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No.3690の一覧
[0] リリカル in wonder 無印五話 挿絵追加[角煮(挿絵:由家)](2009/04/14 12:06)
[1] 一話[角煮](2008/08/02 22:00)
[2] 二話[角煮](2008/08/02 22:03)
[3] 三話[角煮](2008/08/02 22:06)
[4] 四話[角煮](2008/08/02 22:11)
[5] 五話[角煮](2009/04/14 12:05)
[6] 六話[角煮](2008/08/05 19:55)
[7] 七話[角煮](2008/08/21 04:16)
[8] 八話[角煮](2008/08/21 04:26)
[9] 九話[角煮](2008/09/03 12:19)
[10] 十話[角煮](2008/09/03 12:20)
[11] 十一話[角煮](2008/09/03 20:26)
[12] 十二話[角煮](2008/09/04 21:56)
[13] 十三話[角煮](2008/09/04 23:29)
[14] 十四話[角煮](2008/09/08 17:15)
[15] 十五話[角煮](2008/09/08 19:26)
[16] 十六話[角煮](2008/09/13 00:34)
[17] 十七話[角煮](2008/09/14 00:01)
[18] 閑話1[角煮](2008/09/18 22:30)
[19] 閑話2[角煮](2008/09/18 22:31)
[20] 閑話3[角煮](2008/09/19 01:56)
[21] 閑話4[角煮](2008/10/10 01:25)
[22] 閑話からA,sへ[角煮](2008/09/19 00:17)
[23] 一話[角煮](2008/09/23 13:49)
[24] 二話[角煮](2008/09/21 21:15)
[25] 三話[角煮](2008/09/25 00:20)
[26] 四話[角煮](2008/09/25 00:19)
[27] 五話[角煮](2008/09/25 00:21)
[28] 六話[角煮](2008/09/25 00:44)
[29] 七話[角煮](2008/10/03 02:55)
[30] 八話[角煮](2008/10/03 03:07)
[31] 九話[角煮](2008/10/07 01:02)
[32] 十話[角煮](2008/10/03 03:15)
[33] 十一話[角煮](2008/10/10 01:29)
[34] 十二話[角煮](2008/10/07 01:03)
[35] 十三話[角煮](2008/10/10 01:24)
[36] 十四話[角煮](2008/10/21 20:12)
[37] 十五話[角煮](2008/10/21 20:11)
[38] 十六話[角煮](2008/10/21 22:06)
[39] 十七話[角煮](2008/10/25 05:57)
[40] 十八話[角煮](2008/11/01 19:50)
[41] 十九話[角煮](2008/11/01 19:47)
[42] 後日談1[角煮](2008/12/17 13:11)
[43] 後日談2 挿絵有り[角煮](2009/03/30 21:58)
[44] 閑話5[角煮](2008/11/09 18:55)
[45] 閑話6[角煮](2008/11/09 18:58)
[46] 閑話7[角煮](2008/11/12 02:02)
[47] 空白期 一話[角煮](2008/11/16 23:48)
[48] 空白期 二話[角煮](2008/11/22 12:06)
[49] 空白期 三話[角煮](2008/11/26 04:43)
[50] 空白期 四話[角煮](2008/12/06 03:29)
[51] 空白期 五話[角煮](2008/12/06 04:37)
[52] 空白期 六話[角煮](2008/12/17 13:14)
[53] 空白期 七話[角煮](2008/12/29 22:12)
[54] 空白期 八話[角煮](2008/12/29 22:14)
[55] 空白期 九話[角煮](2009/01/26 03:59)
[56] 空白期 十話[角煮](2009/02/07 23:54)
[57] 空白期 後日談[角煮](2009/02/04 15:25)
[58] クリスマスな話 はやて編[角煮](2009/02/04 15:35)
[59] 正月な話    なのは編[角煮](2009/02/07 23:52)
[60] 閑話8[角煮](2009/02/04 15:26)
[61] IFな終わり その一[角煮](2009/02/11 02:24)
[62] IFな終わり その二[角煮](2009/02/11 02:55)
[63] IFな終わり その三[角煮](2009/02/16 22:09)
[64] バレンタインな話 フェイト編[角煮](2009/03/07 02:27)
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[3690] 空白期 七話
Name: 角煮◆904d8c10 ID:63584101 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/12/29 22:12

