] 六話[角煮](2008/08/05 19:55)
[7] 七話[角煮](2008/08/21 04:16)
[8] 八話[角煮](2008/08/21 04:26)
[9] 九話[角煮](2008/09/03 12:19)
[10] 十話[角煮](2008/09/03 12:20)
[11] 十一話[角煮](2008/09/03 20:26)
[12] 十二話[角煮](2008/09/04 21:56)
[13] 十三話[角煮](2008/09/04 23:29)
[14] 十四話[角煮](2008/09/08 17:15)
[15] 十五話[角煮](2008/09/08 19:26)
[16] 十六話[角煮](2008/09/13 00:34)
[17] 十七話[角煮](2008/09/14 00:01)
[18] 閑話1[角煮](2008/09/18 22:30)
[19] 閑話2[角煮](2008/09/18 22:31)
[20] 閑話3[角煮](2008/09/19 01:56)
[21] 閑話4[角煮](2008/10/10 01:25)
[22] 閑話からA,sへ[角煮](2008/09/19 00:17)
[23] 一話[角煮](2008/09/23 13:49)
[24] 二話[角煮](2008/09/21 21:15)
[25] 三話[角煮](2008/09/25 00:20)
[26] 四話[角煮](2008/09/25 00:19)
[27] 五話[角煮](2008/09/25 00:21)
[28] 六話[角煮](2008/09/25 00:44)
[29] 七話[角煮](2008/10/03 02:55)
[30] 八話[角煮](2008/10/03 03:07)
[31] 九話[角煮](2008/10/07 01:02)
[32] 十話[角煮](2008/10/03 03:15)
[33] 十一話[角煮](2008/10/10 01:29)
[34] 十二話[角煮](2008/10/07 01:03)
[35] 十三話[角煮](2008/10/10 01:24)
[36] 十四話[角煮](2008/10/21 20:12)
[37] 十五話[角煮](2008/10/21 20:11)
[38] 十六話[角煮](2008/10/21 22:06)
[39] 十七話[角煮](2008/10/25 05:57)
[40] 十八話[角煮](2008/11/01 19:50)
[41] 十九話[角煮](2008/11/01 19:47)
[42] 後日談1[角煮](2008/12/17 13:11)
[43] 後日談2 挿絵有り[角煮](2009/03/30 21:58)
[44] 閑話5[角煮](2008/11/09 18:55)
[45] 閑話6[角煮](2008/11/09 18:58)
[46] 閑話7[角煮](2008/11/12 02:02)
[47] 空白期 一話[角煮](2008/11/16 23:48)
[48] 空白期 二話[角煮](2008/11/22 12:06)
[49] 空白期 三話[角煮](2008/11/26 04:43)
[50] 空白期 四話[角煮](2008/12/06 03:29)
[51] 空白期 五話[角煮](2008/12/06 04:37)
[52] 空白期 六話[角煮](2008/12/17 13:14)
[53] 空白期 七話[角煮](2008/12/29 22:12)
[54] 空白期 八話[角煮](2008/12/29 22:14)
[55] 空白期 九話[角煮](2009/01/26 03:59)
[56] 空白期 十話[角煮](2009/02/07 23:54)
[57] 空白期 後日談[角煮](2009/02/04 15:25)
[58] クリスマスな話 はやて編[角煮](2009/02/04 15:35)
[59] 正月な話    なのは編[角煮](2009/02/07 23:52)
[60] 閑話8[角煮](2009/02/04 15:26)
[61] IFな終わり その一[角煮](2009/02/11 02:24)
[62] IFな終わり その二[角煮](2009/02/11 02:55)
[63] IFな終わり その三[角煮](2009/02/16 22:09)
[64] バレンタインな話 フェイト編[角煮](2009/03/07 02:27)
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[3690] 十五話
Name: 角煮◆904d8c10 ID:63584101 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/10/21 20:11

