呆気に囚われた。
赤い薔薇を思わせる舞踏服、服と同じ真紅のキャップからは艶やかな黒髪が覗いている。形の良い唇の中には白い輝きの歯があった。
狩麻が呼んで出てきたということは、これが狩麻のサーヴァントなのだろう。プリンスのサーヴァントだのと名乗っていたが、狩麻の言葉を信じるならクラスはアーチャー。
三騎士クラスの一角を担うサーヴァントであり、セイバーやランサーのような高い白兵戦能力はもっていないが、強力なスキルや宝具をもっているのが特徴で、全クラス中最大の射程距離をもっている。
それが赤薔薇の花吹雪と音楽の中で高笑いする変人だとは想像もできなかったが。
「……………」
縋るように狩麻を見るが、狩麻は露骨に視線を逸らした。
狩麻もあんなサーヴァントを召喚してしまったのは想定外で、きっと苦労してきたのだろう。ナチスの件で恨みもしたが、あのアーチャーを見ていると恨みなど雲散して代わりに同情の念が湧き上がってくる。
「おやおや! どうしたんだい我がマスターの好敵手たち。華麗に登場したのにテンション下がっているじゃないか! こんなんじゃ盛り上がらないよ。
英霊同士が凌ぎを削るという時空を超えた夢の激突。前代未聞奇想天外四捨五入! 決して記されぬ華々しい闘争。その戦いでそんな顔をしていちゃ美しい戦いをより美しく出来ないじゃないか!」
「――――――俺はどう反応すればいいんだ」
珍しくキャスターが言葉に困っていた。
どうやらキャスターにとってもアーチャーのようなタイプとは未だ嘗て無縁だったらしい。
冥馬も同じだ。人形を自分の妻にする変態や、自分自身に欲情する変態や、無限の性欲の先に『根源』があるなどと考えた馬鹿はいたが、アーチャーのようなハイテンションでド派手な人間とは未だ嘗て出会ったことがない。
いやアーチャーみたいな性格の人間が世界にそう何人いても困るのだが。
「もしかして……音楽が気に入らなかったのかい?」
「「は?」」
全く見当違いの答えに達したアーチャーに、冥馬とキャスターは二人して口をポカンと開ける。
「そうかそうか。確かにブリテン出身の君にフランス国歌じゃテンション下がるだろうね。だったらミュージック・チェンジといこう! ムッシュ・トオサカ、君はどんな音楽がお好みかな?」
「音楽か。王道だがラヴェルのボレロなんていうのが――――って、音楽はどうでもいい」
「どうでもいい!? ノンノン、それはいけないよ。音楽は心を豊かにする。美しい戦いを吟じるのもプリンスの嗜みだけど、時には音楽という波に体を預けるのも大切さ。そうでなければ心が荒んでしまうし、戦いという芸術(アート)から美しさも失われていく」
「滅茶苦茶なこと言っているのに、一理あるような気がする」
上手く形容できないのだが、アーチャーには理屈など抜きに自分の言葉を信じさせる〝説得力〟のようなものがある。
これはアーチャーの持ち前の魅力によるものか、それとも英雄として隠された迫力がそうさせるのか。判断に難しいところだ。
「いい加減に黙りなさい。誰が冥馬とお喋りしろなんて命じたの? これ以上ふざけるんなら蟲の餌にするわよ」
苛立ちを交えた冷淡な声。アーチャーの暴走に対して遂に狩麻が止めに入った。
登場する時も登場してからも暴走しっぱなしだったアーチャーも、流石に彼なりにマスターのことは尊重しているようだ。狩麻が言うと素直にアーチャーは口を閉ざし沈黙する。
そうアーチャーの口は沈黙した。だがアーチャーは口の代わりにギターなどを弾いている。しかも下手だ。耳を澄ませばかろうじてベートーベンの第九に聞こえなくもない。
「アンタはあの口喧しい雑魚英霊―――――キャスターを血祭りにしてやりなさい。貴方ほどの英霊なら、サー・ケイなんて雑魚でしょう。私は冥馬をやるわ」
