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No.3690の一覧
[0] リリカル in wonder 無印五話 挿絵追加[角煮(挿絵:由家)](2009/04/14 12:06)
[1] 一話[角煮](2008/08/02 22:00)
[2] 二話[角煮](2008/08/02 22:03)
[3] 三話[角煮](2008/08/02 22:06)
[4] 四話[角煮](2008/08/02 22:11)
[5] 五話[角煮](2009/04/14 12:05)
[6] 六話[角煮](2008/08/05 19:55)
[7] 七話[角煮](2008/08/21 04:16)
[8] 八話[角煮](2008/08/21 04:26)
[9] 九話[角煮](2008/09/03 12:19)
[10] 十話[角煮](2008/09/03 12:20)
[11] 十一話[角煮](2008/09/03 20:26)
[12] 十二話[角煮](2008/09/04 21:56)
[13] 十三話[角煮](2008/09/04 23:29)
[14] 十四話[角煮](2008/09/08 17:15)
[15] 十五話[角煮](2008/09/08 19:26)
[16] 十六話[角煮](2008/09/13 00:34)
[17] 十七話[角煮](2008/09/14 00:01)
[18] 閑話1[角煮](2008/09/18 22:30)
[19] 閑話2[角煮](2008/09/18 22:31)
[20] 閑話3[角煮](2008/09/19 01:56)
[21] 閑話4[角煮](2008/10/10 01:25)
[22] 閑話からA,sへ[角煮](2008/09/19 00:17)
[23] 一話[角煮](2008/09/23 13:49)
[24] 二話[角煮](2008/09/21 21:15)
[25] 三話[角煮](2008/09/25 00:20)
[26] 四話[角煮](2008/09/25 00:19)
[27] 五話[角煮](2008/09/25 00:21)
[28] 六話[角煮](2008/09/25 00:44)
[29] 七話[角煮](2008/10/03 02:55)
[30] 八話[角煮](2008/10/03 03:07)
[31] 九話[角煮](2008/10/07 01:02)
[32] 十話[角煮](2008/10/03 03:15)
[33] 十一話[角煮](2008/10/10 01:29)
[34] 十二話[角煮](2008/10/07 01:03)
[35] 十三話[角煮](2008/10/10 01:24)
[36] 十四話[角煮](2008/10/21 20:12)
[37] 十五話[角煮](2008/10/21 20:11)
[38] 十六話[角煮](2008/10/21 22:06)
[39] 十七話[角煮](2008/10/25 05:57)
[40] 十八話[角煮](2008/11/01 19:50)
[41] 十九話[角煮](2008/11/01 19:47)
[42] 後日談1[角煮](2008/12/17 13:11)
[43] 後日談2 挿絵有り[角煮](2009/03/30 21:58)
[44] 閑話5[角煮](2008/11/09 18:55)
[45] 閑話6[角煮](2008/11/09 18:58)
[46] 閑話7[角煮](2008/11/12 02:02)
[47] 空白期 一話[角煮](2008/11/16 23:48)
[48] 空白期 二話[角煮](2008/11/22 12:06)
[49] 空白期 三話[角煮](2008/11/26 04:43)
[50] 空白期 四話[角煮](2008/12/06 03:29)
[51] 空白期 五話[角煮](2008/12/06 04:37)
[52] 空白期 六話[角煮](2008/12/17 13:14)
[53] 空白期 七話[角煮](2008/12/29 22:12)
[54] 空白期 八話[角煮](2008/12/29 22:14)
[55] 空白期 九話[角煮](2009/01/26 03:59)
[56] 空白期 十話[角煮](2009/02/07 23:54)
[57] 空白期 後日談[角煮](2009/02/04 15:25)
[58] クリスマスな話 はやて編[角煮](2009/02/04 15:35)
[59] 正月な話    なのは編[角煮](2009/02/07 23:52)
[60] 閑話8[角煮](2009/02/04 15:26)
[61] IFな終わり その一[角煮](2009/02/11 02:24)
[62] IFな終わり その二[角煮](2009/02/11 02:55)
[63] IFな終わり その三[角煮](2009/02/16 22:09)
[64] バレンタインな話 フェイト編[角煮](2009/03/07 02:27)
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[3690] 空白期 三話
Name: 角煮◆904d8c10 ID:63584101 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/11/26 04:43
『フェイト、エスティマがきたよ』

不意にアルフから届いた念話に、フェイトは身体をびくつかせた。

休日の午後。読書をしながら過ごし、このあとはどうしようかと考えていたら唐突に告げられた事柄に、フェイトはどうしようと意味もなく部屋の中を見回した。

いや、唐突というわけではない。

エスティマがフェイトの元に足を運ぶのは毎週のことだ。

シグナムと同居すると聞かされた日から、休日になる度に彼は学校の寮に足を運んでいた。

いや、そもそもエスティマがフェイトの様子を見にくること自体は、その前から行われていたことだった。

ただ、くる理由が少し変わっただけで。

きり、とフェイトは下唇を噛みしめる。

まだ兄さんは諦めてない。私じゃなくて、シグナムと暮らすことを選んでいる。

……けど、今日はどうなんだろう。

もしかしたら今日こそは謝罪の言葉じゃなくて、自分と一緒に暮らさないか、という誘いの言葉かもしれない。

そう考えるだけで口元が緩むが、同時に、そうじゃなかったら、とも考えてしまう。

そうじゃなかったら。

……だったら別に、変わらない。

エスティマが折れるまで、許してなんかやらない。

つん、とした怒り顔を作って、フェイトはベッドに歩み寄るとその身を投げ込んだ。

並べられたぬいぐるみたちが彼女の身体を受け止めて、悲鳴を上げそうなぐらいに押し潰れる。

その中の一つ、お気に入りのイルカのぬいぐるみを抱きしめて、フェイトは布団を被った。

きっともうすぐ、兄さんはここにくる。

だからいつものように、フェイトはベッドへと潜り込む。

そうして数分が経った頃、コンコン、とドアをノックする音が部屋に響いた。

「……フェイト、入るな?」

もう返事がないことを分かっているため、エスティマは了承なしに部屋の中へと足を踏み入れた。

今日はどんな顔をしているのだろう。どんな服を着ているのだろう。

そんなことが気になって、そっと布団の隙間から目だけを出す。

青のジーンズに白のカットシャツ。緩めた濃紺のネクタイに、ずっと着ているフェイトとお揃いの黒いジャケット。

……サイズ、小さくなったんじゃないかなぁ。少し袖に余裕がない気がする。

つい声を出しそうになるが、それをなんとか自制して決して口を開かないよう気を付ける。

そんな様子を分かっているのか、エスティマは苦笑しながら手に持っていた紙袋をテーブルの上に置くと、椅子に腰掛けた。

「お土産でございますよ。……先端技術医療センターで売っててさ。
 チョコポットって言って、割と美味しいらしい。
 一緒にどう?」

……食べたいけど、駄目。

というか、いつものことだけど食い物で釣るってどうなんだろう。

兄さんは私を犬か何かだと思っているんじゃないか、とフェイトは憮然とした表情をする。

そして八つ当たりをするように、イルカを抱きしめる腕に少しだけ力を込めた。

「最近どう? 俺はまぁ、それなりにやってる。新しい部隊にも馴染んできたし、問題らしい問題はないかな。
 まぁ、二ヶ月も働いて慣れないっつー方がアレだけどさ。事務仕事が多いのが不満っちゃ不満だけど、仕方ないのかもね」

