時は少し遡る。
ベルカ自治区。もう夜も更け、いつもの就寝時間を過ぎているというのに、八神はやては起きていた。
窓の外に広がる、自然に囲まれた建物群は闇夜に沈んで眠っている。頭上には寒気すら感じさせそうな、冷たい月光を放つ満月と、九十七管理外世界にはなかった数々の惑星が浮かんでいる。
それを呆けた様子で眺め、はやては口元にコーヒーカップを持っていった。
基本的に早寝早起きを行っている彼女にとって夜更かしは楽なものではない。
エスティマの真似をして慣れないブラックコーヒーをお供に頑張ってみるが、それでもじわじわと眠気が染み込んできそうな錯覚を受ける。
しかし、眠ろうとしたところできっと寝付けないだろうと、はやてはぼんやりと思っていた。
虫の知らせにも似た胸のざわつきが、どうにも収まらないのだ。
今日の夕方、エスティマから一本の電話があった。
彼の声には焦りが滲んでおり、その内容は懇願に近い。聞きようによっては一方的とすら言える頼み事をしてきたのだ。
――今日、ちょっと面倒な任務がベルカ自治区の近くであるんだ。悪いんだけど、もしこっちから連絡が行ったら力を貸してくれないかな。
そんなことを、珍しく自分に頼んできたのだ。
はやては頼まれた時、二つ返事で力になると約束した。これでようやく、と、そう思ったからだ。
しかし、そんな興奮は時間が経つと共に薄れ、逆に一つの感情が浮かび上がってきた。
それは不安だ。
『あの』エスティマが他人を頼るだなんて。今まで誰かを頼ることはあっても、肝心な部分はすべて自分で行う姿勢を崩さなかった彼が、だ。
……エスティマくん、何があったん?
そう問い掛けたくはあったが、今となっては後の祭りだ。連絡をしようにも、彼の携帯電話は電源が切れているようだし、念話だって距離が離れているせいなのか通じない。当たり前だが。
自分を頼ってくれるのは嬉しい。今までロクに力になれなかったのだから、今度こそ、とどうしても思ってしまう。
ただ――それで彼が危険な目に遭うのは御免だ。
闇の書事件の最終局面でボロボロになった彼の姿を知っている、はやてからすれば、また手遅れ一歩手前の無茶をするんじゃないかと心配でしょうがない。
――すごいするんだよ! もう、見た人全員が真っ青になるぐらい!
自分よりも長い時間をエスティマと過ごした友人のなのはも、エスティマは無茶をすると言っていた。
……やっぱり、今回もそうなんやろうか。
だったら嫌だ。すごく嫌だ、と胸中で呟き、
「……あれ?」
ふと、眺め続けていた外の風景に変化が起こった。
森の中から空へと真っ直ぐに伸びる、サンライトイエローの柱。
エスティマの魔力光。それはあるていどの高度まで上がると、闇夜に沈むようにゆっくりと消えていった。
『……エスティマくん?』
耐えきれずに試しに念話を送ってみるが、応答はない。
一体何があったのかと、はやては胸の前でぎゅっと両手を握り締める。
そうして、十分ほど経った頃だろうか。
不意に、備え付けの情報端末が音を上げた。
はやては恐る恐るといった手つきで腕を伸ばすと、ボタンを押す。
そうして一番最初に聞こえてきたのは、荒い息だった。
……なんやろ?
「はい、八神です」
『夜分遅く、失礼します……私は時空管理局、首都防衛隊作戦部第三課の――』
続く隊員の自己紹介を聞きながら、エスティマくんの部隊や、とはやては思い出す。
いつだったか聞いた彼の勤め先。そこの隊員が、なぜ連絡をしてくるのだろうか。
なんでエスティマじゃないのだろうか。
『こちらに連絡をし、保護してもらえと指示を受け……』
「あ、あの……エスティマくんは?」
濃い疲労が滲む隊員の言葉を遮って、はやては我慢できずにエスティマのことを聞く。
返答は、詳しくは言えませんが、という前置きの後に続いた。
『執務官は我々を先に行かせ、単身で……未だ交戦中です』
「――っ! ヴィータ、ザフィーラ!」
りん、と涼しげな音と共に、はやての足元に白の古代ベルカ式魔法陣が展開する。
続いて、それを両脇から挟むように真紅とライトブルーの魔法陣が現れた。
次いで現れるのは、彼女の守護騎士。鉄槌の騎士ヴィータと、人間形態の盾の守護獣ザフィーラ。
二人はゆっくりと閉じていた目を開くと、緊急で自分たちを呼び出した主に視線を向ける。
「どうした、はやて」
「召還とは、穏やかではありませんが」
「二人とも、聞いて。今、エスティマくんが一人で戦っとる。エスティマくんの同僚さんが、困っとる。
お願い、私の騎士たち。みんなを、助けてあげて」
たどたどしい口調で、しかし、はっきりとはやては守護騎士に告げる。
焦ったはやての説明では、何が起こっているのかさっぱり分からない。だが、はやてが本気なのは確かだ。
それだけ分かれば充分だ、と二人は強く頷くと、武装隊員から送られてくる座標へと長距離転送を行う準備を始めた。
