なんの魔法か、流石というべきか。
良く分からないが、フィアットさんのところに行って治療を受けたら千切れかけていて医者すらも匙を投げた左腕が治った。
記憶が数日ぶっ飛んでて、何をされたのか覚えていないが。
まぁ、それは置いといて。
復帰したあとスクライアの長老様、護衛隊の皆様、調査隊の皆様にマジ土下座して管理局入りを許して貰った。
……と言っても、割と暖かく送り出してくれたわけだが。
その分、一人前になるのだというのなら、ってことでフェイトの生活費は俺が全額負担することになったりしたのだが、こればっかりは仕方がない。
大して使い道のない給料だ。それがフェイトのために使われるのならば、別に惜しくはない。
ちなみにフェイトは未だスクライアの護衛隊にいる。最後には俺の分まで働くから気にしないで、と言ってくれた。本当に申し訳ない。
……そう。最後には。最初、すんごい勢いで駄々をこねられたのである。
まぁ、とにかく。
管理局入りの準備をしてようやくアースラに乗り込むことになったのが二週間前。
闇の書事件からは一月が経っている。
そんなある日のこと。
嘱託としてなのはがアースラに訪れた。
「エスティマくん、久し振り!」
「よう、なのは。元気だったか?」
「うん。エスティマくんも元気そう。肩の怪我はもう大丈夫なの?」
「平気。平気。戦闘も問題なくこなせるよ」
ぐるぐると左腕を回してみる。
まぁ、最近はクロノのデスクワークばっか手伝ってるけどな。
執務官補佐として戦場に出るのがストレス発散になりつつある。
これってどうなの。
なんて風に感じている俺を余所に、なのははにこにこと笑っている。
まぁ、最後に会った時はまだ沈んでいたからなぁ。
ここ最近は忙殺されてて、気分がブルーに入っているとクロノ辺りが「やる気がないならスクライアに帰るか?」とか聞いてくるんだからタチが悪い。
元気にでもならなきゃやってらんねーっつーの。
「セッターさんも、久し振り」
『お久し振りです、高町なのは』
チカチカとデバイスコアが瞬く。セッターの口調は未だ固い。
まぁ、そんな簡単にAIが育つわけじゃないからね。
それに誰かに話しかけられなければ声を出すなって命じてあるし。
Larkとは違った意味でうるさいから、どうにも好きになれないのだ。
まぁ、そんなことはどうでも良い。
「なのは、はやては元気そうか? 俺も先週顔を出したけどさ」
「うん。シャッハさんが厳しいって愚痴ってたけど、それでも楽しそうだった。
ヴィータちゃんやザフィーラさんも、向こうの生活に慣れてきたみたい」
「そりゃ良かった」
どうにも俺が行くと無理して楽しそうに振る舞ってるように見えるからなぁ。
なのはがそう言うなら、大丈夫なのかな?
「それと、伝言。来週辺り準備が整うらしいから、聖王教会にきてって」
「ん、メールでもあったな。了解」
……復活、もうそろっとか。
存外早かったが、リインフォースⅡと違って作成するわけじゃないからそれほど難しいわけでもなかったのかもね。
いや、むしろデータ取りの時間だったのかもしれない。
完成した守護騎士のヴィータとザフィーラ、その素体のシグナムとシャマル。
その二つを比較しての解析に時間が取られたのかも。
まぁ、リインフォースの記憶と守護騎士システムの解析を代償にして生活の保証をしてもらっているのだから、文句は言えないかな。
本当はもっと自由に生活させてあげたいが、俺一人が背負うことができるのはフェイトが限界だ。
力がないのが嫌になるね。
「……あのさ、エスティマくん」
「ん?」
思わず考え込んでしまったので、レスポンスに少し間が空いた。
そして、一歩後退る。
なのはが俺の顔を覗き込むようにしてきたからだ。
「な、何さ」
「大丈夫? 疲れてない? 執務官補佐のお仕事、大変でしょう?」
「……大丈夫。闇の書事件の修羅場と比べたら、これぐらいどうってことないよ。
そんなに俺はヤワじゃない」
「うん……でも、無理しちゃ駄目だからね?
