ユーノたちと別れると、俺はどこぞのビルの屋上で作業をしていた。
それにしてもねぇ……。
あの後、なのはにユーノは人間ですよ、とチクったら、一瞬であの場の雰囲気が悪くなった。
え、俺悪いことしてないよ?!
むしろ人なのに淫獣として生きてたユーノが悪いよ!
まあ、暗くなるっつーか、恥ずかしくて雰囲気悪くなる、って感じだったからまあ良いか。
……温泉の後だったしなぁ。
その後、適当に事情とかを話して解散。
最後まで俺とフェイトが何かしら関係あるんじゃないのか、って不思議がってたなぁ。
むう、いずれは教えてあげないとだろう。
事件が終わったら+管理局には内緒、って条件でだが。
流石に知り合ってしまえばオワタだしなぁ。ユーノ経由でこれからも何かしら付き合いがあるだろうし。
まあ事件に巻き込まれない距離感を維持しつつなんとかやっていこうか。
などと考えていたら、
『ご主人様。手が止まっています』
と、Larkから苦情が。
「ああ、ごめんごめん」
視線を手元に落とす。
膝の上にはノートパソコン型のストレージデバイス。電源スイッチが置いてある場所には、黄色の宝玉――Larkのコアが鎮座している。
これはメンテナンス用デバイス、『トイボックス』。
俺用にマイナーチェンジしたLark――にしては魔改造が過ぎてるからマイナーチェンジといえないやも――を最高の状態で使うには持ち運びが必須ともいえる代物だ。
小型化、高性能化が叫ばれるのはどの技術でも当たり前の傾向。
それはデバイスにもいえることである。
俺がLarkにやらかした改造は、その流れに逆らったタイプである。
移植したストレージデバイスのコアをパーツと見立ててLark本来の機能を補助。
まあ、これは主にカートリッジ使用で掛かる負荷を回しているだけに近いのだが。
それによって今の時代でもカートリッジが使える。なんとか、といった具合だが。
しかし、大型化なんてすれば熱も溜まるので放熱器の数は一般の二倍。
更に、二つのデバイスを動かしているようなもんだから消費魔力も多いので、それを補うためにCVK792-の弾倉は二つ。
そして負荷の掛かる部分も多いから、こまめなメンテナンスは必須。激戦があった後はオーバーホールも必要。
おそらく真っ当な技術者に見られたら失笑もんの改造だ。
――燃費と維持費は悪いが馬力はすごいぞ! という、エコ精神を真っ向から否定したアホデバイスである。
……マッハキャリバーとかと同じ傾向なのかなこれ。いや、もっとおぞましい何かだ。
まあ良い。
Larkのデフラグを行いつつ、RAMに記録されたフェイトやなのはの魔法を選別。
使えそうなのを残して、惜しいのをトイボックスの記憶域へ。不要なのは躊躇なく削除。
ううむ。ディバインバスターの術式が不鮮明だ。なのはに頼んでレイジングハートの中身を見せてもらおうかな。
射撃ならばともかく俺の砲撃はごくごく一般のレベルだが……まあ、折角原作キャラと知り合ったんだし使ってみたいじゃない?
次にLarkのパーツを喚び出し、拭き掃除、油差し、トイボックスに収めておいた消耗パーツを交換。
魔法でリカバリーするのも手だが、本体に負荷が掛かるので最終手段だ。
カートリッジの残りは、まあ、余裕があるにはあるかな。
事件に巻き込まれるのを想定してたから予備パーツを多めに持ってきているのですよ。
……あー、あんまり長くここに居座りたくないなぁ。管理局経由でパーツを買うと、経費で落とさせてくれないんだよね。
以前発掘現場の護衛を管理局と合同でやった時、そうなったのである。
いやー、なかなか手に入らないパーツを買えたから良いっちゃあ良いんだけどさぁ。
ううむ。アースラがきたらデバイス用メンテナンスベッドを貸してもらおう。
今の整備環境はちょっと悪すぎる。
……うう、懐が寒くなりそうな予感がビンビンですよ。管理局所属じゃないからパーツとか無料でくれないだろうし。
――などとやっている内に朝日が昇り始めた。
「……あー、もう朝?」
『早く戻りませんと、はやてさんがご主人様の不在を悲しみますよ?』
「分かってるってば。あーもう、外に出るのも帰るのも面倒なんだよねー」
あの家監視されてるから、距離を置いてフェレットに戻ってから帰宅しないとだし。
……まあでも、帰るさ。
リリカル IN WORLD
「エスティマくん、湯加減はどうでっかー?」
それに対する返答は、ぐてー、と洗面器の中で伸びることでアピール。
そんな仕草にはやては笑みを浮かべたり。
ああ、違うよ。俺ユーノと違うよ。
ちゃんと、はやては服を着てるよ!
人間形態で汚れたため――Larkの整備の油汚れ、なのはのディバインバスターで池へ墜落――それがフェレット姿にも反映されたのだ。
起きて早々それに気付いたはやては、朝食をとるとすぐに俺をミニマムお風呂へと叩き込みました。
汚いのはあかん、らしい。
まあ、そりゃそうだが。
ボディーソープのついた手で体中撫でられるのは新手のプレイだ。
……俺、もう、はやての前で人間になれないんじゃねーの?