狩麻の氷の眼光が冥馬を射抜いた。
「くすくす。冥馬は私の獲物だもの。私直々に蟲の餌にして跪かせてあげるわ。あはっ!」
玲瓏な美貌が一転して〝狂〟すら混ざった笑みに変わる。
「ンンっ~♪ マイ・マスター、余りそういう言い方は関心しないな。彼も気高き覚悟をもって美しき闘争に招かれし一人。即ちこの僕と戦う運命にあるライバルさ!」
「――――!」
アーチャーがサーベルをキャスターに向けた。キャスターも自然と武器を前に出して、いつでも切り結べるような体勢をとる。
息を呑む。傍目には芝居がかったようでいて、実戦を想定した構えでサーベルを向けるアーチャーには激昂したランサーほど獰猛な殺意はない。かといってライダーのような冷たい殺気もないし、アヴェンジャーのような悪意の具現もなかった。
ただ何処までも華々しいまでの闘志は紛れもなく英雄と呼ばれた者のもの。
どうやらアーチャーのことを侮っていたようだ。
ハイテンション過ぎる振る舞いや言動は、一緒にいると疲れる面倒くさい男に過ぎないが、やはりアーチャーも歴史にその名を刻んだ英雄に他ならないのだ。
「だがマスターの命令には答えよう。僕がキャスターの相手を務めようか。マスターはその間に幼き頃に赤い糸で結ばれた宿命のライバルと雌雄を決すると良い」
「初仕事なんだから、しっかりしなさいよ」
「イエス、ユア・ハイネス」
「来るぞ、キャスター!」
アーチャーが地を蹴り動いた。サーベルを突き出してくるアーチャーに対して、キャスターは黄金の剣で迎え撃つ。
サーベルと剣が鍔迫り合い、蒼い騎士と真紅の騎士が己の膂力をかけて押しあった。
単純なパワー勝負ではアーチャーが上。しかし武器の性能ではキャスターが勝る。
「フッ。担い手ではなくなったが、やはりいと気高きはカリバーン。まともな押し合いは不利だね」
このままでは自分のサーベルが先に砕けると判断したアーチャーが、鍔迫り合いを止めて後方へ飛び退いた。
「逃がさん」
キャスターも伊達に円卓の騎士に名を連ねているわけではない。セイバーと比べれば数段劣る技量しかもたないキャスターだが、剣士ではなく弓兵相手ならばそれなりに戦える。飛び退いたアーチャーに果敢な追撃を仕掛けた。
ニヤリ、と笑うのは狩麻。
「キャスター!」
冥馬がその笑みに良からぬものを感じて、キャスターに警戒を促した。
瞬間であった。冥馬とキャスターはアーチャーがアーチャーのクラスで召喚された所以をしかとその目で見ることとなる。
「号砲を上げようか、ムッシュ」
「――――大砲!?」
アーチャーの背後から出現したのは無数の大砲だった。既に弾を装填された大砲の照準は全てキャスターに向いており、その力が解き放たれるのを今か今かと待ちわびている。
大砲が生まれるより前の時代の英雄たるキャスターも、聖杯により現代の知識を与えられているため大砲については知っている。その威力についても。
真正面から砲火を浴びるのは不味いと判断したキャスターが慌てて大砲の照準から飛び退く。
けれど弓兵のクラスで招聘された男の眼光は獲物を逃しはしない。
「ファイヤ!」
アーチャーの号令を合図に巨大な咆哮をあげる大砲たち。一瞬の灼熱により押し出された砲弾がキャスターに降り注いだ。
咄嗟に魔術障壁を展開するキャスターだが、砲弾は吸い込まれるようにキャスターに向かうと障壁を抉りながら炸裂した。
ただの一発。恐らくはアーチャーにとってセイバーの剣の一振りのような単なる通常攻撃一つで、鋼を超える硬さの障壁に皹が入る。
キャスターは全速力で砲弾から逃れた。たった一発の砲弾で皹が入るのである。これが二発目、三発目と続けばどうなるかは考えるまでもない。