エスティマくんが強いのは分かるけど、辛いときはちゃんと休んでよ?」
「ああもう、心配ご無用! お子様はそんなことを気にするなって」
言いつつ、ぐりぐりとなのはの頭を撫でてやる。
それが不満らしく逃れようとするが、止めてやらない。
「お子様って、エスティマくんと私は同い年だよ!?
ちょ、止めて、止めてってばー!」
「ははは、俺は立派な社会人ですよ」
「ああああああ、髪の毛がー!」
ピンピンと髪の毛が跳ね始めたので開放。
まったく、他人よりも自分の心配をしろっつーの。
色んな方面からミッドに移って管理局に入らないか、って誘われてるのに。
「もう、また結ばないとだよー」
リボンを解きつつ文句を言うなのは。
その様子に溜息を吐きつつ、くつくつと笑う。
……ふと、なんだか久し振りに笑った気がした。
そりゃーなのはに心配されるわけだ。気を付けないと。
「ほら、なのは。早く行かないとクロノにどやされるぞ」
「あ、うん」
踵を返すと、その後をなのはが追ってくる。
そうして五歩ほど進むと、不意になのはが声をかけてきた。
「ねぇ、エスティマくん」
「なんだ?」
「ちょっとお願いがあるんだけど、良いかな?」
リリカル in wonder
アナウンスと、多くの人が談笑する声が風に乗って流れてくる。
運ばれてきた匂いには、顔をしかめるほどじゃないが、こういう場所特有の匂いが混じっていた。
顔を上げれば、そこには看板が。
『わくわく次元動物園』。どう考えても嫌な予感がビンビンです、本当にありがとうございました。
「兄さん兄さん、早く入ろうよ!」
「まぁ、待て待て」
軽く意気消沈しそうな俺の腕を引っ張りながら――っつーか、なんで腕を組んでいるんでしょうね妹君は――好奇心が抑えられない様子でフェイトが俺を急かす。
ちら、と視線を脇に向けると、そこにはユーノと談笑するなのはの姿が。
いつぞやの約束、しっかりと果たす羽目に。うん、強請られ……ではなく、ねだられたアレです。
子供四枚、とチケットを購入して入園。
ゲートをくぐった先には、売店と小規模な博物館、ここの地図があったり。
……こらフェイト。真っ先に売店へ行こうとするな。そして残念そうな顔もするな。帰りな帰り。
しっかしどこかで見たことある構造だなここ。
山の中に無理矢理作りました、って感じが多摩動物園とそっくりだ。……うげー、山道歩いて見回るのかよ。休日ぐらいは休ませて。
「さて。今日はエスティの奢りらしいし、思う存分楽しもうか」
「おいユーノ貴様。なんかこう、引っ掛かるものがあるのですがそこら辺どうなんでしょうか?」
「……スクライアのエースが管理局に入っちゃって、みんなガッカリしてたなぁ」
「すいませんでしたっ……!」
くそう。
色々と強く出れない。なんだこれ。
確かに基本給+高ランク指定で更に危険手当ついて結構な給料もらうことになっているけどさぁ。
それでも初任給はまだなんですよ?
そこら辺分かってます?
「……狼のぬいぐるみ」
「ああうん、買ってやるからあとでな?」
「フェイトには甘いなぁ。……不公平だから、僕らにもよろしくねエスティ」
ちくしょう……チクショー!
誰か穴子さんのAAを貼ってくれ!