思わず前足で頭を抱えると、はやての頭を撫でられた。
「痒いん? 擦ってあげるー」
ああどうも。
「それにしてもエスティマくん、なんの種類のフェレットなんやろうなー。図書館で図鑑を見ても載ってなかったわ」
そりゃそうっすよ。
「白い蛇とかと一緒で、珍しい代物なんやろか」
……あれと一緒にされるのは遺憾なのですが。
「むむ! だったらエスティマくんを拾ったあたしは幸運ってことや!! エスティマくんは幸運の金色フェレットだったんやね?!」
……突っ込まんぞ。
「むふー、金運とかはいらないから、健康に運を回して欲しいなぁ」
自虐ネタをしたって突っ込まんぞ……!
突っ込まんぞー!!
――と思っていたんだけど、てい、と頭を撫で続けていた指に、思わず突っ込みをしてしまった。
「あはは、エスティマくん、突っ込み遅いでー! それじゃあ芸人として三流や!!」
いいつつ、はやては俺を洗面器から持ち上げた。
そしてタオルでごしごしとお湯を拭ってくれたり。
そして今度はドライヤーを――
ってらめえええええ! ドライヤーはらめえええ!!
強熱風はやめてえええええ!!!
ごめんなー、と謝られたあと、はやては病院へと行った。
流石に動物を持ち込んじゃいけないっていう常識はあったらしい。
んで、お留守番を任された俺なわけだが――
『ご主人様。反応、ありました』
「ん、お疲れ」
顔を上げ、闇の――いや、夜天の書に視線を向ける。
ダミーも何もなし。隠してあるんじゃ、と思ったけど、本棚に飾ってあるのが本物に間違いなし、ね。
……さて、と。
『ご主人様。このデバイスをご存じなのですか? どうやら、封印処理が施されているようですが』
「ん、長老様に聞いたことがあってさ、こういうの」
まあ嘘だが。
ふむ。
今の俺にはこれをどうにかする術がないわけだが。
PT事件が原作通りに終わり、予定通りにヴォルケンズが覚醒して、予定通りにスーパーフルボッコタイムが始まればすべては丸く収まる。
しかし、俺というイレギュラーが入り込んでしまって……原作の通りに進むかどうか。
原作の流れを狂わせたくないのならば、話は簡単だ。
これ以上なのはとフェイトの諍いにしゃしゃり出ず、俺がF計画の落とし子だってことを黙り通し、フェイトの裁判に参加しないでスクライアの集落へと帰れば良い。
しかし――
「……今の俺はスクライアの人間だからなぁ」
いくつかのジュエルシードを道連れにして姿を消したプレシア。
管理局からすれば回収できないんだから諦めよう。なのはたちからすれば関係ない。
しかし、俺からしてみれば、九つのジュエルシードが消えるのはどうにも。
本来ならば売却する代物だぞ、あれは。
賠償請求をしようにもプレシアは消えるのだから無理。管理局に求めるのはお門違い。
ユーノ辺りは甘いから、責任は自分が、とかいって終わらせそうだが……さて。
手元にあるシリアルナンバーⅢはそもそも、フェイトもなのはも封印しない物だから勘定に入らないし。
これ以上フェイトにジュエルシードを渡さないのがベター。
最後の最後でプレシアから全て奪い返すのがベスト。
そこまで考え、ふと、憑依したばかりの時に相対したあ奴を思い出し。
……うっお、背筋がブルってなった!
「……Lark」
『なんでしょうか』
「今の俺でプレシアに勝てると思う?」
『完全な状態で、その上で不意打ち、という前提条件ならば勝率は五分です』
「あれ? そんなに高いの?」
『一割を切ってますが?』
……ああ、そっちの五分っすか。
いやー、それでもまた高い気がするよ。
『ただ』
「ん?」
『リスクを無視すれば、あるいは』
「……はいはい。戦いませんよー」
『分かりました』
くそう。
溜息を吐きつつ、夜天の書に再び目を向ける。
……これ、叩き壊したらどうなるんだろうね。
いや、ロストギアを手荒に扱うな、ってのは日常的にいわれていることなんだけどさ。
俺は夜天の書に尻尾を向けると、マイベッドに潜り込んだ。
その日の深夜。
八神家を抜けて離れ、変身解除を行ってユーノの元へ。
いや、ディバインバスターの術式をコピーしたいんですよ。
と思って空に上がったのは良いんだけど――
「……君の持っているジュエルシード、渡して」
なんか待ち伏せをされていたらしく、アルフとフェイトが立ち塞がった。
……おいおい。
「……本当にフェイトそっくりなんだね」
どこか呆れたようにそういい、まあいい、とアルフは舌打ちする。
「ほら、アンタ、最低でも一つ持っているんだろ? それをさっさと出しなよ」
剣呑な様子で言葉を向けられ、思わずLarkを構えた。
うわぁ、一対二はアンフェアだろうよ。
『ご主人様。私を入れれば二対二です』
『バルディッシュ含めれば二対三だけどな』
さて、どうするかねぇ。
俺は逃げるつもりまんまんだが、あちらさんは問答無用っぽい。
念話でユーノにSOSを送り、俺はアクセルフィンを発動させた。