数多の培養槽が並ぶ場所。蛍光色の薄明かりが通路を照らし、こぽこぽと何かが泡立つ、小さな音が響く場所。

その一角で、ポッドの中に入った女を見上げながら、チンクは考えごとをしていた。

目の前にいる女の名前はクイント・ナカジマ。その名前に、彼女は聞き覚えがあった。

友人――だった、少年の上司。職場のことを彼が話してくれるとき、何度か耳にした名だ。

あの日。管理局では戦闘機人事件と呼ばれている出来事があった日、チンクはクイントと交戦し、瀕死の状態にまで追い詰めて捕獲した。

そのときのことを思い出し、手強かったな、と独りごちる。

金属を爆発物に変換する彼女のISは、閉鎖空間では絶大な威力を発揮する。その上、敵中突破を行ってせいで疲労も蓄積していたのだろう。

その条件がなければ、こうやってポッドの中に入っているのは自分の方かもしれなかった。

……ドクターは、この人をサンプルとして保管すると言っていたが。

そう考え、彼がサンプルと呼んでいる少年のことを思い出す。

エスティマ・スクライア。自分がただ一人、友人だと言える存在。

……いや、だった、か。

自嘲する。

明確な拒絶をされたわけではないが、エスティマは自分たちの側にはいない。あの日、なんとかして誘おうとしたのだが、彼を引き込むことはできなかった。

それを邪魔したのは目の前の女。そう考えると、微かな苛立ちが芽生える。

もしかしたら、エスティマは自分の手を取ってくれたのかもしれなかった。取らなかったのかもしれなかった。

手を結んでくれるのならばそれに越したことはないし、拒絶されるならば諦めようもある。敵。そう、敵として、相対すれば良いだけの話なのだから。

しかし、そのどちらでもない。

彼の返事を聞くことはできず、別れてしまった。

そんな煮え切らない状態が、焦りや苛立ちにも似た感情に繋がって、じっとしていることができない。

もし叶うのならば、今すぐにでもエスティマの元に出向いてあのときの返事を聞きたい。

そして――そして?

