「……随分と、引き締まった身体してるのね」「必要でしたからね。それに、驚いたでしょ?」「えぇ、まぁね。 聞いてはいたけど、痕跡を見せられるとね…」そう言って、二人で煙草を吸う。身体の傷を隠すよう、僕は制服のYシャツを羽織った。「……本当、男の子、とは言えないわね、貴方」「……年齢的には十分子供で通用するはずですけどね」「年だけならね。 ……全く、見た目に騙されるなって言ういい実例よね、貴方達」「…誰と誰を指してるんでしょう?」「貴方と遠野志貴君。 見た目、少し頼りなさそうで呆っとしてる所あるけど、実体はどうだか…」白衣の皺を気にしつつ、赤木さんは話をしていた。そこへ、執務室に取り付けられた来客用の呼び出し音が鳴る。「…ちょっと待っててね。…はい、どなた?」赤木さんは一言二言話すと、受話器を置いてソファーへ戻る。すると、プシューという音と共に、綾波が部屋へ入って来た。「…………なに?」唐突に、主語を欠いたわけわからない言葉を発する。…こういう所は、父さんの教育の所為かと思われるな。「なにって…、なにが?」僕はコーヒーに口をつけながら、綾波に聞く。「………この臭い、なに?」ブフゥー!…思いっきり、噴出してしまった。「に、に、臭い? そ、そんなものしないわよ?レイ」…赤木さん、メチャメチャ動揺してますよ。「赤木博士…、確かに、この部屋には臭いが充満して」「…あぁ~っと、そうそう、今日は夕食早いんだったね。 そういう訳で、赤木さん、また明日っ!」綾波の言葉を遮り、そそくさとソファーを立つと、僕は綾波の肩に手を置く。すると、突然綾波がグイッ、と肩に置いた手を自分の鼻に近づけた。「……ここからも、似た匂いがする。 でも、違う。 …………………これは、なに?」…人の指の臭いを………。「じゃ、じゃあまた明日いらっしゃい、二人とも。 わ、私は仕事があるから、申し訳ないけどこれで」「は、は~い、では失礼しま~す!」「………? …失礼します」そう言って、とにかく、赤木さんの執務室から飛び出した。……知らぬは本人ばかりなり、ってか。「ただいま~」僕はそう言うと、猛スピードでエレベータへ駆け込む。目指すは二階! 浴場へ!ピンッツゥーバタバタバタバタッガチャ「……誰も居ないな」更衣室へ入り、急いで制服を脱ぐ。バサッ脱いだ制服を持って、そのままクリーニング…。ガチャ「!!!!!!」「あら~、シンジさんお帰りなさいませ~」…クリーニングしようとした所、琥珀さんが同じくクリーニングするのであろう洗濯物を持って入って来た。……ちなみに僕、丸裸。「あ、わわわわっ! た、ただいまですっ!」とりあえず、頑張って股間を隠す努力をする。パサッその際、Yシャツを落としてしまった。(…マッ、マズイ!)Yシャツ落す→琥珀さん拾う→臭いをかぐ→ぎゃーす。もしくは、Yシャツ落す→自分で拾う→琥珀さん怪しむ→やっぱり臭いをかぐ→ぎゃーす。という方程式が成立してしまった!ど、どどどど、どうすれぶぁ!「あら、洗濯ですか? 一緒に洗ってしまいましょうね~」琥珀さんはそう言うと、Yシャツを拾った。……1番、ケテーイ。だが、予想に反して…。「それでは、他の洗濯物をそこに置いていってくださいね。 …って言いましても、隠さないとダメですね~」琥珀さんはそう言うと、更衣室脇にある戸棚から一枚のタオルを出すと、僕に手渡す。「はい、それを使って隠しちゃってください」「あ…あ、はい。どうもすいません」「いえいえ~」僕はそう言うと腰にタオルを当て、股間を隠して洗濯物を脇に置いてからそそくさと浴場へ駆け込んだ。「……寿命が、縮んだ」湯船に浸かり、一人ごちる。「…でも、あの勘の良い琥珀さんが、ねぇ」まさか気付かないとは思わなかった。「……いや、もしかしたら」気付いてて、わざと知らない振りをしたのか…。「……傷つけた、かな…」……あからさまに、隠してた事になるもんな。「………最低だ、僕」「傷つきはしませんが、嫉妬しちゃいました」「そっか…、そりゃそうだ…って、琥珀さんっ!?」ザバッ僕は勢い良く立ち上がり、声のした方を見る。「えぇ、琥珀です」さも当然、という風に琥珀さんは僕のすぐ横で湯船に浸かっていた。「………いつの間に」僕は湯船に浸かり直して聞いてみる。「そうですね~、「…でも、あの勘の良い琥珀さんが、ねぇ」あたりからです」ほとんど最初からジャン!「……声ぐらい、かけてくださいよ」「あら、声かけましたよ? はいりますよぉ~って」「………気付かなかった」「そのようですね。 なんだか一生懸命考え事していたようですから…」琥珀さんはそう言うと、ピッタリと肌を僕につけ、鼻先を首筋に当てる。「…ん~、臭い、消えてますね」「……やっぱり、初めから気付いてた?」僕がそう言うと、子悪魔な笑みを浮かべた。