(この物語はフィクションであり、実在する人物や組織とはいっさい関係ありません、Muv-Luv板へ移転しました)
【Muv-LuvAL×高機動幻想ガンパレードマーチ】
※中編、マブラヴガンパレクロスSS、ご都合主義、設定改変、GPM側裏設定多少有り
1999年7月の自然休戦期中、熊本における決戦に勝利し、九州失陥を免れた日本国陸上自衛軍第106師団を中心とする学兵部隊と神族(!)が、1998年7月の日本帝国九州地方へ転移、対BETA戦になし崩し的に参加する話になります。序盤から都合良く実包を備えた部隊が付近にいる、弾薬等の備蓄がある高等学校ごと転移している等、そのあたりが所謂ご都合主義となります。
Battle Over 九州!
1998年7月7日。
長崎県松浦市、佐賀県唐津市に師団規模のBETA群上陸。
本土防衛軍は避難民と国土を後背に、全力を以て反撃を開始。
超大型台風接近の最中、着上陸した敵群に痛烈な打撃を与え、8日には一部を海に追い落とすことに成功した。
が、翌日には、九州北部にBETA群第二波が追上陸、更に九州中部――超大型台風の影響で、哨戒が困難となっていた天草灘・島原湾を通過し――熊本県八代市にも、師団規模のBETA群が強襲上陸。
九州中部に突如として現れたこのBETA群は、九州北部のBETA群との死闘に臨む本土防衛軍の背を衝く。
熊本県八代市内にて海岸線の監視と避難民の誘導、この両任務にあたっていた第123歩兵連隊は、僅かな対戦車火器と小火器でこれにあたったが、機械化歩兵装甲をもたない自動車化歩兵連隊の勇気は報われることなく、避難民と一緒くたに蹂躙された。
また一方で戦略予備として後方に保全されていた各師団は、避難民の大海と河川の氾濫、土砂災害を前に攻撃発起点への移動がままならずにいた。
そして同日、また別の要因が九州全土に混沌を呼び寄せる。
BETA八代上陸の一報が各師団本部に達すると同時に、前線部隊から奇妙な報告が集まり始めたのである。
「所属不明の武装集団が前線、後方問わず展開中。――"日本国陸上自衛軍"、"生徒会連合"を自称する彼らは、BETA群に対し突撃破砕砲撃を開始せり」
―――――――
「自殺行為じゃねえか」
熊本県八代市東町、竜峰山の麓より見た黒雲渦巻く西の空はまさしく、燃えていた。
遠目からでも60m級大型幻獣が、八代市街を我が物顔で闊歩するのがよく見える。
あの蜘蛛のそれを連想させる脚の下では、未だ逃げ惑う市民が――そして彼らの背に食らいつく小型幻獣どもが蠢いていることだろう。
更に蠍を模した中型幻獣キメラに酷似する新型幻獣や、トリケラトプスの頭だけが動いているような新型幻獣が、その巨体を存分に震って破壊の限りを尽くしている。
高層建築物が簡単に突き崩され、電柱が引き倒され、人々が生活を営む市街地の姿は、瞬く間に醜いものになっていく。
……どうやら彼ら新型幻獣群は、生体噴進弾を備えておらず、それが唯一の救いであった。
既に熊本鎮台は、避難民の救助を諦めたのか。
激しい砲爆音が八代市一帯に殷々と響き渡る。
15榴にMLRSだ、と山麓に集合した第123普通科連隊に協同する第2313独立機動小隊の面々は、そうあたりをつけた。
恐らく百単位で降り注ぐ榴弾と噴進弾は、光砲によって空中で半分程が蒸発させられながらも、残り半分は市街地で炸裂した。
建築物という建築物が大小の幻獣と共に薙ぎ倒され、火焔と破片と爆風が一緒くたになったものが、路上に存在する物体を消滅させる。
……そこに人と幻獣の区別はない。
だが新型幻獣の群れは止まらない。
建造物が林立する市街地において、火砲の威力は吸収され大幅に漸減することは、戦場に立ってまだ数ヶ月の第2313独立機動小隊の学兵達も知っていた。
そして奴らがあそこにいる限り、友軍の弾雨によって民間人は倒れていくことも。
行軍訓練・実弾演習を切り上げて、万難を排し北進中の本隊――第123普通科連隊を待っている暇はない。
熊本県内に百個ある精鋭、独立小隊がひとつ第2313独立機動小隊も、戦時装備で行軍訓練中に、突然視界が暗転したかと思えば、次の瞬間には、眼前に炎上する八代市街と暴れ回る新型幻獣の群れが現れた。
流石の突飛さに即時突撃を彼らは躊躇ったが、燃える街を前にしてもう小隊員は腹を括っていた。
「光砲科の新型が出張ってるみたいだね」
「高度は10mで進入する」
