『ご主人様。朝です、起きてください』
「ぎゃああああああ?!」
念話で届いたボリュームは、頭が割れるかのような、文字通り頭のおかしいサウンド。
一発で目が覚めたが、起きれば良いってもんじゃねーぞ!
恨めしく目を向ければ、そこには壁に掛けられたLarkが。
『おはよう御座います、ご主人様』
「ああ、おはようLark。今日もご機嫌な目覚ましだったね」
『そうでしょうね。手を代え品を代え、毎日工夫しておりますので』
「そんな工夫いらない……!」
思わず枕を全力で叩き付けてしまう。
そうしている内に、二段ベッドの上からもぞりを身を起こす影が。
「……朝からうるさいよ、エスティ。僕は徹夜明けなんだから。
この間だって隣の部屋の生徒から苦情がきてたよ?」
いいつつ梯子から下りてきたユーノ。
おはよう、とLarkに挨拶すると、目を擦りつつ溜息を吐いた。
「……君も昨日はズタボロになるまで叩かれたのに、元気だね」
「まーね。毎日のことだから」
「元気そうで何よりだよ」
「ユーノも朝から辛気くさい顔してるなー。何時まで起きてたんさー」
「四時かな」
睡眠時間二時間かい。
頑張るねぇ。
リリカル IN WORLD
時間の流れは早いもので、俺とユーノがミッドの学校に入学してから時間が経った。
入学してから色々と学んだり。
俺の場合は主に戦闘用魔法を。その中でも基礎を重点的に。
ユーノはユーノで、実戦よりも理論を重点的に学んでいた。
ちなみにあの野郎、現時点で最高学年だったりする。
なんかおかしいだろこれ。いやまあ、俺も俺で飛び級してるけどさぁ。
朝食を食べ終えると、食堂を後にして、別々の教室へと向かう。
馬鹿みたいに広い教室の中には、制服に身を包んだ生徒が並んでいる。
それを横目で眺めつつ、鞄を机に引っ掛けると、更衣室へ。
そこで運動着に着替えると、校庭へと向かった。
この魔法学校は、魔法を学ぶ施設、という以外にももう一つの役割があったり。
それは、軍学校としての側面だ。
管理局で職に就いている者の子供が通っている学校もあるが、ここはここでそういうコースが存在する。
んー、なんつーかキャリア組を出しているって感じかな、向こうの学校。
きっとクロノとかが通っているんだろう。
管理局へエスカレーター式に入局することになるため、傭兵とかになるつもりの生徒はこっちの学校へきたりする。
まあ施設のグレードは落ちるが、その代わり選択肢の幅は広がるのさ。
研究職としてはこっちの学校の方が上のランクなんだけどね。
さて、話は変わって、俺のこと。
きちんとした魔法を覚えて分かったのだが――流石はFの遺産。この身体、並の魔導師よりも高スペックなのである。
流石になのは、フェイトほどじゃないけどさ。
フェイトの試作機だったのか、俺の素質は彼女に良く似ていた。
近・中・遠、と活躍でき、その上速度という武器を持つフェイト。
俺の場合は近・中距離の魔法しかマトモな威力を発揮できないわけだが――その代わり、レアスキルを所持している。
そのレアスキルってのがまた酷い。本当にフェイトの試作機ってのを実感させられますよこの身体。
そんなことを考えている内に校庭へと到着。
二組に分かれているクラス――近代ベルカとミッド――俺はミッドチルダ式の方に行くと、列に並んだ。
「お、きたなエスティマ」
「おはようございます、ヴァイスさん」
『おはようございます』
「おはようさん」
屈託のない笑みを浮かべるヴァイス・グランセニック。
驚いたことに、この人とユーノって同じ学校だったのね。
まあ、コースが違うから顔を合わすこともないんだろうが。
「今日は射撃魔法か。いやー、この時だけだな、実技が楽しいと思えるのは」
「どうなんだろうそれ。ヴァイスさん、武装隊志望っしょ? 射撃だけってのはどうかと思うなぁ……」
いやまあ、この人それだけでも充分強かったけどさぁ。
などと口にせず、口をへの字に曲げる。
「うるせ。なんでもできるお前と一緒にするな!」
「いや、俺だってエリアサーチがすげえ下手ですよ。あと広範囲攻撃」
「俺だって苦手だよそんなの」
いや、威張られたって困るのですが。
Larkの補助があっても俺は広範囲攻撃は撃てない。
どうにもマルチロックが下手なのだ。
ユーノ曰く、瞬間的な魔力放出は上手いけど、長時間の術式維持は下手だよね、とのこと。
故にバインドとかも一般人の域を出ません。
ああもう。フェイトだって使ってたじゃんかよ広範囲攻撃。
エコ贔屓だっ。
そうしている内に授業は始まったり。
今日はクロスファイアかー。
誘導弾の制御は案の定苦手なヴァイスさん。
そんな彼を横目で見つつ、四つの球体を出す。
「Lark、邪魔するなよー」
『……手伝いが邪魔とは、どういうことですか』
「デバイスなしで練習した方がためになるっしょ」
『私がいるのですから、デバイスありきで練習をするべきです』
実戦ならともなく、練習なんですから。
それにアンタ、今は壊れているでしょうに。
浮かべた光球がいつの間にか消えていたので、再び形成。
んで、人差し指を空を飛んでる的へと向けつつ――
「シュート」
形成から刹那の間を置いて、サンライトイエローの弾丸は大気を引き裂き、的へと肉薄する。
ヴァイスさん曰く、クイックドロウ、だ。
発生とほぼ同時に撃ち出された光球は、左右から挟み込むように接近し――あ、一発スカった。
「おー、ミスったな」
「……そういうヴァイスさんは?」
「クロスファイア、シュート!」
「直射じゃねえか今の! クロスファイアじゃないよ!!」
「しょうがねーだろ、誘導弾には適正がないんだから。けどま、直射なら――」
どごん、と爆音が聞こえる。
そちらの方へと目を向ければ、近代ベルカを教わっている連中の的が粉砕されていた。
ちなみに破砕された破片が近くの教師に突き刺さったぞ。
「――この通り。狙撃には自信があるぜ」
「グランセニックー!」
「……ヤベ」
ヴァイスさんのファミリーネームを叫んだのは、禿頭の近代ベルカを教えている教師。
まあ、あんな狙撃ができるのはこの人だけだしなぁ。
と思ったら、
「おいおいエスティマ。誘導弾の制御ぐらいしておけよ」
「ちょ、アンタ何いってるの?!」
「お前かスクライアー!」
うわ、土煙上げてこっちに走ってくるんですけど?!