「えぇ、初めはわからなかったんですが、部屋にちょっと、シンジさんのとは違う匂いがしましたからね」「はぁ…、そっか。 …隠してごめんなさい」僕はそう言うと、素直に謝った。「いえいえ、もう十分反省の言葉は聞きましたので、万事OKですよ~」「………怒らないんですか?」「はい、別にそれならそれでいいんです。 男の方っていうのは、複数の女性を同時に愛せるようですから」……良い実例がいるもんな、同じ家に。「でも、嫉妬はしちゃうんですよ…? ほんの少しですけど」琥珀さんはそう言うと、ピッタリとムニムニするナニカを僕の腕にくっつける。「……誰か、聞かないんですか?」「いえ、もちろん教えて頂きますよ? でも…」「………でも?」僕は抗いもせず、首に回された腕を受け入れ、僕も同じく背中に手を回す。「……とりあえず、終わってから、です…」…………志貴さんって、いつもこんな感じなのかな…?僕は琥珀さんとバスルームを出て、リビングへと向かう。「はぁ…、赤木さんが、ねぇ…」「……まぁ、そうですね」…なんとなく、シビアな会話をしながら。そんな会話をしつつ、リビングへの扉を開けると同時に、思いっきりでかい声が響いた。「レェェェェェーーーーーーーーーーンッ!!!」キィーン「……ぐぁ、新手の攻撃かっ!?」「………ど、どんな音波兵器を使っているんでしょう」「しっかりしろぉ~!! レン! 大丈夫かぁ~!」…リビングで元気なのは、志貴さんだけっぽい。あながち、耳が良すぎるアルクさんやシエルさんは泡吹いて倒れてるし、秋葉さんや翡翠さんまで、力尽きている。メカ翡翠に至っては、身体のそこかしこから電気が漏れてる。「…ど、どうしたんですか? 志貴さん」琥珀さんが、とりあえず聞いてみた。「こっ、琥珀さんっ! レンがっ! レンがっ!」志貴さんはそう言うと、猛ダッシュで琥珀さんへ近づき、両手に持つ黒っぽい物体を見せる。「…あれ? レンだ」そう、こちらに来る時、遠野の家に置いてきた遠野家お抱えの使い魔、レンだった。志貴さんと契約していて、実は僕とも仮契約なんかを交わしていたレン。遠野の家でさつきさんがお世話していたはずなんだけどな…。「レンがっ! レンが大変なんだよっ!?」志貴さんはそう言うと、ホレホレと言った感じで猫モードなレンを見せつける。それに従いよく見ると、目を瞑って、なんか手足、ていうか身体中ピクピク震えてる感じが…。「あの、あの四季のヴァカがレンをこんな風にぃ~!!」もう涙よ出ろといわんばかりに騒ぎ立て、慌てふためく志貴さん。そのお陰で、こっちは冷静になって見れる。「…それで、一体どのような事でこんな状況に?」琥珀さんがそう言うと、志貴さんは後ろを指差す。「アレッ! アレの所為なんだよっ!」志貴さんが指差す先には、リビングの机の上に『クール宅○便』と書かれたダンボール箱が置いてあった。「…クールはまずいだろ、クールは」僕は一人そう呟き、ダンボールに近づく。ダンボールの上蓋の部分には、『ナマモノ』にチェックがつけられていた。「……ナマモノって…」後ろから覗き込んできた琥珀さんも、冷や汗を垂らす。…ナマモノじゃなくて、イキモノだろう。「――――こ、殺す」後ろでは、暴走臨界点ギリギリの志貴さんが、蒼い瞳をギラギラ光らせ愛刀・七夜を構えていた。「こ、殺すのはマズいですよコロスのはっ!」「うるさい! どうせあいつは首だけでも数秒なら生きていられるんだから、心臓無くたって生きていけるだろっ!」「ムチャクチャな事言ってないで七夜を仕舞ってくださいっ!」「レンちゃんを助けるのが先ですからっ!」「っ!? そ、そうだっ! 琥珀さん、レンを助けてくれっ!?」なんとか我に返った志貴さんは、七夜をギラつかせながら琥珀さんにレンを手渡した。琥珀さんは一瞬悩んだ後、「――とりあえず、えい♪」そんな事言って、リビングに置いてある湯沸し機の蓋を開けて、そのままドボーン。「んなっ、なにやってんですか琥珀さぁ~んっ!?」「ふえ、凍ってるっぽかったので、解凍しようかと…」「…そ、それはある意味合ってるけど、ある意味間違っているのでは…」「ふぇ~、そうですかぁ~?」……なんか、違うキャラになってないか?「と、とりあえずレンは水の中で呼吸できないのでわ」「あっ、そういえばそうですね~。 じゃぁ上からかけたほうが良かったですかねぇ~」……狙ってるのか? わざとなのか? 琥珀さん。ガタガタガタッ僕がそんな事考えてると、机の上にある湯沸し機がガタガタ揺れ、横倒しになった。ガション「……グケッ、ゲッ、ケホッ」……猫モードでも、生命の危機になると人語喋るのか。なんだか咳き込みながら、レンが湯沸し機から這い出てきた。「ほら、やっぱり解凍すれば一発なんですよ」「………そ、そうっすね」なんかもぉ、どぉ~でもいいや。そんな事考えていると、リビングの入り口のドアが開いた。「………お腹空いた」綾波だ。