返り討ちにあった武装局員。

その内の一人から伝えられた報告に、管理局は騒然となった。

闇の書の完成。それが目前に迫っているという。

サーチャーの報告では、ヴォルケンリッターは無人の惑星へと降り立って残り僅かとなった頁を埋めているとのこと。

このことを聞き、戸惑う人々が多い中、それとは違った行動をする者もいた。

エスティマ・スクライアは、報告を聞き慌てた様子ですぐにミッドチルダへと跳んだ。

ユーノ・スクライアはグレアムを告訴するための準備を中断して本局へ。

ヴィータとザフィーラはシグナムたちの元へ向かわせろと騒いだが、万が一ということもあり、彼らの出撃は認められず。

クロノは完成した闇の書を破壊するか否か――惑星一つを犠牲にして、永遠にその世界へ闇の書を放置すれば良いという意見が出たのだ――で揉める上層部の対応に神経を磨り減らす。

なのはクロノのゴーサインが出たらすぐに出撃できるように待機。

そして、フェイトは――

はやての部屋を守っている武装局員を打ちのめし、部屋へと侵入していた。

ドアを開けて見えたのは、どこからどう見ても一般人としか思えない、同年代の少女。

セットアップの完了したバルディッシュを握り締め、ギチリ、と音を立てながら、彼女は大股にはやてへと近付く。

その背中を守るように後ろを着いてきたアルフは、転移魔法陣を展開しながら、周囲を警戒していた。

障害はないよ、と念話を聞いて、フェイトは頬を緩ませる。

浮かべたのは禍々しい笑み。上手く焦点の定まっていない瞳には、爛々とした光りが宿っていた。

「あ、あの……もしかして、フェイトさん?」

闇の書の主が自分の名前を呼んだ。

何故知っているんだろう、と首を傾げ、

「エスティマくんの、妹さ――」

兄の名を吐いた瞬間、反射的に手が動いた。

パン、と乾いた音。

少し強く叩きすぎたのかもしれない。闇の書の主はけたたましい音を上げて、横転した車いすから転げ落ちた。

それを無感情な瞳で見下ろしながら、フェイトは手を握り締める。

……兄さんの名前を呼ぶだなんて。

その軽い口を八つ裂きにしてやろうか、と怒りが噴き上がりそうになるが、必死にそれを抑える。

駄目だ。自分にはやることがあるのだ。

ヴォルケンリッターの剣士を殺して兄さんを取り戻す。

そして更に、闇の書の主を絶望に突き落としてやれば、喜んでくれる。

きっと、いや、絶対に褒めてくれる。前みたいに、頭を撫でてくれる。

……復讐もできて、兄さんも喜ばせることができて、一石二鳥だね?

「そうだよね、兄さん」

にっこりと笑みを浮かべる。

先程とは一転して、年相応の柔らかな笑みを。

視界の隅にいるようないないような、否、きっといる兄に笑いかけて、フェイトは倒れ伏したはやての腕を引き上げた。

今度こそ殺す。そんな決意を胸に秘め、

「お願い、アルフ」

「分かったよ、フェイト。これで終わりにしよう」

アルフは転移魔法を始動させると、ヴォルケンリッターの待つ世界へと跳んだ。



























リリカル in wonder





















「……残るは一頁、か」

「ええ。そしてこれが最後」

シャマルはバインドで雁字搦めにした竜の雛を目線の高さまで持ち上げると、小さく息を吐いた。

ジタバタと暴れる竜の雛。

それに申し訳ないと思いながらも、これでようやく終わると、肩の荷が下りる思いだ。

「シャマル。この後の手順だが」

「ええ。夜天の書の完成と同時に、シグナムが強制的にユニゾン・イン。
 システムエラーでシグナムが吐き出されるまでの時間を使って、連結された防御プログラムと無限再生機構を発動させるコアを、旅の鏡で引きずり出す。
 そして夜天の書の残骸を別世界に放棄。
 これでいけるのね? リインフォース」

『はい。その行程を行えば、システムが致命的な破損を受けて復元機能も発動せず、私は完全に沈黙します。
 主はやてへの浸食も止まるでしょう。
 ……ですが、ヴィータやザフィーラはともかく、夜天の書の一部であるあなたたちは――』

