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No.3690の一覧
[0] リリカル in wonder 無印五話 挿絵追加[角煮(挿絵:由家)](2009/04/14 12:06)
[1] 一話[角煮](2008/08/02 22:00)
[2] 二話[角煮](2008/08/02 22:03)
[3] 三話[角煮](2008/08/02 22:06)
[4] 四話[角煮](2008/08/02 22:11)
[5] 五話[角煮](2009/04/14 12:05)
[6] 六話[角煮](2008/08/05 19:55)
[7] 七話[角煮](2008/08/21 04:16)
[8] 八話[角煮](2008/08/21 04:26)
[9] 九話[角煮](2008/09/03 12:19)
[10] 十話[角煮](2008/09/03 12:20)
[11] 十一話[角煮](2008/09/03 20:26)
[12] 十二話[角煮](2008/09/04 21:56)
[13] 十三話[角煮](2008/09/04 23:29)
[14] 十四話[角煮](2008/09/08 17:15)
[15] 十五話[角煮](2008/09/08 19:26)
[16] 十六話[角煮](2008/09/13 00:34)
[17] 十七話[角煮](2008/09/14 00:01)
[18] 閑話1[角煮](2008/09/18 22:30)
[19] 閑話2[角煮](2008/09/18 22:31)
[20] 閑話3[角煮](2008/09/19 01:56)
[21] 閑話4[角煮](2008/10/10 01:25)
[22] 閑話からA,sへ[角煮](2008/09/19 00:17)
[23] 一話[角煮](2008/09/23 13:49)
[24] 二話[角煮](2008/09/21 21:15)
[25] 三話[角煮](2008/09/25 00:20)
[26] 四話[角煮](2008/09/25 00:19)
[27] 五話[角煮](2008/09/25 00:21)
[28] 六話[角煮](2008/09/25 00:44)
[29] 七話[角煮](2008/10/03 02:55)
[30] 八話[角煮](2008/10/03 03:07)
[31] 九話[角煮](2008/10/07 01:02)
[32] 十話[角煮](2008/10/03 03:15)
[33] 十一話[角煮](2008/10/10 01:29)
[34] 十二話[角煮](2008/10/07 01:03)
[35] 十三話[角煮](2008/10/10 01:24)
[36] 十四話[角煮](2008/10/21 20:12)
[37] 十五話[角煮](2008/10/21 20:11)
[38] 十六話[角煮](2008/10/21 22:06)
[39] 十七話[角煮](2008/10/25 05:57)
[40] 十八話[角煮](2008/11/01 19:50)
[41] 十九話[角煮](2008/11/01 19:47)
[42] 後日談1[角煮](2008/12/17 13:11)
[43] 後日談2 挿絵有り[角煮](2009/03/30 21:58)
[44] 閑話5[角煮](2008/11/09 18:55)
[45] 閑話6[角煮](2008/11/09 18:58)
[46] 閑話7[角煮](2008/11/12 02:02)
[47] 空白期 一話[角煮](2008/11/16 23:48)
[48] 空白期 二話[角煮](2008/11/22 12:06)
[49] 空白期 三話[角煮](2008/11/26 04:43)
[50] 空白期 四話[角煮](2008/12/06 03:29)
[51] 空白期 五話[角煮](2008/12/06 04:37)
[52] 空白期 六話[角煮](2008/12/17 13:14)
[53] 空白期 七話[角煮](2008/12/29 22:12)
[54] 空白期 八話[角煮](2008/12/29 22:14)
[55] 空白期 九話[角煮](2009/01/26 03:59)
[56] 空白期 十話[角煮](2009/02/07 23:54)
[57] 空白期 後日談[角煮](2009/02/04 15:25)
[58] クリスマスな話 はやて編[角煮](2009/02/04 15:35)
[59] 正月な話    なのは編[角煮](2009/02/07 23:52)
[60] 閑話8[角煮](2009/02/04 15:26)
[61] IFな終わり その一[角煮](2009/02/11 02:24)
[62] IFな終わり その二[角煮](2009/02/11 02:55)
[63] IFな終わり その三[角煮](2009/02/16 22:09)
[64] バレンタインな話 フェイト編[角煮](2009/03/07 02:27)
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[3690] 空白期 一話
Name: 角煮◆904d8c10 ID:63584101 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/11/16 23:48
「まずは、おめでとうと言ってやろう」