「Lark、どうしよう」
『邪魔はしません』
「何拗ねてんの?!」
とやっている内に禿頭がすぐそこまで伸びてきた。
……わーい、なんか拳を構えたおっさんが近付いてくるよー。
「死ねぇええええ!」
「――ガッ?!」
突撃の威力を生かしたラリアット。
その一撃は――見事にヴァイスさんの首へと叩き込まれた。
そしてゴミのように舞い上がるヴァイスさん。
いやー、飛んだなぁ。
と、盾にした本人がいってみるテスト。
「先生先生。的を壊したのは僕の魔力光じゃなかったでしょう? 犯人はヴァイスさんですよ」
「む……そうか。すまなかったな」
「い、いや……謝る相手が違うんじゃ……」
何か屍がのたまっている。
仕方がないのでヴァイスさんを助け起こしつつ、その後も授業を続行。
二コマ目も実技なのだが――今度は近代ベルカの方へと行き、授業を受ける。
いや、レアスキルのせいで俺の素質は接近戦向きなんですよ。
ポジション的にはガードウィングかなぁ、俺。
実技の他に俺が受けているのは一般教養と、あとはデバイスマイスターの資格を取るための講義だ。
なんでまたこんなことを、と思われるかもしれないが、Larkをなんとかしないと駄目だったのである。
なんの問題もないように起動していたLarkであるが、流石に廃棄処分をされたというべきか、欠陥があった。
学校に通うようになり、実技中にちょっとした事故が起こったのである。
長時間ラウンドシールドを張る練習を繰り返したら、突然システムダウンしたのだ。
おかげで制御中だった魔力が暴走しちょっとしたメルトダウン。その場で爆発が起きた。
原因は排熱機構のエラー。んで、熱にやられてメモリー以外の機能にも障害が出た。
もともと排熱機構に不備があり、いつこの事故が起こっても無理はなかったんだそうな。
んで、しょうがないからLarkを修理に出そうと思ったんだが――
値段を見て目が飛び出た。
無理無理。絶対無理。いくらなんでも長老様にこんな負担をかけるわけにはいかねーっす。
そういうわけで、俺は自力でLarkを直すことにした。
どうやらパソコンと同じで、デバイスの修理費はその半分が手間賃らしい。
酷い暴利もあったもんだ。
まあ、とにかく。
俺はマイスターの資格を取って、Larkを直す。
そのせいで卒業に時間がかかりそうだが、その分の学費は出世払いってことで許してください。
プレシアの元から生きて逃げられたのもコイツのお陰みたいなもんだしね。
だからきっちり直すさ。
まあ、直すついでに――
『魔改造はしないでくださいね』
何故分かった。
マイスターの講義を受け、実技を受け。
そんなことを繰り返している内に、卒業シーズンとなった。
俺とユーノはめでたく同時卒業。
うん。俺はマイスターの資格獲得に時間が。ユーノは実技に引っ掛かってました。
それでお互い一年延長。お陰でもう八歳ですよ。
時の流れは早い。
しっかし、憑依しているのにユーノと同じ歳に卒業ってどうなの。
これでも記憶の仕方とか、同年代の子供よりもずっと上手いつもりなんだけど。
こりゃー生まれ持った才能とかじゃないのかねぇ。
まあ、とにかく。
「……すっごいなー。首席卒業か」
「そんな……大したことじゃないよ」
そういい、はにかむユーノ。
いや、大したもんだろ。
この野郎、卒業証書を渡されるまで主席卒業ってことを黙っていたのだ。
サプライズのつもりか、こやつめ。
「でも、本当にあっという間だったね」
「うん。けど、これでようやく胸を張って帰ることができるなー」
「そうだね」
そういい、ユーノはレイジングハートを起動させた。
手に握られるのはお馴染み――いずれはなのはの物となるバトンの形をしたデバイス。
「それじゃあ、長距離転送――」
ミッド式の魔法陣が、足元を照らす。
……ん?
ふと見回してみると、いつの間にか見送りがきていた。
まだ魔法学校に在籍しているスクライアの者と――ヴァイスさんか。
見送りはいいっていったのに。
彼らに別れを告げ、俺とユーノはスクライアのみんなが発掘作業を行っている次元へと、飛んだ。