「良いのだ。もとよりそのつもりで、私たちは手を汚してきた」

「ええ。だから、気にしないで。……ごめんなさいね、リイン。こんなことに巻き込んでしまって」

宙に浮かぶ魔導書に、二人は頭を下げる。

リインフォースは困ったように金十字を光らせると、良いのです、と小さな声を上げた。

『……もう、主を道連れにして死なせることがなくなるのならば、私は何も望みません。
 感謝します、私の家族』

シグナムとシャマルはリインフォースの言葉に笑みを浮かべ、それぞれのデバイスに魔力を送る。

シャマルは時間差発動設定の転移魔法と旅の鏡を同時展開。

ようやくこれで、狂った運命が途切れる。

そう思った瞬間――

橙色の魔力光が空に溢れ、三つの人影が現れた。

二人は顔を上げ、同時に目を見開く。

一人は使い魔だろう。それは良い。

だが、残る二人。いつか戦ったエスティマの妹と、彼女の連れている――

「主!?」

「はやてちゃん!?」

「……し、シグナム? シャマル? それに、リイン?」

フープバインドに縛られたはやては、首根っこを掴まれた状態で眼下のいなくなった騎士たちを見た。

どうなって……なんでシャマルとリインが、シグナムと?

いや、違う。そんなことより……!

「シャマル、リイン! シグナムを止めて! もう、誰も傷付けちゃあかん!
 フェイトさん、離して! シグナムを止めないと……!」

「おめでたいね」

冷たく一言を投げ付けると、フェイトはアルフにはやてを押し付けた。

そしてバルディッシュに魔力を送りながら、地面へと降り立つ。

頭上で闇の書の主が何かを言っているが、フェイトには聞こえない。

ただ目の前にいる仇を見据えて、カートリッジを二連発。

ハーケンフォームにバルディッシュが変形し、

『Execution Scythe』

本来ならば大型の鎌である魔力刃が、細く、鋭く形成された。

更に二発カートリッジを炸裂させ、

『Sonic Form mode:Ⅱ』

バリアジャケットがその意味を失う。

手足にあるリアクターフィンは以前と変わらない。

だが、今のモードⅡは、腰にも控え目な翼がある。

練習どおりにバリアジャケットを形成できたことに小さく頷くと、フェイトはバルディッシュをシグナムに向ける。

そして口元を緩め、クスリと小さく笑った。

「あの子、まだ自分に味方がいると思っているみたい。馬鹿だね。
 自分がみんなから恨みを買っているってことを、分かってない。
 ……それをこれから、教えてあげないと」