「ありがとう、と言えば良いのかな」

直立し、背筋を真っ直ぐにしたまま目の前にいるクロノの言葉に耳を傾ける。

――五日前、執務官試験の結果発表があった。

受験者の数はそれなりのものだったが、俺はなんとか合格することができた。

で、昨夜はアースラの皆さんの盛大に祝ってもらったり、一昨日は聖王教会の皆さんに祝ってもらったり、スクライアで揉みくちゃにされたりと、飲み会ラッシュ。

いや、酒は飲んでないけど。未成年だから。

そして今日。転居の準備も完全に済んだので、これからミッドチルダのクラナガンへと向かう。

だが、時間に余裕を作りながら、いざ出発、と思ったら直前に呼び出しを喰らったのだ。

目の前にいる俺の上司――いや、元上司――は普段のバリアジャケット姿ではなく、珍しく制服。

クロノの下で一年近く働いたけど、初めて見た。

なんつーか、似合わないというかなんと言うか。いや、俺が言えた義理じゃないんだけど。

彼はどこか皮肉げな笑みを浮かべると、鼻を鳴らす。

「まさか本当に一発で通るなんてな。一年間、積み込めるだけ積み込んだつもりだったが、こうも早く成果を出すとは思わなかった」

「……褒めてんの?」

思わず問う。

祝ったもらった時だって説教しかしてこなくてエイミィさんに苦笑されていたというのに。

「一応な。……褒めるのはこれが最初で最後だ。だから良く聞け。
 君は良くやったと思う。
 この歳で執務官になれる者はほんの一握りだ。誇って良いだろう、これは。
 君が才能だけで執務官になったんじゃないということは、僕が一番良く知っている。
 だからこそ褒める。良くやったな、エスティマ」

「よせやい」

「ああ。褒めるのはこれで終わりだ」

なんだろう。酷く負けた気がする。

思わず溜息。珍しく褒められたと思ったらこれで終わりかよ。

……まぁ、これだけでも嬉しくないと言ったら嘘になるけどさ。

今までどれだけの罵詈雑言と雑務を押し付けられたことか……。

あ、思い出したら目から汗が。

「エスティマ」

「……なんでしょう」

「実力で執務官の資格を勝ち取ったと言っても、それを認めない者は多い。
 僕も君も、結局のところは子供だ。
 着任してから数年は、決して楽ではないと思う。
 だが、それも自分で選んだことだ。法の守護者としての使命をやり遂げろ」