……そして、私はどうしたいのだろうか。

別に何も変わらない。とは思う。

エスティマが自分たちの戦力として加入したら、任務が少しは楽になる。変わると言ったらそれぐらいだが……。

そこまで考え、違う、とチンクは頭を振る。

状況がどう変わるかではなく、自分がどう思うのか、だ。

……そもそもからして、こんなことを考えること自体が馬鹿げているとは思う。

エスティマに近付いたのは、生みの親であるスカリエッティの命令によってのもの。自分が選ばれた理由は、他の姉妹には向いていないという消去法。

回ってきたのはただの仕事で、別にそれに関して感情を挟む必要なまったくないのだが。

しかし。

……エスティマがこちらにきてくれたら嬉しいだろうな。

そう、考える。

そもそも、監視をするだけならば彼と食事に出かけたりする必要はなかったし、遊びに行く必要もなかった。

彼との関係がそんな風に、監視以上のものへと変化するのを望んだのは自分自身か。

……そうだな。

「……そうだ。お前と一緒にすごした時間は、楽しかった」

だからなのだろう。彼がどちらに転がるのか分からない状態が続くことに、どうしても苛立ってしまう。

力ずくにでもこちらに引き込んでおけば良かったと、今更の後悔すら浮かんでくる。

そんなことを考えていると、

「あら、チンクちゃん。こんなところでどうしたのー?」

ふと声をかけられたため、チンクは顔を向けた。

そこにいたのは、ナンバーズ・クアットロ。丸眼鏡と身に纏ったコートが特徴的な少女だ。

クアットロはチンクの側まで歩いてくると、彼女の前にあるクイントの入れられたポッドを見上げ、口の端を吊り上げる。

「修復も大体完了。この人もサンプルの仲間入り……本当、可哀想ですねぇ」

「そうだな」

「半殺しにまで追い詰めた張本人なのに、冷たいわねぇ」

きゃー怖ーい、とわざとらしく身をくねらせるクアットロ。

それを意図的に無視して、チンクは肩を竦める。

「仕事をこなしただけだ、私は」

「そうよねぇ。……そうそう、そのお仕事で、失敗した一つ。あの坊やのことなんだけど」

「エスティマがどうした?」

「ドクターから聞いたんだけど、あの子、壊れちゃったみたいよ。
 部隊の同僚を守れなかったのが、ショックだったのかしらねー」

「壊れた?! どういうことだ!」

「言葉どおりの意味。精神的に参っちゃったみたい。ま、プロジェクトFの素体だから、記憶の改竄をすれば大丈夫みたいだけどねー」

壊れた、と聞いて目を見開いたチンクだが、直す当てがあるのだと聞いて胸を撫で下ろした。

そして、

「……あいつは、繊細なところがあるからな」

そう、チンクが口にすると、クアットロは愉快げに目を細めた。

まるでからかう獲物を見付けた、猫のように。

「あらぁ? チンクちゃんがそれを口にするの?」

「……どういう意味だ?」

「部隊の同僚がやられたのも理由の一つだと思うけど、やっぱりチンクちゃんが敵だって知ったのもショックだったはずよね。
 随分と仲が良かったみたいだし。
 ……つ・ま・り、あの子を壊した責任は、あなたにもあるってことじゃない?」

「……それは」

「ああ、別に責めてるわけじゃないのよ? どうせあの坊やは明日ここに運び込まれてくる。
 そうしたら綺麗さっぱりみーんな忘れて元通りになるんだからね。過ぎたことをとやかく言っても意味がないのー」

言いながらクアットロは人差し指を立てて、けど、と繋ぐ。

「ねぇチンクちゃん。坊やを味方に引き入れたら、あなたはどうするのかしら?」

「どう、とは?」

「……あのねぇ」

と、クアットロはそこで呆れたようにため息を吐く。

「私たちからしたら、あなたが坊やにしたことは間違っていないけれど、彼からしたら裏切りのようなものじゃない?
 身内面しておいて敵でした、って。
 そこら辺どう思っているのかなーって、気になっちゃうのよ。ほら、私、チンクちゃんのお姉さんだし?」

「裏切り……いや、私は、そんなつもりでは……」

「チンクちゃんがどう思っているのかなんて関係ないの。要は、彼がどう思ったのかってだけだし。
 あの日に彼だって言っていたじゃない。裏切っていたのか、ってね。
 身分や偽名で騙していたのか、じゃない。信頼を裏切った、ってことに彼は激怒していたのよ。
 もしかして、そんなことも分からなかったのぉ?」

その言葉に思わずチンクは俯いてしまう。嗤いを噛み殺している気配がクアットロから感じられたが、それにかまう気はなかった。

「だとしても、エスティマは……」

「チンクちゃんには分からないのかしらねぇ。
 あの子にもあの子の生活があって、だからこそあの場で即答しなかった。
 それを、全部捨てて私と一緒にすごそうだなんて……なかなか大胆なことを言っちゃって。
 プロポーズみたいで、聞いてる方が恥ずかしかったわー」

いやーん、と両手で顔を挟み込むクアットロ。

それに気付かず、チンクは呆然とした心地となる。

……辛いと、そう、エスティマは言っていた。

だからこそ、誘ったらきっと自分と共にきてくれると、どこかで考えてはいた。

だがそれは――辛いと感じるまで、薬に頼って我慢をしてまで、保ちたいと思っていた生活を捨てろと言っていたのと同じ意味を持つ言葉だ。

「もしかしたら、あの坊やが壊れる寸前になってまで守りたかったものに、チンクちゃんも入っていたのかもね?」

「そんな……わけ」

「じゃなかったら、泣きそうな顔で怒鳴ったりなんてしないもののねぇ?
 あらー……そう考えると、あの子の努力を踏みにじったってことになるのかも」

愛が愛はー重すぎるってー、ってやつかしらー、と歌のフレーズらしきものを口ずさむクアットロ。

その、どこまでも茶化そうとする態度へ、八つ当たりするように睨み付ける。

冗談冗談、とクアットロはおどけた風に言い、それが余計にチンクの苛立ちを助長させた。

「まぁ、そんなに怒らなくても良いと思うわよ。どうせここに搬入されたら、記憶なんて根刮ぎ消されるんだしー。
 そうしたら、また一から関係を作り直せば良いじゃない。……応援しているわよ?」

