『ハ、ハーモニクス全て正常値、暴走…な、ないのかしら?』『…マヤ、私に訊かないで』赤木さんはアナウンスを先ほどからしてくれる女性に向けて困った顔をした。『…シ、シンジ君、いける?』葛城さんが、僕に問い掛けてくる。「あ~、イケると思いますよ。なんとなく身体が重い感じしますけど」『エ、エヴァンゲリオン発進準備』葛城さんが僕の返事を聞いてから、号令をかけた。『第一ロックボルト解除』『解除確認、アンビリカルブリッジ移動開始』『第二ロックボルト解除』『第一、第二拘束具除去』『一番から十五番までの安全装置を解除』『内部電源、充電完了』『外部電源接続、異常なし』『了解、エヴァンゲリオン初号機射出口へ』『進路クリア、オールグリーン』『発射準備完了』『…かまいませんね?』『えぇ…、シンジが決めた事ですから』…なんで秋葉さんに訊くんだろう、葛城さんは。『了解、エヴァンゲリオン初号機、発射!』グンッ!急激なGが、僕の身体を押し込む。たった一秒から二秒の間だけど、僕はずっと考えていた。…葛城さん、秋葉さんの下僕決定?Gの負荷から逃れて、僕の目の前には非常識の塊が立っていた。「…まぁ非常識で行ったら、アルクさん達には敵わないんだろうけど」『…シンジ、それを言っちゃダメだ』志貴さんに怒られた。『最終安全装置解除、エヴァンゲリオン初号機リフトオフ!』肩が縛られている感覚が無くなった。とりあえずもう自由に動けるらしい。『シンジ君っ!? 歩く事をかんが…』葛城さんが何か言ってるけど無視。とりあえずあの非常識の後ろに回りこんで、そのまま…。「でぇ~いっ!」後ろからおもいっきり蹴りをお見舞いした。「見たかっ!? 秋葉さん直伝の『お嬢・ヤクザキック!?』」『…シンジ、後でゆっくりとお話をしましょうね』「…ゴ、ゴメンナサイ」元祖の方を怒らせてしまったようだ。蹴り飛ばした非常識は起き上がり、僕に向き直ってから目を光らせる。ゾクッ僕は自分の感覚に従い、身体を横にそらせた。瞬間、光が僕の真横を通り過ぎ、後方で大爆発を起こす。『なっ、あ、アレを避けた…』「…避けちゃマズかったですか? 赤木さん」僕は画面に映る赤木さんをジト目で睨んでみる。そんな事を意に介さず、目の前の非常識はどんどんとビームを打ち込んでくる。「ふっ、こんな飛び道具っ! 琥珀さんの『注射器あたっく☆』の速度に比べたらっ!?」『…シンジさん、後でお話しましょうね~』…また怒らせてしまったらしい。そんな事をしながらも、次から次へと飛んでくるビームを避けていると、非常識は手から光の槍を打ち込んできた。ザッそれもまたもや避ける。「…パイルバンカー?」僕が一人呟いていると、非常識はまたもや連続でパイルバンカーを打ち込んできた。「ふふふっ、こんなものぉ! シエルさんの『ななこちゃん乱れ突き』に比べたらっ!?」『…明日からのお勉強が楽しみですねぇ~、シンジ君』「…知得留先生、ゴメンナサイ」宿題(就寝前のトラップ)はやめてください。とにかく、華麗に敵の攻撃を避けつづけるが、攻撃手段が無い。「あの~、なにか武器って無いんですか?」僕は攻撃を避けつつ、画面の向こうへ訊いてみた。『肩にプログレッシヴ・ナイフが装備してあるわ』「…ナイフかぁ~。まぁ、しょうがないか…」赤木さんの説明に、僕は一人呟きながら非常識から距離を取り、肩に装備してあるというナイフを取り出した。――――ドクン「…………くっ」『…シンジ、スイッチONか?』軽い調子で志貴さんが問い掛けてくる。『別に、いいんじゃないのか?』やはり軽い調子で、志貴さんは僕を促した。僕は静かにナイフを構え、顔を上げる。途端、非常識の身体に、黒いラクガキを見止める。『……蒼い、目?』『嘘…、さっきまで、黒かったはず…』スピーカーから、そんな声が聴こえる。だが、僕は唯、目の前の黒いラクガキを見つめるだけ。「…吾は面影糸を巣と張る蜘蛛。 ようこそ、このすばらしき惨殺空間へ」僕はそう口にして、ニヤリと自分の顔が歪むのが判った。『…………』スピーカーからは、何の声も聴こえない。目の前の非常識は、こちらの気配がわかるのか、動こうとしない。近づく素振りすら、見せなかった。―――――ドクン心臓が、早鐘を打つ。―――――ドクンもう、我慢できない。―――――ドクン「―――さぁ、殺しあおうぜ」僕はそう言うと、非常識の目前に飛び込む。だが、それが赤い壁に阻まれた。『あ…、し、使徒からA・T・フィールドの発生を確認』スピーカーから、そんなアナウンスが聴こえてきた。「…くくくっ、お前、使徒っていうのか。…俺達が普段相手してるのも、『死徒』って言うんだよ。皮肉だなぁ」僕は更に高揚する気分を押えながら、ナイフを逆手に持ち替えた。『あっ!? しょ、初号機からA・T・フィールドの発生を確認! ナイフ周辺に高出力の反応! 強度…、ふ、不明ですっ!?』『…不明って、どういう事!? マヤ! データの計測を続行!』スピーカーからの声に返事もせず、僕は目の前に広がる赤い壁を切りつけた。サッそんな音が聞こえそうなほど、赤い壁は綺麗に切れる。『しょ、初号機、使徒のA・T・フィールドを…、しょ、消滅させましたっ!?』『…消滅って、中和や侵食ではないのっ!?』『いえ…、しょ、消滅です!?』「さて、赤い壁も消えたし、お前は…」僕はポツリ呟くと、一気に非常識の懐にもぐりこむ。「―――極彩と散れ」一言告げ、非常識の身体中に走る『線』に、すれ違いざまナイフを走らせた。……少し経ち、非常識の身体は17個に分断され、地面へと散らばった。「…で、これを吸収、か」僕は崩れた非常識の身体から赤い球をくり貫くと、それを手に持つ。すると、その赤い球は初号機の身体へと入って来た。『…パ、パターン青、消滅…。使徒、殲滅しました…』そんな声だけが、響いてくる。