「はい」

「よろしい。じゃあなエスティマ」

「ああ。今までありがとう」





















リリカル in wonder




















ミッドチルダのクラナガン。

魔法世界の中心と言っても過言ではない都市に、長大な建造物が天を突かんとばかりに存在している。

時空管理局・地上本部。

その超高層ビルの最上階に近い場所。その一室にある執務室に、一組の男女がいた。

レジアス・ゲイズ。その娘であり、防衛長官秘書のオーリス・ゲイズ。

二人は資料に目を通しながらも、ここへと訪れる人物を待っている。

その人物とは、先日執務官試験をパスした少年、エスティマ・スクライアだ。

本来ならば一人の執務官でしかない子供の顔を見る必要などないのだが、彼の進めている計画のパトロンとも言える人物たちから勧められたために、仕方なく時間を作っていた。

彼の手元には、エスティマについての資料がある。

出自。経歴。解決してきた事件。

それだけならば、どこにでも転がっている内容だ。

しかし、それ以上。資料には一人の人間であるエスティマではなく、兵器としてのエスティマについての事柄すらも記されている。

人造魔導師であり、レリックウェポン初の成功作であり、部分的な戦闘機人。

最新鋭の技術の結晶とも、妄執の塊とも言って良い存在。

そんなエスティマと顔を合わすことを、レジアスは苦々しく思っていた。

何故ならばこれから行う顔合わせは、最高評議会の単なる自慢なのだから。

エスティマに使われている技術は、最高評議会の望んでいるものが多くのウェイトを占めている。

しかもそれを自分の下で駒として使えなど――馬鹿にでもしているのか、と被害妄想すら湧いてくる。

駄目押しでエスティマを地上に送り込んできたのは海の提督ときた。

まるで施しでも受けているような自分の境遇が、惨めにさえ思えてくる。

「はい。はい。……エスティマ・スクライア執務官が到着したようです」

「そうか」

オーリスの報告を聞き、ぎしり、と音を立てながらレジアスは椅子に深く身を沈ませる。

「まったく、馬鹿にでもされているのか私は。なぁ、オーリス」

「あまり深く考えてはいけません。また血圧が上がります」

「む……」

つい最近健康診断で注意された事柄を指摘され、レジアスはさきほどと違った苦みを顔に浮かべる。

まだ秘書官として日の浅いオーリスは、時折こうやって仕事に関係ない――と言ったら体調管理も仕事の内と釘を刺されるのだが――ことを口に出す。

それが間違っていない上に、気遣いなのだからレジアスも無下にできない。

気を取り直すようにレジアスは咳払いを一つすると、肘を机に乗せて手を組んだ。

「こんな子供を執務官にするなど……最高評議会は何を考えているのだ。
 精神的に未熟な者を激務に放り込んだところで、すぐに潰れるだけだ。
 力に偏った者など、武装隊で運用するのが一番だろうに」

「お言葉ですが中将。執務官試験の成績も優秀と言って良いレベルですよ、この子は」

そう言い、オーリスはディスプレイにエスティマの成績を表示する。

「稀少技能保持者なのでボーダーは引き下げられていますが、それでも、上位に食い込むほどの成績ならば問題はないでしょう。
 実技の方も申し分在りません。稀少技能と魔力総量に頼りがちではありますが、トップであることに変わりはありませんから」

もっとも、自分の持つ能力を最大限に発揮する戦い方は決して間違ってはいないのだが、そんなことを口にすればレジアスの機嫌は更に悪くなる。

それを分かっていたため、オーリスはどこか悪く言うような口調でエスティマを評した。

そうしている内に、入室の許可を問う通信が届く。

通せ、とレジアスが言うと、軽い音を立てて執務室の扉が開いた。

そして、現れた姿にレジアスとオーリスは共に目を丸くする。

中性的を通り越して少女的な顔立ち。鍛えてはいるのだろうが、子供なのでどう頑張っても華奢な身体。

それがサイズの合わない、若干大きな執務官の制服を着ている。服の袖は掌の半ばまでを隠し、裾はあと僅かで地面に着きそうだ。

呆気にとられたレジアスとオーリスを前にして、エスティマは表情を引き締めたまま、姿勢を正して敬礼をする。

「エスティマ・スクライア執務官です」

「ご苦労」

レジアスが応えると、少しの沈黙が生まれる。

エスティマは敬礼した腕を落とすと、まっすぐにレジアスへ視線を向けたまま微動だにしない。

彼の目つき、声の調子から、ほう、とレジアスは少しだけ彼を見くびっていたと考えを改める。ほんの少しだけ、だが。

子供だと思ったが、最低限の礼節は弁えているらしい。

「スクライア執務官。お前は、首都防衛隊に配備する。能力を存分に生かして、職務に励め」

「はい」

「……オーリス。彼を職場に案内してやれ」

「はい」

指示に従い、オーリスは書類を抱えてエスティマへと歩み寄る。

こちらです、と声をかけ、部屋を出て行く二人。

その背中が見えなくなってから、レジアスは重い溜息を吐いた。

エスティマの配属先は首都防衛隊。その中でも精鋭揃いと言っても良い場所。

彼の友人であるゼストが隊長を務める部隊である。

自分の思惑で監視を。最高評議会の意向で、サンプルに無駄な損害を出さずそれなりにデータ収集の行える場所へ。

「くそ、厄介な火種を押し付けて……またあいつには苦労をかけるな」

酒の一杯でも奢ってやろう、と胸中で呟き、レジアスは溜まっている報告書に目を通し始めた。





























……なんで呼び出されたんだろう。

首を傾げたい気分になりながらも、先導するオーリスさんに妙な印象を抱かれたらマズイので我慢する。

たったの一言二言で終わらせる顔合わせになんの価値が?

てっきりグチグチグチグチと稀少技能保持者なんだからとか言われると思っていたのだけれど。

しっかしデカイな本部。

窓から下を見たらチビりそうになるぐらいに高いぞこれ。

いや、嘘だけど。空戦魔導師の台詞じゃないよね。

「スクライア執務官」

「は、はい!」

急に呼ばれたせいで変な声が出た。

なんとか猫を被り直してオーリスさんの顔を見上げる。

原作じゃあ年齢不詳だったこの人……大体、二十歳前後って感じかな?