そっちは? とエスティマはフェイトに話を振ってくるが、フェイトは応えようとしない。

フェイトが聞きたいのは兄の近況ではなく――いや、ある意味一番気になることなのだが――もっと違う言葉なのだ。

それを言ってくれるまでは応えてあげない。

態度で表すように、布団を被ったままのフェイトは、ごろりと寝返りを打った。

再び苦笑された気配。

……兄さん、私は怒ってるんだよ?

なのに、なんで困ったような笑い方をするの。

「そうそう、最近訓練時間が増えてさ。
 どんな因果か、魔法戦闘じゃなくて得物の打ち合いばっかりやってるんだ。
 部隊長がこれまた武人でさぁ。この間話した、クイントさんの娘に負けたことを誰かから聞いたみたいで、鍛え直してやるとか言われてね。
 ありがたいんだけど、きっついきつい。
 クロノに戦術を叩き込まれたと思ったら、今度は槍術。
 世の中、覚えることが山ほどあるね」

そこで一回言葉を区切り、エスティマは買ってきたらしい缶コーヒーで唇を湿らせた。

そして、んー、と悩むように声を上げる。

「…………ええっと、そうだ。
 バルディッシュの調子、最近どう?
 軽いメンテぐらいならしてあげるから」

言われ、少しだけ迷いながらも、フェイトは布団から腕だけを出して机を指さした。

机の上、掃除用のワックスなどが並んでいる中に、待機状態のバルディッシュが置いてある。

エスティマはそれを手に取ると、『トイボックス』を起動させてバルディッシュを接続。

画面に表示されるバルディッシュの状態を見ながら、小さく頷く。

「バルディッシュ、気になるところはあるかな」

『ありがとうございます、エスティマ様。
 カートリッジシステムのメンテナンスをお願いできますか?
 最近使用していないので、調子が気になるのです』

「了解。ま、カートリッジシステムを多用しないのは良いことだ。
 言い付けは守っているみたいだね」

そこで再び沈黙。

フェイトが黙っているのを肯定を取ったのか、エスティマはカチカチとキーボードを叩き始める。

「んー、A級マイスター資格を取ったらもうちょっと手の込んだ改造ができるんだけどなぁ」

『現状の性能で満足しています。私も、お嬢様も』

「それ以上を与えてあげたいのが兄心ってやつさ」

『ありがとうございます。
 ……Seven Stars、そちらに変わりはないか』

『問題ありません』

『そうか。エスティマ様の力になるのは君の役目だ。
 不備がないように気を付けろ』

『その問いは無意味です。
 旦那様のデバイスである私は、既に力の一部です』

『……そうか』

どこか落胆したようなバルディッシュの声。

セッターはまだ機械的だな、とフェイトは思う。

Larkの人間臭さは少しおかしい次元に達していたけれど、それを知っているが故に、Seven Starsの機械然とした応答に違和感を覚える。

それにしても、バルディッシュはどうして兄さんのメンテナンスを受けるときだけ良く喋るんだろう。

私と一緒にいるときはあんまりお喋りしてくれないのに。

『……バルディッシュ』

『sir』

『バルディッシュは兄さんの味方なの?』

『I am a butler of a young lady and the young master』

……卑怯だ、そんなの。

兄さんのせいでバルディッシュも優柔不断になっちゃったのかもしれない。

というか、いつからバルディッシュは執事になったんだろう。

頬を膨らませながら念話を打ち切る。

「……こんなもんかな」

メンテナンスが終わったのか、しばらくするとエスティマはバルディッシュを『トイボックス』から切り離して立ち上がった。

「それじゃあフェイト、またね……っと、そうだ」

彼はジャケットのポケットから一枚の紙を取り出すと、それを広げてテーブルに置く。

なんだろう、と興味を引かれるが、フェイトは布団から出ようとしない。

「今度ある管理局祭りの案内。局員の家族は色々と優遇されるから、くると良いよ。
 出店とかけっこう出るみたいだし――まぁ、本格的なのはないと思うけどさ」

それじゃあね、と断って、エスティマは部屋を出て行った。

兄の足音が遠離ったのを確認すると、フェイトはもそもそと布団から起き上がってエスティマが置いていったプリントを手に取ってみる。

飾り気のないでかでかとしたフォントで書かれている文字は、『中央区交流祭』。エスティマの言っていたように、局員が出店を出したりするようだ。

だが、字面を目で追いつつ、おや、とフェイトは首を傾げる。

デバイス使用体験会やヘリの搭乗体験会などは分かる。

だが、目玉だと言わんばかりに派手な色遣いで描かれた文字、戦技披露会の二日目に予定されたのを見て、むっと眉を寄せた。

「若きエース対決――高町なのはVSエスティマ・スクライア……何、これ」
























リリカル in wonder























カンカン、と木の打ち合う軽い音が訓練場に響く。

いや、時折、撲殺するが如き打音が上がったりするんだけども。

俺は身の丈ほどもある模造槍を両手で握りながら、ゼスト隊長へとそれを繰り出す。が、蠅でも落とすかの如く払われたり。

っていうか撃ち込むのが怖いんですけど。

なんていうか、槍の結界? ある程度の間合いに踏み込んだら弾かれるのが分かって嫌なのですが。

「エスティマ」

「はっ、なんでしょう、か!」

息を上げる俺と違って、ゼスト隊長は平然とした調子で言葉を吐き出す。

こんなところでだって差が出てる。

「斧とピックの使い分けはそれなりにできているようだが、もっと穂先を重視しろ。
 お前が使っているのは槍だ」

「いや、デバイスの殴り合いで突きとか使ったら怪我をさせちゃいますよ。
 なんのための非殺傷ですか」

「そういう台詞は、もっと技量が上がってから言うのだな」

「いや、使っているデバイスはアームドじゃないんで、穂先の魔力刃は長剣なのです、が……っ」

と、言いながら突きを放ってみると、真下からかち上げられて模造槍が吹っ飛んだ。

くるくると周りながら落下し、からん、と虚しい音が上がる。

……今日も駄目かー。

「身体がまだできていない以上、どうしても斬撃に乗る体重は軽く、鋭さに欠ける。
 今のお前が普通の水準の技を出せるのは突きだけだろう。
 精進しろ、エスティマ」

「はい」

くそう。

俺はベルカの騎士じゃないっつーねん。ミッドの魔導師だっつーねん。

まぁ、アームドデバイスじみた武器持ってるから説得力に欠けるけど。

「……それで、調子はどうだ」

「上々です。まぁ、今はボロ負けしちゃいましたが」