二人の様子を見ながら、はやても準備を始める。
リインフォースⅡは未だ完成していないが、シュベルトクロイツなら既にある。
自分だって、エスティマを守るぐらいはできるはずだ。
そう思いながらセットアップを始めようとし――
「こんな時間に、何をしているのですか?」
唐突に聞こえた声に、はやてはびくりと身体を震わせる。
部屋の入り口に顔を向けてみれば、そこにはシスター・シャッハの姿があった。
彼女は咎めるような目つきをはやてに向けながら、近付いてくる。
「あ、あの……シスター……」
「何があったのですか? デバイスを握り締めて、何をするつもりなのです?」
「わりぃ、シスター。説明している暇はねーんだ」
「説明しろ、と私は言っているのですヴィータ」
ヴィータの言葉を切り捨てて、シャッハははやての眼前に浮かんでいるディスプレイに顔を向ける。
「あなたたちは?」
「……我々は、時空管理局首都防衛隊作戦部第三課です」
そこから始まる説明は、先程はやてに行われた状況説明よりも内容が整理されたものだった。
何を行っていたのか、は結局明かされないままだが、自分たちの置かれている状況がどのようなものなのかを正しく伝えてくる。
そして彼らの説明を聞いて、はやての表情から血の気が引いた。
部隊長、隊員二名は消息不明。その内一人はオーバーSランクの騎士。
そんな戦場に、エスティマくんは一人で残っている?
冗談じゃない……!
「ヴィータ、ザフィーラ、急いで!」
「待ちなさい!」
「聞けっかよ! こうしている間にも、あの馬鹿が面倒なことになってたらヤベェだろ!?」
「……すまないが、我らは主の命を最優先で実行させてもらう」
それだけ言って、二人の身体は消える。
『お願い、ヴィータ、ザフィーラ』
『エスティマは、ちゃんと連れて帰るから』
『お任せを』
去り際に念話のやりとりをして、はやてはほっと胸を撫で下ろす。
あとは、自分が行けば。効果はそれほどでもないが、治療魔法だって使える。それか、もし戦線が拡大しているのなら、広域攻撃魔法で全部吹き飛ばしてでも――
そう思い、待機状態のデバイスを握り締め、しかし、横から伸びてきたシャッハの手がはやての腕を握り締める。
苛立ちが一気に吹き出し、思わずシャッハを睨み付けてしまう。
「……駄目ですよ」
「……なんでや?」
「あまりこういう言い方は好きではないのですが……はやてさん。あなたは、我々が保護している身です。
貴重な古代ベルカ式の使い手を、オーバーSランクの騎士がどうなったのかも分からない戦場に出すつもりはありません」
「そんな都合、知らへん! 私は――!」
「……分からないのですか? あなたが動くことが、どういうことか」
言われ、はやての脳裏に数々の事柄が浮かんでくる。
はやては管理局の籍を持っているわけではない。今はベルカ自治区で魔法を学んでいるだけの一般人だ。
ただ、古代ベルカ式魔法を使える上に夜天の主という肩書きはあるが。
それ故に保護をしてもらっている立場であり――そんな彼女が自ら危険に首を突っ込むのは、聖王教会の面子を潰すことに繋がる。
あとで事実をどうとでもねじ曲げれば良いかもしれない。しかし、執務官であるエスティマからの頼みごと、という事実がある以上、完全にもみ消すことはできないだろう。
もしできたとしても、後々エスティマの首を絞めることに違いはない。
だが……それがなんだと言うのだ。
そんなことで躊躇っている内に手遅れになったら、それこそ意味がない。
大切なことは何一つ見落としてない。そう思い、思い込み、はやてはシャッハへと食ってかかる。
「シスターだってエスティマくんと仲がええやないか! それなのに、見捨てる、いうの!?」
「誰も見捨てるとは言っていません。先程、こちらでも異常に高い魔力反応を感知しました。
自治区に近いところであんな砲撃を撃たれたら、私たちも無視できません。調査隊だって送られるはずです。
だから、落ち着いてください」
「せやかて……」
唇を噛み締めながら、はやては俯く。
そして結局、はやてはシャッハを押し切ることができなかった。
私も向かいます、と最後には安心させるように言葉を向けてくれたが、それで満足できるわけがない。
ヴィータやザフィーラを送ることができても、結局自分は何一つしていない。
悔しさで泣きそうになりながらも、はやては一人でみんなの帰りを待つことしかできない。
何かが崩落するような轟音が彼方から響いてきても、自分は現場に行くことができない。
そして、一時間が経過したころか。
「……ごめん、はやて」
憔悴した様子で帰ってきたヴィータ。背中を中心に体毛をびっしょりと血で濡らした、狼形態のザフィーラ。
ザフィーラの姿を見て怪我をしたのかと駆け寄ったが、違う。
近くで見れば分かるが、ザフィーラには傷一つない。
……血? 誰の?