まだ若い。まぁ、stsまで十年近くあるからなぁ。

行き遅れになるのかしら、この人。なんて失礼なことを考えたり。

彼女は俺を一瞥すると、足を動かしたまま口を開いた。

「スクライア執務官は、なぜ地上配備を希望したのですか?
 執務官補佐として経験を積んだのなら、海に配備された方が仕事をし易かったでしょう」

「そうですね。上司にもそう言われました」

まぁ、当たり前なんだけどね。

地上行きたいとか言ったら、クロノに思いっきり顔を顰められたし。

けどまぁ、俺には目的がある。

それを偽りながら、

「しかし、海で働いている間に何度も思ったんです。
 次元世界の平和を維持するのは大切ですが、それで地上を疎かにして良いわけではない。
 反管理局組織によるテロで犠牲者が出ているというのに海はそれを顧みずに外へ目を向けてばかりです。
 それにどうしても疑問を抱いてしまい、地上配備を希望しました。
 せっかく稀少技能なんて力を持って生まれたんです。それで、どこかの知らない誰かじゃなくて、近くにいる人を守りたいと思ったんです」

「近くにいる人?」

先程と比べ、若干オーリスさんの声から固さが抜ける。

それに気付かないフリをしながら、

「はい。ミッドチルダに住んでいる人々を……って、ごめんなさい。
 まだなんの仕事もしていないのにこんな大仰なことを言って」

照れと自虐の混じったような笑みを浮かべる。

おずおずと上目遣いでオーリスさんを見ると、彼女はどこか冷たさを感じさせる表情ではなく、軟らかな笑みを浮かべていた。

僅かに口元を緩ませ、彼女は口を開く。

「いえ、立派だと思いますよ。それを体現できれば、あなたは陸の管理局員となれるでしょう」

「ありがとうございます」

言外に、陸の局員じゃないぞ貴様、と言われている気が。

……深読みしすぎか。微笑みながらそんなことを言うなんて、割と外道だぞ。

まぁ良い。

エレベーターで一気に下層まで下りると、正面玄関でオーリスさんと別れる。

別れ際、頑張ってね、と素の言葉をかけられた。原作ほどガッチガチに固い人じゃないみたい。

そこから用意された車で移動し、首都防衛隊の隊舎へ。

さて、一応希望通りに首都防衛隊に配属されたが、ゼスト隊に入れるわけじゃないんだよなぁ。

などと思いつつ案内された場所は、作戦部第三課とプレートに刻まれた部屋。

職員に礼を言って、一人ドアをノックする。

声が聞こえたので扉を開き、一歩進んで敬礼をする。

「エスティマ・スクライア執務官です。本日より首都防衛隊作戦部第三課に……って、ちょ!?」

思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

だって、だってさぁ。

そうなったら良いな、とか思っていたけど実際にいるとさぁ!

「……どうした?」

「し、失礼しました!」

崩れた敬礼を再び。

そうすると、部屋の隅からくすくすと笑い声が聞こえてきた。

ううう、恥ずい。顔が熱い。

「ご苦労、エスティマ・スクライア執務官。
 俺は部隊長を務める、ゼスト・グランガイツだ」

「はい、よろしくお願いします」

腕を下ろす。

局の制服に身を包んだ、ゼスト隊長。彼は、うむ、と頷くと、部屋の隅へと視線を移す。

「ナカジマ。彼にここの案内をしてやってくれ」

「くく……」

「……いつまで笑っている」

「は、はい! 申し訳ありません!」

……ああ、笑っていたのはクイントさんだったのね。

彼女は必死に笑いを噛み殺した様子で俺に近付いてくると、こっち、と言って部屋の外へ。

そして廊下に出ると、どこから案内しようか、などと呟いた。

「あの……クイントさん」

「はい、スクライア執務官」

うわぁ、敬語だけど、ものっそい子供に対する柔らかい口調だ。

「……あの、隊長って、あのゼスト・グランガイツさんでしょうか。オーバーSの」

「はい、そうですよ。ストライカー級魔導師のゼスト・グランガイツです」

「……なんだか妙な気分になるので敬語は結構です」

「あら、そう?」

あ、一瞬で敬語が失せた。

……うん。執務官だから、三尉扱いなんだよね俺。

sts時点のヴィータの階級と一緒……だったと思う。この歳でこれは充分異常だ。

しっかし、歳が歳だから基本年上ばっかりで、なんともやりづらいんだよなぁ、敬語を使われるの。

部下扱いだからゼストさんは違うみだいけど。

「しかし驚いたわね。補充要員がくるときいていたけど、まさかエース級が配属されるなんて思ってもみなかった。
 しかもウチの部隊に。いや、執務官がきてくれたら法務関係が一気に楽になるんだけど。
 余所から妬まれそうねー」