「お前の戦闘スタイルは中距離からの魔法戦闘から近距離へスイッチしての格闘だ。
 それを忘れずに戦えば、大抵の敵には打ち勝てるだろう。
 ……不様は晒すなよ」

「はい。ありがとうございました」

一礼して、隊長が使っていた槍を受け取ると、吹っ飛ばされた槍を取りに行く。

片付けをしたらシャワーを浴びて、みんなを迎えに行かなきゃな。

今日は管理局祭りの日。

テキ屋よろしく局員が出店を出して地域との交流を図るイベントを行うのだ。

最低限の武装隊員は待機しているが、そうでない者は祭りの実行委員に駆り出されたり設営を行ったり。

俺は俺で、まぁ、イベントの目玉に出場することになっている。

戦技披露会。陸と海のエースが模擬戦を行う出し物。

初日の披露会はスーパー海魔導師タイムで、魔力にものを言わせたごり押しに陸が敗北しており、そのせいで俺へのプレッシャーがキツイのですよ。

ゼスト隊長はあんまり五月蠅くないっつーかこだわってないようだけど、クイントさんと育児休暇から復帰したメガーヌさんからは絶対負けるなと言われております。

しかも、ギンガに情けない姿を見せちゃ駄目よーとか脅されてたり。

いや、クイントさん。虫装甲とか言ったのはあたなでしょうが。

……虫装甲かぁ。

対戦相手である、なのはを思い出し思わず溜息。

虫とか関係なしに、直撃すれば誰だってノックアウトだよあんなの。

当たらなくても掠るだけでヤバイっつーの。

そもそも俺がなのはの対戦相手に選ばれた――というか、なのはと俺が戦う理由が酷い。

お子様超人大戦は、そりゃー出し物としちゃあ映えるでしょうよ。

見た目が派手な砲撃スタイル。外から見たら消えたように見える俺のフェイズシフト。

なんとも単純な理由で頭が痛い。

ちなみに、この出し物の世間様の反応。

――――――――――――――

245.名無し

おい見たか今年の戦技披露会の二日目

246.名無し

公式の写真見た。なのはたんが俺の股間にディバインバスター

247.名無し

エスティマちゃんだろうjk

248.名無し

>>247
あれ男

249.名無し

嘘だっ!

250.名無し

>>249
あんなに可愛い子が女の子のワケがない

251.名無し

おまえら、クロスファイア撃ち込まれるぞ!?


――――――――――――――

612.名無し

で、どっちが強いの?

613.名無し

やっぱ海じゃね?

614.名無し

陸の方は執務官だし、どうなんだろうね。
戦闘スタイルと魔導師ランクぐらいしか公開されてないからなんとも言えないけど。

615.碩学者

エスティマは儂が育てた

616.名無し

>>615
コテハン乙。失せろ

617.名無し

エスティマの射撃は儂が育てた。
冗談は置いといて、エスティマ強いよ。稀少技能持ちだし。

618.名無し

>>615
>>617
老師乙。
稀少技能持ちのソースは?

619.名無し

ミッドの学校で一緒だった奴じゃね? 俺も噂ぐらいなら聞いたことあるし。
ところでこの執務官、アリシアちゃんと異様に似てる気がするんだが。

620.名無し

アリシアちゃんってなんぞ

621.名無し

つ ttp//*******************

622.名無し

うわあああああああああ!
アリシアちゃんかあいいいいいいいいいい!!!1111

623.名無し

ちょ、お前、クロスファイアが飛んでくるぞ!?

――――――――――――――

とか。いや、反応を掲示板から持ってくるのは非常にあれだけど。

ちなみにどっかの狙撃手がスレにいた気がしたから、ウィルス付きのメール送っておいた。アイコンが全部ゴミ箱になるヤツ。

……部隊の皆さんからのプレッシャーとは別に嫌な重圧が。

セットアップ時のバリアジャケット設定を絶対に間違えないようにしよう。

シャワーを浴びて髪を乾かすと、制服に着替えてレールウェイの駅へと。

まだ少し時間があるので、壁に寄り掛かりながらぼーっと人混みを眺める。

そして待ち合わせの時間になると、寄り掛かっていた壁から背中を離して改札口へ。

……子供の身体ってのはこういうときに不便だよね。

大人が歩き回る場所だと、まるで壁が動き回っているみたいだ。

背伸びをしつつきょろきょろと見回していると、ようやく知り合いの顔を見付けた。

手を挙げて自分の居場所を示すと、

「父上!」

元気にポニーテールを揺らしながら、シグナムが駆け寄ってくる。

が、ガションと改札機に防がれて立ち止まった。哀れ。

慌てた様子で切符を通すと、今度はゆっくりとした足取りで俺の元へとやってくる。

「ち、父上。恥ずかしいところを……」

「ああうん、気を付けような」

「……あう」

苦笑しつつ諭すと、しゅんとした様子でシグナムは俯いてしまう。

そんな彼女の頭を撫でで宥めると、次いで改札機を通ってきた八神家とシスターに挨拶。

エクスはお留守番のようだ。

「おはよう。はやて、ヴィータ、ザフィーラ」

「おはよう、エスティマくん」

と、はやてに続いてヴィータとザフィーラが挨拶を。

その背後にいる、にこにこ顔のシスター……は、なんか異様に楽しそうだなおい。

「……おはようございます、シスターシャッハ」

「おはようございます、エスティマくん。今日はお招きありがとう。
 戦技披露会、楽しみにしていますね」

いきなりそれかよ。

ほな行こか、とはやての言葉で、一同は会場へと移動することに。

シグナムははぐれないように、はやてと手を繋ぎながら、軽い足取り。

ザフィーラは人間形態から狼形態に戻ると――狼のままだとレールウェイに乗れないのだ――、シャッハさんと一緒に黙って後を付いてくる。

「エスティマ、出店はどんなのが出てんだよ」

「食べ物はじゃがバターとか、そんなんだよ。本格的なのは期待しちゃ駄目だって。
 メインは射撃とか輪投げとか」

「んだよ。お祭りなんじゃねーのか?
 はやてが言ってたのと違うじゃんか」

と、若干失望した調子のヴィータ。

そりゃあお前、テキ屋の兄ちゃんが生活賭けた商売と同列に考えちゃ駄目だろう。

「まぁまぁ。じゃがバターだって捨てたもんじゃないよ?
 ……誰が作っても似たような味な気がするけど」

「フォローしてるのか貶しているのかどっちなんだオメー」

「どっちなんだろうね」

「そういう態度は相変わらずだよな。
 ……で、どうだよ最近。あんまり顔見せねーから、はやても心配してんぞ。
 時間がないのは分かるけどよ」

「……悪いね。一応、シグナムを迎えに行くときに立ち話ぐらいはしてるよ。
 そういうヴィータだって、最近は教会騎士団の仕事――聖遺物の回収とかで家を空けることが多いだろ?」