「あ、あの、エスティマくん? 私が言い出したんだし、少し出すよ?」
「いいんだよなのは。色々とエスティの自業自得だし。……それは、今日でチャラってことで」
「あ……うん」
驚いたように頷くなのは。
……悪いなぁ、本当。
まぁ、なんだ。
辛気くさい顔をしてちゃ楽しめない。
息を吐いて笑顔を作ると、よし、と声を上げる。
「んじゃまぁ、今日は楽しみましょうか。どこから回りたい?」
「兄さん。私、この植物園の――」
「アウト。ビオランテからは危険な気配しか感じない」
「じゃあエスティ。昆虫展とかやってるみたいだから、そこに――」
「アウト。カッコウムシとか、同化されそう」
「じゃあどこから見ろって言うのさ!」
ジト目でユーノに睨まれる。
いや、だってさぁ。
うむむ、と首を傾げつつパラパラとパンフレットを捲り――
「こ、これは……」
「ど、どうしたのエスティマくん?」
「行くぞ、機械生物エリアだ」
「ちょ、なんで目が本気なのー!?」
「えっと……北極ライオン? 機械の? 兄さん、なんで?」
「行ってみれば分かる! おら、行くぞ!」
と、勢い込んで行ったものの。
GGGマークの看板が出てて、『ごめんね、整備中!』とかパネルが。
「もういいや。帰る」
「早いよエスティー!?」
「おま、この野郎、バインドで縛るな! 冗談だ!」
半分本気だったけど。
魔力にものを言わせてバインドブレイクし、がっくりと肩を落とす。
うわっはーとか言いたかったのに……。
なんだよこれ……もうこの動物園に価値なんてねぇよ……!
「ユーノ。兄さんって、けっこう子供っぽかったの?」
「うん。フェイトの前では格好つけてるよエスティ」
「残念だったね、エスティマくん」
三者三様に慰めているんだから貶しているんだから分からない反応をありがとう。
まぁ良いや。普通に回ろう。
「気を取り直して、回りますか」
「うん、兄さん」
と頷き、ぴったりと寄り添ってさりげなく手を繋いでくるフェイト。
ううむ、と思いつつ顔を見ると、満面の笑みを返された。
なんだろう。シスコンになったクロノの気分が分かるような分からないような。
いや、あの鬼執務官の気持ちなんて分かってたまるか。
……しっかしなぁ。
見事に真っ二つに割れている。
なのはのお願い。それは、別に動物園に行きたいとかじゃないのだ。
闇の書事件で仲の悪くなった……というか、断絶したフェイトと仲直りしたい、とのこと。
どういった経緯でそんなことになったのか聞いてみれば、誰が悪いとも言えないわけで。
そのせいで逆に難しいわけだ。
こうやって俺にべったりなフェイトは、ユーノに声をかけはしてもなのはと会話しようとしないし。
雰囲気を明るくすれば自然と前の調子になると思ったけど、そう簡単でもないか。
まぁ、有耶無耶の内に仲直り、ってのは、なのはの好むところではないだろう。
タイミングを見計らって、二人っきりにするのが吉か。
「で、アイス買ってくるっていうベタな手段に出た、と」
「ベタって言うなよう。俺だって自分の発想の貧困さに涙が出そうなんだから」
「……うん。いちいち胡散臭いこといわなくていいからね?」
まったく、とユーノは苦笑する。
ユーノの言ったとおり、アイス買ってくると断って半ば無理矢理ユーノを連れ出した次第。
「しっかし、僕の知らない内にそんなことになってたんだ」
「おいおい。お前だって兄貴だろうに」
「君もじゃないか、エスティ。それなのにフェイトを放り出して闇の書事件を追っていたのは、僕と一緒だろう?」
「む……それを言われると」
「僕だけが悪いみたいな言い方はしないで欲しいかな。まぁ、終わったことだからもう口うるさく言うつもりはないけどさ」
「ごめん」
「良いって」
どうしたものかね、と二人一緒にベンチに座る。
