『…君が、あのロボットのパイロットなのかね』「一応、そういう事になってますけど」『碇、シンジ君。 君はあのロボットで戦う事をNERVから強要されていないかい?』いきなりトンでもない事を…。「初めはそんな感じだったけれど、今は違いますよ」『…どういう事だね』「えぇ…、初めは僕しか適格者が現在は居ないから乗ってくれ、という事でした。 ですがその次からは、自分しか出来ない、自分が出来る事だから自分から乗っているんです」『…怖くないのかね?』「怖いに決まってますよ。 戦うのが怖くない人間なんて、どっか頭がオカしいだけでしょう? 僕はこれでもごく普通の中学生なんですから、怖いものは怖い。 でも、僕には戦う事が出来る、だからエヴァに乗っているんです」『私達の開発したJAがあれば、君があのロボットへ乗る必要は無くなるとは思わないかね?』「思いませんねぇ、申し訳ありませんが。 …JA、でしたっけ。 恐らく敵と戦うには役不足です。 まだ、第三新東京にある兵装ビルのほうが効果的だ」『なっ…、何故、そう思う?』「まず、咄嗟の判断が出来ない。 遠隔操作では操作している人間の危機感がどうしても希薄になってしまう。 自分が安全な所に居ますから、無理もないんですけれど。 ですがパイロットがいらないという所は良心的で好意が持てます。 それと、反応炉ですね。 リアクターを敵が直接攻撃してくる可能性がある。 事実、先日の使徒は敵のエネルギー反応を、自分のセンサー内に敵が入ると感知するタイプでした。 このようなタイプが、今後再び現れるかもしれない。 その時、反応炉を搭載しているコイツでは一瞬で破壊、その後放射能を撒き散らし、さらに被害を甚大にしてしまうでしょう」『………』「それと、A・T・フィールドです。 Absolute Terror Field 、直訳すると絶対恐怖場ですね。 こいつの解明が時間の問題だとは思えません。 解明出来るのであれば、とっくにNERVが解明しているはずです。 だってそうですよね?A・T・フィールドを扱えるエヴァを所有、何年も研究している機関なんですから」『………そ、それはそうだがこれまでの敵生体との戦いでこちらもデータが…』「それだって、何年も研究してきたNERVからすれば、微々たるものでしょう。 …それぐらい、本当は気付いているはずですよね?」『……くっ』「……僕からのお話は以上です、失礼しました」僕はそう言って、マイクを琥珀さんに渡して着席した。「……貴重な本物のパイロットのご意見、参考になりましたでしょうか?」『…………』……ちょぉ~っと、やりすぎたかもしんない。『只今よりJAの起動テストを始めます』『なんら危険は伴いません。そちらの窓から安心してご覧下さい』「さて、そろそろね…、シンジ君、先日の言葉、覚えてる?」今度はカニを食べていたリツコさんが、その手を止めて僕に聞いてきた。「…えぇ、奇跡が起きる、でしたっけ?」「そう…、起こるわよ、この場でね。 詳細は知らないけれど、私の組んだプログラムの対象はJAよ」そう言って、リツコさんは大きなお皿に残っている料理を集め始めた。「……あの~、なにしてるんですか?」「勿体無いじゃない、避難して、食べるのよ」………なるほど、そっか~。『テスト開始』『全動力開放』『圧力正常』『冷却器の循環、異常なし』着々と準備が進む。…いや、JAもそうなんだけど、僕達の避難する準備がね。『歩行開始』「歩行、前進微速。 右脚、前へ」「了解。 歩行、前進微速。 右脚、前へ」「…あんな確認作業いちいちやってたら、使徒倒す前に年が明けそうですねぇ~」どこからか取り出したタッパーに琥珀さんがエビのムニエルを詰める。「使徒と戦う時は、もう少し簡易化するのではないでしょうか」同じく、翡翠さんがサーモンのカルパッチョを詰める。「確かに、歩いてはいるけれどねぇ」葛城さんが、スモークチキンを詰める、詰める、詰める。その時、ピーピーと向こうにあるJAの計器が音を立てる。「どうした?」「変です。リアクターの内圧が上昇していきます」『冷却水の温度も上昇中』『バルブ開放。減速剤を注入』「駄目です、ポンプの出力が上がりません」「さて、そろそろね…」一通り詰め終え、残りはアルコール類だけになった。…いや、JAの暴走もそろそろなんだけどね。「いかん、動力閉鎖。 緊急停止」さっきのおじさんが指示を出す。『緊急停止信号、発進を確認』『受信されず』『無線回路が不通です』『制御不能!!』「そんな…、馬鹿な…」作業員が逃げる中、おじさん、呆然。すると、JAの足が屋根を踏み潰し、思いっきり床を凹ませて前進していく。「…ここを踏むとは、予想外ね」リツコさんがブランデーの瓶を二本持ちながら一人ごちた。ビービーと一際デカイ音が鳴る。「制御棒作動しません!」「このままでは、炉心融解の危険もあります」「信じられん。 JAはあらゆるミスを想定し、全てに対処すべく、プログラムは組まれているのに…、こんな事態はありえないはずだ」「だけど今、現に炉心融解の危機が迫っているわ」「こうなっては、自然に停止するのを待つしか方法は…」「自動停止の確立は?」「0.0002%、まさに奇跡です」「…奇跡、ね。 作為的なものは奇跡とは呼ばないんですよねぇ」逃げていないおじさんに付き合って、僕達は話をする。「…碇シンジ君、一体何が言いたいのかね?」「この騒ぎは、作為的なものだという事です」「………どういう事だね?」「貴方達の開発したJAを、快く思わない人間が上に居るのよ」赤木さんはそう言って、アイスコーヒーの入ったコップに口をつける。「……そこまでやるのか、NERVは」「これは、NERVの仕業ですが、もっと個人的な思惑が働いているんですよ」「…どういう事だね?」「……司令には表向き絶対服従でないと、NERVには居られないという事です」「哀しい事に、それがNERVの現実よ」「……碇ゲンドウ、か。 確か君の父親だったね」「えぇ、恥ずかしながら…」「…奇跡は起きるそうだな、では、それを見ていこう」おじさんはそう言うと、パーティー会場の、動くJAが良く見える場所にどっかりと腰を降ろした。「いいんですか? 信用出来ないNERVの仕業ですよ? もしかしたら奇跡は起きないかも」「なに…、NERVの技術力は悔しいが本物だ、プログラムを簡単に改竄できるほどにな。 私はNERVは信用しないが、その技術は信用しよう」おじさんの言葉に、僕達はその机の周辺に椅子を持ち寄り、腰掛けた。「それじゃぁ、ゆっくりと見物させて頂きましょう」そう言って、みんなで掻き集めたタッパーやら大皿を机に広げ、再びパーティーを開始する。「時田博士」「…なんだね? シンジ君」「プログラム消去のパスワード、希望ですか…」「あぁ…、私の想い、JAに託したつもりだったんだがな…」「…その想いは、まだこれから必要です、僕達には。 その時…、NERVではなく、僕達に力を貸してくれませんか?」「…私のほうが、力を貸して欲しいんだがな」「…ギヴ・アンド・テイク、でいかがでしょう?」「………希望、か。 どうやら私にとっての希望、JAはきっかけに過ぎなかったようだな…」夕暮れに、停止して佇むJAを見つめながら、僕達は言葉を交わした。「本日の事、すべてシナリオ通りです」「ご苦労」「それでは、失礼させて頂きます」「…ご苦労だったな、赤木博士」「…いえ」(シナリオ、ね…。真実は、そう思い通りに進まないものよ…)