既に乾いて、ぱりぱりとした手触りを伝える毛にゆっくりと手を伸ばす。
「ザフィーラ……これ、どうしたん?」
「……エスティマのものだ、主」
ただ事実だけを簡潔に口にするザフィーラ。
ああそうか、とどこかで納得する自分がいる一方で、違うかもしれないと希望を抱く自分もいる。
僅かな逡巡の末、後者の衝動に負けて、はやては引き攣った笑みを浮かべながら、震える唇を開いた。
「え、エスティマくんの血って……はは、嫌やなザフィーラ。
こんなんいっぱい血が出るなんて――悪い冗談や」
同意を求めるようにヴィータを見るが、彼女は伏し目がちとなり唇を噛むだけだ。目には涙すら溜まっている。
それを見て、ああ本当なんだ、と今度こそ納得する。
納得してしまった瞬間、はやてはその場に力なく膝を着いた。
リリカル in wonder
エスティマが墜ちた。
その報告をクロノとなのはが耳にしたのは、彼が救出されてから一日経ってからのことだった。
教えてくれたのはユーノ。
報告を聞いたとき、なのはは慌てていたが、クロノからすれば、またか、といった印象だ。
重傷を負うのが墜ちると呼ばれるのならば、エスティマはクロノの知っているだけでも三度墜ちてる。
どうせまた命には別状がないのだろうと笑い飛ばそうとしたのだが――昏睡状態が続いていると聞き、目を見開いた。
……あの馬鹿が?
まさか、と思う一方、だろうな、とも思う。
エスティマの戦闘が紙一重で成り立っているのを、クロノは良く知っている。執務官補佐として側に置き、戦闘の面倒も見てやったのだ。
平均を超えた威力の砲撃の直撃でも受ければ一撃で意識を刈り取られる。そんなことは、誰よりも良く知っている。
その分、攻撃をしかけるのを馬鹿らしく思えるぐらいに良く避けるのだが……それでも撃墜と紙一重なのは変わらない。
遅かれ早かれ、いつかは、と思ってはいたが――まさか、それで昏睡状態になるとは。
……あの馬鹿が。
何をやっているのか。執務官が墜とされるというのがどれだけの意味を持つのか、しっかりと教え込んだというのに。
別に高ランク魔導師だけが執務官になるわけではない。多いのは確かだが、それが全てではない。自らの実力が低いのならば優秀な補佐官を持てばいいだけの話なのだから。
執務官。高い権限が持たされ、優れた判断力と知識をもって部隊を引っ張る存在。
配属先ではエスティマは部隊長ではなかったようだが、しかし、執務官という肩書きを持つ以上寄せられる信頼と期待は大きい。
……部下を先に行かせて自分は残るなんて、なんのつもりだったんだアイツは。
殿を務める? ああ、それは確かに聞こえは良い。だが、指揮官としての権限を持つ者がそんなことしてどうするというのだ。
あの馬鹿が。
オーバーSランクやエース級の騎士が倒される戦場?
だからどうしたと言う。なぜ倒されたのか、なぜそのような状況になったのか。そういった事柄を上に報告するのがエスティマの役目だった。
部下を切り捨ててでもアイツだけは、敗走してでもエスティマだけは、失敗を次に生かすために早々に離脱するべきだった。
だというのに。
あの馬鹿が……!