休日だからだろう。動物園に訪れている人はそれなりに多く、通りを行く家族連れはけっこうな数だ。
それをぼんやりと眺めていると、はやても連れてきたかったな、と考えが浮かんでくる。
しかし、それを実行に移すのは無理だろう。
いや、ここに連れてくるだけなら別に難しくもなんともないんだけど、ユーノとフェイトに会わせるのはちょっとね。
悪感情というか、消し去ることのできないしこりが八神家とスクライアの間にはある。
俺一人に色々と世話を焼いてくれることから分かるように、割とスクライアはアットホームなのだ。
一度家族と認めた者には、最大限の加護を。それは俺やユーノ、フェイトなどの流れ者にもだ。
そんな家族意識は、過酷な遺跡発掘現場での共同生活でより強くなる。
そのせいか、外的に対して割と攻撃的なのだ、スクライアは。
原作を見ていてユーノを一人管理局に放り出したところから想像もできなかった部分だ。
しかしアレは、きっとユーノの強い意志があってのことだったのだろう。
きっと原作のユーノは、執務官補佐になった俺と同じように、どうしようもなくなったら帰ってきて良いと言われて送り出されたんじゃないだろうか。
帰る場所がある、というのは随分と救いになる。
自分勝手な理由でスクライアを出た俺がなんとかやっていけているのも、家族に情けない姿をさらせない、ってのが少なからずあるだろう。
……話が逸れた。
そのスクライアの在り方を忠実に守り――本人にそのつもりがなくとも――ユーノははやてのことを話題に出すといい顔をしない。
いや、出す、というのは正しくないか。
むしろ――
「ねぇ、エスティ」
「なんだ?」
「……まだ、八神はやてと会ってるんだって?」
……こんな風に、ユーノの方から話を振ってくるのだ。
「うん」
「そう。……ねぇ、エスティ。あの子とはあまり関わらない方が良いと思う……って、今まで何度も言ったよね?
それなのに、なんで僕の言うことを聞いてくれないのかな」
「口うるさく言うのは、さっきので終わりなんじゃなかったのか?」
「それはそれ。これはこれ。フェイトにはちゃんと接してるからもう口出しはしないよ。
けど、あの子は別。
あのさ。強い力には危険が付きまとうって、分かってるよね?
そういったのを狙う輩には、ロクなのがいない。今まで遺跡発掘をしてきたんだから、それぐらい分かっているでしょ?」
「そりゃあ、ね……」
分かってはいる。
強すぎる力ってのは、それを持たない者から見たら非常に魅力的に映るもんだ。
ロストロギアが正にそうだし、PT事件も闇の書事件も、その法則に則って巻き込まれたようなもの。
そして、はやての持っている力。夜天の主である彼女の資質は、ロストロギアに匹敵する価値がある。
そんな彼女と一緒にいたら、面倒事に巻き込まれるのは必須と言って良い。それは間違ってはいないだろう。
……それに、俺自身が疫病神みたいなもんだしね。
近付かないのが一番だとは思っているが、どうにも。
別に顔を見せないとヴィータがうるさいとか、そういうのじゃない。
単純な話、聖王教会に彼女の身柄を差し出したのは俺みたいなものなのだから、せめてはやてが独り立ちできるまでは見守ってやらないといけない気がするのだ。
……余計なお節介なのかな、これは。
「……最近さ」
ずっと黙っていたユーノが言葉を向けてくる。
顔は正面の通りを眺めたままで、ぼーっとした口調で。
「ふとした拍子に考えるんだよね。いつからこんなことになったのかなって。
エスティが面倒見が良いのは知ってるよ。けど、それでも最近は度が過ぎてる気がする。
フェイトを助けて、闇の書事件に首を突っ込んで、痛い目を見て。
それで失ったものは、決して少なくないはずだ。
……そんなになってまで、君は何がしたいんだい?