……割とおしゃべりなんだなぁ、この人。

にこにことした笑みを浮かべながら、彼女は話を続ける。

「エスティマくんは空戦でランクを取っているんだっけ?」

「はい」

「うん。空間制圧ができる人が増えてありがたいわね。期待しちゃっても良い?」

「ランク分の働きは。皆さんにかけるリミッター分ぐらいは取り返して見せます」

「ん? リミッターのこと、聞いてたの?」

「いいえ。けど、オーバーSやAAランクの魔導師がいる部隊に俺が入るのならかけられても不思議じゃありませんから。
 魔力リミッター、どんな風に分けられてるんです?」

と聞くと、クイントさんは苦笑しながら人差し指を立てる。

「運が良いのか悪かったのか、隊長は古代ベルカ式の騎士だから魔力自体は多くないの。私もメガーヌもね。
 って、ああ、メガーヌって言うのは同じ部隊の――」

と、脱線しまくりな会話。

話をまとめると、リミッターらしいリミッターはないとか。

ただ、俺のフルドライブにはゼストさんの限定解除承認がないと駄目らしい。

まぁ、魔導師ランクはともかく魔力ランクがアホの領域に達してるからね俺。

それの完全開放を封じれば、って感じか。

しっかし、sts時点のヴァイスさんといい、陸のエース級の人たちは魔力ランクをある程度諦めて技量だけで勝負する類の魔導師が揃っているのかな。

などと考えていると、いつの間にか案内は最後の場所へ。

屋外の訓練場。

そこへ行くと、なぜか整列した皆様が。

それをまとめているのはゼストさんだ。

彼は俺とクイントさんの姿を目にすると、こちらに身体を向けた。

「ナカジマ。案内は終わったか」

「はい。ここで最後です」

「ん……スクライア執務官」

「はい」

「これから君は我々の部隊の一員となって戦ってもらう。
 その挨拶代わりとして――私と模擬戦を行ってもらおう」

「……ベルカ式交流術」

「……知っているの?」

「……ええ」

思わず口に出してしまった単語にクイントさんが聞き返してきた。

肯定です。

仲良くなりましょう、とか言いながらトンファーぶん回す暴力シスターが知り合いの保護者でしてね。

……まぁ、これから背中を預ける同僚に実力を見せておくのは必要なことか。

連携云々はともかくとして、今は全力全開を見せろってことか。

うん。ゼストさんの趣味じゃないよね?

「……久し振りのAAAランク。腕が鳴る」

「趣味だったー!」

「お、落ち着いてエスティマくん!」

頭を抱える我。

ベルカの連中はこんなのばっかか!

「良い? エスティマくん」

「……はい」

「確かに乱暴かもしれないけど、あなたの実力をみんなが把握するのは大切なことよ」

「ええ。分かっています」

「そして、拳と拳で語り合うのはもっとも絆を深めるのに――」

「この人もベルカだった! 近代だけど!」

ファック、と叫びたくなる衝動を抑えつつ、首元に下がったセッターを手に取る。

ああもうくそ!

オー人事オー人事! 移った職場にも問題がありましたよ!

