『Photon Lancer Multishot』
金色の光に彩られた槍が四つ、夜空を薙ぐ。
弾速は早いが直射。発光に合わせて俺は微かに身を捩らせ、全てを回避する。
「クロスファイア」
『目標補足』
「シュート!」
トリガーワードと共に放たれた四つのサンライトイエロー。
フェイトは上昇しつつ速度を跳ね上げ、誘導弾から逃げ惑う。
彼女に追い打ちをかけるべくアクセルフィンに魔力を送り――
『ご主人様!』
死角から伸びてきた橙色の鎖を切り払った。
次いで飛んでくるのは拳だ。
雄叫びと共に炸裂するそれを斜めに発生させたシールドで受け流し、擦れ違い様にLarkの石突きを背中へと叩き付けた。
まずい、フェイトは――
『Photon Lancer』
『プロテクション』
頭上から降り注ぐ、三連射。
Larkのお陰でなんとかなっ――
「はああああっ!」
「――ぐうっ!」
――弱ったプロテクションを突き破り、フェイトのサイズスラッシュを辛うじてLarkで受け止める。
鍔迫り合い。
キチキチとお互いのデバイスが鳴き声を上げるのを聞きつつ、俺はLarkに込める力を抜いて、右脚を跳ね上げる。
狙ったのはバルディッシュの石突き。
不意の方向から力を掛けられ、黒の処刑鎌は持ち主の意志に反して振り被られた。
やるなら今――
『フォトンランサー』
至近距離での射撃。俺の場合は炸裂効果付加だ。
「フェイト?!」
爆煙と衝撃に俺とフェイトは弾け飛び、同じ顔を苦痛に歪めつつデバイスを一閃。
煙が晴れ――
「サンダー……」
「クロスファイア」
『集束』
サイズフォームからデバイスフォームに戻したフェイト。
放たれるのは砲撃魔法。対する俺は射撃だが、射程はそれほど空いてない。
俺は魔力刃を発生させたままLarkの穂先をフェイトへと向ける。
問題は威力か。いつもより多めの、六つの魔力弾を一つに集束する。
展開するミッド式の魔法陣が一層光りを濃くすると同時、これまた同時にトリガーが紡がれた。
「――スマッシャー!」
「シュート!」
光の奔流が、衝突する。
何かが焼き焦げる音と共に光が爆ぜ、人気のない街は花火にでも照らされたようだ。
――金色がサンライトイエローを押す。
今のままでは押し切られる。サンダーレイジと違ってバリアジャケットを貫通することはないだろうが、手負いとなるのは間違いない。
――妹に二度も負けられるかよ。
「Lark!」
『カートリッジロード』
二回の炸裂音。
サンライトイエローの灯りはそれでより力強さを増し――
真っ向から、金色の雷を打ち砕いた。
……しかし、手応えなし。
ならば、
「カートリッジロード」
『――Phase Shift』
瞬間、世界が遅くなる。
下にはチェーンバインドを伸ばしてくるアルフ。
そして頭上には、サイズフォームとなったバルディッシュを振りかぶったフェイト。
植物の蔦か何かのように這ってくる橙色の鎖を無視し、上昇。
フェイトの背後へと回り込み、魔力刃を頭上ギリギリのところで止めた。
そして、全てが、正常な動きを取り戻す。
「――え? あっ?!」
「勝負あったね」
摩擦で剥げ落ちたバリアジャケットの破片が舞い散り、バチバチと音が上がる。
音速超過での移動を行ったため、衝撃波が吹き荒れた。
言葉はそれに飲み込まれたが、状況はフェイトに伝わっただろう。
フェイトはバリアジャケットのマントを揺らし、顔を俯かせる。
注意していなければ分からないほど僅かに、彼女は唇を噛む。
バルディッシュをデバイスフォームに戻すと、音を立てて刃を下げた。
残念だったね。
まあ、俺が持っているのは元々勘定に入らないやつだし許して欲しい。
「さ、賭は俺の勝ち。君のジュエルシードをもらおうか」
そう。
この戦いが始まる前、フェイトは賭けだといって勝負を仕掛けてきた。
なのはの時と一緒だ。
しかし残念なことに発展途上な彼女と違って、俺はちゃんとした教育を受けた上に実戦経験がある。
まあ、すぐに追い抜かれるのは分かっているが、今のなのはと俺を一緒にして欲しくはない。
……べ、別にカートリッジとレアスキルに頼って戦ったわけじゃないんだからね!
ほら、一対二だったし!!