人としては上出来かもしれないが、執務官としては失格だ。ヒーローにでもなったつもりかあの馬鹿は。
顔を見たら一番に怒鳴りつけてやろう、あの馬鹿に。そう決めて、クロノは仕事を一気に片付けて休暇を取った。
そうしてエスティマが墜ちてから三日目。彼はなのはと共に、ようやくミッドチルダへと上陸した。
最初の二日はベルカ自治区で治療を受けていたようだが、様態が安定した今日、彼はクラナガンの先端技術医療センターへと移っている。
そこの廊下を憤り混じりに歩きながら、クロノはエスティマのいる病室を真っ直ぐに目指していた。
「あ、あの……クロノくん? 歩くの速いよ?」
「……そうか?」
む、と眉を潜めて、クロノは歩調を緩めた。
そして、右手に持ったフルーツの詰め合わせが乗った籠の取っ手を握り直す。
ずっしりとした重量に手が痺れる。なんでこんな物を持ってきたのかと、今更ながらに後悔する。
こんなもの、あんな奴には勿体ない。
「ねぇ、クロノくん。エスティマくん、大丈夫かな……?」
「ん……きっと平気だろう。いつもみたいに」
思っていることとは裏腹に、彼のなのはに対する言葉は柔らかかった。
そうだよね、と同意する彼女の表情には、薄くだが影がある。
……それも当然か。
今のような受け答えは、ここ二日で何度も交わしていた。
闇の書事件でエスティマが『重傷を負った』とき、その現場を真っ先に目にしたのは彼女だ。
いくらAAAランク魔導師と言っても子供には違いない。今回のことで、その光景を思い出してしまっても無理はないだろう。
まったく、嫌な影響力を持つ奴だ。
角を曲がり、受付で聞いたエスティマの病室へと近付く。
ふと、伝えられた病室に検査機器が持ち込まれるのを目にした。
これから検診でもやるのだろうか。だとしたら、今行くのは邪魔になるだろう。
「なのは。少し間を置こう。今行ったら邪魔になる」
「え?……あ、うん。そうだね」
二人は踵を返すと、この階にある休憩所へと脚を向ける。
辿り着くと自動販売機で飲み物を買い、ようやく一息吐けた。
腰を下ろしてみて分かったが、少し疲れが溜まっていたようだ。
徹夜で仕事を片付けたこともそうだが、柄にもなく緊張していたのか。そんなことを考えて、そんなわけはない、と鼻を鳴らす。
「エスティマくん、今回はどんな目に遭ったの?」
「今回は……か。ああ、そうだな。まったくその通りだ。
主な怪我は左拳の複雑骨折と右肩の貫通による出血多量。魔力の枯渇によるリンカーコアの損傷、といったところらしい」
「ええっと……」
「まぁ、今までの中で二番目に重い怪我だと思えば良いだろう」
「そうじゃなくて……詳しいね、クロノくん」
「第三課の武装局員が提出した取り敢えずの報告書には目を通したからね」
「そ、そうなんだ。……ねぇ、どんな任務だったの?
エスティマくんがそこまでの怪我をして、オーバーSランクの人がやられちゃうなんて、私には想像できなくて」
「それは……」
思わず、クロノは言葉尻を濁す。
クロノが目を通した報告書。そこに記されていたのは、被害報告が殆どで内容にはイマイチ触れられていなかった。
意図的に隠されているような――そんな印象を受ける。調べもしていないので断言はできないが、有耶無耶にされたような違和感がある。
まぁ、勘でしかないのだが。
「違法研究施設に踏み込み、施設の防衛を行っていた機械兵器との戦闘が起こったらしい。
密閉空間だったようだし、あいつのことだ。避け損ねてそこからずるずると、といったところじゃないか?」
もっとも、フルドライブモードを使ったエスティマがそんな程度で倒されるとはクロノも思ってはいない。
そして、それはなのはもなのだろう。
彼女はどこか釈然としない様子でクロノの話に頷きながら、考え込む様子で手で口元を隠している。
戦技披露会でフルドライブまで使ったのに相打ちへ持ち込まれた彼女からすれば、不思議でしょうがないのだろう。
「機械兵器って、どんな?」
「名称も存在もアンノウン――調査隊を送り込もうにも、すべては今や土の下で、どうしょうもない」
……これもまた、諦めるのが早すぎる気もするが。
エスティマが救出されてからほどなくして、研究施設は自爆――これまた狂った仕掛けだ。逃走の目眩ましと証拠隠滅にしては度が過ぎている――し、崩落。
クロノが口にした土の下、というのは冗談でもなんでもない。
とはいえ、別に調査が不可能になったわけではない。技能を持っている者は少ないが、土の下に潜るぐらい、魔法を使えばどうということはない。
だというのに調査は打ち切り。ストライカー級やエース級の魔導師を打ちのめす敵だというのに、それらを驚異と受け止めて警戒する素振りは見えない。
……陸もいつの間にか面倒な場所になったものだ。
そう胸中で悪態を吐きながら、クロノは苦笑する。
「まぁ、詳しいことは本人に聞けば良いだろう」
「うん、そうだね。……まったくもう、人を心配ばかりさせて。
今度という今度は、しっかり絞ってあげるんだから!」
『Really』
レイジングハートまでなのはに同意する。その様子に笑みを浮かべながら、無理してるのかな、と思う。
ふとした拍子に暗い表情をする以外は、いつもと変わらない。
これがフェイトだったら、こうはいかないだろう。
区切りが良かったので、話を切り上げようとクロノは腰を浮かそうとした。
そのときだ。
ふと、自分たちの座っているソファーの真後ろからの話し声が耳に留まった。
「聞いたか? あの執務官の話」
「ああ。部下を守って意識不明の重体だろ? 俺もそんな上司の下に就きたいもんだ」
「馬鹿。相手はたかが機械兵器だぜ? そんなんで執務官とか」
「分かってるよ。だから、その程度でくたばってくれるなら簡単に上官の席が空くだろ?