『スタンバイ・レディ』

白金のハルバード、日本UCAT型のバリアジャケットを装着して、セッターを肩に担ぐ。

そしてゼストさんの前に出ると、目を合わせた。

「時間制限は二十分。クリーンヒットを入れられた方が負けで良いな?」

「はい」

「よし。それでは――」

ゼストさんが騎士甲冑を装着し、だいぶ記憶が薄れているが、stsで見たものとデザインの良く似た槍型デバイスを手に取る。

そして同時に空へと上がると、

「――始め!」

クイントさんの掛け声と共に、同時に跳ねた。

瞬時にアクセルフィンを形成し、クロスファイアを発動。

お手並み拝見、と放とうとして――

「――っ!?」

ギン、と甲高い音を上げながら踏み込んできたゼストさんを切り払った。

速度にものを言わせて一気に上昇すると、クロスファイアを斉射。

六つの誘導弾。その内四つは囮なのだが――

破、という掛け声と共に直進していた誘導弾が切り払われた。

速いな。俺の方が上だろうが、それでも流石はストライカー級。

「射撃じゃ切り払われるか。……なら」

眼前にミッド式魔法陣を展開し、術式を流す。

そして左手を引いて、

「サンダー……スマッシャー!」

叫びと共に魔法陣へと叩き付ける。

バチバチと雷が爆ぜる音が響き、電気変換され、集束した雷が真っ直ぐにゼストさんへと突き進む。

相手の動きを止めての砲撃というわけではないので、横へ動かれただけで回避される。

だが、それは想定の範囲内。

「Seven Stars!」

『――Phase Shift』

瞬間、世界が遅くなる。

空を流れる雲も、肌を撫でる風も。

地上から俺たちを見上げる局員も、耳に届く音も、何もかも。

その中で動けるのは俺だけだ。

Seven Starsを振りかぶり、一気に肉薄する。

そして胴に向けて寸止めしようとスイングを――

瞬間、チカ、とゼストさんのデバイスコアが明滅したと思ったら、俺の斬撃に合わせてきた。

『Grenzpunkt freilassen』

衝撃。一拍遅れて音声が聞こえる。

腕力ではとてもじゃないが大人には勝てない。なので、アクセルフィンの推進力をそのまま斬撃に乗せてなんとか拮抗する。

「ふ、フルドライブは流石に大人げないんじゃないですか!?」

「ふん。……そんな稀少技能を使っておいて、何を言う」

楽しげに言葉を吐き出すゼストさん。

思わず舌打ちし、

『――Phase Shift』

離脱目的で稀少技能を発動。

しかし、それでも食い付いてくるベルカの騎士。

呆気に取られそうになるが気を取り直して、Seven Starsを振るう。

一合、二合、三合。

加速状態でのぶつかり合い。

反動でビリビリと腕が痺れる。体格差がこんなにはっきり出るなんて初めてだ……!

「それなら!」

突き出された槍に対して、左腕を突き出す。

このままではぶつかり合い、俺の掌は間違いなく貫通する。運が悪ければ治療不可能なほどに裂ける。

そう考えたのか、繰り出された突きの速度が一気に弛み――

「何っ!?」

一気に放出された高密度の魔力。それを電気変換された、ミッドの異端魔法。

それは確かにゼストさんの槍を受け止め、俺は左腕を突き出したまま、

「パルマフィオキーナ!」

トリガーワードを叫んだ。

槍を受け止めたのはただの余剰魔力。

名を叫びながら放たれた掌の槍はゼストさんの槍を弾き、その役目を終える。

今だ。

「Seven Stars!」

『チェーンバインド』

Seven Starsの自動詠唱によりゼストさんの足元に出現した魔法陣。

そこから幾重にも鎖が吐き出され、雁字搦めに。

動きは止めた。これで――!

