十二の光球を浮かばせ、
「クロスファイア!」
『――照準固定』
「シュート!」
叫びと共に、六つの光球が傀儡兵へと殺到する。
残る六つはLarkの先端に集束し、弧を描き、一つの光球へと集まり――
――集束系は得意じゃないが、仕方ない!
『リロード』
「シュート!」
サンライトイエローの光条が、レーザーカッターのように傀儡兵を薙ぎ払った。
息を弾ませ、回転式弾倉をスライド。薬莢を地面へと落とす。
二つの弾倉から、計十二発分の空薬莢が地面へと落ちる。
ったく、どうなってやがる……!
バリアジャケットのポケットからクイックローダーを取り出し、装填。
弾倉を戻すと、地面へと着地した。
『ご主人様。カートリッジの使用はもう控えるべきです。お体に触ります』
「……そういうわけにもいかないっしょ」
「エスティ!」
名を呼ばれ、振り向く。
そこには青い顔をしたユーノが、駆け寄っていた。
ユーノは近寄ってくると、息を弾ませながらも治癒魔法を発動する。
それでじくじくと蓄積していた疲労が取れ、少しだけ肩の荷が下りた。
「……で、首尾はどうよ」
「ん、この遺跡のロストロギアは外に運び出したよ。
ごめんね、殿を任せて」
「良いってことよ。そのための存在だしな、俺」
いいつつ、俺は再びデバイスを構えた。
遺跡の奥からは、まだ傀儡兵が湧いてくる。
取り敢えずは遺跡の近くからキャンプが撤退するまで、だな。
「ユーノ。転送魔法の準備頼むわ。
みんなの退避が終わったら、一気に飛ぶぜ」
「分かった。あと少しだけ、頑張って」
おう、と応え、一歩踏み出す。
ったく、遺跡発掘業も楽じゃないねぇ。
「ところでユーノ。ここのロストロギアって結局なんだったんだ?」
推測ならば何度も聞いたが、実際どうだったのかは知らない。
少しだけ期待して聞いてみたのだが――
「うん。詳しく調査してみないと断言はできないけど、十中八九、分かってる」
「そうなんだ」
「うん。ジュエルシードっていってさ――」
……え?
リリカル IN WORLD
ジュエルシードを発掘してから、一週間が経った。
あの後、なんとか遺跡から撤退。
最終的には遺跡の入り口を崩落させて脱出、という、考古学を愛する人間にあるまじき手段で傀儡兵を振り切りました。
だってしょうがないじゃない。傀儡兵強いんだもの。
命あっての物種ですよ。
んで、現在俺は次元輸送艇の中でまったりしてます。
輸送艇ってことは何かを運んでいるわけで――無論、それはジュエルシード。
輸送先はミッドチルダだ。
スクライアの一族は、発掘したロストロギアを売却することで生計を立てている。
売却先は管理局だったりオークションだったりと幅広く、ときには個人の依頼で発掘なんかもやっている。
んで、今ミッドへと輸送している理由は、単純にジュエルシードが手に負えないから。
本物のジュエルシードなのかどうかをミッドの研究施設で確かめ、本物ならば管理局へ売却、といった流れとなる。
いや、でも本物だろうよこれ。
遺跡で傀儡兵と戦った俺からしてみれば、偽物だったらあのダンジョンを作った馬鹿の頭を、ちょっと冷やしたくなる。
いやー、冗談で実装したダブル弾倉がフルに使われたのなんて、一年間スクライアの戦闘要員として戦って初めてだったぞ。
お陰でリンカーコアがじくじく痛いのなんのって……。
――しっかし、ジュエルシードか。
ふと、最近は思い出していなかった原作のことが脳裏を過ぎる。
スクライア一族に加わり、その上ユーノと仲良くなったから可能性は――とは思っていたけど、まさかジャストミートするとはなぁ。
……うむ。分かっております。
つまりはこの輸送艇、原因不明の事故に遭うのですね。
……だ、大丈夫なのかなぁ。
いや、正直俺は着いてきたくなかったんだけど、「エスティマが一緒なら大丈夫じゃろ」とか長老様がいうからさぁ……。
などと考えていたら、首に下げている、最初よりもサイズが1.5倍ほどとなったLarkが点滅した。
『ご主人様。魔力反応は周囲にありません』
「……ん、お疲れ。引き続きサーチをお願い」
『かしこまりました。……しかし、こんなことをする必要があるのですか?
