「『鋼の軍勢』に操られていた人々はあと数日で退院できるそうだ」
「ありがとう。彼女もそれを聞いたらほっとすると思うわ」
「それで、その子の様子はどうなんだ?」
私と長年連れ添っている、腐れ縁。
コードネーム、ファルコンブレードはカレーライスに福神漬を添えながら聞いてきた。
本名は高崎隼人。彼がアタッカーで私がディフェンダー。
テレーズ・ブルム女史に報告を終えた後、UGNの食堂で私と彼は食卓を共にしていた。
つい先日、おこった『鋼の軍勢』襲撃事件を彼に聞かせながら、探っていたことを聞かせてもらう。
「黒木さんの侵蝕率は89%まで下がったわ。もうすこししたらRC訓練に参加してもらうつもりよ」
「すでに東京23区を始め、あちこちが青田買いを狙ってるぜ。危険度の高いジャームに一矢報いたうえ『時の棺』を使える範囲火力。どこの支部も垂涎だ」
できれば彼女はそっとしておきたかったが、すでに出るべきところに情報は出てしまっていた。
テレーズさんには口止めを願ったが、人の口にはなんとやら。
端末から、通話記録を抜かれたか。ひょっとしたら春日恭二の方が情報を流したのかもしれない。
「いまはまだ訓練が先。それに彼女がUGNに協力してくれると決まったわけじゃない」
「帰りたいと願ったら彼女が日常に戻れるように全力でサポートする、だろ?」
「よくわかってるじゃない」
「もう何年の付き合いになると思ってるんだ」
待機中の癖か、男の胃袋ゆえか、隼人はカレーを素早くかきこむと席を立った。
「おまえの話だと、彼女は自分の日常をあまりに大切に思えなかったそうだな」
「ええ」
「今は、その子……黒木は何と言っているんだ?」
「彼女は……」
思い起こした。
病室で自分の日常を卑下したあの表情と戦闘を終わらせた満足そうな顔を浮かべて気絶した彼女を。
かぶりを振る。
「隼人も直接会ってみると良い。黒木さんも喜ぶんじゃないかしら?」
「そうかい。じゃあ近いうちに、一度会ってみるとしようか」
黒木さん。貴方はきっと、UGNの使命を負うことをよしとしないでしょう。
でも、信じてほしい。貴方が『いらない』といった日常はきっと貴方を人間に繋ぎとめる。
それを束縛の鎖と感じるか、身を守護する盾と思うかは貴方次第。
いつか、決意する時が来たら。
恐れず踏み出してほしい。私達(UGN)でも、あいつら(FH)でもない。
自分の意思で。