「ファイヤ! ファイヤ! ファイヤ! ンンッ~♪ おおっ、ファイヤーーーーーーーーーッ!」
ハイテンションに叫びながらアーチャーが「ファイヤ」を連呼してその度に大砲が火を噴いた。
容赦のない連続砲撃。キャスターは正面から防ぐのではなく、魔術で器用に砲弾の進行方向を逸らすことでどうにか回避していく。
「見た目と性格は奇天烈でも、実力は出来過ぎか」
キャスターの表情に現れたのは明らかな焦りだ。
悔しいが認めるしかない。狩麻のアーチャーの実力は、遠坂冥馬の召喚したキャスターのそれを完全に上回っている。
大砲なんて比較的最近の武器を使うということは、少なくとも神代の昔の英雄ということは有り得ないが、あの強さは最低でも上級クラス以上はあるだろう。となるとアーチャーの正体は余程高名な英雄か。
「呑気に自分のサーヴァントの戦いを見物だなんて良い身分になったものね。躍進を続ける遠坂の若き当主様は、私が生まれるまで落ち目だった間桐なんて目に入らないのかしらぁ?」
「…………狩麻」
自身のサーヴァントの優勢で気を良くした狩麻が尊大に言い放った。周囲には静かな羽音をたてて狩麻を守る蟲たち。
冥馬の〝炎〟も〝風〟も両方を防げるだけの防壁をもっているが故の余裕。それが狩麻の尊大さからは垣間見える。
「言ったでしょう冥馬。貴方は私の獲物だって。昔っからいつも私のことを上から見下ろして、その癖、自分は好き放題。……これまで黙っていたけど、はっきりいって鬱陶しかったのよねぇ」
「勝手に人のことを横柄で傲慢ないけ好かない奴みたいに言わないで欲しいな」
「あら違うの?」
「これでも余裕をもって優雅な振る舞いを心掛けてきたつもりだ。まぁ子供の時はメッキが剥がれることが多々あったが今はもうそんなこともない」
「なにそれ。じゃあメッキが剥がれたら傲慢ってことじゃない」
「メッキが剥がれたら節約が趣味の有り触れた青年が出てくるだけだろう。尤も付き合いの長いお前に対してメッキを用意するのも面倒臭い」
荒野で決闘するガンマンのように、冥馬は油断なく狩麻とその手足たる蟲たちを伺う。
自分が自分の出来る最速で炎を放ったとしても、狩麻の反射神経を超える反応速度で動く蟲たちが炎を防いでしまうだろう。
風の刃にしても蟲たちを何匹か殺すのが精々だろうし、蟲たちは物理耐性もそれなりに与えられているので、蟲たちの守りを超えて狩麻を傷つけるのも難しい。
(厄介な相手だ、心底に)
こちらの手の内が筒抜けというのは、それだけで面倒だ。
狩麻の実力は以前戦ったルネスティーネと比べれば劣る。だがルネスティーネが遠坂冥馬について無知だったのに対して、狩麻は遠坂冥馬のことを調べ尽くし、その力の対策を事前に用意することで実力を補っている。
無論その対策は狩麻の蟲への知識の深さあってこそ。落ち目の間桐家に振ってわいた才女は伊達ではないということか。
だが考えたところで結局は、
「――――やりなさい」
「来るか!」
狩麻がこちらに明確な殺意をもっている以上、殺し合う他ない。遠坂冥馬と間桐狩麻。御三家に名を連ねる若き当主同士がここに激突した。
迫りくる蟲たちに炎を放つが、やはり炎へ耐性を与えられた蟲たちは普通のそれと違い燃えることはなく炎を受け止める。しかし炎だけでは効果がないなら、力を混ぜ合わせるだけ。
左手の人差し指に嵌められた指輪にも魔力が送られ風の魔術が炎に加わる。
炎と風が混ざり合った炎風が狩麻の蟲達を押していった。
「馬鹿力のごり押しなんて、らしくないじゃない……!」
「時に力は道理を強行突破するものだ――――Auftrieb!」
狩麻が用意周到に相性の悪い蟲を用意してきた今、技術や技量などで上回るのは難しい。技術で倒すのが難しいながら、純粋なまでの力押しでゆくべきだ。