……軽くヘコむ。
そんな俺を余所にしてフェイトは、
「……持って、ない」
「……は?」
「今、ジュエルシードは手元にない」
「一つも?」
応えは首肯。
なんてこったい。全部プレシアの元かよ。
フェイトが持ってるんじゃなかったのー?
……ん、いや。そうか。
フェイトが持ち出したのは、全てのジュエルシードを誰かが所持している状態だったからか。
はぁ……これまた面倒な。
っていうか嬢ちゃん。元手がないのにギャンブルはいかんぜよ。
思っくそ溜息を吐いてLarkを肩に掛ける。
どうすっかねー。
カートリッジ三発無駄にしたよ。補給手段がないっつーのに。
ユーノに無理いって貰って作ってもらおうかな。
などと考えていると、
「フェイト!」
と、アルフの声が聞こえた。
見れば、彼女の足元には魔法陣が展開している。
あれは――転送?
俺にかまうこともなく、二人は魔法陣ごと姿を消した。
まったく、忙しいねぇ。
「……ん?」
『ご主人様。ジュエルシードの反応です』
そっか、と呟いて、俺はアクセルフィンへと魔力を送り込む。
まあ、今度のは俺が奪うか。
と、意気込んで現場へ急行してみると――
光のドームが広がっていました。
そして虚空へ向け、青白い光柱が打ち上げられる。
あっちゃー、遅かったかー。
っていうか、この戦いって夜の八時頃じゃなかったっけ?
まあ、俺と戦ったり、プラスアルファで遅れたんだろうが……。
レイハさんの修復手伝ってやった方が良いかなー、などと思いつつ接近。
ビルの合間から覗く広場には、小さめのクレーターを挟んで二人の少女が対峙していた。
デバイスが中破しているから封印はできない、か……。
『俺が封印をするから、離れて』
『エスティ?!』
『エスティマくん?!』
『……っ!』
その場の全員に念話を行い、応えは三者三様。
特に最後のは念話だったのかも怪しいが。
Larkの穂先をジュエルシードへ向け、魔力を送り込む。
りん、と涼しげな音と共にミッド式魔法陣が展開し――
「ちょ、フェイト何やってんの?!」
バルディッシュを格納した彼女は、ジュエルシードに向けて走り出した。
その後は原作の通り。
フェイトがバリアジャケット一つでジュエルシードの封印を行い、沈黙。
……呆れた。まー、俺にやらせたらジュエルシードは手に入らないけどさぁ。
アルフに抱き留められるフェイトを横目で眺めつつ、着地。
レイジングハートに目をやってみると、案の定罅だらけになっていた。
関与しなくても半日で直るが、やっぱなんとかしないとねぇ。
なのはの精神衛生上よろしくないし。
などと思っていると、
「……アルフ、離して」
「……フェイト?」
アルフの手を押しのけて、フェイトが俺の方へと近付いてきた。
「……さっきは、ごめんなさい」
そういい、彼女は手を差し出した。
掌に乗っているのはジュエルシード。
俺は視線をフェイトの顔とジュエルシードを二往復ほどさせる。
「いいの?」
「約束だから」
「フェイト、そんなことしなくたって良い! そんなことしたらまた――」
「良いの」
半ば押し付けるように、フェイトはジュエルシードを俺に握らせた。
それで力尽きたのか。彼女は糸が切れたように姿勢を崩し、アルフが抱き留める。
……居心地悪いぜ。
至近距離でガン睨みしてくるアルフさんが怖いです。
「……いや、俺も後味悪いけどさ、こんなの」
「次はアンタの持っているジュエルシード、全部奪い取ってやるからね……!」
言葉に怒りが混じっている割には、今すぐ奪おうとしない。
……主想いの使い魔だよ、本当。
そうして、アルフはフェイトを抱きかかえて飛び去った。
……本当、後味悪い。
俺はカートリッジの空薬莢を排出すると、Larkをコアの状態に戻して、なのはたちの方へと脚を向ける。
ユーノはともかく、なのはは憔悴しきった感じだ。
そりゃー至近距離であんな爆発受ければ当たり前かもしれないが。
「お疲れ様」
「え、エスティマくん、何があったの?! どうしてフェイトちゃんがジュエルシードを渡してくれたの?!」
「賭の勝負をして俺が勝った。けど、彼女はジュエルシードを持ってなかったから後払い、となった。こんなとこ」
「……あう」
頭を抱えるなのは。
「不公平だよー! 私がいくらいってもお話を聞いてくれなかったのに!!」
「いや、なのはさん? いってることが無茶苦茶ですよ?」
頬を膨らます彼女をどう扱って良いのやら。
ユーノの方を見たら、そっぽを向きやがった。
あの野郎。
うぎぎ……。
「そ、それよりレイジングハートは大丈夫?」
「あ……レイジングハート」
今にも崩壊しそうなレイジングハートを、なのははすぐにスタンバイモードへと戻す。
しかし、コア状態でも罅は消えない。
それを両手で握り締め、彼女は顔を俯けた。
「……エスティ」
「分かってる。分かってるよ、ったくもう」
懇願するような、責めるような声を出すなってば。
「なのは、レイジングハートを貸して」
「え?」
「直してあげる。自己修復じゃあ、システム面は直せないだろうしね」
「あ、うん……レイジングハートを、お願いします」
ぺこりと頭をさげられ、請け負う。
今日は徹夜かねー。
などと思って踵を返そうとすると、
「え、エスティマくん!」
「んー?」
「ありがとう!」
まだ直してもいないっていうのに、満面の笑みで礼をいわれた。
……。
徹夜がなんぼのもんじゃーい!