そうすりゃ給料も上がるし、その上命も守ってくれて、良いことづくめじゃん?」
「言えてる。無能でもそれなら助かるよな」
……別に珍しくもない。
執務官が重傷を負う、そんな現場がどんな代物なのか体験すらしたことのない局員の嘲笑など。
こんな話は海でも流れる。クロノもクロノで執務官なのだから、身近な話題だ。
しかし、隣の少女はそう思わなかったのか。
ついさっきまで穏やかだった表情は色を消して、目は据わっている。
レイジングハートを握り締めているのは偶然だろうか?
……まずい。
背中を嫌な汗と予感が走り、咄嗟に念話を放つ。
『おい、なのは、落ち着け』
『……落ち着いてるよ?』
と、念話を交わしている間にも、背後からはげらげらと笑い声が続いている。
『こういう時、エスティマくんならこう言うと思うんだ。……頭を冷やせ、って』
なのはがその台詞を言ったら異様に似合いそうだ、と思いながら、クロノはなんとか止めようと念話を続ける。
『非殺傷でも魔法を使って昏倒させたら犯罪だからな?』
『ああ、うん。そうだね』
と、綱渡りをしている気分のクロノを焦がすように、再び背後から無能という単語が飛び出す。
すると、ぴくり、となのはの結んだ髪の毛が揺れた。
『うん、犯罪だよね。――だから?』
『だから落ち着け』
ぐい、と無理矢理なのはの腕を掴んで立ち上がらせると、引き摺ってエスティマの病室に向かう。
もう良い頃だろう。
ちら、と視線を向けると、なのはは不満げな表情でクロノの腕を振り払った。
「……クロノくん、なんで?」
「仕方がないことだろう」
脚を止めず、前を向いて、クロノは返答する。
しかし彼女は納得できないのか、心持ち高い足音を立てて、クロノの後を付いてきた。
「どんな修羅場だろうと、体験していない者には伝わらないし、理解もしてもらえない。自分から遠い立ち位置にいる者には余計に。
たとえ身体を張って部下を守ったとしても、見る者が見れば不様とも映るさ」
「けど、エスティマくんはあの人たちが言ったような人じゃないよ!
馬鹿にされるようなことなんて、するわけがない……!」
「落ち着けなのは。僕の話を聞いていたのか? 君がいくらエスティマのことを良く言おうと、それでも妬む者や蔑む者はどこにでもいるんだ。
いちいち気にしていたらキリがない」
「けど……!」
尚も食い下がるなのはに、思わず嘆息する。次いで、苦笑。
視野が狭くなるのは彼女の悪い癖だ。身内というフィルターがかかっていることを自覚しているのか否か。
……ただ、他人のことを自分のことのように怒ってくれる彼女の隣は、居心地が良い。
擦れてない素直さは、見ていて気分が良い。
「なのは」
「……何?」
「エスティマが哀れだと思うのなら、励ましてアイツの復帰を少しでも早めてやれ。
また働き出せば、妙な噂なんて吹き飛ぶさ。
それだけの働きができる奴だ」
「あ……うん」
呆気にとられたような気配を背後に感じながら、クロノは脚を止めずにエスティマの病室へと向かう。
そしてしばらく経ち、余計なことを言ったと少し悔やんだりした。
目を開ける。
鼻を突くのは病院特有の、あまり気分の良くない匂い。
カーテン越しだが、窓から差す光に目に染みる。朱い……もう夕方みたいだ。
と、そこまで考えて、ようやく頭が回り始めた。
ぼんやりとした霞が取れて、視界が鮮明になる。
見覚えのない部屋だけど、ここはどこだろうか。
タイル張りの床。清潔な、染み一つないシーツと布団――って、病院だろうよ。匂いと雰囲気からして。
誰かがお見舞いにでもきてくれたのか、ベッドサイドには果物の詰め合わせが置いてあった。
病院、と単語が脳裏に浮かび、なぜここにいるのかと考えて、あの夜のことを思い出した。
……何もできず、何も知らず、ただ八つ当たりをして、最後は死ぬような目に遭って。
「……なんで生きてるんだろう」
そう思い、ああそうか、と思い出す。
ザフィーラとヴィータに助けられたのか。
正直、右肩に空いた穴からの出血はどうしようもないと思ったけど、流石はレリックウェポンといったところなのかね。
別にどうなっても良かったのにさ。
いやに窮屈な左腕に視線を向ける。
点滴のチューブが肘に取り付けられており、その先はギプスを巻かれて固められているが、さて。
左手を動かしてみても、痛みは一切感じない。
あの独特の、なんとも言えない感じがしないから麻酔とかじゃないだろう。どうせまた、交換されたんじゃないだろうか。
はは……お節介なことだな。
敵でしかない俺をわざわざ修理して。
ん……だとすると、ここは先端技術医療センターかな?
