加持は自室で、ゲンドウと電話をしていた。「こんな所で使徒襲来とはちょっと話が違いませんか?」『その為の弐号機だ、予備のパイロットも追加している。 最悪の場合、君と冬月だけでも脱出したまえ』「解ってます」「L.C.L Fullung. Anfang der Bewegung. Anfang des…」「はい、ストーップ」ドイツ語で起動させようとする惣流さんの呟きに、僕が待ったをかける。「なっ、なによっ! 邪魔しないでって」「別にドイツ語でもいいんだけどさ、葛城さんから多分通信が入ると思うんだ。 その時日本語で返事するでしょ? その時ドイツ語ベーシックだと思考ノイズになっちゃうよ?」「…ちっ、思考言語切り替え。 日本語をベーシックに…エヴァンゲリオン弐号機起動!」…さぁ、上手くいってくれよ、弐号機。『オセローより入電。エヴァ弐号機起動』「なんだと!」「ナイスッ!アスカ!」「しかし、本気ですか? 弐号機はB装備のままです」「…えっ?」「…惣流さん、海に落ちたらかなりマズイ。 それと、時間がかかって戦艦を全て沈められてもダメだ。 そうなった場合、僕達は死ぬだけだからね」「…わ、判ってるわよっ!」…本当に判ってるんだろうな。『アスカッ! 大丈夫っ!』「当然よっ! 今からそっちに行くわっ!」『えっ、シンジ君っ!』「えぇ、ムリヤリ乗せられました」『…シンクロできる?』「まぁ、やってみますよ」『判ったわ』『起動を中止しろっ!』「起動を中止したら沈められるだけです。 僕は少なくともまだ死にたくはないので」『…くっ、仕方ない、許可する!』『アスカ、出して!』使徒のものであろう、巨大な水しぶきがこちらへ向かって来る。「来たぞ」「いきますっ!」弐号機は飛び上がり、使徒の突撃を避ける。そのまま使徒は、弐号機の乗っていた戦艦に激突、真っ二つにする。「戦艦の乗員はっ!」『そこらへんの船の乗員は全て引き上げさせた!』「感謝する、艦長!」近くにあった戦艦に、弐号機が着陸する。「何処に行けばいいのっ!」「あの船だっ! 残り58秒!」「ミサト!非常用の外部電源はっ!」『用意してあるわっ!』「了解! いくわよっ!」弐号機は、沈んでいく戦艦を飛び移り、オーバー・ザーレインボウを目指す。「エヴァ弐号機、着艦しま~す!」ズドーン、とエヴァが音を立て、オーバー・ザ・レインボウに着艦する。その衝撃で、滑走路に出ていた戦闘機が次々と沈んでいった。『目標、本艦に急速接近中!!』「来るぞ!」「外部電源に切り替え!」非常用のソケットを差し込み、エヴァの電源が確保された。「武装はあるのか」「プログナイフで十分よっ!」弐号機は肩からナイフを抜き、構える。水しぶきの中、使徒が半身を表した。「…チッ、でかいな」「思った通りよ」使徒は目前で加速、弐号機目掛けて飛び掛ってきた。「でぇぇぇいっ!」飛び掛ってきた使徒の腹をナイフで裂く。使徒は体液をばらまいて海に落ちた。「どんなもんよ!」「隙を見せるな! 死にたいのかっ!」「ちょっと、あんた…」「チッ! 構えろバカ!」「えっ…、きゃぁぁ!!」弐号機は飛んできた使徒に巻き込まれ、海に落下した。『アスカ!B型装備じゃ水中戦闘は無理よ!』「そんなのやってみなくちゃ判んないでしょ!」「…クソッ、本気でヤバイな」とりあえず、現状をどうにかしないとな。「ケーブルの長さは?」「残り1200」「どうするんだね!」「なんとかなります」『ケーブルが無くなるわ!衝撃に備えて!』はぁっ? マジでか?ガクンッ衝撃と共に、エヴァが使徒から離れる。