「そうだ、その問題はすでに委員会に話をつけてある。 荷物は昨日佐世保を出航し、今は太平洋上だ」言い終わると、ゲンドウは手に持っていた受話器を置いた。「いよいよか…」「ああ…」「よかったのか?使徒が現れるかもしれんのに、私も同行して…」「その為のシンジですよ」「ふむ…、ま、それでいいのなら何も言わんよ」…なんていうか、また空だよ。何とかと煙は高い所は好きだと言うけど、僕はどっちでもいい感じだな。「MiL-55D輸送ヘリ、こんなものでどこへ行くんですか?」琥珀さんが、葛城さんに訊いてみる。「毎日同じ山の中じゃ息苦しいと思ってね。 たまの日曜だからデートに誘ったんじゃないのよ」「嘘ですね」「嘘臭いですよね~」「あぁ、嘘だよ」……そこで肯定しちゃいますか、冬月さん。しかも、栗羊羹食べながらですか。「今回来て貰ったのは、今度新しくNERVに配属となったエヴァンゲリオン二号機と、そのパイロットの引渡し、と同時に非常用電源ソケットの輸送、考えられる使徒侵攻の為のシンジ君、という訳だ」「…使徒が来るんですか?」「あぁ、間違いなく来るだろう、アレには使徒の目的が運ばれているからな」冬月さんはそう言うと、お茶をずずずっ、と啜った。葛城さんは、明かされる事実に目を見開いて驚いていた。「アレ、とはなんでしょうか?」「船だよ、国連軍の正規空母、オーバー・ザ・レインボウを中心とする大艦隊だ」「…船で運ぶという意味は?」「恐らく、死海文書の記述通りに事を運ぶ為だろう。 次の使徒は水中から襲って来て貰わなければ記述通りにならんからな」「…水中戦ですか、エヴァで水中戦なんて、厳しいですね」「そして、その使徒が目指すもの、それを受け取るほうが重要だ」「…使徒が目指すもの、ですか。 ……今までの使徒は全て第三新東京市の地下に居る第二使徒リリスをアダムと勘違いして目指して来た。 そして、次の使徒はそのリリスと同等、或いはそれ以上に使徒にとっては重要なもの…。 使徒はアダムと一つになろうとする為、襲ってくる。 …という事は、NERVにリリスがある以上、今運んでいる船には」「その通り、卵に還元された第一使徒アダムだよ」「なっ、なんですってぇ!?」僕と冬月さんの掛け合いに、葛城さんが大きな声で割って入って来た。「…葛城君、その直情的な性格、どうにかならんかね?」「…はっ、も、申し訳ありません」「それで、冬月さん…、今回アダムをNERV本部に輸送する目的は?」「老人達の計画の為の餌、そして使徒を第三新東京市へおびき寄せる為の餌、という訳だ」「…それが、碇ゲンドウの目的ですか」「そういう事だ、判って貰えたかな? 葛城君」「…は、はぁ、了解しました」……本当に、判ってるんかね?「国連軍が誇る正規空母。 オーバーザレインボウ、その大艦隊、か」「空母が5つ、戦艦が4つらしい。 これだけあっても、使徒相手には持つまいな」「でっかいですねぇ~」「あんな老朽艦、よく浮いていられるわよね」「セカンド・インパクト前から存在する船だからな、古くても仕方がないだろう」「さて、それではご挨拶といきますかねぇ~」葛城さんがそう言うと、ヘリは空母の一つへ向けて降下を始めた。「はっ、いい気なもんだ。 玩具のソケットを運んできよったぞ。 ガキの使いが!」オーバー・ザ・レインボウのブリッジで、ヘリを見ながら艦長が荒い言葉を吐く。甲板の上では、少女が降りてくるヘリを眺めていた。「はぁ~、すごいですねぇ~」琥珀さんがヘリから降り、辺りを埋め尽くす戦闘機を見て驚く。周りの軍人さん達は、その様子をなんだかアレな目で見ていた。……思わず睨んでしまったり。「っ、たたた、シ、シンジ君、申し訳無いが肩を貸してくれんか?」「あっ、はい。 …大丈夫ですか? 冬月さん」「何、ちょっと椅子が硬くてな、腰に負担がかかってしまっただけだよ」僕は冬月さんに肩を貸しながら立ち上がり、ヘリを降りた。「Hellow!ミサト、元気してた?」ヘリから降りると、唐突に女の子のでかい声が聴こえてきた。……その女の子は、髪は茶髪っぽい。顔立ちは日本人の血が多分に混ざっているのであろう、美少女だ。