あそこで今までフィア……いや、チンクの診察を受けていたんだし、俺を治療する設備があったって不思議じゃないさ。
深々と息を吐き出し、全身から力を抜く。
……これからどうすれば良いんだろうな。
もう、本当に分からない。
俺は火種でしかないのだ。きっと周りにいる人間は不幸になる。それだけは、きっと間違いないだろう。
プロジェクトFの遺産でレリックウェポンで、左腕は戦闘機人? はは、なんだこれ。僕の考えた悪魔超人か。
……本当、なんの冗談だよ。既にスカリエッティの手に落ちている俺はどうすれば良いんだ。
今の状況から脱するには、まず――
と、そこまで考えて、やめた。
……どうせ何かしら動いたって、また裏目だ。もしくは、何も変わらない。
……だったら何もしなくて良いや。
正直……もう、疲れた。
もう、うんざりだ。
もう、たくさんだ。
俺が動いたって面倒事が起きるだけさ。俺は、何もできない。何かを成すことなんて、できやしないんだ。
……ん。
急に、意識が朦朧とし始めた。視界がぐるぐると回る。
胸が意味もなく締め付けられて、掌に汗が――いや、背中が濡れて気持ちが悪い。
右手を持ち上げると、かたかたと震えていた。
そして、連動するようにかちかちと、歯の根が合わなくなる。
……薬。そう、薬を飲まないと。
駄目だ。これはいけない。泣きたくなってきた。なんだこれ。
右手で顔を覆い、脂の浮いた額を拭いながら、ぎゅっと目を瞑る。
しん、と静まりかえった病室内に、心音が木霊する。うるさくて耳を覆っても、一向に止んでくれない。
ああ、左側、左側を、手で、押さえられない。だから、止んで、くれないんだ。
重い重い腕を持ち上げて、左耳に擦り付ける。ざらり、とした感触。皮膚が引き延ばされて、擦れる。痛い。
ばくばくばくばくと鳴り続ける心音。それが、段々と人の悲鳴じみてくる。
それはクイントさんだったり、ゼスト隊長だったり、メガーヌさんだったり、シグナムだったり、シャマルだったり。
ああ、そっちは右で、左は違う。
どこかの誰かの笑い声。チンクだったり、グレアムだったり、リーゼ姉妹だったり、プレシアだったり、『アリシア』だったり。
ああ、うるさい。ステレオで喋るな。
とっとと黙ってくれ。
黙って欲しい。
黙ってください。
……もう、責めないでくれ、頼むから。
「……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
許してくれと、念仏のように唱え続ける。
だってしょうがないじゃないか。これ以外にどうしろって言うんだ。
俺は俺にできることを精一杯やった。本当だ。手を抜いた事なんてない。
頑張って執務官になったし、ちゃんと稼いでいたし、養っていたし。
仕事だってちゃんとした。強くなろうと、努力だって怠らなかった。
……だから、頼むから、もう止めてくれ。
そこにきて、声が反転した。
心を蝕むステレオが、一斉に嗤い声へと。
ガンガンと鳴り響くその声に、思わず頭をベッドの落下防止用の柵へと打ち付ける。痛い。けど、止まってくれない。
じくじくとした痛みが額から伝わってきて、そんな意味のない行動に、嗤い声が加速する。
……本当に、もう、耐えられないんです。
許してください。
頭を抱えたまま、ごりごりと耳を手で擦って、丸くなる。
そうすると一層自分が惨めに思えて、笑い声は真上からぼとぼとと落ちてくるようで、それに沈んでしまう。
窒息する。息ができない。
息をしようと口を開いて、舌を伸ばして、喘ぐけれど、空気が入ってこない。
「誰か、助けて……助けてください……」
苦しいままで必死に声を出すけれど、誰も助けてくれない。
……そこにきて、ああそうか、と思い至る。
助けられる価値も資格もないじゃないか俺は。なら、それは仕方がないや。
気付いた瞬間に、嘲笑が拍手混じりになった。
すみません、ようやく気付きました。ごめんなさい。
このままここで、よくわからない、どろどろとした何かに溺れるのか。
そんなことを思って――
暗転。
空白。
「……あれ?」
随分と気分が良くなった。
なんでだろう、と考えてみれば、それも当然。
口元を覆うように呼吸器が取り付けられているのだから、そりゃー息は楽にできるわな。
……だが、なんという窮屈。
いつの間にか身体が拘束されているのですが、これ如何に。
ベルトでベッドに括り付けられていますよ。
試しに身体を揺すってみるが、押し付けるようにしてあるベルトは弛まない。なんだってこんなことになっているんだ。
誰か、ここから出してくれないかなぁ。
そんなことを思って視線を回すと、
「兄さん!」
不意にフェイトの声が聞こえた。
妙に切羽詰まっているな、なんて思いながら視線を向けると、彼女の頬には涙が伝っていた。
目元を真っ赤にして、綺麗な金髪に電灯の明かりを煌めかせながら――ありゃ、夕方じゃなかったか。まあ良い――必死な様子で俺の胸元に顔を埋める。
……むう。
されるがままってのはあまり良い気分じゃないんだけどな。
こんな状態じゃあ、頭を撫でてやることさえできない。
「……ああもう、フェイト。あんまり泣くなよ。何かあったの?」
「それは――ううん、なんでもないよ、兄さん」
ぐす、と鼻をすすりながら、僅かに逡巡して、それでも気丈に笑みを浮かべる彼女。
……急なことで忘れてたけど、フェイトって俺と絶交中じゃなかったっけ?