臆する小隊員は誰一人いない。
史上初、自然休戦期に強襲上陸してみせた師団規模の幻獣軍。年に数体しか出現しないはずである、60m級大型幻獣の同時実体化。
全ての幻獣が新型という特異性。
突如として一帯を襲う暴風雨。
昨年の戦闘で灰燼と化した筈の八代市街――。
事態は全て常識の範囲外にあったが、もはや学兵にとって眼前のそれは、看過出来るものではなかった。
一個小隊が突撃を掛けたところで、新型幻獣群を撃退出来る道理はなく、また救える人命もたかがしれていよう。
いや、結局この八代平野で避難民と共に、全滅する公算が大きい。
だが彼らは自身が闇を払う銀の剣であることを、少しも疑ってはいなかった。
「用意はいいよな。八代駅に避難民を集めろ……そして県道14号線以東には、幻獣を通すなよ。1時間もすれば、国道3号線を走る本隊が到着する。それまで頑張ろう」
「……ところで生き残ったら何か奢ってくれんの?」
「なんも」
「そこは焼き肉奢るとか言うところだろ!」
週給15000円という薄給、実家に仕送りまでしている小隊長は、笑った。
週給2500円である小隊員も、週給7500円である分隊長も、小隊長の事情を知っているので、「まあ金出し合ってどっか行きましょう」と笑い、「あとで熊本鎮台(陸自第6師団)に強襲かけましょう。賃金上昇の為です」とも冗談を飛ばす。
ああ、生き残ればそうしよう、と小隊長はひとしきり笑ってから、音頭をとった。
「金の為に命を賭けてもつまらないかんな。さあ"あしきゆめ"をおとぎ話の世界に押し戻そうじゃないか。オールハンデッド――」
儀式は成った。
ガンパレード! の雄叫びが、第2313独立機動小隊の41名による空中強襲開始の号砲となる。
瞬間、装甲戦闘服(ウォードレス)の腰部に存在する96式リテルゴルロケットが爆炎を噴き、9000kgという爆発的な推力をもたらして小隊員達を空中へ押し出した。
当然、原種(オリジナル)の人間がこれを装備すれば、骨格が破壊されるか無惨にも建造物や地面に叩きつけられて死ぬであろう。
だが彼らは人類の敵、幻獣との戦闘を目的として"改良"された第6世代クローンであり、ウォードレスとの相乗効果によって、これにこのべらぼうな推力に耐える。
そして姿勢制御も背中に生える不可視の翼"力翼"によって行うのだから、まさしく彼らは人間ではなかった。
数秒で彼らは亜音速にまで達した。
上昇限界は3000m。
しかし空中で砲弾が蒸散する光景を見て、そんな高度を取るつもりは一切なかった。
榴弾・噴進弾が正確に迎撃されたところを見るに、敵新型幻獣にしてみれば、機動小隊による亜音速突撃の阻止など難しいことではないだろう。
彼らがとった高度は10m以下。
新型光砲科幻獣を警戒して、し過ぎないことはない。
そして5分もしない内に、彼らは空中でロケットパックを離脱させ、化物と避難民でごった返す、火焔渦巻き瓦礫積み上がる戦場に降り立った。
「散開しろ、散開!」
「応射なし! 飛び道具なし、敵飛び道具なし!」
路面で受け身を取り、身体を起こした第3分隊の水原往人小隊員がまず見たのは、体高2mはある小型幻獣が大挙して逃げまどう避難民の後背に迫り、捕らえ食らっている光景である。
筋肉質な腕が伸びる度に、人間が口に押し込まれ、咀嚼されていく。
……捕らえられた民間人も抵抗はするものの、生身では到底かなわない。
すぐに物言わぬ物体に貶められ、こぼれ落ちた内臓は小型幻獣に踏みにじられていく。
避難民に混じる数名の自衛官が、自動小銃で応戦しているのが見えた。
どうやら新型幻獣の防護力は対したことなく、拳銃弾でも射貫するらしい。
前列の小型幻獣の皮膚が弾け、崩れ落ちる……だがその肉塊の上をまた新手、新手と後続の連中が現れる。
自衛官らが持つ数丁の自動小銃では、とても白い奔流を止めることは出来そうになかった。
「水原、ボーッとしてんな! やるぞ!」
「了解です!」
分隊長に檄を飛ばされ、水原はすぐさま我に返る。
2ヶ月前までこんな光景、日常だったじゃないか。
小型幻獣の群れに捕食される訳でもなく殺され、オブジェとして再構成される人々。
顔面を剥がされて幻獣の身体に接がれる人々を、何遍も見てきた。
その度に、絶対にこれを繰り返させないと誓ったじゃないか。
水原は、避難民を避けながら白い小型幻獣の前に躍り出、重量6kgにもなる鉄塊――96式手榴弾乙型を投擲した。