「ディバイン――!」

『バスター』

サンライトイエローの輝きが集中する矛先。

それをゼストさんに向けて、砲撃を放つ。

だが、ここでもう一度予想外の事態が起こったり。

ゼストさんは力ずくで、魔力ではなく、あくまでも力ずくでチェーンバインドを破壊するとディバインバスターにデバイスを叩き付けた。

そして、雄叫びと共に彼の身体が魔力光を纏い、

「紫電一閃――はああぁぁぁぁぁあっ……!」

純粋な魔力砲撃を一刀両断にした。

……なんてインチキ。

などと呆れた瞬間、ちゃき、と音を立てて首筋に切っ先を向けられる。

ゼストさんは荒く息を弾ませながら、それでもなんだか爽やかな笑みを浮かべたり。

……くそう。

「俺の勝ちだな」

「……負けました」

「ああ。……良い勝負だった」

ガックリとしながら地上へと降りると、部隊に皆様に拍手を送られたり。

しかもクイントさんに敬語は止めてと言ったのが他の人にも知られたのか、かなりフレンドリー。

……良いのかこれで、と思わなくもない。完全に子供扱いである。

挨拶、案内、模擬戦。

俺の地上配属初日はこんな感じだった。
































「ちわーす」

「お帰りなさい、父上」

「お帰りー、エスティマくん!」

俺の引っ越し先はベルカ自治区にある。

隊舎からバス、電車に揺られて一時間半と少し。割と苦痛になる通勤時間だが、まぁ、これはしょうがない。

ベルカの学校に通っているシグナム。彼女の通学を考えれば、ここに移り住むのが一番だったのだ。

シグナムは若干都会の生活に憧れていたみたいだけど、折角生活に慣れてきたのに転校させるのもアレだしね。

それと、ここならば俺が帰宅するまではやてにシグナムを預かってもらえるし。

一石二鳥……なのかなぁ。

玄関先ではやてと一言二言話をすると、シグナムと共に自宅へと向かう。

時刻は七時過ぎ。初日だから定時に帰ることはできたが、明日からはどうなるんだろうね。

クイントさん辺りにあとで聞いてみよう。

等間隔で地面を照らしているライト。クラナガンと違って騒音がまったくと言って良いほど聞こえない夜道を、シグナムと歩く。

都心から地味に遠いので、ベルカ自治領はベッドタウンという側面も持っていたりするのだ。

……なんだろう。なんかサラリーマン臭くない? 俺。

仕事終わって娘を迎えに行くとか。まだ十歳なのに。

「……ち、父上」

「なんだ?」

「おしごとはどうでしたか?」

「んー、初日だからなんとも」

「……そうですか」

そう言って、しゅんとしてしまうシグナム。

……あ、会話が止まった。

むぅ。

「そ、そうそう。力試しってことで、配属先の部隊長と模擬戦をしたんだ、今日」

「おお……!」

模擬戦、と聞いてシグナムが目を輝かせた。

早く続きを、とせがむように、身体を揺する。

「うん。まぁ負けたんだけどね」

「そんな……!」

今度はガーンとなるシグナム。

表情が豊かな子だ……って、あれ?

すげえショックを受けたみたいで、脚を止めちゃいましたよ?

嘘でも勝ったって言った方が良かったのかなぁ。

いや、でもそれは流石に……。

「し、シグナム? いや、相手はオーバーSランクの騎士だよ?」

自分の実力を把握してないとできないような思い切りの良い攻撃とかしてくる類の野郎ですよ?

血戦覚悟じゃないと勝てませんよ?