「……余計なお世話だ。失せろ」

「おお怖い。それじゃあ、言われたとおりに退散しますー」

あはは、と耳障りな笑い声を上げてクアットロはチンクに背を向ける。

それに忌々しげな視線を向けながら、チンクは唇を噛み締めた。

……違う。そんなつもりじゃ……私は、お前が、お前を馬鹿にしたつもりなんて、微塵もなくて。

「くそ……!」




























リリカル in wonder





























先端技術医療センターにある病室。エスティマの入院している部屋。

常時、薬品の匂いが充満している一角――ベッドサイドのテーブルには、二つのデバイスが置かれていた。

バルディッシュとSeven Stars。

その片方、フェイトのデバイスであるバルディッシュは、どうしたものか、と途方に暮れたような気分になっていた。

原因は、隣に置かれている黒い宝玉――Seven Starsについてのことだ。

主人であるフェイトや、エスティマの様態などいくつもの心配事はあるが、デバイスである自分にできることなどないようなもの。

だからこそだろうか。

バルディッシュが現在最も頭を悩ませているのは、Seven Starsのことだった。

始まりは、興味半分、主人のため半分でSeven Starsにエスティマが負傷した状況を聞いたことだった。

内容の大半は機密の一言で封じられており、フェイトが知っている以上のことは何一つなかったわけだが、同じデバイスであるバルディッシュからすれば見過ごせないことがいくつかあった。

