「………これ、どうなってるの?」「縦、横四階分を全てぶち抜いたんだよ」玄関に入って早々、惣流さんが驚く。まぁ確かに、外観からは全く見当もつかないだろうな。「当座の荷物はNERVの黒服から受け取ってあります。 部屋のほうはご自分で決めて結構よ。 まぁ、残っている部屋は二つしかないのだけれど」秋葉さんはそう言うと、惣流さんをリビングへと促した。……さてさて、どうなるんだろうねぇ。EVANGELION~BlueBlue GlassMoon閑話 アスカ、来日~その後~カチャ「あら、おかえりなさい、みなさん」「………もう帰ってたの? 母さん」「えぇ、帰ったらメカ翡翠ちゃん達が出迎えてくれたわよ」「……そう言えば、メカ翡翠ちゃんは?」「今ね、私の部屋の荷物を整理してくれてる所なの」………という事は、残ってる部屋は一つって事か。「ユイ様、ご実家はどうでしたか?」「えぇ、今度お父様が秋葉さま達も逗留しにいらしてくれ、と言っていたわよ」「そうですか、その際は、どうぞよろしくとお伝え下さい」秋葉さんはそう言うと、リビングのソファーに座る。その横に、当然志貴さんも座る。「……で、この荷物は?」リビングに置かれているダンボール箱を見て、呟いた。ダンボールには”Nicht sturzen !”の文字。「…こんなに一杯あるの、惣流さん」「なっ、なんで私だって…」「ドイツ語は、読めるんだよ」ちなみに”Nicht sturzen !”は、”落すな!”て感じの意味。「そうですねぇ、その荷物を運ぶ前に、ユイ様がどちらのお部屋にしたのかを訊かなければいけませんね」そういう事で、母さんに視線を向ける。「えっ? 私は三階の部屋にしたけれど」……惣流さん、お隣ケテーイ。「という訳で、惣流さんは四階のシンジの部屋の隣を使用して頂きます。 尚、拒否は認めません」強い口調で秋葉さんが言う。惣流さんは、なぜか正座だ。「そして、この家で暮らす為の、最低限のルールがあります」「…最低限のルール、ですか?」「…まず、門限は夜7時まで。 夜10時以降は部屋の移動も禁止します」「…部屋の移動も、ですか」「えぇ…、最も、最近は奔放になってきているので、あまり気にしなくても結構です」…そりゃ、秋葉さんだって夜中に志貴さんの部屋に行ったりしてるもんな。「そして次に、朝食と夕食。 まず朝食は、こちらに住んでいる方全員で食事を摂ります。 …これは、兄さんとシンジの朝寝坊防止の為の処置です」「…最近は、寝坊なんて全くしてないだろ」「昔からの習慣、というやつですよ。 そして夕食は、全員で摂るのはもちろん、時間が合う場合は葛城さん、赤木さん、伊吹さんのお三方も参りますので、その方々も含めたみなさんで食事をします」……その為に、あんなバカでかいテーブルがあるんだもんなぁ。「そして入浴、二階の浴場の場合、こちらは最高一人一時間です。 それ以上は許しません。 他の浴場でよろしければ、一階に小さな浴場が一つ、一応こちらにもバスタブはあります。 そして四階にはシャワールームがトレーニング・ルームに備え付けてあります」………惣流さんは、大人しく話を聞いている。「そして、最後に…」秋葉さんはそう言うと、一息ついて、目を紅く輝かせる。「兄さんに色目を使うような事があった場合…、問答無用で殺しますので」ぶわぁっ!紅いっ! 紅いよ秋葉さんっ!本気と書いてマジだよこの人っ!「よろしいですね…?」カクカクカク惣流さんは目の前の現実に、首をカクカク縦に振る。「ま、シンジでしたら私はかまいませんけれど」すぐに髪を黒く戻して、秋葉さんがそう言った。「……なんか、僕どうでもいいって感じの言われ方されてる気がする」「あら、そんな事はないわよ。 シンジの相手としては、合格と言ったまでよ」「…なぁ~んか、巧く丸め込まれた気がします」「ほ、ほら、私達は兄弟みたいなものでしょう? 弟の行く末を案じるのは姉の勤めなのよ」「……秋葉さんが姉ですかぁ。 凄いリアルですよね、それ」「そうだなぁ、俺からしてもシンジは弟だしな。 シンジは今まで遠野家の末っ子なポジションだったもんな」「…僕、我が儘には育ってないですよね」「どうでしょうねぇ~、志貴さんにそっくりに育ってしまったから、変な所で我が儘なんでしょうねぇ~」………なんか、リアルすぎるよ琥珀さん。「そういう事で、何か質問など、あるかしら?」秋葉さんがそう訊くと、惣流さんはしばし考える。「…あの、こちらにはファーストチルドレンも一緒に住んでいると訊いたんですが」惣流さんから出た質問に、僕達は首を傾げる。