== 機動戦士ガンダムSEED ~IF・壊れたザラ議長のせいで……~ ==
プラント最高評議会議長パトリック・ザラは、苛立ち混じりに叫んだ。
「我らの優れた能力を嫉妬したナチュラルたちに思い知らせるため、
我らの技術と能力が如何に優れているかを見せ付ける必要がある!」
プラントのMS開発技術者は、首を傾げながら尋ねる。
「技術と能力を見せ付けるとは?」
「ナチュラルの馬鹿共でも乗れるMSを造り、
技術だけではなく操作するパイロットの身体能力にも差があることを見せ付けるのだ!
そして、技術、能力、どちらも、我らコーディネーターの方が優れていると分からせるのだ!」
プラントのMS開発技術者は、正直、あまり意味のないことだと思った。
戦争をしている最中、余分なこと──技術者と資材を関係のないところに消費するのは無駄でしかない。
(あの噂は、本当なのかもしれない……)
激化する地球連邦との戦いで、ザラ議長のナチュラルへの蔑視、憎悪、選民意識が日に日に強くなっていくのは周知の事実として知れ渡っていた。
それと同時に『ザラ議長は精神に支障を来たしているのではないか?』という噂もザフト内でも、ひっそりと広まっていた。
プラントのMS開発技術者は、今、目の前に居るザラ議長の凶行こそ、その兆候ではないかと疑った。
「パイロットは、こちらで用意する。
貴様は、二ヶ月でジンを改造しろ」
「しかし、それでは新型のMSの開発が──」
「今更、一機のMSで戦況は覆らん!
現状のMSを量産すればいい!」
(いや、だったら、今造らせようとするMSは……)
「いいか! 二ヶ月だ!」
ザラ議長が苛立ち混じりにMS技術開発局を後にすると、無理難題を押し付けられたプラントのMS開発技術者は溜息を吐く。
「ナチュラルでも使えるMSって、どの程度のものを言っているのか……。
時間もないし、設計からの開発は無理……。
・
・
ソフトと操縦席だけを改造するか」
プラントのMS開発技術者は仕方なく新人の技術者を数人を呼び出し、自由に造らせることにした。
ザラ議長は、ああ言ったものの、技術者はいくら居ても足りない。
余分なところに裂く、熟練技術者の数はプラントにはないのだ。
こうして、まさか本当に実戦に投入されると思わなかったプロジェクトは、新人技術者達の育成プロジェクトとして進められ、ナチュラルでも使えるということで、かなりの遊びが入れられながら進められたのだった。
第1話 ナチュラルでも使えるMS①
二ヶ月後──。
ザフトの古びたMS格納庫で、そのジンは産声を上げた。
ザフトの初代制式主力機にして世界初の汎用量産型MSは、専用のカスタム機として変更を遂げ、蛍光の緑でカラーリングされた。
黒い宇宙空間で狙い撃ちにされること間違いなしだ。
「オイ……」
更に、このジンはニュートロンジャマーキャンセラー(NJC)搭載型なのに有限バッテリーを動力にしている。
「何で、付けたんだ……」
「ザラ議長からNJCの追加要請が来たので、仕方なく……」
「ついでに核動力にすれば──」
「ジンの強度的に核エンジンは、ちょっと……」
「じゃあ、何で、NJCを搭載したんだ?」
「ナチュラルでも使えるという条件を考えると、ソフトウェアで処理する情報を増やす必要があります。
ニュートロンジャマーの影響下では電波の伝達が阻害されるため、
NJCによりレーダーの撹乱されるのを防いで情報を取り込むというわけです。
まったくの無駄という訳ではありません」
「なるほど……」
新人MS技術者のショートカットの少女は、くいっと眼鏡を上げると、隣で説明を聞いていたザラ議長より派遣されたパイロットの青年へと目を向ける。
「私は、ザラ議長があなたを派遣した理由の方が怖いんですけどね……」
「俺もだよ。
だって、俺……身体能力が高いだけで、他の能力はナチュラルと変わらないもん」
「そうなんですよね……。
ナチュラルでも使えるという条件を満たすのに、
これほど最適な人材は居ないんですけど……一般人なんですよね?」
「今日までコックピットに入ったこともない」
「それなのにザラ議長は、あなたの戦果に期待をしているようです」
「…………」
ここには、そのザラ議長も居ず、派手なジン・カスタムとMS技術者の少女と派遣されたパイロットの青年しか居ない。
パイロットの青年は軍の規則と肉体強化の訓練を二ヶ月受けただけ、これから二日のパイロット訓練後に実戦配備らしい。
「これさ……。
俺に『死ね』って言ってるようなもんだよな?」
「まあ、あなたの努力次第だと思いますよ。
技術者の私から言いますと、パイロットというのはゲームの上手いマッチョというイメージですから」
「は?」
「MSはかなりのGが掛かりますし、衝撃緩衝材があるにしてもかなり揺れます。
それに耐え得る肉体を持った者がパイロットになる第一条件です。
故にマッチョです」
「マッチョか……」
「パイロットになる資格は、コーディネーター、ナチュラル共にマッチョです。
私は、その点だけは要求に関わらないところとして、改造させて頂きました」
「じゃあ、操作面の能力は?
努力次第で、何とかなるっていうヤツ」
MS技術者の少女が右手の人差し指を立てる。
「こちらもある程度、思想を単純化しました。
さっき言った『ゲームの上手い』というところです。
MSの操作を複雑なものから最適化し、より簡易的なものにする試みです。
MSの操作が難しいのは複雑な動作をするために多くのボタンやペダルがあり過ぎて、
全てを戦闘内で制御できないからナチュラルには扱えないと考えます。
高度なコーディネーターになると、自分に合わせてソフトウェアに手を加えて自分で使い易いようにしますが、
ナチュラルに、それはできません」
「俺にも出来ないな……」
「はい。
そこの代用をするのが私です。
ナチュラルでも使えるようにすること──つまり、努力次第で扱えるレベルまで落とす。
故にゲームをする操作性まで落として、実戦配備するのです。
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敵MSを銃で撃つので、シューティングゲームが上手いこと。
ビームサーベルなどの格闘戦ができるように格闘ゲームが上手いこと。
この二つを満たせば、誰でもMSを操作できるようにしました」
「それで『ゲームの上手いマッチョ』か……」
「はい。
ただ、二ヶ月という期間は短過ぎるので、
ジンとソフトウェアの情報は宇宙戦のみの対応しかできていません。
これから二日の間に、私とあなたでジンとソフトウェアの調整を行なうことになります」
「了解」
「では、早速、ジンに乗り込んでください。
ザラ議長の命令で、とことんナチュラルを馬鹿にした内部になっています」
「妙な言い回しだな……」
パイロットの青年は、タラップから蛍光緑のジンのコックピット前まで移動すると、緊張しながらジンのコックピットを開いた。
「…………」
中には、操縦席、ブラウン管テレビが2台、そして、スーパーファミコンのコントローラーがあった。