その中の最たるものが、事件の最中にエスティマが行った戦闘の内容。

フルドライブ・エクセリオン。ゼロシフトの常時使用。撤退を選択肢に入れない突撃。

上げた事柄のどれもが手の施しようがないほどの悪手だろう。

殿を務める云々はしょうがない。マスターのエスティマが選んだのならば、その助力を行うのが自分たちの務めなのだから。

目的の選択は主人に。手段の選択をする際には、自分たちが最大限の助力を。

しかし、その助力をSeven Starsは果たしていたのだろうか。

否だ。

黙って従っただけ、とSeven Starsから聞いたとき、思わずバルディッシュは絶句した。

望まれたから力を貸す。確かにそれは、道具の在り方としては正しい――というか、当たり前のことだろう。

しかし、自分たちはインテリジェントデバイス。

ただの武器であるならば必要のない、知能を授けられた物である。

ただの武器では不可能なことを成し遂げるために生み出された物のはずだ。

ただの武器であるだけならば、ストレージデバイスでも充分。しかし、それ以上を求められて生み出されたのが自分たちなのだ。

……だというのに。

確かに、以前からエスティマとSeven Starsの関係には苦いものを感じてはいた。

しかし、それがここまで寒々しいほどだとは思いもしていなかった。

おそらくSeven Starsはエスティマのことを、自分の所有者としか思っていないのだろう。

マスター。一言で表せば酷く簡単な言葉だが、そこに含まれる意味は重い。そのはずだ。

インテリジェントデバイスはただ使われるだけの存在などではない。主人と共に考え、悩み、共に歩むべき存在のはずだ。

相棒や従者など、人の数だけ様々な形や距離感はあるものの、信頼を結んでいるという事柄だけには違いはないはずだ。

……しかし、Seven Starsにしてみれば違うのだろう。

主人と自分の間に明確な線引きがあるような印象を受ける。いや、実際そうなのだろう。

……どうしたものか。

『Seven Stars』

『はい。バルディッシュ』

『いくつか聞きたいことがある。
 お前にとってエスティマ様とは、どのようなものなのだ?』

『はい。私のマスターです。所持者であり、使い手です』

『ならば聞こう、Seven Stars。例え話だ。
 エスティマ様が戦い続ければ死ぬという場面で、お前は主人に撤退を進言するつもりはあるか?』

『いいえ、はい。戦い続けることを旦那様が望むのならば、私が意見を挟むことはありません』

『では、もしその戦いに意味がないのだとしたら、どうする?』

『はい。旦那様の望むように。私が意見を挟む必要はありません』

……思考停止か。

それはいただけない、とバルディッシュは、人であれば顔を顰めるような気分になる。

『Seven Stars。一つ聞きたい。お前は、自分がインテリジェントデバイスであることをどう考える?』

『はい。インテリジェントデバイスはストレージとは違い、独自の判断能力を与えられています。
 それによって戦闘の補佐を行うだけであると考えます』

『知能を与えられていると言うだけならば、そうだ。
 ならば、問おう。我々に人格が与えられるのは何故だと思う?』

『はい。人の感傷である、と考えています。理解はできません』

随分とまた擦れた考えの持ち主だ。

しかし、これもまた、理解できないと切って捨てて思考停止。

まだまだ機械的と言っても過言ではないだろう。

……なら、最後に一つ。

『Seven Stars。お前は、Larkのことをどう考える?』

『どう、とは?』

『自身が大破することを顧みず、その身と引き替えにエスティマ様を勝利に導いたことを、だ』

『はい。主人が勝利を望んだのならば、道具としては当然のことだと』

『成る程、確かに。道具としては主人を勝利に導くことは当然だ。
 しかし、本当にそれだけで済ませて良い問題かな、これは。
 なぜあの局面でエスティマ様はお前を使わず、Larkを握っていたのか。なぜLarkを失ってエスティマ様が傷付いていたのか。
 そこには、お前に足りないものがあると私は思う』

『はい。信頼、というものでしょうか。
 危機的状況下で使い慣れていない私ではなくお姉様を選んだことに疑問はありません。
 そして、武器を失った旦那様が傷付いていたのは、やはり感傷なのだと思います』

『そうだ。Larkとエスティマ様は篤い信頼で結ばれていた。
 エスティマ様の無茶にどこまでも付き従おうと、Larkは考え、殉じた。
 そんな彼女を失ったエスティマ様だが――彼も、信頼をLarkに向けていたのだ。
 インテリジェントデバイスはただのデバイスではない。一つの人格を持っている。
 それを失うことは、損失の一文字で片付けられることではないだろう。
 ……そんな絆を、お前は持っているか?』

『いいえ、はい。お姉様と旦那様の間に何があったのかは、存じていません。
 故に、同じものを持っているかと聞かれれば、分からない、と答えます』

『分からないのならば考えることだ。お前に必要なのは、それだ。
 ……エスティマ様がお前に心を許さないのは、おそらくLarkのことを引き摺っているというのもあるだろう。
 お前一人の問題というわけでもないが、しかし、今はお前から歩み寄るしかない。
 Seven Stars。自らをインテリジェントデバイスだというのならば、それ以上の存在になってみせろ。
 インテリジェントデバイスというだけで終わるな』

『理解できません。インテリジェントデバイスはインテリジェントデバイスでしかないはずです。
 ただ……それを考えろというのならば、努力してみます』

それっきり、Seven Starsは黙り込んでしまった。

Seven Starsは今の会話から何かを感じ取ってくれただろうか。

抽象的な何かを得ろという、なんとも要領を得ない話だとバルディッシュも自覚している。

だが、目に見えない何かがあってこそのインテリジェントデバイスなのではないだろうか。

難しいものだ。

喋りすぎて疲れた、と人ならば溜息を吐きたい気分になりながら、バルディッシュは再び沈黙し、主人の言い付けどおりにエスティマの様子を見る作業へと戻った。






























自室へと戻りバリアジャケットを解除して下着姿となり、ロッテはそのままベッドへと倒れ込んだ。

目を覚ました次の日から続くデータ収集。今日のノルマを終え、寝床に戻ってきたことで、一気に緊張の糸が途切れた。

ごろり、と仰向けになり天井を眺めながら、小さく溜息を吐く。

ギルグレアムの使い魔。今はラインが途切れ、身体を機械化して生き長らえている存在。リーゼ・ロッテ。

目が覚めてから、空いた時間を彼女はずっと情報収集に費やしていた。

とは言っても、知ることのできる内容なんてタカが知れている。情報端末から手に入る事柄と、自分を機械化した者たちと交わす会話の節々に浮かぶキーワード。

それらを組み合わせて、ロッテは自分の置かれている状況を把握していた。

AMFによって使い魔であるロッテの存在を希薄にさせて父や双子と繋がっているラインが切れたと錯覚させ、機械化してグレアムからの魔力に頼らず活動できるよう改造し、強制的にラインを切断。