……あ、いや、決してロリコンじゃないっすよ僕。
幼女の笑顔が可愛いのは万国共通っすよ。
「……エスティ」
「な、なんでせう」
若干驚きながら振り向くと、今度はユーノがふくれっ面になっていた。
ユーノはさっき俺が排出した薬莢を持ち上げ、
「またカートリッジ使って! さっきの封印だって君は砲撃が得意じゃないから、更に使うつもりだったでしょ!! ちゃんと休んでるの?!」
「大丈夫だって。昼間はフェレット状態だから全休みたいなもんだし」
「カートリッジに頼りっきりは駄目だって、君もいってただろ?! なのに――」
そっからガミガミとスーパーお説教タイム。
いや、AAAクラス相手で、しかも使い魔のオプションありですよ? 仕方ないじゃない。
などと反論したら、更にヒートアップした。
若干なのはが引いてるぞ。
「だからいっつもいってるじゃないか! 君はどうしてそう向こう見ずなことばっかりするの?!」
「はいすみませんもうしないよう努力します」
「君の場合はその努力が薄いじゃないか!」
「あ、あの、ユーノくん? エスティマくんも反省しているみたいだし、もう良いと思うの」
「……分かった」
あ、この野郎。
まだ言い足りないのか、ユーノは鼻を鳴らしたり。
あーもう、心配性だなコイツ。
っていうかコイツもコイツで結構なワーカーホリックのくせに。人のこといえるのかよぅ。
現場監督していたときだって、やたらと根を詰めていたし。
しかし、今怒られているのは俺なのであった。
膝を抱えて部屋の片隅で震えるぞこの野郎。
……あれ?
なんかなのはさんがこっちを興味深そうに見ているんですけど。
「なんでしょう」
「……ねえ、エスティマくん。カートリッジってなんなのかな?」
現在、昨日と同じ屋上でレイジングハートの修理をしております。
あの後カートリッジシステムに興味津々のなのはをユーノと一緒に宥め賺して誤魔化して、解散した。
いやぁ、変に挑発したら事故が前倒しになりそうじゃないか。
カートリッジシステムは少し先までお預けです。
んで、レイハさんですが。
破壊されたのはほとんどがパーツだけで、コアのシステムは破損していなかった。
後一歩でやばかったけどねー。
運が良かったなぁ、なのはもフェイトも。
ああ、ちなみにディバインバスターの術式をコピーして、がっつりヘコんだ。
馬鹿な魔力値のなのはが撃つんだから、そりゃー燃費が良いわけがありませんよ。
俺の場合カートリッジを三発使わないと、なのはレベルの威力が出せないことに気付いて愕然とした。
魔力の集束がそれほど得意じゃないから、ロスする分の魔力を補填しないとならんのですよ。
おいおい。後のなのはさんは、エクセリオンモードでカートリッジ使ってディバインバスター撃つんだぜ?