「まあな」

聖王教会所属となったヴィータとザフィーラ。そしてはやて。

はやてはリインフォースⅡの作成が落ち着くまで戦場に出ず魔法の勉強に専念しているが、ヴォルケンズは違うのだ。

教会騎士団の仕事。聖遺物と呼ばれる古代ベルカの遺産を回収する任務で、色んな世界を回っていると聞く。

数々の次元世界を回るから海との繋がりが強く、戦力の貸し出しなんかもしているわけだが、その反面、調査し尽くされた感のあるミッドにはロクに戦力を回さないせいで地上とは仲が悪い。

まぁ、それでも聖王のゆりかごなんて化け物を見落としているわけなんだが。

いや、最高評議会が嗅ぎ付けられるのを嫌がって、敢えて他の世界へ聖王教会の目を向けさせているのか?

……だとしたら、レジアス中将も苦労人だなぁ。スポンサーに悩みを大きくされているようなものなんだから。

「聖遺物の回収つったって、派手な戦闘になることも少ねーから気楽なもんだよ。
 どっちかっつったら、管理局にレンタルされる方が多いぐらいだしな」

「へぇ、そうなんだ」

「おう。なのはとも会うことが多いし、悪くはねーけどさ。
 それでも、はやてを一人にするのはな。
 だから、時間が空いたときで良いから遊んでやってくれよ」

「ん……まぁ、努力はするよ」

と、眠たい物言いをしたらヴィータにジト目を向けられた。

なんだよぅ。

「こういうときは、分かった任せとけ、とか返事しろよな」

「あんまり責任を負うのは好きじゃなくてね」

「良く言うぜ……いや、うん。悪ぃ」

と言って、どこかバツが悪そうにヴィータは目を逸らした。

ん……まぁ、色々と背負い込んでるからね俺。

最近は慣れてきたけど。

「そ、そういやさ。今日は、お前の兄妹はきてんのか?」

「うん。少し遅れて到着するよ。なのはが迎えに行くことになってる。
 それがどうしたの?」

「いや、顔を合わせたら謝っておこうって……なんだよ?」

「いや、別に」

思わず眉根を寄せてしまったのを見られた。

どうなんだろうか。

ヴィータの言う謝罪がどれにかかっているのか、正直心当たりが多すぎて分からない。

いや、それはどうでも良くて。

ユーノ辺りは怖いが、まぁ冷静さを欠くことはないだろう。

けど、フェイトはどうなるか……想像もできない。

有耶無耶のままにするのは良くないと思うけど、さて、どうしたもんかな。

「……ん。会ったら言っておくよ。ヴィータが言いたいことがあるってさ」

「すまねぇ。頼むぜ」

まぁ、ユーノたちの機嫌次第だな。

板挟みは辛いぜ。

取り敢えずは、シャマルを回収して先に会場入りしないと。


































エスティマとヴィータたちが会場へと着いた頃、レールウェイの駅にはフェイトたちが到着していた。

「なのは!」

「フェイトちゃん、久し振り!」

人目を憚らず、人混みの中で二人は手を繋いではしゃぐ。

その様子を一歩下がって見ているとはユーノとアルフだ。

彼は苦笑し、彼女はカメラを手に持ってスタンバイしている。

「やっぱりなのはとフェイトは仲が良いね」

「ああ。なのはと一緒にいるときのフェイトの笑顔は格別だね……!」

ぶるぶると禁断症状の如く手に持ったカメラを振るわせるアルフ。ちなみに、街中で写真を撮るのは迷惑だから止めろとユーノに釘を刺されている。

「ところで、エスティマの馬鹿はどこにいるんだい?」

「先に会場にいるってさ」

多分八神家とね、と内心で言葉を付け加えるユーノ。

見れば、なのはの近くに守護騎士の姿はない。

連れてきていないのか、それとも八神家と合流させたのか。

……多分、後者。

エスティマのことだ。どっちか一つを選ばず、両方を選んだ上でどちらも楽しませようと思っているのだろう。

思わず溜息を吐いてしまう。

何故毎回毎回、こういうときに優柔不断な選択をするのだろう。紙一重過ぎる。自分たちと八神家が顔を合わせたら空気が悪くなるぐらい分かっているだろうに。

……まぁ、そこが良いところでもあるんだけどさ。

行きすぎて駄目な感じもするが。

「ユーノくんも、久し振り!」

「久し振り、なのは」

思考を打ち切り、ユーノはなのはへと視線を向ける。

白を基調とした制服を着た彼女。このあとに戦技披露会があるからだろう。今日の彼女は、やはり開催側として参加するようだ。

「今日はきてくれてありがとう」

「僕も楽しみだったからさ、お祭り。
 なのははいつまで一緒に遊べるの?」

「お昼過ぎまでかな。時間になったら、私も準備しないとだから」

「そっか。頑張ってね」

「うん、頑張る!」

「なのは、兄さんなんてやっつけちゃって」

と、御立腹な様子で言ったフェイトに、ユーノとなのはは苦笑した。

『ユーノくん、まだエスティマくんとフェイトちゃんは仲直りできてないの?』

『残念ながら。まぁ、フェイトが意固地になってるってのもあるけど、エスティも譲らないから』

『そっか……』

ちら、と表情を盗み見れば、なのははどこか悲しそうな表情をしていた。

板挟みになっているのは彼女も同じか。

それにしたって心労はエスティマの非ではないだろうが――そこら辺は彼の自業自得か。

いい加減、厄介事を背負い込む性格を直せばいいのに。

どちらか片方を切り捨てれば、楽になるだろう。

……まぁ、思うだけなら簡単だけど、僕だってそんなのは迷うか。

そもそも今の状況まで関係を悪化させるのだって自分にはできないが。

四人は談笑をしながら会場へと向かうと、遊びながら時間を過ごす。

そうしている内に時間となり、なのはは名残惜しそうにしながらも別れて行った。

エスティマが顔を出すのは、戦技披露会が終わったとになっている。

きっと今はなのはと同じように控え室に向かっているのだろうが、その前は八神家と一緒に祭りを回っていたか。

そんなことを考えながら、来賓席へとユーノたちは歩いてゆく。

そうしている内に、ふと、視線の隅に見覚えのある顔を見付けた。

フェイトを見てみれば、彼女がそれに気付いた様子はない。

「……フェイト、ちょっと飲み物を買ってくるよ」

「あ、うん。ありがとう」

「アタシも付いていこうか?」

「いや、一人で大丈夫だよ。フェイトに付いてて。……じゃあ、少し時間がかかるかもしれないけど」

そう断りを入れて、ユーノはフェイトたちから離れてゆく。

そうして目指すのは、さっき見付けた八神はやてのいる場所だ。

わざわざ回り道をして妹たちに気付かれないように進み、人混みを掻き分けながらはやての元へと向かう。

仮設観覧席を降りて、ぐるっと回って再び階段を上りながら、はて、自分は何を言いたいのだろうか、と今更な疑問が浮かんできた。

純粋な罵詈雑言でないことは確かなのだが。