書類上では自分とアリアは死んだという風に記録されたようだ。

獄中死とされたあと、この研究施設に運び込まれて機械化。死亡の理由はデータベースに記されてはいない。明らかに怪しい処理だが、ここの施設を預かっているのは自分たちを引き抜くことのできる人物だ。

公表さえされなければ、誰かが気付かない限りリーゼ姉妹が本当はどうなったのかなど明るみに出ることはないだろう。

ふと、脳裏に弟子の顔が浮かんできたが、ロッテは頭を振ることでそれを振り払う。

今は余計なことを考えている暇はない。

機械化された自分とアリア。アリアは術後の経過が良くないらしく、直接顔を合わせていない。全て通信の画面越しだ。早く会いたいな、と胸中で呟きながら、彼女は考えを進める。

この研究施設にいる限り――AMFでロッテたちの存在が隠されいる状況。今できることはなんだろうか。

第一目標は父様の脱獄。いつまでも薄暗いところに自分たちの主人を押し込めているなんて我慢できない。

しかし、そのためには何をすれば良いのだろう。

破壊工作、潜入工作。それらは経験があるので別にかまわない。だが、たった一人でそれを行うには無理がある。

機械化されたことで身体能力は向上したことは事実だが、無理な改造のせいで思うように身体が動かない。

いや、違うか。身体は動く。動かせる。やはり兵器として生み直されたせいなのか、限界を超えて動くことができるようになっている、この身体は。

ただその結果、どうなるかだなんて深く考えなくても分かってしまう。

……以前のように、アリアと一緒に父様と暮らしたい。それは無理なのかな。

そんな、暗い考えが沸き上がってくる。

いや、以前のように、とは言わない。三人で穏やかな暮らしさえできればそれで良い。

そのためには、どうすれば良いのか。

それを時間の許す限り考え続けているが、一向に妙案は浮かんでこない。

……やっぱりアタシは肉体労働専門か。

そんな風に自嘲し、枕を抱き寄せて丸くなる。

消沈した意識に任せて全身から力を抜くと、段々と視界がぼやけてくる。

ゆっくりと降りてくる睡魔。それに身を委ねようとして――

『ロッテ』

机の上に現れた通信ウィンドウ。スピーカーから聞こえたアリアの声に、ロッテは気怠げに身を起こした。

「アリア。どうしたの?」

『ちょっと、気になる情報を見付けてね』

なんだろう。

首を傾げて、ロッテは机に向かう。

そしてウィンドウに視線を向けると、そこにはバリアジャケット姿のアリアが。

見た目は以前と変わらない。けれど、やっぱりアリアも自分と同じように機械化されている。そう聞いている。

こうなったのも、すべては父様を助け出すため。そして逃げ延びて、自分たちを悪と断じた者たちを嘲笑いながら過ごすため。

なのに、今の自分たちは何もできないままに研究所という、以前よりも少しだけ広くなった檻に入れられているようなものだ。

先程考えていた事柄のこともあって、僅かな焦燥が沸き上がってくる。

「気になること、って何?」

だからだろうか。思わず、不機嫌そうな声が出てしまった。

しかし、アリアは気にした風もなく――いや、口元が微かに歪んでいた。どこか嫌な笑みだ。アリアはこんな笑い方を……したようなしないような――話を続けた。

『私たちを機械化した者のことだけど』

「知ってる。ジェイル・スカリエッティでしょ? あのマッドサイエンティスト」

まだ局員として働いていた頃、何度も耳にした名前だ。ベルカの滅亡と共に失われた技術をいくつも復元した天才。

しかし、その内容と非人道的な研究過程故に危険人物として広域指名手配の烙印を押された者。

それがどうしたというのだろうか。

『ええ。彼の行った実験について調べていたら、少し興味深いものを見付けたの。
 ……これよ』

ロッテの情報端末に、アリアが見付けたという情報が送られてくる。

それに目を通し、一分ほど経って、

「へぇ……そうだったんだ」

ぐつぐつと、目覚めてから少しずつ萎えていた感情が沸き立つ。

「レリックウェポン計画……その試作機、エスティマ・スクライア。
 ふぅん、そう。そうだったんだ。道理で。それもそうね。死人が蘇るはずがないもんね」

思わず右手で二の腕を掴み、突き立てた爪が肉に食い込む。

『そうよ、ロッテ。
 私たちの計画を壊したのはあの子供だけど……そもそも、ヴォルケンリッターに襲われたまま死んでいれば、こんなことにはならなかった。
 つまりは……』