……でも、目が青い。遺伝子の神秘ってやつかねぇ~。「まぁね、あなたも背伸びたんじゃない?」「そっ、他の所もちゃんと女らしくなってるわよ」葛城あsんが返すと、彼女は胸を大きく逸らせる。………秋葉さんよりゃ、でかいかもしれん、な。「紹介するわ、エヴァンゲリオン弐号機の専属パイロット、セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーよ」惣流さん、アスカさん、ラングレーさん?なんて呼べば簡単かな。とりあえず、フルネームは却下。長いし。と、そんな事考えてると、ビューと強い風が吹く。惣流さんのスカートが…、「きゃぁっ!」イカンッ!今日は琥珀さんも淡いブルーのワンピースだった!クルッと振り返り、すかさず琥珀さんの巻き上がりそうなスカートを手で押さえる。琥珀さんは後ろを自分の両手で押さえていた。「うぅ…、危なかったです」「まぁ、見えなくて良かった良かった」風が吹き止み、琥珀さんのスカートから手を離す。すると、後ろから何かが飛んでくる気配が。ザッヒュン飛んできた何かを身を捩り避けた。「ちょっと! あんた何避けてるのよっ!」「…いや、危ないから」目の前に立つ惣流さんに、至極当然の答えを返す。「あんたもあんたよっ! あに大人しく足触らせてるわけぇ!」…今度は琥珀さんに噛み付いた。「あら、いけませんでしたか?」「と、当然じゃない! そんな男、とっちめてやればいいのよっ!」「そうなんですかぁ~、…でわでわシンジさん、今夜ゆぅ~っくりと、御仕置きさせて頂きますねぇ~♪」「…こ、今夜って、今朝したばっかり……」「あら~、そちらがお望みでしたら、そちらでも結構ですよぉ~♪」「…ア、ア、あんた達、そ、そういう関係なわけぇ~!?」僕達の掛け合いを聞いて、惣流さんが思いっきり驚く。「ふむ…、さすがに若いな、シンジ君」「……変な所で感心しないでください」「はははっ、いやぁスマンな」後ろから声をかけてきた冬月さんに、少しげんなりした声で返した。「…紹介するわ、アスカ。 サード・チルドレンの碇シンジ君と、NERV副指令、冬月コウゾウ氏よ」僕達の紹介に、今度は目を丸くする。「うそっ! コイツがサードなのっ!?」「…冬月さん、どう思います?」「ふむ…、惣流・アスカ・ラングレー君」「…っ! はっ! なんでありましょうか!?」…いきなり軍人みたいな敬礼をする惣流さん。裏表、激しいタイプだな、こりゃ。「…君は少し、礼儀というものに欠けているようだな。 初対面で彼をコイツ呼ばわりなど、失礼だとは思わないかね?」「…で、ですがっ!」「何だね…? 言ってみたまえ」「…いえ、何でもないです」「そうか…、ふむ、君には少し礼儀を勉強して貰ったほうがいいかもしれんな。 シンジ君、君達の住む家、まだ部屋は開いているかね?」「………マジですか? 冬月さん」「あぁ、君達の家ほど、礼に厳しい家は知らんからな。 それに、あの遠野グループの住む家だ、文句はないだろう」「ふっ、副指令! 失礼ですがご質問がっ!」「ん? どうかしたかね?」「はっ! 遠野グループとは、『あの』遠野グループの事で?」「あぁ、そうだが? 何か問題あるかね?」「いえ、ですが、NERV関係に遠野グループは無かったと思いますが…」「あぁ、それは、彼、シンジ君が個人的な付き合いなのだよ。 最も、家族、と言ったほうがいいのだろうかな?」「か、家族、ですか…」「そしてこちらの彼女、琥珀さんは、遠野グループ総帥の秘書でもあるからな」「ひっ、秘書、ですか」「そういう事で、日本に来た際の住居は、彼ら遠野家と一緒に住み、礼節をキチンと勉強して貰おう、いいかな? シンジ君」「……どうでしょう、琥珀さん、どうですか?」「そうですね、大丈夫じゃないでしょうか? 流石に、普通の人を怒りに任せて殺したりはしないでしょうし、みなさん」「…こ、殺すって、あんた」「ま、そういう事らしいので、OKみたいですよ、冬月さん」「では、そういう事だ、頑張ってくれたまえ、惣流君」「…は、はっ! 