いやまぁ、カートリッジなしでも俺だって撃つだけなら出来るけどさぁ。
安西先生……大出力砲撃がしたいです……。
ってあ、そっかー。俺も砲撃用のフルドライブモード作ればいいんだー。
『……ご主人様』
「な、なんでしょう」
『不穏な気配がしました』
「気のせいですよ」
『これ以上の魔改造はしないでくださいね』
「はい」
頭が上がらねぇ。
『……カートリッジシステムだけでも、ご主人様の負担になっているのです』
「……ん。分かってるよ」
それだけ応え、作業に戻る。
ふむ。レイジングハートには基本的な術式しか入ってない、か。
よし。クロスファイアをぶち込んでおこう。なのはだったら十個ぐらい魔力弾を出して、それを順次発射ぐらいは出来るだろうし。
威力が欲しい時には集束して射撃を行えば良いしね。
そんな感じで魔法を入力したりして、空が白み始めた頃になって、ようやく作業が終わった。
あとはレイジングハートが交換したパーツに馴染めば終わりだね。
さて、と。
流石にバリアジャケット姿でいるには怪しい時間。俺は高町家の近くまで着くとフェレットに変身した。
ずっと起きていたユーノにレイジングハートを渡すと、今度は八神家へと脚を向ける。
うおー、フェレットだと全然距離が進まねぇ。
疲れない程度に走り続け、さて帰宅――
と思ったら、だ。
行く手を遮るように二つの人影が現れた。
思わずそれを見上げ――
……あ、あれ?
「話がある。着いてこい」
勇者王ヴォイスの青年に拉致られました。
公園。早朝の散歩を行っている人がちらほらといる場所で、俺は――まあ中身は十中八九猫姉妹のどっちか――青年に連れ出された。
流石に着ている服は管理局の制服ではないし、仮面も着けていない。
しかしそれ故に、露わになっている眼光を直接見てしまい、どうにも居心地が悪くなった。
こちらを値踏みするような、非難するような瞳。
おそらく、イレギュラーな俺のことが心底邪魔なのだろう。
しかし、はて。
俺は何かやっただろうか。
いや、はやてのすぐ近くにいるってだけで計画を狂わせるかもしれないから、予想外の事態を排除すべく動いたのかもしれないけど。
それにしたって遅い。
まさか、ジュエルシードの回収に手を貸してくれるわけがないだろうし。
俺が八神家に居着いてから、それなりに時間が経つのに。
「あなたは、管理局の方ですか?」
「そうだ。君は――」
「申し遅れました。僕はスクライア一族の遺跡発掘・調査隊の護衛を行っている、エスティマ=スクライアと言います。
ロストギアの輸送中に事故が発生し、この世界に散らばってしまったため、今はその回収を行うために滞在しています。
管理局の方と連絡が取れて助かりました。
申し訳ありませんが、ロストギアの捜索に手を貸していただけませんか?」
「……分かった。連絡をしておこう」
「助かりました。では、これで――」
「待て」
なんとか話を切り上げようとしたが、やっぱりそれは無理らしい。
青年――雰囲気が落ち着いているから、アリアの方かな?――は、小さく溜息を吐く。
「君をここへ連れ出したのは、他に理由がある。あの少女――八神はやてのことだ」
だろうなぁ。
「……はやてが、何か?」
すっとぼけつつ、相手の言葉を待つ。
ここで迂闊なことを言ったら、妙なことになりそうだ。
「……あの少女は、ある理由があって時空管理局の下で監視されている。余計な接触は、今後控えてもらいたい」
……ここで食らい付くべきか否か。
いや、食らい付いたらロクなことにならないことは良く分かっているんだが――
「はぁ、なんでまた、そんなことを」
どうにも、ねぇ。
ふと、楽しげに笑うはやての笑顔が脳裏を過ぎった。
自惚れるわけじゃないが、俺がいなくなったら、あの屈託のない笑みが曇るんじゃないだろうか。
……そう、たった一人で、誰かに頼ろうともせず過ごす、前の生活に戻ってしまう。
そんなのは、あまりにも寂しいじゃないか。
「……君には関係のないことだ」
深入りするな、という、分かり易い警告。
確かにそうだ。
夜天の書の騒動は、確かに俺には関係がない。
しかし、だ。
そんな風に割り切れるほど、俺は理不尽に慣れちゃいない。
涙を流さず泣いている子を放っておけるような、出来た人間じゃ、ない。
考えろ。
ずっとはやてと居るというベストが駄目ならば、ベターはなんだ。
ユーノほど巡りの良くない頭をフル回転させ――
「分かりました。すぐに、八神家から出て行きます」
「それで良い」
「……あの」
「なんだ」
「二つ……頼み事を聞いてもらえませんか?」
「何を――」
「その代わり――闇の書のことは、口外しません」
息を呑む気配。
闇の書を知っている、というジョーカーを切り、覚悟を決める。
相手の良心に賭けるしかない綱渡りなんて馬鹿げたことを、俺は始めた。