『エヴァ、目標を喪失!』「…当然だろうが」『おーい、葛城~』甲板から戦闘機が一機上がってくる。「加持~!」『届け物があるんで、俺先に行くわ』「はぁ?」そう言うと、戦闘機が上空へ浮かび上がる。『葛城一尉、後は頼んだぞ』冬月の声と共に、戦闘機は飛び立っていった。「まぁま、冬月さんのご用事も大切ですから」『目標、再びエヴァに接近中!』琥珀の言葉を遮るように、通信が入る。「来たぞっ!」「今度こそ仕留めてやる! …何よ! 動かないじゃない!」「チッ、B型装備だと動かないのか」「どうすんのよ!」「うるさい、今考えてる」使徒の外側にコアは見当たらなかった。という事は、中か?僕が動かすわけにもいかないし、困ったな。「…とりあえず、それしかないか」「ちょっと、何なのよ!」「来たぞっ! 意識を向けろ!」使徒は水中を猛スピードでこちらへ向かってくる。ヤツは、目の前で大きく口を開けた。「くちぃ~!」「今だっ! 飛び込むぞっ!」使徒が口を開いた途端、僕は惣流さんの手の上からレバーを握り、来る衝撃に構える。口の中を見ると、やはりコアは中にあった。「きゃああ!」「……グッ」『エヴァ弐号機目標体内に侵入!』腹部を襲う激痛を耐えながら、目の前を見る。「あ、あんたなにしてんのよっ! ちょっと! 離れなさいよっ!」「…うるさい、死にたくなければ黙っててくれ」「な、なによあん…」「惣流さん…、目の前、見えるだろ?」「はっ? あの赤い球がどうしたってのよ」「あれが使徒の弱点だ…、エヴァの腕、届くか?」「なっ…、ちょ、ちょっと待ちなさい!」弐号機は持っていたナイフをコアに伸ばす。だが、ナイフは僅かに先端が刺さるだけだった。「ちっ! 刺せないじゃない!」「ぎゃあぎゃあ騒ぐな…、くそっ、初めからこうすりゃ良かったかもな」僕はそう言うと、魔眼で使徒の内部を見る。こめかみの僅かな痛みに耐えながら、口の中の『線』と『点』を視た。…コアの中心に点、そこから伸びるように線が口の中を走っている。「…あ、あんた目が…」「…惣流さん」僕は惣流さんの言葉を遮り、声をかける。「な、なによ…」「とりあえず、ナイフで口の中を切りつけてくれ」「…わ、わかったわよっ!」弐号機は片手でナイフを逆手に持ち替え、口の中へそのまま突き刺す。ドスッ途端、そこから体液が大量に出ると共に、身体を締め付けていた使徒の口が緩む。「…グゥ! コアを刺すぞっ!」「いっけぇぇぇ!!」口が緩んだ瞬間を利用して、胴に刺さる使徒の歯を気にせず口の中を手で前進、刺さっているナイフを抜いて、コアの中心を刺した。バチバチバチバチッ水の中で火花が発生するが、それも数秒で消えた。それを確認すると、使徒の口の力が緩んでいるのを確認してから口の中から弐号機が抜け出した。「…ふぅ、疲れた………」身体に走る蚯蚓腫れをさすりながら、シャワーの中で一人ごちた。「……あれは、惣流さんの母親の魂、か」プラグの中で感じた魂は、やはり二つ。一つは弐号機、もうひとつは、僕と同じなんだろう…。「…全てが終わる頃、出せればいいんだけどな」まだ痛む身体を動かしながら、シャワー室を出た。シャワー室から出た僕は、まだ少し血の臭いのする服を着てオーバー・ザ・レインボウを降りる。「ねぇ、加持さんは?」「先にとんずら、もう本部に着いてるわよ!あのぶぁか!」…て事は、冬月さんも一緒だな。「シンジ君、どうだった?」オーバー・ザ・レインボウから降りると、待機していたであろうリツコさん達がいた。