前は、エスティが考えていることがなんとなく分かったけど――最近は、さっぱりだ」
「ん、そうだな……」
背もたれに体重をかけて、空を見上げる。
「俺は……何がしたいんだろうねぇ」
「なんだよそれ」
「なんだろうな。俺もたまに分からなくなる」
何をするかは決めている。
ただ――その先に何があるんだろう。
もし俺が知識として知っている事件が全て終わったあと、俺の手元には何が残るんだか。
労いの言葉をかけてくれるような相手――Larkは、もういない。
誰も知らないところで戦って、それに意味はあるのか。
正史がどうのこうのなんて、誰も気にしないのだ。
ここで俺が投げ出したところで、問題なんて何一つない。
逃げ出したところで、何を言われることもない。
……そうだ。それは、闇の書事件のときと変わっていない。
だが、以前と今では、違うのだ。
少し時間が経った今だからこそ分かるが、前は妙な義務感で首を突っ込んでいた。
しかし今は、ただLarkを無駄にしたと思いたくないだけで戦っている。そんな気がする。
……分かっているんだ。それは、戦い続けることをLarkのせいにして自慰に耽っている俺の馬鹿げた自意識だなんてことは。
けど……もう、それ以外に分からない。
果てはずっと先だが、ぷっつりと道が途切れたとき、俺はどうしたら良いのだろう。
そんな漠然とした不安。なんつーか、人生二度目の思春期を迎えた気分だ。
「なぁ、ユーノ」
「何?」
「幸せってなんだろうなぁ」
「えらく哲学的なことを聞くね」
「そうか?……いや、そうだな。
ううむ、いやいや、これは考えてみると割と難しいかもよ?
世間一般的には、仕事で偉くなることだとか、金持ちになることだとか、女をはべらせてエロいことをしたりとか色々あるけど」
「エロいこと……」
「ああうん、そこに反応するのは実にお前らしいね」
「真面目な話をしているのかふざけているのか、どっちなのさ!?」
「さあ、どっちなんでしょうかねぇ」
よっ、と掛け声を上げてベンチから立ち上がる。
真面目タイム終了。それなりに時間が経ったし、もうそろそろフェイトたちのところに戻るとするかね。
「エスティ」
「なんだ?」
「今日、ここにきて楽しい?」
「ん、まあね」
「なら、それが幸せってことじゃない? 漠然としたものじゃない、確かな、さ」
「……お前、実はすごい奴?」
「え? だって当たり前のことじゃないか」
首を傾げてそんなことを言うユーノ。
む……しかし、そうか。
……そうだな。
幸せなんて、そこら辺に転がっているか。そして、作ろうと思えば簡単に作れる。
同じように、壊そうと思えば簡単に壊れてしまうが。
……そうか。そうだな。
よし。
「うむ、ユーノ。俺は決めたぞ!」
「どうしたのいきなり。往来で叫びを上げるのはどうかと思うよ」
「ほっとけ。……うん、俺は幸せになる。それを邪魔しようとする要因を排除できるだけの力をつけて、幸せに人生を謳歌してやる!」
「何を当たり前のことを」
「……そうなんだよなぁ。当たり前のことなんだよなぁ」
なんでそんなことを忘れていたのか、俺は。
まったく、自分の馬鹿さ加減に嫌気が差すぜ。
なぁ、そうだろう? Lark。
エスティマとユーノが買い物に行ってから、なのはとフェイトの間には沈黙だけが量産されていた。
フェイトはただ檻の向こうにいる動物を見ているだけで、なのははそんな彼女に言葉をかけようとするが一向に口を開かない。
断絶されたような溝があるのではなく、ただ、口を開きづらい雰囲気となっている。
駄目だな、となのは唇を噛む。
エスティマに今日という日を準備してもらったのに、自分がこんなことじゃあ意味がない。
けど、どうしよう。
単刀直入にあの日のことを話そうか。
それとも、さりげない会話をしてから本題に入ろうか。
……どうすれば良いのか分からないよ。
他の人だったらどうするのかな。
そう考え、なのはは脳裏に友人の顔を思い浮かべる。
エスティマならば顔を合わせた瞬間に土下座して一気に押し切りそう。流石にそれは……。
ユーノならば、からかい半分といった調子で茶化しつつ、それとなく話を振ってくれそう。大人だ。
クロノならば……それがどうした? と言わんばかりの態度で接してきそうだ。真似はきっと無理。
アリサやすずかならば、溜息一つで許してくれそう。フェイトちゃんにそれは良いのかな?