まぁ、世間話でも、と思いながら、ユーノは八神家のいる場所へとたどり着く。

「こんにちは」

「あ……こ、こんにちは」

ユーノの顔を見て心底驚いた様子のはやて。

彼女は訛りのある言葉をたどたどしく返す。

視線を走らせてこの場にいる人たちを見ていると、シグナムと目があった。

にっこりと作り笑顔を浮かべると、彼女も笑みを返してくる。

「ユーノおじ……ユーノさん!」

今伯父さんとか言われそうじゃなかっただろうか。

良いけどさ、と溜息を吐きたい気分になりながら、笑みを苦笑へと。

「元気にしているみたいだね、シグナム」

「はい!」

「ん、それは良かった。エスティとは仲良くやってる?」

「はい!」

嘘は吐いていないのだろう。その証拠とでも言えるように、シグナムの笑みには陰り一つない。

……上手いことやっているみたいだね、エスティは。

「八神さん、少し話があるんだけど、良いかな?」

「はい……ごめんな、みんな。ちょっとお話ししてくるわ」

腰を上げるはやて。その様子を見ているヴィータは、どこか心配そうだ。

二人は観覧席から降りると、その影まで行って脚を止める。

脚はすっかり良くなったのか、階段を下りる彼女の足取りはしっかりしていた。

闇の書事件から一年以上も経っているのだし、そうなっていなければエスティマの骨折り損とも言えるのだが。

「あの……ユーノさん」

「なんでしょうか」

「その……エスティマくんにはお世話になってます。シグナムのことも許してくれて、ありがとう」

「ああうん。同居だけは。それに、感謝はエスティに直接言ってあげてください。きっと喜びますから」

「あ……はい」

周りを歩く人々の声に掻き消されないように、心持ち大きな声を出す二人だが、それでもはやての言葉は掻き消されそうなほどに小さい。

彼女も彼女で負い目を感じているんだろうな、と思う。

当然だが。

「今日は、エスティが?」

「はい。エスティマくんに誘ってもらいました」

「そっか。僕たちもエスティが誘ったんだけど……まぁ、彼らしいかな」

「そう……ですね」

自分の言葉を肯定したはやて。

その反応に、純粋な疑問が浮かんでくる。

そういえば彼女は、どの程度エスティマを理解しているのだろうか、と。

直接聞くつもりはないが、それとなく聞いてみよう、と好奇心が湧いてくる。

「エスティは最近元気にしていますか? スクライアにも顔を出しますけど、普段どうしているか僕には分からなくて」

「えっと……はい。お仕事とシグナムの面倒、どっちも頑張ってくれてます。
 そのせいで疲れているみたいですけど、私の前では顔に出さなくて」

……疲れさせている自覚はある、と。

いや、エスティマが疲れているのは仕事が過酷というのもあるだろうが。

「エスティマくんには本当に感謝してます。闇の書事件が終わったら、もう縁を切られたっておかしくなかったのに。
 それなのに良くしてもらって……」

「そうですね」

はやての言葉を遮り、どうしたものか、とユーノは考え込む。

エスティマに迷惑をかけているのは自覚しているし、感謝もしている。

それでも面倒事を押し付けるのを止めようとはしない、と。

この少女も、フェイトとはまた違った形で甘えているのか。

……まぁ、なんでもかんでも安請け合いするエスティが悪いんだけどさ。

それでも必要以上に他人を気にする彼は、一体どういうつもりなのだろう。

友達付き合いの延長にしては情の移り方が半端ではないし。

彼なりに何か考えがあるのだろうか。

もしくは八神はやてに惚れてる?……まさか。

そうならば、そんな素振りを見せた時点で、自分が全力で止めている。

どうにも分からないな、と結論付け、何かあるのではないかとはやてに問おうとして――

どっと湧いた歓声に、思わず身体をビクつかせた。

「あ、始まるみたいです」

「……そっか。それじゃあ、八神さん。僕は妹たちのところに戻るから」

「はい。……それでは」

軽く会釈をして、ユーノは踵を返す。

……取り敢えず、飲み物を買っていかないと。

幸い、始まった戦技披露会の方に観客の目が向いているので空いてはいるが、観覧席の方に行くのは骨が折れそうだ。

最悪、フェレットモードになって行けば……いやいや、それだとジュースが……。

そんなことに悩みながら、ユーノは屋台へと近付いて行った。
































「ただいま」

「おかえり、はやて。……その、どうだった?」

「なんもあらへんよ。ちょっと世間話をしてきただけ」

そうヴィータに笑いかけて、はやては席へと座った。

置いておいた紙コップを手に持ち、駄目やね、と胸中で自嘲する。

結界に包まれた戦闘フィールドの中心には、エスティマの姿が。それと対峙するように、なのはがいる。

二人は既にデバイスのセットアップを完了しており、白金のハルバードと鮮やかな杖を構えた状態で睨み合っていた。

その様子を見ながら、無意識の内にはやては目を伏せる。

……分かってる。私がエスティマくんにおんぶに抱っこされてるぐらい、理解してる。

僅かな時間だけと言っても、毎日顔を合わせているのだ。

疲労の色が日増しに濃くなっていることぐらい、ちゃんと気付いている。

けど、そんな彼に何ができるかと考えても、何もできない。

精々が、シグナムの面倒を見て、夕ご飯を作って――そんな、些細なことが限界だ。

何もしないよりはマシといった程度で、助けになっている実感なんてありはしない。

助けたいと思っても彼の背中は遠く、まだ一緒に歩くことすらできない。

未だに魔法が感覚だけで使える素人でしかなく、リインフォースが残してくれた遺産だって蘇らせることができていない。

弱くて、助けてもらうことしかできなくて――海鳴にいた頃の自分と、何一つ変わっていない。

そんな自分が嫌になったことなんて、一度や二度ではないのだ。

誰かに迷惑をかけることしか出来ないなんてことぐらい、身に染みて分かっている。

焦らなくて良いと、日頃からシャッハやエクスが声をかけてくれるが、それでも納得なんてできない。

どうしたら恩返しができるか。そう考えたって、エスティマが遠すぎて何一つ彼のためになることができていない。

……きっと、見抜かれてたんやろうなぁ。

ついさっきまで一緒にいたユーノのことを思い出し、溜息を吐く。

思い出すのは闇の書事件の最中、相対して呪詛を吐かれたときのこと。

謝るのとは違う、助け合い。

それがしたいと思っても、何もかもが遠すぎる。

いつか、自分の前を行く友達――エスティマやなのはと同じ場所に立てるだろうか、と考え、立たなければ、と気を引き締める。

今はただ、こうやって眺めることしか出来なくても――

『始め!』