「…ファーストチルドレンて、誰だっけ?」「さぁ、少なくとも私の知り合いにそのような方は居ないんですが」「私も知りませんねぇ~」「私も同じです」「…確か僕、惣流さんに『サードチルドレン』て呼ばれてた気がする」僕の言葉に、琥珀さんがポンと手を叩く。「でしたら、綾波様の事ではないでしょうか?」「…あぁ、そっか。 エヴァのパイロットは全部なんかそんな風に呼ばれてた気がする」「なるほど…、そんなの、名前で呼んだほうが早いと思うのに」「そうですね…、それになんとなく、感じ悪いですよね、その呼び方」「では、今後そのような呼び方は禁止しましょう」秋葉さん、即決。「よろしいですね、惣流さん」「…で、ですけど」「拒否は認めません。 今後、そのような呼び方をした場合、相応の罰を与えますので、そのつもりで」……御仕置きか。まぁ、言わなきゃいいんだもんな、大丈夫だろ。「…わ、わかりました」惣流さん、なんとなぁ~く納得って感じ。御仕置きの恐ろしさを知らないからそんな態度でいられるのさ…。なんか薄暗い事を考えてると、リビングのドアがガチャリと開いた。「あっ、志貴おかえり~。 あれ、そこにいるのシンジの母親ってやつじゃん、どしたの?」アルクェイドさんの目には、惣流さんは入っていないようで。「アルクェイド、ユイさんは今日から一緒に住むんだよ」志貴さんも、何気に惣流さん無視?「そ~にゃのか~、だから隣の部屋ごそごそ五月蝿かったんだね」「そういう事で、よろしくお願いしますね、アルクェイドさん」母さんはそう言って恭しくお辞儀。アルクさんはそれに手を挙げて答えると、翡翠さんと志貴さんの間に当然のように割り込む。「…アルクェイド様、少し強引なのではないでしょうか」当然、翡翠さん抗議、でもなんとなく柔らかい口調なのはいつもの事だからだろう。「んにゃ、悪いね翡翠。ここは私のしていせき~」「………では、紅茶をご用意いたいます」なんとな~くうらめしそうにアルクさんを見てから、翡翠さんは紅茶の用意を始めた。………ここまで、完全に惣流さんはスルーされている。「あ~、あの、母さんと一緒にこの娘も今日から住む事になったんですけど」見るに見かねて、僕が惣流さんを指して声をかける。「ん? 誰その女」………女って、まぁ女は女なんですけど。「あっ、え~っと、そ、惣流さん、自己紹介して」僕はプルプル小刻みに震えている惣流さんに声をかける。「……そ、惣流・アスカ・ラングレーです」「長い名前だね、人間てそういう名前の奴昔からいるよね~」………そういう感想はどうかと思いますよ。「あぁ~、えぇ~っと、りゃ、略称でいいよね、略称で」「………あ、アスカでいいです」「ふ~ん、まぁ、私の邪魔しなければど~でもいいや」……あぁ、本当に先行きが不安すぎる。「全く! なんで私がアンタみたいな男の隣の部屋なのよっ!」………本当、裏表激しいっすね、この子。「大体なんなのよあの女達はっ! こっちが下手に出てれば」「惣流さん、それ以上言わないほうがいいよ」「なっ、なによっ! 私の事脅す気っ!?」僕は騒ぐ惣流さんを無視して、部屋の中にあるコンセントの一つに近づく。「…ちょっとアンタ、なにしてんの?」僕はやっぱり無視して、コンセントのカバーをポケットから出した万能君で外す。パカッ「………やっぱりあった」そこには、複数の配線に繋がれた、小さな黒い箱があった。「………ちょっと、なによそれ…」「一応、防犯用って事になってる、隠しカメラ。 ホラここ、よぉ~く見ると、小さな穴が開いてるんだ」そう言って、繋がれている黒い箱を指差す。惣流さんは僕の肩越しに屈み込んでそのカメラを見る。「……こんなの、誰がつけるの?」「これは、NERVの人がつけたのを、そのまま電波帯を変換してこの家にある防犯カメラの周波数に合わせてあると思う。 琥珀さんも取り付けてるけど、彼女はもっと巧妙に取り付けてるから、どこに仕掛けられているかは全く判らないよ」僕はそこまで言って、コンセントのカバーを元に戻した。「この映像や音声は、メカ翡翠ちゃんと、メカ翡翠ちゃんのモニターのログが保存されてるサーバに保存されるんだ。 普段は誰も見れないけど、侵入者やこの家の中で事件が起きた時には閲覧できるようになってる」僕はそう言って、くるりと惣流さんに向き直る。「だから、余り悪意のある行動や発言をしないほうがいい、わかったかい?」コクコクと頷く惣流さんを見て、僕は彼女の部屋から出る。「後でメカ翡翠ちゃんが荷物整理に来るから、細々とした物だけ自分でやっときなよ」そう言って、僕は廊下へ出た。