幸せに浸るなど許さないと。

そう、言外に伝えて、フェイトは膝を曲げ、前傾姿勢となる。

「……目の前でお前を殺せば、少しは目が覚めるよ、きっと」

「シャマル、リインと一緒に退け」

「シグナム!?」

「安心しろ。私は負けん。奴を倒し、主を別世界に送り届けた後、戻ってくる」

シグナムの言葉に、シャマルは唇を噛む。

この場にはやてがいては、闇の書が覚醒した瞬間に主を取り込むかもしれない。それを避けるために、はやてを別世界に届けるのは間違ってはいないのだが――

視線を上げて、使い魔を見る。

完全にこちらを警戒した状態の敵を奇襲するなど自分にはできない。

あくまでサポートに徹するしかないのだ。直接的な戦闘能力など、皆無と言って良い。

この場はシグナムに任せて、夜天の書を守るしか、できることはない。

……口惜しいわね。

「分かったわ。頼むわよ、シグナム」

「ああ」

シャマルは夜天の書を抱き締めると、飛行魔法を発動する。

ちら、とはやてに視線を向けると、彼女は目を見開いた状態で口をわななかせていた。

「なんで……なんでや、シャマル。それに、リインも!」

「ごめんなさい、はやてちゃん。私、あなたを裏切っていたんです」

「嘘やろ? なぁ、シャマ――」

「さよなら」

リインフォースと一緒にシャマルはその場から飛び去る。

手を伸ばそうとしても、バインドで縛られた手足は動かない。

はやてはただ見開いた目から涙を流し、嗚咽を噛み殺すことしかできない。

口の端から血が流れる。ギリ、と唇を噛み千切り、はやては端正な顔を歪めた。

しかし、アルフもフェイトも、そんなはやてに興味はない。

彼女たちの目的は、エスティマの仇を取ることと、はやてに絶望を突き付けるだけなのだから。

むしろ、今の状況を都合が良いとさえ思っている。

「……行くよ、バルディッシュ」

『sir.Sonic drive.
Three dimensions Manuba.Ignition.』

リアクターフィンが眩い光を放ち、フェイトは四肢に力を込める。

そして目を細めると、肩の力を抜いて地面を蹴った。

砲弾が着弾したかのように地面が爆ぜ、フェイトの姿が掻き消える。

シグナムはパンツァーガイストを纏いつつ、レヴァンテインを構えるが――

「――っ!?」

フィールド防御を引き裂き、魔力刃がシグナムの左腕を浅く刻む。

一拍遅れて噴き出した血飛沫に眉を潜めながら、彼女は周囲の気配を探った。

地を蹴る音。移動時に押しのけられる風。それでフェイトの進行方向を予測しようとするが――

……死角から死角に移動している?

首へと迫る斬撃をレヴァンテインで捌こうとし、しかし、手応えはない。

代わりに右のももが騎士甲冑ごと引き裂かれる。

ガクリ、と体重を崩し、今度は背後から右肩を。

次々に刻まれる傷に顔を歪めながら、シグナムは鞘を取り出してフェイトの攻撃から身を守ろうと両腕を振るう。

首狙いの処刑鎌を防ごうとし、しかし、踊るように軌跡が変化して腹が横一文字に。

……以前とはまるで違う。

少しずつ相手の余力をなくし追い詰める戦い方。最高速度での一撃を狙っていた前回の戦い方からは、想像もできない変化だ。

速度だって以前よりも上がって――否、それは錯覚か。機動力は変わっていない。むしろ下がっているかもしれない。

それを犠牲にして手に入れたのは運動性と、この出鱈目な機動。慣性を無視した直角の動きに、常に動き続けて脚を止めない戦法。腰の移動補助魔法はこのためか。

そこまで分析し、まずいな、とシグナムは胸中で呟いた。

こうしている間にも、裂傷が刻みつけられてゆく。首への一撃は辛うじて回避しているが、致命傷を避けることが精一杯だ。

いや、一撃一撃に濃密な殺気が込められているせいで、どれが牽制なのか本命なのかも判断できず、カウンターを入れることすら躊躇してしまう。

もっとも、カウンターを入れられるかどうか、といった次元で相手は動いているのだが――

このままでは……!

「レヴァンテイン!」

『Explosion』

胸元を袈裟に斬られながら、カートリッジロードを実行する。

そして連結刃に変形させようとして――

――手首から先を、斬り飛ばされた。

「あぎ……!」

そのショックが覚める間もなく、シグナムは殴り飛ばされて地面を転がる。

血の跡が転々とと残り、さっきまで立っていた場所にある血溜まりに目を見開いた。

……思っていたよりも血を流していたのか。

全身の傷から徐々に血が流れ出す。頬に当たる温い液体。これは長くないな、と、したくもない自己診断。

だが、シグナムは力の入らない身体を起こすために歯を食いしばる。

もう少しで主を救うことができる。夜天の書を壊れた運命から開放してやることができる。

だから、こんなところで――!

