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10月5日 ヒカルの碁(タイトル未定)投下開始
[一発ネタ] ドラゴンクエスト5 (転生憑依)
ゴクリ。少年は目の前に聳え立つ居城──ラインハット城を見上げて、無意識のうちにのどをならした。
少年の名前はリュカ。この物語の主人公であり、転生者である。
時間は遡り一ヶ月ほど前。
気がついたら彼は船の中の一室に居た。近くには筋骨隆々の男が一人、剣のメンテナンスをしている。
その男性の名前が『パパス』であるということを、何故か彼は知っていた。そして今の自分の名前が『リュカ』であるということも。
彼は自分がドラゴンクエスト5の世界に来てしまったんだということを理解する。
最初のうちこそテンションは高かった。
自分はあのドラクエの世界にいる。しかも主人公として!
常人ならば浮かれても仕方が無い話だ。
スキップをしながらビスタ港からサンタローズへと向かうその途中、リュカは唐突にある事実を思い出した。ド忘れていた原作知識の一つを。
そう、ドラクエ5の主人公は───
「……あ゙っ、このままだと父さん死ぬ。」
───ドラクエシリーズの中でもトップレベルの不幸属性を持っているということを。
リュカは考えた。どうすればパパスが死なずに済むのか。
一番確実なのはラインハット行きを止めるとこなのだが、それは間違いなく無理だろう。
止めることが出来たら出来たで別の問題が浮上する。ヘンリー王子だ。
リュカはまだ会ったことも無いあの王子の身に起こる不幸を防ぎたいと思っていた。彼も対外お人よしである。
リュカは考えた。どうすれば自分が望むルートを辿れるかを。
ビアンカと会った時も、サンタローズの洞窟で親方を助ける時も、レヌール城を攻略している時も、妖精のベラに頼まれて春風のフルートを取り戻すために雪の女王の館に乗り込んだ時も。
ずっとずっと考えていた。
悩んでも悩んでも答えが出ないことにイラつくリュカ。そしてとうとうラインハットへ向かう時期がやって来た。
歴史は変えられないのか……そう絶望している彼の元に、一人の青年が現れる───
◇
『や! こんにちは、トリッパー君』
「なッ───あ、そっか。未来の……」
『そうそう。未来のね。制約か何かかかってるせいで名前で呼べないんだ、ごめんね?
それじゃさ、例の球もらえるかな?』
「うい。ゴールドオーブね」
『あいあい、サンキューサンキュー。それじゃお礼にこれをあげよう。君の悩みを解決するスーパーアイテムだ』
「……これって」
“未来から来たリュカ”が“過去(現在)のリュカ”に渡したアイテム。
それは───
◇
───古代遺跡
「ほっほっほっ。見事な戦いぶりですね。……でも、こうするとどうでしょう」
「りゅ、リュカ!」
ジャミとゴンズを圧倒的な力でねじ伏せたパパス。その強さを侮りがたしと見た魔道士ゲマは、パパスの息子であるリュカを人質にする。
息子の命が惜しくなければ存分に戦えと嘲笑するゲマ。息子の命が握られればパパスは絶対に逆らえない、それを理解していながらゲマはそう言い放ったのだ。
両肩を落とし、次いで剣を捨てる。パパスは死を覚悟した。
『へっへっへ、さっきはよくもやってくれたな!』
『覚悟しな!』
下卑た笑みを浮かべながらジャミとゴンズが腕を振り上げる。この二人の手には武器は無い。どうやら素手でなぶり殺しにするつもりのようだ。
そして“原作”の通り、パパスの処刑が───
「かかったな、ゲマ!!」
『!?』
───始まることは無かった。ゲマに抱えられたリュカが目を覚ましたのだ!
いや、目を覚ましたというのは正確ではない。彼は気絶したフリをしながら“機”を待っていたのだ。“ゲマが自分を抱え人質にする”という、その“機会”を!
一瞬驚いたゲマだが、「ほっほっほっ」と余裕の笑みを取り戻す。この状況下で、リュカが自分に対し何か出来ると彼は思っていなかった。
しかし、そのゲマの余裕は僅か数秒後に崩れ去る。
「食らえ、ゲマ!
必殺! キメラ・ストライク!」
リュカは キメラのつばさを ほうり投げた!
ぎゅいーん!ぎゅいーん! めぎごごっ!!!
ゲマは天井に激しく頭をぶつけた!
『くぁwせdrftgyふじこlp!!?!??』
『げ、ゲマ様!』『ゲマ様!?』
リュカは懐から取り出したキメラの翼を使った。その効果によりリュカとリュカを抱えているゲマは天井へ向かって上昇、その身を激しく天井へと打ちつけた。
ただし、全身を打ち付けたのはゲマのみである。リュカはゲマを天井と自分との間になるように身体を上手く動かし、ゲマをクッション代わりに使った。小柄な子供であるリュカだからこそ出来た芸当だ。
すなわちゲマは“天井の衝撃+リュカの衝撃”の二つの衝撃をその身に受けたことになるのだ!
サンタローズの村で未来の自分に渡されたアイテム、それがキメラの翼である。
未来の自分は『問題を解決するアイテム』といってキメラの翼を一枚渡した。
それを受け取ったリュカは一つの必殺技を閃く。そう、それこそが“キメラ・ストライク”である───!
キメラ・ストライク! それはダンジョン限定の必殺技である!
これはターゲットを羽交い絞めにし、その後アイテムの『キメラの翼』を使い天井へ向かって上昇、その勢いで敵を天井へ叩きつけるという恐ろしい必殺技である!
完全に不意をついた形の一撃だったため、ゲマに大ダメージが入った。頭はカチ割れ、青い血がドバドバと流れている。
そのゲマにビシィッと指指し、リュカは───
「俺のターンはまだ終わってないぜ! ドロー、キメラの翼! ドロー、キメラの翼! ドロー、キメラの翼───」
『くぁwせdrftgyふじこlp!!?!??』
リュカのキメラ・ストライク! ゲマは231のダメージ! リュカのキメラ・ストライク! ゲマは229のダメージ! リュカのキメラ・ストライク! ゲマは238のダメージ! リュカのキメラ・ストライク─────
◇
10分後。
古代の遺跡入り口に、青いミートソース(血)を撒き散らしミンチ化した元ゲマが!(グロい)
「勝った! 第一部、完ッ!」
「やかましい!」
高らかに勝利宣言をするリュカに、ジャミ・ゴンズを瞬殺したパパスによる渾身のローリングソバットが綺麗に炸裂した。
なお意識を取り戻したヘンリーとプックルはミンチまみれのリュカを見て怯え、隅っこでプルプル震えている模様。