あの人には。

なんて俺の考えは届いてくれないのか、シグナムは頬を膨らませながらそっぽを向いてしまう。

「……父上は、負けてはだめです」

「んな無茶な」

「だめと言ったらだめです、父上!」

「……ああうん。努力するよ」

「ぜったいですからね!」

はいはい。

ポンポンとシグナムの頭を撫でて、帰路を急ぐ。

半年前よりはマシと言っても、それでも時々会話が途切れるのはしょうがないか。

まだ不慣れな親子関係、ってところかな。

借りているマンションにたどり着くと、エレベーターに乗って自宅を目指す。

はやての住んでいる家から徒歩十五分。

彼女には、そんなに近くに住むなら同居しよー、とか誘われたが丁重にお断りしておいた。

俺も俺で一人の時間が欲しいタイプの人間だし。

それに、意外なことにシグナムが俺と二人っきりで生活したいと言ってきたのだ。

まぁ、そんなことを言われたら断るしかないよなぁ。

「ただいまー」

「……お帰りなさい」

と、同時に入ったシグナムが言ってきた。

首を傾げながら視線を向けると、どこか恥ずかしそうに彼女は笑う。

「私たちの、家です」

「……そうだね」

何がそんなに嬉しいのだろうか。

シグナムは早々に靴を脱ぐと、駆け足でリビングへと向かう。

ああもう、脱ぎ散らかして。

自分の靴も揃えると、リボンタイを緩めながら脚を進める。

部屋はなんともシンプルで、玄関から真っ直ぐ伸びる二メートルほどの廊下の脇にはトイレと風呂。

その向こうにはリビングと、窓を挟んでベランダが。

リビングから通じる部屋は俺とシグナムの二つと物置。

家賃はそれなり。まぁ、高い給料もらってるからこんぐらいは。

まだ部屋の中に私物らしい私物はない。

ソファーにテレビ、テーブルぐらいか。

私室には勿論それなりに――っていうか、俺の部屋はまんまスクライアにいた頃の構成なのだが、リビングは殺風景だ。

「父上、ご飯にしましょう」

「ん、ああ」

スーツの上着をソファーの背もたれにかけ、誘われるままにテーブルへと。

シグナムは通学鞄からタッパーを取り出すと、それを並べてゆく。

「それ、はやてが?」

「はい。これからずっと晩ごはんを作ってくれるそうです」

「悪いなぁ」

と言いつつ、はたと気付く。

「……米がない」

「……あ」

そう言えば、とシグナムも気付いたようだ。

実はこの家で生活するの、今日が初めてなのである。

荷物を運び込んだりはしたが、掃除やら何やらが済んでない場所で寝泊まりする気は起きなくてねー。

ははははは。

……どうしよう。

「コンビニで炊いてあるのを……いや、ベルカだぞベルカ。置いてるわけねーだろ」

米自体は売ってるだろうけど炊いてあるのはないだろう。

日本食が主流ってわけじゃないのである。

しかしシグナムと俺、パンより米派。

っていうか肉じゃがとかどうやってパンで食えと。

いや、食えるけどさぁ。

「……外食にするか」

「いえ、もったいないです。おかずだけで食べましょう」

「……うう、悪い」

「いいえ、大丈夫です」

と、言ってシグナムは二人分の箸を台所から持ってきてくれた。

なんだかやたらと嬉しそうだ。どうしてだろう。

作られてからあまり時間が経ってないのか、まだ料理は温かい。

それを小皿に分けながら、会話を交えつつ夕食を。

シグナムが学校であったことを話し、それに相槌を打つ。

テレビを点けてないから、会話が途切れたときの沈黙が酷く痛い。

ううむ。どうにもぎこちないなぁ。

ええと、こういうときはどうすれば良いのだったか。

助けて艦長ー!

「そ、そうだシグナム」

「はい、なんですか父上」

「ユーノからもらった引っ越し祝いのお菓子があっただろう?
 あれ、はやての所に持って行ってくれないか? 明日のおやつにでもすれば良い」

「はい、分かりました。伯父上からもらったお菓子、美味しそうでした。
 楽しみです」

「ああうん。伯父上はアイツの前で使うなよ」

なぜですか、と首を傾げるシグナム。

いや、流石にこの歳で伯父さんと呼ばれるのは抵抗があるだろうよ。歳の離れた兄妹とかなら普通に有り得るけどさ。

……ちなみにユーノ、一応は俺とシグナムの同居を許してくれた。条件付きで。

フェイトには拗ねられてしまったが。いや、拗ねたなんて次元じゃないか。

どうやって仲直りするか頭が痛いよ。

「……父上?」

「……ん、いや、なんでもないよ」

顔に出ていたか。

笑顔を作ってシグナムに笑いかける。

子供の前では笑顔でいないとね。

夕食を食べ終えるとそれぞれ風呂に入り、就寝。

パジャマに着替えて、俺はそのままベッドに倒れ込む。

「……うあー、疲れたー」

一日中気を張っていた気がする。

レジアス中将との顔合わせに部隊配属に模擬戦。シグナムとの生活スタート。

慣れないことのオンパレードだったなぁ。

部隊にいるときはそうでもなかったが、それ以外は気が休む暇がなかったよ。

……明日も早いし、もう寝ないと。

朝食を作るのは俺の仕事だし、出勤には時間がかかるし。

世のお父さんってこんなに大変だったのか。

もぞもぞと布団に潜り込み、全身から力を抜く。

明日から本格的に仕事が始まるし、こんぐらいで参っているわけにもいかないなぁ。

枕に顔をうずめて、睡眠へと。

今日は薬なしでも熟睡できそうな気配。いや、飲んだけどさ。

どうでも良いことを考えている内に猛烈な睡魔が迫ってくる。

それに身を任せようとして――

「……んん?」

きぃ、と蝶番の軋む音が聞こえたので、そちらに視線を向ける。

そこにいたのは、枕を抱きかかえて部屋の中を覗き込むシグナムだ。

リビングの電気を点けてこちらを見ているから丸わかりである。

「どうした、シグナム」

「ご、ごめんなさい! 起こしてしまいましたか?」

「いや、そんなことないよ……で、どうしたの?」

なんとか気を持ち直して身体を持ち上げる。

が、割と意識が落ちる寸前なので頭が回らない。

「その……ベッドが変わって、その……」

「ああうん、それで?」

眉間を指で押さえながら、思わず投げやりな言葉が漏れる。

しまった。……純粋な睡魔だったらどうにでもなるだろうけど、これは流石になぁ。

頑張れ俺、と気合いを入れて、なんとか柔らかな表情を作ろうとする。

シグナムは床に視線を落としながら、遠慮するように口を開く。

「おしごとで父上が疲れているのは分かるのですが、その……ねむれなくて……だから……」

「じゃあ、一緒に寝ようか。おいで」

「良いのですか!?」

「ああ。……早く」

布団を半分どけてスペースを空けると、そこにおっかなびっくりといった様子のシグナムが潜り込んできた。

マイ枕持参ですか。用意が良いねぇ。

「じゃあおやすみ、シグナム」

「あ、あの、父上……」

きゅ、と俺の胸元を握りながらシグナムが何かを言ってくるが聞こえない。

いや、聞こえてはいるが脳が強制的に睡眠体勢に入っているために聞く気が起きない。

……ごめん、おやすみ。

そんなことを最後に思って、俺は意識を放り投げた。






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