この輸送艇を襲うなど、簡単にはできないと思いますが』
「んー、嫌な予感がするんだよね」
そうやって適当に誤魔化す。
うーむ。しかし、エリアサーチ苦手だから魔力を喰うぜ。
もうそろっとカートリッジ使おうかなー。
などと考えていると、飲み物を両手に持ったユーノがやってきた。
「お疲れ様、エスティ。……怪我はもう良いの?」
ユーノがいっているのは、カートリッジの反動のことだ。
目に見えない怪我だから、怪我といって良いのか分からないけど。
「なんとかねー」
いいつつ、ありがと、と飲み物を受け取る。
「……まったく、確かにあの時は助かったけど、あんまりカートリッジを使っちゃ駄目だよ?
成長期の身体には負担が大きいって説明されたじゃないか」
「いやいや、使わないとあの場を切り抜けることはできなかったじゃん。
それに楽しいんだよね、カートリッジロード。
こう、ガションガションって」
「……エスティ?」
『いつもの狂言です。お気になさらず』
いや、酷くないっすかLarkさん。
「まあ、冗談だとしても、スクライアには戦闘要員が少ないんだ。
だったら、俺が盾にならないと駄目じゃないか」
「そうかもしれないけどさ……。僕たちだって最低限の防御魔法は会得しているんだ。
あんまりエスティが無茶する必要はないと思うけど」
「何をいってるんだ。俺の魔導師ランクをなんだと思っているのさ」
「……AA」
「そのとーり。まあ、管理局の正規試験を受けたわけじゃないけどさ」
向こうでいうなら、英検を受けたようなもんだが。そのせいか認定がやや甘めなんだよね。
ちなみにレアスキルが脚を引っ張ってくれたのか助けてくれたのか、B+~S-と判定された。その真ん中を取って、AA。
ムラっ気があるんだよね。場合によっちゃあユーノ以下ですの。
ま、とにかく、だ。
「お前の恩返しが発掘の監督ならば、俺は発掘班の護衛。
守りだけでもお前達を戦闘に参加させたら、護衛の名折れだよ」
「……この意地っ張りめ」
『いつものことです』
『That degree is not absurd』
「えっと……Lark?」
『あれぐらい無茶には入りませんよ、だそうです』
「お、レイハさん分かってるー!」
……あれ? なんで呆れたように沈黙しますかLarkさん。そしてユーノ。
そう、ユーノの首もとには紅い宝玉――レイジングハートが下がっている。
初めてのおつかいよろしく送り出されたユーノにお守りとして長老様が持たせた物だ。
ユーノは砲撃苦手なのにね。親心とかそこら辺か。
……しっかし、すごいですよレイジングハート。
一つ一つのパーツが最高級品。見た目が管理局の汎用デバイスと一緒だけど、その汎用デバイスと同じシリーズのパーツの中で高価なのを組み合わせて出来ている。
しかもその上、機能拡張性まであるとかどうなってんだ。
良いなぁ……。
『浮気は駄目です、ご主人様』
いやいや何をいっているんですかLarkさん。
今のは美人に見惚れたようなもんですよ。
『……明日の目覚ましを楽しみにしていて下さい』
八つ当たりは良くないですよ?!
そんな風に焦る俺を見たユーノは苦笑したり。
そんなこんなで時間が過ぎてゆく。
そして、あと三十分でミッドへと到着する、という時だ。
良い感じに緊張感がなくなった瞬間――
カーゴが、爆発した。
狂ったように鳴り始める警報。
真っ赤に染まる輸送艇の照明。
くそ、と叫びを上げ、俺はジュエルシードを保管してあるカーゴへと急いだ。
保管庫への扉は爆発で歪んでいる。
……こじ開けるしかないな。
「……Lark」
『はい、ご主人様』
いつも通りの返答。
よし、と俺は頷き、
「顕現せよ。
紅き雲雀の杖。
構築せよ。
我が求める装甲を。
降臨せよ。
――我が力!