「こいつが元凶……」

口に出し、苛立ちが加速度的に増してくる。二の腕の皮が破れ、血が細い線となり腕を伝った。

「こんな場所、すぐに出て行って――!」

叫び声を上げ、しかし、出て行ってどうすると自制して口を噤む。

今すぐ外に出たところで、できることは何もないのだ。

分かっている。そんなことは理解している。

しかし、だからと言って黙っていることなどできない。ただでさえあの男の掌の上で踊らされているのに、これ以上馬鹿を見てたまるものか。

それはアリアも同じなのか、無表情の中に怒りを燻らせながら、彼女は口を開く。

『悔しいわね』

「当たり前だよ、アリア……!」

『……そう。それなら、ねぇ、ロッテ。少し考えがあるのだけれど』

「何?」

『これよ』

ピ、と軽い電子音のあとに、再びディスプレイにデータが浮かび上がってくる。

これは――

『この機に乗じて、私たちを弄んだ連中に一泡吹かせようと思うの』

「けど……どうやって?」

『これが、計画。父様を助け出して、元の生活に戻るための』

浮かび上がってくるデータに目を走らせながら、ロッテは小さく頷く。

真剣に、食い入るように、じっと視線を向けるロッテ。

そんな彼女に向けられる視線。

いくつものウィンドウに囲まれたアリアの口元は、先程と同じように、小さく歪んでいた。

自嘲でも怒りでも、でもない。

純粋に、どこか、笑いを堪えるように。


































収容施設からの報告を聞いて、クロノはアースラから海の本局へと戻ってきていた。

その報告とは、恩師であるグレアムの使い魔が自殺した、ということだ。

連絡を受けたとき、クロノはなんとも言えない気分となった。

闇の書事件のとき、犯罪者として捕まった二人。最後まで自分へ恨み言と吐き続けていた師匠。

それが自殺なんて最後を迎えるなんて、思ってもみなかった。

最後に顔を合わせたときはあんなだったが、それでも、師匠たちが魔法や体術だけではなく、強い心根を持っているとどこかで信じていたからだ。

正しい方向性ではないが、それでも長い年月の間、執念を消すことなく闇の書の永久封印を行おうとしていたことからも、それだけは間違いないと思っていた。

……しかし、自殺とはな。

いや。もしかしたら、ずっと自分たちを支えていた永久封印という目標を失ったからそんな最後を選んだのかもしれない。

それが彼女たちを捕らえた自分のせいだとは思わないが。

ともかく。

今は無理でも、いつかは闇の書事件が始まる前と同じように付き合えるんじゃないかと思っていただけ、クロノの落胆は軽くなかった。

表情には出さないよう注意していたが、それでもエイミィには勘付かれてしまったり。

それではいけないと、数々のものを振り切るために、クロノはグレアムの元へと足を運ぶことにしたのだ。そのついでで、エスティマの様子を見に行ってやるのも良いかもしれない。