響いたアナウンスによって、はやては我に返る。

見れば、会場の中心にいた二人は号令と共に空へと上がり、間合いを空けていた。

「ああ、何やっているんですかエスティマくん! そこは開始早々打撃を――!」

「父上、らしくないです!」

「シスター、シグナム、うるせー。黙って見てろ」

家族の上げる声を聞きながら、陽光に目を細めつつ、空を見上げる。

……眩しいな。































号令と共に俺は両肩へとアクセルフィンを。

なのはは足首にフライヤーフィンを発動させて、同時に後退った。

……気を引き締めて行こうか。

不様を晒したら色々な方面からの反応が厳しいしな。

ここは今日まで積んできた修練をお披露目する意味も込めて、本気モードで行きますか。

「Seven Stars!」

『クロスファイア』

「シュート!」

浮かび上がった六つのサンライトイエローに輝く誘導弾。

それらをなのはへと差し向けつつ、どうするか、と思考する。

平均以上ではあるが、それでも決して早くはないなのはの動き。

それに付け込んで接近戦を挑むのは半ば決まっているのだが、向こうだってそれは承知の上だろう。

現に、

「シュート!」

トリガーワードと共になのはが放った誘導弾の数は十二。

その内六発を俺のクロスファイアにぶつけて相殺という、繊細なコントロールを見せ付けながら残りが全て俺へと突撃してくる。

一、二、三、四……二つが背後に回ったか。

アクセルフィンに魔力を送り急上昇。

それで俺を追ってくるクロスファイアを引き離し、

『――Phase Shift』

稀少技能を発動させ、反転。

上空から逆落としとなり、斧の魔力刃を横薙ぎににして、擦れ違い様に誘導弾を一掃する。

なのはに視線を向ければ、彼女はバスターモードのレイジングハートをこちらへと向けて砲撃体勢に入っていた。

集束……ディバインバスターか。

そう考えた瞬間、時間制限が訪れ、稀少技能が切れる。

同時に、

「ディバイン――!」

『Buster』

桜色の魔力光が、大気を割いて向かってきた。

それを空中でステップを踏むようにして避け、

「……やっぱりな」

砲撃に隠れるようにして放たれた誘導弾。

それがすぐそこまで迫っているのを目にして、口元を緩めた。

Seven Starsを振ったら間に合うか否か、といったタイミング。

俺は左掌を誘導弾に向けて――

「……おい!」

不意に発動したオートバリア。

サンライトイエローの壁を発生させたSeven Starsに、怒声を上げた。

動きを止めた俺に、五発の誘導弾が殺到する。

一、二、三、四。

そして五発目が炸裂する刹那、反射的にSeven Starsを叩き付けて無効化した。

……誘導弾だけで破られる俺のバリアって一体。

泣きたい気分になりながらも、それを堪えて、責めるようにSeven Starsを握る手に力を込める。

「なんのつもりだ。迎撃して、残りは全部避ければ良かっただろうが!」

『申し訳ありません』

「勝手な真似をするな。ったく……」

舌打ちしつつ、次いで放たれたディバインバスターを回避。

同じ手は二度通用しないと思ったのか、今度は誘導弾はなしだ。

突き刺さる砲撃をかわしながら、一気に高度を下げてなのはへと肉薄する。

速く、鋭く。

「ラピッドファイア」

『フルオート』

行く手を阻むように放たれた誘導弾を接近しながらのラピッドファイアで蹴散らしながら、至近距離へと。

お互いの顔がはっきりと見える間合いになっても、ラピッドファイアを止めない。

軽機関銃のように忙しなく吐き出される砲撃――と言っても、なのはと比べれば射撃にしか見えないが――で、なのはは足が止まっている。

今だ。

ラピッドファイアを中断し、ピックの部分に鎌の魔力刃を形成。

それを振りかぶり、叩き付ける。

爆ぜるサンライトイエローと桜色。

バチバチと音を上げて切っ先を阻むバリア出力に、流石、と舌を巻きながら、

「Seven Stars!」

『――Phase Shift』

稀少技能を、発動させる。

瞬間、世界が遅くなる。

空を流れる雲も、肌を撫でる風も。

必死でラウンドシールドを展開するなのはも。

地上から俺たちを見上げる観客も、耳に届く音も、何もかも。

その中で動けるのは俺だけだ。

Seven Starsのグリップを両手で強く掴みながら、叩き付けている方向とは逆に身体を捻って、

「ラケーテン――!」

稀少技能を発動したまま、叩き付けた魔力刃を引いて、その場で一回転、二回転。

そうして得られた遠心力を、斧の魔力刃へと乗せて、

「――アクスッ!」

必要はないのだが、掛け声と共に叩き付けた。

ヴィータの技を参考にした、音速超過の打撃。

それは彼女の強固なラウンドシールドを打ち砕き、プロテクションを粉砕し、勢いを殺さぬままなのはへと。

……だが、このまま直撃したら魔力ダメージだけでは済まない。

魔力刃で斬りつける以上に、馬鹿みたいな硬度を誇るSeven Stars本体で殴打をすれば怪我では済まないのだ。

故に、スイングを開始した時点で稀少技能を解除して、

『アックスブレイク』

なのはの白いバリアジャケットに辿り着いた瞬間、魔力刃を炸裂させる。

衝撃と爆音。魔力刃の炸裂だけではなく、リアクターパージも起こったか。

それだけのダメージが乗った一撃。

なのはは悲鳴を上げながら弾き飛ばされ、観客席からはどよめきの声が上がる。

それもそうだろう。

近接戦に長けたベルカの騎士ぐらいしか、今の一撃を知覚することはできなかったんじゃないだろうか。

……隊長は普通に反応しそうだよなぁ。

まだまだだね、俺も。

そんなことを思いながら、足元と眼前に二つのミッド式魔法陣を展開。

魔力を溜め、手間のかかる術式を構築しながら、落下するなのはを見据える。

……これで終わりだ。

「デュアル――」

まずは左手を眼前の魔法陣へと叩き付け、サンダースマッシャーを発動。

集束された雷は、轟音を伴いながら真っ直ぐになのはへと向かう。

彼女は慌てた様子で紙一重の回避に成功するが――

「バスタァァァァアアア!」

ロッドを右脇に挟んで固定したSeven Starsの穂先を彼女へと向け、ディバインバスターを発動させた。

サンライトイエローの純粋魔力砲撃は、なのはへと直撃する。

さっきのサンダースマッシャーを避けるだけで余力が尽きたのか、彼女が防御を行う様子は見えなかった。

そのまま吹き飛ばされ、なのはは地面へと落下。

先に着弾したサンダースマッシャーと後続のディバインバスター。

その二つによって、盛大に砂煙が上がる。

「……やったか?」

着弾の煙で何も見えない――って、あれ?