と、聞くと、もう良いの、と返してくる妹。
分からん。どういう心境の変化だ。
あんまりな状態の俺に同情でもしてくれたか。
……あんまりな状態。ああ、そうか。
あっちゃあ……見られたか。
うっすらと、ついさっき――どうやら数時間経っているようだが――のことを思い出し、思わず溜息。
あまり鮮明に思い出せないが、タチの悪い白昼夢にうなされてたからなぁ。
……非常に気まずい。どうしよう。
「あ、あのね、兄さん」
「何?」
どう説明したら良いものか、と悩んでいると、唐突にフェイトが話を振ってきた。
彼女はベッドサイドに座りながら、果物の詰め合わせの中から林檎を一つ取って、皮をむき始める。
ぎこちない手つき。果物ナイフでも手は切るんだけどな。
「俺がやるよ? これ外してくれれば」
「私がやるから、良いよ。……それでね、兄さん」
「うん」
「……一緒に、スクライアに戻ろう?」
「へ?」
あまりにも唐突な話だ。思わず、素っ頓狂な声を上げてしまう。
しかし、言っている本人は大真面目なのか。
手元の林檎に視線を注ぎながらも、淡々とフェイトは言葉を紡ぐ。
「執務官のお仕事って、辛い……んだよね。だったら、一緒に戻ろうよ。
私、頑張って今年中に卒業するし――それが駄目なら、辞めても良いから。
ね? だから、戻ろう? また前みたいに、皆と一緒に暮らそう?」
「……何を言ってるんだか。そんなこと、できるわけ――」
「できるよ。……ううん、やる。やってみせる」
俺の言葉を遮って放たれた言葉。しゃりしゃりと皮の剥かれる音が、フェイトの言葉に淡々とした印象を抱かせる。
「……なんでそんなことを言うんだ?」
「なんでだろうね。分からない、かな」
どこかとぼけた様子と口調。
まぁ、普通に考えて俺のせいで、俺のためだよな。
こうなり始めたのは、まぁ、闇の書事件が終わってからだけど、執務官になってから一層加速したしなぁ。
執務官を辞めれば、というのは、まぁ妥当なところか。
……けど、もう良いんだ。
俺にかまう必要なんて、何もない。
俺のために――ってのは、自惚れが過ぎるか。けど、無理させるのには違いないんだ。
第一、こんな情けない兄貴と一緒にスクライアへ戻ったところで、笑い者になるだけだ。
そんな目に遭うのは俺だけで充分だよ。
……まぁ、こんな醜態晒したんだ。スクライアにだって、戻れる気がしない。
どこへなりとも消えるさ。
俺がいなくたって、この子ならきっとやっていける。ユーノだって、アルフだって、なのはだっている。
だから、別に良いだろう。
……取り敢えずは、この場は誤魔化しておこうか。
そう考え、口を開こうとして、不意に病室のドアがノックされた。
はい、とフェイトが応えてドアを開いて見えた顔。
それに、俺は思わず顔を背けてしまった。
私服姿のゲンヤさん。その両手には、ギンガとスバル。
……ああ、そういえば戦闘機人事件からどれだけの時間が経ったんだろう。
クイントさんの葬式、もうやっちゃったのかな。
だとしたら、出席できなかったことを謝らないと。
「よう、エスティマ」
「……はい」
名を呼ばれ、顔を上げようとしたが、どうしても視線を合わせることができなかった。
思わず下の方へと視線を移し――そこにいた、ギンガと目が合う。
以前は活発だった、茶目っ気のあったギンガ。
だが、今は見る影もない。
顔は俯きがちで――なぜだろう。前に合ったときよりも、クイントさん然としている気がする。
似ているのは知っていたけど、これは、なんだ。
「おいおい、どうしたよ。ベッドに括り付けられて」
「それは、その……色々あって」
言いつつ、視線をどうしてもギンガから逸らすことができない。
ああ、そうか。
髪型が完璧にクイントさんと一緒なんだ。髪を纏めているリボンの色も一緒。
なんでそんなことを、と思うが、そこに意味はないのかもしれない。
失った母親を身近に感じたくてとか、そこら辺……だ。きっと。
「病み上がりで悪りぃけどな。ちぃとばかり聞きたいことがあってよ」
「はい。なん、でしょう……」
怖気が湧く。
なんだこれは。
ゲンヤさんの声が耳を素通りする。
ただ、ギンガを中心にして、周りの風景がぼやける。
彼女はただ責めるような視線を俺に向けて、黙っている。
瞳に浮かんだ色は、様々なものが浮かびすぎていて、なんだかもう分からない。
唯一分かるのは――これは憎悪か?