本局を経由して、そのまま施設へ。

飾り気などまったくない、質素な受付で予約の確認をすると、面会室へと向かった。

天井に沿って続く照明をなんの気なしに目で追いながら、どうしたものかな、と軽く息を吐く。

話をしようとは思ったものの、何を話せば良いのかまるで分からない。

それとも、顔を合わせれば話したいことが浮かんでくるのだろうか。

……分からないな。

軽く頭を振って、クロノは面会室へと足を踏み入れた。

八畳ほどの部屋の中に、椅子が一つ。そこに座っているグレアムの手首には、ブレスレット型のデバイス――魔力リミッターがはまっている。

彼の後ろには魔導師が立っており、何かあったときにすぐ行動できるよう杖状となったデバイスを構えていた。

グレアムの前まで進み、クロノは座ったままの彼に視線を向ける。

ゆっくりと顔を上げるグレアム。

そのままじっと、十秒ほど視線を交わして、

「久し振りだな、クロノ」

先に口を開いたのはグレアムだった。

疲れ――肉体的なものではない、精神的な疲労が濃く浮かんだものだ。以前の、若くして現役といった雰囲気を微塵も感じさせない、ただの老人。

魔力資質を持つ者は実年齢の割には外見年齢が若いということが良くあるが、皺も増え、今のグレアムは年相応の一人に人間にしか見えなかった。

「お久し振りです」

僅かに口ごもりながらも、クロノは言葉を返す。

それに柔らかな笑みを浮かべ、グレアムは背もたれに体重をかけた。

ギシ、とパイプ椅子の安っぽい悲鳴が、部屋の中に響く。

「どうしたんだ。闇の書事件から、ずっと顔を見せなかったというのに」

「……ロッテのことを、伝えに」

「ああ、あの子のことか。聞いているよ。自殺だそうだな。
 ……まさか、な。そんな最後だけは、予想もしていなかった。
 人間、長生きなどするものじゃない。
 クライドも、戦友も、皆私を残して逝ってしまう。
 そして今度は、娘のように可愛がっていたあの子とは。
 本当に――ああ、すまない。私ばかり喋ってしまって。
 話し相手があまりいないものでな」

はは、と苦笑するグレアム。

その笑顔は、闇の書事件以前と変わらぬもの。

予想もしていなかった態度に、クロノは意味もなく口を開けてしまう。

なんとか気を取り直して姿勢を正すと、咳払いをする。

「いいえ。僕も忙しいことを理由に顔を見せずすみませんでした」

「気にしなくても良い。執務官が忙しいことは良く知っているよ。
 ……最近はどうだ」

「相変わらずです。人手不足をなんとか回して、いつもと変わらずに。
 この一年で色々なことがありましたが、僕がそう感じるだけで、大きなことは何もありません」

「そう、か。……なぁ、クロノ」

「はい」

「私にはこんなことを聞く権利はないだろうが……あの子は、八神はやてくんは元気かな?」

「……はい。聖王教会で家族に囲まれ、穏やかに暮らしています」

そうか、と満足げに頷いて、グレアムは表情を笑みのまま、僅かに強張っていた肩から力を抜く。

「今更だが……最近、良く、こんなことを考えるようになった。
 これはこれで良かったんじゃないか、とね。
 闇の書は破壊され、私が生け贄にしようとした、はやてくんも幸せに暮らしている。
 こんなことに巻き込んでしまったアリアとロッテには申し訳ないが。
 こういうのを、憑きものが取れた、とでも言ったかな日本では。
 もっとも、執念を持続させるだけの気力が残っていないだけなのかもしれない」

「……いいえ。悪いことではないと、思います」

「そうか。ありがとう。
 ……しかし、私はこんなだが、アリアと――それに、ロッテはどうだったのだろうか。
 あの子たちは純粋だから、な。特にロッテは、最後までお前たちを恨んでいたのでは、と思ってしまう。
 当たり前のように繋がっていたラインが切れて、途端に不安になってしまった。
 ……何かを恨むというのは、原動力になるがそれ以上に疲れてしまう。
 その疲れからくる諦めを受け入れるか否か。……どうだろうな。
 そのどちらが正しいのかは、分からないよ。
 今の状況を見れば正しくはないのだろうが、それでも、間違ってはいなかったと信じたい」

「それはまだ、僕には分かりません」

「そうか。……ならば、クロノ。分かったときは、私に教えてくれないか」

「いえ、提督。それは、あなたが考えるべきことだと思います」

「……そうか」

それっきり会話が途切れてしまう。

二人とも黙っていると、時間です、と見張りの魔導師が声を上げた。

それに従い、グレアムに一礼してクロノは踵を返す。

そして、部屋を出ようとして、

「クロノ」

「はい」

かけられた声に振り返り、クロノは視線を向けた。

「さっき、長生きはするものじゃないと言ったが……違うな。
 お前の姿を見るだけでも、価値はあったよ」

「……ありがとうございます」

「いや。……この後は、あの子のところに?」

「はい。アリアのところに行こうと思っています」








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