俺、今、敗北フラグを口にしなかった?

などと思っていると、不意に砂煙の流れに変化が起こった。

規則性のなかった煙が、一カ所に、なのはが墜ちた場所を中心に渦を描き始める。

そして、目視できる程度に煙が晴れると――

『隊長隊長』

『なんだエスティマ』

『限定解除を要請します』

『却下だ』

『だって、あれ!』

と、念話で叫びつつ地面を指さす。

そこには三叉矛――フルドライブ・アヴァランチモード――へと姿を変えたレイジングハート、それを構えたなのはの姿があり、

「やっぱり強いね、エスティマくん。今度はこっちの――」

『Divine Buster Extension』

「――番だよ!」

極太の砲撃が俺を撃墜するために放たれる。

距離が離れていたため簡単に回避できたが、レーザーカッターのように桜色の砲撃が追ってきたり。

冗談じゃねぇ! なんだこれは!

直撃なんて受けたら一発KO間違いなし。

掠ったって厳しいぞ!

って、おい!

「クロスファイア!」

『Convergence』

「シュート!」

ディバインバスターが主砲なら、これは副砲か。

いつの間にかなのはの周囲に浮かんでいた数多もの誘導弾が三つで一組となり、逃げ道を塞ぐように光りの網を作り出した。

機動を駆使して回避するが、その内一発が顔面直撃コース。

舌打ちしながら左腕を突き出し、パルマフィオキーナで受け止めた。

威力は完全に相殺……いや、むしろこちらが上だろうが、砲撃の余波で左腕のバリアジャケットが千切れ飛ぶ。

……くそ!

「Seven Stars!」

『――Phase Shift』

再び時間が緩やかに。

じんじんと痺れる左手でSeven Starsを握り締めながら、目を細める。

縦横無尽に振るわれる桜色の砲撃も、遅い。

急降下を行い、なのはへと後一歩といったところで稀少技能が切れる。

それと同時になのはが俺の接近に気付き、

「ショートバス――」

「チェーンバインド!」

発射速度重視の砲撃。それよりも速く、俺の魔法が発動する。

もっとも、速度を重視したせいで形成できた鎖は一本だけ。

しかし、その一本で充分だ。

真下から伸びた鎖はレイジングハートへと巻き付き、魔力を集束していた穂先を地面へと無理矢理向けさせる。

そして、発射。

桜色の砲撃が至近距離で爆ぜ、直撃したわけでもないのに俺のバリアジャケットの裾がバリバリと音を立てて剥がれ落ちる。

風圧に吹き飛ばされそうになりながらも、Seven Starsの穂先に長剣を形成して身体ごと突撃。

咄嗟になのははラウンドシールドを発動し、切っ先がシールドを引き裂いてなのはへと到達した瞬間、あろうことかシールドバースト。

次いで、こちらもブレードバースト。

盛大な爆発によって、俺もなのはも吹き飛び――

――……っ!?

……うあ、意識が飛んでた。

跳ね起きようと身体に力を入れると、脇腹に激痛が走る。

地面に叩き付けられたとき、まずい落ち方をしたか。

「……Seven Stars、どれぐらい落ちてた?」

『三十秒ほどです。高町なのはの魔力反応はありません』

「そうか」

頭を振ると、髪の毛に絡まっていた粉塵がぱらぱらと落ちる。

くそ、こっちは直撃じゃないっつーのに。

すぐに起きることができたのは、散々しごかれた成果ってか。

さきほどの爆発で巻き上がった砂煙は視界を覆い、何も見えないようなもの。

周囲を警戒しながら、Seven Starsを両手で握り締める。

『――接近警報』

「せぇぇぇぇええっ!」

背後から気合いを含んだ叫び声。

脇腹の痛みに顔を顰めつつも、振り向き様にSeven Starsを叩き付け、なのはを弾き飛ばす。

地面をごろごろと転がるなのは。

俺も彼女も満身創痍で、肩で息をしている。

バリアジャケットなんてあってないようなもので、お互いの上着は消え失せアンダーウェアのみ。

そんな状態でもなのはは闘志を失っていない。

地面に腰を着きながらも、震える手でレイジングハートの矛先を俺へと向ける。

りん、と涼しげな音と共に足元へ桜色のミッド式魔法陣が現れ、魔力が集束を始める。

マギリングコンバーターの駆動音が酷く耳障りだ。

「……Seven Stars」

『アクセルフィン』

いつの間にか消えていたアクセルフィンを再形成し、一気に間合いを詰めて、白金のハルバードを下段から跳ね上げる。

穂先とピックの間、L字になっている部分でレイジングハートを持ち上げると、矛先を空へと向けさせて、次いで砲撃が虚空を貫く。

だが、それは想定の範囲内だったのか。

なのはは人差し指を立てた右手を俺の顔面へと向け、勝利を確信したように笑みを浮かべる。

「クロスファイア、シュート」

……だが、甘い。

一拍遅れて翳した左手。

それで、放たれたクロスファイアを受け止める。

紫電の散った掌。

それを驚愕に目を見開いたなのはの胸へと押し当てて、

「パルマフィオキーナ――!」

零距離でしか使えない攻撃魔法を発動。雷光が爆ぜ、バリアジャケットの最後の一枚を完全に粉砕する。

だがその瞬間、延髄に衝撃が。

……しまった。そうか、クロスファイア。

一気に色彩を失う風景。

ここまでやって負けか……?