「えぇ…、大変でしたよ」「そう…、身体のほうは? アスカの話だと噛み付かれたのに痛みを感じなかったって言ってたから」「…まぁ、蚯蚓腫れになってます。 すぐに治るとは思いますけれどね」「そう…、貴方が大丈夫って言うなら大丈夫なんだろうけれど。 もう少し、自分の身体を労わってあげないとダメよ?」「自分ではそうしているつもりなんですけどねぇ」僕が赤木さんと話をしていると、志貴さん達がこちらへ向かって歩いてきた。「…シンジ、えらい疲れてるな」志貴さんが肩を叩いて僕に言う。「えぇ…、水中で、初めての戦闘ですからね」「シンジ」志貴さんに答えていると、秋葉さんに声をかけられた。「なんですか? 秋葉さん」「えぇ、冬月さまから連絡を頂いたの。 今日から一人、同居する娘が増えると言われてね」「あぁ…、彼女ですよ」僕はそう言って、後方を見やる。そこには、葛城さんと話をしている惣流さんと琥珀さんがいた。「そう、では挨拶へ行きましょうか」「かしこまりました、秋葉さま」「やれやれ、行くか、シンジ」「……なんか、大変な事にならなきゃいいけど」「葛城さん、少しよろしいですか?」「あっ、秋葉さん…、はい、なんでしょうか?」…やっぱり敬語だな、葛城さん。「そちらの方、本日から我が家で暮らすと冬月さまから伺っていますが」「あ、はい。そうです、この子が惣流・アスカ・ラングレーです」葛城さんはそう言うと、未だ戸惑っている惣流さんをずずずいっ、と秋葉さんの前に差し出す。「そう、私は、遠野家当主、遠野秋葉です。 こちらは使用人の翡翠と、私の義兄、遠野志貴です」「…翡翠と申します、以後、お見知り置きを」「ぁ~、遠野志貴です。まぁ、よろしく」「えっ…、あ、そ、惣流・アスカ・ラングレーです、よ、よろしく…」「秋葉さま、アルクェイド様とシエル様はいかがなされたんですか?」「あら、琥珀。 あの二人は自宅で今頃ゲームでもやっているんでしょう? 気が向いたらすぐに来るわよ」…確かに、気が向かないと絶対来ないんだろうな、あの二人。「そうですか~、あ、こちら、冬月さまから本日頂いた和菓子です」琥珀さんはそう言って、『銘菓 芋羊羹』と書かれた細長い箱を差し出す。「あら、そう。 今度こちらからお返しをしなくてはね。 琥珀、第三周辺にある和菓子屋を選んでおいてね。 くれぐれも、評判の良い店でなくてはダメよ」「かしこまりました」「そうそうシンジ」「はい? なんですか?」「先ほど碇家から電話があったそうよ」「はい、先ほどシンジ様がお忘れになった携帯電話へお電話がありまして、 本日、ユイ様がご帰宅なされるそうです」「そっか…、ありがとうございます、翡翠さん」「いえ、私の仕事ですから」……こりゃぁ、賑やかになるなぁ今日から。「さて、それでは挨拶も済んだ所で、戻りましょうか」「そういえば秋葉さん、何で来たんですか?」「NERVの車よ」横から、リツコさんが答えてくれた。「私とミサトはまだ仕事があるから、少し遅れるわ」「そうですか、今夜の御夕飯はご一緒できますか?」「えぇ、それまでには帰れるはずよ。 毎日すまないわね」「それは、成果で返して頂ければ結構ですわ」「えぇ、そのつもりよ。では、また後で」「それでは、また今夜お邪魔しますね、秋葉さん」「えぇ、また後ほど、葛城さん」そう挨拶をして、葛城さんはリツコさんと同じジープに乗り込む。「…ねぇ、なんでミサト、あの女に敬語なの?」小声で、惣流さんが僕に聞いてくる。「…とりあえず、死にたくなかったら『あの女』はやめるんだね」僕はそれだけ言って、秋葉さん達の待つ車へ歩いていった。