「……冬月さん、魔術士協会という組織が、世界にはあるんです」「………それが、どうかしたのかね?」僕の唐突な言葉に、冬月さんは少し言い淀んでから返事をした。「そこでは、魔術士と呼ばれる、呪術や神秘、秘宝、奇跡の類に加え、現存する科学力を駆使する、一般的に言えば天才、と呼ばれる人達が日々、自身の命題の為に研究を繰り返しているんだ」「………そんな話、聞いた事が無いぞ」「それはそうでしょう。何千という魔術士は、自身の研究を世界に出す事を嫌う、言わば自己満足の為に自分達協会の人間を互いに隠匿させながら研究しているんです。 そして、その魔術士達の上には、呪術、神秘、奇跡や秘宝、科学力に置いて世間ではオーヴァーテクノロジーと騒がれる技術を平然と使いこなす魔術師たちよりも、更に上のオーヴァーテクノロジーを駆使する人達がいる。 …その人達は、協会では『封印指定の魔法使い』と呼ばれています」「…………それで?」「……僕と志貴さんの師匠は、その『封印指定の魔法使い』の一人、蒼崎青子さん。そして、僕の命を救ってくれたのは、『封印指定の魔法使い』の一人で、蒼崎青子さんの姉の、蒼崎燈子さんと言うんです」「……その、魔法使いとやらが、どうかしたのかね?」「いえ、少し話が逸れました。 …先ほど言った協会に居る魔術士達は、自身の命題、つまり個々の考えるアプローチによって、たった一つの事柄を研究しています」「………それは?」「…………世界の破滅を防ぐ方法、です」僕の一言で、冬月さん、母さんと赤木さんはゴクリと唾を飲む。「…彼らはその研究の為に生涯を捧げる…。 最も、彼らは個々で延命措置をして、もう何百年と生きている人達がゴロゴロしていますが。 …その人達に、貴方達NERV、しいてはSEELEの画策している『人類補完計画』という群体から固体にヒトを纏める、なんていう計画が知れたらどうなるんでしょう?」「……………どう、なるのかね」かすれた声で、冬月さんが問い掛けてきた。僕はその問いかけを聞いて、懐から黒い銃身を取り出す。「これは、ブラック・バレルという、恐らく世の中ではオーヴァーテクノロジーの塊、と呼ばれるシロモノです。 …エヴァンゲリオンが入っているケイジの天井、見ました? あの穴は僕がこの銃で空けたものです」「………本当かね? 赤木君」「えぇ…、その現場は見ましたわ」冬月さんの問いかけに、赤木さんは肯定を示す。そこで、冬月さんの顔色は青くなった。「…ですが、これはレプリカなんですよ」「……レプリカ?」「えぇ、レプリカ、模造品です。 だからこんなものを研究なんてしていない僕が持っているんです。 ……そして、このレプリカは、大量にあります」「………そうか、レプリカ、だしな」「えぇ。そして、レプリカだから…、オリジナルには、到底及ばない」「……………」冬月さんは、僕の言葉の意味を理解したのか、顔が真っ青になっている。「ですが、このブラック・バレルのオリジナルの技術も、『封印指定の魔法使い』の魔法には到底、及びません」「…何が、言いたいんだね」「いえ、別に…。ただ、僕の師匠のお二人は、自意識過剰かもしれませんが、大変僕に対して好意的です。 そして、僕の敵にはもの凄い敵意を持っています。 …例えば、僕を幼い頃捨てた人間、とか、その周辺にいる組織、とか。 この間、来た手紙、アレにはNERVのIDカードが入っていましたね? …運が悪い事に、その手紙は僕より先に師匠達に読まれてしまったんですよ」「……………そ、その師匠達は、一体どうしたのかね?」「いえ、別に心配しなくても大丈夫です。 僕と遠野志貴さんから『今の所』は手を出さないでくれ、とお願いしてありますから。 …最も、『今の所』ですけれどね」「…………要求、は?」「そんな、要求なんてものはありませんよ、『お願い』です。 …一つ、碇ゲンドウに碇ユイ帰還を今のまま知らせない事。 一つ、僕達の行動の邪魔を一切しない事。 一つ、人類補完計画の破棄。 一つ、SEELE、及び碇ゲンドウに僕達の事を知らせない事。 一つ、僕達の意向を、冬月さんの出来る所まででいいですから汲み取る事。 …最後に、『背徳は死也、潔く逝くものはまた速やかに逝く』 ……このお願い、聞いて頂けますか?」「………判った、しかし、何故ユイ君の帰還を碇に知らせてはいかんのだ?」「そうですね…、今の段階で母さんの帰還を知らせると、あの人の事だから 後はどうでもよくなると思うんです。 …母さんの為に、他人を利用する人間ですからね。 それに、母さんの精神衛生上、あの人が側にいると良くありません」「……シンジ、私は、なにかできる事ないの?」ここで、初めて母さんが口を開いた。「う~ん…、母さんにしか出来ない事って一杯あるんだよね。 どこから手をつければ…」僕の言葉を聞いて、母さんは凄く喜んでいた。「…そうだなぁ、まず初めは、おじいちゃんに顔を見せにいってあげてくれないかな? …おじいちゃん、僕と年にニ、三回ぐらいしか会えないんだけどさ、会った時は凄く喜んでくれるんだけど、帰る時、凄く寂しそうなんだ…。 だから、月に一回でもいいから会ってあげて欲しい。 …母さんを碇家から出した事、母さんが居なくなった事、自分のせいだって未だに苦しんでるんだ」「…そう、なの…。 ありがとう、シンジ。教えてくれて」母さんは、僕の言葉に、ポロポロと涙を溢しながらお礼を言った。恐らく、寂しがっているおじいちゃんの事や、自分のした事の影響なんかを考えているんだろう…。「…それからさ、僕の母さんだし、今後は一緒に生活しよう…。 最も、遠野の人たちも一緒に、だけどね」「…………そうね、そうしましょうね、シンジ」