そう思い、しかし、最後になのはが気絶しているのを確認して、引き分けならまぁ良いか、と意識を手放した。
































「ど、どうなったの!?」

「フェイト、落ち着きなよ」

なのはの放ったショートバスターが地面に炸裂して巻き上がった爆煙。

それが漂う会場を、手に汗を握りながらフェイトは視線を注ぐ。

……直撃はしてなかったけど、兄さんの装甲じゃ、間違いなくダメージを受けている。

一発の威力が以前よりも上がっているなのはの魔法。自分だってあんなのを受けたら平気でいられるとは思えない。

それを、自分よりもバリア出力の低いエスティマが受けたら。

そう考えると、今の一撃で勝敗が決まったような気分になってしまう。

……これで良いの。兄さんなんて、一度負けちゃえば良いんだ。

そう思っているはずなのだが、煙が晴れたときに兄が倒れ伏している、と考えると嫌な気分も込み上げてきてしまう。

そんな感情が、良く分からない。

なのはには勝って欲しいと思っている。けれど、なんでエスティマが負けると思うと落ち着かないのだろうか。

じっと食い入るように見詰めながら、早く煙が晴れることを望み、しかし、どこかで見たくないと思う自分もいて――

「……なんだいありゃあ」

「……エスティ。君ってやつは」

「……む」

煙が晴れた会場の中心の光景に、フェイトは眉根を寄せる。

仰向けに倒れたなのは。その上に、折り重なるようにしてうつ伏せのエスティマが。

二人とも気絶しているのか、ぴくりとも動かない。

ドローゲーム、とアナウンスが鳴り、観客席からは悲喜こもごもといった叫び声が上がる。

競技員が慌てた様子で担架を担いで二人に走り寄るのを見ているフェイトの胸中はなんとも複雑だった。

色々と。

































レールウェイの高架下。

そこにあるおでん屋――第97管理外世界から移ってきた者の子孫が運営している店――に、二人の中年が肩を並べていた。

軒先に下がっている赤提灯。レールウェイが通過する度に振動するテーブル。酔っぱらいが闊歩する往来。ゴミ箱を漁る野良猫。

そんなものを背景とする場所にいる二人とは、防衛長官であるレジアス・ゲイズとゼスト・グランガイツである。

二人は回ったアルコールで顔を仄かに紅潮させながら、時折思い出したようにおでんを口に運んでいた。

とてもそれなりの役職に就いている人間の姿とは思えないが、この店は、二人が管理局に入ったばかりの頃からずっと通っている場所である。

もっと良い場所に行こうと思えばいくらでも行けるのだが、二人はどうしてもこの場所に拘っていた。

ここにくれば、初心をいつまでも忘れないでいられる。そんな気がするからだ。

「ゼストよ……」

「なんだレジアス」

「あの小僧、負けたではないか」

「引き分けだ。魔導師ランクでは二つも差がある相手と相打ち。悪くない結果だろう」

「ふん」

思いっきり顔を顰めながら、レジアスはコップに注がれた安い焼酎を一気に喉に流し込む。

それで幾分か鬱憤を晴らせたのか、瓶を手にとって次を注ぐ。

それを横目で見るゼストは、ちびちびと酒を飲んでいた。

「改善点は幾らでもあるが、あれは悪くない勝負だった。海の魔導師も、予想以上だったよ。
 最近の子供は怖いものだな」

「所詮子供だ。扱いづらい戦力なんぞ……」

「絡むな。論点がずれてるぞ」

「分かっている」

レジアスはふらついた手つきで箸で大根を分解しながら、深々と溜息を吐く。

「……なぁ、ゼスト。お前のところに預けた小僧はどうだ。
 今日の戦技披露会で実力があるのは分かった。だが……それでも、な。
 何か怪しいところはないのか?」

「怪しい……か。どうだろうな。部隊の連中とも上手くやっているし、何も問題はない。
 お前は何をそんなに警戒しているんだ。
 いくら海から転属してきたと言っても、毛嫌いが過ぎるぞ。
 エスティマは仕事もしっかりとこなしている。アイツがきてから、俺の部隊も随分と動きやすくなった。
 同じ釜の飯を食っている部下を怪しめと言われても、俺にはどうもな」

「……信頼できると、お前はそう言うのか?」

「ああ」

ゼストの答えに、そうか、と短く応じて、レジアスは深々と溜息を吐く。

その様子に、どうしたものか、とゼストは胸中で首を傾げた。

またこの友人は何か悩んでいるのだろうか。見かけによらずナイーブなところのあるレジアスの血圧を心配する。

最近、彼の悪い噂が耳に届く。

ゼストの追っている戦闘機人計画。それに一枚噛んでいるのでは、と、ゼストのところに捜査官が訪れたことも一度や二度ではない。

そのどれもを追い返しているのだが、そうする度に抱きたくもない猜疑心が心に根付く。

証拠となるものが何一つない状況で疑うことはできないのだが、最近の焦燥、憔悴具合を見れば、何かに急き立てられていることぐらいは察することができた。

きっとそれは、地上の状況に憂慮しているという一点のみなのだろうが……。

「レジアス」

「なんだ」

「あまり生き急ぐなよ」

「ふん。儂は少なくともまだ十年は生きる」

「……そうか」

憮然とした表情で再びコップを口に運ぶレジアス。

その様子に苦笑しながら、ゼストも同じように焼酎を一気に呷った。
































消灯時間が過ぎた独房。

灯り一つない中、ベッドの上で丸くなる影が一つ。

布団から出ている頭には、一対の猫耳がある。

グレアムの使い魔である、リーゼ・アリア。彼女は身を縮めながら、ただじっと朝が訪れるのを待っていた

いや、朝がきてもすることなんて一緒か。

局員として罪を償うことすら許されず、囚われたまま刑務作業を行うだけの毎日だ。

闇の書事件が終わってから、彼女はずっとこの場所で日々を過ごしていた。

局員として許されない罪を犯した、と、犯罪者の烙印を押され、以前と比べれば自由らしい自由のない毎日。

自分は、外に出ることができるのだろうか。

いや、多分無理なのだろう。

使い魔である以上、父と慕っているマスターが死ねば自然と消滅する運命にある。

彼の寿命がくる前に自分たちが解放されることなんてない。

一生を、この薄暗い場所で終えるのか。

そう考えると、自分を、否、自分たちをここへと叩き込んだ切っ掛けとなった子供。エスティマ・スクライアへの恨みが、燻っていた感情に火を点ける。

絶対に許さない。

自分たちはどうなっても良かった。それでも、父様が自分たちと同じような目に遭っているだなんて、考えるだけで――

「失礼。ギル・グレアムの使い魔、リーゼ・アリアですね?」

「……何?」

考え事を中断させられ、思わず不機嫌な声が出る。

薄い布団から身を起こして視線をやれば、暗闇の中、一人の女が立っていることが分かった。

僅かな灯りでもあれば暗闇でもしっかりと目標を見ることができる。そんな猫の特徴を受け継いだ瞳は、その人影を目にして細められた。

それに構う様子も見せず、女は恭しく一礼すると、口元に緩やかな弧を描く。

「お話があって参りました」

「……あなた、まっとうな人間じゃありませんね?
 体中からする微細な機械音。何者ですか」

「おや。流石は、といったところですか」

自分の問いに答えず、楽しげに笑う影にアリアは眉根を寄せる。

そもそもが、こんな時間にここへと訪れること自体が不自然。

一体、こいつは――

「リーゼ・アリアさん。今日は、一つの提案を持ってきたのですよ。
 ええ、決してあなたにとっても悪い話ではありません。
 ……もう一度外に、出たくはありませんか?」

艶のある、悪魔じみた囁き。

それを耳にしたアリアは、思わず細めていた目を見開いた。






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