「……レイ、昨日シンジ君から、聞いたわね」「……………は、い」赤木さんの言葉に、綾波はゆっくりと返事をする。…ていうか、とりあえず………。「赤木さん、なんか威圧的っすよ…」「あら…、ごめんなさい。 ………嫌だわ、刷り込みかしら」どっかのゲンドウを思い起こさせるその口調に、僕は思わず待ったをかけてしまった。「あぁ~、とりあえず~。 ……結論から言うと、綾波は、人類補完計画、実行するのかい?」「…………それが私の役目だもの」「それってさ…、誰に言われたの?」「………碇司令よ」「ふぅ~ん…、そ。 …じゃぁ僕は、君を殺すよ」僕はそう言って、万能君をポケットから取り出す。だが、綾波はなんの反応も示さない。「………私には、代わりがいるから」…なんだ、そういう事か。「……残念、そいつぁ無理な相談なんだなぁ~」僕はそう言うと立ち上がり、自分の座っていた椅子を『視る』。ちょっとこめかみが痛むが、それを無視して椅子にある『点』を、万能君で一刺し。トン………椅子は、塵に還った。これには、赤木さんや葛城さんも驚いたようだ。「僕は今、椅子という『存在』を『殺した』。 ………僕のこの力なら、君という『存在』を『殺す』事ができるんだよ」僕は綾波に向き直ると、一歩近づく。「…過去、君と同じように魂を他の身体に転移させて生きながらえる敵と戦った事がある」また一歩、僕は近づく。「……そいつは、どうなったと思う?」一歩近づく。綾波は椅子から立ち上がり、一歩壁際へ後退する。「…………わから、ない」何とか振り絞った声を出した綾波は、ただ、そう言った。「……そいつは、そいつの『存在』と共に、『魂』ごと消滅させられたよ」そう言って、また一歩、近づく。「…………来ないで」拒絶の言葉と共に、目の前に赤い壁が発生した。「…A・T・フィールド」「ふぅん…、あぶそりゅーと・てらー・ふぃーるど。 絶対恐怖場とは良く言ったものだ。 ……………でも、無駄なんだよね」僕はそう言うと、赤い壁を凝視し、『線』を視る。……かなり、頭が痛むけれど、『在る』んだから殺せない事は無い。スッ壁に走る『線』に、刃を走らせ壁を『殺した』。「あ………」「……僕の力は、漠然とした言い方をすれば、『在る』モノは全て『殺せる』んだ。 たとえそれが、霧や、炎、風、幽霊や人の想い、想念などでもね。 ……………僕の力は、世界だって『殺せる』んだ」実際、過去に志貴さんが殺ったけどね、とは言わなかった。綾波の後ろには、壁。僕の目の前には、綾波。「………さぁ、どうする?」手で弄んでいる刃を寝かせ、僕は綾波の目前に晒す。「……………い、や…」「………僕は、少なくとも善人じゃない。 だから…、僕に害を及ぼす存在を、生かしておく事はしない」「………いや…、いや」「…………だから、僕は君を」晒していた刃を逆手に握り、大きく振りかぶる。「――――――殺す」刃が、走る。「……いっ、いやぁぁぁぁぁっ!!」絶叫。ピタッ刃は、彼女の目前で停止した。「………うん、それでいい」僕は万能君三号をポケットに仕舞い、しゃがみこんで頭を抱えている綾波に向かって言い放った。「…………え」無感情な表情の中、大きく動揺を示す目を上げ、綾波は僕を見た。「……綾波の、心。 初めて見せて貰ったよ」僕はそのまま後ろへ振り返り、ドアへと歩いていく。「赤木さん、葛城さん。 ……後、よろしく~」僕はそれだけ言って、執務室の扉を潜る。「……やるだけやって、逃げたって感じがしないでもないわね」「ミサト、彼ってそういう所が多分にあるでしょ?」「……確かにねぇ~」シンジの居ない執務室で、コーヒーを啜る二人。その傍らには、要領を得ない顔をした綾波が座っている。「……レイ、彼はね、貴方の心が見たかったのよ」ミサトの言葉に、綾波は『意味がわからない』と無言で答える。「……貴女、あれだけ大きな声で叫んだ事なんて無かったでしょ? 今まで」「……………はい」リツコの言葉は、綾波にも理解できた。「そういう叫びを、彼は貴女から聞きたかったのよ。 ………まぁ、彼の言葉で言うなら、『魂』の叫びってやつかしら?」「リツコ、座布団あげよっか?」「いらないわよ」ミサトの言葉をばっさり斬り捨てる。「…………魂の、叫び…」「そう、魂の、よ。 …貴女がさっき叫んだのは、彼の行為に対する拒絶。 ………それは、貴女が望んだ事よ」「…………私の、望んだ事…?」「そういう事。だから彼は貴女の望みを叶えた。 …………命令じゃない、貴女の純粋な望みをね」「で~もさっ、さっきのアレは、ちょっち怖かったわよねぇ~」「…確かにね。 人の感情を揺さぶるには、善意よりも悪意のほうが速いのは判るんだけれどね。 ……ちょっとあの時はレイが可哀相だったわ」「……とことん、面倒臭がりなのかしら、彼」「てっとり早く済ませたかっただけじゃないの?」「………それを、面倒臭がりって言うでしょう?」「まぁ、ね。 ………人にフォローを押し付けて帰るなんて、相当の面倒臭がりかもしれないわね」「………厄介な子と知り合っちゃったなぁ、私」「あら、今なら引き返せると思うわよ? 多分彼もそれを受け入れるわ」「じょ~っだん。自分から踏み込んだんだもの、最後まで見届けるわよ」「……まだ知り合って三日足らずでこれじゃぁ、先が心配ね」「ま、ね。でも、その先にある『世界』は非常に魅力的よん」「…ふふっ、世界を変えようとする少年、か。 ………『愚者』になるか、『英雄』になるかはこれからに懸かっている訳ね」「………ねぇ、レイ。 彼は世界を変えようとしてる。 …私と、リツコと、貴女も取り巻く世界をね。 ………貴女はその時、どうするのかしら?」「………貴女の、命令から来るものではない、そう、『魂』から来る望みを聞かせてくれないかしら?」「………………私……私…は………」それは、新しい一歩となり得るのか、未だ『世界』はそれを知らない。