Lark、セットアップ!」
金色の宝玉が鮮烈は光を放ち、コアはパーツを生成。
それらをドッキングさせ、ユニットとなる。
現れた姿は、以前の形態と欠片も似ていない。
ボディの色は紅。シルエットだけ見れば、形状はハルバード。
しかし、武器のハルバードとは違う部位が、Larkには存在している。
それは斧と穂先に挟まれた部分――そこには、回転式弾倉が縦に二つ並んでいる。
その下には銀色に輝く四つの放熱器。
肥大化したデバイスコアは、魔力制御の補助としてストレージデバイスのコアを移植したせいだ。
新生Lark――Lark・クリムゾン。
それが、このデバイスの名。形状はバルディッシュを参考にさせてもらったが――まあ、兄妹なんて許して欲しい。
六年前と同じ日本UCATの装甲服型バリアジャケットを装着し、勢いを付けてLarkを構える。
「Lark」
『魔力刃形成』
Larkの応答と共に、斧の部分に刃が生まれた。
それを大上段から叩き付け、ドアを粉砕。
そして現れた光景に、息を呑む。
カーゴの壁は破壊し尽くされ、ぽっかりと空いた穴からは次々と荷物は吐き出されている。
魔法にしちゃあまりにお粗末な壊し方だが――
くっそ、爆発物か。ミッドは質量兵器って禁止じゃなかったのかよ!
悪態を吐きつつ、飛行魔法を発動させてカーゴの中へ。
外へと吐き出されないように注意しながら、ジュエルシードの収められている場所へと急ぐ。
「……あった!」
ベルトに固定されたジュエルシードのトランク――今にも吹き飛ばされそうだ――は、なんとか原型を留めていた。
魔力刃を壁に打ち付けて身体を固定すると、トランクケースへと手を伸ばす。
あと少し。あと少しで――
その瞬間だ。
ガクン、と輸送艇が揺れ、カーゴ内部が大きく傾いた。
「――っ?! しま……!」
衝撃で跳ねたトランクを掴み損なう。
まずい――
Larkを引き抜いて後を追おうとした瞬間、カーゴの入り口から見慣れた影が飛び出した。
それを目にして、思わず奥歯を噛み締める。
「馬鹿ユーノ……!」
そう、ユーノだ。
アイツは身を投げ出してトランクケースを抱きかかえると、そのまま外へと吐き出された。
「Lark!」
『了解』
アクセルフィンが両肩に形成され、俺も後を追って外へ――時空間へと、飛び出した。
サイケデリックな光景に吐き気がするが、なんとかユーノを見つけ、速度を上げる。
『ユーノ! バインドで俺を拾え!!』
『駄目だよ! このままじゃどこに飛ぶかなんて分からないんだ!! エスティを巻き込むわけには――』
『輸送艇だって沈んだんだ! このまま戻っても意味ないだろ?!』
僅かに逡巡するよう、ユーノは俯いた。
しかしすぐに顔を上げると、緑色の魔力光を帯びた鎖――チェーンバインドが俺の腕へと伸び、ユーノに引っ張られる形となる。
そして俺たちはそのままどこぞへと流され――
視界が明滅したと思った瞬間、眼下には街灯りが広がった。
……嗚呼。
思わず、その光景に見惚れてしまう。
雲すら見下ろす高度から眺めたその世界は、決して自分のいた場所ではないが、近い匂いがある。
ああ……望郷なんて、らしくもないだろ。
苦笑し、頭を振る。
今はそんなことよりも――
「うわああ!」
耳に突き刺さったのは、ユーノの悲鳴と爆音。
何事かと視線を向ければ、頭を下にして落下するユーノの姿があった。
「ジュエルシードは――?!」
『駄目です。トランクが破壊され、散らばっています』
思わず歯噛みする。
ならば、今優先すべきはユーノの救出だ。
アクセルフィンに魔力を回し、地面へと向かうユーノへと――
『……エスティ』
『ユーノ?! 待ってろ、今助ける!』
『いや、僕は良いから、ジュエルシードを、お願い。僕を撃墜した魔導師がいるはずだから、あの人から、ジュエルシードを……』
『馬鹿、んなことよりお前だお前! 早く飛行魔法を発動しろよ!』
念話を送っていうこの間も、俺はユーノへと接近している。
しかし、
『……頼むよ、エスティ』
どこか苦笑すら思わせる言葉を聞き、俺は落下を止めた。
……くそ。