間桐狩麻が遠坂冥馬を知るように、遠坂冥馬も間桐狩麻を知っている。自分と狩麻の魔術師としての腕は魔術師としてのジャンルが違いすぎる為、厳密に比べることは出来ない。だが自身の魔力量が狩麻よりあることは知っていた。
だからこその力技。相性の悪さをありったけのパワーで捻じ伏せる。
炎を耐え、風を受け流す蟲も炎と風の同時攻撃の前には流石に堪えたようだ。徐々にだが狩麻を守る蟲が押され、炎風が狩麻に迫っていく。
(しかし狩麻はこのくらいでやられる女じゃない)
このまま押し切ろうとしたところで、確実になにか反撃を仕掛けてくるだろう。だから押し切る前にこちらの切り札で吹き飛ばす。
「Siebzehn、Sechzehn(17番、16番)――――Der Wind einer Flamme(灼風の刃)!」
二つの宝石を用いた大技。これで反撃を許す時間すら与えずに蟲諸共に狩麻を消し飛ばす。
だが冥馬が魔術を発動させるより一手先んじて、冥馬の両腕をなにかが貫いた。
「なっ!」
「駄目じゃない。魔術師なんだから一つのことばかり集中していなきゃ。貴方を倒すために用意した切り札が、私を守る蟲だけなんて言った覚えはないのだけれどねぇ」
両腕に奔った衝撃と激痛のせいで、発動した魔術はあらぬ方向へ飛んで行き石壁を消し飛ばす。
高速で襲い掛かった二つの物体に貫かれ、両腕にはぽっかりと穴が空いていた。
両腕からドクドクと小さな滝のように血が流れ出す。大人が泣き出すほどの痛みに、冥馬は多少表情を歪めるだけで耐えると、自前の魔術で応急処置をしつつ自分を襲った物体を探す。
「あれか!」
そして見つけたのは、やはり蟲だった。だがただの蟲ではない。
数えきれないほどいる狩麻を守る蟲たちと違い、その蟲は数でいえばたったの二匹だ。大きさは大体通常のハンドガンに採用されている平均的弾丸と同じほどだろうか。見た目には特徴といった特徴はない。
だが速さが異常だった。二匹の蟲たちは常人には視認できないほど高速で狩麻の周りを縦横無尽に跳び回っている。
あの蟲が魔術を発動しようとした冥馬の両腕を食い破って妨害をしたのだろう。
「どう? 碎弾蟲、私が培養したオリジナルの蟲よ。他と比べて速さがダンチでしょう。一匹作るのにかなりの時間と労力と資金が居るからそう何匹も用意できないのがネックだけれど、貴方一人を蜂の巣にするくらいなんでもないのよ」
「……………」
「あははは。ちょっと間違えちゃったかしらぁ。蜂の巣じゃなくて蟲の巣だったわね」
他の蟲とは比べ物にならないほど超高速で動き、肉を食い破る蟲。さしずめ弾丸が速度を維持したまま自在に跳び回ってターゲットを襲うようなものだ。
あんな代物まで用意するとは、狩麻の魔術師としての実力を更にもう一段階改める必要があるようだ。だが同時に、
「精神については、少し下げなければな」
「なんですって?」
「いきなり出さずに、ここはという時で使ったことを見るに、お前にとって『碎弾蟲』はとっておきの切り札だったんだろう。だがお前は致命的なミスをしている」
「私にミスですって? そんなのあるはずないわ。勝手なこと言わないで欲しいわね。生意気よ!」
「そうかな」
両腕に空いた穴の処理を取り敢えず完了するまで時間を稼がなければならない。
出来るだけ狩麻が食いつきそうな話をしつつ、いつでも動けるよう全身に魔力を張らせる。
「碎弾蟲は実際大したものだ。特にその速度と小ささを活かした奇襲性は脅威と言う他ない。だが同じ手品を二回連続で使うマジシャンは二流。同じ手っていうのは対策がされるから、絶対に初手より有効にはならない。