……さ、参考にならないよ。
全員が全員、特徴的すぎる。
うっうー、と頭を抱えるなのは。
そうしていると、
「……ねぇ、なのは」
不意に、フェイトから声をかけてきた。
「な、何!?」
素っ頓狂な声が出てしまったが、それを気にした風もなくフェイトは言葉を続ける。
「兄さん、お仕事頑張ってる?」
「あ……うん」
「そっか」
微笑みを浮かべて、フェイトは小さく頷いた。
それが嬉しそうで、どこか少し悲しそう。
なんでだろう、となのはは首を傾げる。
「どうしたの?」
「私は、しばらくの間兄さんと一緒にいられないから。だから、なのは。兄さんのこと、お願いできないかな。
嘱託のお仕事で一緒になるときだけで良いから、助けてあげて。
……Larkがいなくなって、兄さん、すっごく辛そうなの」
「うん。当たり前だよ」
咄嗟に言葉が出てくる。
エスティマを助けるのは当たり前だと、そんな風に。
闇の書事件。その解決の代償として、エスティマはデバイスを失った。
……エスティマくんはすごい、となのはは思う。
レイジングハートを失ってしまったら、もしかしたら自分は戦うことを止めてしまうかもしれない。
自分の力であると同時に、大切な相棒なのだ。
その感情は、きっとエスティマと同じ――否、自分よりも長い時間を共に過ごしたエスティマは、きっとLarkが壊れたことに深く悲しんでいるだろう。
それなのに、彼は脚を止めずに前に進んでいる。
Larkを失う原因となったはやてを恨まず、周りの人を気遣いながら、ただ前へ。
そんな在り方を眩しく思う。度々出てくる、エスティマくんは強い、というのは、なのはの本心からの言葉だ。
故に、危うい。
一度、レイジングハートを壊されて、周りの人たちがどんどん離れて行ってしまった時の自分みたいに、彼の心根がいつかは折れてしまうのではないか。
……きっとそんなことを言ったら、そんなにヤワじゃないよ、って笑われそうだけど。
だから、誰かが黙って支えてあげなくちゃいけない。言葉に出したら、きっと突き放されてしまうから。
……その誰かに、私はなれるのかな。なれたら良いな。
「ごめんね、なのは」
「……え?」
「なのはに酷いこと言ったのに、こんなこと頼んで。
私、兄さんの力になろうって思っても、一緒にいるとそれを忘れて、どうしても甘えちゃうから駄目なんだ」
「そんなことないよ。フェイトちゃんがいるから頑張れるってのも、きっとあると思う」
「かもしれない。けど、私は、兄さんの――」
そこまで言って、フェイトは頭を横に振る。
そして、なんでもないよ、と薄く笑う。
「ごめんね、なのは。あの時、私は何も見えてなかった。酷いこと言って、本当にごめんなさい。
……また、友達になってくれるかな」
「……うん」
ありがとう、と言ったフェイトの手を、思わず握る。
そうして二人は笑い合う。
ああ、こんな風に笑い合うのは久し振りだな、なんて思いながら。
フェイトとなのはが仲直りできたようで何より。
これでなんとか、当面の問題は解決できたかな――
「……ねぇ、エスティマ」
「なんだいアルフ」
「こないだね、一眼レフのカメラを新調したばっかりだったんだよ。使い方によっちゃあデジカメよりも味が出るって聞いてさぁ……」
「そうなんだ」
「ああ、そうなんだよ。それなりに練習もして、これならフェイトの笑顔がバッチリと撮れると思ったんだけどねぇ……」
「俺の預金残高がレッドゾーンまで減っていると思ったら、そんなもんを買ってたのか」
「クレジットカードって便利だよねぇ」
おいこの野郎。お前、PT事件のときに買ったマンションを売却したから金には困ってないだろうが。
「そんなことはどうでも良い」
どうでも良くない!……ってあれ? なんで右腕をぶらぶらさせてるんですかアルフさん?
「なんでまたアタシを置いてったんだー!」
ボボボ、とフリッカーが三発入った後にアッパーが顎に。
アルフ……お前は、世界を狙える……!
げふぅ、と吹っ飛ばされて天井に頭を激突させながら、そんなことを思ったり。
……くそう。