了解しましたっ!」……冬月さん、結構強引な人なんだね。「おやおや、ボーイスカウト引率のお姉さんかと思っていたが、どうやらこちらの勘違いだったようだな」案内されたブリッジで、いきなり痛烈な批判を浴びせられる。「ご理解頂けて幸いですわ、艦長」葛城さん、めげないねぇ~。「いやいや、私のほうも久振りに子供達のお守りができて幸せだよ」またまた、皮肉たっぷりに艦長が返す。冬月さんは一足先に食堂へ行ってるそうだ。どうやら少し腰の調子が悪いらしい。「この度はエヴァ弐号機の輸送援助ありがとうございます。 こちらが非常用電源ソケットの仕様書です」「ふん、だいたいこの海の上であの人形を動かす要請なんぞ聞いちゃおらん」「万一の事態に対する備えと理解して頂けますか?」「その万一に備えて、我々太平洋艦隊が護衛しておる。 いつから国連軍は宅配屋に転職したのかな?」「某組織が結成された後だと記憶しておりますが」「玩具一つ運ぶのにたいそうな護衛だよ。 太平洋艦隊勢揃いだからな」「エヴァの重要度を考えると足りない位ですが。 では、この書類にサインを」「まだだ、エヴァ弐号機及び同操縦者はドイツの第三支部より本艦隊が預っている。 君らの勝手は許さん!」「では、いつ引渡しを?」「新横須賀に陸揚げしてからになります」「海の上は我々の管轄だ。 黙って従ってもらおう」「解りました。 但し、有事の際は我々NERVの指揮権が最優先である事をお忘れなく」売り言葉に買い言葉だねぇ。まぁ、あぁいう軍人一色な艦長じゃしょうがないかもな。「相変わらず、凛々しいねぇ~」険悪な雰囲気の中、軽い口調で男が一人入って来た。「加持先ぱ~い!」…急に猫なで声を出す、惣流さん。「どうも~」男は軽く手を挙げると、葛城さんを見る。「げぇっ! かぁじぃ~?」どうやら葛城さんは、加持と呼ばれた男を知っているようだな。「加持君、君をブリッジに招待した覚えはないぞ!」「それは失礼」艦長の言葉を受け、加持は肩を竦めた。僕達は食堂へ向かうべく、エレベータに乗り込む。冬月さんが居なくても、この狭いエレベータじゃ密着してしまう。「なんであんたがここにいるのよ!」「彼女の随伴でね。ドイツから出張さ」「迂闊だったわ、十分考えられる事態だったのに」「「ちょっと触らないでよ!!」」「仕方ないだろ~」「…少なくとも僕は触れる場所には居ないよ、惣流さん」「…じゃ、じゃぁ誰が触ったって言うのよっ!」「……加持さんじゃないの?」「…位置的に、そうだな」と、無事に食堂に到着。待っていた冬月さんを交え、お茶会っぽくなった。「今、付き合ってる奴いるの?」「それがあなたに関係あるわけ?」「あれ、つれないなぁ」加持はそう言うと視線を僕に移す。なにか探るような、職業独特の視線で僕を見る。「君は葛城の部屋の隣に住んでるんだって?」「…ええ」「…彼女の寝相、治ってるかい?」「えぇぇ~!」…惣流さん、騒ぎすぎ。「なっ、何言ってるのよ!!」葛城さんは、そう叫んでバンッ、とテーブルを叩く。「…葛城君、君は本当にその直情的な性格をどうにかできんかね?」机を揺らされ、冬月さんが少し不機嫌になった。「…も、申し訳ございません」「まぁ、とりあえず僕は葛城さんとはそういう関係ではないので、寝相とかは知りませんよ」僕は紅茶を一口飲んで、そう答えた。「それはそうだな、碇シンジ君」…とりあえずは、僕の事を調べたのかな?「ええ、でもどうして僕の名前を?」「そりゃ知ってるさ、この世界じゃ君は有名だからね。 何の訓練も無しにエヴァを実戦で動かしたサードチルドレン」「そんな世界で有名になったって、嬉しくも何ともないですね」「だが、君は使徒を三回も倒している」「偶然ですよ、そんなの」「偶然も才能の一つさ」「そんな才能いりませんよ、よかったら差し上げますけど?」「はははっ、だが、事実は事実さ」「…事実と真実は違いますよ。 その言葉の間には、深い溝が広がっています」僕の言葉に、加持は一瞬目を鋭くさせる。「…ふむ、なるほどな。 おっと、時間だ。 それじゃまた後でな、シンジ君」そう言って、加持は食堂を出て行った。