なのにお前は絶対的に優位に立てる初手に、俺の頭じゃなく両腕を狙った。頭を貫いていれば今頃お前が勝っていただろうに、お前は俺の魔術で自分が消し飛ばされる恐怖に負けて、より確実に攻撃を防げる両腕を狙ったんだ」
「――――!」
「俺なら迷わず頭を狙っていた。腕がもげようと、内臓が弾けようとな。だから精神については下げた……そんなに俺は間違ったことを言ったかな」
「一々一々偉そうに……! 私、アンタのそういうところが大嫌いでたまらないのよ!」
「――――」
狩麻に気付かれないよう小さく口元を綻ばせた。
上手い具合に時間を稼ぐことができた。穴の開いた両腕はまだ自由には動かせないが、一応使い物になるくらいには動いてくれる。
その時だった。一際大きな轟音が轟いて、キャスターが地面をけたたましく転がりながら吹き飛んできた。
「キャスター!?」
「……不甲斐ないな、どうにも……無様を晒した」
キャスターが剣を支えによろよろと立ち上がる。
無骨でありながら美しさを同居していた蒼い甲冑は、所々に皹が入っている。髪は火薬で汚れ、頭からは血が流れている。そんなキャスターの有様が戦いの凄まじさを物語っていた。
幸い致命傷といえるものはないようだが、霊核にかなりのダメージを負っているのは間違いない。
「おやおや。すまないねマスター。君達の宿命の決闘に水を差してしまって」
対して華々しくにこやかに笑うアーチャーには傷らしい傷はどこにもない。強いて言えば服の端が焦げていたが……それだけだ。
キャスターは苦渋を露わにしながらも、闘志を折ることなくアーチャーと対峙する。認めたくはないが両者の戦いはアーチャーの圧倒的優勢だったのだろう。
「いいえ丁度良かったわ、いい加減、冥馬の腹立たしさに飽き飽きしていたことなの。貴方の宝具であいつら二人とも跡形も残さず消し飛ばしなさい!!」
「っ!」
大砲を己の武器とする紅の制圧者。通常攻撃があれだけの破壊力をもつのなら、その宝具も途轍もない破壊力をもつことは確実。
最低でも対軍宝具、最悪なら対城宝具が飛び出してくる公算が高い。
冥馬はそっとキャスターの様子を伺う。
(駄目だ。カリバーンを失って碌に準備もしてない状態で対軍宝具クラスを防ぎきることは出来ない。となると)
三画だけの絶対命令権、令呪。サーヴァントの意志に沿う命令であれば、魔法クラスの奇跡すら可能とする聖杯戦争の切り札。
ここを乗り切るにはもはや令呪を使う他ない。
「ははははははははははははははは! 了解だよマスター。彼等は僕の宝具の大輪を咲かせるに相応強い相手だ。聖杯戦争の美しい祝砲を打ち上げようじゃないか!」
狩麻の命令にアーチャーも乗り気だった。
大気中の魔力がこれから解放される大いなる力に反応してか震える。アーチャーの全身に滾っていた魔力が宝具解放のため一点に集中していった。
「キャスター!」
「分かっている」
冥馬も状況を打開するために令呪を発動しようとして、
「Untergang Donner speer(破滅の雷槍)!」
突如として横合いから狩麻に高密度の雷撃が襲い掛かった。
「マスター!」
雷速。狩麻と蟲達すら反応できない中、アーチャーだけが反応できた。アーチャーは狩麻を有無を言わさず抱き抱えると雷を回避して跳躍する。
「この雷は……っ! お前達」
冥馬を守るように狩麻に雷を放った人物を見て、冥馬は思わず固まってしまう。
パチパチと電気を奔らせながら数本の髪がぴんと跳ねた金色のツーサイドアップ。強気さを感じさせる猫のような瞳。
「あのルネスを倒した癖に、ちんちくりんな女相手に随分と苦戦しているみたいじゃない」
「リリアリンダ……エーデルフェルト。どうしてここに?」
嘗て冥馬が下したルネスティーネの双子の妹、リリアリンダが自分の騎士であるセイバーを控えさせて木の上に立っていた。