『ご主人様、よろしいのですか?』
「……あの馬鹿なら大丈夫。白い悪魔の卵に拾われるさ」
いいつつ、ギチリと、Larkを握り締める。
『……ご主人様』
「……あいつの頼みだ。自身すら顧みずの、な。それを蹴ったら――」
いいつつ、カートリッジを一発ロードし、
「――友人の名が廃るだろ!」
今度は天へと昇る。
魔力刃を形成したままのLarkを構え、目指すはジュエルシードを追う金色の魔力光。
俺と同じ、F計画の落とし子、フェイト=テスタロッサへと。
雄叫びを上げ、全速力で魔力刃を叩き付ける。
しかし、空振り。彼女はバックステップを踏むように後退すると、サイズフォームのバルディッシュを構えて対峙する。
ジュエルシードは今の一閃で弾かれ、夜空に舞い上がっている。
俺とフェイトは、同時にそれを睨み――
「……Lark」
『――Phase Shift』
――稀少技能を、部分発動させた。
瞬間、世界が全ての動きを遅くした。
雲の流れも、対峙するフェイトも、肌を撫でる大気すらも遅い。
その中で、俺だけは通常と同じ速度で移動する。
カートリッジロードで強化したバリアジャケットが、大気との摩擦で悲鳴を上げる。
そしてジュエルシードを握り締め――時間切れとなる。
見れば、飛び込もうとしていたフェイトが、驚きをありありと浮かべて動きを止めていた。
――稀少技能『加速』。
感覚、魔力放出に一時的なブーストを掛けて、初速から音速の壁を突破する頭の悪い能力。
フェイトの速度という武器を更に尖らせた、狂気的なスキルだ。
バリアジャケットを強化した状態で使わなければ大気との摩擦で一瞬で挽肉となる。それを防ぐため、カートリッジを使用して防護性能を水増ししなければならい。
まあ、結局は反動が馬鹿にならないわけだが――
「ジュエルシード、シリアルⅢ、封印」
今は感謝すべきか。
デバイスコアにジュエルシードを格納し、眼下のフェイトを見据える。
さて、と。
「お嬢さん、ご機嫌麗しゅう」
「……ジュエルシードを、渡して」
「それはできない相談だぜ。今の所有者はスクライアだ。強盗にしたってやり口が乱暴だって、こんなの」
「それは、ごめんなさい。けど、私にはどうしても――」
そこまでいい、フェイトは俺の顔を見て言葉を止めた。
ん? なんか顔をまじまじと見られているような……。
「……私?」
「ああ、そっか」
そういやそっくりさん――もとい、遺伝子提供者が同じクローンでしたね。
うむ、そりゃあ世界にはそっくりさんが数人いるって話だが、いざ目の前にしてみると驚くよねぇ。
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納得している我と、未だに混乱しているフェイト。
……よし、今の内に逃げよう。
いや、ランクが一つ違うと勝てませんよ、と先生に酸っぱく教えられたものでね。
確かフェイトって現時点でAAAクラスだったよな。
Phase Shiftを使えば良いとこ互角だろうが、アルフがきたらジリ貧だ。
二人を相手にして勝つ手段もあるが――
――ま、ここで切り札を使うつもりもない。カートリッジだって補給手段がないしね。
「クロスファイア」
『照準固定』
浮かび上がる六つの光球。それをフェイトに向け、
「シュート!」
発射と同時に、尻尾を巻く。
俺が逃げに回ったのを察したのかフェイトも後を追ってくるが、時間差で襲い掛かってくる誘導弾にまとわりつかれたらどうにも出来ないだろう。
はっは――あばよーとっつあーん。
などと思っていたら、
「サンダー……」
……え? もしかして……。
「――レイジ!」
ちょっと待って! 俺一人に広範囲攻撃魔法使うか?!
『プロテクション』
咄嗟にLarkが防御魔法を発動するが、間に合っただけだ。
魔力もロクに込められていない防御を抜き、雷は俺の身体へと突き刺さった。
バリアジャケットが焦げる匂いを嗅ぎながら、意識がブラックアウトへと向かう。
最後の力で、スクライア直伝の変身魔法を発動し――
全てをLarkに任せ、俺は意識の手綱を手放した。