「ふむ、では私も行こうかな」「えぇ、頑張ってください」僕は出て行く冬月さんにそう言ってから、紅茶を一口飲んだ。「どうだ、碇シンジ君は?」「最低ぇ~、あんなのが選ばれたサードチルドレンだなんて幻滅」「しかし、いきなりの実戦で彼のシンクロ率は0~99.89%までをマークしたぞ?」「うそっ!」「まっ、それが真実かどうかは、判らないけれど、な」「サードチルドレン!」長い長いエスカレーターを昇っていると、上から声をかけられた。「…惣流さん、パンツ見えるよ?」「きゃぁっ! な、何見てるのよっ!」「…見える前に忠告してあげたんじゃないか」「くっ! …とにかく! ちょっと付き合ってもらうわよっ!」「はぁ…、やっぱり君には、礼儀の勉強が必要のようだね」「まぁ、一度秋葉さまとお話させれば判ると思いますよ」「何ごちゃごちゃ言ってるのよっ! 早く来なさいっ!」「………とりあえず、行ってきます」「はい、お早いお帰りを」「赤いんだ、弐号機って」「違うのはカラーリングだけじゃないわ、所詮零号機と初号機は開発過程のプロトタイプとテストタイプ。 訓練無しのあなたなんかにいきなりシンクロするのがそのいい証拠よ」…この場でエヴァのなんたるかについてレクチャーしてやろうか。「けど、この弐号機は違うわ。 これこそ実戦用に造られた世界初の本物のエヴァンゲリオンなのよ。 制式タイプのね」…そんな事、どうでもいいんだけどな。「とりあえず、パンツ見えてるよ」白いのがチラチラとね。「なっ! は、早く言いなさいよこのヘンタイっ!」「君が長々と喋ってるからだろ」そんな事していると、ドォーン、と船が揺れた。「きゃぁぁ!」二号機の上に乗っていた惣流さんが落ちる。「はぁ…」僕はとりあえず落下中の惣流さんを受け止め、下に降りた。お姫様だっこって感じだな、本当に。「全く、あんな所に乗ってるから落ちるんだよ」「…あ、なによっ! あんた何してる」「とりあえず黙って、今の衝撃波の正体を確める」…微かに遠くに、アイツラを感じる。僕はそのまま甲板に出て、遠くの艦隊を見る。その時、遠くの艦隊の一隻が爆発。「…チッ、使徒だ」「あれが、本物の?」「あぁ…、そうだ」「…チャ~ンス」……何がチャンスなんだか。『各艦、艦隊距離に注意しつつ回避運動』「状況報告はどうした!」『戦艦沈黙、目標確認できません!』「くっそぉ! 何が起こってるんだ!」艦長が、双眼鏡で爆発を起こす船を見ながら一人ぼやく。「ちわ~、ネルフですけど、見えない敵の情報と的確な対処はいかがっすか~?」「戦闘中だ、見学者の立ち入りは許可できない!」「これは私見ですがどう見ても使徒の攻撃ですねぇ」「全艦、任意に追撃!」「…頭が固すぎるわね、どうしたらいいかしら?」「この場合、シンジさんに期待するしかないでしょうねぇ~」艦隊から次々に魚雷が発射される。魚雷は命中はするが、使徒の勢いを弱めるには至らない。使徒は前方にあった戦艦一隻を貫いた。「この程度じゃATフィールドは破れないか…」加持は戦艦が爆発するのを見ながらぼやく。「当然だ、アレを破れるのは現状ではEVAだけだからな」「何処行くのさ?」「ちょっとここで待ってなさいよ」そう言って、惣流さんは階段を降りていく。どうやらあの様子だと、出撃準備かな。「アスカ、いくわよ」聴こえてきた呟きには、決意が滲み出ていた。僕の方に女性物のプラグスーツが投げられる。「さぁ、行くわよ」「…はっ?」「あんたも来るのよ?」…まいったな、どうするかな。「いや、ちょっと待って」「早くしなさいよ!」「乗るのはいいとしても、これは僕には着れないだろ」「大丈夫でしょ、サイズは自動調節なんだから」「とにかく、僕はこれを着ないで乗る。 別に問題は無いだろ? メインでシンクロするのは君なんだから」その時、ドォーンと衝撃が来る。「ちっ、しょうがないわね、出るわよ!」「はいはい、わかってるよ」「さぁ、あたしの見事な操縦、目の前で見せてあげるわ」…別にそんな必要ないだろ。「ただし、邪魔はしないでね」「…君、よく我が儘だって言われないか?」……沈黙は肯定とみなします。