……はは、それも当然だろうよ。
……?
――あれ――なんだろう――
ギンガとクイントさんが……ダブって、見える?
ゲンヤさんの言葉に返答している自分がいる。一方、ギンガに視線を注いでいる自分がいる。
おかしいな。収まったと思ったのに。
段々と耳に入る音がノイズ混じりになり始め、ぐるぐると視界が回り始めた。
そんな中でも、ただ、クイントさんは、ギンガは、俺に憎悪の視線を向けている。
……ただ黙って、言葉すらかけるのがおぞましいとでも思われているのか。
頼むから何か言ってくれ。
責めるなら責めるで、そうして欲しい。
そんな願いが通じたのか否か。
クイントさんの、ギンガの口が開く。
しかし、ざあざあと鳴り響くノイズの呑まれて、まったく聞こえない。
仕方がないので、唇の動きから何を言っているのか察してみよう。
読唇術の心得なんてないんですけどね。
ええと、はい。
「なんで助けてくれなかったの」
ですか。
……それは。
それは、俺が無力だったからで。この上なく情けなかったからで。
ごめんなさい。
――――――――瞬間、ずるりと、何かがずれる。
重要な歯車の一つが飛び散ったような、押してはいけないボタンを押したような。
ジグソーパズルをひっくり返したような、ルービックキューブを地面に叩き付けてバラバラにしたような。
蝋燭の火が消えたような、ガラス細工を地面に落としてしまったような。
暗転。
空白。
……。
…………。
……………………。
―――――――――――――――。
「ふうむ。これは困ったねぇ」
たった今病院から上がってきた報告に、スカリエッティは眉根を寄せた。
レリックウェポン・プロト。エスティマ・スクライア。
身体の傷は全て自然治癒を待つだけといったレベルにまで治したのだが、今度のはそうもいかない。
夕方、意識を戻したかと思えば錯乱。鎮静剤を打ち安定したかと思ったら、目を覚まして直ぐに、今度は昏迷状態へと陥った。
「僕は、メンタルは専門外だからねぇ」
と口にしながらも、いくつかのプランが既に脳裏に描かれている。
プロジェクトFの素体であるならば、昏迷の原因となった記憶を部分的に削除、都合の良い記憶転写を再び行い上書きして手元に置くこともできるが、さて。
しかし、あの彼だからこそサンプルとして楽しかったのも事実。
人間としての輝きを失ったものには、イマイチ興味をそそられない。
ジェイル・スカリエッティ。実のところ彼は、人間というものに肯定的な存在だ。
欲望という、ある意味人間らしいものが原動力となっているからなのか。
矛盾を抱きながらも欲望に突き動かされる人の姿を見るのは楽しみの一つと言えた。
そしてスカリエッティから見たエスティマの行動は、実に愉快な出し物と言えるのだ。
衝動に突き動かされるままPT事件、闇の書事件を解決して、それを経てより多くの人を助けたいとでも思ったのだろうか。彼は執務官になった。
妄執に取り付かれて、自らの成したいことを成そうとする傍目から見た彼の姿は、ある意味共感すらできた。
その上、興味深いサンプルなのだ。肩入れするなと言う方がおかしい。
だが――
「……今回のは少し利き過ぎたかな?」
同じ部隊の親しい者たちが姿を消し、知人の一人が捕られるべき犯罪者だと知り。
チンクに頼まれて処方箋を出していたので、彼が精神的にどれだけ追い詰められていたのかは知っているが、さて。
困ったものだ。
「ふむ。次のレリックウェポンを作ろうにも……リミットブレイク時のデータが欲しいのだが、今の彼では無理そうだからねぇ」
言いつつ、手元の鍵盤型キーボードを操作する。
そうしてディスプレイに映し出された猫の使い魔――リーゼ・ロッテの姿を見て、溜息を吐いた。
「もうそろそろ退屈しのぎが終わりそうなんだがねぇ」
どれだけ保つことやら、と、エスティマのことを考えている時とは違い、酷く眠たげな目でモニターへと視線を向ける。
使い魔を戦闘機人化すればどうなるか。
そんな、スカリエッティにとってはどうでも良い実験は、そろそろ一段落付きそうだった。