「しぶといね」

ガツ、とこめかみを殴られた。

再び倒れ伏し、見上げるとそこには金色の処刑鎌を持った少女がいた。

全身に玉の汗を浮かばせながら、荒い呼吸を繰り返している。足はガクガクと震えており、濃い疲労が見て取れた。

……あんな無茶な機動で動き続けたのだから、負荷も生半可なものではあるまい。

だというのに、彼女の瞳には疲れが微塵にも浮かんでいない。

ただ自分の成すべきことを成すために、デバイスを握り締めている。

「これからあなたの騎士を殺す。何か伝えることはある?」

彼女はアルフに抱えられたはやてに視線を向けると、そんなことを言った。

それを聞き、そういうことか、とシグナムは納得する。

……兄を奪われたから、それと同じ痛みを主に与えようとしているのか。

自分の死など、エスティマを殺したその日に覚悟した。

しかし主は、主にはそんな思いをさせては……。

そこまで考え、そうか、と納得する。

……私は、今されていることと同じ痛みを、大勢の人間に叩き付けていたのか。

分かっていたつもりだった。しかし、こうして体験してみれば、どれだけのことをしていたのか、嫌が応にも理解してしまう。

「コレは兄さんを殺したの。だから別に、殺されたって文句はないと思うんだ。
 どうかな?」

「あ、ああ……」

「……ある、じ」

何を言って良いのか分からないのか。

はやては頭を横に振るだけで、言葉らしい言葉を口にしない。

次々と溢れ出す涙が、彼女の限界を表しているようだった。とうに限界は超えているのに、アルフに髪の毛を掴まれているせいで目の前の光景から顔を背けることができない。

「どう? これがあなたたちのしていたことだよ」

それは誰に向けた言葉なのか。

シグナムか、はやてか。あるいは両方か。

「後悔した? 私が憎い?」

可愛らしく首を傾げて、フェイトは足元のシグナムに笑いかける。

そのあまりにも場違いな表情に、燃えるような視線を送り――

「そう。良かった。じゃあ、さよなら」

腕が振り上げられ、金色の処刑鎌がその色を濃くする。

……こんな終わり方など。

様々な感情が渦巻き、何も言えない心地となりながら、シグナムは迫る死に神の鎌を見据え――

『――Phase Shift』

デバイス同士がぶつかり合う、甲高い音が響き渡った。

耳障りな金属音に顔をしかめながらも、シグナムは目を見開く。

一瞬前までは存在しなかったはずの、白いバリアジャケット。

それが目の前に立ち塞がり、訪れるはずだった死を防いでいる。

「……え? に、兄さん? なんで?」

「エスティマ……なのか!?」

真紅のハルバード。両肩に形成されたサンライトイエローのアクセルフィン。

知っている。一度戦った相手だ。だが、何故、彼がこの場にいる。

確かにこの手で、自分は――

「駄目だ、フェイト。人を殺したら戻れなくなる。
 いくら嘱託だからって、罪に問われるんだぞ?」

「う、ああ……!?」

急に現れた兄の姿。いや、違う、兄が目の前にいるわけがない。ヴォルケンリッターを殺さなければ、戻ってこない。

そのはずだ。

……なら、目の前にいるのは誰だろう?

「ああっ……!」

頭が痛い。

左手で額を掴みながら、頭痛を打ち消すように指を食い込ませる。

違う。兄さんがいるはずがない。

違う、違う、違う。

兄さんが私を止めるはずがない。

だって、兄さんを取り戻すためには殺さないといけなくて……!

だから、

「違う!」

不愉快な幻影を振り払うべく、フェイトはバルディッシュを叩き付ける。

しかし、幻は消えない。確かな手応えをもって、紅いハルバードでバルディッシュを止めている。

「ああああぁぁぁあああ……!」

喉を震わせて、フェイトは再び加速魔法を行使する。

なんとしてでもヴォルケンリッターを殺さなければならないから。


































『Lark、シグナムに応急手当!』

『了解しました』

『シグナム! はやての目の前で死ぬなんて許さないからな!
 パンツァーガイストに炎熱付加するなりなんなりで、傷口を焼け!
 死ぬよりマシだろ!』

『あ、ああ……』

『なのは、シグナムを頼む!』

『うん、任せて! エスティマくんはフェイトちゃんを!』

不慣れな治癒魔法をシグナムにかけながら、俺はLarkを一閃する。

が、それを擦り抜けるように二の腕に傷が走った。

速い。反応はできるが、追い付けない。

くそ……急いできてみればこんなことになってて、一体どうなってやがる!

無断で出撃したフェイトを止めるために、なのはと来てみればこの有様。

おまけにはやてまで連れ出して。

「Lark!」

『カートリッジロード。
 ――Phase Shift』

炸裂音に続いて、世界が速度を失う。

死角に回り込もうとしているフェイトの動きが遅い。

巻き上がる烈風や砂塵。雲の動きやフェイトの叫び。

その何もかもが。

そんな中で動けるのは俺だけだ。

迫ってくるバルディッシュの杖の部分に手を伸ばし、しっかりと握り締める。

そして稀少技能が解けると、重い感触が腕にのしかかってきた。

両足に力を込めてふんばりながら、目をフェイトと合わせる。

そして彼女の目を見て、息を呑んだ。

……泣いてる?