それは空中で炸裂すると、水原が期待した通りの結果をもたらした。
指向性を持った破片の雨は、非装甲の彼らにとって災厄そのもの。
最前列の幻獣は軒並み足を止め、後列の幻獣は動かなくなった同胞を押し退けて行こうとする。
が、それはかなわない。
「撃てッ!」
第3分隊の携行小火器が一斉に火を噴き、彼らを薙ぎ倒し駆逐してみせた。
"小火器"とは言うが、口径は12,7mm。
この世界の重機関銃に相当する代物で、筋力と骨格が強化されている第6世代クローン故に、両手で保持出来る火器であった。
市街地に存在する如何なる遮蔽物をも、容易に粉砕してみせる12,7mm弾が殺到した後の新型幻獣の横陣は、ずたずたに引き裂かれ、死骸と死骸が幾重にも折り重なる惨状を呈した。
「助かった! 守護天使だ!」
「機械化装甲歩兵か?」
「無駄に予算喰ってる割におせえんだよ!」
避難民の海に揉まれながらも応戦していた自衛官――否、第123歩兵連隊の生き残りである帝国軍人たちが、口々に軽口を叩き、機動小隊の来援を讃える。
機動小隊の小隊員も悪い気はしない。
避難民を見捨てず応戦を続けるとは、自衛官(おとな)の中にも骨がある奴らがいるじゃあないか――と、正規軍を見直した思いもしていた。
何せ2ヶ月前の戦闘では、もはや本職の自衛官は居らず、専ら学兵のみで臨んでいたのである。
「悪いな。こちとら学業優先なもんで。で、あんたらは何処の部隊だ?」
「第46師団第123歩兵連隊第2中隊だ。そっちは?」
「……俺たちは第106師団第123普通科連隊の第2313独立機動小隊だが」
この一言二言の問答で、両者ともに相手に対して抱いていた違和感が、確固としたものとなる。
帝国陸軍第123歩兵連隊の将兵は、何度か機械化装甲歩兵と協同し、丘陵に陣取ったBETA群に逆襲を掛けるという想定の演習に参加したことがあったが、果たして機械化装甲歩兵は、目の前の連中が用いている装備を運用していたであろうか?
重機関銃を個人で振り回す姿を見たことはあるが、あんな馬鹿でかい手榴弾を携行していたか?
そして聞いたことのない師団名――第106師団。
しかも歴史と伝統に裏打ちされ、他部隊とは決して被ることのない連隊ナンバーが、同じとはどういうことか?
一方で学兵も、帝国軍人とは何か、何故俺たちと同じ連隊ナンバーの所属なのかと疑問に思った。
帝国軍人も学兵も、目の前の人間が未知の存在であることを理解したのである。
だが互いに詮索している暇はなかった。
眼前には未だに掃討しきれていない小型幻獣の群れ、そして後背には無秩序に逃げ惑う避難民の大海。
そして第3分隊の分隊長には、小隊長より通信によって中型幻獣の群れがこちらに向かっていることが伝えられていた。
「とりあえずこっちは八代駅周辺を確保する! 民間人をそこに誘導してくれ。ウチの本隊が到着後に後送するつもりだ。この化け物どもは我々が何とかする」
非装甲の兵士では、小型幻獣を相手取るのは辛い。
そう考えて、分隊長は民間人の誘導を頼んだ。実際、機械化歩兵装甲もなく、重機関銃や迫撃砲といった重火器もない第123歩兵連隊の生き残りにやれることは少ない。
正体不明、謎の武装集団に敵を任せるほど、情けないことはないだろうが、機械化歩兵装甲や強力な火器を持たない、自身の分(ぶ)を弁えているのか、帝国軍人たちは応、と返事をして避難民に併走しはじめた。
そして。
「頼んだぜ! 戦友!」
駆けて行く帝国軍人が、学兵に叫んだ。
ことさら強調された"戦友"、という言葉に小隊員は薄く笑う。
互いの所属、素性など関係ないではないか。
そうお互いのバッタ(※普通科・歩兵科を指すスラング)は思った。
恐らく連中は迫る理不尽の荒波を押し止め、武器のとれない市民(臣民)の代わりに戦い抜こうとしている。
ならば、戦友ではないか。
一瞬だけ口の端を歪め、微笑をつくった分隊長は、すぐに自身の部下に命令を下した。
「いいか、中型幻獣が近づいているらしい。第2分隊の突撃破砕射撃も間に合いそうもないそうだ! どうせ豆鉄砲じゃ倒せん。いいか、蹴り殺すぞッ!」
この陸上自衛軍第106師団第123普通科連隊に協同する第2313独立機動小隊の空中強襲が、日本国陸上自衛軍と敵性地球外起源種BETA間における、初の交戦例となった。
そして両第123連隊の共闘が、日本国陸上自衛軍と帝国陸軍、時空を超えた初の共同作戦になる。