「どいて……どいてよ!」

「フェイト?」

「アイツを殺さないと、兄さんは戻ってこない!
 だからお前なんか兄さんじゃない!
 だから……どいてよぉ!」

「落ち着け、フェイト! 俺はここにいるだろ!?
 もう戦わなくて良いんだ。シグナムを殺す必要だってない!」

「そんなわけない! だって、だったら――
 なんで私の側にいてくれなかったの……!」

胸を蹴り付けられ、たたらを踏む。

フェイトはカートリッジロードを四度行い、バルディッシュがザンバーフォームへと変形する。

それを見据えながら、そうか、とようやく分かった。

……なんで側にいてくれなかった、か。

殺意でも復讐心でもなく。

フェイトを突き動かしているのは、

「寂しかったのに、なんで……!」

その感情なのだろう。

……クロノはフェイトを正気じゃないと言っていたが、きっとこの子は誰よりも正気だったんじゃないだろうか。

シグナムやはやてを排除すれば、寂しさはなくなると、理論をすっ飛ばして、どこかで分かっていたのかもしれない。

「Lark……本当、俺は駄目男だなぁ」

『かもしれません。しかし、駄目男なりに頑張るのでしょう?』

「当たり前だ。……付き合ってくれるか?」

『当たり前です』

「ありがとう。……リアクターパージ、オフ。モードリリース」

Larkの返答に頷き、近代ベルカの術式を構築。同時に、イナーシャルキャンセラーも。

Larkをスタンバイモードに戻すと、速く、正確に術式を組み上げる。

フェイトはザンバーフォームになったバルディッシュを肩に担いで、カートリッジをロードする。

手足を震わせながら涙を流し、側にいてくれない俺を嘘の存在だと断じるフェイト。

彼女と対峙しながら、俺はなんとか柔らかな笑みを浮かべた。

「こいよフェイト。受け止めてやる。……それぐらいは許してくれるか?」

「あ、う……」

ざり、と音を上げてフェイトは一歩後じさり、

「う――わぁああああああ!」

喉が枯れんばかりの叫びを上げて接近し、ザンバーを叩き付けてきた。

――金色の残滓を残して大剣が袈裟に叩き付けられる。

――速い。

並の魔導師では避けきれまい。

鋭い反射神経を供えたベルカの騎士や、まだ目にしたことのない戦闘機人以外には。

もし避けられたとしても、延長を続ける魔力刃に切り刻まれるだろう。

ザンバーが俺を両断すべく、猛烈な速度で接近する。

全ての体重を乗せた一撃が到達し――

しかし、生きている。

俺はまだ。

右手に張った慣性制御フィールドと、発動させた近代ベルカ式の魔法。

『烈風一迅』

勢いを殺し、更に掌に集めた高密度の魔力を叩き付けて、ザンバーの威力を中和する。

だが――

それすらも引き裂き、金色の魔力刃は俺の手の平を引き裂いた。

勢いも完全に殺せず、肩口へと刃が突き立つ。

リアクターパージは発動しない。紙のようなバリアジャケットを刻んで、ザンバーがその下に到達する。

肉が切断され骨に至る鋭い痛みが、真っ直ぐに頭へと殺到し、思わず呻き声を上げてしまった。あと僅かに逸れていたら、首に当たっていたか。

だが、辛うじて笑みを崩さず、血に濡れていない左手を伸ばそうとする……あ、駄目だ。手は動くけど、どんなに力を込めても腕が持ち上がらない。

……それがどうした。

「あ……あぁぁっ……」

「……フェイト」

名を呼ぶと、フェイトはビクリとしてバルディッシュを手放した。

魔力刃が消失し、蓋を失った傷口からは血が溢れ出す。

それを見て、フェイトは歯をカチカチを鳴らしながら首をゆっくりと横に振った。

自分がしたことを、嘘だというように。

傷口からは、まるで針を突き立てられているような――いや、そんな生易しい表現じゃ足りない――痛みが伝わり背中を焦がすが、気合いで我慢。

今にも悲鳴を上げそうなのを深呼吸して誤魔化しフェイトに近付くと、思いっきり彼女を抱き締めた。

と言っても左腕が上がらないから右腕で……あ、しまった。血が。

などと思っていると、背中に手が回された。

最初は遠慮するように、しかし、我慢できなかったように、離さないように、ぎゅっと。

「ごめん。ごめんなさい。ごめんなさい。
 私、こんなことして……違う、こんなつもりじゃなくて……!」

「うん。分かってる。ごめんな、一人にして。気にしてないし、こんなの平気だから」

「兄さん……!」

腕に込められた力が増して、傷に響いた。

しかし、それにかまわずフェイトは俺の胸元に顔を擦り付ける。

まるで猫か何かのようだ。

「寂しかった……もう、私を置いていかないで。
 一人は嫌。嫌だから、だから……」

「……うん」

背に回した手を頭にもっていき、血が付かないように指先で、ゆっくりとフェイトの髪の毛を撫でる。

不意にフェイトは顔を上げて無事な方の肩に頭を乗ると、首筋を甘噛みしてきた。

痛いようなくすぐったいような。

フェイトの震えが収まるまで、しばらくそのまま。

妹が落ち着いたのを確認すると、俺はフェイトをそっと離し、傷の治療を行おうとする。

その時だ。

不意に頭上に現れた魔力反応。

見上げれば、そこには弾き飛ばされたアルフの姿と、虚空に現れた光柱に包まれたはやての姿。

「まさか……」

既に朧気となった記憶の中にある光景。

けど、確かに覚えている。

あれは――
































時間は少し遡る。

シグナムが一方的な蹂躙を受けている光景を、ただ見ていることしかできないはやて。

涙を流し、数々の感情が混ざり合い、形を持たない思考の中で、彼女はただ一つのことを願っていた。

……シグナムはたくさんの人を傷付けた。

……シャマルとリインフォースは私を騙していた。

何が家族だ。

一人浮かれていた自分は、まるで道化ではないか。

闇の書がどんな物であろうと、優しくしてくれるみんなが裏切るはずがないと、信じていた。

過去にどんなことがあろうと、戦いのない穏やかな暮らしの中だったら、普通に過ごしてゆけると思っていた。

だが、結果はこれだ。

こんな自分にも言葉をかけてくれるエスティマの妹をあそこまで追い詰めて、たくさんの人に恨まれて。

なんで私ばかり、と思ったことは、今まで何度もあった。

しかし――今、その理不尽をばらまいているのは自分だ。

「……いい」

自分なんかがいるせいで、たくさんの人が不幸になった。

なんとか生きていこうと思えた過去はまやかしで、結局のところ、自分は誰かに迷惑をかけて生きてゆくことしかできないのだ。

だったら。

「……くなればいい」

理不尽だらけの世界も、自分も、何もかも。

「……全部、なくなってしまえばいい」

すべてがなかったことになればいい。

みるみる内に表情を消しながら、頬に涙を伝わせて、そう、告げた。

『……それがあなたの望みですか、主はやて』

「そうや。私なんかいなくなればいい。嫌なもの全部、ぜーんぶ消えればいいんや」

そうなったら何も起こらない。

嫌なことも何もかも、これから起きる悲劇も、全部なくなれば良い。

『分かりました。管理者の要望を、管制人格、防御プログラム、両者が認めます』

はやての願いを聞き届け、離れた場所にいるリインフォースは、すぐ側にあるリンカーコアを捕食しにかかる。

湖の騎士。瞬く間にそのリンカーコアを取り込み、はやての目の前に転移してきた。

次いで、はやての足元に古代ベルカ式の魔法陣が展開する。

「何!?」

アルフは闇の書にフォトンランサーを放とうとするが、遅い。

はやての魔法陣が白から闇色へと変色し、

「うわああああああああああああっ……!」

空を割くような絶叫と共に、光が爆ぜた。

衝撃波が吹き荒れ、轟音が空に木霊する。

闇色の光柱の中、目を見開いたままで、はやては口を動かす。

「我は闇の書の主なり。この手に、力を」

主の命令に従い、闇の書ははやての手に収まる。

そして、

「封印、開放」

その呟きに同調して、ユニゾンが開始された。








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